説明

銀含有樹脂組成物及びその製造方法

【課題】 抗菌効果、硫黄系及び窒素系の臭気成分の消臭効果を有すると共に、金属超微粒子に由来するプラズモン吸収からなる着色がなく、無色や白色の外観が要求される用途に有効に使用可能な銀含有樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 樹脂分にモノカルボン酸銀及びジカルボン酸を配合し、加熱混合して成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀含有樹脂組成物及びその製造方法に関するものであり、より詳細には硫黄系及び窒素系臭気成分を効率よく消臭可能であると共に、抗菌性にも優れた実質的に無色の銀含有樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱可塑性樹脂に配合して成形品に消臭機能や抗菌機能、或いはその両方を付加させるための物質が種々提案されている。
消臭機能に関しては、例えば、活性炭や、多孔質ゼオライトやセピオライト等の無機フィラーや、或いは光触媒作用を応用した酸化チタン等が、広範な臭気成分を消臭可能であることが知られている(特許文献1)。しかしながら上記無機フィラーによる消臭方法は、臭気成分を多孔性物質に吸着させることにより除去する方法であるため、吸着量が一定量を超えると効果がなくなるという問題がある。一方、光触媒作用により臭気成分を酸化分解して除去する酸化チタン等においては光源が必須であることに加え、臭気成分のみならず触媒と接している担体も酸化劣化されることから、特別な技術上の対策が必要とするといった問題を有する。また、金属の超微粒子を用いた消臭剤も既に提案されており、例えば、金属イオン含有液を還元して得られた金属超微粒子コロイド液を有効成分とする消臭剤が提案されている(特許文献2)。かかる金属の超微粒子のコロイドは、高い消臭性に加え、抗菌性をも有することが知られているが、凝集性が非常に強く、安定した状態で長期間保存することや、熱可塑性樹脂、塗料成分等のマトリクス中へ、粒子同士の凝集を防止し、安定に分散させるのは極めて困難である。
【0003】
一方、本発明者らは、粒度分布が狭く分散安定性に優れた金属超微粒子を含む樹脂組成物及びその成型物を極めて簡便かつ汎用的な方法にて製造する方法として、金属有機化合物と樹脂の混合物を、金属有機化合物の熱分解開始温度以上かつ樹脂の劣化温度未満の温度で加熱成形して、金属超微粒子を樹脂成形物中で生成させる方法を提案している。(特許文献3)。また金属超微粒子を消臭機能や抗菌機能の有効成分として用いた樹脂組成物が、メチルメルカプタン等の臭気成分の消臭性や、或いは大腸菌等に対する抗菌性に優れていることも明らかにしている(特許文献4、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−75434号公報
【特許文献2】特開2006−109902号公報
【特許文献3】特開2006−348213号公報
【特許文献4】国際公開第2008/29932号
【特許文献5】特許第4448551号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記金属超微粒子を含有する樹脂組成物は、金属超微粒子、代表的には銀超微粒子が樹脂中に分散されているため、銀超微粒子が有する優れた抗菌性及び吸着性能を効果的に発現可能である。
しかしながら、銀超微粒子を含む樹脂組成物は、メチルメルカプタンや硫化水素、硫化メチル等の硫黄系の臭気成分に対して非常に高い消臭効果を有するが、ジメチルアミンやトリメチルアミン等の窒素系の臭気成分に対しては、消臭効果が充分ではない。従って多様な悪臭を効率よく消臭する為には改善の余地がある。
また銀超微粒子を含有する樹脂組成物は、金属超微粒子に由来するプラズモン吸収からなる着色があるため、無色や白色の外観が要求される用途の成形物に適用することができないという問題がある。
【0006】
従って本発明の目的は、優れた抗菌性を有すると共に、窒素系の臭気成分及び硫黄含有臭気成分のいずれに対しても優れた消臭性能を有し、着色がなく、実質的に無色の銀含有樹脂組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、低温での成形・塗膜形成が可能で、成形性に優れた銀含有樹脂組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、優れた抗菌性を有すると共に、硫黄含有臭気成分のみならずトリメチルアミン等の窒素系臭気成分をも吸着可能で、臭気成分に対する消臭効果に顕著に優れた成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、樹脂分にモノカルボン酸銀及びジカルボン酸を配合し、加熱混合して成ることを特徴とする銀含有樹脂組成物が提供される。
