説明

銀微粒子による新規触媒

【課題】環境に優しい水系の反応溶媒を用いることができ、低コストで高効率に目的とする化合物を得ることができ、触媒の再利用も可能な新規な触媒を提供する。
【解決手段】本発明の触媒は、下記式(I):
【化1】


(式中、X1は(CH2)nCOOHまたはその塩、あるいは対応するカルボキシレートイオンを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。)で表される共有結合および配位結合から選ばれるいずれかの相互作用を有する銀微粒子からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀微粒子による触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アミド化合物は、医薬品、ポリマー、界面活性剤、潤滑剤等の合成中間体として利用されており、例えば、ビタミンB3の構成成分であるニコチンアミドは工業的に生産されている。このようなアミド化合物の代表的な製法として、ニトリル化合物への水の付加反応(水和反応)が知られている。
【0003】
ニトリル化合物の水和反応は触媒の存在下に行われるが、従来、酸触媒法や微生物触媒法が知られている。酸触媒法は、硫酸、塩酸、ポリリン酸等を触媒に用いる方法であり、微生物触媒法は、微生物の代謝によりニトリル化合物への水の付加反応を行い、その産物としてアミド化合物を得る方法である(特許文献1参照)。
【0004】
一方、バルクの金属と単分子の金属錯体との中間に位置するナノサイズの金属微粒子は、量子サイズ効果や特異な表面構造に由来する独特な触媒活性を発現することから、新しい触媒材料として盛んに研究が行われている。
【0005】
このような金属微粒子を触媒に用いてニトリル化合物の水和反応を行う技術として、従来、ハイドロキシアパタイトの表面に銀を固定化した触媒を用いる方法(特許文献2、非特許文献1参照)、パラジウムまたはルテニウムをアルミナ等の金属酸化物に担持した固体触媒を用いる方法(特許文献3参照)、パラジウム、白金、またはルテニウムの微粒子と銅化合物とを組み合わせた触媒を用いる方法(特許文献4、非特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−30982号公報
【特許文献2】特開2009−233653号公報
【特許文献3】特開2005−170821号公報
【特許文献4】特開2009−214099号公報
【特許文献5】特願2009−042863
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chem. Commun., 2009, 3258-3260
【非特許文献2】Chemistry Letters Vol.38, No.4 (2009)
【非特許文献3】日本化学会第89春季年会(2009)講演予稿集 2L3−13
【非特許文献4】ナノ学会第7回大会講演予稿集 226頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のニトリル化合物の水和反応のうち、酸触媒法は、反応温度を高温にする必要があり、反応がカルボン酸まで進みやすく、中間体のアミド化合物を得るのが難しい。また、反応後の中和過程において、多量の無機塩等の副生成物が生じるという問題点があった。また、微生物触媒法は、酵素活性を維持するための反応条件が限定されるため、製造できるアミド化合物が少なく、汎用性が低いという問題点があった。
【0009】
一方、金属微粒子を触媒に用いてニトリル化合物の水和反応を行う技術のうち、ハイドロキシアパタイトの表面に銀を固定化した触媒を用いる方法は、脂肪族のニトリル化合物ではほとんど反応が進まないという問題点があった。
【0010】
パラジウムまたはルテニウムをアルミナ等の金属酸化物に担持した固体触媒を用いる方法は、パラジウムやルテニウムを使用するため低コストでの製造が困難であるという問題点があった。
【0011】
パラジウム、白金、またはルテニウムの微粒子と銅化合物とを組み合わせた触媒を用いる方法は、金属微粒子のみでは反応が進まないため銅化合物の添加を要し、収率も必ずしも十分ではない。また、パラジウムやルテニウムを使用するため低コストでの製造が困難であるという問題点があった。
【0012】
また、上記のような技術的背景に加えて、近年では、化学物質の製造の際に、原料から副生成物に至るまで汚染原因となる化学物質を使用せず、発生させないことで環境汚染を未然に防止しようとするグリーンケミストリーに適した環境調和型の触媒が望まれている。例えば、化学物質の製造の際の合成反応において、水系の溶媒を使用できることが望まれている。このことは、上記のような水和反応に限らず、酸化反応・還元反応等にも共通した課題である。
【0013】
なお、本出願人らは、水溶性のジアゾニウム塩を原料に用いて安定な銀ナノ粒子水分散液を得ることに成功している(特許文献5、非特許文献3、4参照)。しかしながら、特定の反応への触媒としての可能性、例えばニトリル化合物の水和反応への触媒としての可能性についての示唆や実際の検討に関する開示はされていない。
