説明

銀類微粒子分散体の製造方法

【課題】小さな平均粒径で分散が可能で、分散性、分散安定性、高濃度分散性等が良好であり、低温での加熱によっても導電性を発現する銀類微粒子分散体、及び、該銀類微粒子分散体を分散媒置換してなる銀類微粒子分散液を提供すること。
【解決手段】銀類の気体を低蒸気圧液体に接触させることによって、銀類の微粒子が該低蒸気圧液体に体積分布メジアン径(D50)100nm以下で分散された分散体を製造する方法であって、該低蒸気圧液体中にポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルを溶解させておくことを特徴とする銀類微粒子分散体の製造方法、該製造方法で製造された銀類微粒子分散体、及びその銀類微粒子分散体に対して溶媒置換を施した銀類微粒子分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀類微粒子分散体の製造方法に関し、更に詳しくは、特定の方法で銀類微粒子の分散体を製造する際に、分散媒に特定の化合物を溶解させておく銀類微粒子分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子分散液は、IC基板、半導体素子等の配線、半導体モジュールの層間接続、透明導電膜の形成、金属と非金属との接合、液のコロイド色を利用した色フィルター等に広く用いられている。
【0003】
一般に、金属微粒子分散液の製造方法としては、金属塩、金属錯体等の金属化合物の水溶液を、還元剤で還元して金属微粒子の分散液を得る方法が従来から広く知られている。しかしながら、このような化学的方法では、還元されずに残留した物質や還元反応による不純物が含有された微粒子分散液しか調製できず、その用途が限定されたものとなっていた。また、この方法に関しては、使用する還元剤の種類、使用する物質の純度、保護コロイドの有無、調製時のpHや温度等を変化させることによって、分散性を向上させる方法が多く検討されているが、何れも充分な分散安定性を得られるまでには至っていなかった。
【0004】
以上のような化学的方法とは異なり、スパークエロージョン法、ガス中蒸発法、真空蒸着法等の物理的方法が知られている。
【0005】
スパークエロージョン法は、分散させたい金属を電極として用い、分散媒中で電極間に放電を発生させることによって、金属微粒子分散液を製造する方法である。しかしながら、この方法では、分散媒中に電気良導体である界面活性剤を含有させておくことが難しいため、微粒子の凝集を抑制することができない等の場合があった。
【0006】
ガス中蒸発法は、0.1〜30Torr(mmHg)(1.3×10Pa〜4×10Pa)の不活性気体の存在下に、分散させたい金属の蒸気を発生させ、気相中で微粒子を生成させ、生成した直後に、それを溶媒に捕集して微粒子分散液を製造する方法である(特許文献1参照)。また、不活性気体中に常温で液体である有機物の気体を共存させておくことによって、その有機物中に分散された微粒子を得て、その後溶媒交換等をして微粒子分散液を製造する方法も知られている。
【0007】
しかしながら、これらガス中蒸発法では、平均粒径をそろえることが困難であった。すなわち、発生した金属の蒸気は、不活性気体原子との衝突によって冷却されて微粒子を形成するが、発生した微粒子は再び不活性気体中で会合しクラスターを形成しやすい等の、気体と気体との接触に起因する問題点があった。
【0008】
真空蒸着法は、界面活性剤で表面が覆われた油の表面に金属を蒸着させ、金属原子等が凝集して微粒子が形成されると同時に、その微粒子を界面活性剤で保護して微粒子同士の会合を防止し、微粒子が油中に分散された分散体を得る方法である(特許文献2参照)。この方法では、微粒子が直接液体中に生成するので、上記ガス中蒸発法で問題となる、気体と気体との接触に起因する問題点、微粒子同士の会合等は生じ難い。
【0009】
しかしながら、真空蒸着法における上記界面活性剤については、殆ど研究がなされておらず、特許文献2で界面活性剤として用いられているコハク酸イミドポリアミンでは、充分に粒径の小さい微粒子が得られず、また、高温で加熱しないと導電性が発現せず、低温で加熱した場合の導電性が充分ではなかった。すなわち、比較的優れた方法である真空蒸着法を用いても、充分に小さい粒径にできず、また、金属微粒子に充分な低温溶融化を付与するまでには至っていなかった。
【0010】
該金属が銀類である場合には、上記問題点が顕著であり、従って、比較的優れた方法である真空蒸着法を用いても、銀類微粒子分散液に、充分な小粒径、分散性や分散安定性、低温溶融化を付与するまでには至っていなかった。
【0011】
また、銀は導電性が高いので、その特長を利用して、銀類微粒子分散液は導電膜形成用に用いられる場合があるが、導電膜形成の用途においては、「真空蒸着法で得られた銀類微粒子分散液」について、導電膜形成に特有な種々の性能を向上させたものは殆ど知られていなかった。
【0012】
【特許文献1】特開2002−121606号公報
【特許文献2】国際公開WO2005/099941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、小さな平均粒径で分散が可能で、分散性、分散安定性、高濃度分散性等が良好であり、低温での加熱によっても導電性を発現し得る銀類微粒子分散体、及び、該銀類微粒子分散体を分散媒置換してなる銀類微粒子分散液を提供することにある。具体的には、例えば、150℃2時間という低温での加熱によっても導電性を発現する銀類微粒子分散体等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、銀類微粒子分散体を特定の方法で製造するに際し、分散媒に特定の界面活性剤を溶解させておくことにより、分散性等が著しく改善され、小粒径で分散された銀類微粒子分散体ができることを見出した。