銀粉の製造方法
【課題】難処理排水を発生させず、球状かつ高分散で粒径の揃った導電性ペースト用の銀粉の製造方法を提供する。
【解決手段】銀イオンを含有する水性反応系に還元剤としてヒドラジンを混合し、銀粒子を析出させるとともに、この銀粒子の還元析出前または還元析出中の反応系に第一アミンおよび/または第二アミンを有する高分子アミンを混合する。
【解決手段】銀イオンを含有する水性反応系に還元剤としてヒドラジンを混合し、銀粒子を析出させるとともに、この銀粒子の還元析出前または還元析出中の反応系に第一アミンおよび/または第二アミンを有する高分子アミンを混合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉の製造方法に関し、積層コンデンサの内部電極や回路基板の導体パターン、プラズマディスプレイパネル用基板の電極や回路などの電子部品に使用する導電性ペースト用に好適な銀粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層コンデンサの内部電極、回路基板の導体パターン、太陽電池やプラズマディスプレイパネル(PDP)用基板の電極や回路などの電子部品に使用する導電性ペーストとして、銀粉をガラスフリットとともに有機ビヒクル中に加えて混練することによって製造される導電性ペーストが使用されている。当該導電性ペースト用の銀粉は、電子部品の小型化、導体パターンの高密度化、ファインライン化などに対応するため、粒径が適度に小さく、粒度が揃い、高い分散性を有することが要求されている。導体パターンの形成方法としては、スクリーン印刷方式、感光方式、オフセット方式等あるが、中でも、PDPに使用される導電性ペーストにおいては、感光性の樹脂を使用した導電ペーストに紫外線を照射させて感光させることにより配線パターンを形成する感光方式が主流である。このため、当該導電ペーストに使用される銀粉は、紫外線を乱反射させないよう、特に表面が滑らかな球状の銀粉が要求される。
【0003】
このような導電性ペースト用の銀粉を製造する方法としては、銀塩含有水溶液へ、アルカリまたは錯化剤を添加して、酸化銀含有スラリーまたは銀錯体含有水溶液を生成させた後、還元剤としてヒドロキノン等の多価フェノールを添加することにより、銀粉を還元析出させて、その後に乾燥させる方法が知られている(特許文献1、非特許文献1)。
【0004】
また、銀塩含有水溶液にアルカリまたは錯化剤を添加して、酸化銀含有スラリーまたは銀錯体含有水溶液を生成した後、還元剤としてアスコルビン酸等を加えることにより、球状の銀粉を製造する方法も知られている(特許文献2、非特許文献2)。
【0005】
一方で、ヒドラジンを還元剤とした銀粉の製法についても知られている。ヒドラジンを還元剤とした銀粉の製法は、ヒドラジンの分解性が良いため、排水処理は比較的容易である。しかし、製造される銀粉は凝集したサブミクロン粒子や、角ばったミクロンサイズ粒子の混合物となり易い。そこで、製造される銀粉の粒径制御性や分散性を向上させる目的で、ビニル系高分子化合物を添加する銀微粉末を製造方法が知られている(特許文献3)。
【0006】
また、レドックス還元法を用い、還元剤として3価のチタニウムイオンを使用することで還元剤を再利用することが出来る銀粉の製造方法についても知られている(特許文献4)。
【0007】
【特許文献1】特開平8−92612号公報
【特許文献2】特開平6−122905号公報
【特許文献3】特開昭63−213606号公報
【特許文献4】特開2005−42135号公報
【非特許文献1】資源と素材110(1994),No.14,P.1121〜1126
【非特許文献2】環境浄化のための除害と回収 化学工業社 (1999),P.321〜323
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、本発明者らの検討によると、特許文献1、非特許文献1に記載された、銀塩含有水溶液へアルカリ等を添加し、酸化銀含有スラリー等を生成させた後、還元剤としてヒドロキノン等の多価フェノールを添加して銀粉を還元析出させる方法では、分散性に優れた球状の銀粉を生成させることができるものの、ヒドロキノン等を含む排水が生成してしまい、排水処理が課題となることに想到した。つまり、ヒドロキノン等の多価フェノールを含む排水は難分解性であり、排水処理設備が大掛かりになる等の課題が生まれ、排水処理コストが高くなる。
【0009】
また、特許文献2、非特許文献2に記載された、銀塩含有水溶液にアルカリ等を添加し、酸化銀含有スラリー等を生成した後、還元剤としてアスコルビン酸等を添加して球状の銀粉を製造する方法では、排水としてアスコルビン酸の分解物を含む褐色の難処理排水が発生する。この場合も、排水処理設備が大掛かりになる等の課題が生まれ、排水処理コストが高くなる。
すなわち、球状で表面が滑らかな銀粉を製造できるいずれの方法を採っても、排水処理設備が大掛かりになる為、銀粉の生産性を上げる際の障害になる上、高価な排水処理コストが、銀粉の製造コストアップに結びつくことが課題であった。
【0010】
一方で、特許文献3に記載されたヒドラジンを還元剤とした銀粉の製法でも、球状で表面が滑らかな銀粉を得ることはできていない。
また、特許文献4に記載された還元剤に3価のチタニウムイオンを使用することで還元剤を再利用することができるレドックス還元法は、還元剤を再利用可能なため排水処理の負荷は低減され、粒径が数10〜100nmの微粒子を作成することができる。さらに、特許文献4には、分散剤としてポリエチレンイミンを使用することが開示されている。しかしながら、この方法で得られる銀粉の形状は球状ではなく、形状が球状で表面が滑らかな銀粉を得ることはできていない。
【0011】
結局、球状で表面が滑らかな銀粉を製造可能な方法では、高価な排水処理コストが銀粉の製造コストを高いものにしていた。他方、排水処理コストを抑制できる製造方法の場合は、球状で表面が平滑な銀粉を製造することができない。即ち、球状で表面が滑らかな銀粉を得ること、排水処理コストを抑制して当該銀粉の製造コストを抑制すること、の両立ができないという問題があった。
【0012】
本発明は、このような状況の下でなされた発明であり、上述したPDP用途にも使用可能な表面が滑らかで球状を有する導電性ペースト用の銀粉を、難処理排水を生成することなく製造することの出来る製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、銀イオンを含有する水性反応系に還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる反応において、当該銀粒子の還元析出前または還元析出中に、予め、高分子アミンを存在させることで、還元剤としてはエアーのバブリングで分解可能なものを用いても、表面が滑らかな球状で、なおかつ高分散で粒径の揃った導電性ペーストに適した銀粉を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
尚、本発明において、硝酸銀、銀錯体または銀中間体を含有する水溶液等の銀イオンを含有する水溶液、および、当該銀イオンを含有する水溶液であって、さらに含銀スラリーを含むもののことを、「銀イオンを含有する水性反応系」と記載する場合がある。
【0014】
即ち、上述の課題を解決するための第1の手段は、
銀イオンを含有する水性反応系へ、還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる銀粉の製
造方法であって、
前記還元剤として、エアーのバブリングで分解可能なものを用い、
前記銀粒子の還元析出前または還元析出中に、第一アミンおよび/または第二アミンを有する高分子アミンを添加することを特徴とする銀粉の製造方法である。
【0015】
第2の手段は、
前記還元剤が、ヒドラジンであることを特徴とする第1の手段に記載の銀粉の製造方法である。
【0016】
第3の手段は、
前記高分子アミンが、イミン化合物であることを特徴とする第1または第2の手段に記載の銀粉の製造方法である。
【0017】
第4の手段は、
前記高分子アミンが、ポリエチレンイミンであることを特徴とする第1または第2の手段に記載の銀粉の製造方法である。
【0018】
第5の手段は、
前記高分子アミンが、ポリアリルアミンであることを特徴とする第1または第2の手段に記載の銀粉の製造方法である。
【0019】
第6の手段は、
前記高分子アミンが、ポリリジンであることを特徴とする第1または第2の手段に記載の銀粉の製造方法である。
【0020】
第7の手段は、
前記高分子アミンの分子量が1000以上であることを特徴とする第1から第6の手段のいずれかに記載の銀粉の製造方法である。
【0021】
第8の手段は、
前記高分子アミンの添加量が、銀の仕込量に対して、0.2質量%以上であることを特徴とする第1から第7の手段のいずれかに記載の銀粉の製造方法である。
【0022】
第9の手段は、
前記銀イオンを含有する水性反応系が、銀のアンミン錯体を含有する水溶液であることを特徴とする第1から第8の手段のいずれかに記載の銀粉の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、表面が滑らかな球状の導電性ペースト用の銀粉を、難処理排水を発生させることなく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係る銀粉の製造方法について、1.銀イオンを含有する水性反応系、2.還元剤、3.高分子アミン、4.銀イオンを含有する水性反応系への還元剤および高分子アミンの添加方法、5.効果、の順に説明する。
【0025】
〈1.銀イオンを含有する水性反応系〉
銀イオンを含有する水性反応系とは、上述したように、硝酸銀、銀錯体または銀中間体を含有する水溶液等の銀イオンを含有する水溶液、および、当該銀イオンを含有する水溶液のことをいう。そして、本発明においては、これらの銀イオンを含有する水性反応系を
銀の供給元として用いることが出来る。
【0026】
具体例として、銀錯体を含有する水溶液は、アンモニア水、アンモニウム塩を硝酸銀水溶液もしくは酸化銀懸濁液に添加することにより生成することができる。中でも、硝酸銀水溶液にアンモニア水を添加して得られる銀アンミン錯体水溶液は、生成する銀粉が適当な粒径と球形状とを有するので、好ましい構成である。尚、当該銀アンミン錯体中におけるアンモニアの配位数は2であるため、銀1モル当たりアンモニア2モル以上を添加することが望ましい。アンモニアの添加量の上限については特に限定されないが、添加量を増やすにつれ原料のコストアップとなる。当該原料コストの観点からは、得ようとする銀粉の粒径に応じた銀アンミン錯体の適度な安定性を得るために、必要な量を添加すれば良い。例えば、銀1モル当たりアンモニア4モルを添加すれば、必要な銀アンミン錯体の安定性を得ることができる。
【0027】
〈2.還元剤〉
本発明に係る還元剤としては、生成した排水が簡易な設備で処理が可能で、排水処理コストを引き上げることのない還元剤を用いることが肝要である。即ち、エアーのバブリング等の簡便な排水処理で分解可能なものを用いる。好ましい具体例としては、ヒドラジンを挙げることが出来る。尚、銀の反応収率を上げる観点から、還元剤量は、銀に対して1当量以上添加する必要がある。
【0028】
〈3.高分子アミン〉
本発明に係る高分子アミンは、第一アミン(−NH2)、第二アミン(=NH)のいずれか一つ、または、両者を共に有する高分子のことである。そして、本発明に係る高分子アミンは、還元剤として上述した排水処理が容易なものを用いた場合であっても、生成する銀の粒子形状を球状に制御する効果を発揮する。
本発明に係る高分子アミンによって、球状で分散性の高い銀の粒子が得られる詳細な理由は明らかではないが、当該高分子アミンが有する第一アミンおよび/または第二アミンと、当該高分子アミンの大きな分子長とが、生成する銀の粒子形状を球状に制御するのであると考えられる。具体的には、第一アミンおよび/または第二アミンが、銀イオンと錯体を形成することで当該銀イオンの還元速度を適度に緩和すること、および、高分子アミンの大きな分子長が粒子同士の結合を抑制すること、によると考えられる。
ここで、本発明に係る好ましい高分子アミンの具体例としては、アミノ化合物、イミン化合物が挙げられる。中でもポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリリジンが好ましい。特に、イミン化合物であるポリエチレンイミンは、その構造が分子中に第一アミンおよび第二アミンの両者を共に有する網状構造であり、本発明において好ましい結果を与える。
【0029】
