説明

銀導電膜およびその製造法

【課題】非真空雰囲気下かつ300℃未満の低温で大面積の製膜が可能であり、薄膜型太陽電池の裏面電極側の反射膜として好適なテクスチャー構造を有し、低抵抗かつ基板との密着性に優れた導電薄膜を提供する。
【解決手段】基板上に形成された銀の薄膜であって、平均粒径DTEMが100nm以下の銀粒子が焼結した層で構成され、比抵抗が5μΩ・cm以下であり、焼結層中の空孔割合が3個/μm2以下であり、表面粗さRaが10〜100nmのテクスチャー構造を有する銀導電膜。このようなテクスチャー構造をもつ銀導電膜は、平均粒径DTEM;100nm以下の銀粒子が沸点60〜300℃の非極性または極性の小さい液状有機媒体に分散している銀粒子分散液を、基板上に塗布して塗膜を形成し、その後、前記塗膜を焼成する工程を有する製造プロセスで製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜型太陽電池の裏面電極側導電層などに適した銀導電膜、およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜型太陽電池はバルク型太陽電池に比べ光電変換層での光の吸収係数が大きく、入射光の利用効率が高いことから、シリコン原材料の使用量を低減できる点で有利である。また、その光電変換層は比較的低温で得ることができ、環境負荷が小さいという特長もある。
【0003】
太陽電池では入射光を有効に利用するために、入射面にテクスチャー構造を形成し、表面での反射率を下げて反射による損失を低減させることが有効である。バルク型太陽電池では光電変換層のシリコン表面に直接テクスチャー構造を形成することが可能である。しかし、薄膜型太陽電池の場合は光電変換層の膜厚が例えば500nm程度以下と薄いために、その入射面に直接テクスチャーを形成することは困難であることから、光電変換層の受光面に隣接する透明電極に凹凸を形成することでテクスチャー化している。
【0004】
また、薄膜型太陽電池では、光電変換層で吸収しきれなかった光を裏面側の層で反射させて再び光電変換層へ戻す方法も有効である。例えば特許文献1には反射膜の形成方法として金属および/または金属含有物をターゲットとし、基板にバイアス直流電圧を変化させながら印加することにより反射率の高い電極膜を得る方法が記載されている。特許文献2にはスパッタまたは真空蒸着などの真空成膜プロセスを使用して、酸化アルミニウムを含有したAgの導電性薄膜を形成する方法が記載されている。特許文献3には金属超微粒子を分散させた溶液を用いて基板上に下層電極層を形成した後、前記下層電極層を形成した溶液より金属含有濃度の高い溶液を用いて上部電極層を形成し、300〜650℃の温度で焼成する方法が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特許第3337918号公報
【特許文献2】特開2005−2387号公報
【特許文献3】特開平9−246577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1では、スパッタリング時に基板に印加するバイアス直流電圧を、膜形成の初期は弱く、次第に強くするよう調整することにより反射率の高い反射層を得ている。しかし、真空成膜プロセスで膜を形成する場合、膜の均一性や不純物混入を防ぐため10-6Torr以下の低圧にすること(高真空度)が必要であり、タクトタイムや製造コスト面で問題がある。
【0007】
特許文献2の手法によると400℃以上の高温にすることなくテクスチャー構造を有する銀導電膜が得られるという利点がある。しかし、真空成膜プロセスを用いているため、特許文献1と同様、10-6Torr以下の低圧(高真空度)が必要となる。
【0008】
特許文献3では、非真空下の塗布による成膜プロセスを採用しているため、真空成膜プロセスより製造コスト面で有利であるが、複数回の重ね塗りが必要であり、また、テクスチャー構造を得るためには300℃以上での焼成が必要なため、依然としてタクトタイム面で問題が残っている。加えて、適用できる基板の種類が限られるという問題がある。
【0009】