【0014】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、環境に優しい水系の反応溶媒を用いることができ、低コストで高効率に目的とする化合物を得ることができ、触媒の再利用も可能な新規な触媒を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の触媒は、下記式(I):
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、X1は(CH2)nCOOHまたはその塩、あるいは対応するカルボキシレートイオンを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。)で表される共有結合および配位結合から選ばれるいずれかの相互作用を有する銀微粒子からなる。
【0018】
この触媒において、銀微粒子は、下記式(II):
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、X2は(CH2)nCOOHを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。)で表されるジアゾニウム塩と、銀化合物とを、還元剤の存在下に極性溶媒中で反応させて得られたものであることが好ましい。
【0021】
この触媒において、有機化合物の水和反応、酸化反応、および還元反応から選ばれる少なくとも1種の反応に用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の銀微粒子触媒は極性溶媒に安定に分散可能であり、例えば有機溶媒を用いない水系での反応が可能であり、環境負荷の少ないグリーンケミストリーとして用いることができる。そして目的とする化合物を高効率に製造することができ、また銀を微粒子化して触媒に用いることにより、低コストで目的化合物を製造することができる。さらに、反応終了後、遠心分離等の操作により回収し、再度反応に利用することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明の銀微粒子による触媒は、ジアゾニウム塩と銀化合物とを、還元剤の存在下に極性溶媒中で反応させて製造することができる。
【0025】
原料のジアゾニウム塩としては、上記式(II)で表される化合物を用いることができる。式(II)のジアゾニウム塩は、例えば、テトラフルオロほう酸水溶液に、対応するアミノフェニルカルボン酸を添加、攪拌し、亜硝酸ナトリウム水溶液を滴下し熟成した後、ろ別、溶剤洗浄、再結晶等の精製を行うことにより得ることができる。
【0026】
式(II)のジアゾニウム塩と反応させる銀化合物としては、例えば、銀塩、銀錯体等を用いることができ、極性溶媒に溶解できるものであれば特に限定されない。例えば、硝酸銀、過塩素酸銀、硫酸銀、酢酸銀、酸化銀、チオシアン酸化銀、シアン化銀、シアン酸化銀、炭酸銀、亜硝酸銀、リン酸銀、乳酸銀、シュウ酸銀等を用いることができる。中でも、硝酸銀が好ましい。
【0027】
還元剤としては、ジアゾニウム塩と、銀化合物とを同時に効率よく還元できるものを選択する必要がある。例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH3CN)、水素化トリエチルホウ素リチウム(LiBH(C2H5)3)、水素化ホウ素リチウム(LiBH4)、水素化ホウ素カリウム(KBH4)、水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム((CH3(CH2)3)4NBH4)、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウム((CH3)4NBH4)等の水素化ホウ素塩系還元剤、ジボラン(B2H6)、アンモニアボラン(NH3-BH3)、トリメチルアンモニアボラン((CH3)3N-BH3)等のボラン系還元剤を用いることができるが、中でも水素化ホウ素ナトリウムが好ましく用いられる。
【0028】
反応溶媒として用いる極性溶媒としては、水、THF(テトラヒドロフラン)、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコールが挙げられる。中でも、水、メタノールが好ましい。
【0029】
上記の原料を用いて銀微粒子触媒を合成する際には、例えば、式(II)のジアゾニウム塩および銀化合物を極性溶媒に溶解、攪拌する。次いで還元剤を滴下し、これにより銀化合物と式(II)のジアゾニウム塩とを同時に還元し、熟成を行うことにより、式(I)で表される、フェニル基と銀原子とが直接に相互作用する銀微粒子が合成される。反応は、100℃未満、好ましくは30℃以下の温度で行うことができる。
【0030】
その後、必要に応じて水洗、溶剤洗浄、遠心分離、ろ過、電気透析等で精製を行い、窒素化合物、ハロゲン化合物等を除去し、本発明において触媒として用いる銀微粒子の分散液を得ることができる。
【0031】
なお、式(I)においてX1は(CH2)nCOOHまたはその塩、あるいは対応するカルボキシレートイオンを示し、塩としてはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アミン塩等が挙げられる。銀微粒子触媒は、X1として(CH2)nCOOHとその塩との両方が混在するものであってもよい。また、銀微粒子触媒がX1としてカルボキシレートイオンを有する場合としては、反応を行う場合等において銀微粒子触媒が分散液の状態である場合が挙げられる。
【0032】