当該高分子アミンの分子量については、生成する銀粉の粒子形状を球状化し、表面を滑らかにするために、平均分子量1000以上、100,000以下の高分子アミンを用いることが好ましい。高分子アミンの平均分子量が1000以上あれば、得られる銀粉の形状を球状で表面が滑らかにする効果が十分に得られ、平均分子量100,000以下であれば、当該高分子アミンを含有する液の粘性が高くなり過ぎず、取扱いが容易だからである。さらに、当該高分子アミンとしては、平均分子量1000以上のポリエチレンイミンまたはポリアリルアミンが好ましい。一般に入手可能なポリエチレンイミンの平均分子量の上限値は70,000である。そして、当該平均分子量70,000のポリエチレンイミンは、銀粉の粒子形状を球状化し表面を滑らかにする効果を発揮すると同時に、当該ポリエチレンイミンを含有する液の粘性が高くなり過ぎることもない。従って、銀イオンを含有する水性反応系に溶解可能な限り、ポリエチレンイミンの平均分子量の上限は、特に限定されない。
【0030】
当該高分子アミンの添加量は、銀の仕込量に対して0.2質量%以上あれば生成する銀の粒子形状を球状に制御することが出来る。一方、銀イオンを含有する水性反応系に溶解可能な限り、特に添加量の上限値は規定されない。尚、銀の仕込量とは、前記銀イオンを含有する水性反応系に投入された、銀化合物中の銀含有量のことである。
【0031】
〈4.銀イオンを含有する水性反応系への還元剤および高分子アミンの添加方法〉
銀イオンを含有する水性反応系への還元剤の添加方法については、生成する銀粉の粒径を揃え、かつ凝集を防ぐために、1当量/min以上の速度で添加することが好ましい。当該添加速度が効果を発揮する理由は明確ではないが、還元剤を短時間で投入することで銀粉粒子の還元析出が一挙に生じ、短時間で還元反応が終了するため、発生した銀粉粒子の核同士の凝集が生じ難くなり、分散性が向上するのではないかと考えられる。したがって、還元剤の添加速度は速いほど好ましく、例えば100当量/min以上の速度であっても良い。また、還元の際には、より短時間で反応を終了させる観点から反応液を攪拌することが好ましい。
【0032】
銀イオンを含有する水性反応系への高分子アミンの添加方法としては、上述した還元剤による還元前に銀イオンを含有する水性反応系へ予め添加していても良いし、高分子アミンと還元剤とを予め混合しておき、当該混合物を銀イオン含有水性反応系へ添加しても良く、特に限定されない。
【0033】
また、必要に応じて、表面処理剤を併用することも好ましい構成である。表面処理剤としては、脂肪酸、脂肪酸塩、界面活性剤、有機金属、キレート剤、高分子分散剤等を使用することができる。
【0034】
〈5.効果〉
銀イオンを含有する水性反応系への、還元剤および高分子アミンの添加により得られた銀粉含有スラリーを、濾過、水洗することによって、銀に対して1〜200質量%の水を含み、流動性がほとんどない塊状のケーキが得られる。尚、当該ケーキの乾燥を早めるために、ケーキ中の水分を低級アルコール等で置換してもよい。当該ケーキを、強制循環式大気乾燥機、真空乾燥機、気流乾燥装置等の乾燥機で乾燥することにより本発明に係る銀粉が得られる。また、必要に応じて、乾式解砕処理や、特開2005−240092号公報に記載されているような分級処理を行ってもよい。なお、乾燥、解砕および分級を行なうことができる一体型の装置((株)ホソカワミクロン製のドライマイスタや、ミクロンドライヤなど)を用いて乾燥、粉砕、分級を行なってもよい。
【0035】
上述の操作を行って得られた銀粉は、表面が滑らかな球状であり、感光性方式をはじめとしたPDP用途に使用する導電性ペースト用の銀粉として適したものであった。
そして、上述の銀粉含有スラリーを、濾過、水洗することによって生成した排水は、流量1〜10L/min程度のエアーのバブリングを1〜5時間程度行うことで、ヒドラジン濃度が1ppm以下となり、容易に分解可能あった。なお、ヒドラジンの分解を促進させるため、エアレーション時のアルカリ調整や加温も有効である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について、実施例を参照しながら詳細に説明する。
(実施例1)
銀を5.4g含む硝酸銀水溶液3940gに、28質量%のアンモニア水12.2g(銀に対して2.0当量相当)を添加し、銀アンミン錯塩水溶液を得た。
この銀アンミン錯塩水溶液の液温を25℃とし、含有される銀の質量に対して0.5質量%のポリエチレンイミン(和光純薬製試薬、平均分子量10,000)を添加した後で、7.7質量%のヒドラジン水溶液を8.8g(銀に対して1.2当量相当)加えて、銀
粒子を含有するスラリーを析出させた。当該製造条件を表1に示す。
以下同様に、実施例2〜9、比較例1〜6においても製造条件を表1に示す。
【0037】
このようにして得られた銀含有スラリーを濾過、水洗し、ケーキを得た。ケーキより銀粉を少量サンプリングし、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、銀粉形状として表面の平滑性の測定と粒子形状との観察を行うと伴に、湿式のレーザー回折式粒度分布の評価を行った。
一方、得られたケーキを75℃の真空乾燥機で10時間乾燥させ、乾燥した銀粉を得た。当該乾燥銀粉に対し、BET比表面積測定および乾式レーザー回折式粒度分布測定を行った。
【0038】
ここで、表面の平滑性の測定と粒子形状の観察は、SEM(日本電子製JSM−6100)を使用し、10000倍にて観察を行った。当該SEM写真を図1に示す。そして、当該SEM観察の結果を、後述する比較例2と比較しながら評価した。以下、実施例2〜9、比較例1〜6においても同様である。
【0039】
湿式レーザー回折式の粒度分布測定は、銀粉0.3gをイソプロピルアルコール30mLに入れ、出力50Wの超音波洗浄器により5分間分散させ、マイクロトラック粒度分布測定装置(ハネウエル(Haneywell)−日機装製9320HRA(X−100))を用いて測定した。当該測定結果を図2に示す。図2は、横軸に粒径、縦軸に頻度(%)と累積(%)とをとったグラフであり、棒グラフで頻度を示し、折れ線グラフで累積を示した。そして、累積10質量%粒径をD10、累積50質量%粒径をD50、累積90質量%粒径をD90と表記したものである。
以下、実施例2〜9、比較例1〜5においても同様である。
【0040】
BET比表面積は、モノソーブ(カウンタクローム(Quanta Chrome)社製)を用いて窒素吸着によるBET1点法で測定した。尚、当該BET比表面積測定において、測定前の脱気条件は60℃、10分間とした。以下、実施例2〜9、比較例1〜5においても同様である。
【0041】
乾式レーザー回折式の粒度分布測定は、粒度分布測定装置(Sympatec−日本レーザー製、Helos&Rodos)を使用し、分散圧4bar、測定レンズR1にて測定した。当該測定結果を図3に示す。図3は、横軸に粒径、縦軸に頻度分布をとったグラフである。以下、実施例2〜9、比較例1〜5においても同様である。
【0042】
評価、測定結果について説明する。
SEM写真(図1)より、ケーキを構成する銀粉の表面の平滑性と粒子形状は、表面が滑らかで、粒径の揃った球状であり、高分散の銀粉が生成していることが確認できた。
湿式の粒度分布測定結果(図2)より、D10=0.73μm、D50=1.10μm、D90=1.95μmであった。このことから、粒度分布のバラツキを表す(D90−D10)/D50は1.1であり、粒度分布が非常にシャープであること(粒径が揃っていること)が確認できた。
BET比表面積は0.56m2/gであった。
乾式の粒度分布(図3)より、乾燥後の銀粉において、D10=0.31μm、D50=1.19μm、D90=1.93μmであった。このことから、(D90−D10)/D50=1.36であり、乾燥後の銀粉においても、粒度分布がシャープであることが確認できた。
【0043】
上述の銀粉製造に際して、生成した排水は無色透明であった。当該排水を40℃とし、攪拌しながら5L/min.のエアーを用いて2時間バブリングすることにより、当該排
水中のヒドラジンが分解され、濃度1pmm以下まで低下することを確認した。
尚、ヒドラジンの定量分析は、塩酸酸性下、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド溶液と混合し、吸光光度法(波長458nm)により行った。
以上より、実施例1によれば、優れた特性を有する銀粉が製造できると伴に、排水処理に関し大がかりな装置、複雑な操作が不要で、容易かつ簡便で低コストであることが確認された。
当該評価結果を表2に示す。以下、実施例2〜9、比較例1〜6においても同様に評価結果を表2に示す。
【0044】
(実施例2)
銀を43.2g含む硝酸銀水溶液3950gに、28質量%のアンモニア水97.3g(銀に対して2.0当量相当)を添加し、銀アンミン錯塩水溶液を得た。
この銀アンミン錯塩水溶液の液温を25℃とし、含有される銀の量に対して0.5質量%のポリエチレンイミン(和光純薬製試薬、平均分子量10,000)を添加した後で、7.7質量%のヒドラジン水溶液を78.1g(銀に対して1.2当量相当)加えて、銀粒子を析出させた。
【0045】
このようにして得られた銀含有スラリーを濾過、水洗し、ケーキを得た。ケーキより銀粉を少量サンプリングし、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、銀粉形状として表面の平滑性の測定と粒子形状との観察を行った。
一方、得られたケーキを75℃の真空乾燥機で10時間乾燥させ、乾燥した銀粉を得た。乾燥した銀粉をコーヒーミルにて解砕し、当該乾燥銀粉に対し、BET比表面積測定、湿式のレーザー回折式粒度分布測定および乾式レーザー回折式粒度分布測定を行った。
【0046】
得られた実施例2に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図4、湿式粒度分布を図5、乾式粒度分布を図6に示す。
SEM写真より、実施例2に係る銀粉は、形状は球状で表面が非常に滑らかであり高分散であることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.25m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=2.48μm、D50=4.49μm、D90=8.35μm、(D90−D10)/D50=1.31であり、乾式粒度分布は、D10=2.09μm、D50=4.36μm、D90=6.98μm、(D90−D10)/D50=1.12であった。この結果、実施例2に係る銀粉は、粒度分布がシャープであることが確認できた。
【0047】
実施例2に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例2に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0048】
(実施例3)
ポリエチレンイミン量を、含有される銀の質量に対して1.0質量%とした以外は、実施例2と同様の操作を行った。
得られた実施例3に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図7、湿式粒度分布を図8、乾式粒度分布を図9に示す。
SEM写真より、実施例3に係る銀粉は、粒子同士が若干凝集しているが、形状は球状で表面が非常に滑らかであることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.17m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=3.42μm、D50=8.75μm、D90=19.4μm、(D90−D10)/D50=1.82であり、乾式粒度分布は、D10=2.64μm、D50=7.88μm、D90=16.0μm、(D90−D10)/D50=1.70であった。この結果、実施例3に係る銀粉は、実施例2より若干凝集
傾向があるものの、粒度分布はシャープであることが確認できた。
【0049】
実施例3に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例3に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0050】
(実施例4)
ポリエチレンイミンとして、平均分子量が70,000(和光純薬試薬)のものを用いた以外は、実施例2と同様の操作を行った。
得られた実施例4に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図10、湿式粒度分布を図11、乾式粒度分布を図12に示す。
