説明

銀鏡およびその製造方法

本発明は、環境に有害な物質を使用せず、より単純な膜構成で、高温高湿環境下での実用的な耐久性に優れ、しかも可視領域で98%以上の分光反射率を有する銀鏡を提供することを課題とする。 本発明は、例えば図1に示すように、基体1上に少なくとも反射膜として銀膜3が形成されてなる銀鏡において、前記銀膜3の両面に直接酸化アルミニウムを主体とする膜2、4が形成された構造を有することを特徴とする。また、前記銀膜3の両面側に形成された酸化アルミニウムを主体とする膜2、4が、いずれも膜密度がバルク比0.95以上(好ましくはバルク比0.97以上)の膜であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、銀鏡およびその製造方法等に関する。
【背景技術】
銀鏡は反射率が高く分光反射特性がフラットであるという特性を有するが、耐腐食性に問題があるので実用化が基本的に難しい。
特に、高温高湿環境下での耐久性が要求される液晶プロジェクター等の内部部品として使用される銀鏡の場合、実用的な耐久性があると考えられるものは数える程度しかない。
液晶プロジェクター等の内部部品として使用される銀鏡として実用的な耐久性があり使用実績があるものとして、バルツェルス社の特開平6−313803号公報(特許文献1)に記載の銀鏡が知られている。この銀鏡は、銀層の上下に直接又は他の層を介してZnSなどの誘電体材料層を設けて高温高湿環境下での実用的な耐久性を向上させている。具体的な膜構成は、例えば、基材/ZnS/Ag/遮蔽層(MgF、Y等)/ZnSかあるいはさらに他の層を介在させた構成である。
しかしながら、特開平6−313803号公報(特許文献1)に記載の銀鏡は、銀鏡としての高反射率は維持しているものの、銀膜とZnS膜との間に好ましくない反応が起こらないようにするため遮蔽層(中間層)を必要としているので、膜構造が複雑であるという問題がある。また、ZnSのような環境に有害な物質を使用しなければならない点が難点である。さらに、ZnSの使用は、装置の老朽化を早め、排気ポンプに対する負荷が大きく(排気ポンプの寿命が短い)、ZnS使うと専用装置になるので他の成膜に使用できない(Sは亜硫酸ガス等の有毒なイオウ化合物を発生するため)、といった問題がある。
液晶プロジェクター等の光学機器の内部部品として使用される銀鏡として実用的な耐久性があると考えられるものとして、特開平5−127004号公報(特許文献2)記載の銀鏡が挙げられる。具体的な膜構成は、基板/下地層/Cr膜/Ag膜/Cr膜/保護層である。
しかしながら、特開平5−127004号公報(特許文献2)記載の銀鏡は、クロム膜の影響で分光反射率が低下し銀鏡の最大の利点である高反射率が損なわれるという致命的な問題がある。また、膜構造が非常に複雑であるという問題がある。さらに、クロムは環境に有害な物質(Cr単体は無害であるが有害物質である6価クロムに変化する)であるという問題がある。
本発明は上述した背景の下になされたものであり、環境に有害な物質を使用せず、より単純な膜構成で、高温高湿環境下での実用的な耐久性に優れ、しかも銀鏡としての高反射率を特開平6−313803号公報に記載の銀鏡と同等以上に維持できる銀鏡の提供を目的とする。
【発明の開示】
本発明の請求項1記載の発明は、基体上に少なくとも反射膜として銀膜が形成されてなる銀鏡において、前記銀膜の両面に直接酸化アルミニウムを主体とする膜が形成された構造を有し、前記銀膜の両面側に形成された酸化アルミニウムを主体とする膜が、いずれも膜密度がバルク比0.95以上の膜であるすることを特徴とする。ここで膜密度がバルク比0.95以上の膜は、γ−アルミナ密度(ργ−Al2O3=3.99g/cm)の膜状態での見掛け比重(×0.95)が3.79g/cm以上の膜でもある。
