説明

銀微粒子並びに該銀微粒子を含有する導電性ペースト、導電性膜及び電子デバイス

【課題】 本発明は、低温焼成が可能な導電性ペースト等の原料として好適な、平均粒子径100nm未満の銀微粒子並びに該銀微粒子を含有する導電性ペースト、導電性膜及び電子デバイスに関する。
【解決手段】 銀塩錯体のアルコール溶液を還元剤溶液に添加して銀微粒子を還元析出させる溶剤反応系における銀微粒子の製造方法、銀塩錯体含有水溶液に還元剤含有水溶液を添加して銀微粒子を還元析出させる水性反応系における銀微粒子の製造方法及び還元液に硝酸銀水溶液を添加して銀微粒子を還元析出させる水性反応系における銀微粒子の製造方法において、反応から乾燥までの全ての工程を30℃以下の温度範囲で行なうことにより、平均粒子径(DSEM)が100nm未満であり、X線回折によるミラー指数(111)と(200)における結晶子径の比[結晶子径D(111)/結晶子径D(200)]が1.40以上の銀微粒子を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温焼成が可能な導電性ペーストの原料用として好適な、平均粒子径100nm未満の銀微粒子並びに該銀微粒子を含有する導電性ペースト、導電性膜及び電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの電極や回路パターンの形成は、金属粒子を含む導電性ペーストを用いて基板上に電極や回路パターンを印刷した後、加熱焼成して導電性ペーストに含まれる金属粒子を焼結させることにより行われているが、近年、その加熱焼成温度は低温化する傾向にある。
【0003】
例えば、電子デバイスの実装基板としては、一般に、300℃程度までの加熱が可能であり、耐熱性に優れているためポリイミド製フレキシブル基板が用いられているが、高価であるため、最近では、より安価なPET(ポリエチレンテレフタレート)基板やPEN(ポリエチレンナフタレート)基板が代替材料として検討されている。しかしながら、PET基板やPEN基板はポリイミド製フレキシブル基板と比較して耐熱性が低く、殊に、メンブレン配線板に用いられるPETフィルム基板は加熱焼成を150℃以下で行う必要がある。
【0004】
また、加熱焼成を200℃より更に低い温度で行うことができれば、ポリカーボネートや紙等の基板への電極や回路パターンの形成も可能となり、各種電極材等の用途が広がることが期待される。
【0005】
このような低温焼成が可能な導電性ペーストの原料となる金属粒子として、ナノメートルオーダーの銀微粒子が期待されている。その理由として、金属粒子の大きさがナノメートルオーダーになると表面活性が高くなり、融点が金属のバルクのものよりもはるかに低下するため、低い温度で焼結させることが可能になるためである。また、金属粒子の中でも銀微粒子はマイグレーションを起こしやすいという欠点はあるが、同程度の比抵抗を有する銅に比べて酸化し難いために取り扱いやすいことが挙げられる。
【0006】
また、ナノメートルオーダーの銀微粒子は低温で焼結が可能であると共に、一度焼結すると耐熱性が維持されるという、従来のはんだにはない性質を利用した鉛フリーのはんだ代替材料としても期待されている。
【0007】
これまでに、低温焼成が可能な銀微粒子として、サブミクロン以下の銀微粒子が提案されており、平均粒子径、結晶子径及び結晶子径に対する平均粒子径の比を限定した銀微粒子(特許文献1)、一次粒子径が0.07〜4.5μm、結晶子径が20nm以上である高結晶銀粉(特許文献2)、一次粒子の平均粒径0.05〜1.0μm、結晶子径20〜150nmの銀微粒子の製造方法(特許文献3)等が知られている。銀反応工程における温度範囲を限定した、一次粒子径が1〜100nmの範囲にある微小銀粒子含有組成物(特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−183072号公報
【特許文献2】特開2007−16258号公報
【特許文献3】特開2008−31526号公報
【特許文献4】特開2009−120949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前出特許文献1から特許文献3に開示されている銀微粒子は、いずれも平均粒子径及び結晶子径、BET比表面積値等が限定されてはいるが、X線回折によるミラー指数(111)と(200)における結晶子径の比[結晶子径D(111)/結晶子径D(200)]については考慮されておらず、後出比較例に示す通り、上記結晶子径D(111)/結晶子径D(200)]が1.40未満の場合には、良好な低温焼結性を有する銀微粒子を得ることが困難となる。また、結晶子径D(111)が20nmを超える場合には、銀微粒子の結晶子径が大きいため銀微粒子内部の反応性としては低いものとなり、低温焼結には不利となる。