SEM写真より、実施例4に係る銀粉は、粒子同士が若干凝集しているが、形状は球状で表面が滑らかであることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.26m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=1.84μm、D50=4.49μm、D90=8.24μm、(D90−D10)/D50=1.43であり、乾式粒度分布は、D10=1.63μm、D50=4.57μm、D90=7.98μm、(D90−D10)/D50=1.39であった。この結果、実施例4に係る銀粉は、実施例2より若干凝集傾向があるものの、粒度分布はシャープであることが確認できた。
【0051】
実施例4に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例4に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0052】
(実施例5)
銀を5.4g含む硝酸銀水溶液18.0gに、28質量%のアンモニア水12.2g(前記銀に対して2.0当量相当)を添加し、銀アンミン錯塩水溶液を得た。
一方、0.02質量%のヒドラジン水溶液3940g(前記銀に対して1.2当量相当)へ、前記銀の質量に対して0.5質量%のポリエチレンイミン(和光純薬試薬、平均分子量10000)を添加し、液温を40℃とした。
このヒドラジン−ポリエチレンイミン水溶液に、前記銀アンミン錯塩水溶液を添加することで、銀粒子を含むスラリーを析出させた。このようにして得られた銀含有スラリーを濾過、水洗し、ケーキを得た。乾燥・評価については、実施例1と同様に行った。
【0053】
得られた実施例5に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図13、湿式粒度分布を図14、乾式粒度分布を図15に示す。
SEM写真より、実施例5に係る銀粉は、若干微粒子が存在するが、形状は球状で表面が滑らかであることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.29m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=1.15μm、D50=1.92μm、D90=2.78μm、(D90−D10)/D50=0.85であり、乾式粒度分布は、D10=0.87μm、D50=2.17μm、D90=3.41μm、(D90−D10)/D50=1.17であった。この結果、実施例5に係る銀粉は、粒度分布が非常にシャープであることが確認できた。
【0054】
実施例5に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例5に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0055】
(実施例6)
高分子アミンを、平均分子量が1,800のポリエチレンイミン(和光純薬試薬)とした以外は、実施例2と同様と同様の操作を行った。
【0056】
得られた実施例6に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図16、湿式粒度分布を図17、乾式粒度分布を図18に示す。
SEM写真より、実施例6に係る銀粉は粒子同士が、一部凝集していることが観察された。しかし、銀粉の形状は球状で表面が滑らかであることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.12m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=3.28μm、D50=5.97μm、D90=10.98μm、(D90−D10)/D50=1.29であり、乾式粒度分布は、D10=3.01μm、D50=5.62μm、D90=8.90μm、(D90−D10)/D50=1.05であった。この結果、実施例6に係る銀粉は、実施例2と同様に、シャープな粒度分布を持つことが確認できた。
【0057】
実施例6に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例6に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0058】
(実施例7)
ポリエチレンイミン量を、含有される銀の質量に対して0.2質量%とした以外は、実施例4と同様の操作を行った。
得られた実施例7に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図19、湿式粒度分布を図20、乾式粒度分布を図21に示す。
【0059】
SEM写真より、実施例7に係る銀粉は、わずかに微粒子が生成してはいるが、形状は球状で表面が滑らかであることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.31m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=1.36μm、D50=2.92μm、D90=5.04μm、(D90−D10)/D50=1.26であり、乾式粒度分布は、D10=1.18μm、D50=2.89μm、D90=5.00μm、(D90−D10)/D50=1.32であった。この結果、実施例7に係る銀粉は、実施例4と同様に、シャープな粒度分布を持つことが確認できた。
【0060】
実施例7に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例7に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0061】
(実施例8)
高分子アミンを、平均分子量が8,000のポリアリルアミン(日東紡製)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
得られた実施例8に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図22、湿式粒度分布を図23、乾式粒度分布を図24に示す。
SEM写真より、実施例8に係る銀粉は、形状が球状で表面が滑らかであることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.22m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=2.05μm、D50=3.22μm、D90=4.88μm、(D90−D10)/D50=0.88であり、乾式粒度分布は、D10=1.58μm、D50=3.40μm、D90=5.10μm、(D90−D10)/D50=1.04であった。この結果、実施例6に係る銀粉は、実施例1と同様に、非常にシャープな粒度分布を持つことが確認できた。
実施例8に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例8に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0062】
(実施例9)
分子量1000以上の高分子アミンを、ε−ポリリジン(奥野製薬工業株式会社製)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
得られた実施例9に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図25、湿式粒度分布を図26、乾式粒度分布を図27に示す。
SEM写真より、実施例9に係る銀粉は、形状が球状で表面が滑らかであることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.48m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=1.02μm、D50=2.28μm、D90=4.22μm、(D90−D10)/D50=1.40であり、乾式粒度分布は、D10=0.64μm、D50=1.77μm、D90=3.81μm、(D90−D10)/D50=1.79であった。この結果、実施例9に係る銀粉は、若干微粒子を含むが、分散性が高いことが確認できた。
実施例9に係る銀粉の造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例9に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0063】
(比較例1)
ポリエチレンイミンを添加しないこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。
得られた比較例1に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図28、湿式粒度分布を図29、乾式粒度分布を図30に示す。
SEM写真より、比較例1に係る銀粉は、凝集したサブミクロン粒子が多く存在するとともに、多面体状の角ばったミクロン粒子も混在していることが確認された。
当該銀粉のBET比表面積は0.68m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=7.93μm、D50=18.1μm、D90=35.7μm、(D90−D10)/D50=1.54であり、乾式粒度分布は、D10=2.14μm、D50=5.84μm、D90=10.2μm、(D90−D10)/D50=1.38であった。この結果、比較例1に係る銀粉は、粒度分布形状は比較的シャープであるが、SEMより観察される一次粒径と比較し、D50が明らかに大きくなっており、凝集がひどいことがわかった。
【0064】
比較例1に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、比較例1に係る製造方法で製造された銀粉は、粒子形状、粒子バラツキ、分散性のいずれも問題があった。
【0065】
(比較例2)
還元剤にヒドロキノンを用いたことと、銀アンミン錯体の希釈率を変更したこと以外は、比較例1と同様の操作を行った。
なお、銀アンミン錯体は、銀を43.2g含む硝酸銀水溶液3610gに、28質量%のアンモニア水97.3g(銀に対して2.0当量相当)を添加し調製したものを使用した。還元剤のヒドロキノン水溶液は、ヒドロキノン(和光純薬製試薬)23.1gを、462gの純水に溶解させたものを使用した。
【0066】
得られた比較例2に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図31、湿式粒度分布を図32、乾式粒度分布を図33に示す。
SEM写真より、比較例2に係る銀粉は、形状は球状で表面が滑らかで高分散であるこ
とが確認できた。
当該銀粉のBET比表面積は0.83m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=0.87μm、D50=1.51μm、D90=2.97μm、(D90−D10)/D50=1.40であり、乾式粒度分布は、D10=0.51μm、D50=1.26μm、D90=2.15μm、(D90−D10)/D50=1.30であった。この結果、比較例2に係る銀粉は、粒度分布形状はシャープであることがわかった。
【0067】
反応で生成した黒色の排水は、エアーのバブリングや、酸化剤等の薬品を使用しても分解することができなかった。そこで、蒸発濃縮を試みたが、燃料コストが高価なだけでなく、濃縮分がタール状となり処理困難となることがわかった。
次に、微生物処理を試みたが、ヒドロキノン自身の有害性が高いため、かなりの低濃度にしないかぎり微生物が死滅し、処理することができなかった。
さらに、焼却処理を試みたところ、排水処理可能であったが、処理コストが高価となり、銀粉製造コストの増加をもたらすと考えられた。
【0068】
(比較例3)
銀を43.2g含む硝酸銀水溶液3750gに、28質量%のアンモニア水136g(銀に対して2.8当量相当)を添加し、銀アンミン錯塩水溶液を得た。
この銀アンミン錯塩水溶液の液温を20℃とし、27.4質量%のホルマリン水溶液を300g(銀に対して13.7当量相当)加えて、銀粒子を析出させた。次に、析出した銀粒子の凝集を防止するため、前記ホルマリン水溶液を添加してから30秒後に、エタノール12.0gにラウリン酸0.15gを溶解させた液を添加して銀粒子の表面処理を行
った。このようにして得られた銀含有スラリーを濾過、水洗し、ケーキを得た。当該ケーキに対して実施例1と同様の操作を行った。
【0069】
得られた比較例3に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図34、湿式粒度分布を図35、乾式粒度分布を図36に示す。
