説明

銀含有触媒、このような銀含有触媒の製造、及びこの使用

付形凝集体の形状を有する適切な支持材上に担持させた銀と、場合によっては1種又はそれ以上の促進剤とを含む高活性及び高選択性銀触媒。付形凝集体の構造は、比較的小さい内径(口径)を有する中空円筒の構造である。前記触媒は、粒状の幾何学的形状を有する付形材料を得、これに触媒成分を組み込むことによって調製される。前記触媒は、エチレンのエポキシ化に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンオキシドの製造に使用するのに特に適した銀含有触媒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンオキシドは、エチレングリコール、エチレングリコールエーテル類、アルカノールアミン類及び洗剤のような化学薬品を製造するための原料として使用される重要な工業薬品である。エチレンオキシドを製造する一つの方法は、酸素によるエチレンの接触部分酸化による方法である。このようなエチレンオキシドの製造方法の操作効率を向上させることができる触媒を開発する努力が続けられている。エチレンオキシド触媒の幾つかの望ましい性質としては、良好な選択性、良好な活性、及び長い触媒寿命が挙げられる。
【発明の開示】
【0003】
従って、本発明の目的は、エチレンオキシドの製造に使用するのに特に適したものとするある種の望ましい触媒特性を有する触媒を提供することにある。
【0004】
本発明の別の目的は、前記の望ましい触媒特性の少なくとも幾つかを示す触媒の製造方法を提供することにある。
【0005】
本発明のさらに別の目的は、ある種の望ましい触媒特性を有する触媒を利用することによってエチレンオキシドを製造する経済効率のよい方法を提供することにある。
【0006】
本発明の他の側面、目的及び幾つかの利点は、以下の記載に照らしてさらに明らかになるであろう。
【0007】
本発明の一つの側面によれば、中空円筒の幾何学的形状を有する付形支持材であって前記付形支持材の長さ対外径比が0.3から2の範囲内にあり及び内径が前記付形支持材の外径の30%までの範囲にあるような中空円筒の幾何学的形状を有する付形支持材上に被着させた銀を含む触媒が提供される。前記触媒は、高い銀濃度と、少なくとも1種の促進剤化合物を有することが適切であり、銀及び促進剤化合物は、高い水細孔容積(water pore volume)を有する支持材上に支持されることが好ましい。
【0008】
本発明の別の態様によれば、本発明の触媒の製造方法が提供される。適切には、前記方法は、付形支持材を準備すること及び付形支持材に銀含有溶液を、付形支持材中の銀金属の量が付形支持材の重量の15重量%を超え、特に触媒の重量の15重量%を越えるように含浸させることを含む。銀含浸付形支持材は続いて、触媒を提供するために、例えば100から500℃、好ましくは150から300℃の温度範囲で加熱処理される。
【0009】
本発明のさらに別の側面によれば、付形支持体上に担持させた銀を含む触媒粒子から形成され、少なくとも150kg/触媒床mの銀装填量(loading)を有する充填触媒床が提供される。
【0010】
本発明のさらに別の側面によれば、前記触媒、前記方法によって製造される触媒、又は前記触媒床は、触媒を適切なエポキシ化プロセス条件下で、エチレンと酸素とを含有する原料流と接触させることによるエチレンオキシドの製造方法において使用される。
【0011】
また、本発明は、エチレンオキシドをエチレングリコール、エチレングリコールエーテル又は1,2−アルカノールアミンに転化させることを含むエチレングリコール、エチレングリコールエーテル又は1,2−アルカノールアミンを製造するためのエチレンオキシドの使用方法であって、エチレンオキシドが本発明のエチレンオキシドの製造方法によって得られるものであることを特徴とするエチレンオキシドの使用方法を提供する。
【0012】
本発明の触媒組成物は、複数の触媒成分と支持材との新規な組み合わせである。前記支持材は、特異的な物理的性質を有し、比較的小さい内経を有する中空円筒の幾何学的形状又は構造を有する支持材の付形凝集体に形成されることが好ましい。「比較的小さい」とは、本明細書ではこのような触媒に慣用されるよりも小さい意味と解釈されるべきである。また、本明細書で使用するように、「担体」及び「支持体」という用語は、同じ意味を有し、本明細書では同義的に使用されている。
【0013】
本発明の重要な側面は、例えば、中空円筒の幾何学的形状の呼称外径と呼称内径の比を変化させることによって、触媒性能(活性及び選択性における初期性能並びに活性安定性及び選択性安定性が挙げられる)において実質的な改善を得ることができるという認識である。中空円筒支持材を基材とした触媒が、既に長年の間、エチレンオキシドの製造方法で用いられており、このような触媒の性能の向上に多くの努力が注がれてきたことから、これは全く予想外のことである。しかし、中空円筒の幾何学的形状の形状寸法を変更することによってこれらの触媒の性能を向上させる試みが、注目を浴びているとは思われない。
【0014】
触媒組成物の支持材は、このような支持材が特に本発明の組成物の触媒成分を担持させるのに使用された場合に本発明の触媒組成物に望まれる物理的性質を有することを条件として、エチレン酸化原料、生成物及び反応条件の存在下で比較的不活性である多孔質耐熱性材料であることができる。一般に、前記支持材は、無機材料、特に酸化物から構成され、該無機材料としては、例えば、アルミナ、炭化ケイ素、炭素、シリカ、ジルコニア、マグネシア、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−チタニア、アルミナ−チタニア、アルミナ−マグネシア、アルミナ−ジルコニア、トリア、シリカ−チタニア−ジルコニア及び種々のクレーが挙げられる。
【0015】
好ましい支持材は、アルミナ、好ましくはアルミナが少なくとも90重量%、さらに好ましくはアルミナが少なくとも98重量%の高純度のアルミナを含む。支持材は、頻繁には最大で99.9重量%、さらに頻繁には最大で99.5重量%のアルミナを含む。アルミナの種々の利用できる形態の中で、α−アルミナが最も好ましい。
【0016】
