説明

銀粉およびその製造方法

【課題】
還元剤としてヒドロキノン等の多価フェノールを使用せず、平均粒径D50が、が0.1μm以上、1μm未満であり、最大粒径Dmaxが、4μm以下である銀粉を製造することができる、銀粉の製造方法および銀粉を提供する。
【解決手段】
銀イオンを含有する水性反応系に還元剤を加えて銀粒子を還元析出させる銀粉の製造方法において、前記還元剤添加前の前記水性反応系に脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステルから選択される1種以上を添加し、かつ、前記還元剤添加後の前記水性反応系にキレート剤を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉およびその製造方法に関し、特に、積層コンデンサの内部電極や回路基板の導体パターンや、プラズマディスプレイパネル用基板の電極や回路などの電子部品に使用する導電性ペースト用の銀粉およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層コンデンサの内部電極、回路基板の導体パターン、太陽電池やプラズマディスプレイパネル(PDP)用基板の電極や回路などの電子部品に使用する導電性ペーストとして、銀粉をガラスフリットとともに有機ビヒクル中に加えて混練することによって製造される導電性ペーストが使用されている。このような導電性ペースト用の銀粉は、電子部品の小型化、導体パターンの高密度化、ファインライン化などに対応するため、粒径が小さく、粒度が揃っていることが要求されている。
【0003】
このような導電性ペースト用の銀粉を製造する方法としては、銀塩含有水溶液にアルカリまたは錯化剤を加えて、酸化銀含有スラリーまたは銀錯体含有水溶液を生成した後、還元剤を加えることにより銀粉を還元析出させ、その後に乾燥する方法が知られている。このような方法において、凝集が少なく分散性に優れた銀粉を生成するために、銀塩含有水溶液にアルカリまたは錯化剤を加えて、酸化銀含有スラリーまたは銀錯塩含有水溶液を生成し、還元剤を加えて銀粒子を還元析出させた後、銀含有スラリー溶液またはそのろ過中に分散剤として脂肪酸、脂肪酸塩、界面活性剤、有機金属化合物、キレート剤、高分子分散剤のいずれか1種以上を加えることにより、表面を分散剤で被覆した銀粉を生成する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
特許文献3には、銀イオンを含有する水性反応系に還元剤を加えて銀粒子を還元析出させる銀粉の製造方法において、銀粒子の還元析出前または還元析出後あるいは還元析出中に2種以上の分散剤を添加することにより、水溶性の高い有機溶剤を使用する導電性ペーストに適した表面水分量の銀粉を製造する方法が提案されている。
【0005】
特許文献4には、銀塩含有水溶液へ、アルカリまたは錯化剤を添加して、酸化銀含有スラリーまたは銀錯体含有水溶液を生成させた後、還元剤としてヒドロキノン等の多価フェノールを添加することにより、銀粉を還元析出させて、その後に乾燥させて、平均粒径の小さい銀粉を製造する方法が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−88206号公報
【特許文献2】特開2005−220380号公報
【特許文献3】特開2008−88453号公報
【特許文献4】特開平8−92612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者らの検討によると、特許文献1〜3に開示されている方法では、平均粒径が1μm未満である銀粉を得ることは困難であった。また、特許文献4に記載された、銀塩含有水溶液へアルカリ等を添加し、酸化銀含有スラリー等を生成させた後、還元剤としてヒドロキノン等の多価フェノールを添加して銀粉を還元析出させる方法では、分散性に優れた球状の銀粉を生成させることができるものの、ヒドロキノン等を含む排水が生成してしまい、排水処理に課題があることがわかった。つまり、ヒドロキノン等の多価フェノールを含む排水は難分解性であり、排水処理設備が大掛かりになる等の課題が生まれ、排水処理コストが高くなる課題が存在する。
【0008】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、還元剤としてヒドロキノン等の多価フェノールを使用せず、平均粒径D50が、が0.1μm以上、1μm未満であり、最大粒径Dmaxが、4μm以下である銀粉を製造することができる、銀粉の製造方法および銀粉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、銀イオンを含有する水性反応系に還元剤を加えて銀粒子を還元析出させる銀粉の製造方法において、前記還元剤添加前の前記水性反応系に脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステルから選択される1種以上(分散剤)を添加し、かつ、前記還元剤添加後の前記水性反応系にキレート剤を添加することにより、還元剤としてヒドロキノン等の多価フェノールを使用せず、平均粒径D50が、が0.1μm以上、1μm未満であり、最大粒径Dmaxが、4μm以下である銀粉を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明による銀粉の製造方法は、銀イオンを含有する水性反応系に還元剤を加えて銀粒子を還元析出させる銀粉の製造方法において、前記還元剤添加前の前記水性反応系に脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステルから選択される1種以上を添加し、かつ、前記還元剤添加後の前記水性反応系にキレート剤を添加することを特徴とする。