SEM写真より、比較例3に係る銀粉は、形状はほぼ球状であるが、スジ状の凹凸がある表面性の粗い粒子が生成することがわかった。
当該銀粉のBET比表面積は0.86m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=0.97μm、D50=1.78μm、D90=2.97μm、(D90−D10)/D50=1.12であり、乾式粒度分布は、D10=0.72μm、D50=1.54μm、D90=2.45μm、(D90−D10)/D50=1.12であった。この結果、比較例3に係る銀粉は、粒度分布形状は非常にシャープであることがわかった。
【0070】
反応で生成した排水は無色透明であった。しかし、エアーのバブリングや、酸化剤等の薬品を添加しても、ホルマリンを分解することができなかった。
【0071】
(比較例4)
ポリエチレンイミンに代えて、ポリビニルアルコール(和光純薬製、平均分子量22,000)を、含有される銀の質量に対して1.0質量%添加したこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。
得られた比較例4に係る銀粉の40000倍のSEM写真および10000倍のSEM写真を図37、湿式粒度分布を図38、乾式粒度分布を図39に示す。
【0072】
SEM写真より、比較例4に係る銀粉は、粒子同士が癒着して形成された粒子が多く見られ、形状は不定形であった。
当該銀粉のBET比表面積は1.67m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=1.31μm、D50=3.72μm、D90=7.60μm、(D90−D10)/D50=1.69であり、乾式粒度分布は、D10=0.35μm、D50=1.12μm、D9
0=2.94μm、(D90−D10)/D50=2.31であった。この結果、比較例4に係る銀粉は、粒度分布形状はブロードで、SEMより観察される一次粒径と比較し、D50が明らかに大きくなっており、凝集していることがわかった。
【0073】
比較例4に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、比較例4に係る製造方法で製造された銀粉は、粒子形状が球状ではなく、分散性に問題があることがわかった。
【0074】
(比較例5)
ポリエチレンイミンに代えて、ポリビニルピロリドン(純正薬品製、平均分子量10,000)を、含有される銀の質量に対して1.0質量%添加したこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。
得られた比較例5に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図40、湿式粒度分布を図41、乾式粒度分布を図42に示す。
【0075】
SEM写真より、比較例5に係る銀粉は、凝集した粒径が1μm未満の粒子が多く存在するとともに、多面体状の角ばった形状を有し粒径が1μm超である粒子も混在していることが確認された。
当該銀粉のBET比表面積は0.91m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=1.34μm、D50=3.20μm、D90=6.81μm、(D90−D10)/D50=1.71であり、乾式粒度分布は、D10=0.43μm、D50=1.67μm、D90=4.20μm、(D90−D10)/D50=2.26であった。この結果、比較例5に係る銀粉は、粒度分布形状がブロードで、SEMより観察される一次粒径と比較し、D50が明らかに大きくなっており、凝集がひどいことがわかった。
【0076】
比較例5に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、比較例5に係る方法で製造された銀粉は、粒子形状、粒子バラツキ、分散性とも、いずれも問題があった。
【0077】
(比較例6)
ポリエチレンイミンに代えて、L−リシン(和光純薬製、分子量146)を含有される銀の質量に対して0.5質量%添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた比較例6に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図43に示す。
得られた銀粉は、比較例5と同様に、凝集した粒径が1μm未満の粒子が多く存在するとともに、多面体状の角ばった形状を有しており、球状の銀粉は得られなかった。
比較例6に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、比較例6に係る製造方法で製造された銀粉は、形状が球状でなく、粒子形状に問題があった。
【0078】
【表1】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例1に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図2】実施例1に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例1に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例2に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図5】実施例2に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例2に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例3に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図8】実施例3に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図9】実施例3に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例4に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図11】実施例4に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図12】実施例4に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図13】実施例5に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図14】実施例5に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図15】実施例5に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図16】実施例6に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図17】実施例6に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図18】実施例6に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図19】実施例7に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図20】実施例7に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図21】実施例7に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図22】実施例8に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図23】実施例8に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図24】実施例8に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図25】実施例9に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図26】実施例9に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図27】実施例9に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図28】比較例1に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図29】比較例1に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図30】比較例1に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図31】比較例2に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図32】比較例2に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図33】比較例2に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図34】比較例3に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図35】比較例3に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図36】比較例3に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図37】比較例4に係る銀粉の40000倍と10000倍のSEM写真である。
【図38】比較例4に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図39】比較例4に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図40】比較例5に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図41】比較例5に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図42】比較例5に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図43】比較例6に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉の製造方法に関し、積層コンデンサの内部電極や回路基板の導体パターン、プラズマディスプレイパネル用基板の電極や回路などの電子部品に使用する導電性ペースト用に好適な銀粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層コンデンサの内部電極、回路基板の導体パターン、太陽電池やプラズマディスプレイパネル(PDP)用基板の電極や回路などの電子部品に使用する導電性ペーストとして、銀粉をガラスフリットとともに有機ビヒクル中に加えて混練することによって製造される導電性ペーストが使用されている。当該導電性ペースト用の銀粉は、電子部品の小型化、導体パターンの高密度化、ファインライン化などに対応するため、粒径が適度に小さく、粒度が揃い、高い分散性を有することが要求されている。導体パターンの形成方法としては、スクリーン印刷方式、感光方式、オフセット方式等あるが、中でも、PDPに使用される導電性ペーストにおいては、感光性の樹脂を使用した導電ペーストに紫外線を照射させて感光させることにより配線パターンを形成する感光方式が主流である。このため、当該導電ペーストに使用される銀粉は、紫外線を乱反射させないよう、特に表面が滑らかな球状の銀粉が要求される。
【0003】
このような導電性ペースト用の銀粉を製造する方法としては、銀塩含有水溶液へ、アルカリまたは錯化剤を添加して、酸化銀含有スラリーまたは銀錯体含有水溶液を生成させた後、還元剤としてヒドロキノン等の多価フェノールを添加することにより、銀粉を還元析出させて、その後に乾燥させる方法が知られている(特許文献1、非特許文献1)。
【0004】
また、銀塩含有水溶液にアルカリまたは錯化剤を添加して、酸化銀含有スラリーまたは銀錯体含有水溶液を生成した後、還元剤としてアスコルビン酸等を加えることにより、球状の銀粉を製造する方法も知られている(特許文献2、非特許文献2)。