本発明の銀含有樹脂組成物においては、
1.ジカルボン酸が、モノカルボン酸銀に含まれる銀1モル当り0.1モル乃至10モルの量で配合されていること、
2.モノカルボン酸銀が、炭素数3以上のモノカルボン酸の銀塩であること、
3.モノカルボン酸銀が、ベヘン酸,ステアリン酸,パルミチン酸,ミリスチン酸、ラウリン酸,カプリン酸の何れかの銀塩の少なくとも1種であること、
4.ジカルボン酸が、炭素数3以上のジカルボン酸、特にジカルボン酸が、コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,ドデカン二酸,オクタンデカン二酸の少なくとも1種であること、
5.樹脂分が熱可塑性樹脂であること、
6.樹脂分が塗料成分であり、塗料組成物として提供されること、
が好適である。
【0008】
また本発明によれば上記銀含有樹脂組成物から成る成形体が提供される。
本発明によればまた、分散媒にモノカルボン酸銀及びジカルボン酸を配合し、加熱混合して成ることを特徴とする銀含有分散液が提供される。
本発明によれば更にまた、熱可塑性樹脂に、モノカルボン酸銀及びジカルボン酸を配合し、熱可塑性樹脂の融点以上且つモノカルボン酸銀の熱分解開始温度未満の温度で加熱混合することにより、ジカルボン酸銀及び遊離カルボン酸を熱可塑性樹脂中に分散させて成ることを特徴とする銀含有樹脂組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の銀含有樹脂組成物においては、金属超微粒子の吸着性能及び抗菌性能を利用した樹脂組成物と異なり、プラズモン吸収による着色がないため、実質的に無色の銀含有樹脂組成物を提供することができ、製品の色調管理が容易になり、種々の製品に対応することが可能になる。
またメチルメルカプタン等の硫黄系の臭気成分のみならず、ジメチルアミン等の窒素系の臭気成分についても優れた消臭性能を有することが可能になる。
更に、従来の銀超微粒子含有樹脂組成物に比して、少ない含有量の銀で優れた抗菌性能を発現することが可能になり、抗菌性が向上している。
更にまた本発明の銀含有分散液においては、抗菌効果及び消臭効果に優れた分散液として提供できるため、繊維製品等に噴霧、塗布、含浸等させて用いる他、除菌及び抗菌剤として直接使用することも可能になる。
本発明の銀含有樹脂組成物の製造方法においては、熱可塑性樹脂にモノカルボン酸銀と共にジカルボン酸を配合し、ジカルボン酸銀の熱分解解温度未満の温度で加熱混合することにより、低温成形で成形性よく、優れた抗菌性、及び硫黄系の臭気成分のみならず窒素系の臭気成分をも消臭可能な消臭性をも有する銀含有樹脂組成物を提供することが可能になった。
【0010】
本発明のこのような作用効果は後述する実施例の結果からも明らかである。
すなわち、ジカルボン酸を配合することなく、モノカルボン酸銀としてステアリン酸銀、ラウリン酸銀を用い、これらのモノカルボン酸銀の熱分解開始温度未満の温度で加熱混合した場合には、プラズモン吸収があり、また抗菌効果及びメチルメルカプタンの消臭効果は優れているが、ジメチルアミンの消臭性の点で劣っている(比較例1及び2)。またモノカルボン酸銀にジカルボン酸が配合されている場合であっても、モノカルボン酸銀の熱分解開始温度以上の温度で加熱混合した場合には、抗菌効果及び消臭効果は優れているとしても、プラズモン吸収があり、着色されていることが明らかである(比較例3)。
これに対して、熱可塑性樹脂にモノカルボン酸銀と共にジカルボン酸を配合し、ジカルボン酸銀の熱分解解温度未満の温度で加熱混合し、成形して成る試験片(実施例1〜4)、塗料成分にモノカルボン酸銀と共にジカルボン酸を配合し、ジカルボン酸銀の熱分解解温度未満の温度で乾燥することにより形成した塗膜を有するフィルム(実施例5)、及びシリコーン樹脂にモノカルボン酸銀と共にジカルボン酸を配合してなる分散液を塗布乾燥して成るフィルム(実施例6)においては、プラズモン吸収がないことから明らかなように銀超微粒子形成に伴う着色がなく、また抗菌効果及びメチルメルカプタンの消臭効果は勿論、ジメチルアミンに対してもメチルメルカプタンと同程度の消臭効果を有していることが明らかであり、本発明において、モノカルボン酸銀及びジカルボン酸の組合せと共に、モノカルボン酸銀の熱分解開始温度未満の温度で加熱混合することが、抗菌性能、硫黄系及び窒素系両方の消臭性能、更には着色のない樹脂組成物を得る上で重要であることが明らかである。