【0010】
そこで、本発明は、低温焼成が可能な導電性ペーストの原料用として好適な、平均粒子径100nm未満の銀微粒子を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0012】
即ち、本発明は、平均粒子径(DSEM)が100nm未満であり、X線回折によるミラー指数(111)と(200)における結晶子径の比[結晶子径D(111)/結晶子径D(200)]が1.40以上であることを特徴とする銀微粒子である(本発明1)。
【0013】
また、本発明は、平均粒子径(DSEM)が30nm以上100nm未満である本発明1の銀微粒子である(本発明2)。
【0014】
また、本発明は、ミラー指数(111)における結晶子径D(111)が25nm以下である本発明1又は本発明2の銀微粒子である(本発明3)。
【0015】
また、本発明は、ミラー指数(200)における結晶子径D(200)が15nm以下である本発明1から本発明3のいずれかの銀微粒子である(本発明4)。
【0016】
また、本発明は、銀微粒子の粒子表面が分子量10,000以上の高分子化合物で被覆されている本発明1から本発明4のいずれかの銀微粒子である(本発明5)。
【0017】
また、本発明は、本発明1から本発明5の銀微粒子を含む導電性ペーストである(本発明6)。
【0018】
また、本発明は、本発明6の導電性ペーストを用いて形成された導電性膜である(本発明7)。
【0019】
また、本発明は、本発明7の導電性膜を有する電子デバイスである(本発明8)。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る銀微粒子は、X線回折によるミラー指数(111)と(200)における結晶子径の比[結晶子径D(111)/結晶子径D(200)]が1.40以上であることから、低温焼成が可能な導電性ペースト等の原料として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の構成をより詳しく説明すれば、次の通りである。
【0022】
まず、本発明に係る銀微粒子について述べる。
【0023】
本発明に係る銀微粒子は、平均粒子径(DSEM)が100nm未満であり、X線回折によるミラー指数(111)と(200)における結晶子径の比[結晶子径D(111)/結晶子径D(200)]が1.40以上であることを特徴とする銀微粒子である。
【0024】
本発明に係る銀微粒子の平均粒子径(DSEM)は100nm未満であり、好ましくは30nm以上100nm未満、より好ましくは35nm以上100nm未満である。平均粒子径(DSEM)が上記範囲にあることにより、これを用いて得られる電子デバイスのファイン化が容易となる。平均粒子径(DSEM)が30nm未満の場合には、銀微粒子の持つ表面活性が高くなり、その微細な粒子径を安定に維持するために多量の有機物等を付着させる必要があるため好ましくない。
【0025】
本発明に係る銀微粒子のX線回折によるミラー指数(111)と(200)における結晶子径の比[結晶子径D(111)/結晶子径D(200)]は1.40以上であり、好ましくは1.44以上、より好ましくは1.48以上である。結晶子径D(111)と結晶子径D(200)の比が1.40以上とすることにより、低温焼結性の優れた銀微粒子を得ることができる。
【0026】
本発明に係る銀微粒子のX線回折によるミラー指数(111)における結晶子径D(111)は25nm以下であることが好ましく、より好ましくは23〜10nm、更により好ましくは20〜10nmである。結晶子径D(111)が25nmを超える場合には、銀微粒子中の反応性が低下し、低温焼結性が損なわれてしまうため好ましくない。また、結晶子径D(111)が10nm未満の場合には、銀微粒子が不安定となり、常温においても部分的に焼結・融着が生じ始めるため好ましくない。
【0027】
本発明に係る銀微粒子のX線回折によるミラー指数(200)における結晶子径D(200)は15nm以下であることが好ましく、より好ましくは14nm以下、更により好ましくは13nm以下である。結晶子径D(200)は、[結晶子径D(111)/結晶子径D(200)]を1.40以上とするために、小さい方が好ましい。