【0005】
一方で、ヒドラジンを還元剤とした銀粉の製法についても知られている。ヒドラジンを還元剤とした銀粉の製法は、ヒドラジンの分解性が良いため、排水処理は比較的容易である。しかし、製造される銀粉は凝集したサブミクロン粒子や、角ばったミクロンサイズ粒子の混合物となり易い。そこで、製造される銀粉の粒径制御性や分散性を向上させる目的で、ビニル系高分子化合物を添加する銀微粉末を製造方法が知られている(特許文献3)。
【0006】
また、レドックス還元法を用い、還元剤として3価のチタニウムイオンを使用することで還元剤を再利用することが出来る銀粉の製造方法についても知られている(特許文献4)。
【0007】
【特許文献1】特開平8−92612号公報
【特許文献2】特開平6−122905号公報
【特許文献3】特開昭63−213606号公報
【特許文献4】特開2005−42135号公報
【非特許文献1】資源と素材110(1994),No.14,P.1121〜1126
【非特許文献2】環境浄化のための除害と回収 化学工業社 (1999),P.321〜323
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、本発明者らの検討によると、特許文献1、非特許文献1に記載された、銀塩含有水溶液へアルカリ等を添加し、酸化銀含有スラリー等を生成させた後、還元剤としてヒドロキノン等の多価フェノールを添加して銀粉を還元析出させる方法では、分散性に優れた球状の銀粉を生成させることができるものの、ヒドロキノン等を含む排水が生成してしまい、排水処理が課題となることに想到した。つまり、ヒドロキノン等の多価フェノールを含む排水は難分解性であり、排水処理設備が大掛かりになる等の課題が生まれ、排水処理コストが高くなる。
【0009】
また、特許文献2、非特許文献2に記載された、銀塩含有水溶液にアルカリ等を添加し、酸化銀含有スラリー等を生成した後、還元剤としてアスコルビン酸等を添加して球状の銀粉を製造する方法では、排水としてアスコルビン酸の分解物を含む褐色の難処理排水が発生する。この場合も、排水処理設備が大掛かりになる等の課題が生まれ、排水処理コストが高くなる。
すなわち、球状で表面が滑らかな銀粉を製造できるいずれの方法を採っても、排水処理設備が大掛かりになる為、銀粉の生産性を上げる際の障害になる上、高価な排水処理コストが、銀粉の製造コストアップに結びつくことが課題であった。
【0010】
一方で、特許文献3に記載されたヒドラジンを還元剤とした銀粉の製法でも、球状で表面が滑らかな銀粉を得ることはできていない。
また、特許文献4に記載された還元剤に3価のチタニウムイオンを使用することで還元剤を再利用することができるレドックス還元法は、還元剤を再利用可能なため排水処理の負荷は低減され、粒径が数10〜100nmの微粒子を作成することができる。さらに、特許文献4には、分散剤としてポリエチレンイミンを使用することが開示されている。しかしながら、この方法で得られる銀粉の形状は球状ではなく、形状が球状で表面が滑らかな銀粉を得ることはできていない。
【0011】
結局、球状で表面が滑らかな銀粉を製造可能な方法では、高価な排水処理コストが銀粉の製造コストを高いものにしていた。他方、排水処理コストを抑制できる製造方法の場合は、球状で表面が平滑な銀粉を製造することができない。即ち、球状で表面が滑らかな銀粉を得ること、排水処理コストを抑制して当該銀粉の製造コストを抑制すること、の両立ができないという問題があった。
【0012】
本発明は、このような状況の下でなされた発明であり、上述したPDP用途にも使用可能な表面が滑らかで球状を有する導電性ペースト用の銀粉を、難処理排水を生成することなく製造することの出来る製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、銀イオンを含有する水性反応系に還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる反応において、当該銀粒子の還元析出前または還元析出中に、予め、高分子アミンを存在させることで、還元剤としてはエアーのバブリングで分解可能なものを用いても、表面が滑らかな球状で、なおかつ高分散で粒径の揃った導電性ペーストに適した銀粉を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
尚、本発明において、硝酸銀、銀錯体または銀中間体を含有する水溶液等の銀イオンを含有する水溶液、および、当該銀イオンを含有する水溶液であって、さらに含銀スラリーを含むもののことを、「銀イオンを含有する水性反応系」と記載する場合がある。
【0014】
即ち、上述の課題を解決するための第1の手段は、
銀イオンを含有する水性反応系へ、還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる銀粉の製
造方法であって、
前記還元剤として、エアーのバブリングで分解可能なものを用い、
前記銀粒子の還元析出前または還元析出中に、第一アミンおよび/または第二アミンを有する高分子アミンを添加することを特徴とする銀粉の製造方法である。
【0015】
第2の手段は、
前記還元剤が、ヒドラジンであることを特徴とする第1の手段に記載の銀粉の製造方法である。
【0016】
第3の手段は、
前記高分子アミンが、イミン化合物であることを特徴とする第1または第2の手段に記載の銀粉の製造方法である。
【0017】
第4の手段は、
前記高分子アミンが、ポリエチレンイミンであることを特徴とする第1または第2の手段に記載の銀粉の製造方法である。
【0018】
第5の手段は、
前記高分子アミンが、ポリアリルアミンであることを特徴とする第1または第2の手段に記載の銀粉の製造方法である。
【0019】
第6の手段は、
前記高分子アミンが、ポリリジンであることを特徴とする第1または第2の手段に記載の銀粉の製造方法である。
【0020】
第7の手段は、
前記高分子アミンの分子量が1000以上であることを特徴とする第1から第6の手段のいずれかに記載の銀粉の製造方法である。
【0021】
第8の手段は、
前記高分子アミンの添加量が、銀の仕込量に対して、0.2質量%以上であることを特徴とする第1から第7の手段のいずれかに記載の銀粉の製造方法である。
【0022】
第9の手段は、
前記銀イオンを含有する水性反応系が、銀のアンミン錯体を含有する水溶液であることを特徴とする第1から第8の手段のいずれかに記載の銀粉の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、表面が滑らかな球状の導電性ペースト用の銀粉を、難処理排水を発生させることなく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係る銀粉の製造方法について、1.銀イオンを含有する水性反応系、2.還元剤、3.高分子アミン、4.銀イオンを含有する水性反応系への還元剤および高分子アミンの添加方法、5.効果、の順に説明する。
【0025】
〈1.銀イオンを含有する水性反応系〉
銀イオンを含有する水性反応系とは、上述したように、硝酸銀、銀錯体または銀中間体を含有する水溶液等の銀イオンを含有する水溶液、および、当該銀イオンを含有する水溶液のことをいう。そして、本発明においては、これらの銀イオンを含有する水性反応系を
銀の供給元として用いることが出来る。
【0026】
具体例として、銀錯体を含有する水溶液は、アンモニア水、アンモニウム塩を硝酸銀水溶液もしくは酸化銀懸濁液に添加することにより生成することができる。中でも、硝酸銀水溶液にアンモニア水を添加して得られる銀アンミン錯体水溶液は、生成する銀粉が適当な粒径と球形状とを有するので、好ましい構成である。尚、当該銀アンミン錯体中におけるアンモニアの配位数は2であるため、銀1モル当たりアンモニア2モル以上を添加することが望ましい。アンモニアの添加量の上限については特に限定されないが、添加量を増やすにつれ原料のコストアップとなる。当該原料コストの観点からは、得ようとする銀粉の粒径に応じた銀アンミン錯体の適度な安定性を得るために、必要な量を添加すれば良い。例えば、銀1モル当たりアンモニア4モルを添加すれば、必要な銀アンミン錯体の安定性を得ることができる。
【0027】
〈2.還元剤〉
本発明に係る還元剤としては、生成した排水が簡易な設備で処理が可能で、排水処理コストを引き上げることのない還元剤を用いることが肝要である。即ち、エアーのバブリング等の簡便な排水処理で分解可能なものを用いる。好ましい具体例としては、ヒドラジンを挙げることが出来る。尚、銀の反応収率を上げる観点から、還元剤量は、銀に対して1当量以上添加する必要がある。
【0028】
〈3.高分子アミン〉
本発明に係る高分子アミンは、第一アミン(−NH2)、第二アミン(=NH)のいずれか一つ、または、両者を共に有する高分子のことである。そして、本発明に係る高分子アミンは、還元剤として上述した排水処理が容易なものを用いた場合であっても、生成する銀の粒子形状を球状に制御する効果を発揮する。
本発明に係る高分子アミンによって、球状で分散性の高い銀の粒子が得られる詳細な理由は明らかではないが、当該高分子アミンが有する第一アミンおよび/または第二アミンと、当該高分子アミンの大きな分子長とが、生成する銀の粒子形状を球状に制御するのであると考えられる。具体的には、第一アミンおよび/または第二アミンが、銀イオンと錯体を形成することで当該銀イオンの還元速度を適度に緩和すること、および、高分子アミンの大きな分子長が粒子同士の結合を抑制すること、によると考えられる。
ここで、本発明に係る好ましい高分子アミンの具体例としては、アミノ化合物、イミン化合物が挙げられる。中でもポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリリジンが好ましい。特に、イミン化合物であるポリエチレンイミンは、その構造が分子中に第一アミンおよび第二アミンの両者を共に有する網状構造であり、本発明において好ましい結果を与える。
【0029】
当該高分子アミンの分子量については、生成する銀粉の粒子形状を球状化し、表面を滑らかにするために、平均分子量1000以上、100,000以下の高分子アミンを用いることが好ましい。高分子アミンの平均分子量が1000以上あれば、得られる銀粉の形状を球状で表面が滑らかにする効果が十分に得られ、平均分子量100,000以下であれば、当該高分子アミンを含有する液の粘性が高くなり過ぎず、取扱いが容易だからである。さらに、当該高分子アミンとしては、平均分子量1000以上のポリエチレンイミンまたはポリアリルアミンが好ましい。一般に入手可能なポリエチレンイミンの平均分子量の上限値は70,000である。そして、当該平均分子量70,000のポリエチレンイミンは、銀粉の粒子形状を球状化し表面を滑らかにする効果を発揮すると同時に、当該ポリエチレンイミンを含有する液の粘性が高くなり過ぎることもない。従って、銀イオンを含有する水性反応系に溶解可能な限り、ポリエチレンイミンの平均分子量の上限は、特に限定されない。
【0030】
当該高分子アミンの添加量は、銀の仕込量に対して0.2質量%以上あれば生成する銀の粒子形状を球状に制御することが出来る。一方、銀イオンを含有する水性反応系に溶解可能な限り、特に添加量の上限値は規定されない。尚、銀の仕込量とは、前記銀イオンを含有する水性反応系に投入された、銀化合物中の銀含有量のことである。
【0031】
〈4.銀イオンを含有する水性反応系への還元剤および高分子アミンの添加方法〉
銀イオンを含有する水性反応系への還元剤の添加方法については、生成する銀粉の粒径を揃え、かつ凝集を防ぐために、1当量/min以上の速度で添加することが好ましい。当該添加速度が効果を発揮する理由は明確ではないが、還元剤を短時間で投入することで銀粉粒子の還元析出が一挙に生じ、短時間で還元反応が終了するため、発生した銀粉粒子の核同士の凝集が生じ難くなり、分散性が向上するのではないかと考えられる。したがって、還元剤の添加速度は速いほど好ましく、例えば100当量/min以上の速度であっても良い。また、還元の際には、より短時間で反応を終了させる観点から反応液を攪拌することが好ましい。
【0032】
銀イオンを含有する水性反応系への高分子アミンの添加方法としては、上述した還元剤による還元前に銀イオンを含有する水性反応系へ予め添加していても良いし、高分子アミンと還元剤とを予め混合しておき、当該混合物を銀イオン含有水性反応系へ添加しても良く、特に限定されない。
【0033】
また、必要に応じて、表面処理剤を併用することも好ましい構成である。表面処理剤としては、脂肪酸、脂肪酸塩、界面活性剤、有機金属、キレート剤、高分子分散剤等を使用することができる。
【0034】
〈5.効果〉