この銀微粒子触媒は、触媒製造時の反応溶媒、また水和反応等の各種反応に用いる時の反応溶媒として極性溶媒を用いることができ、特にこれらの反応溶媒として水を用いることができることから、環境、コスト面において優れている。また、極性溶媒中での分散状態を長期間安定に維持することができる。
【0033】
この銀微粒子触媒は、各種の反応の触媒に使用することができ、中でも、有機化合物を基質とする水和反応、酸化反応、および還元反応に好適に用いることができる。
【0034】
本発明の銀微粒子触媒を有機化合物の水和反応に用いる場合、反応基質の有機化合物としては、二重結合または三重結合を有する有機化合物、例えば、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合、炭素−ヘテロ原子二重結合、または炭素−ヘテロ原子三重結合を有する有機化合物等が挙げられる。あるいは、シラン化合物の水和によるシラノール化合物の合成等にも用いることができる。
【0035】
炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を有する有機化合物としては、例えば、オレフィン、芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0036】
オレフィンとしては、好ましくはC2-C20、より好ましくはC2-C10の化合物を用いることができる。具体的には、例えば、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ブタジエン、イソプレン、シクロペンテン、ジシクロペンタジエン、シクロペンタジエン、オクタジエン等が挙げられる。
【0037】
芳香族炭化水素としては、好ましくはC6-C20、より好ましくはC6-C14の化合物を用いることができる。具体的には、例えば、ベンゼン、スチレン、α-メチルスチレン、インデン等が挙げられる。
【0038】
これらの有機化合物を水和することにより、対応するアルコール等を合成することができる。
【0039】
炭素−ヘテロ原子二重結合、または炭素−ヘテロ原子三重結合を有する有機化合物としては、例えば、ニトリル基を有する有機化合物、カルボニル基を有する有機化合物等が挙げられる。これらの有機化合物を水和することにより、対応するアミド、酸、アルコール等を合成することができる。
【0040】
反応系に存在させる触媒としての銀微粒子の含有量、反応温度、反応圧力および反応時間等は、反応基質の有機化合物や銀微粒子の種類等に応じて適宜に設定して行うことができる。
【0041】
例えば、ニトリル化合物の水和によるアミド化合物の合成では、上記の銀微粒子触媒を用いて、水を含む極性溶媒中でニトリル化合物を水和反応させ、対応するアミド化合物を合成する。原料のニトリル化合物としては、ニトリル基を有する有機化合物であれば特に限定されず、各種のものを用いることができる。
【0042】
ニトリル基を有する有機化合物としては、例えば、ニトリル基の残基として飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、ヘテロ原子含有基、およびこれらに置換基を導入したもの等を有するものを用いることができる。
【0043】
飽和脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、sec-ペンチル基、neo-ペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の好ましくはC1-C18、より好ましくはC1-C10の直鎖または分岐のアルキル基等が挙げられる。
【0044】
不飽和脂肪族炭化水素基としては、例えば、ビニル基、アリル基等の好ましくはC2-C18、より好ましくはC2-C10の直鎖または分岐のアルケニル基、エチニル基等の好ましくはC2-C18、より好ましくはC2-C10の直鎖または分岐のアルキニル基等が挙げられる。
【0045】
脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基等の好ましくはC3-C18、より好ましくはC3-C10のシクロアルキル基、シクロヘキセニル基等の好ましくはC3-C18、より好ましくはC3-C10のシクロアルケニル基等が挙げられる。
【0046】
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等の好ましくはC6-C22、より好ましくはC6-C14のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等の好ましくはC7-C26、より好ましくはC7-C18のアリールアルキル基等が挙げられる。
【0047】
芳香族複素環基としては、例えば、ピロリル基、フラニル基、チエニル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基等の好ましくはC4-C22、より好ましくはC4-C14の単環または多環の複素環基等が挙げられる。
【0048】
ヘテロ原子含有基としては、例えば、炭素鎖の途中または末端にエーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル基、エステル基、アミド基等を有するC2-C18、より好ましくはC2-C10のヘテロ原子含有基等が挙げられる。