【0028】
本発明に係る銀微粒子の低温焼結性は、後述する加熱による結晶子径の変化率[(150℃で30分間加熱後の銀微粒子の結晶子径/加熱前の銀微粒子の結晶子径)×100]によって評価を行い、150℃の加熱による結晶子径の変化率が150%以上であることが好ましく、より好ましくは160%以上である。結晶子径の変化率が150%未満の場合には、低温焼結性が優れているとは言いがたい。本発明においては、210℃で30分間加熱した場合、結晶子径の変化率は180%以上であることが好ましく、より好ましくは200%以上である。
【0029】
本発明に係る銀微粒子のBET比表面積値は、10m/g以下であることが好ましく、より好ましくは8m/g以下である。BET比表面積値が10m/gを超える場合、これを用いて得られる導電性ペーストの粘度が高くなるため好ましくない。
【0030】
本発明に係る銀微粒子の粒子形状は、球状もしくは粒状が好ましい。
【0031】
本発明に係る銀微粒子は、銀微粒子の粒子表面が分子量10,000以上の高分子化合物で被覆されていることが好ましい。分子量が10,000未満の場合、その後に行う粉砕処理において凝集塊が生じ、得られた銀微粒子は導電ペースト中での分散性が困難になるため好ましくない。また、高分子化合物の分子量の上限は、100,000程度であり、これ以上分子量が高くなると粘度が高くなり、銀微粒子表面への均一な処理が困難となる。銀微粒子表面への高分子化合物の処理の均一性及び処理効果を考慮すれば、酸性官能基と塩基性官能基の両方の官能基を有するものがより好ましい。
【0032】
次に、本発明に係る銀微粒子の製造方法について述べる。
【0033】
本発明に係る銀微粒子は、銀塩錯体のアルコール溶液を還元剤溶液に添加して銀微粒子を還元析出させる溶剤反応系における銀微粒子の製造方法、銀塩錯体含有水溶液に還元剤含有水溶液を添加して銀微粒子を還元析出させる水性反応系における銀微粒子の製造方法及び還元液に硝酸銀水溶液を添加して銀微粒子を還元析出させる水性反応系における銀微粒子の製造方法のいずれによっても得ることができるが、いずれの場合においても、反応から乾燥までの全ての工程を30℃以下の温度範囲で行なうことが重要である。
【0034】
溶剤反応系における銀塩錯体のアルコール溶液は、アルコール溶液中で硝酸銀と水溶性あるいは水可溶性であって炭素数2〜4の脂肪族アミンの1種類以上とを混合することにより得ることができる。脂肪族アミンは硝酸銀1モルに対して2.0〜2.5モルが好ましく、より好ましくは2.0〜2.3モルである。脂肪族アミンの量が硝酸銀1モルに対して2.0モル未満の場合には、大きな粒子が生成しやすい傾向がある。
【0035】
炭素数2〜4の脂肪族アミンとしては、水溶性あるいは水可溶性のものを用いることが肝要であり、具体的には、エチルアミン、n−プロピルアミン、iso−プロピルアミン、n−ブチルアミン、iso−ブチルアミン、等を用いることができるが、銀微粒子の低温焼結性及びハンドリング性を考慮すれば、n−プロピルアミン及びn−ブチルアミンが好ましい。
【0036】
溶剤反応系におけるアルコールとしては、水と相溶性のあるものを用いることができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロパノール等を用いることができ、好ましくはメタノール及びエタノールである。これらアルコールは単独でも混合して用いてもよい。
【0037】
溶剤反応系における還元剤溶液は、アスコルビン酸又はエリソルビン酸を水中に溶解するか、又はアスコルビン酸又はエリソルビン酸を水中に溶解させた後アルコールを添加し混合することにより得ることができる。アスコルビン酸又はエリソルビン酸は硝酸銀1モルに対して1.0〜2.0モルが好ましく、より好ましくは1.0〜1.8モルである。アスコルビン酸又はエリソルビン酸が硝酸銀1モルに対して2.0モルを超える場合には、生成した銀微粒子同士が凝集する傾向があるため好ましくない。
【0038】
溶剤反応系における還元剤溶液への銀塩錯体のアルコール溶液の添加は、上記銀塩錯体のアルコール溶液を還元液中に滴下することにより行なう。還元反応における反応温度は15〜30℃の範囲であり、より好ましくは18〜30℃である。反応温度が30℃を超える場合、結晶子径が大きくなるため好ましくない。また、滴下速度は3ml/分以下とすることが好ましい。滴下時間が短い場合には、粒子サイズ及び結晶子径が大きくなる傾向があり好ましくない。
