説明

銀含有樹脂組成物及びその製造方法

【課題】疎水性熱可塑性樹脂に脂肪酸銀を配合して成る銀含有樹脂組成物において、疎水性熱可塑性樹脂と脂肪酸銀との相溶性を向上し、樹脂組成物中の銀超微粒子の粒子径が縮小され比表面積が増大することにより抗菌性及び銀の利用効率が向上した銀含有樹脂組成物を提供する。
【解決手段】疎水性熱可塑性樹脂に、脂肪酸銀と、酸変性樹脂とを加熱混合して成る銀含有樹脂組成物において、該樹脂組成物に対する酸変性率(重量%)/該樹脂組成物に対する脂肪酸銀塩の含有率(重量%)が、1〜10である銀含有樹脂組成物を提供する。その樹脂組成物の製造方法は、疎水性熱可塑性樹脂の融点又は酸変性樹脂の融点のいずれか低い方の融点以上且つ脂肪酸銀の熱分解開始温度未満の温度で加熱混合して製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀含有樹脂組成物及びその製造方法に関するものであり、より詳細には抗菌性及び銀の利用効率に優れた銀含有樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハウスダスト中に含まれるアレルゲン物質は、一般にスギ花粉等の植物性蛋白、ダニやその排泄物、カビ等の動物性蛋白であり、これらのアレルゲン物質は、家庭やオフィス等のカーペットやカーテン、寝具等に付着したり或いは室内の空気中に浮遊して存在している。
このようなアレルゲン物質を除去する方法としては、掃除機や空気清浄機等によって物理的に排除する方法が一般的であるが、かかる方法では微小な物質を完全に除去することは困難である。
【0003】
またアレルゲン物質を免疫的に不活性化させ得る物質を用いることも提案されている。例えばチオグリコール酸、2-メルカプトエタノール、ポリフェノール化合物等のアレルゲン蛋白質のジスルフィド結合を還元乃至は開裂し得る物質の有効量と溶媒とを含んで構成されるアレルゲン中和組成物や(特許文献1)、或いは銀及び/又は亜鉛から成る高アレルゲン性金属成分を含有するアレルゲン不活性化剤(特許文献2)等が提案されている。更に、抗菌性金属イオンが担持された無機多孔質結晶を親水性高分子内部に含有する無機多孔結晶−親水性高分子複合体よりなる微小蛋白質不活性化素材が提案されている(特許文献3)。
上記特許文献に記載されたアレルゲン物質を不活性化させる物質においては、アレルゲン物質を不活性化する物質を含有させた溶液或いは分散液として、これをカーペットやカーテン或いは衣類等に噴霧又は塗布、或いは含浸させて使用していることから、かかる物質を施す基体への定着性が十分でなく、その効果の持続性の点で未だ十分満足するものではない。
【0004】
このような観点から、本発明者等は、金属超微粒子表面に有機酸成分を存在させることにより、金属表面と樹脂との直接接触を低減させ、樹脂の分解を有効に抑制して、樹脂の分子量の低下等を低減することができ、成形性を阻害することがない微小蛋白質不活性化金属超微粒子を提案した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−210741号公報
【特許文献2】特開2006−241431号公報
【特許文献3】特開2006−291031号公報
【特許文献4】国際公開第2008/69034号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記脂肪酸金属塩を熱可塑性樹脂に含有し、脂肪酸銀の熱分解開始温度未満の温度で加熱混合してなる金属超微粒子含有樹脂組成物においては、例えばポリエステル樹脂のように、脂肪酸金属塩との相溶性に優れた親水性の熱可塑性樹脂は融点が高いことから、熱可塑性樹脂と脂肪酸金属塩の混合加熱を高温で行う必要があり、そのため、生成された金属超微粒子が凝集してしまい、金属超微粒子が本来有する抗菌性を十分に発揮することが困難であった。一方、熱可塑性樹脂として融点の低いオレフィン系樹脂を用いることにより、低温成形が可能になり、上述した金属超微粒子の凝集という問題は生じないが、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂は疎水性であるため、脂肪酸金属塩との相溶性に劣り、脂肪酸金属塩を熱可塑性樹脂中に均一分散することができないことから、銀超微粒子由来の抗菌性を十分に発揮することが難しかった。