尚、本発明において「無色」とは樹脂組成物がプラズモン吸収に起因する着色がないことを意味するものであり、用いる樹脂及び製造条件等に起因する着色まで排除するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(モノカルボン酸銀)
本発明に用いるモノカルボン酸銀としては、炭素数3〜30の脂肪酸の銀塩を用いることができ、モノカルボン酸は、飽和、不飽和のいずれであってもよく、特に炭素数12〜22の直鎖飽和脂肪酸の銀塩が生成、入手が容易であることから好適に使用可能である。一方、分岐を有すると共に炭素数の多い脂肪酸の銀塩を使用すれば、脂肪酸成分自体に臭気成分を吸着させることができ、消臭効果をより向上することも可能である。
このようなモノカルボン酸銀としては、例えばカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等の銀塩を挙げることができ、特にステアリン酸銀、パルミチン酸銀、ラウリン酸銀、カプリン酸銀を好適に用いることができる。
尚、モノカルボン酸銀は、含水率が200ppm以下であることが好ましく、これにより、樹脂と混合し、加熱成形することにより、良好な色調や悪臭物質の吸着能力に特に優れた樹脂組成物を得ることができる。
モノカルボン酸塩は、一種類のみを用いてもよいし、複数種を組み合わせで使用することもできる。
【0012】
(ジカルボン酸)
本発明に用いるジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸を用いることが望ましく、例えばコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ドデカン二酸、オクタデカン二酸等を挙げることができ、特にコハク酸、グルタル酸、アジピン酸を好適に使用することができる。
ジカルボン酸は一種類のみを用いてもよいし、複数種を組み合わせで使用することもできる。
【0013】
(熱可塑性樹脂)
本発明において、モノカルボン酸銀及びジカルボン酸を配合する熱可塑性樹脂としては、溶融成形が可能な熱可塑性樹脂であれば従来公知のものをすべて使用でき、例えば、低−,中−,高−密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、ポリブテン−1、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタエート等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。
本発明においては、臭気成分の吸着を容易に行うことができ、消臭効果を向上させるという観点から、特に酸素透過係数が1.0×10−4cc・m/m・day・atm以上の樹脂であることが好ましく、特にポリエチレン、ポリプロピレンを用いることが好適である。
【0014】
(樹脂組成物)
本発明の銀含有樹脂組成物は、前述した通り、熱可塑性樹脂、モノカルボン酸銀及びジカルボン酸を加熱混合して成り、ジカルボン酸銀及び遊離カルボン酸が熱可塑性樹脂中に分散して成るものであるが、前記ジカルボン酸が、モノカルボン酸銀に含まれる銀1モル当り0.1モル乃至10モル、特に1乃至10モルの量で配合されていることが好ましい。上記範囲よりもジカルボン酸の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比してジカルボン酸を配合した場合の効果である窒素系の臭気成分の消臭効果が弱くなるおそれがあり、一方上記範囲よりもジカルボン酸の量が多いと成形性に劣るようになる。
またモノカルボン酸銀の配合量は、熱可塑性樹脂100重量部当たり0.001乃至5重量部の量で配合されていることが好適である。上記範囲よりもモノカルボン酸銀の配合量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して抗菌効果及び消臭効果が劣るようになり、一方上記範囲よりも多いと成形性に劣るようになる。
本発明の銀含有樹脂組成物においては、その用途に応じて、それ自体公知の各種配合剤、例えば、充填剤、可塑剤、レベリング剤、増粘剤、減粘剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を公知の処方に従って配合することができる。
【0015】