本発明の触媒組成物の特別な側面は、支持材が典型的には一般に40%を超える高い吸水率を有することである。この高い吸水率は、吸水率について低い値を有する他の無機材料上に装填することができるよりも多い量の銀の支持材上への装填を可能にする。従って、本発明の触媒組成物に関しては、支持材の吸水率が42.5%よりも大きい、さらに好ましくは45%よりも大きい、最も好ましくは46%よりも大きいことが好ましいことが知見された。頻繁には、この吸水率は、最大で80%、さらに頻繁には最大で70%である。
【0017】
本明細書で使用するように、「吸水率」という用語は、試験法ASTM C20で測定される値を意味する。該試験法は、本明細書に参照により組み込まれている。吸水率は、%で表され、担体の重量に対して、担体の細孔に吸収されることができる水の重量である。
【0018】
典型的には、支持材は、0.3から15μm、好ましくは1から10μmの平均細孔径を有し、典型的にはMicromeretics Autopore 9200モデル(130°の接触角、0.473N/mの表面張力を有する水銀、及び適用される水銀圧縮荷重について補正)を使用して3.0×10Paの圧力までの水銀圧入によって測定した時、0.03から10μmの直径を有する細孔について少なくとも50重量%の割合を有する。
【0019】
B.E.T.法によって測定される支持材の表面積は、0.03m/gから10m/g、好ましくは0.05m/gから5m/g、最も好ましくは0.1m/gから3m/gの範囲内にあることができる。前記表面積は、少なくとも0.5m/gであることが適切である。表面積を測定するB.E.T.法は、Brunauer,Emmet及び TellerによってJ.Am.Chem.Soc.60(1938),309−316に詳細に記載されており、これは本明細書に参照により組み込まれている。
【0020】
本発明の触媒組成物の一つの側面は、支持材が付形凝集体の形態であること、及び支持材の付形凝集体が比較的小さい内径(以下、「口径」という)をもつ中空円筒の幾何学的形状を有することである。
【0021】
ここで、図1を参照する。図1は、細長い反応管12と、細長い管12の中に入れた充填触媒床14を含む反応装置系10を表す。細長い管12は、反応帯域(この中に充填触媒床14を含む)を規定する内管面18と内管径20とを有する管壁16を有し、反応帯域径20を有する。細長い管12は、管長22を有し、反応帯域内に含まれる充填触媒床14は、触媒床深さ24を有する。細長い管12は、触媒床深さ24の外側に、例えば原料との熱交換を目的とした非触媒材料の粒子の別のベッド(bed)及び/又は例えば、反応性生物との熱交換のための別のこのような別のベッドを含有していてもよい。細長い管12はまた、エチレンと酸素とを含有する原料流をこの中に導入することができる入口管端部26と、エチレンオキシドとエチレンとを含有する反応生成物を取り出すことができる出口管端部28を有する。
【0022】
反応帯域内に含まれる充填触媒床14は、図2に示すような担持触媒30のベッドを含む。担持触媒30は、長さ32、外径34、及び内径すなわち口径36を有する一般に中空円筒の幾何学的形状をもつ支持材を基材とする。
【0023】
当業者には、「円筒」という表現が、中空円筒の幾何学的形状が厳密な円筒を含むことを必ずしも意味しないことが認められるであろう。「円筒」という表現は、厳密な円筒から僅かな偏り(deviation)を含むことを意味する。例えば、円筒の軸に垂直な中空円筒幾何学的形状の外周の横断面は、図3に示されるように必ずしも厳密な円71ではない。また、中空円筒幾何学的形状の軸はほぼ一直線であり得、及び/又は中空円筒の幾何学的形状の外径は軸に沿ってほぼ一定であり得る。従って、僅かな偏りとしては、例えば、円筒の外周が、実質的に同じ直径の2つの仮想の(imaginary)厳密な同軸円筒によって規定される仮想の管状空間に配置されることができる場合が挙げられ、これによって仮想の内部円筒の直径は、仮想の外部円筒の少なくとも70%、さらに典型的には少なくとも80%、特には少なくとも90%であり、仮想の円筒はこの直径同士の比が最も1に最も近いことができるように選択される。このような場合には、外部円筒の直径は、中空円筒幾何学的形状の外径であるとみなされる。図3は、仮想円筒73及び74の軸に垂直な横断面図において、中空円筒幾何学的形状の外周72、仮想の外部円筒73及び仮想の内部円筒74を表す。
【0024】
同様に、当業者には、中空円筒幾何学的形状の穴は必ずしも厳密に円筒形である必要はなく、この穴の軸はほぼ直線状であり得、穴の直径はほぼ一定であり得、及び/又は穴の軸は円筒の軸に対して移動させてもよいし又はある角度に曲がってもよいことが認められるであろう。穴の直径が穴の長さに全体にわたって変化する場合には、穴の直径は穴の端部で最も大きい直径であるとみなされる。また、穴によって提供される空間は、2個以上の穴、例えば、2個、3個又は場合によっては4個、又は5個の穴にわたって分かれていてもよく、この場合には穴の直径は、複数の穴の横断面積の合計が、本明細書で特定されるような、直径をもつ単一の穴の横断面積に等しいようなものである。
【0025】
好ましい実施態様においては、中空円筒の幾何学的形状は、円筒の軸において穴を有する円筒であることが意図される。
【0026】
慣用の口径よりも小さい口径は、より大きい多孔率(すなわち、吸水率)を有する支持材を使用することから生じる粉砕強さの低下を補償することによって、前記凝集体の平均粉砕強さの向上を提供することに役立つ。より小さい口径から得られる別の利点は、より小さい口径が同じ容積により多い量の支持材の充填、すなわち充填密度を提供し、従って同じ容積により多量の銀の装填を可能にすることである。
【0027】
付形凝集体の口径が比較的小さいことは本発明の重要な側面であるが、付形凝集体の内部の孔が少なくとも幾つかのディメンションを有することもまた重要である。穴の少なくとも一端、好ましくは両端に、少なくとも0.1mm、さらに好ましくは少なくとも0.2mmの口径を有することが好ましい。口径は少なくとも0.5mm、好ましく最大で2mm、例えば1mm又は1.5mmであることが好ましい。
【0028】