更に、「該銀類微粒子分散体」又は「該銀類微粒子分散体を分散媒置換してなる銀類微粒子分散液」を用いて導電膜を形成するときには加熱が必要であるが、銀類微粒子分散体を製造する際に用いる界面活性剤の種類によって導電性を発現するのに必要な最低温度が異なることを見出した。そして、特定の界面活性剤を用いることにより得られた銀類微粒子分散液を用いれば、導電膜形成時の加熱温度を著しく下げることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、銀類の気体を低蒸気圧液体に接触させることによって、銀類の微粒子が該低蒸気圧液体に体積分布メジアン径(D50)100nm以下で分散された分散体を製造する方法であって、該低蒸気圧液体中にポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルを溶解させておくことを特徴とする銀類微粒子分散体の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、上記の銀類微粒子分散体の製造方法を使用して製造されたものであることを特徴とする銀類微粒子分散体を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、上記の銀類微粒子分散体中の低蒸気圧液体を他の分散媒に置換したものであることを特徴とする銀類微粒子分散液を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、上記の銀類微粒子分散液を基板に塗布し、150℃以下で加熱して得られた、体積抵抗が10−3Ω・cm以下の導電膜を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、極めて微小な体積分布メジアン径(D50)を有する銀類微粒子が製造可能であり、微粒子でも、分散安定性に優れ微粒子同士の凝集がない銀類微粒子分散体を提供可能である。また、該銀類微粒子分散体を分散媒置換してなる銀類微粒子分散液を基板に塗布して加熱すれば、低温での加熱によっても導電性を発現し得る銀類微粒子分散液を提供可能である。具体例としては、150℃2時間という極めて低温での加熱によっても導電性を発現する銀類微粒子分散体及び銀類微粒子分散液を提供することができる。
【0020】
すなわち、銀類微粒子分散液を基板に塗布して導電膜を形成するときには加熱が必要であるが、真空蒸着法で銀類微粒子の分散体を製造する際に、分散媒にポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルを溶解させておくことにより、導電膜形成の際の加熱温度を下げることができ、加熱温度が下げられることによって銀類微粒子分散液を使い易くし、また、基板の選択幅を広げることができるので銀類微粒子分散液を用いた導電膜の用途を著しく広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の実施の具体的形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で任意に変形できるものである。
【0022】
本発明は、銀類の気体を、低蒸気圧液体に接触させることによって、該銀類微粒子が該低蒸気圧液体に分散された分散体の製造方法に関するものである。この方法を「真空蒸着法」と略記することがある。
【0023】
本発明の銀類微粒子分散体の製造方法で分散される「銀類」としては、銀を含有し加熱によって気体になるものであれば特に限定はない。また、本願における「銀類」とは、銀金属単体、銀合金、銀化合物、銀混合物等が含まれる。具体例としては、
銀金属単体;
アルミニウム、亜鉛、インジウム、鉛、スズ、タンタル、鉄、銅、金、白金、パラジウム等の金属と銀との合金である銀合金;
酸化銀、塩化銀等の銀化合物;
アルミニウム、チタン、バナジウム、マンガン、スズ、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル、銅、金、鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ストロンチウム、ニオブ、モリブデン、白金、パラジウム、アンチモン、インジウム、バリウム、ハフニウム、ビスマス、タンタル等の元素若しくはそれらの化合物と上記銀類との混合物である「銀混合物」等が挙げられる。
【0024】
銀類を気体にする方法については特に限定はされず、公知の加熱方法で加熱できる。加熱温度も気体状態にするために充分な温度であれば特に限定はなく、また、銀類の種類によっても異なるが、400〜2000℃が好ましく、600〜1700℃がより好ましく、800〜1600℃が特に好ましく、1000〜1400℃が更に好ましい。
【0025】
本発明においては、銀類の気体を、後述する低蒸気圧液体に接触させて分散体を形成させるが、その際、銀類の気体中に、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性気体;分散媒、分散助剤等の有機物気体等を共存させることを排除するものではないが、分子を液体に接触させて、液相界面で分散状態を作る本発明の作用原理から、それらを共存させる必要性はない。好ましくは、上記不活性気体を共存させない方がよい。
【0026】
銀類の気体を、後述する低蒸気圧液体に接触させて分散体を形成させる際の圧力は特に限定はないが、10−1Pa以下であることが好ましい。
【0027】
これらの点で、0.1〜30Torr(mmHg)(1.3×10Pa〜4×10Pa)の圧力下で、不活性気体との相互作用によって銀類の蒸気を凝集させて、気体中で銀類微粒子を生成させる前記したガス中蒸発法とは、本発明の真空蒸着法は明確に区別される。
【0028】