【0039】
滴下終了後、1時間以上攪拌を続けた後、静置することにより銀微粒子を沈降させ、上澄み液をデカンテーションにより取り除いた後、アルコール及び水を用いて常法により濾過・水洗を行う。この時、濾液の電導度が60μS/cm以下になるまで洗浄を行う。
【0040】
洗浄した銀微粒子を温度30℃以下で乾燥、もしくは真空乾燥後、常法により粉砕することによって本発明の銀微粒子を得ることができる。乾燥温度が30℃を超える場合には、銀微粒子の結晶子径D(111)が大きくなるとともに、結晶子径D(111)/結晶子径D(200)の比が1.40未満となり、低温焼結性が損なわれるため好ましくない。
【0041】
水性反応系において、銀塩錯体含有水溶液に還元剤含有水溶液を添加して銀微粒子を還元析出させる銀微粒子の製造方法の場合、銀塩錯体含有水溶液と還元剤含有水溶液をそれぞれ予め調液しておく。
【0042】
銀塩錯体含有水溶液は、銀原料として硝酸銀もしくは酢酸銀と、純水、アンモニア水、アンモニウム塩又はキレート化合物等を混合することにより得ることができる。アンモニアの添加量としては、アンミン錯体におけるアンモニアの配位数が2であるため、銀1モルに対してアンモニアを2モル以上添加することが好ましい。生産安定性や得られる銀微粒子の粒度分布の改善を考慮すれば、アンモニアの添加量は銀1モル当たり4モル以上がより好ましく、更により好ましくは10モル以上である。
【0043】
上記水系還元剤としては、エリソルビン酸、アスコルビン酸、アルカノールアミン、ヒドロキノン、グルコース、ピロガロール、ヒドラジン、過酸化水素水及びホルムアルデヒドから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。得られる銀微粒子の導電性ペースト中における分散性向上の観点から、有機系還元剤を用いることが好ましく、より好ましくはエリソルビン酸又はアスコルビン酸である。
【0044】
水性反応系における還元剤の添加量は、銀1モルに対して1.0モル以上添加することが好ましく、より好ましくは1.0〜2.0モルである。殊に、還元剤としてアスコルビン酸又はエリソルビン酸を用いた場合、銀1モルに対して2.0モルを超える場合には、生成した銀微粒子同士が凝集する傾向があるため好ましくない。
【0045】
水性反応系において、還元液に硝酸銀水溶液を添加して銀微粒子を還元析出させる銀微粒子の製造方法の場合も、還元液と硝酸銀水溶液をそれぞれ予め調液しておく。
【0046】
水性反応系における硝酸銀水溶液は、硝酸銀とイオン交換水もしくは純水とを混合することにより得ることができる。水溶液中における硝酸銀の濃度は、0.08〜2.0mol/lの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.8mol/lである。
【0047】
水性反応系における還元液は、アンモニア水とイオン交換水もしくは純水及び還元剤を混合・攪拌することにより得ることができる。なお、還元液に用いる還元剤としては、前述の還元剤を用いることができる。
【0048】
還元剤の添加量は、銀1モルに対して1.0モル以上添加することが好ましく、より好ましくは1.0〜2.0モルである。殊に、還元剤としてアスコルビン酸又はエリソルビン酸を用いた場合、銀1モルに対して2.0モルを超える場合には、生成した銀微粒子同士が凝集する傾向があるため好ましくない。
【0049】
水性反応系における銀塩錯体含有水溶液、還元剤含有水溶液、還元液及び硝酸銀水溶液は、調液する際に、液温を18℃以下に保ち、銀塩錯体含有水溶液と還元剤含有水溶液又は還元液と硝酸銀水溶液を混合・攪拌する際にも液温が20℃を超えないよう調整することが好ましい。反応温度が20℃を超える場合には、銀微粒子の結晶子径D(111)が大きくなるとともに、結晶子径D(111)/結晶子径D(200)の比が1.40未満となり、低温焼結性が損なわれるため好ましくない。
【0050】
水性反応系における銀塩錯体含有水溶液への還元剤含有水溶液の添加又は還元液への硝酸銀水溶液の添加は、可能な限り短時間で行なうことが好ましく、より好ましくは20秒以内、更により好ましくは15秒以内である。銀塩錯体含有水溶液への還元剤含有水溶液の添加時間又は還元液への硝酸銀水溶液の添加時間が長くなると、生成した銀微粒子同士が凝集を起こし、粒子サイズが大きくなると共に、粒度分布が大きくなる傾向にある。
【0051】