口径によって規定される空間が本発明の触媒の製造及びこの触媒特性にある種の利点を提供することが見出された。しかし、特定の理論に束縛されることを望まないが、中空円筒の口径によって提供される空間が改善された担体の含浸及び触媒乾燥を可能にすると考えられる。本発明の触媒に関連した触媒の利点は、本明細書の他の個所で詳細に実証し、論じる。
【0029】
中空円筒の幾何学的形状は、外径、口径、及び長さにより規定することができる。付形凝集体の製造方法は必ずしも厳密ではないことから、これらのディメンションは名目的であり、近似値であることが理解される。中空円筒は、典型的には0.3から2、好ましくは0.5から1.6、最も好ましくは0.9から1.1の範囲内の長さ対外径比を有する。本発明の決定的な特徴でないにせよ、重要なことは口径が比較的小さいことである。例えば、口径と外径の比は、最大0.3の範囲で変化し得、好ましくは0.01から0.25、最も好ましくは0.02から0.2の範囲であることができる。
【0030】
典型的には、中空円筒の外径は、4から16mm、さらに典型的には5から12mmの範囲内にあり、例えば8mmである。別の実施態様においては、中空円筒の外径は、典型的には4から12mm、さらに典型的には5から10mmの範囲内にあり、例えば8mmである。典型的には、口径は3.5mmよりも小さく、さらに典型的には0.01から3mmの範囲内、例えば0.1mmから2.5mm、さらに典型的には0.2mmから2mmの範囲内にあり、例えば1mm又は1.5mmである。
【0031】
特定の幾何学的形状を有する凝集体に形成される支持材の他に、少なくとも触媒有効量の銀と、場合によっては1種又はそれ以上の促進剤と、場合によっては1種又はそれ以上の補助促進剤が、支持材に配合される。従って、本発明の触媒は、付形支持材、触媒有効量の銀と、場合によっては1種又はそれ以上の促進剤と、場合によっては1種又はそれ以上の補助促進剤を含む。
【0032】
本発明の触媒の別の具体的な側面は、支持体が典型的には銀を多量に装填されることである。付形形状を有する高多孔性支持材を使用するという組み合わせは、一緒になって、高い銀装填量を提供するのに役立つ。銀装填量は、一般に触媒組成物中の銀の量が触媒の全重量に基づいて15重量%を越える、場合によっては16重量%を超えるような量である。しかし、触媒の銀含有量は、好ましくは17重量%を越え、さらに好ましくは18重量%を越え、最も好ましくは20重量%を越える。典型的には、銀の量は、触媒の重量に基づいて、最大で50重量%、さらに典型的には最大で45重量%、特に最大40重量%である。
【0033】
一般的に、本発明の触媒は、支持材の付形凝集体に、銀と、場合によっては1種又はそれ以上の促進剤、例えば、希土類金属、マグネシウム、レニウム及びアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウム)又はこれらの化合物と、場合によっては1種又はそれ以上の補助促進剤、例えば、硫黄、モリブデン、タングステン及びクロム又はこれらの化合物を含浸させることによって調製される。支持材の付形凝集体に配合することができる促進剤成分の中で、レニウム及びアルカリ金属、特に、高級(higher)アルカリ金属、例えばカリウム、ルビジウム及びセシウムが好ましい。高級アルカリ金属の中で最も好ましいものはセシウムであり、これは単独で使用してもよいし又は例えば、カリウム及び/又はリチウムと一緒に混合物で使用してもよい。レニウム促進剤は、アルカリ金属促進剤を存在させずに使用してもよいし又はアルカリ金属促進剤はレニウム促進剤を存在させずに使用してもよいし、又はレニウム促進剤とアルカリ金属促進剤は両方共に触媒系に存在させることができる。レニウムと組み合わせて使用される補助促進剤としては、硫黄、モリブデン、タングステン、及びクロムを挙げることができる。
【0034】
銀は、銀塩、又は銀化合物、又は銀錯体を適切な溶媒に溶解することによって形成される銀溶液を支持材の付形凝集体と接触させることによって、支持材の付形凝集体に配合される。接触又は含浸は、単一の含浸工程で行うことが好ましく、これによって、例えば触媒の全重量に基づいて少なくとも15重量%の銀が提供されるように銀が付形凝集体の表面に被着する。実質的に多量の銀、例えば、触媒の全重量に基づいて少なくとも20重量%の銀を付形凝集体上に被着させる別の好ましい実施態様においては、銀は1回の含浸工程よりも多い工程、例えば、2回、3回又は4回の含浸工程、好ましくは2回の含浸工程で被着される。
【0035】
1種又はそれ以上の促進剤もまた、銀の被着の前、銀の被着と同時、又は銀の被着の後のいずれかで付形凝集体上に被着させることができるが、1種又はそれ以上の促進剤は、付形凝集体上に銀と同時に被着させることが好ましい。触媒が銀と、レニウムと、レニウム用の補助促進剤とを含む場合には、銀の被着の前に又は銀の被着と同時に補助促進剤を被着させること及び銀の少なくとも一部が被着した後にレニウムを被着させることが好都合であり得る。触媒の高められた安定性において、特に触媒の活性の点で、この被着工程の順序が実行されることが都合がよい。
【0036】
促進量のアルカリ金属又はアルカリ金属の混合物は、付形凝集体支持体上に適切な溶媒を使用して被着させることができる。アルカリ金属は純粋な金属状態で存在するが、この形態で使用するには適していない。アルカリ金属は、一般に、含浸の目的に適した溶媒に溶解されたアルカリ金属の化合物として使用される。付形凝集体は、適切な形態の銀の含浸を行う前、この間又はこの後に、アルカリ金属化合物(1種又は複数)を含浸させ得る。アルカリ金属促進剤は、銀成分が金属銀に還元された後に付形凝集体上に被着させる場合もあり得る。
【0037】
使用される促進量のアルカリ金属は、例えば、使用する担体の表面積及び細孔構造及び表面化学特性、触媒の銀含有量並びに個々のイオン及びこのアルカリ金属陽イオンと共に使用される量などの幾つかの変数に依存する。
【0038】
付形凝集体に被着されるアルカリ金属促進剤の量又は触媒上に存在するアルカリ金属促進剤の量は、触媒全体の重量に対する金属の重量で、一般には10ppmから3000ppm、好ましくは15ppmから2000ppm、さらに好ましくは20ppmから1500ppmの範囲内にある。