本発明はこれら従来技術の問題点に鑑み、薄膜型太陽電池、特にはフレキシブル基板薄膜太陽電池の裏面電極に適し、かつ、工業的な製造性に優れた導電膜を提供しようとするものである。具体的には、低抵抗であり、高反射率をもち、テクスチャー構造を有し、基板との密着性に優れた、非真空雰囲気下かつ300℃未満で製造できる導電薄膜、およびその製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明では基板上に形成された銀の薄膜(銀導電膜)が提供される。その薄膜は例えば平均粒径DTEMが100nm以下といった銀粒子が焼結したものであり、かつ表面粗さRaが10〜100nmのテクスチャー構造を有するものである。しかも、この薄膜は緻密な構造を持つ。具体的には例えば、焼結後に機械的圧縮応力を受けて緻密化されており、膜の断面に観察される空孔の密度が3個/μm2以下の緻密な構造を有する。この銀導電膜は緻密な構造により基板との密着性に優れる。例えば後述するセロハン粘着テープを用いた密着性試験に供したとき、1mm角の升目の残存率が90%以上となる密着性を有するものである。比抵抗は例えば5μΩ・cm以下と低い。この銀導電膜の平均膜厚は例えば50〜2000nmであり、ESCA(光電子分光分析装置)により層内部(表面からのスパッタリング深さがSiO2換算で5nmより大きい領域)の炭素含有が検出されないものが好適な対象となる。これは、最表面からの深さが5nm以上の層内部においてESCAにより284.3eVおよび284.5eVの炭素のエネルギーピークが検出されないものである。
【0011】
このようなテクスチャー構造をもつ銀導電膜は、平均粒径DTEM;100nm以下の銀粒子が沸点60〜300℃の非極性または極性の小さい液状有機媒体に分散している銀塗料を基板上に塗布して塗膜を形成する工程、前記塗膜を焼成して焼成膜を形成する工程、前記焼成膜に圧縮成形を施す工程を有する製造プロセスで製造することができる。
【0012】
より具体的には、沸点80〜200℃のアルコール中または沸点150〜300℃のポリオール中で、そのアルコールまたはポリオールを還元剤として、1分子中に1個以上の不飽和結合を有するアミン等の有機化合物の存在下、80〜200℃の温度域で、銀化合物(例えば硝酸銀)を還元処理することにより銀粒子を析出させる工程、この銀粒子を回収して沸点60〜300℃の非極性または極性の小さい液状有機媒体に混合することによりスラリーとし、このスラリーを固液分離して平均粒径DTEMが100nm以下の銀粒子が分散した銀粒子分散液を回収する工程、この分散液を使用した銀塗料を基板上に塗布して塗膜を形成する工程、前記塗膜を焼成して焼成膜を形成する工程、前記焼成膜に圧縮成形を施す工程を有する銀導電膜の製造法が採用できる。「工程を有する」とは、上記各工程が上記記載の順に含まれる製造プロセスを意味する。焼成温度は100℃以上300℃未満とすることができる。これにより銀粒子が焼結を起こし、銀膜が形成される。上記圧縮成形では、5〜200N/cm2の圧力を焼成膜表面に付与することが好ましい。
【0013】
平均粒径DTEMは、当該銀粒子分散液を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより求まる平均粒子径であり、TEM観察による画像において他の粒子と重なっていない独立した粒子をランダムに300個以上選択して個々の粒子の粒径(画像上に現れる粒子を囲む外接円のうち最も径の小さい外接円の径)を測定し、その平均値を算出することによって求められる。
「非極性または極性の小さい」とは25℃の比誘電率が15以下であることをいう。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、非真空雰囲気下かつ300℃未満の低温で、低抵抗かつ空孔が少ない、テクスチャー構造を有する銀導電膜をフィルム基板上に形成することが可能となった。その銀導電膜のテクスチャー構造は薄膜型太陽電池の裏面電極側における反射層として優れた機能を発揮する。また、低抵抗のため薄膜太陽電池の変換効率向上にも寄与し、銀導電膜中の空孔が少ないため銀導電膜と基板の間の空孔も少ない結果となり、基板との密着性にも優れる。