この銀粉の製造方法において、前記脂肪酸が、プロピオン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、アクリル酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸の群より選択される1種以上であり、前記脂肪酸塩が、リチウム、ナトリウム、カリウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄、コバルト、マンガン、鉛、亜鉛、スズ、ストロンチウム、ジルコニウム、銀、銅と前記脂肪酸が塩を形成したもの群より選択される1種以上であることが好ましい。また、前記脂肪酸エステルが、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、エチレン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラノリン脂肪酸エステルの群より選択される1種以上であることが好ましい。なお、前記脂肪酸は、前記脂肪酸を含むエマルジョンであってもよく、前記脂肪酸塩は前記脂肪酸塩を含むエマルジョンであってもよく、前記脂肪酸エステルは、前記脂肪酸エステルを含むエマルジョンであってもよい。また、前記キレート剤が、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、セレナゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、1H−1,2,3−トリアゾール、2H−1,2,3−トリアゾール、1H−1,2,4−トリアゾール、4H−1,2,4−トリアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,5−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,3−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール、1,2,5−チアジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、1H−1,2,3,4−テトラゾール、1,2,3,4−オキサトリアゾール、1,2,3,4−チアトリアゾール、2H−1,2,3,4−テトラゾール、1,2,3,5−オキサトリアゾール、1,2,3,5−チアトリアゾール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール塩、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、グリコール酸、乳酸、オキシ酪酸、グリセリン酸、酒石酸、リンゴ酸、タルトロン酸、ヒドロアクリル酸、マンデル酸、クエン酸、アスコルビン酸の群より選択される1種以上であることが好ましい。前記還元剤は、アスコルビン酸、アルカノールアミン、水素化硼素ナトリウム、ヒドロキノン、ヒドラジンおよびホルマリンからなる群から選ばれる1種以上の還元剤であるのが好ましい。
【0011】
また、本発明による銀粉は、レーザー回折法による平均粒径D50が0.1μm以上、1μm未満であり、最大粒径Dmaxが、4μm以下であり、表面に脂肪酸およびキレート剤が付着したことを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明による導電性ペーストは、上記の銀粉を導体として用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、還元剤としてヒドロキノン等の多価フェノールを使用せず、平均粒径D50が、が0.1μm以上、1μm未満であり、最大粒径Dmaxが、4μm以下である銀粉を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による銀粉の製造方法の実施の形態では、銀イオンを含有する水性反応系に還元剤を加えて銀粒子を還元析出させる銀粉の製造方法において、前記還元剤添加前の前記水性反応系に脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステルから選択される1種以上を添加し、かつ、前記還元剤添加後の前記水性反応系にキレート剤を添加することにより、還元剤としてヒドロキノン等の多価フェノールを使用せず、平均粒径D50が、が0.1μm以上、1μm未満であり、最大粒径Dmaxが、4μm以下である銀粉を生成する。
【0015】