本発明において、上記圧力は10−1Pa以下であることが好ましく、10−2Pa以下であることが特に好ましい。また、10−4Pa以上であることが好ましく、10−3Pa以上であることが特に好ましい。圧力が大きすぎる、すなわち真空度が悪いと、加熱温度を高くする必要がある点、そこに介在する気体の影響がでて微粒子が変質する点等の問題が生じる場合がある。圧力が小さすぎる、すなわち真空度を不必要に高くすると、低蒸気圧液体が揮発したり、生産性が落ちたり、真空ポンプに負荷がかかりすぎたりする場合がある。
【0029】
本発明においては、「銀類の気体」を、低蒸気圧液体に接触させることによって、銀類微粒子を該低蒸気圧液体中に分散させる。「低蒸気圧液体」とは、分散時の温度で低蒸気圧であって、10−3Paで実質的に揮発しない液体をいう。低蒸気圧でないと、蒸発して「銀類の気体」と気体同士で相互作用をして分散性に悪影響を与える場合がある。その蒸気圧は、好ましくは、25℃で、10−10Pa〜10−5Pa、特に好ましくは、25℃で、10−8Pa〜10−6Paである。かかる低蒸気圧液体の1気圧での沸点は特に限定はないが、上記と同じ理由で、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、220℃以上が特に好ましく、240℃以上が更に好ましい。
【0030】
具体例としては、アルキルナフタレン、エチレンオレフィン共重合体等の脂肪族及び/又は芳香族炭化水素類;アルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、ポリアルキルフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;シリコーン油、ポリアルキルシロキサン等のシロキサン化合物類;フルオロカーボン油類;多価アルコール類等が挙げられる。ここで、上記アルキル基としては特に限定はないが、炭素数4〜24個のものが好ましく、8〜22個のものがより好ましく、12〜20個のものが特に好ましい。また、「脂肪族及び/又は芳香族炭化水素類」である場合には、炭素数の合計が14以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、25以上であることが特に好ましい。これらは1種又は2種以上を混合して用いられる。また、低蒸気圧液体として、市販の拡散ポンプ油も好ましく用いられる。
【0031】
本発明の銀類微粒子分散体の製造方法においては、銀類の気体を低蒸気圧液体に接触させることによって、その気体が固体の微粒子になって上記該低蒸気圧液体に分散されるが、その際、該低蒸気圧液体中に、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルを溶解させておくことを特徴とする。ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルを溶解させておくことによって、体積分布メジアン径(D50)の小さい微粒子分散体を形成させることができ、また、小粒径でも、優れた分散安定性を有する分散体を得ることができる。また、銀類微粒子分散体を分散媒置換して銀類微粒子分散液を調製するに際しても良好な分散維持性を確保できる。
【0032】
また、銀類微粒子分散液を用いて導電膜を形成するときには、それを基板上に塗布した後に加熱が必要であるが、真空蒸着法で銀類微粒子の分散体を製造する際に、低蒸気圧液体である分散媒にポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルを溶解させておくことにより、加熱温度が低くても導電性を発現させることができる。そして、加熱温度が下げられるので、耐熱性のない材質であっても基板として用いることができ、銀類微粒子分散液を用いた導電膜の応用範囲を拡大させることができる。また、加熱温度が下げられるので作業性も向上する。
【0033】
低蒸気圧液体である分散媒にポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルを溶解させておくことにより得られる銀類微粒子分散体において、後述するように、その分散媒(低蒸気圧液体)を、扱いやすい分散媒に置換した銀類微粒子分散液を用いて導電膜を形成することが好ましい。本発明によれば、銀類微粒子分散液を用いて導電膜を形成する際、例えば150℃2時間という極めて低温での加熱で導電性を発現させることができる。
【0034】
ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルは、ポリオキシエチレンソルビットと脂肪酸とのエステル構造を有するものであれば特に限定はない。かかる脂肪酸は、カルボキシル基を有し鎖状構造をもつものであれば特に限定はなく、直鎖構造のものも側鎖を有するものも含まれ、また、飽和脂肪酸も不飽和脂肪酸も含まれる。また、本発明の効果を損なわない範囲で置換基を有していてもよい。特に限定はないが、低蒸気圧液体への溶解性が良好等の点から不飽和脂肪酸が特に好ましい。
【0035】
かかる脂肪酸の炭素数は特に限定はないが、カルボン酸の炭素数も入れて11以上が、銀類の気体を低蒸気圧液体に接触させて分散体を形成させる際に蒸発し難い点、低蒸気圧液体への溶解性が高い点等から好ましい。炭素数の上限は、飽和脂肪酸の場合には17以下が、低蒸気圧液体に対する溶解性、溶解安定性の点等から好ましい。不飽和脂肪酸の場合には炭素数25以下が同様の点から好ましく、20以下が特に好ましい。かかる脂肪酸としては、炭素数18の不飽和脂肪酸であるオレイン酸(オクタデセン酸)が、本発明の前記効果を特に奏し易い点で更に好ましい。
【0036】
ソルビットは、ソルビトール、グルシットとも呼ばれ、本発明においては、D−ソルビット、L−ソルビット、DL−ソルビットの何れでもよいが、入手のし易さ等の点でD−ソルビットが好ましい。ソルビットは6個の水酸基を有するが、そのうちポリオキシエチレン鎖が結合している水酸基は、1個以上6個以下が好ましく、2個以上5個以下が特に好ましい。
【0037】
