説明

銀超微粒子含有組成物および導電性パターン作製方法

【課題】焼結工程および浸漬処理が不要であり、優れた導電性が得られる銀超微粒子含有組成物および導電性パターン作製方法を提供する。
【解決手段】水性媒体中に、平均粒径が0.1μm以下の銀超微粒子、ポリマーラテックス、および水溶性ハロゲン化物を含有することを特徴とする銀超微粒子含有組成物。およびこの銀超微粒子含有組成物を基材表面に塗布・乾燥させることによりパターンを作製し、該パターンに紫外線の照射および/または水分の再付与を行う導電性パターン作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結工程および浸漬処理が不要であり、導電性に極めて優れた導電性パターンの作製を可能にする銀超微粒子含有組成物を提供するもの、および該銀超微粒子含有組成物を使用した導電性パターン作製方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
平均粒径が1μm以下の銀超微粒子、特に0.1μm以下の銀超微粒子は、極めて高い表面エネルギーによる融点低下や、局在化表面プラズモンによる電場増強効果等の特徴を有することから、導電性材料、表面増強ラマン散乱分光、太陽電池、光輝性塗料、色材等の様々な分野での応用が期待されており、特に導電性材料としての使用検討が進んでいる。この場合、銀超微粒子は一般的に水および/または有機溶媒に分散された銀超微粒子分散液の形で使用される。
【0003】
導電性材料としての使用検討が進んでいる理由として、従来の平均粒径が1μm以上の銀粒子や銀フレーク粉末を用いた場合と異なり、極めて高い表面エネルギーにより容易な処理で粒子間の融着を促進することが出来る可能性があり、実用性の向上が期待出来ること、インクジェット方式等のノズルタイプのパターン作製装置を用いた導電性パターン作製に適していること等が挙げられる。
【0004】
このような銀超微粒子を用いた導電性材料は、例えば微細配線、RFIDアンテナや地上デジタル放送の受信アンテナ等の各種アンテナ、電磁波シールド、有機TFTのゲート、ソース、ドレイン電極、各種ディスプレイのデータ電極、アドレス電極、太陽電池の集電電極等の導電性パターン、バンプ等の端子、複数層からなるプリント配線基板における配線パターンおよび配線層間のコンタクトホールやビアホール、電子部品の電極といった導電性部材の作製用途で期待されている。これらの用途の場合、導電性材料はスピンコート塗布法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー塗布法等の各種印刷方法やディップ法等の各種塗布方法により、所望される導電性パターンあるいは導電性部材の製造が行われる。
【0005】
上記の用途に用いる導電性材料は、得られた導電性パターンあるいは導電性部材の導電性が高いことが求められ、また導電性パターンあるいは導電性部材の製造に必要なコストは低いことが好ましく、迅速な製造方法ならびに容易に作製可能な導電性材料が求められていた。
【0006】
上記のような各種印刷方法や塗布方法を用いて基材上に作製したパターンは、一般的にその段階では導電性を有さない。一般的に銀超微粒子をはじめとする金属超微粒子は、その高い表面エネルギーに起因する粒子間の意図しない融着を抑制するため、分散液中にて表面を保護剤で被覆された形で存在しており、導電性の発現のためにはこの保護剤を除去する過程が必須である。
【0007】
保護剤を除去する方法としては従来、高温での焼結が一般的であった。例えば、特開2001−35255号公報(特許文献1)には、半導体基板上に銀配線を作製する際の乾燥・焼結工程で蒸発するような有機溶媒と、平均粒径が0.01μm以下の銀含有超微粒子とを混合し、該超微粒子の表面が該有機溶媒で覆われて個々に独立して分散しており、粘度が室温で50mPa・s以下である銀超微粒子独立分散液が開示されており、300℃の温度で焼結し銀の薄膜とすることで、極めて高い導電性を得ている。
【0008】
しかし、上記のような高温を用いた保護剤の除去方法では、使用する基材は耐熱性を有する基材、例えばガラス、ポリイミド、セラミック等に限定されてしまうという課題があった。
【0009】
焼結に必要な温度を下げるため、熱以外の形で外部からエネルギーを与えることにより保護剤の除去を促進する試みはこれまでに多数行われており、例えば特開2006−26602号公報(特許文献2)では、金属超微粒子分散液の塗布・乾燥により得たパターンに対し、電子線もしくは紫外線を照射することで微粒子表面を被覆する保護剤の遊離・除去を促進し、その後200℃以下の比較的低温で焼結することで10−4Ω・cm未満の導電性を有する金属薄膜を作製する方法が開示されている。しかし10−4Ω・cm未満という値は導電性材料として必ずしも満足出来る値ではなく、該文献中では10−5Ω・cm未満の導電性を得る方法として酸発生剤や増感剤を添加しているが、取り扱いの困難性やコストの増大を招くという課題があった。