銀イオンを含有する水性反応系としては、硝酸銀、銀錯体または銀中間体を含有する水溶液またはスラリーを使用することができる。銀錯体を含有する水溶液は、アンモニア水、アンモニウム塩、キレート化合物などを硝酸銀水溶液に添加することにより生成することができる。銀中間体を含有するスラリーは、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどを硝酸銀水溶液に添加することにより生成することができる。これらの中で、硝酸銀水溶液にアンモニア水を添加して得られるアンミン錯体水溶液を使用することが好ましい。これにより、銀粉の粒径をより容易に適切な範囲にすることができる。
【0016】
アンモニア水を使用する場合、アンミン錯体中のアンモニアの配位数は2であるため、銀1モル当たりアンモニア2モル以上を添加する。また、アンモニアの添加量が多過ぎると錯体が安定化し過ぎて還元が進み難くなるので、アンモニアの添加量は銀1モル当たり8モル以下であるのが好ましい。なお、還元剤の添加量を多くするなどの調整を行なえば、アンモニアの添加量が8モルを超えても適当な粒径の球状銀粉を得ることは可能である。
【0017】
還元剤添加前の水性反応系に添加する脂肪酸(分散剤)として、プロピオン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、アクリル酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸などを挙げることができる。脂肪酸塩(分散剤)の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄、コバルト、マンガン、鉛、亜鉛、スズ、ストロンチウム、ジルコニウム、銀、銅などの金属と前記脂肪酸が塩を形成したものを挙げることができる。脂肪酸エステル(分散剤)の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、エチレン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラノリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。なお、前記脂肪酸は、前記脂肪酸を含むエマルジョンであってもよく、前記脂肪酸塩は前記脂肪酸塩を含むエマルジョンであってもよく、前記脂肪酸エステルは、前記脂肪酸エステルを含むエマルジョンであってもよい。銀に対して脂肪酸銀を形成しやすいという理由により、脂肪酸(分散剤)、脂肪酸塩(分散剤)として、オレイン酸、ステアリン酸およびそれらの塩、それらを含むエマルジョンを用いることが好ましい。脂肪酸エステル(分散剤)の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル(CCH(OH)CHOCOR)およびソルビタン脂肪酸エステルを含むエマルジョンが挙げられる。
【0018】
分散剤添加後の水性反応系に添加する還元剤としては、ヒドラジン、ヒドラジン化合物、ホルマリンを使用することができる。これらの還元剤を使用すれば、適当な粒径の銀粒子を得ることができる。還元剤の添加量は、銀の反応収率を上げるためには、銀に対して1当量以上にする必要がある。添加量の上限は特に限定されないが、過剰に投入しても、それによる効果はなく、例えば、10〜20当量の還元剤を添加してもよい。また、還元剤の添加方法については、銀粉の凝集を防ぐために、1当量/分以上の速さで添加するのが好ましい。この理由は明確ではないが、還元剤を短時間で投入することで、銀粒子の還元析出が一挙に生じて、短時間で還元反応が終了し、発生した核同士の凝集が生じ難いため、分散性が向上すると考えられる。したがって、還元剤の添加時間が短いほど好ましく、例えば、還元剤を100当量/分以上の速さで添加してもよく、また、還元の際には、より短時間で反応が終了するように反応液を攪拌するのが好ましい。
【0019】
還元剤添加前の水性反応系に添加するキレート剤として、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、セレナゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、1H−1,2,3−トリアゾール、2H−1,2,3−トリアゾール、1H−1,2,4−トリアゾール、4H−1,2,4−トリアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,5−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,3−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール、1,2,5−チアジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、1H−1,2,3,4−テトラゾール、1,2,3,4−オキサトリアゾール、1,2,3,4−チアトリアゾール、2H−1,2,3,4−テトラゾール、1,2,3,5−オキサトリアゾール、1,2,3,5−チアトリアゾール、インダゾール、ベンゾイミダゾールおよびベンゾトリアゾールとこれらの塩、あるいは、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、グリコール酸、乳酸、オキシ酪酸、グリセリン酸、酒石酸、リンゴ酸、タルトロン酸、ヒドロアクリル酸、マンデル酸、クエン酸、アスコルビン酸などを挙げることができる。銀イオンを含有する水性反応系において、液性に因らず水性反応系内に分散しやすいという理由により、キレート剤として、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾールのナトリウム塩、ベンゾトリアゾールのカリウム塩からなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0020】