また従来の金属超微粒子含有樹脂組成物において優れた抗菌性を得るためには、脂肪酸金属塩の量を多くせざるを得ず、経済性の点で充分満足するものではなかった。
【0007】
従って本発明の目的は、疎水性熱可塑性樹脂に脂肪酸銀を配合して成る銀含有樹脂組成物において、疎水性熱可塑性樹脂と脂肪酸銀との相溶性を向上し、樹脂組成物中の銀超微粒子の分散性を向上して、粒子径が縮小され、抗菌性及び銀の利用効率が向上した銀含有樹脂組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、疎水性熱可塑性樹脂に脂肪酸銀を配合し、低温で加熱混合することによって脂肪酸銀の分散性を向上し、平均粒径が10nm以下の銀超微粒子が微分散された銀含有樹脂組成物を製造し得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、疎水性熱可塑性樹脂に、脂肪酸銀と、酸変性樹脂とを加熱混合してなる銀含有樹脂組成物において、該樹脂組成物に対する酸変性率(重量%)/該樹脂組成物に対する脂肪酸銀の含有率(重量%)が、1〜10であることを特徴とする銀含有樹脂組成物が提供される。
本発明によればまた、上記銀含有樹脂組成物からなる不織布が提供される。
本発明によれば更に、脂肪酸銀、酸変性樹脂及び疎水性熱可塑性樹脂を、疎水性熱可塑性樹脂の融点又は酸変性樹脂の融点のいずれか低い方の融点以上、脂肪酸銀の熱分解開始温度未満の温度で加熱混合してなることを特徴とする上記銀含有樹脂組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の銀含有樹脂組成物において、疎水性熱可塑性樹脂に酸変性樹脂と脂肪酸銀を配合し、脂肪酸銀の分解開始温度未満で加熱混合することにより、平均粒子径が10nm以下の銀超微粒子が樹脂中に均一に分散し、粒子の比表面積が増大することにより銀由来の抗菌性が飛躍的に向上する。
本発明の効果は、特徴的な銀含有樹脂組成物の製造方法を用いることにより得られる。本発明の製造方法においては、疎水性熱可塑性樹脂に脂肪酸銀と共に酸変性樹脂を配合して、脂肪酸銀の熱分解開始温度未満の温度で加熱混合することで、溶融樹脂中で銀超微粒子が形成し直ちに分散する。その際、超微粒子形成と分散の場となる溶融樹脂中に酸変性樹脂起因の親水性が付与されることにより、溶融樹脂中での銀粒子の凝集が低減され、10nm以下の銀超微粒子が均一分散した樹脂組成物を製造することが可能になる。更に、酸変性樹脂のカルボン酸基が還元作用をもつことから溶融樹脂中での脂肪酸銀からの銀超微粒子の形成を促進させ、脂肪酸銀の熱分解開始温度未満での安定した粒子形成を行うことができると考えられる。これにより、脂肪酸銀の熱分解開始温度以上で加熱混合した場合での銀超微粒子の金属銀の結晶成長に起因する粒子径増大を抑制できる。
また本発明の銀含有樹脂組成物においては、銀超微粒子が平均粒径10nm以下で存在するため、銀の利用効率、すなわち銀の使用量に対する銀イオンの溶出量で表わされる抗菌効果が向上されており、経済性にも優れている。
【0010】
本発明のこのような作用効果は、後述する実施例の結果からも明らかである。
すなわち、疎水性熱可塑性樹脂に酸変性樹脂を配合することなく、脂肪酸銀の熱分解開始温度以上の温度で加熱混合することにより得られた樹脂組成物においては、生成された銀超微粒子が凝集して、二次粒径が10nmよりも大きくなっており、十分満足する抗菌性は得られておらず(比較例3)、また疎水性熱可塑性樹脂に酸変性樹脂を配合することなく、脂肪酸銀の熱分解開始温度未満の温度で加熱混合することにより得られた樹脂組成物において、平均粒径10nmよりも大きい銀超微粒子しか生成されず、十分満足する抗菌性が得られていない(比較例1及び2)。
これに対して、疎水性熱可塑性樹脂に酸変性樹脂を配合して、脂肪酸銀の熱分解開始温度未満の温度で加熱混合することにより得られた本発明の銀含有樹脂組成物においては、平均粒径10nm以下の銀超微粒子が樹脂中に分散しており、優れた抗菌性を有していることが明らかである(実施例1〜7)。