本発明者らは、第1に、銀膜の両面側に形成された酸化アルミニウムを主体とする膜が、いずれも膜密度がバルク比0.95以上(好ましくはバルク比0.97以上)の膜とすることによって、高温高湿環境下での耐久性が要求される液晶プロジェクターやデジタルライトプロセッサー(DLP)等の内部部品として本発明の銀鏡が使用された場合であっても、実用上十分な耐熱性・耐湿性を有することを見い出した。しかも、本発明の銀鏡は、ZnSやCrなどの環境に有害な物質を使用せずに高温高湿環境下での実用上十分な耐熱性・耐湿性を実現できるものである。また、膜密度がバルク比0.95以上(好ましくはバルク比0.97以上)の酸化アルミニウムを主体とする膜の膜付着強度は、実用上十分な膜付着強度を有していることを見い出した。本発明では、具体的には、テープ剥離試験(JIS D0202)において、JIS1級、耐熱・耐湿試験後におけるテープ剥離試験において、JIS3級ともに、膜の剥がれのない膜付着強度を有していることが好ましい。
前記高温高湿環境下での実用上十分な耐熱性・耐湿性を実現できる理由は、通常の蒸着膜に比べ酸化アルミニウムを主体とする上記所定密度以上の緻密な膜を形成しているため耐湿性・耐熱性が向上するものと考えられる。従来の銀鏡では、銀膜の上層又は下層の一方に通常の蒸着法によってAl膜を形成することは知られているが、銀膜の上層又は下層の一方に形成しても本発明の効果は得られず、通常の蒸着法によって銀膜の両面にAl膜を形成したとしても本発明の効果は得られない。さらに、従来のAl層を有する銀鏡では、カメラ、複写機、プリンタ、望遠鏡等の比較的低温で使用される用途しか意図していない(液晶プロジェクターやDLP等の用途を意図して開発されていない)ので、通常の蒸着法によるAlである程度の耐熱性・耐湿性等を実現できれば十分であったという背景がある。
本発明者らは、第2に、銀膜の両面に直接酸化アルミニウムを主体とする上記所定密度以上の緻密な膜が形成された構造を有すること、即ち銀膜が酸化アルミニウムを主体とする上記所定密度以上の緻密な膜でサンドイッチされた構造とすることによって、例えば200℃の高温下に長時間(例えば24時間)おかれた場合であっても、熱によってAgが凝集して(集まって)ピンホールができ、反射率が低下することを抑制・防止できることを見い出した。この理由は明らかではないが、銀膜の上層及び/又は下層を他の層と置き換えると熱によってAgが凝集してピンホールが発生することから、本発明による酸化アルミニウムを主体とする所定密度以上の緻密な膜と銀膜との親和性が良く、銀膜の上層及び下層に形成された2つの酸化アルミニウムを主体とする所定密度以上の緻密な膜の相乗効果によって、熱によるAgの凝集を抑制・防止する作用が発揮されるものと考えられる。なお、通常の蒸着法によって銀膜の両面にAl膜を形成したとしてもかかる効果は得られない。
本発明の請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記銀膜の両面側に形成された酸化アルミニウムを主体とする膜が、いずれももスパッタリング法、RF蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト蒸着法(Ion Beam Assisted Deposition)、クラスターイオンビーム(Ionized Cluster Beam)蒸着法、又は、プラズマイオンビーム蒸着法によって形成された膜であることを特徴とする。
本発明者らは、銀膜の両面側に形成された酸化アルミニウムを主体とする膜が、いずれも上記方法によって形成された膜とすることによって、膜密度がバルク比0.95以上(更にはバルク比0.97以上)の酸化アルミニウムを主体とする膜が得られ、高温高湿環境下での耐久性が要求される液晶プロジェクターやDLP等の内部部品として本発明の銀鏡が使用された場合であっても、実用上十分な耐熱性・耐湿性を有することを見い出した。しかも、上記方法によって形成された膜は、実用上十分な膜付着強度を実現できる。
本発明において、上記方法によって形成された酸化アルミニウムを主体とする膜は、通常の蒸着膜に比べ、緻密度が高く、膜密度がバルク比0.95以上(更にはバルク比0.97以上)の酸化アルミニウムを主体とする膜を得ることができ、耐湿性が高く、酸素等の透過性が低く、耐熱性が高く、屈折率が高く、密度が高く、光学特性(透過率・反射率)が良好で、膜質が良好である。