水性反応系における銀塩錯体含有水溶液へ還元剤含有水溶液の添加後又は還元液への硝酸銀水溶液の添加後、生成した銀微粒子同士が凝集しないようゆるやかに攪拌・混合を行った後、常法により濾過・水洗を行う。この時、濾液の電導度が60μS/cm以下になるまで洗浄を行う。
【0052】
上記水性反応系において、得られた銀微粒子のケーキを親水性有機溶媒中に再分散させ、銀微粒子表面の水分を親水性有機溶媒に置換した後、常法により濾過した銀微粒子を、温度30℃以下で乾燥機もしくは真空乾燥を用いて乾燥を行う。乾燥温度が30℃を超える場合には、銀微粒子の結晶子径D(111)が大きくなるとともに、結晶子径D(111)/結晶子径D(200)の比が1.40未満となり、低温焼結性が損なわれるため好ましくない。銀微粒子表面の水分を親水性有機溶媒に置換することにより、乾燥後の銀微粒子同士が強固に凝集した状態になるのを防止することができ、その後の粉砕処理又は表面処理・粉砕処理等が容易になる。
【0053】
親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール及びアセトン等を用いることができる。乾燥による溶媒の除去を考慮すれば、メタノール及びエタノールが好ましい。
【0054】
いずれの製造方法においても、乾燥後の銀微粒子は、常法により粉砕することによって本発明の銀微粒子を得ることができる。
【0055】
本発明に係る銀微粒子は、粉砕処理前に、分子量10,000以上の高分子化合物によって表面処理をしておくことが好ましい。分子量10,000以上の高分子化合物による被覆量は、銀微粒子に対して0.2〜4重量%であることが好ましく、より好ましくは0.3〜3重量%である。高分子化合物による処理量が上記範囲にあることにより、粉砕処理による十分な処理効果を得ることができる。高分子化合物によって表面処理をしておくことにより、その後に行う粉砕処理において高い粉砕処理効果が得られ、より均一な粉砕処理が可能となる。一方、高分子化合物を銀微粒子の還元析出反応中に添加した場合は、処理量及び処理効果の均一性に問題があり、その後に行なう粉砕処理において凝集塊が生じ、得られた銀微粒子は導電ペースト中での分散性が困難になるため好ましくない。
【0056】
高分子化合物による銀微粒子の表面処理は、親水性有機溶媒による置換・乾燥後の銀微粒子を、高分子化合物を有機溶媒中に溶解させた高分子化合物溶液中に再分散させ、30〜300分間ゆるやかに攪拌した後、有機溶媒を除去し、30℃以下で乾燥機もしくは真空乾燥を用いて乾燥を行う。
【0057】
高分子化合物によって表面処理を行った銀微粒子の粉砕は、ジェット式粉砕機を用いることが好ましい。
【0058】
次に、本発明に係る銀微粒子を含む導電性ペーストについて述べる。
【0059】
本発明に係る導電性ペーストは、焼成型ペースト及びポリマー型ペーストのいずれの形態でもよく、焼成型ペーストの場合、本発明に係る銀微粒子及びガラスフリットからなり、必要に応じてバインダー樹脂、溶剤等の他の成分を配合してもよい。また、ポリマー型ペーストの場合、本発明に係る銀微粒子及び溶剤からなり、必要に応じて、バインダー樹脂、硬化剤、分散剤、レオロジー調整剤等の他の成分を配合してもよい。
【0060】
バインダー樹脂としては、当該分野において公知のものを使用することができ、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル等の各種変性ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。これらバインダー樹脂は、単独でも、又は2種類以上を併用することもできる。
【0061】
溶剤としては、当該分野において公知のものを使用することができ、例えば、テトラデカン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、アミルベンゼン、p−シメン、テトラリン及び石油系芳香族炭化水素混合物等の炭化水素系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコ−ルモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル又はグリコールエーテル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエステル系溶剤;メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;テルピネオール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール等のテルペンアルコール;n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶剤;γ−ブチロラクトン及び水等が挙げられる。溶剤は、単独でも、又は2種類以上を併用することもできる。