【0039】
付形凝集体はまた、レニウムのイオン、塩(1種又は複数)、化合物(1種又は複数)及び/又は錯体(1種又は複数)も含浸させることもできる。これは、アルカリ金属促進剤の添加と同時に、又はこの前もしくはこの後に行ってもよいし;又は、銀の添加と同時に、又はこの前もしくはこの後に行ってもよい。レニウム、アルカリ金属、及び銀は、同一の含浸溶液中に存在させてもよい。これらを異なる溶液中に存在させると、適切な触媒、ある場合にはさらに改善された触媒を得られるであろう。
【0040】
付形凝集体又は触媒上に被着された又は存在するレニウムの好ましい量(金属として計算される)は、全触媒g当たり0.1マイクロモル(μモル)からg当たり10マイクロモルまで、さらに好ましくはg当たり0.2マイクロモルからg当たり5マイクロモルまで、又は別の言い方をすれば、全触媒の重量で19ppmから1860ppmまで、好ましくは37ppmから930ppmまでの範囲にある。触媒上に存在するレニウムの量については、レニウムが実際に存在する形態に関係なく、金属として表される。
【0041】
本発明の触媒の調製に使用されるレニウム化合物としては、適切な溶媒に溶解させることができるレニウム化合物が挙げられる。溶媒は、水含有溶媒であることが好ましい。溶媒は、銀及びアルカリ金属促進剤を被着させるのに使用される溶媒と同じ溶媒であることがさらに好ましい。
【0042】
本発明の触媒の製造に使用される適切なレニウム化合物の例としては、ハロゲン化レニウムなどのレニウム塩、オキシハロゲン化レニウム、レニウム酸塩、過レニウム酸塩、レニウムの酸化物及び酸が挙げられる。含浸溶液に使用するのに好ましい化合物は、過レニウム酸塩、好ましくは過レニウム酸アンモニウムである。しかし、過レニウム酸アルカリ金属、過レニウム酸アルカリ土類金属、過レニウム酸銀、他の過レニウム酸塩及びレニウムへプトオキシドも、適切に利用できる。
【0043】
1種又はそれ以上の補助促進剤は、当業者に公知である適切な方法で付形凝集体上に被着させることができる。補助促進剤は、付形凝集体上に銀の被着の前に、銀の被着と同時に、又は銀の被着の後に被着させるが、1種又はそれ以上の補助促進剤は、付形凝集体上に銀と同時に被着させることが好ましい。補助促進剤の補助促進量が付形凝集体上に被着され、一般に全触媒のg当たり0.01μモルから25μモルまでの範囲、又はそれ以上であることができる。
【0044】
本発明の触媒は、分子状酸素によるエチレンのエチレンオキシドへの直接酸化におけるエチレンオキシド製造について特に高い活性と高い選択性を有する。例えば、本発明の触媒は、少なくとも86.5モル%、好ましくは少なくとも87モル%、最も好ましくは少なくとも88.5モル%の初期選択性を有することができる。本発明の触媒を触媒床に充填すると、エチレンオキシドの製造方法において使用時に、触媒床全体にわたって大きな圧力低下を生じることなく、比較的高い銀装填量を有し及び/又はこのような圧力低下に対して充填密度について改善されたバランスを有する触媒床が得られることが、本発明の利点である。口径を小さくすると、理論モデルに基づいた予測、例えばErgunの関係式(W.J.Beek and K.M.K.Muttzall,「Transport Phenomena」,J.Wiley and Sons Ltd,1975,p.114.参照)と比べて、圧力低下/充填密度のバランスが、エチレンオキシドの製造に使用される典型的な反応管において都合よく作用する。本発明を実施することによって、触媒の銀装填量が、少なくとも銀150kg/触媒床m、好ましくは少なくとも銀170kg/触媒床m、さらに好ましくは少なくとも銀200kg/触媒床m、特に少なくとも銀250kg/触媒床mであり得ることが達成できる。銀装填量は、頻繁には最大で銀800kg/触媒床m、さらに頻繁には最大で銀600kg/触媒床m、さらにより頻繁には最大で銀550kg銀/触媒床mである。高い銀装填量は、特に活性安定性及び選択性安定性の点からみて、改良された選択性及び触媒寿命の達成と共に、所定の作業率(work rate)の達成のために、エチレンオキシドの製造方法において比較的温和な条件、特に温度の適用を可能にする。
【0045】
触媒の選択性について本明細書で使用するように、「選択性」(S)という用語は、転化されたエチレンの全体に対する形成された所望のエチレンオキシドのモル%(%)を意味する。選択性は、触媒について所定の作業率(w)で特定し得、作業率は、時間当たりの触媒の単位容量当たり製造されたエチレンオキシドの量(例えば、kg/m)として定義される。触媒の活性に関して本明細書で使用するように、「活性」(Tw)という用語は、所定の作業率に達するのに必要な温度を意味する。
【0046】
本発明の触媒の存在下でエポキシ化反応を行うための条件は、広義には従来技術に既に記載されている条件を含む。これは、例えば、適切な温度、圧力、滞留時間、希釈剤、例えば窒素、二酸化炭素、水蒸気、アルゴン、メタン又は他の飽和炭化水素、触媒作用を調節するための調節剤、例えば、1,2−ジクロロエタン、塩化ビニル、塩化エチル又は塩素化ポリフェニル化合物の存在、エチレンオキシドの収量を上げるために種々の反応装置において再循環操作の採用又は逐次転化の適用の望ましさ及びエチレンオキシドの製造方法において選択し得る他の特殊な条件に適用される。大気圧から3450kPaゲージ圧(500psig)までの範囲の圧力が一般に採用される。しかし、これよりも高い圧力は除外されない。反応剤として用いられる分子状酸素は、慣用の供給源を含め適切な供給源から得ることができる。適切な酸素装填材料としては、比較的純粋な酸素、又は多量の酸素を少量の1種又はそれ以上の希釈剤、例えば窒素及びアルゴンと共に含有する濃縮酸素流、又は他の酸素含有流、例えば空気を挙げることができる。エチレンオキシドの反応における本発明の触媒の使用は、有効であることが公知である条件の特定の条件の使用に決して限定されない。
【0047】
例示だけを目的として、下記の表に現行の市販のエチレンオキシド反応装置ユニットに使用される場合が多い条件の範囲を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