【0049】
上記の有機基に導入される置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、C1-C6アルキル基、C2-C6アルケニル基、C1-C6アルコキシ基、C2-C6アルコキシカルボニル基、C6-C10アリールオキシ基、C2-C8ジアルキルアミノ基、C2-C8アシル基等が挙げられる。
【0050】
また、原料のニトリル化合物として2以上のニトリル基を有するものを用いることもできる。この場合、ニトリル基の残基としては、例えば、価数以外は上記に例示した有機基に対応するものが挙げられる。
【0051】
上記のニトリル化合物の水和反応を行う極性溶媒としては、例えば、水、THF(テトラヒドロフラン)、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のC2-C5の直鎖または分岐のアルコール等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、極性溶媒として水を好適に用いることができる。
【0052】
ニトリル化合物への付加に用いられる水和反応のための水の使用量は、例えば、ニトリル化合物1molに対して水が1mol以上であればよく、1〜1000molの範囲で好適に用いることができる。
【0053】
銀微粒子触媒の使用量は、特に限定されないが、例えば、ニトリル化合物1molに対して銀が0.0001〜1molの範囲で極性溶媒中に銀微粒子触媒を分散させて反応を行うことができる。
【0054】
水和反応を行う際には、銀微粒子触媒の分散液に原料のニトリル化合物を溶解または懸濁させ、必要に応じて反応温度等の条件を調整しながら行うことができる。水和反応の反応温度、反応時間、反応圧力は、使用原料や溶媒の沸点等に応じて適宜のものとされ、特に限定されないが、例えば、反応温度0〜200℃、反応時間0〜48時間で、常圧または加圧下において行うことができる。
【0055】
以上のような条件で、銀微粒子触媒が分散された水を含む極性溶媒中でニトリル化合物を水和反応させることにより、対応するアミド化合物を合成することができる。得られたアミド化合物は、ろ過、抽出、晶析、再結晶等により分離精製することができる。そして銀微粒子触媒は、反応終了後、遠心分離等の操作により回収し、そのまま、または必要に応じて水や有機溶媒により洗浄した後、再度反応に利用することもできる。
【0056】
本発明の銀微粒子触媒によれば、ほとんど副生成物が生じることなく、高選択的にアミド化合物を製造することができ、脂肪族、芳香族、複素環ニトリル化合物等の広範なニトリル化合物を原料として対応するアミド化合物を高効率に製造することができる。
【0057】
次に、酸化反応としては、例えば、アルコールの酸化によるカルボニル化合物の合成、オレフィンの酸化によるエポキシ化合物の合成等が挙げられる。
【0058】
アルコールの酸化によるカルボニル化合物の合成は、各種のアルコール、例えば、次式(1)〜(3)で表されるものを用いて行うことができる。
【0059】
【化3】

【0060】
(式(1)中、R1は、水素原子または、ハロゲノ基、ニトロ基、アルコキシ基、フェノキシ基、もしくはアシロキシ基で置換されていてもよい炭化水素基、あるいは複素環基を示す。)式(2)中、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素原子または、ハロゲノ基、ニトロ基、アルコキシ基、フェノキシ基、もしくはアシロキシ基で置換されていてもよい炭化水素基、あるいは複素環基を示し、あるいは、R2およびR3が一緒になって、これらが結合する炭素原子とともに環を形成していてもよい。式(3)中、Xは単結合または2価の炭化水素基を示し、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子または、ハロゲノ基、ニトロ基、アルコキシ基、フェノキシ基、もしくはアシロキシ基で置換されていてもよい炭化水素基、あるいは複素環基を示し、あるいは、R4およびR5が一緒になって、Xおよびそれらが結合する炭素原子とともに環を形成していてもよい。)
上記式(1)中、R1が炭化水素基である場合、この炭化水素基はC1-C20のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、またはアリールアルケニル基であるのが好ましく、この炭化水素基に置換していてもよいアルコキシ基およびアシロキシ基は、例えばC1-C10である。R1が複素環基である場合、この複素環基は酸素、窒素および硫黄から選ばれるヘテロ原子を含むものが好ましく、またこの複素環は5員環または6員環であるのが好ましい。
【0061】
上記式(2)中、R2またはR3が炭化水素基である場合、この炭化水素基はC1-C20のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、またはアリールアルケニル基であるのが好ましく、この炭化水素基に置換していてもよいアルコキシ基およびアシロキシ基は、例えばC1-C10である。R2またはR3が複素環基である場合、この複素環基は酸素、窒素および硫黄から選ばれるヘテロ原子を含むものが好ましく、またこの複素環は5員環または6員環であるのが好ましい。R2およびR3が一緒になって、それらが結合する炭素原子とともに環を形成している場合、この環はC5-C20の単環または多環であるのが好ましい。