銀イオンを含有する水性反応系への、還元剤および高分子アミンの添加により得られた銀粉含有スラリーを、濾過、水洗することによって、銀に対して1〜200質量%の水を含み、流動性がほとんどない塊状のケーキが得られる。尚、当該ケーキの乾燥を早めるために、ケーキ中の水分を低級アルコール等で置換してもよい。当該ケーキを、強制循環式大気乾燥機、真空乾燥機、気流乾燥装置等の乾燥機で乾燥することにより本発明に係る銀粉が得られる。また、必要に応じて、乾式解砕処理や、特開2005−240092号公報に記載されているような分級処理を行ってもよい。なお、乾燥、解砕および分級を行なうことができる一体型の装置((株)ホソカワミクロン製のドライマイスタや、ミクロンドライヤなど)を用いて乾燥、粉砕、分級を行なってもよい。
【0035】
上述の操作を行って得られた銀粉は、表面が滑らかな球状であり、感光性方式をはじめとしたPDP用途に使用する導電性ペースト用の銀粉として適したものであった。
そして、上述の銀粉含有スラリーを、濾過、水洗することによって生成した排水は、流量1〜10L/min程度のエアーのバブリングを1〜5時間程度行うことで、ヒドラジン濃度が1ppm以下となり、容易に分解可能あった。なお、ヒドラジンの分解を促進させるため、エアレーション時のアルカリ調整や加温も有効である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について、実施例を参照しながら詳細に説明する。
(実施例1)
銀を5.4g含む硝酸銀水溶液3940gに、28質量%のアンモニア水12.2g(銀に対して2.0当量相当)を添加し、銀アンミン錯塩水溶液を得た。
この銀アンミン錯塩水溶液の液温を25℃とし、含有される銀の質量に対して0.5質量%のポリエチレンイミン(和光純薬製試薬、平均分子量10,000)を添加した後で、7.7質量%のヒドラジン水溶液を8.8g(銀に対して1.2当量相当)加えて、銀
粒子を含有するスラリーを析出させた。当該製造条件を表1に示す。
以下同様に、実施例2〜9、比較例1〜6においても製造条件を表1に示す。
【0037】
このようにして得られた銀含有スラリーを濾過、水洗し、ケーキを得た。ケーキより銀粉を少量サンプリングし、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、銀粉形状として表面の平滑性の測定と粒子形状との観察を行うと伴に、湿式のレーザー回折式粒度分布の評価を行った。
一方、得られたケーキを75℃の真空乾燥機で10時間乾燥させ、乾燥した銀粉を得た。当該乾燥銀粉に対し、BET比表面積測定および乾式レーザー回折式粒度分布測定を行った。
【0038】
ここで、表面の平滑性の測定と粒子形状の観察は、SEM(日本電子製JSM−6100)を使用し、10000倍にて観察を行った。当該SEM写真を図1に示す。そして、当該SEM観察の結果を、後述する比較例2と比較しながら評価した。以下、実施例2〜9、比較例1〜6においても同様である。
【0039】
湿式レーザー回折式の粒度分布測定は、銀粉0.3gをイソプロピルアルコール30mLに入れ、出力50Wの超音波洗浄器により5分間分散させ、マイクロトラック粒度分布測定装置(ハネウエル(Haneywell)−日機装製9320HRA(X−100))を用いて測定した。当該測定結果を図2に示す。図2は、横軸に粒径、縦軸に頻度(%)と累積(%)とをとったグラフであり、棒グラフで頻度を示し、折れ線グラフで累積を示した。そして、累積10質量%粒径をD10、累積50質量%粒径をD50、累積90質量%粒径をD90と表記したものである。
以下、実施例2〜9、比較例1〜5においても同様である。
【0040】
BET比表面積は、モノソーブ(カウンタクローム(Quanta Chrome)社製)を用いて窒素吸着によるBET1点法で測定した。尚、当該BET比表面積測定において、測定前の脱気条件は60℃、10分間とした。以下、実施例2〜9、比較例1〜5においても同様である。
【0041】
乾式レーザー回折式の粒度分布測定は、粒度分布測定装置(Sympatec−日本レーザー製、Helos&Rodos)を使用し、分散圧4bar、測定レンズR1にて測定した。当該測定結果を図3に示す。図3は、横軸に粒径、縦軸に頻度分布をとったグラフである。以下、実施例2〜9、比較例1〜5においても同様である。
【0042】
評価、測定結果について説明する。
SEM写真(図1)より、ケーキを構成する銀粉の表面の平滑性と粒子形状は、表面が滑らかで、粒径の揃った球状であり、高分散の銀粉が生成していることが確認できた。
湿式の粒度分布測定結果(図2)より、D10=0.73μm、D50=1.10μm、D90=1.95μmであった。このことから、粒度分布のバラツキを表す(D90−D10)/D50は1.1であり、粒度分布が非常にシャープであること(粒径が揃っていること)が確認できた。
BET比表面積は0.56m2/gであった。
乾式の粒度分布(図3)より、乾燥後の銀粉において、D10=0.31μm、D50=1.19μm、D90=1.93μmであった。このことから、(D90−D10)/D50=1.36であり、乾燥後の銀粉においても、粒度分布がシャープであることが確認できた。
【0043】
上述の銀粉製造に際して、生成した排水は無色透明であった。当該排水を40℃とし、攪拌しながら5L/min.のエアーを用いて2時間バブリングすることにより、当該排
水中のヒドラジンが分解され、濃度1pmm以下まで低下することを確認した。
尚、ヒドラジンの定量分析は、塩酸酸性下、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド溶液と混合し、吸光光度法(波長458nm)により行った。
以上より、実施例1によれば、優れた特性を有する銀粉が製造できると伴に、排水処理に関し大がかりな装置、複雑な操作が不要で、容易かつ簡便で低コストであることが確認された。
当該評価結果を表2に示す。以下、実施例2〜9、比較例1〜6においても同様に評価結果を表2に示す。
【0044】
(実施例2)
銀を43.2g含む硝酸銀水溶液3950gに、28質量%のアンモニア水97.3g(銀に対して2.0当量相当)を添加し、銀アンミン錯塩水溶液を得た。
この銀アンミン錯塩水溶液の液温を25℃とし、含有される銀の量に対して0.5質量%のポリエチレンイミン(和光純薬製試薬、平均分子量10,000)を添加した後で、7.7質量%のヒドラジン水溶液を78.1g(銀に対して1.2当量相当)加えて、銀粒子を析出させた。
【0045】
このようにして得られた銀含有スラリーを濾過、水洗し、ケーキを得た。ケーキより銀粉を少量サンプリングし、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、銀粉形状として表面の平滑性の測定と粒子形状との観察を行った。
一方、得られたケーキを75℃の真空乾燥機で10時間乾燥させ、乾燥した銀粉を得た。乾燥した銀粉をコーヒーミルにて解砕し、当該乾燥銀粉に対し、BET比表面積測定、湿式のレーザー回折式粒度分布測定および乾式レーザー回折式粒度分布測定を行った。
【0046】
得られた実施例2に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図4、湿式粒度分布を図5、乾式粒度分布を図6に示す。
SEM写真より、実施例2に係る銀粉は、形状は球状で表面が非常に滑らかであり高分散であることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.25m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=2.48μm、D50=4.49μm、D90=8.35μm、(D90−D10)/D50=1.31であり、乾式粒度分布は、D10=2.09μm、D50=4.36μm、D90=6.98μm、(D90−D10)/D50=1.12であった。この結果、実施例2に係る銀粉は、粒度分布がシャープであることが確認できた。
【0047】
実施例2に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例2に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0048】
(実施例3)
ポリエチレンイミン量を、含有される銀の質量に対して1.0質量%とした以外は、実施例2と同様の操作を行った。
得られた実施例3に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図7、湿式粒度分布を図8、乾式粒度分布を図9に示す。
SEM写真より、実施例3に係る銀粉は、粒子同士が若干凝集しているが、形状は球状で表面が非常に滑らかであることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.17m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=3.42μm、D50=8.75μm、D90=19.4μm、(D90−D10)/D50=1.82であり、乾式粒度分布は、D10=2.64μm、D50=7.88μm、D90=16.0μm、(D90−D10)/D50=1.70であった。この結果、実施例3に係る銀粉は、実施例2より若干凝集
傾向があるものの、粒度分布はシャープであることが確認できた。
【0049】
実施例3に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例3に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0050】
(実施例4)
ポリエチレンイミンとして、平均分子量が70,000(和光純薬試薬)のものを用いた以外は、実施例2と同様の操作を行った。
得られた実施例4に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図10、湿式粒度分布を図11、乾式粒度分布を図12に示す。
SEM写真より、実施例4に係る銀粉は、粒子同士が若干凝集しているが、形状は球状で表面が滑らかであることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.26m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=1.84μm、D50=4.49μm、D90=8.24μm、(D90−D10)/D50=1.43であり、乾式粒度分布は、D10=1.63μm、D50=4.57μm、D90=7.98μm、(D90−D10)/D50=1.39であった。この結果、実施例4に係る銀粉は、実施例2より若干凝集傾向があるものの、粒度分布はシャープであることが確認できた。
【0051】
実施例4に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例4に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0052】
(実施例5)
銀を5.4g含む硝酸銀水溶液18.0gに、28質量%のアンモニア水12.2g(前記銀に対して2.0当量相当)を添加し、銀アンミン錯塩水溶液を得た。
一方、0.02質量%のヒドラジン水溶液3940g(前記銀に対して1.2当量相当)へ、前記銀の質量に対して0.5質量%のポリエチレンイミン(和光純薬試薬、平均分子量10000)を添加し、液温を40℃とした。
このヒドラジン−ポリエチレンイミン水溶液に、前記銀アンミン錯塩水溶液を添加することで、銀粒子を含むスラリーを析出させた。このようにして得られた銀含有スラリーを濾過、水洗し、ケーキを得た。乾燥・評価については、実施例1と同様に行った。
【0053】
得られた実施例5に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図13、湿式粒度分布を図14、乾式粒度分布を図15に示す。
SEM写真より、実施例5に係る銀粉は、若干微粒子が存在するが、形状は球状で表面が滑らかであることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.29m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=1.15μm、D50=1.92μm、D90=2.78μm、(D90−D10)/D50=0.85であり、乾式粒度分布は、D10=0.87μm、D50=2.17μm、D90=3.41μm、(D90−D10)/D50=1.17であった。この結果、実施例5に係る銀粉は、粒度分布が非常にシャープであることが確認できた。