好ましい適用において、エチレンオキシドは、酸素含有ガスをエチレンと本発明の触媒の存在下で、適切なエポキシ化反応条件、例えば180℃から330℃、好ましくは200℃から325℃の範囲内の温度、及び大気圧から3450kPaゲージ圧(500psig)、好ましくは1034kPaから2758kPaゲージ圧(150psigから400psig)の範囲内の圧力の下で接触させると製造される。エチレンオキシドの製造方法の標準的な実施において、触媒と接触させる原料流は、エチレンと酸素を含有し、さらに低濃度の二酸化炭素を含有する。この理由は、二酸化炭素は、前記プロセスの副生成物であり、再循環の結果として原料流中に部分的に存在するからである。活性、選択性及び触媒寿命の点から触媒性能をさらに高めるように、原料流中の二酸化炭素の濃度を低い濃度まで低下させることが都合がよい。原料中の二酸化炭素の量は、原料全体に対して最大で4モル%、さらに好ましくは最大で2モル%、特に最大で1モル%であることが好ましい。二酸化炭素の量は、原料全体に対して、頻繁には少なくとも0.1モル%、さらに頻繁には少なくとも0.5モル%である。
【0050】
製造されたエチレンオキシドは、反応混合物から当該技術で公知の方法で回収し得る、例えば、反応装置出口流からエチレンオキシドを水に吸収させ、場合によっては水溶液からエチレンオキシドを蒸留により回収することによって回収し得る。
【0051】
エポキシ化プロセスで製造されたエチレンオキシドは、エチレングリコール、エチレングリコールエーテル又はアルカノールアミンに転化させ得る。
【0052】
エチレングリコール又はエチレングリコールエーテルへの転化は、例えば、エチレンオキシドを水と、適切には酸性又は塩基性触媒を使用して反応させることを含む。例えば、主としてエチレングリコールと少量のエチレングリコールエーテルを製造するためには、エチレンオキシドを10倍モル過剰の水と、液相反応では酸触媒、例えば全反応混合物に基づいて0.5から1.0重量%の硫酸の存在下に50から70℃及び100kPa絶対圧で反応させ得、又は気相反応では130から240℃及び2000から4000kPa絶対圧で、好ましくは触媒の不存在下で反応させ得る。水の割合を下げると、反応混合物中のエチレングリコールエーテルの割合が増加する。このようにして製造されるエチレングリコールエーテルは、ジエーテル、トリエーテル、テトラエーテル又はこれに続くエーテルであり得る。別法として、エチレングリコールエーテルは、エチレンオキシドをアルコール、特に第一級アルコール、例えばメタノール又はエタノールを用いて転化させることによって、水の少なくとも一部をアルコールで交換することによって製造し得る。
【0053】
アルカノールアミンへの転化は、エチレンオキシドを、アミン、例えばアンモニア、アルキルアミン又はジアルキルアミンと反応させることを含み得る。無水アンモニア又はアンモニア水を使用し得る。無水アンモニアが、典型的にはモノアルカノールアミンの製造に使用される。エチレンオキシドのアルカノールアミンへの転化に適用できる方法については、例えば、米国特許第4845296号公報を参照し得、これは本明細書に参照により組み込まれている。
【0054】
エチレングリコール及びエチレングリコールエーテルは、種々の工業用途、例えば、食品、飲料、タバコ、化粧品、熱可塑性重合体、硬化性樹脂系、洗剤、熱伝達系などの分野で使用し得る。アルカノールアミンは、天然ガスの処理(「スイートニング」)に使用し得る。
【実施例】
【0055】
以下の実施例は、本発明の利点を例証することを目的とするものであり、本発明の範囲を不当に限定することを目的とするものではない。
【0056】
(実施例I)
本実施例Iは、以下の実施例に記載される種々の支持材に含浸させるために使用される銀含浸原液の調製について説明する。
【0057】
5リットルステンレス鋼製ビーカーで、試薬グレードの水酸化ナトリウム415gを脱イオン水2340mlに溶解した。この溶液の温度を50℃に調節した。4リットルステンレス鋼製ビーカーで、硝酸銀1699gを脱イオン水2100mlに溶解した。この溶液の温度を50℃に調節した。前記水酸化ナトリウム溶液を、前記硝酸銀溶液に攪拌しながら徐々に加えた。この間、温度は50℃に維持した。得られたスラリーを15分間攪拌した。溶液のpHを、必要ならばNaOH溶液を加えることによって10を越えるpHに維持した。フィルター・ワンド(fileter wand)を使用することによって液体を除去し、次いで除去した液体を等容量の脱イオン水と置換することを含む洗浄操作を使用した。この洗浄操作を、濾液の導電率が90μmho/cm以下に低下するまで反復した。最終洗浄サイクルの完了後に、脱イオン水1500mlを加え、次いで溶液を攪拌し、40℃(±5℃)に維持しながらシュウ酸二水和物630g(4.997モル)を100gずつ加えた。シュウ酸二水和物の最後の130gを加える間、溶液のpHを長時間7.8以下に低下しないことを確実にするために監視した。溶液から水を、フィルター・ワンドを用いて除去し、スラリーを30℃よりも低い温度まで冷却した。溶液に、732gの92%エチレンジアミン(EDA)を徐々に加えた。この添加の間、温度を30℃未満に維持した。機械攪拌するのに十分な液体が存在するまで、スパチュラを使用して手で攪拌した。最終溶液を、実施例IIIの触媒を調製するための銀含浸原液として使用した。
【0058】
(実施例II)
本実施例IIは、実施例IIIに記載の触媒の調製に使用される4種類の担体(すなわち、担体A、担体B、担体C、及び担体D)の特性及び幾何学的形状に関する情報を提供する。下記の表に、前記担体それぞれの幾つかの特性を示す。
【0059】
【表2】

【0060】
上記の表IIに示したそれぞれの担体は、8mmの呼称寸法と中空円筒の幾何学的形状を有していた。担体Aと担体Bの両方の口径が3.8mmであったのに対し、担体CとDの口径はわずか1mmであった。担体B、C及びDの水細孔容積は、担体Aの水細孔容積よりも著しく大きかった。これは、担体Aに比べて担体Bの粉砕強さ及び充填密度が低いことを説明している。しかし、担体Aと担体Bの両方と比べて担体C及びDの口径の減少に関して、粉砕強さと充填密度がこれらの特性が担体Aのこのような値よりも大きい値を有するように改善される。担体Dは、担体Cを越えるさらなる改善の例であり、小さい口径型の担体について増大した細孔容積を有する。これは、特に多重含浸法を触媒の調製に使用した場合に、完成触媒上に著しく多い銀装填量を可能にする。