また、この銀導電膜は実質的に炭素を含まないものが得られるので、太陽電池の製造プロセスにおいて炭素に起因するガス成分の生成が起こらず、当該銀導電膜上に形成される層中でのボイドの生成が抑止される。また、配線や電子部品を腐食させる硫黄、塩素等の物質を含まないものが得られる。さらに、この銀導電膜の製造においては上記のような非真空下かつ低温の条件で大面積の製膜が可能であるため、短いタクトタイムかつ低コストで銀導電膜の大量生産が可能である。したがって本発明は、薄膜型太陽電池のさらなる普及に寄与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明者らは、銀化合物をアルコールまたはポリオール中において有機保護剤の存在下で還元処理する手法により、極性の低い液状有機媒体中において極めて分散性の良い銀のナノ粒子(粒径100nm以下の粒子)が得られることを見出し、特願2005−26805号、特願2005−26866号、特願2005−56035号および特願2005−222855号として開示した。その後研究を進めた結果、このような銀粒子が分散した液をポリイミド樹脂等の基板上に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を焼成したとき、銀は融点が961℃程度であるにもかかわらず100℃以上300℃未満といった低温で焼結が起こり、比抵抗が5μΩ・cm以下であり、Raが10〜100nmの表面をもつテクスチャー構造の銀導電膜が安定して形成できることを知見した。また、焼成により成膜された銀導電膜をロール等により圧縮成形することにより、焼結層中の空孔割合が3個/μm2以下の銀導電膜を得ることができる。膜厚は50〜2000nmとすることができる。
【0016】
〔表面粗さRa〕
銀導電膜の表面粗さRaが10nm未満の場合、その薄膜表面は平滑性が高いため入射する光に対し高い反射率を示すものの、膜表面での光の散乱が少ないため反射光が半導体層内部に十分吸収されずに系外に放出してしまい、その結果、入射する光を有効に利用できず、発電効率の向上は期待できない。逆に、表面粗さRaが大きすぎると、太陽電池のショートを防ぐための透明導電膜層が厚くなり、これによる光の吸収損失が大きくなる。したがって、いずれの場合も太陽電池の変換効率は十分改善されない。これに対し、表面粗さRaが10〜100nmのテクスチャー構造を有している場合には、当該薄膜表面で生じる光の散乱によって光路長が増加するため光の吸収効率が向上し、変換効率が改善され、薄膜太陽電池の単位面積あたりの発電量増大につながる。
【0017】
〔比抵抗〕
銀導電膜は低抵抗であるほど光電変換層で発生させた電気を少ないロスで効率良く集電することが可能になる。種々検討の結果、比抵抗が5μΩ・cm以下に低減されているものは、薄膜太陽電池の変換効率向上による単位面積あたりの発電量増大に極めて効果的であることがわかった。比抵抗は4μΩ・cm以下であることがより好ましく、3μΩ・cm以下が更に好ましく、2μΩ・cm以下が更に一層好ましい。
【0018】
〔空孔の密度〕
銀導電膜中に存在する空孔が少ないと、その銀導電膜と基板間に存在する空孔が少なくなり、銀導電膜と基板の接触面積が増加するため、両者の密着性が向上する。種々検討の結果、銀導電膜の膜厚方向に平行な断面において、観察される空孔の密度が3個/μm2以下であるとき、ポリイミドフィルム等の基板との密着性が顕著に改善される。
【0019】
〔基板に対する密着性〕
薄膜太陽電池は、屋外に設置され、一度設置されると長期にわたり利用される。また、特に製造後の銀導電膜部分は修理などが原理的に不可能であるため、高い耐久性が要求される。この耐久性とは具体的には、接触する基板および上層との間に十分な付着力強度(密着性)を有することを意味する。この密着性は以下の密着性試験によって評価できる。
【0020】
密着性試験;