ポリオキシエチレンソルビットに対して、脂肪酸がエステル結合している個数は1個以上であれば特に限定はないが、本発明の前記効果を特に奏し易い点で、2〜5個が好ましく、3〜4個がより好ましく、4個が特に好ましい。上記したように、脂肪酸としてはオレイン酸が更に好ましいので、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルとしては、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレイン酸エステルが最も好ましい。
【0038】
ポリオキシエチレン鎖の長さは特に限定はないが、本発明の前記効果を特に奏し易い点で、オキシエチレン単位の繰り返し個数として1〜60が好ましく、3〜30がより好ましく、5〜15が特に好ましい。
【0039】
ポリオキシエチレンソルビットテトラオレイン酸エステルの製造方法等は特に限定はなく、公知の方法で得られるものが使用できる。また、異なる脂肪酸のエステル、エステル結合の個数の異なるもの、ポリオキシエチレン鎖の長さの異なるもの等が複数種類混合さされて、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレイン酸エステルを構成しているものであってもよい。
【0040】
また、他のノニオン系界面活性剤等の分散安定剤との併用を排除するものではないが、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルが主成分であることが好ましい。ここで「主成分であるもの」とは、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルの含有割合が、分散安定剤全体に対して、70質量%以上であるものをいい、好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%、すなわち、分散媒である低蒸気圧液体に、実質的にポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルのみが含有されているものである。
【0041】
本発明においては、上記低蒸気圧液体中にポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルが溶解されていればよく、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルの濃度は特に限定はなく適宜調節可能である。好ましくは、低蒸気圧液体100質量部に対して、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル1〜50質量部であり、3〜20質量部がより好ましく、5〜10質量部が特に好ましい。ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルが少な過ぎると、分散安定性が低下する場合があり、一方、多過ぎると分散体の粘度が高くなり過ぎる場合がある。
【0042】
本発明の銀類微粒子分散体の真空蒸着法による製造方法によると、銀類の気体が液体の界面に蒸着され液中に取り込まれ、体積分布メジアン径(D50)が100nm以下の銀類微粒子が生成するものであり、そこで使用される界面活性剤としてのポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルは、液中への取り込み、液中での銀類微粒子の生成、銀類微粒子の体積分布メジアン径(D50)の制御、銀類微粒子同士の会合の抑制等に直接関与していると考えられる。従って、真空蒸着法における界面活性剤の役割・効果は極めて特殊であるので、一般的な銀類微粒子の分散性改良に用いられる界面活性剤の知見・技術は殆ど役に立たない。すなわち、微粒子分散液の他の製造方法において知られている界面活性剤の本発明への単なる転用、公知の分散剤の本発明への単なる転用はできない。
【0043】
また、磁性紛(強磁性体紛)の分散技術は、本発明には応用できないものである。すなわち、強磁性を示すということは、その粒子が結晶性を有するということであり、そこまで大きい粒子の分散技術は、それより極めて小さい粒径の銀類微粒子の形成や分散が必要な本発明には応用できないものである。
【0044】
更に、銀類微粒子分散液を用いて導電膜を形成するときには加熱が必要であるが、銀類微粒子の分散体を製造する際に用いる界面活性剤の種類によって導電性を発現する温度が異なり、その際の加熱温度を下げる効果を有するポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルの物性は極めて特殊であり、一般的な銀類微粒子の分散性改良に用いられる界面活性剤の知見・技術は殆ど役に立たない。
【0045】
本発明の銀類微粒子分散体の製造方法を用いると、体積分布メジアン径(D50)100nm以下で分散された分散体を極めて分散性よく安定に製造できる。また、体積分布メジアン径(D50)50nm以下でも安定に分散でき、20nm以下でも安定に分散でき、更には、体積分布メジアン径(D50)10nm以下でも分散できる。従って、本発明の製造方法を使用して得られる銀類微粒子分散体中の銀類微粒子の体積分布メジアン径(D50)は、通常1〜100nm、好ましくは2〜50nm、より好ましくは3〜20nm、特に好ましくは4〜15nm、更に好ましくは5〜10nmである。体積分布メジアン径(D50)は小さいほど、導電膜を形成するときの加熱温度を低くでき、本発明の前記効果を発揮し易いので好ましい。
【0046】
本発明における「体積分布メジアン径(D50)」は、(株)日立ハイテクノロジーズ社製、電界放射型走査電子顕微鏡(S−4800)に、専用の明視野STEM試料台とオプション検出器を取り付けることで、走査透過電子顕微鏡(以下、「STEM」と略記する)として使用できるようにし、20万倍のSTEM写真を撮り、下記のソフトウェアに取り込み、写真上で任意に数百個から数千個程度の銀類微粒子を選び、それぞれの直径を測定し、体積基準の分布から体積で50%累積粒子径として求める。