また本発明の銀含有樹脂組成物においては、銀の溶出効率(銀の利用効率)が10%を超えているのに対して(実施例1〜7)、疎水性熱可塑性樹脂に酸変性を配合していない樹脂組成物(比較例1及び2)や酸変性樹脂を配合しているとしても脂肪酸銀の熱分解開始温度以上の温度で加熱混合することにより得られた樹脂組成物(比較例3)においては、銀の溶出効率が10%未満であり、本発明の銀含有樹脂組成物が、少量の銀で優れた抗菌効果が得られていることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】樹脂組成物に対する酸変性率/樹脂組成物に対する脂肪酸銀の含有率に対する銀の溶出量のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(疎水性熱可塑性樹脂)
本発明の銀含有樹脂組成物のベース樹脂となる疎水性熱可塑性樹脂としては、これに限定されないが、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ランダムポリプロピレン、ホモポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、例えば、低−,中−,高−密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、ポリブテン−1、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体等のオレフィン樹脂、或いはポリスチレン樹脂等を挙げることができるが、低融点で、加工性に優れていることから低密度ポリエチレンを好適に用いることができる。
【0013】
用いる疎水性熱可塑性樹脂の融点は80乃至180℃の範囲にあることが、脂肪酸銀の熱分解開始温度未満の低温成形を効率よく行うことができ、これにより銀超微粒子の凝集を生じることがなく、平均粒径10nm以下の銀超微粒子が含有された樹脂組成物を調製することができる。
更に疎水性熱可塑性樹脂には、その用途に応じて、それ自体公知の各種配合剤、例えば、充填剤、可塑剤、レベリング剤、増粘剤、減粘剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を公知の処方に従って樹脂に含有することもできる。
【0014】
(酸変性樹脂)
本発明の銀含有樹脂組成物において、疎水性熱可塑性樹脂と脂肪酸銀との相溶性を向上するために用いられる酸変性樹脂としては、上述した疎水性熱可塑性樹脂を酸変性した樹脂を好適に用いることができ、特に用いる疎水性熱可塑性樹脂と同種の樹脂を酸変性したものを用いることが、疎水性熱可塑性樹脂との相溶性、加工性の点から望ましい。
上述した疎水性熱可塑性樹脂を変性する酸成分としては、不飽和カルボン酸又はこれらの誘導体を用いるのが望ましく、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸等のα,β−不飽和カルボン酸、ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸等の不飽和カルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸等のα,β−不飽和カルボン酸無水物、ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物等の不飽和カルボン酸の無水物を挙げることができるが、特にメタクリル酸によって変性することが好適である。
【0015】
本発明で用いる酸変性樹脂においては、1乃至20重量%、特に5乃至15重量%の量で酸変性されていることが好適である。上記範囲よりも変性量が少ない場合には、脂肪酸銀を樹脂中に効率よく分散させることが困難になり、一方上記範囲よりも変性量が多いと、カルボン酸成分の還元効果によって分解後の脂肪酸銀の還元を促進して金属銀が多くなり、金属銀の結晶成長に起因する粒子径増大や凝集が起こり、抗菌性及び銀の利用効率が低下するおそれがある。
本発明においては特に、疎水性熱可塑性樹脂として低密度ポリエチレンを用いることが好ましいことから、組合せで用いる酸変性樹脂としてはメタクリル酸変性ポリエチレンを好適に用いることができる。
【0016】
(脂肪酸銀)
また本発明に用いる脂肪酸銀における脂肪酸は、炭素数3〜30の脂肪酸で、飽和、不飽和のいずれであってもよい。このようなものとしては、例えばカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等を挙げることができる。また、含まれる脂肪酸は複数であってもよい。