基板上に形成した銀導電膜にカッターナイフにより1mm角の升目を100個作成し、その上にセロハン粘着テープ(JIS Z1522に規定されるもので、幅25mm当たりの粘着量が約8Nのもの)を手指にて圧着したあと剥離させ、残存する升目の数xを数える。そして、(x個/100個)×100で算出される残存率(%)を求める。基板に対する銀導電膜の密着性は、この残存率によって判断できる。すなわち、残存率が90%以上であれば、その銀導電膜は実用上十分な耐久性を備えていると見てよい。このとき、基板と反対側の面で銀導電膜に接触することになる上層との間の密着性も十分に確保できると考えてよい。この残存率は95%以上であることがより好ましく、100%であることが一層好ましい。残存率が90%を下回ると、長期使用時や加速試験時に抵抗値の低下が観測されるなど、信頼性が低い場合があるので注意を要する。なお、升目の作成にあたっては基板を切らないように注意する。
【0021】
この銀導電膜は薄膜型太陽電池の裏面電極側の反射層として適したテクスチャー構造を有しており、しかも、「塗布→焼成」の工程で成膜するため大面積のものが容易に得られ、焼成は300℃未満という低温で行うことができる。
【0022】
この銀導電膜は、具体的には以下のようにして製造することができる。
〔銀粒子の生成〕
沸点が80〜200℃のアルコールまたは150〜300℃のポリオールを用意する。アルコールまたはポリオールは本発明において銀化合物の反応媒体および還元剤として機能する。アルコールとしては、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、アリルアルコール、クロチルアルコール、シクロペンタノール等が使用できる。ポリオールは複数の水酸基を有する有機物質であり、多価アルコールとも言われる。ポリオールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が使用できる。また、ポリオールの誘導体を溶媒に使用することもできる。ここでは、その誘導体もポリオールとして取り扱う。
【0023】
銀化合物として、硝酸銀、酸化銀、炭酸銀などが挙げられるが、工業的観点から硝酸銀が使用しやすい。反応時の液中のAgイオン濃度は0.05モル/L以上、好ましくは0.05〜5.0モル/Lとすればよい。
【0024】
有機化合物としては、1分子中に少なくとも1個以上の不飽和結合を有し、分子量100〜1000、好ましくは100〜400のアミン化合物を使用する。このような不飽和結合をもつアミン化合物を使用することによって、還元反応において銀核を一斉に発生させると共に析出した銀核の成長を全体的に均斉に抑制する現象が起きるのではないかと推測され、粒径100nm以下あるいは50nm以下といった銀粒子粉末を高収率で得ることができる。しかもこのアミン化合物は比較的低温で分解するのでその銀粒子分散液の低温焼結性を確保することができる。本発明で使用できる代表的なアミン化合物として、例えばトリアリルアミン、オレイルアミン、ジオレイルアミン、オレイルプロピレンジアミンを例示できる。
【0025】
また、還元補助剤を使用することができる。還元補助剤としては、分子量100〜1000のアミン化合物を使用することができ、例えばアミン化合物の中でも還元力の強い第2級、第3級アミンが良く、これらのうちジエタノールアミン、トリエタノールアミンを用いるのが特に好ましい。
【0026】
還元反応は加熱下で反応媒体兼還元剤であるアルコールまたはポリオールの蒸発と凝縮を繰り返す還流条件下で行なわせるのがよい。その際、上記の有機化合物を液中に存在させることで、当該有機化合物で覆われた銀粒子が合成できる。アルコールまたはポリオール/Agのモル比は0.5〜50の範囲とすることができる。有機化合物/Agのモル比は0.05〜5の範囲とすることができる。また、還元補助剤を使用する場合、還元補助剤/Agのモル比は0.1〜20の範囲とすることができる。
【0027】
〔銀粒子分散液の調製〕
上記の還元反応後のスラリーを例えば遠心分離機で固液分離し、分離された液を廃棄して固体成分を回収する。この固体成分をメタノール等の有機溶媒と混合したのちさらに遠心分離機で固液分離し、分離された液を廃棄して固体成分を回収する。必要に応じてこの洗浄操作を繰り返し、最終的に得られた固体成分(沈殿物)を回収する。この固形成分は有機化合物で覆われた銀粒子粉末を主体とするものである。これを液状有機媒体と混合する。
【0028】