上述したように、還元剤添加前に脂肪酸、脂肪酸の塩、脂肪酸エステルから選択される1種以上、還元剤添加後にキレート剤を、銀粒子の還元析出前および還元析出後のスラリー状の水生反応系に添加することにより、平均粒径が十分小さい銀粉を製造することができる。分散剤である脂肪酸、脂肪酸の塩、脂肪酸エステルから選択される1種以上とキレート剤を前述の順序およびタイミングで添加することにより、得られる銀粉の平均粒径が小さくなる理由は明らかではないが、本発明者らは、脂肪酸、脂肪酸の塩、脂肪酸エステルから選択される1種以上(分散剤)を還元剤添加前に添加しておくことにより、還元剤添加時に銀が析出するごく初期の段階で、水性反応系内で、脂肪酸、脂肪酸の塩、脂肪酸エステルから選択される1種以上(分散剤)が、銀析出時の核として機能することや、析出した銀の表面に前記分散剤が付着することにより、析出した銀の粒成長が抑制されることにより、還元後の銀粉の平均粒径が小さくなるものと推定している。また、還元剤添加後にキレート剤を添加することにより、得られる銀粉の凝集を抑制することができ、これにより、レーザー回折法による最大粒径Dmaxの値が過大でない銀粉を容易に得ることが可能になったと推定している。
【0021】
なお、分散剤、キレート剤の添加量は、水性反応系に含まれる銀の質量に対して0.05〜5質量%の間で銀粉が所望の特性になるように調整すればよく、また、各々の分散剤、キレート剤の添加量の比率は、銀粉が所望の特性になるように調整すればよい。
【0022】
得られた銀含有スラリーを濾過し、水洗することによって、銀に対して1〜200質量%の水を含み、流動性がほとんどない塊状のケーキが得られる。このケーキの乾燥を早めたり、乾燥時の凝集を防ぐために、ケーキ中の水を低級アルコールやポリオールなどで置換してもよい。このケーキを強制循環式大気乾燥機、真空乾燥機、気流乾燥装置などの乾燥機によって乾燥した後、解砕することにより、銀粉が得られる。解砕の代わりに、粒子を機械的に流動化させることができる装置に銀粒子を投入して、粒子同士を機械的に衝突させることによって、銀粉の粒子表面の凹凸や角ばった部分を滑らかにする表面平滑化処理を行ってもよい。また、解砕や平滑化処理の後に分級処理を行ってもよい。なお、乾燥、粉砕および分級を行うことができる一体型の装置((株)ホソカワミクロン製のドライマイスタや、ミクロンドライヤなど)を用いて乾燥、粉砕および分級を行ってもよい。
【0023】
このようにして得られた銀粉は、平均粒径D50が、が0.1μm以上、1μm未満であり、最大粒径Dmaxが、4μm以下である。なお、レーザー回折法による平均粒径が0.1μmより小さいと、ファインライン化への対応は可能であるが、粒子の活性が高く、銀粉を焼成型ペーストに使用する場合に500℃以上で焼成するには適さない。一方、レーザー回折法による平均粒径が1μmより大きくなると、電子部品の小型化、導体パターンの高密度化、ファインライン化などに十分対応できない場合がある。本発明によれば、平均粒径D50が、が0.1μm以上、1μm未満であり、最大粒径Dmaxが、4μm以下である銀粉を還元剤としてヒドロキノン等の多価フェノールを使用せずに得ることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明による銀粉およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0025】
[実施例1]
銀43.15gを含む硝酸銀水溶液3765gに、28質量%のアンモニア水132gを添加し、銀アンミン錯塩水溶液を得た。この銀アンミン錯塩水溶液の液温を25℃とした。ソルビタン脂肪酸エステルの濃度が、銀に対して0.1質量%となるように、ソルビタン脂肪酸エステル(CCH(OH)CHOCOR)0.043gを準備した。前記銀アンミン錯塩水溶液に、準備したソルビタン脂肪酸エステルを添加した後、濃度4.9質量%のヒドラジン水溶液132.85gを加えて、銀粒子を析出させた。ヒドラジン水溶液添加終了直後に、銀の量に対して2.1質量%のベンゾトリアゾールのNa塩を含有するベンゾトリアゾールNa塩水溶液を添加して銀含有スラリーを得た。得られた銀含有スラリーを濾過し、水洗し、ケーキを得た。
【0026】
得られたケーキを、真空乾燥機によって75℃で10時間乾燥し、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉を解砕し、所望の粒径の銀粉を得た。
【0027】