尚、本発明においては脂肪酸銀を疎水性熱可塑性樹脂に配合するものであるが、脂肪酸銀と共に他の脂肪酸金属塩を少量配合することを排除するものではない。他の脂肪酸金属塩としては、Cu、Au、In、Pd、Pt、Fe、Ni、Co、Zn、Nb、Ru及びRhからなる群より選択される金属の上述した脂肪酸金属塩であり、特にCu、Co、Niの脂肪酸金属塩が好ましい。
【0017】
(銀含有樹脂組成物)
本発明の銀含有樹脂組成物は、上述した疎水性熱可塑性樹脂に、脂肪酸銀と、酸変性樹脂とを加熱混合してなる銀含有樹脂組成物において、該樹脂組成物に対する酸変性率/該樹脂組成物に対する脂肪酸銀の含有率が、1〜10となるように配合し、これを用いる脂肪酸銀の熱分解開始温度未満の温度で加熱混合することにより調製される。
該樹脂組成物に対する酸変性率/樹脂組成物に対する脂肪酸銀の含有率は、1〜10、特に1〜5の範囲あることが好ましい。樹脂組成物に対する酸変性率が多くなるに従って、銀の溶出量に変化がみられなくなる(図1参照)。
また、樹脂組成物に対する脂肪酸銀の含有率としては、0.001〜1重量%であることが好適であり、上記範囲よりも脂肪酸銀の配合量が少ない場合には、銀超微粒子が有する抗菌性を十分発揮させることができず、一方上記範囲よりも脂肪酸銀の配合量が多い場合には、銀超微粒子が凝集し、均一分散が困難になり、抗菌性及び銀の利用効率も損なわれるおそれがあるので好ましくない。
更に、樹脂組成物に対する酸変性率は、0.001〜5重量%の範囲にあることが好ましい。
【0018】
本発明において、脂肪酸銀の分解開始温度未満の温度は、生成された樹脂組成物中に銀超微粒子及び脂肪酸銀から脱離した脂肪酸が存在する限り、特に制限はないが、銀含有樹脂組成物の調製は、二軸押出機で原料である疎水性熱可塑性樹脂、酸変性樹脂及び脂肪酸銀を混合加熱することにより行うことから、疎水性熱可塑性樹脂の融点又は酸変性樹脂の融点のいずれか低い方の融点以上の温度であることが必要である。
尚、一般に脂肪酸銀が分解し、銀超微粒子を形成するためには、脂肪酸銀の分解開始温度以上の温度で加熱することが必要である。脂肪酸銀の分解開始温度は、脂肪酸部分が金属部分から脱離或いは分解し始める温度であり、一般的に開始温度はJIS K 7120により定義されている。これによれば、有機化合物(脂肪酸銀)の質量を計測し、熱重量測定装置を用いて不活性雰囲気下で昇温した際の重量変化を測定する熱重量測定(TG)を行う。測定により得られた熱重量曲線(TG曲線)から分解開始温度を算出する。試験加熱開始前の質量を通る横軸に平行な線とTG曲線における屈曲点間の勾配が最大になるような接線とが交わる点の温度を開始温度とすると定義づけられている。しかし、本発明においては上述した脂肪酸銀の分解開始温度以上の温度で加熱することを必要としない。すなわち、本発明においては、疎水性熱可塑性樹脂中に予め酸変性樹脂を配合することによって、樹脂組成物中に2次凝集していた銀超微粒子は凝集することなく平均粒径10nm以下を維持しているため、抗菌性を効率よく発現することが可能となるのである。
【0019】
脂肪酸銀の加工条件は一概に限定することはできないが、例えば、JISの定義により分解開始温度が230℃であるステアリン酸を脂肪酸として有するステアリン酸銀を使用した場合で、140℃乃至230℃未満の温度で、この範囲内の温度における二軸押出機の設定温度にもよるが、5乃至1800秒、特に10乃至300秒の加熱時間で加熱混合を行うことが好適である。
本発明においては、前述したように、脂肪酸銀の分解開始温度未満の温度で疎水性熱可塑性樹脂、酸変性樹脂及び脂肪酸銀を混合加熱した溶融樹脂から、二本ロール法、射出成形、押出成形、圧縮成形等の従来公知の溶融成形を経て、最終成形品の用途に応じた形状、例えば、粒状、ペレット状、繊維状、不織布、フィルム、シート、容器等の樹脂成形体を成形することができる。
また本発明により得られる、脂肪酸銀を含有する樹脂組成物単独で金属超微粒子含有樹脂成形品を構成することもできるが、他の樹脂との組み合わせで多層構造とすることもでき、例えば、芯がポリプロピレンで、芯の周囲が本発明の銀含有樹脂組成物からなる芯・鞘構造の繊維等とすることにより、本発明の銀含有樹脂組成物が有する抗菌性を銀の使用量を抑えつつ効果的に発現することができる。
尚、本発明の銀含有樹脂組成物中に存在する銀超微粒子は、平均粒径が10nm以下と非常に小さく、しかも低温で成形されているため、非晶質であるという特徴を有している。
【実施例】
【0020】
[試験片の作成]