液状有機媒体としては、沸点が60〜300℃の非極性または極性の小さい液状有機媒体を用いる。ここで、「非極性または極性の小さい」というのは25℃での比誘電率が15以下であることを指し、より好ましく5以下である。比誘電率が高い場合、銀粒子の分散性が悪化し沈降することがあり、好ましくない。分散液の用途に応じて各種の液状有機媒体が使用できるが、太陽電池の裏面電極側の導電膜用途では炭化水素系が好適に使用でき、とくに、イソオクタン、n−デカン、イソドデカン、イソヘキサン、n−ウンデカン、n−テトラデカン、n−ドデカン、トリデカン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、デカリン、テトラリン等の芳香族炭化水素等が使用できる。これらの液状有機媒体は1種類または2種類以上を使用することができ、ケロシンのような混合物であっても良い。さらに、極性を調整するために、混合後の液状有機媒体の25℃での比誘電率が15以下となる範囲でアルコール系、ケトン系、エーテル系、エステル系等の極性有機媒体を添加しても良い。
【0029】
銀粒子粉末が混合された液状有機媒体の液を例えば遠心分離機により固液分離し、ここでは固形分を廃棄して、分離された液の方を回収する。この液には粒径の分布が小さい銀粒子が分散している。この分散液を、必要に応じて濃度調整して、最終的な銀粒子分散液(銀塗料)が得られる。
分散液中の銀粒子の平均粒径DTEMは100nm以下であるが、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下、場合によっては20nm以下である。平均粒径DTEMはアルコールまたはポリオール/Agのモル比、有機化合物/Agのモル比、還元補助剤/Agのモル比、還元反応時の昇温速度、撹拌力、銀化合物種類、アルコールまたはポリオール種類、還元補助剤種類、有機化合物種類等によりコントロール可能である。
分散液中の銀濃度は5〜90質量%程度であることが望ましい。また、分散液の粘度は1mPa・s〜100Pa・s程度であることが望ましい。
【0030】
〔銀導電膜の形成〕
銀導電膜を形成する基板としては、フィルム状の有機高分子を用いることができる。フィルム状の有機高分子の膜厚に特に限定はないが、ロールツーロールでのプロセスに対応できるだけの可撓性を有するのが好ましい。更に、高耐熱性を有するものが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、アラミド、ポリカーボネート等を用いることができる。
【0031】
上記の銀粒子分散液を基板上に塗布する。塗布の方法は焼成後の銀導電膜の厚みが50〜2000nmになるように塗膜が形成できれば特に限定されない。スクリーン印刷、インクジェット印刷、スピンコーター、ロールコーター、スリットコーター、スプレーコーター等により塗布が可能である。
【0032】
次いで、塗布された塗膜を焼成することにより、銀粒子を焼結させ、銀の焼成膜を得る。焼成雰囲気は常圧の酸化雰囲気(例えば大気)とすればよい。塗膜中の銀粒子は極めて低温で焼結が起こるので焼成温度は100℃以上400℃未満の範囲で可能であるが、省エネルギー等の観点から100℃以上300℃未満の温度域とすることが好ましい。生産性を考慮すると、バッチ式でなく、大量生産に向くロールツーロール方式に対応した連続焼成が可能な装置を用いることが好ましい。例えば、熱風循環式乾燥器、ベルト式焼成炉、IR焼成炉などが例示できる。焼成時間は、塗膜を形成した基板を上記温度域に30min以上保持することが望ましく、60min以上保持することがより好ましい。ただし、あまり長時間保持することは生産性を阻害するので、一般には300min以下の範囲とすればよい。
【0033】
薄膜型太陽電池に使用する場合、基板に対する銀導電膜の密着性を十分確保する必要があるため、焼成後、その焼成膜を圧縮成形する。焼成後の銀導電膜に5N/cm2以上の圧縮をかけられる装置であれば特に限定するものではないが、生産性を考えれば、バッチ式のプレス装置でなく、大量生産に向くロールツーロール方式に対応した連続圧縮できる圧縮装置を選択するのが好ましい。例えばカレンダーロールを挙げることができる。ロールで圧縮成形する場合の圧力は、ロールにより負荷される荷重をロールと焼成膜との接触面積で除することにより定められる。圧力は5〜200N/cm2の範囲で設定できる。圧縮成形時の加温については室温(概ね25℃程度)からフィルム状基板のガラス転移温度以下の温度で設定可能である。