【0047】
STEMに供する測定試料は、微粒子分散液を、トルエンで適宜希釈調製し、コロジオン膜貼付メッシュに滴下して調製する。また、STEM写真から体積基準の粒径分布や体積分布メジアン径(D50)を求めるときには、(株)マウンテック社製の画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「Mac−View Ver.4」を用いる。
【0048】
銀類微粒子の形状は特に限定されず、球状、棒状、板状、不定形等何れでもよい。また、銀類微粒子の結晶構造も特に限定はないが非結晶であることが、導電膜を形成するときの加熱温度を低くできる点等で好ましい。
【0049】
本発明の製造方法によって製造された銀類微粒子分散体中の銀類微粒子の濃度は特に限定はないが、銀類微粒子分散体100質量部に対して、1〜90質量部が好ましく、10〜80質量部がより好ましく、20〜70質量部が特に好ましい。本発明を使用すれば、高濃度の銀類微粒子分散体が得られる。
【0050】
本発明の銀類微粒子分散体の製造方法について、図1に示す製造装置を例に更に詳しく説明する。ただし、図1は、本発明に用いられる具体的装置の一例であり、本発明は図1に示す装置を用いたものには限定されない。
【0051】
図1において、チャンバー(1)は、固定軸(2)の回りに回転するドラム状であり、固定軸(2)を通してチャンバー(1)の内部が高真空に排気される構造になっている。チャンバー(1)には、エステル系界面活性剤が溶解された低蒸気圧液体(3)が入れてあり、ドラム状のチャンバー(1)の回転によって、チャンバー(1)の内壁に、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルが溶解された低蒸気圧液体(3)の膜(4)が形成される。チャンバー(1)の内部には、銀類(5)を入れる容器(6)が固定されている。銀類(5)は、抵抗線に電流を流す等して所定温度まで加熱され、気体となってチャンバー(1)の中に放出される。
【0052】
チャンバー(1)の外壁は、水流(8)で全体が冷却されている。加熱された「銀類(5)」から真空中に放出された銀類の蒸気(9)は、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルが溶解された低蒸気圧液体(3)の膜(4)の表面から取り込まれ、銀類微粒子(10)が形成される。次いで、かかる銀類微粒子(10)が分散された低蒸気圧液体(3)は、チャンバー(1)の回転に伴ってチャンバー(1)の底部にある低蒸気圧液体(3)の中に輸送され、同時に、新しい「低蒸気圧液体(3)の膜(4)」がチャンバー(1)の上部に供給される。
【0053】
この過程を継続することによって、チャンバー(1)の底部にある低蒸気圧液体(3)は、「銀類(5)」が高濃度に分散した分散体になっていく。
【0054】
本発明においては、銀類の気体が、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルが溶解された低蒸気圧液体中に直接取り込まれることによって銀類微粒子分散体が製造される。本発明は、以下の作用・原理には限定されないが、以下のように考えられる。すなわち、銀類の気体は、気相で凝集せずに直接低蒸気圧液体中に取り込まれ、低蒸気圧液体中で原子の凝集が起こり、ある程度の体積分布メジアン径(D50)を有するようになった時点で、その凝集粒子はポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルによって取り囲まれ、ナノオーダーの銀類微粒子として安定化するものと考えられる。その際、特にポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルを用いると、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルと銀類微粒子との相互作用は比較的弱いため、加熱によりその間の相互作用が外れやすく、コハク酸イミドポリアミン等の他の分散剤よりも低温の加熱で銀類微粒子同士の融着が進み導電性を発現すると考えられる。
【0055】
本発明の製造方法を使用して得られた銀類微粒子分散体は、分散媒に上記低蒸気圧液体が用いられているが、分散媒に上記低蒸気圧液体が用いられていると、分散媒を乾燥又は留去し難い等、その後の用途にとって不適当な場合は、かかる「銀類微粒子分散体」中の低蒸気圧液体を、他の分散媒に置換して、「銀類微粒子分散液」を調製することが好ましい。すなわち、上記低蒸気圧液体は分散性の観点から好適なものが使用されるが、その後、その銀類微粒子が用いられる用途に応じて好適な「他の分散媒」に置換されることが好ましい。なお、分散媒置換をせずに、銀類微粒子分散体を基板上に塗布するときには、その「銀類微粒子分散体」がそのまま「銀類微粒子分散液」となる。
【0056】
「他の分散媒」としては特に限定はなく、分散液の用途に応じて選択できる。例えば、トルエン、キシレン、n−ヘキサン等の炭化水素系溶媒;プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコール系溶媒等が挙げられる。これらは1種で又は2種以上混合して用いられる。
【0057】
低蒸気圧液体を、他の分散媒に置換する方法としては、公知の溶媒置換・分散媒置換の方法が用いられる。本発明で得られた銀類微粒子は分散媒を置換しても、分散媒置換中も、その後の銀類微粒子分散液保存中も、安定に分散状態を保つことができる。
【0058】