本発明の銀含有樹脂組成物においては、上述した熱可塑性樹脂、モノカルボン酸塩、ジカルボン酸を、混合加熱して、二本ロール法、射出成形、押出成形、圧縮成形等の従来公知の溶融成形に賦することにより、最終成形品の用途に応じた形状、例えば、粒状、ペレット状、フィルム、シート、容器等の吸着性樹脂成形品を成形することができる。
銀含有樹脂組成物の熱処理条件は、用いる熱可塑性樹脂、モノカルボン酸銀及びジカルボン酸の種類によって一概に規定できないが、本発明においては銀超微粒子が形成されないことが樹脂組成物を無色に保つ上で重要であることから、モノカルボン酸銀の熱分解しない温度、すなわち熱分解開始温度未満且つ熱可塑性樹脂の融点以上の温度であることが重要である。
尚、モノカルボン酸銀は熱分解開始温度未満の温度であっても、押出機の設定温度以外にスクリューによる剪断発熱或いは滞留時間等による影響を受けるため、滞留時間、加熱時間、スクリュー回転数等の加工条件を調整して熱処理を行うことが望ましい。
【0016】
ここで言うモノカルボン酸銀の分解開始温度は、カルボン酸部分が銀部分から脱離あるいは分解し始める温度であり、一般的に開始温度はJIS K 7120により定義されている。これによれば、有機化合物(モノカルボン酸銀)の質量を計測し、熱重量測定装置を用いて不活性雰囲気下で昇温した際の重量変化を測定する熱重量測定(TG)を行う。測定により得られた熱重量曲線(TG曲線)から分解開始温度を算出する。試験加熱開始前の質量を通る横軸に平行な線とTG曲線における屈曲点間の勾配が最大になるような接線とが交わる点の温度を開始温度とすると定義づけられている。
【0017】
また本発明の銀含有樹脂組成物は、それ単独で樹脂成形品を構成することもできるが、他の樹脂組成物から成る層と、本発明の銀含有樹脂組成物から成る層を有する多層構造とすることもできる。
本発明の吸着性樹脂組成物から得られた樹脂成形品は、メチルメルカプタン等の硫黄系臭気成分のみならず、ジメチルアミン等の窒素系の臭気成分に対しても優れた消臭効果を有すると共に抗菌効果にも優れており、しかも無色の成形体を得ることが可能である。
【0018】
(塗料組成物)
本発明の銀含有樹脂組成物としては、塗膜を形成可能な塗料組成物とすることができる。かかる塗料組成物を基体に塗布焼付けすることにより、基体上に抗菌性及び消臭性を塗膜を形成することが可能となる。
銀ジカルボン酸の配合量は、上述した樹脂組成物の場合と同様に、モノカルボン酸銀に含まれる銀1モル当り0.1モル乃至10モル、特に1乃至10モルの量で配合されていることが好ましい。
またモノカルボン酸銀の配合量は、塗料成分(樹脂分)100重量部当たり0.001乃至5重量部の量で配合されていることが好適である。上記範囲よりも少ないと十分な抗菌効果及び消臭効果を得ることができず、一方上記範囲よりも多いと塗膜形成性が低下する恐れがあるので好ましくない。
【0019】
上記モノカルボン酸銀及びジカルボン酸を配合する塗料成分としては、加熱により塗膜形成が可能なものであれば種々のものを使用することができる。例えば、これに限定されないが、アクリル系塗料、シリコンアクリル系塗料、エポキシ系塗料、フェノール系塗料、ウレタン系塗料、ポリエステル系塗料、アルキド樹脂塗料等の従来公知の塗料組成物を用いることができ、水性塗料、溶剤型塗料、エマルジョン型塗料等の何れであってもよい。
塗料組成物の熱処理条件は、用いる塗料成分、モノカルボン酸銀及びジカルボン酸の種類によって一概に規定できないが、上述した樹脂組成物の場合と同様、モノカルボン酸銀が塗料中で熱分解しない温度であることが重要であり、モノカルボン酸銀の熱分解開始温度未満且つ塗料成分の硬化温度以上の温度範囲内で、60乃至600秒間加熱処理を行うことが必要である。
本発明の塗料組成物から得られた塗膜は、メチルメルカプタン等の硫黄系臭気成分のみならず、ジメチルアミン等の窒素系の臭気成分に対しても優れた消臭効果を有すると共に抗菌効果にも優れており、しかも実質的に無色の塗膜を形成することが可能である。
【0020】
(分散液)
本発明の銀含有分散液は、分散媒にモノカルボン酸銀及びジカルボン酸を配合し、加熱混合して成るものである。
本発明の銀含有分散液に用いる分散媒としては、多価アルコールを好適に用いることができる。多価アルコールは用いる脂肪酸金属塩が分散媒中で熱分解する温度よりも高い沸点を有するものであることが好ましく、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセロールを挙げることができるが、特にポリエチレングリコールを好適に用いることができる。