【0034】
このようにして、表面粗さRa(算術平均粗さ)が10〜100nmのテクスチャー構造を有し、比抵抗が5μΩ・cm以下の銀導電膜を形成することができる。この範囲のRaを有する銀導電膜は、薄膜型太陽電池の裏面電極側の導電層に使用したとき、光電変換層で吸収されなかった光を散乱反射し、再び光電変換層に戻す。これにより光路長が伸び、光電変換層での光吸収が促進され太陽電池の変換効率が向上する。表面粗さRaは20〜60nmであることが一層好ましい。表面粗さRaは焼成温度や圧縮成形の圧力などにより調整可能である。焼成温度が高くなるとRaが過剰に大きくなりやすいので注意を要する。
【0035】
また、上記のように焼成膜を圧縮成形することにより、断面における空孔の密度が3個/μm2以下である銀導電膜を成膜することができる。この銀導電膜は、上述のとおり、変換効率および基板との密着性に優れたものである。
薄膜型太陽電池の裏面電極側の導電層の用途では、銀導電層の平均膜厚は50〜2000nmであることが望ましく、50〜1000nmであることがより好ましい。
【実施例】
【0036】
〔実施例1〕
反応媒体兼還元剤としてイソブタノール(和光純薬株式会社製の特級)200mL、有機化合物としてオレイルアミン(和光純薬株式会社 Mw=267)27mL、銀化合物としての硝酸銀結晶(関東化学株式会社製)13.7gを用意し、これらを混合してマグネットスターラーにて撹拌し、硝酸銀を溶解させた。
【0037】
この溶液を還流器のついた容器に移してオイルバスに載せ、容器内に不活性ガスとして窒素ガスを400mL/minの流量で吹込みながら、該溶液をマグネットスターラーにより100rpmの回転速度で撹拌しながら加熱した。100℃に至るまでの昇温速度は2℃/minとした。100℃の温度で3hrの還流を行なった後、還元補助剤として2級アミンのジエタノールアミン(和光純薬株式会社 Mw=106)8.5g(対Agモル比1.0)を添加した。その後、1hr保持した後、反応を終了した。反応終了後のスラリーを遠心分離機で固液分離し、分離された液を廃棄して固体成分を回収した。その後、固体成分をメタノールと混合したのちさらに遠心分離機で固液分離し、分離された液を廃棄して固体成分を回収する、という洗浄操作を2回行った。
【0038】
25℃の比誘電率が15以下の液状有機媒体としてn−ドデカン(沸点;約210℃)を用意した。これに前記洗浄後の固形成分を混合し、遠心分離機により30min固液分離し、分離された液を回収した。この液には銀粒子が分散している。この銀粒子分散液をTEMにより観察し、約60万倍の倍率で観察した画像を用いて前記の手法で銀粒子の平均粒径DTEMを求めた。また、この液の粘度を回転式粘度計(東機産業製RE550L)により測定した。その結果、この銀粒子分散液は、以下の特性を有するものであった。
・銀濃度: 63.5質量%
・粘度: 4.2mPa・s
・分散している銀粒子の平均粒径DTEM: 9nm
【0039】
基板としてポリイミドフィルム(宇部興産 ユーピレックス、厚さ約25μm)を用意した。上記銀分散液をこの基板上にアプリケーターを用いて塗布した後、熱風式乾燥機を用い200℃で60min焼成した。観察の結果、銀粒子の焼結が生じていた。得られた銀焼成膜をポリイミドフィルムごとカレンダーロール(康井精機製SC3−100)により20N/cm2の圧力で圧縮成形して銀導電膜を得た。圧縮成形時の加温についてはロール表面温度を80℃とした。
【0040】
得られた銀導電膜の平均膜厚は、蛍光X線膜厚測定器(SII社製SFT9200)を用いて測定した。
銀導電膜表面の粗さは、非接触二・三次元微細形状測定器(小坂研究所製ET−30HK)を用いて測定した。
銀導電膜の比抵抗は、表面抵抗測定装置(三菱化学製ロレスタHP)により測定された表面抵抗と膜厚測定器で得られた膜厚から計算により求めた。
