説明

銀色光沢顔料

【課題】多層被覆した小板状基質に基づく銀色光沢顔料を提供する。
【解決手段】本発明は、多層被覆した小板状基質に基づく銀色光沢顔料において、
(A)TiOから成り、5〜200nmの厚さを有する高屈折性被膜、
(B)n≦1.8の屈折率および10〜300nmの厚さを有する無色被膜、
(C)TiOから成り、5〜200nmの厚さを有する高屈折性被膜
の層配列を少なくとも1つ含み、
および、任意に
(D)外側保護層
を少なくとも1つ含む、銀色光沢顔料並びに、この塗料、被膜、セキュリティー印刷インクを含む印刷インク、プラスチック、セラミック材料、ガラスおよび化粧品配合物における、並びに顔料調製物および乾燥製品形態の製造のための使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層被覆した小板状基質に基づく銀色光沢顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
光沢顔料またはエフェクト顔料(effect pigment)は、工業、特に自動車塗装、装飾塗装、プラスチック、塗料、印刷インクおよび化粧品配合物において、広範囲に用いられている。
多くの干渉色の間の角度依存により色相が変化する光沢顔料は、色の交錯を有し、これにより、これらが、自動車塗装および偽造防止用途に特に有用になる。
【0003】
従来技術には、真珠光沢顔料を調製して、これにより、高いおよび低い屈折率の交互層を、微細に分割された基質に設けることができるプロセスが開示されている。多層被覆した小板状基質に基づくこのような顔料は、例えば、U.S.4,434,010、JP H7−759、U.S.3,438,796、U.S.5,135,812、DE 44 05 494、DE 44 37 753、DE 195 16 181およびDE 195 15 988から知られている。
【0004】
この意味において特に重要なのは、鉱物に基づく真珠光沢顔料である。真珠光沢顔料は、無機小板状支持体を高い屈折性の、通常は酸化物層で被覆することにより、製造される。これらの顔料の色は、波長の選択性部分の反射および媒体/酸化物または酸化物/基質境界における反射または透過光の干渉により発生する。
【0005】
これらの顔料の干渉色は、酸化物層の厚さにより決定される。干渉銀顔料の色相は、光学的厚さが可視波長範囲中の約500nmにおいて反射最大(一次オーダー)を生じる、単一の(光学的意味における)高屈折性層により生じる。約500nmの波長は、人の目によって、緑色として知覚される。しかし、この波長軸に沿ったこの最大の強度曲線は、極めて広いため、多くの光が、人の目が知覚するものが極めて明るいが無色であるという全体の可視光線範囲で反射される。
【0006】
薄層の光学の法則−特に光学素子の被覆からよく知られている−は、干渉最大における強度が、単一層系と比較して、約60%迄増大することを予測する。従って、干渉により反射された光のプロフィルは、有意に一層顕著になり、従ってこのような多層系は、緑色の反射色を有することが予測される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで、驚異的なことに、透明な基質小板上の交互のTiOの高屈折性層および低屈折性層の形態の実際の干渉系が、緑色ではなく、ある層の厚さにおいて、銀色として知覚されることが見いだされた。
【0008】
従って、本発明は、多層被覆した小板状基質に基づく銀色光沢顔料において、
(A)TiOから成り、5〜200nmの厚さを有する高屈折性被膜、
(B)n≦1.8の屈折率および10〜300nmの厚さを有する無色被膜、
(C)TiOから成り、5〜200nmの厚さを有する高屈折性被膜
の層配列を少なくとも1つ含み、
および、任意に
(D)外側保護層
を少なくとも1つ含む、銀色光沢顔料を提供する。
【0009】
本発明の銀色顔料は、
−急峻な視角において一層強い、特に金属光沢、
−平坦な視角において一層高い透明度および
−一層明るいマストーン(masstone)色
のため、銀色領域において在来の真珠光沢顔料より優れている。
【0010】
本発明はさらに、本発明の銀色顔料の、塗料、塗膜、印刷インク、プラスチック、セラミック材料、ガラスおよび化粧品組成物、特に印刷インクにおける使用を提供する。本発明の顔料はまた、顔料配合物を調製するのに、およびまた乾燥製品形態、例えば顆粒、チップ、ペレット、ブリケット(briquettes)等を製造するのに有用である。乾燥製品形態は、特に印刷インクのために有用である。
【0011】
本発明の多層顔料に有用なベース基質は、選択的および非選択的吸収小板状基質である。好ましい基質は、シート状ケイ酸塩である。特に有用なのは、天然および/または合成雲母、タルク、カオリン、小板状鉄または酸化アルミニウム、ガラス小板、SiO小板、TiO小板、グラファイト小板、合成支持体非含有小板、窒化チタン、ケイ化チタン、液晶重合体(LCP)、ホログラフィー顔料、BiOCl、小板状混合酸化物、例えばFeTiO、FeTiOまたは他の相当する物質である。