ポリエチレングリコールは、平均分子量200乃至20000、特に400乃至10000の範囲のものを好適に使用することができ、また異なる分子量のものを複数種混合して用いることもできる。
また本発明の銀含有分散液においては、分散媒として熱硬化性樹脂の熱硬化前のプレポリマーを用いることもできる。このような熱硬化性樹脂としては、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等を挙げることができるが、特にシリコーン樹脂を好適に使用することができる。
この銀含有分散液に硬化剤を配合して、加熱混合して成形することにより、成形体を生成することができる。
【0021】
本発明の銀含有分散液は、分散媒中にモノカルボン酸銀を1×10−6乃至20重量%、特に1×10−5乃至5重量%の量で配合することが好ましく、上記範囲よりもモノカルボン酸銀の量が少ないと充分な抗菌効果及び消臭効果を得ることができず、一方上記範囲よりも多いと分散性が低下する恐れがあるので好ましくない。 またジカルボン酸の配合量は、上述した樹脂組成物の場合と同様に、モノカルボン酸銀に含まれる銀1モル当り0.1モル乃至10モル、特に1乃至10モルの量で配合されていることが好ましい。
本発明の銀含有分散液においては、モノカルボン酸銀及びジカルボン酸に加えて更に、保護剤として酸化防止剤を配合することが好ましく、酸化防止剤を配合することにより、加熱時の熱劣化を防止することが可能となる。
用いる酸化防止剤としては、これに限定されないが、トコフェロール (ビタミンE)類、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、エチレンビスステアリン酸アミド等従来より公知のものを挙げることができるが、特にIrganox1010(登録商標:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)を好適に使用することができる。酸化防止剤は、分散媒中に0.01乃至20重量%の量で配合することが好ましい。
【0022】
本発明の分散液においては、分散媒中にモノカルボン酸銀及びジカルボン酸、必要により酸化防止剤を配合した後、モノカルボン酸銀が分散媒中で熱分解しない温度、且つ溶液の沸点以下の温度で加熱しながら攪拌混合することにより調製することができる。加熱時間は、用いる分散媒、モノカルボン酸、ジカルボン酸の種類及び配合量等によって異なり、一概に規定できないが、1乃至1800秒、特に5乃至300秒の範囲で加熱することが好適である。加熱混合後、室温で冷却し、分散液の濾過を行う。これにより分散液中の遊離脂肪酸を脱離させることができ、本発明の銀含有分散液を得ることができる。
【0023】
本発明の銀含有分散液は、そのまま消臭抗菌剤として、床、壁面、カーテン、カーペット等の住宅関連部材、空調機器、織布、不織布等の繊維製品、マスク、フィルター等の濾過部材に、噴霧、塗布、含浸等させて使用することができるが、溶媒で希釈して用いることが好ましい。
希釈に用いる溶媒としては、これに限定されないが、精製水、イオン交換水等の水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の低級アルコール;メタノール変性、ベンゾール変性、トリオール変性、メチルエチルケトン変性、安息香酸デナトニウム変性、香料変性等の一般変性アルコール;エチレングリコールモノエチルエーテル、クロロホルム、炭酸ジエチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、ヘキサン、工業用エチルエーテル等の変性アルコール;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコール系溶剤等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で用いても又2種以上併用しても良い。
本発明においては、特に水又はエタノール等の沸点100℃以下の低沸点溶媒を好適に使用することができ、特に1乃至30%の濃度のエタノール水溶液を好適に使用できる。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
低密度ポリエチレンに対してステアリン酸銀を0.5wt%、更にコハク酸を0.5wt%となるように混合し、180℃に温度設定した射出成形機(JSW社製)によって、大きさ2.4mm×2.9mm×厚み3.0mmの無色の試験片を得た。後述する手法によって銀超微粒子の生成の確認、試験片のメチルメルカプタンの消臭率、ジメチルアミンの消臭率、及び抗菌効果を評価した。