【0062】
導電性ペースト中の銀微粒子の含有量は用途に応じて様々であるが、例えば配線形成用途の場合などは可能な限り100重量%に近いことが好ましい。
【0063】
本発明に係る導電性ペーストは、各成分を、ライカイ機、ポットミル、三本ロールミル、回転式混合機、二軸ミキサー等の各種混練機、分散機を用いて、混合・分散させることにより得ることができる。
【0064】
本発明に係る導電性ペーストは、スクリーン印刷、インクジェット法、グラビア印刷、転写印刷、ロールコート、フローコート、スプレー塗装、スピンコート、ディッピング、ブレードコート、めっき等各種塗布方法に適用可能である。
【0065】
また、本発明に係る導電性ペーストは、FPD(フラットパネルディスプレイ)、太陽電池、有機EL等の電極形成やLSI基板の配線形成、更には微細なトレンチ、ビアホール、コンタクトホールの埋め込み等の配線形成材料として用いることができる。また、積層セラミックコンデンサや積層インダクタの内部電極形成用等の高温での焼成用途はもちろん、低温焼成が可能であることからフレキシブル基板やICカード、その他の基板上への配線形成材料及び電極形成材料として好適である。また、導電性被膜として電磁波シールド膜や赤外線反射シールド等にも用いることができる。エレクトロニクス実装においては部品実装用接合材として用いることもできる。
【0066】
<作用>
本発明において重要な点は、平均粒子径(DSEM)が100nm未満であり、X線回折によるミラー指数(111)と(200)における結晶子径の比[結晶子径D(111)/結晶子径D(200)]が1.40以上である銀微粒子は、低温焼成が可能であるという事実である。
【0067】
本発明に係る銀微粒子が低温焼結性に優れている理由は不明であるが、本発明者らが多数の実験を行なった結果、低温での焼結性に優れる銀微粒子は、いずれも結晶子径の比[結晶子径D(111)/結晶子径D(200)]が1.40以上の値を有することを見出した。これは、結晶子径D(111)と結晶子径D(200)の比が大きいほど結晶格子の歪みが大きく不安定であり、銀微粒子が活性であることを示しているものと考えられる。
【実施例】
【0068】
以下に、本発明における実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0069】
銀微粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡写真「S−4800」(HITACHI製)を用いて粒子の写真を撮影し、該写真を用いて粒子100個以上について粒子径を測定し、その平均値を算出し、平均粒子径(DSEM)とした。
【0070】
銀微粒子の比表面積は、「モノソーブMS−11」(カンタクロム株式会社製)を用いて、BET法により測定した値で示した。
【0071】
銀微粒子の結晶子径D(111)及び結晶子径D(200)は、X線回折装置「RINT2500」(株式会社リガク製)を用いて、CuのKα線を線源とした面指数(1,1,1)面及び(2,0,0)面のピークの半値幅を求め、Scherrerの式より結晶子径を計算した。
【0072】
銀微粒子のX線回折によるミラー指数(111)と(200)における結晶子径の比は、上述の結晶子径D(111)及び結晶子径D(200)を用い、[結晶子径D(111)/結晶子径D(200)]より求めた。
【0073】
銀微粒子の加熱による結晶子径の変化率(%)は、銀微粒子を150℃で30分間加熱した後の結晶子径D(111)と加熱前の銀微粒子の結晶子径D(111)を用いて、下記数1に従って算出した値である。尚、加熱条件を210℃で30分間と変えた場合も同様にして結晶子径の変化率を求めた。
【0074】
<数1>
結晶子径の変化率(%)=加熱後の銀微粒子の結晶子径/加熱前の銀微粒子の結晶子径×100
【0075】
導電性塗膜の比抵抗は、後述する導電性ペーストをポリイミドフィルム上に塗布し、120℃で予備乾燥した後、150℃、210℃及び300℃の各温度において30分間加熱硬化さることにより得られた導電性膜それぞれについて、4端子電気抵抗測定装置「ロレスタGP/MCP−T600」(株式会社三菱化学アナリテック製)を用いて測定し、シート抵抗と膜厚より比抵抗を算出した。