本発明の請求項3記載の発明は、上記本発明において、前記銀膜の両面側に形成された酸化アルミニウムを主体とする膜の双方又はいずれか一方が、アルミニウム、酸素、窒素を含む膜であることを特徴とする。
本発明者らは、銀膜の両面側に形成された酸化アルミニウムを主体とする膜の双方又はいずれか一方が、アルミニウム、酸素、窒素を含む膜とすることによって、高温高湿環境下での耐久性が要求される液晶プロジェクターやDLP等の内部部品として本発明の銀鏡が使用された場合であっても、実用上十分な耐熱性・耐湿性を有することを見い出した。しかも、このアルミニウム、酸素、窒素を含む酸化アルミニウムを主体とする膜は、実用上十分な膜付着強度を実現できる。
本発明の請求項4記載の発明は、上記請求項1〜3記載の銀鏡において、基体とは反対側の酸化アルミニウムを主体とする膜上に、分光反射率を向上させるための層を設けたことを特徴とする。
請求項1〜3記載の発明では、上層側(基体とは反対側)の酸化アルミニウムを主体とする膜により短波長側(400nm付近)の分光反射率は低下するが、請求項4記載の発明では、分光反射率を向上させるための層によって分光反射率の低下を抑えることでき、したがって優れた短波長側の分光反射率を実現できる。
具体的には、短波長側の分光反射率は、上層側の酸化アルミニウムを主体とする膜と、その上に成膜するSiOなどの低屈折率物質膜(L)と、TiO、Ta、Nbなどの高屈折率物質膜(H)との各膜厚を調整することで調整できる(図1参照)。L,Hの順番はどちらが先でもよいが、酸化アルミニウムを主体とする膜/L/Hの順番の方が分光反射率は優れる。酸化アルミニウムを主体とする膜/H/Lの順番の場合は分光反射率は多少低下するが、物理的な膜強度は向上する。一番単純な構成の場合、酸化アルミニウムを主体とする膜/Hだけでも高い分光反射率(高反射率)を実現できる。L/Hを2度3度繰り返し積層すことによりさらに高反射鏡とすることができる。
酸化アルミニウムを主体とする膜/L/Hの順番の場合、可視光域で平均98%以上の分光反射率を実現でき、銀鏡としての高反射率を特開平6−313803号公報に記載の銀鏡と同等以上に維持できる(請求項5)。
なお、本発明において、下層側の酸化アルミニウムを主体とする膜は、密着性向上や基板ガラスから溶出するアルカリの進入を防ぐ役割も果たす。
本発明の請求項6記載の発明は、上記請求項1〜5のいずれか1項に記載の銀鏡において、前記銀鏡が、液晶プロジェクターやDLP等の光学機器の内部部品として使用される銀鏡であることを特徴とする。
請求項6記載の発明は、本発明の銀鏡が、液晶プロジェクターやDLPの内部部品として使用される銀鏡として特に適しこの用途における膜構成の単純化を初めて実現したものであるため規定したものである。なお、本発明の銀鏡は、高温高湿環境下での実用上十分な耐熱性・耐湿性を要求される他の光学製品の用途にも特に適する。本発明の銀鏡は、高温高湿環境下での実用上十分な耐熱性・耐湿性を有する結果として、それほど過酷な環境下で使用されることのない他の光学製品や光学機器の用途にも使用することができ、この場合従来に比べ耐久性や信頼性を飛躍的に向上させることが可能である。
本発明の請求項7記載の発明は、上記請求項1〜6のいずれか1項に記載の銀鏡の製造方法であって、銀鏡を構成する全ての膜を大気中に開放することなく連続成膜し、かつ、銀膜の両面側に形成する酸化アルミニウムを主体とする膜は、いずれもスパッタリング法、RF蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト蒸着法(Ion Beam Assisted Deposition)、クラスターイオンビーム(Ionized Cluster Beam)蒸着法、又は、プラズマイオンビーム蒸着法によって形成することを特徴とする銀鏡の製造方法である。