【0062】
上記式(3)中、Xが2価の炭化水素基である場合、この炭化水素基はC1-C20のアルキリデン基、アルキレン基、アリーレン基であるのが好ましい。R4またはR5が炭化水素基である場合、この炭化水素基はC1-C20のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、またはアリールアルケニル基であるのが好ましく、この炭化水素基に置換していてもよいアルコキシ基およびアシロキシ基は、例えばC1-C10である。R4またはR5が複素環基である場合、この複素環基は酸素、窒素および硫黄から選ばれるヘテロ原子を含むものが好ましく、またこの複素環は5員環または6員環であるのが好ましい。R4およびR5が一緒になって、Xおよびそれらが結合する炭素原子とともに環を形成している場合、この環はC5-C20の単環または多環であるのが好ましい。
【0063】
酸化反応で使用する分子状酸素源としては、例えば、酸素ガス、空気、または酸素ガスもしくは空気を窒素、二酸化炭素、ヘリウム等の不活性ガスで希釈したものを用いることができる。アルコールと分子状酸素との接触は、例えば、反応液を分子状酸素含有ガスの雰囲気下に置くことにより行ってもよく、あるいはこの液中に分子状酸素含有ガスを吹き込むことにより行ってもよい。
【0064】
次に、還元反応としては、ニトロ化合物の還元によるアミンの合成、アルケンおよびアルキンの水素化反応等が挙げられる。
【0065】
ニトロ化合物の還元によるアミンの合成は、少なくとも1個のニトロ基を含有する有機化合物を水素と反応させることにより行うことができる。
【0066】
例えば、分子内に少なくとも1個のニトロ基と、好ましくはC6-C18の炭素原子を有する芳香族ニトロ化合物を用いることができる。この芳香族ニトロ化合物は、ハロゲノ基で置換されていてもよい。
【0067】
具体的には、例えば、ニトロベンゼン、ニトロトルエン、ニトロキシレン、ニトロナフタレン、ニトロアニリン、ニトロアルコール、およびこれらのハロゲノ基置換体等が挙げられる。
アルケンおよびアルキンの水素化反応は、例えば、反応性二重結合を有する有機化合物の炭素−炭素二重結合水素化反応(還元)がその1つである。これは、反応性炭素−炭素二重結合に水素を添加するものであり、本発明の触媒を使用することにより、例えばオレフィンに水素が添加されて、これが炭素−炭素単結合となり、容易にオレフィンが還元される。
【0068】
反応基質である反応性二重結合を有する化合物としては、反応性二重結合を有するものであれば特に限定されず、例えば、オレフィン、ジエン化合物、不飽和環式炭化水素化合物はもちろんのこと、分子内に反応性二重結合を1個以上有するものであれば、高分子化合物でも、如何なる官能基および/または芳香環を置換基として有しているものでもよい。
【0069】
以上において、反応系に存在させる触媒としての銀微粒子の含有量、反応温度、反応圧力および反応時間等は、反応基質の有機化合物等に応じて適宜に設定して行うことができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0071】
以下の実施例において使用した銀微粒子触媒の代表的な合成例は次のとおりである。
<合成例1>
下記式で表される化合物1を合成した。
【0072】
【化4】

【0073】
42%テトラフルオロほう酸水溶液(152.45g、0.73mol)に、4-アミノ安息香酸(50.02g、0.36mol)を添加、攪拌した。40%亜硝酸ナトリウム水溶液(62.89g、0.36mol)を10〜15℃下、30分で滴下し、10分間熟成した後、ろ別、再結晶等の精製を行うことにより、白色粉末を得た。
赤外線吸収スペクトル2291cm-1:N≡N+伸縮振動、1728cm-1:C=O伸縮振動、808 cm-1:C−H面外変角振動
硝酸銀(0.2592g、1.526mmol)をイオン交換水(150g)に溶解させ、N2を20分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、化合物1(0.360g、1.525mmol)を加え、5分間攪拌させた後、イオン交換水45gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0577g、1.525mmol)を室温下、3時間で滴下した。滴下後、2時間熟成し、黒黄色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、ろ過、水洗、溶剤洗浄等で精製し、銀含有量707ppmの黒黄色水分散液が得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 420nm
赤外線吸収スペクトル 1693cm-1:C=O伸縮振動、797 cm-1:C−H面外変角振動
<合成例2>
下記式で表される化合物2を合成した。
【0074】
【化5】

【0075】
42%テトラフルオロほう酸水溶液(13.83g、0.065mol)に、4-アミノフェニル酢酸(4.97g、0.033mol)を添加、攪拌した。40%亜硝酸ナトリウム水溶液(5.70g、0.03mol)を10〜15℃下、30分で滴下し、10分間熟成した後、ろ別、溶剤洗浄、再結晶等の精製を行うことにより、薄紫色粉末を得た。