【0054】
実施例5に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例5に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0055】
(実施例6)
高分子アミンを、平均分子量が1,800のポリエチレンイミン(和光純薬試薬)とした以外は、実施例2と同様と同様の操作を行った。
【0056】
得られた実施例6に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図16、湿式粒度分布を図17、乾式粒度分布を図18に示す。
SEM写真より、実施例6に係る銀粉は粒子同士が、一部凝集していることが観察された。しかし、銀粉の形状は球状で表面が滑らかであることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.12m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=3.28μm、D50=5.97μm、D90=10.98μm、(D90−D10)/D50=1.29であり、乾式粒度分布は、D10=3.01μm、D50=5.62μm、D90=8.90μm、(D90−D10)/D50=1.05であった。この結果、実施例6に係る銀粉は、実施例2と同様に、シャープな粒度分布を持つことが確認できた。
【0057】
実施例6に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例6に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0058】
(実施例7)
ポリエチレンイミン量を、含有される銀の質量に対して0.2質量%とした以外は、実施例4と同様の操作を行った。
得られた実施例7に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図19、湿式粒度分布を図20、乾式粒度分布を図21に示す。
【0059】
SEM写真より、実施例7に係る銀粉は、わずかに微粒子が生成してはいるが、形状は球状で表面が滑らかであることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.31m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=1.36μm、D50=2.92μm、D90=5.04μm、(D90−D10)/D50=1.26であり、乾式粒度分布は、D10=1.18μm、D50=2.89μm、D90=5.00μm、(D90−D10)/D50=1.32であった。この結果、実施例7に係る銀粉は、実施例4と同様に、シャープな粒度分布を持つことが確認できた。
【0060】
実施例7に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例7に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0061】
(実施例8)
高分子アミンを、平均分子量が8,000のポリアリルアミン(日東紡製)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
得られた実施例8に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図22、湿式粒度分布を図23、乾式粒度分布を図24に示す。
SEM写真より、実施例8に係る銀粉は、形状が球状で表面が滑らかであることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.22m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=2.05μm、D50=3.22μm、D90=4.88μm、(D90−D10)/D50=0.88であり、乾式粒度分布は、D10=1.58μm、D50=3.40μm、D90=5.10μm、(D90−D10)/D50=1.04であった。この結果、実施例6に係る銀粉は、実施例1と同様に、非常にシャープな粒度分布を持つことが確認できた。
実施例8に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例8に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0062】
(実施例9)
分子量1000以上の高分子アミンを、ε−ポリリジン(奥野製薬工業株式会社製)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
得られた実施例9に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図25、湿式粒度分布を図26、乾式粒度分布を図27に示す。
SEM写真より、実施例9に係る銀粉は、形状が球状で表面が滑らかであることが確認できた。当該銀粉のBET比表面積は0.48m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=1.02μm、D50=2.28μm、D90=4.22μm、(D90−D10)/D50=1.40であり、乾式粒度分布は、D10=0.64μm、D50=1.77μm、D90=3.81μm、(D90−D10)/D50=1.79であった。この結果、実施例9に係る銀粉は、若干微粒子を含むが、分散性が高いことが確認できた。
実施例9に係る銀粉の造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、実施例9に係る製造方法で製造された銀粉の特性が優れ、かつ生成する排水処理も容易で、低コストであることが確認された。
【0063】
(比較例1)
ポリエチレンイミンを添加しないこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。
得られた比較例1に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図28、湿式粒度分布を図29、乾式粒度分布を図30に示す。
SEM写真より、比較例1に係る銀粉は、凝集したサブミクロン粒子が多く存在するとともに、多面体状の角ばったミクロン粒子も混在していることが確認された。
当該銀粉のBET比表面積は0.68m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=7.93μm、D50=18.1μm、D90=35.7μm、(D90−D10)/D50=1.54であり、乾式粒度分布は、D10=2.14μm、D50=5.84μm、D90=10.2μm、(D90−D10)/D50=1.38であった。この結果、比較例1に係る銀粉は、粒度分布形状は比較的シャープであるが、SEMより観察される一次粒径と比較し、D50が明らかに大きくなっており、凝集がひどいことがわかった。
【0064】
比較例1に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、比較例1に係る製造方法で製造された銀粉は、粒子形状、粒子バラツキ、分散性のいずれも問題があった。
【0065】
(比較例2)
還元剤にヒドロキノンを用いたことと、銀アンミン錯体の希釈率を変更したこと以外は、比較例1と同様の操作を行った。
なお、銀アンミン錯体は、銀を43.2g含む硝酸銀水溶液3610gに、28質量%のアンモニア水97.3g(銀に対して2.0当量相当)を添加し調製したものを使用した。還元剤のヒドロキノン水溶液は、ヒドロキノン(和光純薬製試薬)23.1gを、462gの純水に溶解させたものを使用した。
【0066】
得られた比較例2に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図31、湿式粒度分布を図32、乾式粒度分布を図33に示す。
SEM写真より、比較例2に係る銀粉は、形状は球状で表面が滑らかで高分散であるこ
とが確認できた。
当該銀粉のBET比表面積は0.83m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=0.87μm、D50=1.51μm、D90=2.97μm、(D90−D10)/D50=1.40であり、乾式粒度分布は、D10=0.51μm、D50=1.26μm、D90=2.15μm、(D90−D10)/D50=1.30であった。この結果、比較例2に係る銀粉は、粒度分布形状はシャープであることがわかった。
【0067】
反応で生成した黒色の排水は、エアーのバブリングや、酸化剤等の薬品を使用しても分解することができなかった。そこで、蒸発濃縮を試みたが、燃料コストが高価なだけでなく、濃縮分がタール状となり処理困難となることがわかった。
次に、微生物処理を試みたが、ヒドロキノン自身の有害性が高いため、かなりの低濃度にしないかぎり微生物が死滅し、処理することができなかった。
さらに、焼却処理を試みたところ、排水処理可能であったが、処理コストが高価となり、銀粉製造コストの増加をもたらすと考えられた。
【0068】
(比較例3)
銀を43.2g含む硝酸銀水溶液3750gに、28質量%のアンモニア水136g(銀に対して2.8当量相当)を添加し、銀アンミン錯塩水溶液を得た。
この銀アンミン錯塩水溶液の液温を20℃とし、27.4質量%のホルマリン水溶液を300g(銀に対して13.7当量相当)加えて、銀粒子を析出させた。次に、析出した銀粒子の凝集を防止するため、前記ホルマリン水溶液を添加してから30秒後に、エタノール12.0gにラウリン酸0.15gを溶解させた液を添加して銀粒子の表面処理を行
った。このようにして得られた銀含有スラリーを濾過、水洗し、ケーキを得た。当該ケーキに対して実施例1と同様の操作を行った。
【0069】
得られた比較例3に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図34、湿式粒度分布を図35、乾式粒度分布を図36に示す。
SEM写真より、比較例3に係る銀粉は、形状はほぼ球状であるが、スジ状の凹凸がある表面性の粗い粒子が生成することがわかった。
当該銀粉のBET比表面積は0.86m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=0.97μm、D50=1.78μm、D90=2.97μm、(D90−D10)/D50=1.12であり、乾式粒度分布は、D10=0.72μm、D50=1.54μm、D90=2.45μm、(D90−D10)/D50=1.12であった。この結果、比較例3に係る銀粉は、粒度分布形状は非常にシャープであることがわかった。
【0070】
反応で生成した排水は無色透明であった。しかし、エアーのバブリングや、酸化剤等の薬品を添加しても、ホルマリンを分解することができなかった。
【0071】
(比較例4)
ポリエチレンイミンに代えて、ポリビニルアルコール(和光純薬製、平均分子量22,000)を、含有される銀の質量に対して1.0質量%添加したこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。
得られた比較例4に係る銀粉の40000倍のSEM写真および10000倍のSEM写真を図37、湿式粒度分布を図38、乾式粒度分布を図39に示す。
【0072】
SEM写真より、比較例4に係る銀粉は、粒子同士が癒着して形成された粒子が多く見られ、形状は不定形であった。
当該銀粉のBET比表面積は1.67m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=1.31μm、D50=3.72μm、D90=7.60μm、(D90−D10)/D50=1.69であり、乾式粒度分布は、D10=0.35μm、D50=1.12μm、D9
0=2.94μm、(D90−D10)/D50=2.31であった。この結果、比較例4に係る銀粉は、粒度分布形状はブロードで、SEMより観察される一次粒径と比較し、D50が明らかに大きくなっており、凝集していることがわかった。
【0073】
比較例4に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、比較例4に係る製造方法で製造された銀粉は、粒子形状が球状ではなく、分散性に問題があることがわかった。
【0074】
(比較例5)
ポリエチレンイミンに代えて、ポリビニルピロリドン(純正薬品製、平均分子量10,000)を、含有される銀の質量に対して1.0質量%添加したこと以外は、実施例2と同様の操作を行った。