本発明の銀類微粒子分散体の製造方法を用いると、分散媒を置換しても、体積分布メジアン径(D50)が100nm以下の極めて分散安定性に優れた銀類微粒子分散液を製造可能である。そして、体積分布メジアン径(D50)20nm以下のものでも製造可能であり、更には、体積分布メジアン径(D50)10nm以下のものでも製造可能である。すなわち、分散媒を置換しても銀類微粒子の分散性が悪化し難く、体積分布メジアン径(D50)が大きくなり難い。従って、本発明の製造方法を使用して得られる銀類微粒子分散液中の銀類微粒子の体積分布メジアン径(D50)は、通常1〜100nm、好ましくは2〜50nm、より好ましくは3〜20nm、特に好ましくは4〜15nm、更に好ましくは5〜10nmである。体積分布メジアン径(D50)は小さいほど本発明の前記効果を発揮し易いので好ましい。
【0059】
銀類微粒子分散液を用いて導電膜を形成する方法は特に限定はない。通常、基板上に塗布し、要すれば分散媒を留去した後に加熱する。本発明において、「導電膜」は、表面積の大小は限定されず、大面積を有するものから、配線等の線状のもの、パッド等の点状のものも含まれる。また、導電膜の膜厚は銀類微粒子分散液の用途によって決められるので、その最適膜厚は特に限定されないが、0.05μm〜1μmが好ましく、0.1μm〜0.5μmが特に好ましい。
【0060】
導電膜を形成する基板については特に制限はなく、例えば、電子回路の作製に一般に用いられている基板等を挙げることができる。具体的には、例えば、セラミックス、ガラス等の無機物からなる基板;ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアリレート樹脂等の有機ポリマーからなる基板等が挙げられる。また、ガラス、シリカ、紙等のフィラー・補強材を用いたものでもよい。本発明の銀類粒子分散液を用いると、比較的低温の加熱で導電性を発現して導電膜を形成できるので、耐熱性の低いプラスチック製基板等にも好適に用いることができる。
【0061】
また、上記銀類微粒子分散液の基板への塗布方法については、インクジェット印刷法(全面印刷も含む)、スクリーン印刷法(全面印刷も含む)、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法等の通常の塗布手段を用いることができる。中でも、本発明における銀類微粒子は、体積分布メジアン径(D50)の極めて小さいものができることから薄膜や細線の形成が容易であるため、インクジェット印刷法、スピンコーティング等に特に好適に用いられる。
【0062】
加熱温度は特に限定はないが、通常300℃以下であり、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、180℃以下が更に好ましい。温度が高過ぎると、基板に障害を与える場合があり、コストも上昇する場合がある。また、真空蒸着法においてポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルを用いなくても200℃より高温で加熱すると導電性が発現する場合があるので、200℃以下がより好ましい。
【0063】
一方、加熱温度の下限は、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、180℃以上が特に好ましい。加熱温度が低過ぎると導電性が発現しない場合がある。本発明の銀類微粒子分散液を基板に塗布して加熱すれば、これまでよりも充分に低い温度の加熱で導電性が発現し得る。
【0064】
加熱時間は特に限定はないが、10分〜5時間が好ましく、20分〜3時間がより好ましく、30分〜2時間が特に好ましい。加熱方法も特に限定されず、ホットプレート加熱、オーブン加熱等が挙げられる。
【0065】
本発明により製造した銀類微粒子分散液は、基板に塗布し、分散媒を留去後、150℃で2時間加熱した時の体積抵抗が10−3Ω・cm以下となる。また、10−4Ω・cm以下にもすることができ、更には、10−5Ω・cm以下にもすることができる。従って、本発明は、基板に塗布して、分散媒を留去後、150℃で2時間加熱した時、体積抵抗が10−3Ω・cm以下の導電膜が得られる銀類微粒子分散液でもあり、150℃で2時間加熱した時、体積抵抗が10−4Ω・cm以下の導電膜が得られる銀類微粒子分散液でもあり、10−5Ω・cm以下の導電膜が得られる銀類微粒子分散液でもある。本発明における体積抵抗は、銀類微粒子濃度25質量%の銀類微粒子分散液を、基板に最終膜厚0.2μmとなるように塗布し、分散媒を留去後、所定の温度で加熱した時の体積抵抗を、三菱化学社製の抵抗測定器を用いて、25℃でJIS K6911に従い測定した時の値である。
【0066】
本発明の銀類微粒子分散液を用いた場合、150℃の加熱でも、特異的に導電性を発現する作用・原理は明らかではないが、以下のことが考えられる。ただし本発明は、以下の作用効果の範囲に限定されるわけではない。本発明の銀類微粒子分散液は、本発明の銀類微粒子分散体を溶媒置換して得られるが、それでも依然そこに分散されている銀類微粒子はポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルによって被覆されている。そして、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルは、比較的低温で銀類微粒子から離脱するのに対し、他の界面活性剤や分散剤は、比較的高温まで銀類微粒子から離脱しないためと考えられる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
実施例1
低蒸気圧液体として、ライオン拡散ポンプ油(A)(ライオン社製)360gを用い、それにポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルとして、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレイン酸エステル(東邦化学工業社製)(固形分100質量%、オキシエチレンの繰り返し単位数は、30を中心として、幅広い分布5〜80の分布を有する)を40g添加し攪拌し分散媒を得た。ライオン拡散ポンプ油(A)は、炭素数12〜16個のアルキル基を有するアルキルナフタレンである。