【0010】
また、特開2006−202604号公報(特許文献3)では、樹脂の硬化剤として機能する末端基を有した有機化合物を金属粒子の保護剤として使用し、紫外線もしくは電子線の照射により保護剤を脱離させ、金属粒子とともに塗布した樹脂を硬化させ、パターンを作製する方法が開示されている。しかし該文献中で10−4Ω以下の導電性を得た実施例では、パターンに対し120℃30分間という低温だが比較的長時間の焼結を行っており、実際の導電性部材の製造において単位時間あたりの製造効率の低下、コストの増大を招くという課題があった。
【0011】
これに対し、特開2008−4375号公報(特許文献4)では、保護剤で被覆された金属超微粒子に対し水溶性ハロゲン化物を作用させることで、該金属超微粒子の成長とそれに伴う相互接続の形成と推測される現象により、一切の焼結を行うことなく基材上で導電性を発現させる方法が開示されている。該文献では、水溶性ハロゲン化物を作用させる方法として、(1)基材上に水溶性ハロゲン化物そのもの、あるいはその化合物を含む層を事前に作製し、その後金属超微粒子分散液によりパターンを作製する方法、(2)金属超微粒子分散液によるパターン作製後、その上に水溶性ハロゲン化物水溶液を作用させる方法、(3)金属超微粒子分散液と水溶性ハロゲン化物水溶液をパターン作製直前に混合し、基材上にパターンを作製する方法、(4)水を含まない無極性有機溶媒中に、金属超微粒子と水溶性ハロゲン化物とを共に分散し、パターン作製後に有機溶媒を除く方法等が例示されている。該文献に従えば、高い導電性を有する導電性パターンが容易に得られる。
【0012】
以上の(1)〜(4)の方法において、特に(3)、(4)の方法は、(1)のように基材上に事前に層を作製する必要がなく、また(2)のようにパターン作製後に溶液を作用させる必要もなく簡便である。これは浸漬処理が忌避される一部電子部品実装工程で使用する導電性材料として好都合である。とりわけ、(3)の方法は(4)と比較して、水溶性ハロゲン化物を水溶液の形で添加することからより高い導電性が得られる。
【0013】
しかし、上記(3)の方法に従い作製した導電性パターンは、比較的良好な導電性を示すものの、実際に導電性材料として用いるには依然改善の余地があるものであり、より高い導電性が求められていた。
【0014】
ポリマーラテックスを導電性材料へ用いることは従来から知られており、例えば特公平7−26044号公報(特許文献5)には、ニッケルフレーク粉末とポリウレタンラテックスを含有するペイント染料の製造方法が記載されている。しかしながら最終的に得られる導電性は不十分であり、また実施例には導電性パターンの作製に周囲温度での16時間の乾燥を行うとの記載もあり、導電性材料として実用性に乏しいものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001−35255号公報
【特許文献2】特開2006−26602号公報
【特許文献3】特開2006−202604号公報
【特許文献4】特開2008−4375号公報
【特許文献5】特公平7−26044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、金属超微粒子分散液の塗布により導電性パターンを作製する方法において、焼結工程および浸漬処理が不要であり、導電性に極めて優れた導電性パターンが得られる銀超微粒子含有組成物、および導電性パターン作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の上記目的は、以下の発明によって基本的に達成された。
1.水性媒体中に、平均粒径が0.1μm以下の銀超微粒子、ポリマーラテックス、および水溶性ハロゲン化物を含有することを特徴とする銀超微粒子含有組成物。
2.前記ポリマーラテックスおよび水溶性ハロゲン化物を、下記の式を満足する範囲で含有することを特徴とする上記1記載の銀超微粒子含有組成物。
2.93<A/B<168
A:銀超微粒子含有組成物中のポリマーラテックス固形分濃度(単位:質量%)
B:水溶性ハロゲン化物質量モル濃度(単位:mol/kg)