請求項7記載の発明のように、大気開放なしに、銀鏡を構成する全ての膜を1つの蒸着装置で連続成膜することによって、上述した本発明に特徴的な効果の発現に有利である共に、欠陥が少なく、高反射率で高品質の銀鏡を製造できる。また、酸化アルミニウムを主体とする膜/銀膜/酸化アルミニウムを主体とする膜をこの順で積層した層と、この層の上に形成される分光反射率を向上させるための層(例えばSiOやTiOなど)との応力バランスを実現できるので、膜同士の密着性が良好である。
なお、連続成膜に際し、酸化アルミニウムを主体とする膜/銀膜/酸化アルミニウムを主体とする膜の成膜が終了するまでの間は、基板加熱をしないことが好ましい。加熱しながら銀膜を成膜すると、(1)銀膜が凝集してピンホールが発生すること、(2)銀膜が黄変すること、(3)生産性が低くなること、などの問題があるため、これらの問題を回避するためである。なお、酸化アルミニウムを主体とする膜/銀膜/酸化アルミニウムを主体とする膜の成膜が終了した後に、加熱を行うと密着性が良くなるので好ましい。
本発明の請求項8記載の発明は、上記請求項1〜6のいずれか1項に記載の銀鏡の製造方法であって、酸化アルミニウムを主体とする膜/銀膜/酸化アルミニウムを主体とする膜の成膜後に、分光反射率を向上させる熱処理を行うことを特徴とする銀鏡の製造方法である。
請求項8記載の発明のように、酸化アルミニウムを主体とする膜/銀膜/酸化アルミニウムを主体とする膜の成膜後に、分光反射率を向上させる熱処理を行うことによって、熱処理を行わない場合に比べ分光反射率を向上させることができる。この熱処理は、具体的には50〜250℃(好ましくは70〜200℃)で、1〜120時間(好ましくは20〜72時間)である。この熱処理は、耐熱性試験の温度条件や耐湿性・耐腐蝕性試験の温度条件を前記範囲内とすることによって、耐熱性試験や耐湿性・耐腐蝕性試験と同時に分光反射率を向上させる熱処理を行うことができ効率的である。
上記各本発明においては、図1に示すように、基体1/酸化アルミニウムを主体とする膜2/銀膜3/酸化アルミニウムを主体とする膜4/分光反射率を向上させるための層5からなる銀表面鏡を構成することができる。各層の膜厚は、酸化アルミニウムを主体とする膜2が100〜300オングストローム、銀膜3が1000〜1200オングストローム、酸化アルミニウムを主体とする膜4が10〜500オングストローム、の範囲とすることが好ましい。分光反射率や耐久性を向上させるためである。
上記各本発明において、酸化アルミニウムを主体とする膜としては、酸化アルミニウム(Al)の他、酸窒化アルミニウム(AlO)などのアルミニウム、酸素、窒素を含む膜や、これらに水素等を含む膜が挙げられる。
上記各本発明においては、銀膜の両面に直接酸化アルミニウムを主体とする膜を形成することが好ましい。これは、酸化アルミニウムを主体とする膜は銀膜との相性が良いため密着性が良いからであり、また膜構成を最も単純化できるからである。もちろん、銀膜の両面側に他の層を介して酸化アルミニウムを主体とする膜を形成しても、銀膜の両面側から膜密度がバルク比0.95以上(好ましくはバルク比0.97以上)の緻密な酸化アルミニウムを主体とする膜で挟まれているので、高温高湿環境下での実用上十分な耐熱性・耐湿性を得ることが可能である。
上記各本発明において、銀膜としては、Ag膜の他、Ag膜に本発明の趣旨を損なわぬ範囲で他成分を含んだ膜や、Ag膜に本発明の趣旨を損なわぬ範囲で不純物を含んだ膜が挙げられる。例えば、銀膜として、Agに微量のパラジウム(Pd)、タンタル(Ta)、Nd(ネオジム)等の金属を混ぜた合金や、あるいはAg膜上にPd,Ta,Nd膜やAgPd,AgTa,AgNd合金膜を薄くコートしたものを使用でき、高温高湿環境下での耐熱性や耐湿性等のさらなる向上や、信頼性のさらなる向上を図ることが可能であるので好ましい。Agに微量のPd,Ta,Ndを混ぜる場合、本発明では既に銀膜の両面側に酸化アルミニウムを主体とする上記所定密度以上の緻密な膜が形成されており高温高湿環境下での実用上十分な耐久性を有しているので、Pd,Ta,Ndの量が極微量であってもさらなる信頼性の向上を図ることが可能である。Ag膜上にPd,Ta,Nd膜やAgPd,AgTa,AgNd合金膜を薄くコートする場合も同様である。