【0069】
図1に示す装置を用いて、銀類として銀を用いて銀微粒子分散体を製造した。容器(6)内に、粒状銀塊(石福金属工業社製:純度99.99質量%)を40g入れ、回転ドラム式のチャンバー(1)内に上記分散媒を入れた。真空ポンプで吸引することによって、チャンバー(1)内の圧力を、10−3Paに到達させた。次いで、チャンバー(1)を水流(7)で冷却させながら回転させ、容器(6)の下部に設けたヒーターに電流を流し、銀粒が溶解・蒸発するまで、その電流値を上昇させた。
【0070】
銀粒は溶解し気化し、銀の気体は、分散媒表面(ポリオキシエチレンソルビットテトラオレイン酸エステルが溶解された低蒸気圧液体(3)の膜(4)の表面)に接触することで、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレイン酸エステルに取り込まれ、銀微粒子分散体が形成された。
【0071】
図2に示す前記した20万倍のSTEM写真、及び図3に示す前記した方法で測定した、縦軸が体積頻度と体積累積の粒径分布より、粒径4.6〜14.9nm程度の粒子が凝集することなく分散されていることが確認できた。体積分布メジアン径(D50)は6.9nmであった。
【0072】
得られた銀微粒子分散体の分散媒であるライオン拡散ポンプ油(A)をトルエンに分散媒置換して銀類微粒子濃度25質量%の銀微粒子分散液を得た。得られた銀微粒子分散液中の銀微粒子の体積分布メジアン径(D50)も、上記銀微粒子分散体中の銀微粒子の体積分布メジアン径(D50)6.9nmから殆ど大きくなっておらず、良好に分散媒置換ができた。
【0073】
この銀微粒子分散液をガラス基板上に塗布し、オーブンを用いて、150℃で2時間加熱して焼成膜を形成させた。その焼成膜の体積抵抗を前記の方法に従って測定した。その結果、体積抵抗は、2.3×10−5Ω・cmであり、150℃で2時間の加熱でも導電膜が形成されていることが確認できた。
【0074】
比較例1
実施例1において、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレイン酸エステル(東邦化学工業社製)に代えて、アジスパーPA111(味の素ファインテクノ社製)(有効成分100%)を用いた以外は実施例1と同様に銀微粒子分散体を得、同様に分散媒置換をして銀微粒子分散液を得た。アジスパーPA111(味の素ファインテクノ社製)は、高級脂肪酸エステルである。
【0075】
STEM写真及び前記した同様の方法で測定した粒径分布より、粒径5〜20nm程度の粒子が凝集することなく分散されていることが確認できた。体積分布メジアン径(D50)は9.4nmであった。しかしながら、銀微粒子分散液をガラス基板上に塗布し、オーブンを用いて、180℃で2時間加熱したが導電性が全くないため体積抵抗値は測定不能であり、180℃でも導電膜が形成されないことが分かった。
【0076】
比較例2
実施例1において、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレイン酸エステル(東邦化学工業社製)に代えて、イオネットS85(三洋化成工業社製)(固形分100%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で行なった。イオネットS85は、ソルビタントリオレートを主成分とするソルビタンの脂肪酸エステルである。
【0077】
STEM写真の観察により、粒径5〜15nm程度の粒子が凝集することなく分散されていることが確認できた。体積分布メジアン径(D50)は8.6nmであった。しかしながら、150℃で2時間加熱したところ導電性が全くないため体積抵抗値は測定不能であり、150℃では導電膜が形成されないことが分かった。
【0078】
比較例3
実施例1において、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレイン酸エステル(東邦化学工業社製)に代えて、コハク酸イミドポリアミン(三洋化成工業社製)(固形分100%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で行なった。
【0079】
STEM写真の観察により、粒子が凝集することなく分散されていることが確認できた。しかしながら、銀微粒子分散液をガラス基板上に塗布し、180℃で2時間加熱したが導電性が全くないため体積抵抗値は測定不能であり、180℃でも導電膜が形成されないことが分かった。
【0080】
比較例4
実施例1において、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレイン酸エステル(東邦化学工業社製)に代えて、Disperbyk−102(ビックケミー社製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で行なった。Disperbyk−102(ビックケミー社製)は、酸性基を有するコポリマーである。
【0081】
STEM写真の観察により、粒子が互いに凝集していることを確認した。また目視でも、微粒子が沈降、堆積していることが観察でき、良好な分散体が得られなかった。従って、基板に塗布するまでに至らなかった。
【0082】
比較例5
実施例1において、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレイン酸エステル(東邦化学工業社製)に代えて、レオドールSP−O10V(花王社製)(固形分100%)を用いた以外は実施例1と同様に銀微粒子分散体を得、同様に分散媒置換をして銀微粒子分散液を得た。レオドールSP−O10V(花王社製)は、ソルビタンモノオレートを90モル%含有するソルビタンの脂肪酸エステルである。
【0083】