【0025】
(実施例2)
実施例1のコハク酸の添加量を0.1wt%に変更した以外は、全て実施例5と同様に試験片を作成し、評価を行なった。
【0026】
(実施例3)
実施例1のコハク酸の添加量を0.3wt%に変更した以外は、全て実施例5と同様に試験片を作成し、評価を行なった。
【0027】
(実施例4)
実施例1のステアリン酸銀をラウリン酸銀に変更し、グルタル酸を0.5wt%配合した以外は、全て実施例1と同様に試験片を作成し、評価を行なった。
【0028】
(比較例1)
コハク酸を配合しない以外は、全て実施例1と同様に試験片を作成し、評価を行なった。
【0029】
(比較例2)
グルタル酸を配合しない以外は、全て実施例4と同様に試験片を作成し、評価を行なった。
【0030】
(実施例5)
高分子量ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂(レゾール型)溶液、硬化触媒(リン酸)、ステアリン酸銀、及びアジピン酸とを46:46:3:2.5:2.5の樹脂分比率で攪拌混合し、混合溶液(シクロヘキサノン:MIBK:MEK=1:1:1)で樹脂塗料分濃度が20%となるようにプライマーを調整した。厚み50μmの2軸配向PET/I(テレフタル酸/イソフタル酸=88/12)共重合ポリエステルフィルムに、プライマーを乾燥重量で0.6g/mとなるように塗布、180℃で乾燥しプライマー塗布フィルムを作成し、実施例1記載の評価を行なった。サンプルはフィルムを5cm角に切り取って使用した。
【0031】
(比較例3)
アジピン酸を配合しない以外は、全て実施例5と同様に試験片を作成し、評価を行なった。
【0032】
(実施例6)
アルコール縮合型、2液硬化型シリコーン樹脂(KE−108、信越化学工業)に対し、ステアリン酸銀0.5wt%及びアジピン酸0.5wt%を添加して混合した。さらに硬化剤CAT−108を5wt%添加して混合し、PETフィルムに厚み200μmのアプリケーターで製膜し、室温で72時間硬化させてシリコーン樹脂の薄膜を作製した。このフィルムを5cm角に切り取り、実施例1記載の評価を行った。
【0033】
(比較例4)
アジピン酸を配合しない以外は、全て実施例6と同様に試験片を作製し、評価を行った。
【0034】
(銀超微粒子の生成の確認)
各実施例、及び比較例で得た試験片について、紫外-可視分光光度計(日本分光製)を用いて拡散反射吸収スペクトルを測定することにより、銀超微粒子の生成を確認した。即ち、前述した通り、粒子径が100nm以下の銀超微粒子は自由電子が光電場による振動を受ける為に、波長420nm付近にプラズモン吸収を生じることが知られている。故に、拡散反射吸収スペクトルの波長420nm付近に吸収を有する試験片中には、粒子径100nm以下の銀超微粒子を含有しているといえる。そこで、プラズモン吸収の有無を銀超微粒子の生成の有無として、評価結果を表1に示した。
【0035】
(メチルメルカプタン消臭率)
[消臭前メチルメルカプタン量の測定]
口部をゴム栓で密封した窒素ガス置換した500mlガラス製瓶内に、悪臭物質メチルメルカプタン5μlをマイクロシリンジにて注入し、室温(25℃)で1日放置した。1日放置後、瓶中へガステック製検知管を挿入し残存メチルメルカプタン量を測定し消臭前のメチルメルカプタン量(A)とした。
[消臭後メチルメルカプタン量の測定]
得られた試験片を、窒素ガス置換した500mlガラス製瓶内に入れてゴム栓で密封した後、前記瓶内に悪臭物質メチルメルカプタン5μlをマイクロシリンジにて注入し、室温(25℃)で1日放置した。1日放置後、瓶中へガステック製検知管を挿入し残存メチルメルカプタン量を測定し、消臭後メチルメルカプタン量(B)とした。
[メチルメルカプタン消臭率の算出]
前記消臭前メチルメルカプタン量(A)から消臭後メチルメルカプタン量(B)を引いた値を消臭前メチルメルカプタン量(A)で割り百分率で表した値を消臭率とした。消臭率については下記した通り5段階評価にまとめ、表1に示した。
消臭率評価 消臭率
A 100〜80%
B 80〜60%
C 60〜40%
D 40〜20%
E 20〜0%
【0036】
(ジメチルアミン消臭率)
[消臭前ジメチルアミン量の測定]
口部をゴム栓で密封した窒素ガス置換した500mlガラス製瓶内に、悪臭物質ジメチルアミン5μlをマイクロシリンジにて注入し、室温(25℃)で1日放置した。1日放置後、瓶中へガステック製検知管を挿入し残存ジメチルアミン量を測定し消臭前ジメチルアミン量(A)とした。