上記各本発明において、基体としては、光学製品に利用される基体や基板が含まれる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の銀鏡の一実施の形態を説明するための模式図である。
図2は、実施の形態で作製した銀鏡の分光反射率を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
(実施の形態1)
ガラスなどの基板上に、酸化アルミニウムを主体とする膜、Ag膜、酸化アルミニウムを主体とする膜、SiOからなる低屈折率物質膜(L)、TiOからなる高屈折率物質膜(H)をこの順番で蒸着により成膜した(図1参照)。その際、大気開放なしに、銀鏡を構成する全ての膜を1つの蒸着装置で連続成膜するとともに、Ag膜の両面側に形成する酸化アルミニウムを主体とする膜はいずれも少量のNガスを導入しイオンビームアシスト蒸着法によって形成した。この連続成膜に際し、基板加熱は行わなかった。各層の膜厚は、基板側から、酸化アルミニウムを主体とする膜:300オングストローム、Ag膜:1200オングストローム、酸化アルミニウムを主体とする膜:300オングストローム、SiOからなる低屈折率物質膜(L):270オングストローム、TiOからなる高屈折率物質膜(H):470オングストローム、とした。
上記で得られた銀鏡は、図2に示すように420nm〜800nmの領域で平均98%以上の分光反射率(入射角5°で測定)を有していた。
また、200℃、24時間で熱処理した後に、420nm〜800nmの領域で分光反射率の平均値の変化を調べたところ、分光反射率の平均値は0.5%向上しており(図2参照)、また耐熱性試験として、熱によってAgが凝集してピンホールが発生する現象も認められず、高い耐熱性が要求される液晶プロジェクターに使用される銀鏡として実用上十分な耐熱性を有していた。
また、70℃、湿度90%、72時間で分光反射率の平均値の変化を調べたところ、分光反射率の平均値はさらに0.5%向上しており(図2参照)、また耐湿性・耐腐蝕性試験として、高い耐熱性が要求される液晶プロジェクターに使用される銀鏡として実用上十分な耐湿性・耐腐蝕性を有していた。
また、テープ剥離試験(JIS D0202)を実施したところ、耐熱・耐湿試験前にJIS1級(碁盤目入れてテープ剥離試験実施)、耐熱・耐湿試験後にJIS3級(碁盤目入れないでテープ剥離試験実施)ともに、膜の剥がれはなく、実用上十分な密着性を有していた。 また、2H鉛筆による引っかき試験(JIS S6006)を実施したところ、膜の剥がれはなく、膜強度も実用上十分であった。
本発明の銀鏡において膜の剥がれが生じない理由は、酸化アルミニウムを主体とする膜/Ag膜/酸化アルミニウムを主体とする膜と、SiO及びTiOとの応力バランスが良好であるためと考えられる。なお、通常の蒸着法でAl膜/Ag膜/Al膜/SiO/TiOを成膜した場合、Al膜/Ag膜と、Al膜/SiO/TiOとの界面で剥離する。この理由は、Al膜はAg膜よりもSiO膜との密着性が強く、Ag膜は100MPa以上の圧縮応力を持っているため、この圧縮応力に耐えきれないAl膜がSiO/TiO膜と共に剥離するものと考えられる。
(実施の形態2)
実施の形態1の各膜をスパッタリング法で形成し、特に銀膜の両面側に形成された酸化アルミニウムを主体とする膜をいずれも反応性スパッタリング法で形成されたアルミニウム、酸素、窒素を含む膜としたこと以外は実施の形態1と同様にして銀鏡を作製した。
その結果、実施の形態1と同等以上の効果が得られることを確認した。
以上、本発明の特定の実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、上記実施の形態において、酸化アルミニウムを主体とする膜、Ag膜、SiO膜、TiO膜の代わりに、上述した課題を解決するための手段の欄に記載した膜を用いることができる。膜厚についても適宜設計変更して実施できる。