3.上記1または2記載の銀超微粒子含有組成物を基材表面に塗布・乾燥させることによりパターンを作製し、該パターンに紫外線の照射および/または水分の再付与を行うことにより導電性を発現させることを特徴とする導電性パターン作製方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属超微粒子分散液の塗布により導電性パターンを作製する方法において、焼結工程および浸漬処理が不要であり、導電性に極めて優れた導電性パターンが得られる銀超微粒子含有組成物、および導電性パターン作製方法を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明者らは、水性媒体中に、平均粒径が0.1μm以下の銀超微粒子、ポリマーラテックス、および水溶性ハロゲン化物を含有することを特徴とする銀超微粒子含有組成物は、その塗布・乾燥により作製したパターンに高い導電性が発現し、更に紫外線の照射および/または水分の再付与を行うことによって極めて高い導電性が発現するという事実を見出した。そして銀超微粒子とポリマーラテックス、または銀超微粒子と水溶性ハロゲン化物を含む銀超微粒子含有組成物では十分な導電性が得られず、これに対し銀超微粒子含有組成物が、銀超微粒子、ポリマーラテックス、および水溶性ハロゲン化物を含むことによる相乗効果によって、極めて導電性の高い導電性パターンが得られるという事実は、当業者にとって驚くべき事実であった。その機構は不明であるが、パターン内部にポリマーラテックスおよび銀超微粒子からなる立体構造が構築されるとともに、水溶性ハロゲン化物の作用による銀超微粒子の相互接続の形成が進行し、続く該パターンへの紫外線の照射および/または水分の再付与により相互接続が完成し、その結果、極めて導電性に優れた導電性パターンが得られるものと推定される。
【0021】
本発明において水性媒体とは銀超微粒子含有組成物中の固形分以外の溶媒部分を示し、水が少なくとも80質量%以上であることを示し、好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは98質量%以上であることを意味する。水以外に含まれる溶媒としては、アルコール類、グリコール類等の水と混和性の高い有機溶媒を例示することが出来る。
【0022】
本発明で用いられる銀超微粒子とは、銀の占める割合が少なくとも50質量%以上である金属超微粒子であり、好ましくは銀の占める割合が70質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。銀以外に含まれる金属としては、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、ニッケル、ビスマスを挙げることが出来る。銀以外の金属は銀超微粒子中に含まれていても良く、銀超微粒子と銀以外の金属の超微粒子が混合していても良い。
【0023】
銀超微粒子の平均粒径は、得られる導電性の観点から0.1μm以下である。なお、銀超微粒子の平均粒径は、電子顕微鏡下での観察により求めることが出来る。詳細にはポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、銀超微粒子分散液を塗布、乾燥させ、走査型電子顕微鏡にて観察し、一定面積内に存在する100個の粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子径として平均し求める。
【0024】
銀超微粒子としては、不活性ガス中で金属を蒸発させガスとの衝突により冷却・凝縮し回収するガス中蒸発法、レーザー照射のエネルギーにより液中で蒸発・凝縮し回収するレーザーアブレーション法、水溶液中で溶液中金属イオンを還元し生成・回収する化学的還元法、有機金属化合部の熱分解による方法、金属塩化物の気相中での還元による方法、酸化物の水素中還元法等、公知の種々の方法により製造されたものを好ましく用いることが出来る。本発明においては、銀超微粒子含有組成物の作製が容易になる点より化学的還元法で作製されたものがより好ましい。
【0025】
本発明で用いられるポリマーラテックスについて説明する。本発明においては水性媒体を使用するため、ポリマーラテックスとしては、単独重合体や共重合体等各種公知のラテックスの水分散物であるエマルジョンを用いることが好ましい。単独重合体としては酢酸ビニル、塩化ビニル、スチレン、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、メタクリロニトリル、ブタジエン、イソプレン等の重合体があり、共重合体としてはエチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・p−メトオキシスチレン共重合体、スチレン・酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル・塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル・マレイン酸ジエチル共重合体、メチルメタクリレート・アクリロニトリル共重合体、メチルメタクリレート・ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート・スチレン共重合体、メチルメタクリレート・酢酸ビニル共重合体、メチルメタクリレート・塩化ビニリデン共重合体、メチルアクリレート・アクリロニトリル共重合体、メチルアクリレート・ブタジエン共重合体、メチルアクリレート・スチレン共重合体、メチルアクリレート・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸・ブチルアクリレート共重合体、メチルアクリレート・塩化ビニル共重合体、ブチルアクリレート・スチレン共重合体、エチレン塩化ビニル共重合体、ポリエステル、各種ポリウレタン等がある。