【0076】
<実施例1−1:銀微粒子の製造>
50Lの反応塔に還元剤としてエリソルビン酸739g(銀1molに対して1.5mol)、純水33.4L及びアンモニア水(25%)3,808g(銀1molに対して20mol)を加えた後、18℃以下となるよう冷却しながら混合・攪拌を行い、還元液を調整した。別に、20Lのポリ容器に硝酸銀475gと純水1,900gを加えた後、18℃以下となるよう冷却しながら混合・攪拌を行い、硝酸銀水溶液を調整した。
【0077】
次いで、反応系を20℃以下になるよう冷却しつつ、攪拌しながら硝酸銀水溶液を還元液に添加した(添加時間は10秒以下)。添加終了後、30分間攪拌した後、30分間静置して固形物を沈降させた。上澄み液をデカンテーションにより取り除いた後、ろ紙を用いて吸引ろ過し、続いて、純水を用いてろ液の電導度が38μS/cmになるまで洗浄・ろ過を行った。
【0078】
得られた銀微粒子のケーキをメタノール溶液中に再分散させ、銀微粒子表面の水分をメタノールに置換・濾過後、真空乾燥機中25℃で6時間乾燥した。次いで、得られた銀微粒子300gに対してメタノール溶液中に分散させた高分子化合物「DISPERBYK−106」(商品名:ビックケミー・ジャパン株式会社製)を4.2g添加し(銀微粒子に対して1.4重量%)、90分攪拌・混合した後、メタノールを蒸留除去した。次いで、真空乾燥機中25℃で6時間乾燥した後、ジェット式粉砕機により粉砕して実施例1−1の銀微粒子を得た。
【0079】
得られた銀微粒子の粒子形状は粒状、平均粒子径(DSEM)は86.0nm、結晶子径D(111)は15.4nm、結晶子径D(200)は9.5nm、D(111)/D(200)は1.62、BET比表面積値は2.9m/gであり、結晶子径の変化率(150℃×30分)は118%、結晶子径の変化率(210℃×30分)は145%であった。
【0080】
<実施例2−1:導電性ペーストの製造>
実施例1−1の銀微粒子100重量部に対してポリエステル樹脂11.0重量部及び硬化剤1.4重量部と、導電性ペーストにおける銀微粒子の含有量が70wt%となるようにジエチレングリコールモノエチルエーテルを加え、自転・公転ミキサー「あわとり練太郎 ARE−310」(株式会社シンキー社製、登録商標)を用いてプレミックスを行った後、3本ロールを用いて均一に混練・分散処理を行い、導電性ペーストを得た。
【0081】
上記で得られた導電性ペーストを膜厚50μmのポリイミドフィルム上に塗布し、120℃、210℃及び300℃でそれぞれ30分間加熱することにより導電性塗膜を得た。
【0082】
得られた導電性塗膜を120℃で30分間加熱処理した場合の比抵抗は1.5×10−5Ω・cmであり、210℃で30分間加熱処理した場合の比抵抗は6.8×10−6Ω・cmであり、300℃で30分間加熱処理した場合の比抵抗は3.1×10−6Ω・cmであった。
【0083】
前記実施例1−1及び実施例2−1に従って銀微粒子及び導電性ペーストを作製した。各製造条件及び得られた銀微粒子末及び電性ペーストの諸特性を示す。
【0084】
実施例1−2〜1−5及び比較例1−1〜1−2:
銀微粒子の生成条件を種々変更することにより、銀微粒子得た。
【0085】
このときの製造条件を表1に、得られた銀微粒子の諸特性を表4に示す。
【0086】
<実施例1−6:銀微粒子の製造>
50Lの反応塔に銀原料として硝酸銀475g及びアンモニア水(25%)3,808g(銀1molに対して20mol)を加えた後、8℃以下となるよう冷却しながら混合・攪拌を行い、銀塩錯体水溶液を調整した。別に、20Lのポリ容器に還元剤としてエリソルビン酸739g(銀1molに対して1.5mol)、と純水3,530gを加えた後、9℃以下となるよう冷却しながら混合・攪拌を行い、還元剤含有水溶液を調整した。
【0087】
次いで、反応系を10℃以下になるよう冷却しつつ、攪拌しながら還元剤含有水溶液を銀塩錯体水溶液に添加した(添加時間は10秒以下)。添加終了後、30分間攪拌した後、30分間静置して固形物を沈降させた。上澄み液をデカンテーションにより取り除いた後、ろ紙を用いて吸引ろ過し、続いて、純水を用いてろ液の電導度が15μS/cmになるまで洗浄・ろ過を行った。
【0088】