【0061】
(実施例III)
本実施例IIIは、比較用の触媒及び本発明の触媒の調製並びにこれらの物性を説明する。
【0062】
触媒A(比較用の触媒):
比重1.5673g/mlの銀原液153gを、NHReO 0.1235gを1:1 EDA/HO 2gに溶解した溶液、1:1 アンモニア/水2gに溶解したメタタングステン酸アンモニウム0.0574g及び水に溶解したLiNO0.3174gと混合することによって、触媒Aを調製するための含浸溶液を調製した。さらに水を加えて、溶液の比重を1.465g/mlに調整した。このようなドープ溶液50gを、50%CsOH溶液0.1016gと混合した。この最終含浸溶液を使用して、触媒Aを調製した。担体A30gを20mmHgまで1分間減圧排気し、最終含浸溶液を担体Aに減圧下で加え、次いで減圧を開放し、担体を前記液体と3分間接触させた。次いで、含浸させた担体Aを500rpmで2分間遠心分離して過剰の液体を除去した。次いで、含浸させた担体Aを振動振盪機に入れ、気流中で250℃で5.5分間乾燥した。最終触媒Aの組成は、Ag13.2%、460ppmCs/g触媒、1.5μモルRe/g触媒、0.75μモルW/g触媒、及び15μモルLi/g触媒であった。
【0063】
触媒B(比較用の触媒):
比重1.589/mlの銀原液153gを、NHReO 0.1051gを1:1 EDA/HO 2gに溶解した溶液、1:1 アンモニア/水2gに溶解したメタタングステン酸アンモニウム0.0488g及び水に溶解したLiNO0.270gと混合することによって、触媒Bを調製するための含浸溶液を調製した。さらに水を加えて、溶液の比重を1.588g/mlに調整した。このようなドープ溶液50gを50%CsOH溶液0.0940gと混合した。この最終含浸溶液を使用して、触媒Bを調製した。担体B30gを20mmHgまで1分間減圧排気し、最終含浸溶液を担体Bに減圧下で加え、次いで減圧を開放し、担体を前記液体と3分間接触させた。次いで、含浸させた担体Bを500rpmで2分間遠心分離して過剰の液体を除去した。次いで、含浸させた担体Bを振動振盪機に入れ、気流中で250℃で5.5分間乾燥した。最終触媒Bの組成は、Ag17.5%、500ppmCs/g触媒、1.5μモルRe/g触媒、0.75μモルW/g触媒、及び15μモルLi/g触媒であった。
【0064】
触媒C(本発明の触媒):
比重1.573/mlの銀原液204gを、NHReO 0.1378gを1:1 EDA/HO 2gに溶解した溶液、1:1 アンモニア/水2gに溶解したメタタングステン酸アンモニウム0.064g及び水に溶解したLiNO0.3542gと混合することによって、触媒Cを調製するための含浸溶液を調製した。さらに水を加えて、溶液の比重を1.558g/mlに調整した。このようなドープ溶液50gを50%CsOH溶液0.0850gと混合した。この最終含浸溶液を使用して、触媒Cを調製した。担体C30gを20mmHgまで1分間減圧排気し、最終含浸溶液を担体Cに減圧下で加え、次いで減圧を開放し、担体を前記液体と3分間接触させた。次いで、含浸させた担体Cを500rpmで2分間遠心分離して過剰の液体を除去した。次いで、含浸させた担体Cを振動振盪機に入れ、気流中で250℃で7分間乾燥した。最終触媒Cの組成は、Ag17.8%、460ppmCs/g触媒、1.5μモルRe/g触媒、0.75μモルW/g触媒、及び15μモルLi/g触媒であった。
【0065】
触媒D(本発明の触媒):
触媒Dは、2つの含浸工程で調製した。第一の工程は、ドーパントなしで銀を含浸させることを伴い、第二の工程は、銀とドーパントを含浸させることを伴う。ドーパントを銀溶液に添加しなかった以外は触媒Cの操作に従って、担体C約120gに比重1.53/mlを有する銀原液204gを含浸させた。得られた乾燥触媒前駆体は銀を約17重量%含有していた。次いで、比重1.53g/mlの銀原液191.0gを、NHReO 0.2915gを1:1 EDA/HO 2gに溶解した溶液、1:1 アンモニア/水2gに溶解したメタタングステン酸アンモニウム0.0678g及び水に溶解したLiNO0.3747gと混合することによって調製した第二の溶液を、前記の乾燥触媒D前駆体に含浸させた。さらに水を加えて、溶液の比重を1.48g/mlに調整した。このようなドープ溶液50gを、45.4重量%CsOH溶液0.1397gと混合した。この最終含浸溶液を使用して、触媒Dを調製した。担体D前駆体30gを入れたフラスコを、20mmHgに1分間減圧排気し、最終含浸溶液を減圧下で加え、次いで減圧を開放し、前駆体を前記液体と3分間接触させた。次いで、含浸させた前駆体を500rpmで2分間遠心分離して過剰の液体を除去した。次いで、触媒Dを振動振盪機に入れ、217Nl/分(460 SCFH)の流量の気流中で250℃で7分間乾燥した。最終触媒Dの組成は、Ag27.3%、550ppmCs/g触媒、2.4μモルRe/g触媒、0.60μモルW/g触媒、及び12μモルLi/g触媒であった。
【0066】
触媒E(本発明の触媒):
触媒Eは、2つの含浸工程で調製した。第一の工程は、銀とタングステンドーパントを含浸させることを伴い、第二の工程は、銀と他のドーパントを含浸させることを伴う。メタタングステン酸アンモニウム(0.0639g)を、最初に33重量%のエチレンジアミン/水混合物1gに溶解した。この溶液を、実施例1の方法に従って調製され及び1.523g/mlの比重を有する銀溶液200gに加えた。この銀溶液を担体Cに含浸させ、次いで触媒Cについて記載の方法に従って遠心分離し、乾燥した。得られた乾燥触媒E前駆体は、銀を約16.6重量%含有していた。次いで、比重1.523/mlの銀原液200gを、NHReO 0.2906gを1:1 EDA/HO 1gに溶解した溶液、水1gに溶解したLiNO0.3735gと混合することによって調製した第二の溶液を、この乾燥触媒前駆体Eに含浸させた。さらに水を加えて、溶液の比重を1.49g/mlに調整した。このようなドープ溶液50gを、44.6重量%CsOH溶液0.1416gと混合した。この最終含浸溶液を使用して、触媒Eを調製した。担体E前駆体30gを入れたフラスコを、20mmHgに1分間減圧排気し、最終含浸溶液を触媒E前駆体に減圧下で加え、次いで減圧を開放し、前駆体を前記液体と3分間接触させた。次いで、含浸させた触媒E前駆体を500rpmで2分間遠心分離して過剰の液体を除去し、次いで振動振盪機に入れ、460SCFH(217Nl/分)の流量の気流中で250℃で7分間乾燥した。最終触媒Eの組成は、Ag27.3%、560ppmCs/g触媒、2.4μモルRe/g触媒、0.60μモルW/g触媒、及び12μモルLi/g触媒であった。