STEM写真及び前記した同様の方法で測定した粒径分布より、粒径3〜13nm程度の粒子が凝集することなく分散されていることが確認できた。体積分布メジアン径(D50)は8.4nmであった。銀微粒子分散液をガラス基板上に塗布し、オーブンを用いて、180℃で2時間加熱して塗膜を形成させたところ、体積抵抗は5×10−6Ω・cmであった。しかしながら、150℃で2時間の加熱では、導電性が全くないため体積抵抗値は測定不能であり、150℃で2時間の加熱では導電膜が形成されないことが分かった。
【0084】
比較例6
実施例1において、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレイン酸エステル(東邦化学工業社製)に代えて、レオドールTW−O320V(花王社製)を用いた以外は実施例1と同様に銀微粒子分散体を得て、同様に分散媒置換をして銀微粒子分散液を得た。レオドールTW−O320V(花王社製)は、ソルビタン脂肪酸エステルの一種であるポリオキシエチレンソルビタントリオレートである。
【0085】
STEM写真の観察により、粒子が互いに凝集していることを確認した。また目視でも、微粒子が沈降、堆積していることが観察でき、良好な分散体が得られなかった。従って、基板に塗布するまでに至らなかった。
【0086】
上記結果から明らかなように、実施例1では、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルを用いたため、銀微粒子同士の会合が抑制され、良好な分散性と分散安定性を有する銀微粒子分散液を得ることができた。また、150℃という低温で加熱しても、導電性が発現し、導電膜を形成させることができた。
【0087】
一方、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルを使用しない比較例1〜3、5では、実施例1に比べ、分散性、分散安定性は同等であったが、150℃の加熱では所望の導電性が得られなかった。また、比較例4、6では、分散媒置換前の分散体の段階で、分散性も分散安定性も不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の微粒子分散体の製造方法を使用して得られた分散体、分散液は、IC基板、半導体素子等の配線、半導体モジュールの層間接続、透明導電膜の形成、金属と非金属との接合、液のコロイド色を利用した色フィルター等に広く利用されるものである。特に、例えば150℃という低温での加熱で導電膜が形成できるので、熱に弱い基板に対しても充分に適用できるので、その産業上の利用可能性は更に広がるものである。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の微粒子分散体の製造方法に使用される装置の一例の概略断面図である。
【図2】実施例1で製造された、銀微粒子分散体中の銀微粒子のSTEM写真である(倍率20万倍)。
【図3】実施例1で製造された、銀微粒子分散体中の銀微粒子の、縦軸が体積頻度、体積累積の粒度分布図である。
【符号の説明】
【0090】
1 チャンバー
2 固定軸
3 ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルが溶解された低蒸気圧液体
4 ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルが溶解された低蒸気圧液体の膜
5 銀類
6 容器
7 水流
8 回転方向
9 銀類の蒸気
10 銀類微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀類の気体を低蒸気圧液体に接触させることによって、銀類の微粒子が該低蒸気圧液体に体積分布メジアン径(D50)100nm以下で分散された分散体を製造する方法であって、該低蒸気圧液体中にポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルを溶解させておくことを特徴とする銀類微粒子分散体の製造方法。
【請求項2】
上記ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルがポリオキシエチレンソルビットオレイン酸エステルである請求項1記載の銀類微粒子分散体の製造方法。
【請求項3】
銀類の気体の該低蒸気圧液体への接触を、10−4Pa〜10−1Paの範囲の圧力下で行なう請求項1又は請求項2記載の銀類微粒子分散体の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載の銀類微粒子分散体の製造方法を使用して製造されたものであることを特徴とする銀類微粒子分散体。
【請求項5】
請求項4記載の銀類微粒子分散体中の低蒸気圧液体を他の分散媒に置換したものであることを特徴とする銀類微粒子分散液。
【請求項6】
体積分布メジアン径(D50)100nm以下で銀類微粒子が分散されている請求項5記載の銀類微粒子分散液。
【請求項7】
基板に塗布して、分散媒を留去後、150℃で2時間加熱した時、体積抵抗が10−3Ω・cm以下の導電膜が得られる請求項5又は請求項6記載の銀類微粒子分散液。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7の何れかの請求項記載の銀類微粒子分散液を基板に塗布し、150℃以下で加熱して得られた、体積抵抗が10−3Ω・cm以下の導電膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−47810(P2010−47810A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213999(P2008−213999)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000183923)ザ・インクテック株式会社 (268)
【Fターム(参考)】