得られた銀粉について、タップ密度、レーザー回折法によるD10平均粒径D50、D90、最大粒径Dmax、BET比表面積を求めた。タップ密度は、タップ密度測定装置(柴山科学社製のカサ比重測定装置SS−DA−2)を使用し、銀粉試料15gを計量して20mLの試験管に入れ、落差20mmで1000回タッピングし、タップ密度=試料重量(15g)/タッピング後の試料容積(cm3)から算出した。レーザー回折法によるD10平均粒径D50(累積50質量%粒径)、D90、最大粒径Dmaxは、銀粉試料0.3gをイソプロピルアルコール30mLに加え、出力45Wの超音波洗浄器により5分間分散させ、マクロトラック粒度分布測定装置(ハネウエル(Honeywell)−日機装社製のマクロトラック粒度分布測定装置9320−HRA(X−100))を使用して測定した。BET比表面積は、BET比表面積測定器(カウンタークロム(Quanta
Chrome)社製のモノソーブ)を使用してBET1点法により測定した。その測定結果を表1に記す。
【0028】
【表1】

【0029】
[実施例2]
添加するアンモニア水の量を132gから90.0gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で銀粉の製造と測定をおこなった。その測定結果を表1に記す。
【0030】
[実施例3]
添加するキレート剤をベンゾトリアゾールのNa塩から、ベンゾトリアゾールに変更した以外は、実施例1と同様の方法で銀粉の製造と測定をおこなった。その測定結果を表1に記す。
【0031】
[実施例4]
添加する分散剤をソルビタン脂肪酸エステル0.043gから、市販のステアリン酸エマルジョン(ステアリン酸として銀に対して0.2質量%(0.086g)を含む量)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で銀粉の製造と測定をおこなった。その測定結果を表1に記す。
【0032】
[実施例5]
添加する還元剤を濃度4.9質量%のヒドラジン水溶液132.85gから、濃度27.4質量%のホルムアルデヒドを含むホルマリン300gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で銀粉の製造と測定をおこなった。その測定結果を表1に記す。
【0033】
実施例1〜5の銀粉製造に際して、生成した排水は無色透明であった。実施例1〜4のそれぞれについて、銀粉製造に際して生成した排水を40℃とし、攪拌しながら5L/min.のエアーを用いて2時間バブリングすることにより、当該排水中のヒドラジンが分解され、濃度は1pmm以下まで低下することを確認した。
尚、ヒドラジンの定量分析は、塩酸酸性下、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド溶液と混合し、吸光光度法(波長458nm)により行った。
実施例5の銀粉製造に際して、生成した排水は無色透明であった。実施例5について、銀粉製造に際して生成した排水は、RO膜を透過させることにより、ホルマリン濃度は10ppm以下まで低下することを確認した。
以上より、実施例1〜5によれば、レーザー回折法による平均粒径D50が0.1μm以上、1μm未満であり、最大粒径Dmaxが、4μm以下である銀粉が製造できると伴に、排水処理に関し大がかりな装置、複雑な操作が不要で、容易かつ簡便で低コストであることが確認された。
【0034】
[比較例1]
添加する還元剤を濃度4.9質量%のヒドラジン水溶液132.85gから、濃度4.8質量%のヒドロキノンを含む溶液483.12gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で銀粉の製造と測定をおこなった。その測定結果を表1に記す。
【0035】
比較例1の銀粉製造に際して、生成した黒色の排水は、エアーのバブリングや、酸化剤等の薬品を使用しても分解することができなかった。そこで、蒸発濃縮を試みたが、燃料コストが高価なだけでなく、濃縮分がタール状となり処理困難となることがわかった。また、RO膜を透過させても十分除去できなかった。
次に、微生物処理を試みたが、ヒドロキノン自身の有害性が高いため、かなりの低濃度にしないかぎり微生物が死滅し、処理することができなかった。
さらに、焼却処理を試みたところ、排水処理可能であったが、処理コストが高価となり、銀粉製造コストの増加をもたらすと考えられた。
【0036】
[比較例2]
銀43.20gを含む硝酸銀水溶液3695gに、28質量%のアンモニア水132gを添加し、銀アンミン錯塩水溶液を得た。この銀アンミン錯塩水溶液の液温を25℃とした。コラーゲンペプチド(ゼライス社製のNCG−10)の濃度が銀に対して0.1質量%となるように、コラーゲンペプチド0.043gを溶解した水溶液を準備した。前記銀アンミン錯体水溶液に、準備したコラーゲンペプチドを添加した後、濃度4.9質量%のヒドラジン水溶液133.2gを加えて銀粒子を析出させた。ヒドラジン添加終了直後に、銀の量に対して0.4質量%のオレイン酸を添加して、銀含有スラリーを得た。この得られたスラリーを使用した以外には、実施例1と同様の方法で銀粉の製造と測定をおこなった。その測定結果を表1に記す。得られた銀粉のD50およびDmaxは、実施例で得られた銀粉と比較して大きいものであった。