低密度ポリエチレン樹脂に、ステアリン酸銀が5wt%の含有率となるように配合したものを樹脂投入口から投入し、一次成形温度180℃で二軸押出機にて押し出しマスターバッチを作製した。次いで、芯層にポリプロピレン樹脂、鞘層には低密度ポリエチレン樹脂にステアリン酸銀の含有量が0.2重量%になるように前記マスターバッチを配合し、二次成形温度を190℃で二軸押出機にて混練し、ノズル径600μmから押出し、エアーエジェクターにて延伸させ、エンボスロールで加熱圧着し、芯層と鞘層比率が3:7である繊維径16μm、目付50g/mにて不織布を作製した。得られた不織布を縦5cm×横5cmに切り出し1gの試験片とした。
【0021】
[銀溶出試験]
銀の抗菌性能は材料表面から溶出する銀によって生じると考えられるため、抗菌性能の指標として材料から水中への銀溶出量を測定した。50mLのPP製瓶(アズワン社製)に、切断して1.0gに秤量した不織布を入れ、0.05%Tween80水溶液を50mL注入した。蓋をして密閉し、50℃の環境下で18時間静置した後不織布を取り出した。得られた銀溶出水を孔径0.80μLのメンブレンフィルター(ADVANTEC社製)にてろ過し、イットリウム濃度が1ppmになるようにYttrium ICP standard Y(NO3)3 in HNO3 2-3% CertiPUR(R)(MERCK社製)を銀溶出水に加えて測定液とした。測定液中の銀イオン量をICP発光分光分析装置(iCAP6500:ThermoFisherSCIENTIFIC社製)にて測定し、材料から溶出する銀イオン量を算出した。
【0022】
〔銀溶出量の算出〕
測定液の銀イオン濃度(ppm)から測定液中に溶出した銀イオン量を求め、サンプル1gあたりの銀溶出量を算出した。
【0023】
〔銀溶出効率(銀の利用効率)の算出〕
サンプル1gあたりの銀の溶出量をサンプル1gに含まれる銀量で除した値を求め、銀溶出効率(%)を算出した。
【0024】
[抗菌効果の評価]
抗菌効果の確認はJIS L 1902菌液吸収法により行なった。菌種は黄色ブドウ球菌(S.aureus NBRC12732)を用いた。ステアリン酸銀を添加していない試験片の培養後菌数を各実施例、及び比較例の試験片の培養後菌数を除した数の対数値を静菌活性値とし、抗菌効果は抗菌活性値が2.2以上のものを○、2.2未満の場合を×とした。
【0025】
[平均粒径の測定]
超微粒子の平均粒径は、透過電子顕微鏡装置(日立製作所製)にて加速電圧200kVの条件で撮影し、写真上でスケールにて測定した。尚、金属と金属の間に隙間がないものを1つの粒子とし、その平均値をいう。
【0026】
[分解開始温度の測定]
各実施例、及び比較例で使用したステアリン酸銀の熱分解開始温度は、ステアリン酸部分が金属部分から脱離あるいは分解し始める温度である。熱分解開始温度はJIS K 7120により、ステアリン酸銀、ステアリン酸の質量を計測し、熱重量測定装置を用いて不活性雰囲気下で昇温した際の重量変化を測定する熱重量測定(TG)を行った。測定により得られた熱重量曲線(TG曲線)から分解開始温度を算出する。試験加熱開始前の質量を通る横軸に平行な線とTG曲線における屈曲点間の勾配が最大になるような接線とが交わる点の温度を開始温度とした。
【0027】
[実施例1]
芯層がポリプロピレンで、鞘層が低密度ポリエチレンに対して10wt%メタクリル酸変性樹脂(ニュクレルN1035:三井デュポンポリケミカル(株))を20wt%とステアリン酸銀(分解開始温度:230℃)が0.2wt%となるように配合し、押出温度190℃で不織布製造装置にて芯層と鞘層比率が7:3、目付50g/mのスパンボンド不織布を作製し、評価を行った。
【0028】
[実施例2]
実施例1の酸変性樹脂の配合量を4wt%に変更した以外は、全て実施例1と同様に試験片を作製し、評価を行なった。
【0029】
[実施例3]
実施例1の酸変性樹脂の配合量を10wt%に変更した以外は、全て実施例1と同様に試験片を作製し、評価を行なった。
【0030】
[実施例4]
実施例1の酸変性樹脂を15wt%メタクリル酸変性樹脂(ニュクレルN1035:三井デュポンポリケミカル(株))で配合量6.6wt%に変更した以外は、全て実施例1と同様に試験片を作製し、評価を行なった。
【0031】
[実施例5]
実施例1の酸変性樹脂を4wt%メタクリル酸変性樹脂(ニュクレルAN4214C:三井デュポンポリケミカル(株))で配合量10wt%に変更した以外は、全て実施例1と同様に試験片を作製し、評価を行なった。