なお、本発明の銀膜の両面側に酸化アルミニウムを主体とする膜が形成された構造は裏面鏡に利用することも可能である。
以上説明したように、本発明によれば、環境に有害な物質を使用せず、より単純な膜構成で、高温高湿環境下での実用的な耐久性に優れ、しかも銀鏡としての高反射率を特開平6−313803に記載の銀鏡と同等以上に維持できる(具体的には420nm〜800nmの領域で平均98%以上の分光反射率を有する)銀鏡を実現できる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に少なくとも反射膜として銀膜が形成されてなる銀鏡において、前記銀膜の両面側に酸化アルミニウムを主体とする膜が形成された構造を有し、
前記銀膜の両面側に形成された酸化アルミニウムを主体とする膜が、いずれも膜密度がバルク比0.95以上の膜であることを特徴とする銀鏡。
【請求項2】
前記銀膜の両面側に形成された酸化アルミニウムを主体とする膜が、いずれもスパッタリング法、RF蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト蒸着法(Ion Beam Assisted Deposition)、クラスターイオンビーム(Ionized Cluster Beam)蒸着法、又は、プラズマイオンビーム蒸着法によって形成された膜であることを特徴とする請求項1に記載の銀鏡。
【請求項3】
前記銀膜の両面側に形成された酸化アルミニウムを主体とする膜の双方又はいずれか一方が、アルミニウム、酸素、窒素を含む膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の銀鏡。
【請求項4】
基体とは反対側の酸化アルミニウムを主体とする膜上に、分光反射率を向上させるための層を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銀鏡。
【請求項5】
420nm〜800nmの領域で平均98%以上の分光反射率(入射角5°で測定)を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の銀鏡。
【請求項6】
前記銀鏡が、光学機器の内部部品として使用される銀鏡であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の銀鏡。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の銀鏡の製造方法であって、銀鏡を構成する全ての膜を大気中に開放することなく連続成膜し、かつ、銀膜の両面側に形成する酸化アルミニウムを主体とする膜は、いずれもスパッタリング法、RF蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト蒸着法(Ion Beam Assisted Deposition)、クラスターイオンビーム(Ionized Cluster Beam)蒸着法、又は、プラズマイオンビーム蒸着法によって形成することを特徴とする銀鏡の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の銀鏡の製造方法であって、酸化アルミニウムを主体とする膜/銀膜/酸化アルミニウムを主体とする膜の成膜後に、分光反射率を向上させる熱処理を行うことを特徴とする銀鏡の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/029142
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513995(P2005−513995)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005921
【国際出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【出願人】(000148689)株式会社村上開明堂 (185)
【Fターム(参考)】