この中でもポリエステルラテックス、アクリルラテックスおよびポリウレタンラテックスを用いることが好ましく、更に導電性の観点からポリウレタンラテックスが好ましい。ポリマーラテックスの平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、更に好ましくは0.02〜5μmである。なお、得られる導電性の観点よりポリマーラテックスの平均粒径は銀超微粒子よりも大きい方が好ましい。
【0026】
本発明で用いられる水溶性ハロゲン化物としては、ハロゲン化水素、無機塩類等を挙げることが出来る。ハロゲン化水素として、塩酸、臭化水素酸等を挙げることが出来る。無機塩類として、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、ジルコニウム塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等を挙げることが出来る。例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化アンモニウム、沃化リチウム、沃化ナトリウム、沃化カリウム等を挙げることが出来る。
【0027】
例示した水溶性ハロゲン化合物は、1種または2種以上組み合わせて用いることが出来る。得られる導電性の観点より、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウムが特に好ましい。
【0028】
ポリマーラテックスおよび水溶性ハロゲン化物の含有量としては、下記の式を満足することが好ましい。
2.93<A/B<168
A:銀超微粒子含有組成物中のポリマーラテックス固形分濃度(単位:質量%)
B:水溶性ハロゲン化物質量モル濃度(単位:mol/kg)
ここで水溶性ハロゲン化物質量モル濃度とは、水溶性ハロゲン化物の物質量を、銀超微粒子含有組成物の全質量から銀、ポリマーラテックス固形分、水溶性ハロゲン化物等の溶質の質量を差し引いた値で除した値を意味する。
【0029】
A/Bが上記の式を満足しない場合、つまりポリマーラテックス、水溶性ハロゲン化物のいずれかの含有量が過剰である場合、作製したパターンの導電性が低下する場合がある。また、水溶性ハロゲン化物の含有量が過剰である場合、銀超微粒子含有組成物の分散安定性が低下する場合がある。
【0030】
導電性部材を形成する基材としては、特に限定されることはなく、例えばポリエチレン・ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル・塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、トリアセテート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート・ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、セロファン、ナイロン、スチレン系樹脂、ABS樹脂等の各種樹脂類、石英ガラス、無アルカリガラス、結晶化透明ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、サファイア等の各種ガラス、Au、Ag、Pb、Al、Cr、Pt、Cu、Mo等の金属およびそれらにドーパントを加えた材料、ITO(酸化インジウム錫)、FTO、ZnO、Al、MgO、BeO、ZrO、Y、ThO、CaO等の金属酸化物、AlN、GaN、SiN等の金属窒化物、SiC、TaC等の金属炭化物、GGG(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット)、単結晶シリコン、微結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン等の無機半導体材料、ペンタセンおよびその誘導体、オリゴチオフェンおよびその誘導体、ベンゾチオフェン誘導体、テトラベンゾポルフィリンおよびその誘導体等の有機半導体材料、ポリイミドやポリパラキシレンにより形成されたゲート絶縁膜、ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等の導電性高分子、LTCCや積層セラミックコンデンサを形成するために用いられるグリーンシート類、紙等を挙げることができ、必要に応じそれらを併用しても良い。用途に応じてこれらの材料から適宜選択して、フィルム状等の可撓性基材、または剛性のある基材とすることが出来る。