【0032】
[実施例6]
実施例1の酸変性樹脂を4wt%メタクリル酸変性樹脂(ニュクレルAN4214C:三井デュポンポリケミカル(株))で配合量2.8wt%とステアリン酸銀の配合量を0.02wt%に変更した以外は、全て実施例1と同様に試験片を作製し、評価を行なった。
【0033】
[比較例1]
実施例1の酸変性樹脂を添加しないこと以外は、全て実施例1と同様に試験片を作製し、評価を行なった。
【0034】
[比較例2]
実施例1の酸変性樹脂を配合しないこととステアリン酸銀の配合量を0.02wt%に変更した以外は、全て実施例1と同様に試験片を作製し、評価を行なった。
【0035】
[比較例3]
実施例3の成形温度を250℃にした以外は、全て実施例3と同様に試験片を作製し、評価を行った。
【0036】
[比較例4]
実施例1の酸変性樹脂の配合量を40wt%に変更した以外は、全て実施例1と同様にして試験片の作製を試みたが、成形することができなかった。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の銀含有樹脂組成物は、成形体の形態とすることで、優れた抗菌性及び消臭性能を有する樹脂成形体に付与することができ、このような成形体としては、これに限定されないが、シート、フィルム、容器等の包装体の他、マスクや紙おむつ等に利用される繊維或いは不織布等に好適に利用することができる。
また本発明の銀含有樹脂組成物の製造方法においては、ベース樹脂となる疎水性熱可塑性樹脂に酸変性樹脂を配合することにより、銀超微粒子の分散性を向上させることができるため、脂肪酸銀の熱分解開始温度以上の高温で加熱しなくても、平均粒径が10nm以下の銀超微粒子を疎水性熱可塑性樹脂中に微分散することができ、生産性、経済性に優れており、汎用の成形体に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性熱可塑性樹脂に、脂肪酸銀と、酸変性樹脂とを加熱混合してなる銀含有樹脂組成物において、該樹脂組成物に対する酸変性率(重量%)/該樹脂組成物に対する脂肪酸銀の含有率(重量%)が、1〜10であることを特徴とする銀含有樹脂組成物。
【請求項2】
中心が銀でその周囲を脂肪酸で被覆してなる超微粒子が分散している請求項1に記載の銀含有樹脂組成物。
【請求項3】
前記超微粒子の平均粒径が0.1〜10nmである請求項2に記載の銀含有樹脂組成物。
【請求項4】
前記超微粒子が非晶質である請求項2又は3に記載の銀含有樹脂組成物。
【請求項5】
前記脂肪酸銀の含有率が、0.001〜1重量%である請求項1〜4の何れかに記載の銀含有樹脂組成物。
【請求項6】
前記酸変性率が、0.001〜5重量%である請求項1〜5の何れかに記載の銀含有樹脂組成物。
【請求項7】
脂肪酸銀と、酸変性樹脂と、疎水性熱可塑性樹脂とを加熱混合して成る請求項1〜6の何れかに記載の銀含有樹脂組成物。
【請求項8】
前記疎水性熱可塑性樹脂がポリオレフィンである請求項1〜7の何れかに記載の銀含有樹脂組成物。
【請求項9】
抗菌性を有することを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の銀含有樹脂組成物。
【請求項10】
脂肪酸銀、酸変性樹脂及び疎水性熱可塑性樹脂を、疎水性熱可塑性樹脂の融点又は酸変性樹脂の融点のいずれか低い方の融点以上且つ脂肪酸銀の熱分解開始温度未満の温度で加熱混合することを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の銀含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9の何れかに記載の銀含有樹脂組成物から成ることを特徴とする不織布。

【図1】
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【公開番号】特開2012−36282(P2012−36282A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176675(P2010−176675)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(000229874)東罐マテリアル・テクノロジー株式会社 (27)
【Fターム(参考)】