【0067】
表にIIIに、前記触媒それぞれの銀装填量を示す。本発明の触媒B及びCの銀成分が支持材に一回の含浸法で配合されたことが認められる。触媒Bは、触媒Aが含有する銀の量よりも著しく多い量の銀を含有する。これは、担体Aに比べて担体Bの高い吸水率に起因するものと考えられる。触媒Cについては、触媒Cは触媒Bが含有する銀と同じ重量%に近い銀を含有するが、変更された幾何学的形状により、触媒A又は触媒Bに比べて、触媒Cを用いてより多い全体量の銀を所定の反応装置容積に装填することができる。触媒D及びEは、担体C上に多重含浸法を用いて達成できる装填を例証する。これらの実施例は2回の含浸結果を表し、より多い含浸がさらに高い銀量をもたらすことが理解される。また、担体Dのような担体を用いるとさらに高い銀量がもたらされることが理解される。
【0068】
【表3】

【0069】
表IIIはまた、触媒A、B、C、D及びEを39mm管型反応装置(これはこのサイズの支持材に担持させた触媒と共に使用される典型的大きさである)に充填する場合に達成できる充填触媒床の銀装填量を示す。充填触媒床中の銀装填量(及び市販の反応装置における単位反応装置当たりに充填された銀の量)は、触媒の銀含有量及び触媒の充填密度が高いことから高いことを認めることができる。
【0070】
(実施例IV)
本実施例IVは、実施例IIIに記載の触媒の触媒特性の幾つか、例えば選択性及び活性を試験する方法を説明する。
【0071】
触媒A、B、C、D、及びEを、エチレンと酸素を含有する原料からエチレンオキシドを製造することができる能力について試験した。試験を行うために、4から5.3gの粉砕触媒を、6.4mm(1/4インチ)ステンレス鋼U字形反応管に装填した。反応管を溶融金属浴(熱媒)に浸し、この両端をガス流系に連結した。使用した触媒の重量及び入口ガス流量を、非粉砕触媒として算出して、3300Nl/(1時間)のガス空間速度が得られるように調整した。非粉砕触媒については、触媒充填密度及び銀装填量が変化するので、試験反応装置に装填される粉砕触媒の量を、市販の反応装置において非粉砕触媒を使用した場合の単位反応装置容量当たりに充填された銀の種々の量を反映するように変化させた。触媒装填量は、次の通りであった。触媒A(比較)4.2g、触媒B(比較)4.01g、触媒C(発明)4.66g、触媒D(発明)5.29g、及び触媒E(発明)5.29g。ガス流量は16.9Nl/時間であった。入口ガス圧は1550kPaであった。触媒は、試験の前に窒素で225℃で2時間処理した。エチレン30容量%、酸素8容量%、二酸化炭素5容量%、窒素57容量%及び塩化エチル1.5から6.0容量ppm(ppmv)を含む試験ガス混合物を、「ワンススルー(once−through)」操作で触媒床に通した。温度は、反応装置出口のエチレンオキシド濃度が3.1モル%であるように調節した。塩化エチル濃度は、最大選択性を得るために調節した。
【0072】
触媒の初期性能、すなわち選択性及び活性を、表IVに記録した。初期性能は、試験の最初の2週間の触媒の性能の水準を反映する。特定されたような活性は、反応装置出口のエチレンオキシドの濃度が3.1モル%である温度を反映する。これよりも低い温度は、より高い活性を示す。
【0073】
触媒A、C、D及びEの試験において、活性及び選択性を連続運転についても調べた。
【0074】
0.6kトン/m及び1.4kトン/mの触媒あたりのエチレンオキシド累積製造の後に得られた結果も、表IVに記録した。
【0075】
【表4】

【0076】
表IVに示した触媒性能データから認めることができるように、触媒Cは、触媒A及び触媒Bに比べて初期選択性の実質的な向上を実証する。触媒Cはまた、著しく大きい選択性を提供する著しく低い反応温度を必要とすることによって触媒Aと触媒Bの両方よりも実質的に大きい初期活性を実証する。触媒A及び触媒Bの初期性能よりも向上した触媒Cの初期性能は、反応装置に充填した高い吸水率を有する触媒を用いて達成することができる高い銀装填量に起因すると考えられる。向上した活性は、触媒の製造において小さい口径をもつ中空円筒幾何学的形状を有する支持材を使用することに起因すると考えられる。
【0077】
特定の支持体形状において銀の量が多いという概念は触媒調製の多重含浸法に拡大できることが、さらに示される。触媒Dは、触媒Aに対する初期選択性及び活性の利点並びに触媒A、B及びCに対する活性の利点を明確に例証している。また、触媒Eは、触媒A、B及びCに対する著しく向上した初期活性を有する。両方の多重含浸の例は、同じ反応装置容積におけるさらなる銀装填量の結果として特によい性能の向上を示す。触媒Eは、ドーパントの添加を2つの含浸工程の間に配列した場合に、どのように活性の利点が相当な選択性と共に維持できるかを例証する。
【0078】
連続運転について触媒A、C、D及びEについて得られる性能データは、触媒Eが触媒Dに対して安定性についてさらなる利点を提供することを示す。活性安定性の向上は、表IVのデータから明らかである。
【0079】
本発明はこの好ましい実施態様について記載されているが、合理的な改変及び変更は当業者によって可能である。このような改変及び変更は、記載の発明及び添付の請求の範囲の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、本発明の触媒を含む充填触媒床を含む反応管のある側面を表す。
【図2】図2は、本発明で使用する付形支持体であって、中空円筒幾何学的形状を有し及び付形支持材を特定する物理的寸法を有する付形支持体を表す。