銀導電膜中の空孔密度は、FIB(日本電子製JEM−9310FIB)により加工した断面をFE−SEM(日本電子製JSM−6700F)により観察し、空孔の個数と観察面積から計算により求めた。
【0041】
ESCA(アルバック・ファイ社製ESCA5800)により以下の条件で銀導電膜の最表面からSiO2換算で5nm以上の深さ領域における炭素のエネルギー284.3eVおよび284.5eVのピークの有無を調べた。
(ESCA測定条件)
・X線源: Al陽極線源、1500W
・分析エリア: 400μmφ
・中和銃: 使用
・取り出し角: 45°
・Arスパッタエッチング速度: 40nm/min(SiO2換算値)
【0042】
さらに、前述の方法で密着性試験を行い、この銀導電膜のポリイミドフィルム基板に対する密着性を調べた。100升中に残存する升目の数xを数え、(x/100)×100で表される残存率(%)を調べた。残存率90%以上を密着性良好、それ以外を密着性不良と評価した。
【0043】
その結果、この銀導電膜(圧縮成形後)の性質は以下のようなものであった。
・平均膜厚: 約900nm
・比抵抗: 3.6μΩ・cm
・空孔割合: 2.5個/μm2
・表面粗さRa: 28nm
・炭素の有無: なし(検出されず)
・密着性: 残存率100%(全升残存;良好)
すなわち、この銀導電膜は良好な抵抗値とテクスチャー構造を有し、ボイドの原因となる炭素を含まず、かつ空孔密度が低く、基板との密着性も良好であった。
【0044】
〔比較例1〕
実施例1と同じ銀粒子分散液をアプリケーターによりポリイミドフィルム(実施例1と共通)上に塗布した後、熱風式乾燥機を用い180℃で60min焼成して銀導電膜を得た。観察の結果、銀粒子の焼結が生じていた。
【0045】
得られた銀導電膜(焼成のまま)について実施例1と同様の評価を行った結果、この銀導電膜の性質は以下のようなものであった。
・平均膜厚: 約940nm
・比抵抗: 4.4μΩ・cm
・空孔割合: 5.0個/μm2
・表面粗さRa: 96nm
・炭素の有無: なし(検出されず)
・密着性: 残存率0%(残存なし;不良)
すなわち、この銀導電膜は良好な抵抗値とテクスチャー構造を有し、ボイドの原因となる炭素を含んでいないが、空孔割合が高く、基板との密着性が不十分であった。
【0046】
〔比較例2〕
実施例1と同じ銀粒子分散液をアプリケーターによりポリイミドフィルム(実施例1と共通)上に塗布した後、熱風式乾燥機を用い220℃で60min焼成して銀導電膜を得た。観察の結果、銀粒子の焼結が生じていた。
【0047】
得られた銀導電膜(焼成のまま)について実施例1と同様の評価を行った結果、この銀導電膜の性質は以下のようなものであった。
・平均膜厚: 約1240nm
・比抵抗: 2.1μΩ・cm
・空孔割合: 4.7個/μm2
・表面粗さRa: 95nm
・炭素の有無: なし(検出されず)
・密着性: 残存率68%(不良)
すなわち、この銀導電膜は良好な抵抗値とテクスチャー構造を有し、ボイドの原因となる炭素を含んでいないが、空孔割合が高く、基板との密着性が不十分であった。
【0048】
図1〜3に、それぞれ実施例1、比較例1および比較例2で得られた銀導電膜の断面についてのSEM写真を示す。それぞれ(b)は(a)に示した写真のスケッチである。
実施例1(図1)の銀導電膜は成膜後に圧縮成形が施されたことにより小粒子が押しつぶされ、空孔が少ない。図1(b)に○印を付けた箇所に合計10個の空孔が観察され、この視野における銀導電膜(図中Agと表示)の断面積4.0μm2で除することにより、空孔密度は上記のとおり2.5個/μm2と求まった。
【0049】
比較例1(図2)および比較例2(図3)の銀導電膜は焼成のままであり、圧縮成形されていないので、多数の空孔が存在している。焼成温度が220℃と比較的高かった比較例2では、同180℃の比較例1と比べ、個々の空孔のサイズが大きくなっている傾向がある。比較例1では図2(b)に○印を付けた箇所に合計31個の空孔が観察され、この視野における銀導電膜の断面積6.2μm2で除することにより、空孔密度は上記のとおり5.0個/μm2と求まった。比較例2では図3(b)に○印を付けた箇所に合計27個の空孔が観察され、この視野における銀導電膜の断面積5.8μm2で除することにより、空孔密度は上記のとおり4.7個/μm2と求まった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1で得られた銀導電膜の断面についてのSEM写真。