【0012】
ベース基質の大きさは、それ自体臨界的なものではなく、特定の最終的な使用に適合させることができる。一般的に、小板状基質は、厚さが、0.005〜10μm、特に0.05〜5μmである。他の2つの寸法において、これらは、通常、1〜500μm、好ましくは2〜200μm、特に5〜60μmの範囲内である。
【0013】
高い屈折率または低い屈折率を有する個々の層(A)および(B)および(C)のベース基質上での厚さは、顔料の光学的特性に必須である。強い光沢効果を有する銀顔料を得るために、個別の層の厚さを、互いに精密に調整しなければならない。
【0014】
層(A)または(C)の厚さは、5〜200nm、好ましくは10〜100nm、特に20〜70nmである。TiO層(A)および(C)は、同一または異なる厚さを有することができる。層(B)の厚さは、10〜300nm、好ましくは20〜100nm、特に30〜80nmである。
【0015】
顔料は、多層の同一のまたは異なる層の束の組み合わせを含むことができるが、基質を、1つのみの層の束(A)+(B)+(C)+随意に(D)で被覆するのが好ましい。色強度を強化するために、本発明の顔料は、4層までの束を含むことができるが、この場合において基質上のすべての層の厚さは、3μmを超えてはならない。奇数個の層を、最も内側および最も外側の両方に高屈折性層を有する小板状基質に設けるのが好ましい。特に好ましいのは、3種の光学的干渉層の(A)(B)(C)の配列での構成である。
【0016】
被膜(B)として有用な無色の低い屈折率の材料は、好ましくは、金属酸化物またはこれらの対応するオキシ水化物(oxyhydrate)、例えばSiO、Al、AlO(OH)、B、MgF、MgSiOまたはこれらの混合物である。層(B)は、特にSiO層である。
本発明の顔料は、精密に定められた厚さ並びに微細に分割された小板状基質上の平滑な表面を有する複数の高および低屈折率干渉層を生成することにより、容易に製造される。
【0017】
金属酸化物層は、好ましくは、湿式化学的に、例えば真珠光沢顔料を製造するために開発された湿式化学的被覆方法を用いることにより、設ける。このような方法は、例えば、DE 14 67 468、DE 19 59 988、DE 20 09 566、DE 22 14 545、DE 22 15 191、DE 22 44 298、DE 23 13 331、DE 25 22 572、DE 31 37 808、DE 31 37 809、DE 31 51 343、DE 31 51 354、DE 31 51 355、DE 32 11 602、DE 32 35 017または他の当業者に知られている特許文献および他の刊行物に記載されている。
【0018】
湿式被覆において、基質粒子を、水中に懸濁させ、そして金属酸化物またはオキシ水化物が共沈殿を発生させずに小板上に直接沈殿するように選択された適切な加水分解pHにおいて、1種または2種以上の加水分解可能な金属塩またはケイ酸塩溶液と混合する。pHを、一般的に、塩基および/または酸の同時計量添加により、一定に維持する。次に、顔料を分離除去し、洗浄し、50〜150℃で6〜18時間乾燥し、随意に0.5〜3時間焼成し、この場合において、焼成温度を、存在する特定の被膜に関して最適化することができる。一般的に、焼成温度は、250〜1000℃、好ましくは350〜900℃である。所望により、顔料を分離除去し、乾燥し、個々の被膜を設けた後に随意に焼成し、次に再懸濁して他の層を沈殿させることができる。
【0019】
さらに、被覆を、気相被覆により流動床反応器中で実施することもでき、この場合において、例えば、真珠光沢顔料を製造するためにEP 0 045 851およびEP 0 106 235において提案された方法を、適切に変えて用いることができる。
顔料の色相を、被覆速度および得られた層の厚さを変化させることにより、銀効果を得ることを条件として、極めて広い限定の中で変化させることができる。純粋に定量的な手段を超えて、ある色調についての微細な調整を、視覚的または器械による制御の下で所望の色に近づけることにより、達成することができる。
【0020】
耐光、耐水、耐候性を増大させるために、使用の分野に依存して、容易に製造される顔料に後被覆または後処理を施すことが、しばしば適切である。有用な後被覆または後処理には、例えば、DE−C 22 15 191、DE−A31 51 354、DE−A 32 35 017またはDE−A 33 34 598に記載されている方法が含まれる。この後被覆(層D)はさらに、化学安定性を高めるか、または顔料の取り扱い、特にこの種々の媒体中への導入を容易にする。
【0021】