【0031】
基材に用いられる紙としては特に制限はなく、一般的な紙を任意に用いることが出来る。例えば、アート紙、コート紙、板紙、上質紙等の印刷用紙、PPC用紙等の情報用紙、インクジェット用紙、ポリオレフィン樹脂被覆紙、和紙、不織布、合成紙等を挙げることが出来る。本発明においては、水溶性ハロゲン化物の拡散によるパターンの導電性低下を避けるため、非吸水性の基材を用いることが好ましい。
【0032】
本発明で得られた銀超微粒子含有組成物を基材表面へ塗布する方法としては、例えば、スクリーン印刷、ディスペンサー塗布、スピンコート塗布、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセットグラビア印刷、凸版印刷等公知の方法が挙げられる。乾燥方法は、ドライヤーや自然乾燥といった任意の方法を使用することが出来るが、導電性パターンに十分な強度を与えるためには、銀超微粒子含有組成物中に含まれるポリマーラテックスの最低造膜温度以上で乾燥を行うことが好ましい。
【0033】
本発明にてパターンに照射する紫外線には、光源として波長180〜400nmの近紫外線領域を利用することが一般に好ましい。この領域以外の、例えば青色、紫色領域の可視光(波長400〜500nm)を併用することも可能である。
【0034】
波長180〜400nmの近紫外線領域の紫外線、ならびに、波長400〜500nmの青色、紫色領域の可視光の光源としては、例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ケミカルランプ、水銀−キセノンランプ、エキシマランプ、ショートアーク灯、ヘリウム−カドニウムレーザー、アルゴンレーザー、エキシマレーザー、UV無電極ランプ、LED等が挙げられる。例えば、水銀の原子線は、184.9nm、253.7nm、365.0nm、435.8nmに輝線を示す。また、240nm〜480nmの深紫外から青色領域にピーク波長を示すLEDを挙げることが出来る。また、光源として太陽光を用いることも可能である。照射条件はそれぞれの光源によって異なるが、紫外線の照射量は10mJ/cm〜10J/cmであることが好ましい。
【0035】
また、紫外線の代わりに電子線を用いることも可能ではあるが、装置が簡便であり、設備コストも低くて良いことから、本発明においては紫外線を用いることが好ましい。
【0036】
本発明にてパターンに水分を再付与する方法としては、例えば(1)銀超微粒子含有組成物の塗布方法として例示した前述の方法を用い、水を塗布する、(2)スプレーノズルにより霧状水の噴霧を行う、(3)高湿度環境へ暴露する、といった方法が挙げられる。(3)の場合、温度は10℃から80℃が好ましく、重量絶対湿度Hとして0.01kg/kgD.A.以上あることが好ましい。
【0037】
パターンへの紫外線照射および水分の再付与は、いずれか単独で用いても導電性に極めて優れた導電性パターンが得られるが、より優れた導電性パターンを得るためには両者を併用することが好ましい。
【0038】
導電性パターンを含む導電性部材としては、例えば微細配線、近接界通信あるいは電力電送アンテナ、RFIDタグに用いられるアンテナ、GPS、地上デジタル放送の受信アンテナ等の各種アンテナ、電磁波シールド、有機TFTのゲート、ソース、ドレイン電極、各種ディスプレイのデータ電極、アドレス電極、太陽電池の集電電極や裏面電極等の導電性パターン、タッチパネルの周辺電極、メンブレンスイッチの電極、貫通シリコン電極、ボンディングパッドやバンプ等の端子類、複数層からなるプリント配線基板やインタポーザ、LTCC、HTCCにおける配線パターンおよび配線層間のコンタクトホールやビアホール、積層セラミック、タンタル等の固体コンデンサ、光導波路型デバイスにおける制御電極、SAWフィルタ電極等の各種電子部品の電極等を例示することが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0039】
また本発明で得られた銀超微粒子含有組成物に対し、ポリマー系の分散剤や界面活性剤、消泡剤、高沸点有機溶媒、増粘剤等を適宜添加し、各種の印刷および塗布方式に適した粘度、表面張力、乾燥性を有する銀ナノインク液にすることが出来る。例えば、インクジェット印刷用の銀ナノインク液として作製する場合には、公知の各種界面活性剤(例えばアルキル硫酸ナトリウム類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム類、フッ素系界面活性剤等)、乾燥を抑制するための高沸点有機溶媒(例えばエチレングリコールやプロピレングリコール、グリセリン等)、更に必要に応じ例えばシリコーン系の消泡剤、多糖類やポリアクリル酸等の増粘剤を適量添加し使用するインクジェットヘッドに適合するように作製を行う。