【図2】比較例1で得られた銀導電膜の断面についてのSEM写真。
【図3】比較例2で得られた銀導電膜の断面についてのSEM写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された銀の薄膜であって、その薄膜は銀粒子が焼結したものであり、膜の断面に観察される空孔の密度が3個/μm2以下であり、かつ表面粗さRaが10〜100nmのテクスチャー構造を有するものである銀導電膜。
【請求項2】
基板上に形成された銀の薄膜であって、その薄膜は銀粒子が焼結したものであり、表面粗さRaが10〜100nmのテクスチャー構造を有し、かつセロハン粘着テープを用いた剥離試験による1mm角の升目の残存率が90%以上となる密着性を有するものである銀導電膜。
【請求項3】
基板上に形成された銀の薄膜であって、その薄膜は銀粒子が焼結したものであり、焼結後に機械的圧縮応力を受けて緻密化されており、かつ表面粗さRaが10〜100nmのテクスチャー構造を有するものである銀導電膜。
【請求項4】
当該銀導電膜の比抵抗が5μΩ・cm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の銀導電膜。
【請求項5】
表面からの深さが5nm以上の層内部において炭素含有が検出されない請求項1〜4のいずれかに記載の銀導電膜。
【請求項6】
表面からの深さが5nm以上の層内部においてESCAにより284.3eVおよび284.5eVの炭素のエネルギーピークが検出されない請求項1〜5のいずれかに記載の銀導電膜。
【請求項7】
平均膜厚が50〜2000nmである請求項1〜6のいずれかに記載の銀導電膜。
【請求項8】
前記銀粒子は、アルコール中またはポリオール中で、アルコールまたはポリオールを還元剤として、1分子中に1個以上の不飽和結合を有する有機化合物の存在下で、銀化合物を還元処理することにより析出した、平均粒径DTEMが100nm以下の銀粒子である、請求項1〜7のいずれかに記載の銀導電膜。
【請求項9】
平均粒径DTEM;100nm以下の銀粒子が沸点60〜300℃の非極性または極性の小さい液状有機媒体に分散している銀塗料を基板上に塗布して塗膜を形成する工程、前記塗膜を焼成して焼成膜を形成する工程、前記焼成膜に圧縮成形を施す工程を有する請求項1〜7のいずれかに記載の銀導電膜の製造法。
【請求項10】
沸点80〜200℃のアルコール中または沸点150〜300℃のポリオール中で、そのアルコールまたはポリオールを還元剤として、1分子中に1個以上の不飽和結合を有する有機化合物の存在下、80〜200℃の温度域で、銀化合物を還元処理することにより銀粒子を析出させる工程、この銀粒子を回収して沸点60〜300℃の非極性または極性の小さい液状有機媒体に混合することによりスラリーとし、このスラリーを固液分離して平均粒径DTEMが100nm以下の銀粒子が分散した銀粒子分散液を回収する工程、この分散液を使用した銀塗料を基板上に塗布して塗膜を形成する工程、前記塗膜を焼成して焼成膜を形成する工程、前記焼成膜に圧縮成形を施す工程を有する請求項1〜7のいずれかに記載の銀導電膜の製造法。
【請求項11】
前記有機化合物はアミン化合物である請求項10に記載の銀導電膜の製造法。
【請求項12】
100℃以上300℃未満の温度域で焼成する、請求項9〜11のいずれかに記載の銀導電膜の製造法。
【請求項13】
前記圧縮成形は、5〜200N/cm2の圧力を焼成膜表面に付与するものである請求項9〜12のいずれかに記載の銀導電膜の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−258677(P2007−258677A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1310(P2007−1310)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】