得られた比較例5に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図40、湿式粒度分布を図41、乾式粒度分布を図42に示す。
【0075】
SEM写真より、比較例5に係る銀粉は、凝集した粒径が1μm未満の粒子が多く存在するとともに、多面体状の角ばった形状を有し粒径が1μm超である粒子も混在していることが確認された。
当該銀粉のBET比表面積は0.91m2/gであり、湿式粒度分布は、D10=1.34μm、D50=3.20μm、D90=6.81μm、(D90−D10)/D50=1.71であり、乾式粒度分布は、D10=0.43μm、D50=1.67μm、D90=4.20μm、(D90−D10)/D50=2.26であった。この結果、比較例5に係る銀粉は、粒度分布形状がブロードで、SEMより観察される一次粒径と比較し、D50が明らかに大きくなっており、凝集がひどいことがわかった。
【0076】
比較例5に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、比較例5に係る方法で製造された銀粉は、粒子形状、粒子バラツキ、分散性とも、いずれも問題があった。
【0077】
(比較例6)
ポリエチレンイミンに代えて、L−リシン(和光純薬製、分子量146)を含有される銀の質量に対して0.5質量%添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた比較例6に係る銀粉の10000倍のSEM写真を図43に示す。
得られた銀粉は、比較例5と同様に、凝集した粒径が1μm未満の粒子が多く存在するとともに、多面体状の角ばった形状を有しており、球状の銀粉は得られなかった。
比較例6に係る銀粉の製造により生成する排水は、実施例1に係る排水と同様に無色透明で、エアーのバブリングによりヒドラジンを分解できることを確認した。
以上より、比較例6に係る製造方法で製造された銀粉は、形状が球状でなく、粒子形状に問題があった。
【0078】
【表1】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例1に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図2】実施例1に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例1に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例2に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図5】実施例2に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例2に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例3に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図8】実施例3に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図9】実施例3に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例4に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図11】実施例4に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図12】実施例4に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図13】実施例5に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図14】実施例5に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図15】実施例5に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図16】実施例6に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図17】実施例6に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図18】実施例6に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図19】実施例7に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図20】実施例7に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図21】実施例7に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図22】実施例8に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図23】実施例8に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図24】実施例8に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図25】実施例9に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図26】実施例9に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図27】実施例9に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図28】比較例1に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図29】比較例1に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図30】比較例1に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図31】比較例2に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図32】比較例2に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図33】比較例2に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図34】比較例3に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図35】比較例3に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図36】比較例3に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図37】比較例4に係る銀粉の40000倍と10000倍のSEM写真である。
【図38】比較例4に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図39】比較例4に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図40】比較例5に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【図41】比較例5に係る銀粉の湿式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図42】比較例5に係る銀粉の乾式粒度分布測定の測定結果を示すグラフである。
【図43】比較例6に係る銀粉の10000倍のSEM写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオンを含有する水性反応系へ、還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる銀粉の製造方法であって、
前記還元剤として、エアーのバブリングで分解可能なものを用い、
前記銀粒子の還元析出前または還元析出中に、第一アミンおよび/または第二アミンを有する高分子アミンを添加することを特徴とする銀粉の製造方法。
【請求項2】
前記還元剤が、ヒドラジンであることを特徴とする請求項1に記載の銀粉の製造方法。
【請求項3】
前記高分子アミンが、イミン化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の銀粉の製造方法。
【請求項4】
前記高分子アミンが、ポリエチレンイミンであることを特徴とする請求項1または2に記載の銀粉の製造方法。
【請求項5】
前記高分子アミンが、ポリアリルアミンであることを特徴とする請求項1または2に記載の銀粉の製造方法。
【請求項6】
前記高分子アミンが、ポリリジンであることを特徴とする請求項1または2に記載の銀粉の製造方法。
【請求項7】
前記高分子アミンの分子量が1000以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【請求項8】
前記高分子アミンの添加量が、銀の仕込量に対して、0.2質量%以上であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【請求項9】
前記銀イオンを含有する水性反応系が、銀のアンミン錯体を含有する水溶液であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【請求項1】
銀イオンを含有する水性反応系へ、還元剤を添加して銀粒子を還元析出させる銀粉の製造方法であって、
前記還元剤として、エアーのバブリングで分解可能なものを用い、
前記銀粒子の還元析出前または還元析出中に、第一アミンおよび/または第二アミンを有する高分子アミンを添加することを特徴とする銀粉の製造方法。
【請求項2】
前記還元剤が、ヒドラジンであることを特徴とする請求項1に記載の銀粉の製造方法。
【請求項3】
前記高分子アミンが、イミン化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の銀粉の製造方法。
【請求項4】
前記高分子アミンが、ポリエチレンイミンであることを特徴とする請求項1または2に記載の銀粉の製造方法。
【請求項5】
前記高分子アミンが、ポリアリルアミンであることを特徴とする請求項1または2に記載の銀粉の製造方法。
【請求項6】
前記高分子アミンが、ポリリジンであることを特徴とする請求項1または2に記載の銀粉の製造方法。
【請求項7】
前記高分子アミンの分子量が1000以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【請求項8】
前記高分子アミンの添加量が、銀の仕込量に対して、0.2質量%以上であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【請求項9】
前記銀イオンを含有する水性反応系が、銀のアンミン錯体を含有する水溶液であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図23】
【図24】
【図26】
【図27】
【図29】
【図30】
【図32】
【図33】
【図35】
【図36】
【図38】
【図39】
【図41】
【図42】
【図1】
【図4】
【図7】
【図10】
【図13】
【図16】
【図19】
【図22】
【図25】
【図28】
【図31】
【図34】
【図37】
【図40】
【図43】
【図3】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図23】
【図24】
【図26】
【図27】
【図29】
【図30】
【図32】
【図33】
【図35】
【図36】
【図38】
【図39】
【図41】
【図42】
【図1】
【図4】
【図7】
【図10】
【図13】
【図16】
【図19】
【図22】
【図25】
【図28】
【図31】
【図34】
【図37】
【図40】
【図43】
【公開番号】特開2009−221591(P2009−221591A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219899(P2008−219899)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】
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