赤外線吸収スペクトル 2278cm-1:N≡N+伸縮振動、1720cm-1:C=O伸縮振動、826cm-1:C−H面外変角振動
硝酸銀(0.0425g、0.2502mmol)をイオン交換水(25g)に溶解させ、N2を15分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、化合物2(0.0625g、0.2500mmol)を加え、1分間攪拌させた後、イオン交換水7.5gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0095g、0.2511mmol)を室温下、1時間で滴下した。滴下後、2時間熟成し、黒黄色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、水洗等で精製し、銀含有量633ppmの黒黄色水分散液が得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 429nm
赤外線吸収スペクトル 1688cm-1:C=O伸縮振動、833cm-1:C−H面外変角振動
<実施例1〜7>
合成例1で得られた銀微粒子触媒(式(I)においてn=0、m=1)を分散させた極性溶媒を用いて、表1に示す条件にてニトリル化合物の水和反応を行った。反応はオートクレーブ(容量30mL)に極性溶媒として水5mLを加えて加圧条件下で行った。対応するアミド化合物の生成(転化率)はガスクロマトグラフィーまたはH NMR分光法により確認した。その結果を表1に示す。
<比較例1〜3>
比較例1では、H2SO4を触媒として用いて、表1に示す条件にてニトリル化合物の水和反応を行った。
【0076】
比較例2では、銀パウダー(粒径2000-3500nm、Aldrich社製)を触媒として用いて、表1に示す条件にてニトリル化合物の水和反応を行った。
【0077】
比較例3では、AgNO3を触媒として用いて、表1に示す条件にてニトリル化合物の水和反応を行った。
【0078】
対応するアミド化合物の生成(転化率)は実施例と同様の方法で確認した。その結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1より、式(II)の水溶性ジアゾニウム塩と銀化合物とを還元剤存在下に極性溶媒中で反応させて得られた上記の銀微粒子を触媒として用いた実施例1〜7では、各種のニトリル化合物を原料として、対応するアミド化合物の生成を確認し、これまでほとんど反応が進まないとされていた脂肪族ニトリル化合物に対しても、触媒活性を有することが認められた。
<実施例8>
銀微粒子触媒として合成例2の銀微粒子触媒(式(I)においてn=1、m=1)を分散させた極性溶媒を用いて、ベンゾニトリルについて、触媒量(対ニトリル)30mol%、180℃、24hの条件としてそれ以外は実施例1と同様にニトリル化合物の水和反応を行った。対応するベンズアミドへの転化率は96%であった。
<実施例9>
合成例1の銀微粒子触媒を用いてベンジルアルコールの酸化によるベンズアルデヒドの合成を行った。溶媒としてDMFを用い、触媒量(対ベンジルアルコール)30mol%、140℃、48hの条件とした。対応するベンズアルデヒドの生成を確認し、触媒活性を有することが認められた。
<比較例4>
銀微粒子触媒を添加しなかった以外は実施例9と同様に反応を行ったところ、対応するベンズアルデヒドの生成は確認されなかった。
<実施例10>
合成例1の銀微粒子触媒を用いてo-クロロニトロベンゼンの還元によるo-クロロアニリンの合成を行った。溶媒としてエタノールを用い、触媒量(対o-クロロニトロベンゼン)30mol%、140℃、24hの条件とした。反応はオートクレーブ(容量30mL)にエタノール5mLを加えて、容器内を水素ガスで置換して行った。対応するo-クロロアニリンの生成を確認し、触媒活性を有することが認められた。
<比較例5>
銀微粒子触媒を添加しなかった以外は実施例10と同様に反応を行ったところ、対応するo-クロロアニリンの生成は確認されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(式中、X1は(CH2)nCOOHまたはその塩、あるいは対応するカルボキシレートイオンを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。)で表される共有結合および配位結合から選ばれるいずれかの相互作用を有する銀微粒子からなる触媒。
【請求項2】
銀微粒子は、下記式(II):
【化2】

(式中、X2は(CH2)nCOOHを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。)で表されるジアゾニウム塩と、銀化合物とを、還元剤の存在下に極性溶媒中で反応させて得られたものである請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
有機化合物の水和反応、酸化反応、および還元反応から選ばれる少なくとも1種の反応に用いられる請求項1に記載の触媒。

【公開番号】特開2012−35198(P2012−35198A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177820(P2010−177820)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】