【0040】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。
【実施例】
【0041】
《実施例1》
2Lのステンレスビーカーに平均分子量が約30000の焙焼デキストリン(日澱化学(株)製、デキストリンNo.1−A)を54.4gと純水860gを加え、約30分間撹拌した。その後、硝酸銀131.8gを加え、更に約30分間撹拌し、完全に溶解した。この液に水酸化カリウム60.9gを純水83.9gに溶解した液を添加し、撹拌回転数400rpmの状態で60分間還元反応を実施した。還元反応が終了した銀超微粒子分散液を続いて、酢酸にてpH=5.6に調整した後、ビオザイムF10SD(天野エンザイム(株)製)を200mg添加し45℃で1時間撹拌し、残留しているデキストリンを低分子化し、7質量%の銀超微粒子分散液を得た。次に、得られた銀超微粒子分散液の精製工程として、遠心分離を実施することで、銀超微粒子と上澄み液を綺麗に分離させ、上澄み液を廃棄した。残った銀超微粒子を再分散させ、繰り返し遠心分離を実施し、上澄み液を廃棄した。その後、純水を加えて再分散し、銀超微粒子の平均粒径が0.03μm、銀濃度が47.2質量%の銀超微粒子分散液1を110g得た。
【0042】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g、ポリマーラテックスとして第一工業製薬(株)製スーパーフレックス150HS(ポリウレタンラテックス、平均粒径0.11μm、固形分38質量%)を0.64g、塩化ナトリウム濃度が2質量%の水溶液を1.42g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%、ポリマーラテックス固形分濃度が3.43質量%、水溶性ハロゲン化物質量モル濃度が0.090mol/kgの銀超微粒子含有組成物1を得た。
【0043】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%の銀超微粒子含有組成物2を得た。
【0044】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g、ポリマーラテックスとして第一工業製薬(株)製スーパーフレックス150HS(ポリウレタンラテックス、平均粒径0.11μm、固形分38質量%)を0.64g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%、ポリマーラテックス固形分濃度が3.43質量%の銀超微粒子含有組成物3を得た。
【0045】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g、塩化ナトリウム濃度が2質量%の水溶液を1.42g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%、水溶性ハロゲン化物質量モル濃度が0.086mol/kgの銀超微粒子含有組成物4を得た。
【0046】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g、ポリマーラテックスとして第一工業製薬(株)製スーパーフレックス150HS(ポリウレタンラテックス、平均粒径0.11μm、固形分38質量%)を0.02g、塩化ナトリウム濃度が1質量%の水溶液を2.27g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%、ポリマーラテックス固形分濃度が0.11質量%、水溶性ハロゲン化物質量モル濃度が0.069mol/kgの銀超微粒子含有組成物5を得た。
【0047】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g、ポリマーラテックスとして第一工業製薬(株)製スーパーフレックス150HS(ポリウレタンラテックス、平均粒径0.11μm、固形分38質量%)を0.15g、塩化ナトリウム濃度が5質量%の水溶液を1.25g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%、ポリマーラテックス固形分濃度が0.81質量%、水溶性ハロゲン化物質量モル濃度が0.19mol/kgの銀超微粒子含有組成物6を得た。
【0048】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g、ポリマーラテックスとして第一工業製薬(株)製スーパーフレックス150HS(ポリウレタンラテックス、平均粒径0.11μm、固形分38質量%)を0.29g、塩化ナトリウム濃度が1質量%の水溶液を2.27g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%、ポリマーラテックス固形分濃度が1.56質量%、水溶性ハロゲン化物質量モル濃度が0.070mol/kgの銀超微粒子含有組成物7を得た。