本発明の顔料は、好ましくは塗膜、塗料および印刷インクの分野において、多くのカラーシステムに適合する。例えば凹刻印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、オフセット刷り込み被覆のための印刷インクを製造するために、多くの適切なバインダー、特に例えばBASF, Marabu, Proll, Sericol, Hartmann, Gebr. Schmidt, Sicpa, Aarberg, Siegberg, GSB-Wahl, Follmann, RucoまたはCoates Screen INKS GmbH社等により販売されている水溶性グレードがある。印刷インクは、ウォーターボーン(waterborne)、またはソルベントボーン(solventborne)であることができる。さらに、顔料はまた、紙およびプラスチックのレーザーマーキングおよびまた農業的領域、例えば温室フィルム、およびまた例えば防水シートの着色用の用途に有用である。
【0022】
本発明の銀顔料は、優れた光沢を、高い透明性および中間のマストーン色と組み合わせているため、これを、種々の用途媒体、例えば化粧品配合物、例えば爪マニキュア液、リップスティック、コンパクトパウダー、ゲル、ローション、石鹸、歯磨き粉、塗膜、例えば自動車塗膜、工業塗膜およびパウダーコーティング、並びにまたプラスチック、セラミックスおよび趣味の領域、窓の着色において特に有効な効果を得るために用いることができる。
【0023】
種々の最終的使用のために、多層顔料はまた、有機染料、有機顔料または他の顔料、例えば透明および隠ぺい白色、着色および黒色顔料と配合して、並びにまた小板状酸化鉄、有機顔料、ホログラフィー顔料、LCP(液晶重合体)および金属酸化物被覆雲母およびSiO小板等に基づく従来の透明な着色および黒色光沢顔料と配合して有利に用いることができることは、容易に理解される。多層顔料を、市場で入手できる顔料および充填剤と、任意の割合で配合することができる。
【0024】
本発明の顔料は、さらに、流動可能な顔料調製物および乾燥製品形態を製造するために、特に本発明の1種または2種以上の顔料、バインダーおよび随意に1種または2種以上の添加物を含む印刷インクのために有用である。
従って、本発明はまた、配合物、例えば塗料、偽造防止用印刷インクを含む印刷インク、塗膜、プラスチック、セラミック材料、ガラスおよび化粧品配合物における顔料の使用を提供する。
【実施例】
【0025】
ここで、以下の例は、本発明を一層特定的に、しかし本発明を限定せずに記載する。
【0026】

例1
2lの脱塩水中の粒度が10〜60μmの雲母100gを、75℃に加熱した。この温度を達成した際に、90gの水に溶解したSnClx5HO3gの溶液を、かきまぜながら次第に雲母懸濁液中に計量して供給した。pHを、32%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて2.0に一定に維持した。次に、pHを1.8に低下させ、このpHにおいて270gの32%TiCl溶液を計量してpHを、32%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて一定に維持しながら供給した。次にpHを7.5に上昇させ、このpHにおいて、270gのケイ酸ナトリウム溶液(13.5重量%のSiO)を徐々に計量してpHを、10%HClを用いて7.5に一定に維持しながら供給した。最後に、300gの32%TiCl溶液を、pH1.8において加えた。pH1.8で0.5時間かきまぜた後、被覆された雲母顔料を濾別し、洗浄し、110℃で16時間乾燥した。最後に、顔料を800℃で1時間焼成した。
【0027】
例2
2lの脱塩水中の粒度が10〜60μmの雲母100gを、75℃に加熱した。この温度を達成した際に、90gの水に溶解したSnClx5HO3gの溶液を、激しくかきまぜながら徐々に雲母懸濁液中に計量して供給した。pHを、32%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて2.0に一定に維持した。次に、pHを1.8に低下させ、このpHにおいて380gの32%TiCl溶液を計量してpHを、32%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて一定に維持しながら供給した。次にpHを7.5に上昇させ、このpHにおいて、380gのケイ酸ナトリウム溶液(13.5重量%のSiO)を徐々に計量してpHを、10%HClを用いて7.5に一定に維持しながら供給した。最後に、380gの32%TiCl溶液を、pH1.8において加えた。pH1.8で0.5時間かきまぜた後、被覆された雲母顔料を濾別し、洗浄し、110℃で16時間乾燥した。最後に、顔料を800℃で1時間焼成した。
【0028】
例3