得られた銀微粒子のケーキをメタノール溶液中に再分散させ、銀微粒子表面の水分をメタノールに置換・濾過後、真空乾燥機中25℃で6時間乾燥した。次いで、得られた銀微粒子300gに対してメタノール溶液中に分散させた高分子化合物「DISPERBYK−106」(商品名:ビックケミー・ジャパン株式会社製)を4.2g添加し(銀微粒子に対して1.4重量%)、90分攪拌・混合した後、メタノールを蒸留除去した。次いで、真空乾燥機中25℃で6時間乾燥した後、ジェット式粉砕機により粉砕して実施例1−6の銀微粒子を得た。
【0089】
実施例1−7〜1−9及び比較例1−3〜1−4:
銀微粒子の生成条件を種々変更することにより、銀微粒子得た。
【0090】
このときの製造条件を表2に、得られた銀微粒子の諸特性を表4に示す。
【0091】
<実施例1−10:銀微粒子の製造>
2Lのビーカーに硝酸銀160gとメタノール800mLを加えた後、水浴にて冷却しながらn−ブチルアミン151.6gを添加した後、18℃以下となるよう冷却しながら混合・拌してA液を調製した。別に、5Lのビーカーにエリソルビン酸248.8gを量り取り、水1600mLを加え攪拌して溶解した後、メタノール800mLを加えて18℃以下となるよう冷却しながら混合・攪拌を行いB液を調製した。
【0092】
次いで、B液を攪拌し、反応系を20℃以下になるよう冷却しつつ、A液をB液に1時間20分かけて滴下した。滴下終了後、14時間攪拌した後、30分間静置して固形物を沈降させた。上澄み液をデカンテーションにより取り除いた後、ろ紙を用いて吸引ろ過し、続いて、メタノールと純水を用いて洗浄・ろ過した。
【0093】
得られた銀微粒子の固形物を真空乾燥機中30分で6時間乾燥した後、得られた銀微粒子24gに対してメタノール溶液中に分散させた高分子化合物「DISPERBYK−106」(商品名:ビックケミー・ジャパン株式会社製)を0.48g添加し(銀微粒子に対して2.0重量%)、90分攪拌・混合した後、メタノールを蒸留除去した。次いで、真空乾燥機中25℃で6時間乾燥した後、ジェット式粉砕機により粉砕して実施例1−10の銀微粒子を得た。
【0094】
このときの製造条件を表3に、得られた銀微粒子の諸特性を表4に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
【表3】

【0098】
【表4】

【0099】
<導電性塗料の製造>
実施例2−2〜2−13及び比較例2−1〜2−7:
銀微粒子の種類を種々変化させた以外は、前記実施例2−1の導電性塗料の作製方法に従って導電性塗料及び導電性膜を製造した。
【0100】
このときの製造条件及び得られた導電性塗膜の諸特性を表5に示す。
【0101】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明に係る銀微粒子は、X線回折によるミラー指数(111)と(200)における結晶子径の比[結晶子径D(111)/結晶子径D(200)]が1.40以上であることから、低温焼成が可能な導電性ペースト等の原料として好適である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径(DSEM)が100nm未満であり、X線回折によるミラー指数(111)と(200)における結晶子径の比[結晶子径D(111)/結晶子径D(200)]が1.40以上であることを特徴とする銀微粒子。
【請求項2】
平均粒子径(DSEM)が30nm以上100nm未満である請求項1記載の銀微粒子。
【請求項3】
ミラー指数(111)における結晶子径D(111)が25nm以下である請求項1又は請求項2記載の銀微粒子。
【請求項4】
ミラー指数(200)における結晶子径D(200)が15nm以下である請求項1から請求項3のいずれかに記載の銀微粒子。
【請求項5】
銀微粒子の粒子表面が分子量10,000以上の高分子化合物で被覆されている請求項1から請求項4のいずれかに記載の銀微粒子。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の銀微粒子を含む導電性ペースト。
【請求項7】
請求項6記載の導電性ペーストを用いて形成された導電性膜。
【請求項8】
請求項7記載の導電性膜を有する電子デバイス。

【公開番号】特開2013−28859(P2013−28859A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167368(P2011−167368)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】