【図3】図3は、(a)理想的な円筒である付形支持材の外周の横断面、及び(b)理想的な円筒から逸脱している付形支持材の横断面の外周の横断面の図を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空円筒の幾何学的形状を有する付形支持材であって前記付形支持材の長さ対外径比が0.3から2の範囲内にあり及び内径が前記付形支持材の外径の30%までの範囲にあるような中空円筒の幾何学的形状を有する付形支持材上に被着させた銀を含む触媒。
【請求項2】
銀が触媒の全重量の15重量%を越える範囲の量で存在する、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
銀が触媒の全重量の20重量%を越え及び最大50重量%の範囲内の量で存在する、請求項2に記載の触媒。
【請求項4】
支持材が40%を越える吸水率を有するものである、請求項1から3のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項5】
支持材が0.03m/gから10m/gの範囲内の表面積を有するものである、請求項1から4のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項6】
支持材が42.5%から80%の範囲内の吸水率及び0.5m/gから5m/gの範囲内の表面積を有するものである、請求項1から5のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項7】
長さ対外径比が0.5から1.6の範囲内にあり及び内径と外径の比が0.01から
0.25の範囲内にある、請求項1から6のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項8】
長さ対外径比が0.9から1.1の範囲内にあり及び内径と外径の比が0.02から0.2の範囲内にある、請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
外径が4から16mmの範囲内にあり及び口径が3.5mmよりも小さい、請求項1から8のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項10】
外径が5から12mmの範囲内にあり及び口径が0.1から3mmの範囲内にある、請求項1から9のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項11】
口径が0.2から2mmの範囲内にある、請求項1から10のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項12】
触媒が希土類金属、マグネシウム、レニウム又はアルカリ金属を含む促進剤成分をさらに含有するものである、請求項1から11のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項13】
触媒がレニウムを含む促進剤成分;リチウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムの中から選択されるアルカリ金属;及びさらに硫黄、モリブデン、タングステン又はクロムを含む補助促進剤をさらに含有するものである、請求項1から12のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項14】
長さ対外径比が0.3から2の範囲内にあり及び内径が前記付形触媒支持体の外径の30%までの範囲にあるような中空円筒の幾何学的形状を有する付形支持材を得;及び前記付形支持体上に銀を被着させることを含む方法。
【請求項15】
支持体上に、銀の他に、レニウムを含む促進剤成分、及び硫黄、モリブデン、タングステン又はクロムを含むレニウム補助促進剤を被着させることを含み、レニウム補助促進剤を銀の被着の前に又は銀の被着と同時に被着させ、及び少なくとも銀の一部が被着した後にレニウムを被着させることを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
充填触媒床であって、該充填触媒床が付形支持体上に担持させた銀を含む触媒粒子から形成され、触媒床が銀少なくとも150kg/触媒床mの銀装填量を有するものである充填触媒床。
【請求項17】
銀装填量が銀170から800kg/触媒床mの範囲内にある、請求項16に記載の充填触媒床。
【請求項18】
銀装填量が銀200から600kg/触媒床mの範囲内にある、請求項17に記載の充填触媒床。
【請求項19】
適切なエポキシ化プロセス条件下で、エチレンと酸素とを含有する原料流を、請求項1から13のいずれか1項に記載の触媒、又は請求項16から18のいずれか1項に記載の触媒床と接触させることを含むエチレンオキシドの製造方法。
【請求項20】
触媒と接触させる原料流であってエチレンと酸素とを含有する原料流が全原料に対して最大で4モル%、特に最大で2モル%、さらには特に最大で1モル%の二酸化炭素濃度を有するものである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項19又は20に記載のエチレンオキシドの製造方法によって得られたエチレンオキシドをエチレングリコール、エチレングリコールエーテル又は1,2−アルカノールアミンに転化させることを含むエチレングリコール、エチレングリコールエーテル又は1,2−アルカノールアミンを製造するためのエチレンオキシドの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−500596(P2007−500596A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532810(P2006−532810)
【出願日】平成16年5月5日(2004.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2004/014088
【国際公開番号】WO2004/101144
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】