2lの脱塩水中の粒度が10〜60μmの雲母100gを、75℃に加熱した。この温度を達成した際に、90gの水に溶解したSnClx5HO3gの溶液を、激しくかきまぜながら徐々に雲母懸濁液中に計量して供給した。pHを、32%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて2.0に一定に維持した。次に、pHを1.8に低下させ、このpHにおいて220gの32%TiCl溶液を計量してpHを、32%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて一定に維持しながら供給した。次にpHを7.5に上昇させ、このpHにおいて、215gのケイ酸ナトリウム溶液(13.5重量%のSiO)を徐々に計量してpHを、10%HClを用いて7.5に一定に維持しながら供給した。最後に、300gの32%TiCl溶液を、pH1.8において加えた。pH1.8で2.5時間かきまぜた後、被覆された雲母顔料を濾別し、洗浄し、110℃で16時間乾燥した。最後に、顔料を800℃で1時間焼成した。
【0029】
例4
2lの脱塩水中の粒度が10〜60μmの雲母100gを、75℃に加熱した。この温度を達成した際に、330gの32%TiCl溶液を計量してpHを、32%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて一定に維持しながら供給した。次にpHを7.5に上昇させ、このpHにおいて、270gのケイ酸ナトリウム溶液(13.5重量%のSiO)を徐々に計量してpHを、10%HClを用いて7.5に一定に維持しながら供給した。最後に、250gの32%TiCl溶液を、pH2.2において加えた。pH2.2で5時間かきまぜた後、被覆された雲母顔料を濾別し、洗浄し、110℃で16時間乾燥した。最後に、銀顔料を800℃で1時間焼成した。
【0030】
以下の表は、本発明の顔料の、従来技術を表す銀顔料と比較した比色データ(光沢22.5°/22.5°を有する黒地背景に対して測定したPhyma−Lab値)を示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層被覆した小板状基質に基づく銀色光沢顔料において、
(A)TiOから成り、5〜200nmの厚さを有する高屈折性被膜、
(B)n≦1.8の屈折率および10〜300nmの厚さを有する無色被膜、
(C)TiOから成り、5〜200nmの厚さを有する高屈折性被膜
の層配列を少なくとも1組含み、
および、任意に
(D)外側保護層
を少なくとも1つ含む、銀色光沢顔料。
【請求項2】
小板状基質が、天然または合成雲母、ガラス小板、Al小板、SiO小板またはTiO小板であることを特徴とする、請求項1に記載の光沢顔料。
【請求項3】
層(B)が、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、フッ化マグネシウムまたはこの混合物から本質的になることを特徴とする、請求項1または2に記載の光沢顔料。
【請求項4】
層配列(A)+(B)+(C)を、4回まで含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の光沢顔料。
【請求項5】
層配列(A)+(B)+(C)を、1回のみ含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の光沢顔料。
【請求項6】
外側保護層(D)を含み、耐光、耐熱および耐候性を増強したことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の光沢顔料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光沢顔料を製造する方法において、基質を、水性媒体中の金属塩の加水分解により湿式化学的に被覆することを特徴とする、光沢顔料の製造方法。
【請求項8】
塗料、塗膜、偽造防止印刷インクを含む印刷インク、プラスチック、セラミック材料、ガラスおよび化粧品配合物における、並びに顔料調製物および乾燥製品形態のための、請求項1に記載の光沢顔料の使用。
【請求項9】
1種または2種以上の結合剤、随意に1種または2種以上の添加剤および1種または2種以上の請求項1に記載の光沢顔料を含む、顔料調製物。
【請求項10】
請求項1に記載の光沢顔料を含む、乾燥製品形態、例えばペレット、顆粒、チップ、ブリケット。

【公開番号】特開2013−108089(P2013−108089A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−24885(P2013−24885)
【出願日】平成25年2月12日(2013.2.12)
【分割の表示】特願2001−303064(P2001−303064)の分割
【原出願日】平成13年9月28日(2001.9.28)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】