【0049】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g、ポリマーラテックスとしてDIC(株)製WLS−210(ポリカーボネート系ウレタンラテックス、平均粒径0.05μm、固形分35質量%)を0.69g、塩化ナトリウム濃度が1質量%の水溶液を2.27g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%、ポリマーラテックス固形分濃度が3.41質量%、水溶性ハロゲン化物質量モル濃度が0.072mol/kgの銀超微粒子含有組成物8を得た。
【0050】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g、ポリマーラテックスとして三洋化成工業(株)製ユーコートUWS−145(ポリウレタンラテックス、平均粒径0.02μm、固形分35質量%)を0.69g、塩化ナトリウム濃度が1質量%の水溶液を2.27g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%、ポリマーラテックス固形分濃度が3.41質量%、水溶性ハロゲン化物質量モル濃度が0.072mol/kgの銀超微粒子含有組成物9を得た。
【0051】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g、ポリマーラテックスとして高松油脂(株)製ペスレジンA−115G(ポリエステルラテックス、固形分25質量%)を0.97g、塩化ナトリウム濃度が1質量%の水溶液を2.27g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%、ポリマーラテックス固形分濃度が3.43質量%、水溶性ハロゲン化物質量モル濃度が0.072mol/kgの銀超微粒子含有組成物10を得た。
【0052】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g、ポリマーラテックスとして中央理化工業(株)製ES−21(アクリルラテックス、固形分43質量%)を0.57g、塩化ナトリウム濃度が1質量%の水溶液を2.27g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%、ポリマーラテックス固形分濃度が3.46質量%、水溶性ハロゲン化物質量モル濃度が0.072mol/kgの銀超微粒子含有組成物11を得た。
【0053】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g、ポリマーラテックスとして第一工業製薬(株)製スーパーフレックス150HS(ポリウレタンラテックス、平均粒径0.11μm、固形分38質量%)を1.14g、塩化アンモニウム濃度が1質量%の水溶液を2.27g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%、ポリマーラテックス固形分濃度が6.12質量%、水溶性ハロゲン化物質量モル濃度が0.082mol/kgの銀超微粒子含有組成物12を得た。
【0054】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g、ポリマーラテックスとして第一工業製薬(株)製スーパーフレックス150HS(ポリウレタンラテックス、平均粒径0.11μm、固形分38質量%)を0.64g、塩化カリウム濃度が1質量%の水溶液を1.30g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%、ポリマーラテックス固形分濃度が3.44質量%、水溶性ハロゲン化物質量モル濃度が0.032mol/kgの銀超微粒子含有組成物13を得た。
【0055】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g、ポリマーラテックスとして第一工業製薬(株)製スーパーフレックス150HS(ポリウレタンラテックス、平均粒径0.11μm、固形分38質量%)を2.0g、塩化ナトリウム濃度が5質量%の水溶液を0.46g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%、ポリマーラテックス固形分濃度が10.7質量%、水溶性ハロゲン化物質量モル濃度が0.081mol/kgの銀超微粒子含有組成物14を得た。