[消臭後ジメチルアミン量の測定]
得られた試験片を、窒素ガス置換した500mlガラス製瓶内に入れてゴム栓で密封した後、前記瓶内に悪臭物質ジメチルアミン5μlをマイクロシリンジにて注入し、室温(25℃)で1日放置した。1日放置後、瓶中へガステック製検知管を挿入し残存メチルメルカプタン量を測定し、消臭後ジメチルアミン量(B)とした。
[ジメチルアミン消臭率の算出]
前記消臭前ジメチルアミン量(A)から消臭後ジメチルアミン量(B)を引いた値を消臭前ジメチルアミン量(A)で割り百分率で表した値を消臭率とした。消臭率については下記した通り5段階評価にまとめ、表1に示した。
消臭率評価 消臭率
A 100〜80%
B 80〜60%
C 60〜40%
D 40〜20%
E 20〜0%
【0037】
(抗菌効果の評価)
抗菌効果の確認はJIS Z 2801により行なった。菌種は大腸菌(escherichia coli)を用いた。カルボン酸銀、カルボン酸いずれも添加していない試験片の培養後菌数を各実施例、及び比較例の試験片の培養後菌数を除した数の対数値を抗菌活性値とし、抗菌効果は抗菌活性値が2.0以上のものを○、2.0未満の場合を×とした。なお、抗菌効果の確認について黄色ブドウ球菌(S.aureus)には行なっていないが、大腸菌(escherichia coli)と同様の抗菌効果があるものと推察される。
【0038】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の樹脂組成物、塗料組成物或いは分散液は、優れた抗菌性を有すると共に、硫黄系臭気成分及び窒素系臭気成分に対して優れた消臭性能を有し、かつ実質的に無色である。粒状、ペレット状、繊維状、フィルム、シート、容器等の種々の形態で、或いは成形体表面に塗膜として、更には分散液として提供することができるので、様々な産業分野で利用することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂分にモノカルボン酸銀及びジカルボン酸を配合し、加熱混合して成ることを特徴とする銀含有樹脂組成物。
【請求項2】
前記ジカルボン酸が、モノカルボン酸銀に含まれる銀1モル当り0.1モル乃至10モルの量で配合されている請求項1記載の銀含有樹脂組成物。
【請求項3】
前記モノカルボン酸銀が、炭素数3以上のモノカルボン酸の銀塩である請求項1乃至2の何れかに記載の銀含有樹脂組成物。
【請求項4】
前記モノカルボン酸銀が、ベヘン酸,ステアリン酸,パルミチン酸,ミリスチン酸、ラウリン酸,カプリン酸の何れかの銀塩の少なくとも1種である請求項1乃至3の何れかに記載の銀含有樹脂組成物。
【請求項5】
前記ジカルボン酸が、炭素数3以上のジカルボン酸である請求項1乃至4記載の銀含有樹脂組成物。
【請求項6】
前記ジカルボン酸が、コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,ドデカン二酸,オクタンデカン二酸の少なくとも1種である請求項1乃至5の何れかに記載の銀含有樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂分が熱可塑性樹脂である請求項1乃至6の何れかに記載の銀含有樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7記載の銀含有樹脂組成物から成ることを特徴とする成形体。
【請求項9】
前記樹脂分が塗料成分である請求項1乃至7の何れかに記載の銀含有樹脂組成物。
【請求項10】
分散媒に、モノカルボン酸銀及びジカルボン酸を配合し、加熱混合して成ることを特徴とする銀含有分散液。
【請求項11】
熱可塑性樹脂に、モノカルボン酸銀及びジカルボン酸を配合し、熱可塑性樹脂の融点以上且つモノカルボン酸銀の熱分解開始温度未満の温度で加熱混合することにより、ジカルボン酸銀及び遊離カルボン酸を熱可塑性樹脂中に分散させて成ることを特徴とする銀含有樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−77247(P2012−77247A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225849(P2010−225849)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(000229874)東罐マテリアル・テクノロジー株式会社 (27)
【Fターム(参考)】