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、電子部品の小型化、導体パターンの高密度化、ファインライン化などに対応することが可能である、レーザー回折法による平均粒径D50が0.1μm以上、1μm未満であり、最大粒径Dmaxが、4μm以下である銀粉を提供することができる。また、還元剤としてヒドロキノン等の多価フェノールを使用しない前記銀粉の製造方法を提供する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオンを含有する水性反応系に還元剤を加えて銀粒子を還元析出させる銀粉の製造方法において、前記還元剤添加前の前記水性反応系に脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステルから選択される1種以上を添加し、かつ、前記還元剤添加後の前記水性反応系にキレート剤を添加することを特徴とする、銀粉の製造方法。
【請求項2】
前記脂肪酸が、プロピオン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、アクリル酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸の群より選択される1種以上であり、前記脂肪酸塩が、リチウム、ナトリウム、カリウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄、コバルト、マンガン、鉛、亜鉛、スズ、ストロンチウム、ジルコニウム、銀、銅と前記脂肪酸が塩を形成したものの群より選択される1種以上であり、前記脂肪酸エステルがソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、エチレン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラノリン脂肪酸エステルの群より選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の銀粉の製造方法。
【請求項3】
前記キレート剤が、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、セレナゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、1H−1,2,3−トリアゾール、2H−1,2,3−トリアゾール、1H−1,2,4−トリアゾール、4H−1,2,4−トリアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,5−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,3−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール、1,2,5−チアジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、1H−1,2,3,4−テトラゾール、1,2,3,4−オキサトリアゾール、1,2,3,4−チアトリアゾール、2H−1,2,3,4−テトラゾール、1,2,3,5−オキサトリアゾール、1,2,3,5−チアトリアゾール、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール塩、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、グリコール酸、乳酸、オキシ酪酸、グリセリン酸、酒石酸、リンゴ酸、タルトロン酸、ヒドロアクリル酸、マンデル酸、クエン酸、アスコルビン酸の群より選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の銀粉の製造方法。
【請求項4】
前記脂肪酸が、オレイン酸またはステアリン酸であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【請求項5】
前記脂肪酸エステルが、ソルビタン脂肪酸エステルであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【請求項6】
前記キレート剤が、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾールのナトリウム塩、ベンゾトリアゾールのカリウム塩からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【請求項7】
前記還元剤が、ヒドラジンまたはホルマリンであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【請求項8】
レーザー回折法による平均粒径D50が0.1μm以上、1μm未満であり、最大粒径Dmaxが、4μm以下であり、表面に脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステルから選択される1種以上と、キレート剤が付着したことを特徴とする銀粉。
【請求項9】
請求項8に記載の銀粉を導体として用いたことを特徴とする、導電性ペースト。

【公開番号】特開2011−68932(P2011−68932A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219705(P2009−219705)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】