【0056】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g、ポリマーラテックスとして第一工業製薬(株)製スーパーフレックス150HS(ポリウレタンラテックス、平均粒径0.11μm、固形分38質量%)を2.6g、塩化ナトリウム濃度が5質量%の水溶液を0.5g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%、ポリマーラテックス固形分濃度が14質量%、水溶性ハロゲン化物質量モル濃度が0.092mol/kgの銀超微粒子含有組成物15を得た。
【0057】
銀超微粒子分散液1を3g取り、活性剤(泰光油脂化学(株)製タイポールNLES−227)を0.01g、ポリマーラテックスとして第一工業製薬(株)製スーパーフレックス150HS(ポリウレタンラテックス、平均粒径0.11μm、固形分38質量%)を3g、塩化ナトリウム濃度が5質量%の水溶液を0.46g添加し、純水で濃度調整を行い、銀濃度が20質量%、ポリマーラテックス固形分濃度が16.1質量%、水溶性ハロゲン化物質量モル濃度が0.088mol/kgの銀超微粒子含有組成物16を得た。
【0058】
銀超微粒子含有組成物1を、コロナ処理を施した厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂(株)製)上にワイヤーバーを用いて、銀の塗布量が1mあたり2.0gとなるよう塗布・乾燥し、導電性パターン1を得た。
【0059】
上記導電性パターン1に対し紫外線(253.7nm、365.0nmの輝線を有する)を1.1J/m照射し、導電性パターン2を得た。
【0060】
上記導電性パターン1を50℃80%RH(重量絶対湿度H=0.067kg/kgD.A.)の高湿条件下にて5分間放置し、導電性パターン3を得た。
【0061】
上記導電性パターン1に対し紫外線(253.7nm、365.0nmの輝線を有する)を1.1J/m照射し、その後50℃80%RH(重量絶対湿度H=0.067kg/kgD.A.)の高湿条件下にて5分間放置し、導電性パターン4を得た。
【0062】
銀超微粒子含有組成物2〜16を、コロナ処理を施した厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂(株)製)上にワイヤーバーを用いて、銀の塗布量が1mあたり2.0gとなるよう塗布・乾燥し、その後紫外線(253.7nm、365.0nmの輝線を有する)を1.1J/m照射し、続いて50℃80%RH(重量絶対湿度H=0.067kg/kgD.A.)の高湿条件下にて5分間放置し、導電性パターン5〜19を得た。
【0063】
《実施例2》
銀超微粒子含有組成物1〜4を、コート紙(三菱製紙(株)製、坪量157.0g/m)上にワイヤーバーを用いて、銀の塗布量が1mあたり2.0gとなるよう塗布・乾燥し、その後紫外線(253.7nm、365.0nmの輝線を有する)を1.1J/m照射し、続いて50℃80%RH(重量絶対湿度H=0.067kg/kgD.A.)の高湿条件下にて5分間放置し、導電性パターン20〜23を得た。
【0064】
<導電性の評価>
上記導電性パターン1〜19、20〜23それぞれについて、(株)ダイアインスツルメンツ製ロレスターGPを用いて電気抵抗値を測定した。各パターンのA/B値および試験結果を表1および表2に示す。A、Bはそれぞれ該銀超微粒子含有組成物中のポリマーラテックス固形分濃度(単位:質量%)、水溶性ハロゲン化物質量モル濃度(単位:mol/kg)である。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表1および表2の結果より明らかなように、本発明によって、焼結処理および浸漬処理を行わなくても優れた導電性が得られることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中に、平均粒径が0.1μm以下の銀超微粒子、ポリマーラテックス、および水溶性ハロゲン化物を含有することを特徴とする銀超微粒子含有組成物。
【請求項2】
前記ポリマーラテックスおよび水溶性ハロゲン化物を、下記の式を満足する範囲で含有することを特徴とする請求項1記載の銀超微粒子含有組成物。
2.93<A/B<168
A:銀超微粒子含有組成物中のポリマーラテックス固形分濃度(単位:質量%)
B:水溶性ハロゲン化物質量モル濃度(単位:mol/kg)
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の銀超微粒子含有組成物を基材表面に塗布・乾燥させることによりパターンを作製し、該パターンに紫外線の照射および/または水分の再付与を行うことにより導電性を発現させることを特徴とする導電性パターン作製方法。

【公開番号】特開2011−159392(P2011−159392A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17718(P2010−17718)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】