説明

銅−ニッケルナノ粒子とその製造方法

【課題】スケールファクターの影響を受けにくく、粒子径が小さくとも均整であり、かつ常温環境下に曝しても酸化の影響を受けにくい、銅微粒子およびその粒子を形成するための方法を提供すること。
【解決手段】炭素数6〜10の直鎖アルコールの一種以上と、分子数200〜400の有機化合物の一種以上が溶解されてなる反応溶媒に、銅およびニッケルの化合物を溶解させた後、有機−水酸化アンモニウム塩溶液を添加した製造方法により、中心部分の銅の構成割合が高く、周囲をニッケル−銅の合金を呈した銅−ニッケルナノ粒子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸化性に優れたニッケル含有銅微粒子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷法やコーティング法によりその粒子径が100nm未満の金属ナノ粒子を用いることで、微細配線やバンプなどの形成を安価に形成することができるが、材料コストや絶縁不良の原因となるマイグレーションを起こしやすいことから、従来使用されている銀などに変えて、銅を検討する試みがなされるようになってきている。
【0003】
しかし、よく知られているように銅は酸化しやすく、とりわけ微粒子状態では、大気中に放置するとたちまち激しく酸化し酸化銅に変化する。酸化銅は、抵抗値が高いため、取扱が容易でなく、期待されているような導電性を有する配線用途には好ましくない。
【0004】
また、一般的にナノ粒子の凝結を避けるためには粒子の表面を有機化合物で被覆し、目的物に塗布した後に焼成して金属膜とする方法がよく知られている。しかし、銅の場合には大気中で焼成を行うと急激な酸化が生じ、配線やバンプとして形成される前に微粒子だけが酸化銅となる。そのため、粒子間で金属結合を形成できないので配線パターンとして高い導電率を確保できなくなる。
【0005】
従って、銅微粒子を使用できるようにするためには、上述のような耐酸化性の改善と独立した粒子の安定性をともに解決しなければならない。そうした課題を解決するため、従来では特許文献1または2に開示されるように、ニッケルを銅粒子の表面に被覆した後に、有機化合物を被覆する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−115497号公報
【特許文献2】特開2008−024969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された技術には、ニッケルおよび銅を錯体として存在させておき、液中に還元剤を添加することにより、銅を先に形成させ、イオン化傾向の差を利用してその表面にニッケルの被膜を形成することができることが開示されている。
【0008】
特許文献2に記載された技術には、酸化銅を貴金属の存在下のポリオール中で還元することにより、粒子径の整ったニッケルにより被覆された金属銅粒子が得られることが開示されている。
【0009】
特許文献1の方法では、液中へ後から還元剤を添加する。これはニッケルと銅を一旦錯体化した後に、比較的還元力の強いヒドラジンや水素化ホウ素ナトリウムを使用して還元処理することである。従って、スケールを大きくした場合、ニッケルが単独で析出する可能性があるばかりか、添加の形態によっては粒度のばらつきが生じやすくなるという問題がある。また、特許文献2の方法では、均一な粒子を得るため、第三成分の貴金属を添加することで粒子の均一性を図っているので、組成制御が容易でなく、またコストアップの要因にもなる。
【0010】
微小粒子を湿式で大量生産する場合には、反応としては均一でスケールファクターの影響の少ない合成方法が必要である。しかしこれらの課題は、特許文献1のものでは解決できず、特許文献2の技術では、比較的スケールファクターに影響を受けることは少ないものの、第三の成分の添加が必須であり、粒子の形成にも影響を与えることが懸念される。このことからわかるように従来の技術では、耐酸化性の改善は、図れているものの、スケールアップを見据えた、製造方法が確立されているとはいえない。
【0011】
そこで、本願発明は、スケールファクターの影響を受けにくく、粒子径が小さくても均整であり、かつ常温環境下に曝しても酸化の影響を受けにくい、銅を主成分とする微粒子およびその粒子を形成するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために本発明は、炭素数6〜10の直鎖アルコールの一種以上と、分子数200〜400の有機化合物の一種以上が溶解されてなる反応溶媒に、銅およびニッケルの化合物を溶解させた溶解液を得る工程と、
前記溶解液に有機−水酸化アンモニウム塩溶液を添加する工程と、
前記有機−水酸化アンモニウム塩溶液が添加された前記溶解液を保持して反応させる工程を有する銅−ニッケル微粒子を得る方法を提供する。
【0013】
さらに本発明の製造方法は反応温度を、溶媒であるアルコールの沸点より50℃低い温度から沸点の温度までの間とする。また、直鎖アルコールは1−オクタノールを選択し、有機−水酸化アンモニウム塩がテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、あるいはテトラブチルアンモニウムヒドロキシドを単独、もしくは併用して使用する。
【0014】
上述の方法により得られる粒子は、分子数200〜400の有機化合物により被覆され、透過型電子顕微鏡により計測される平均粒子径が1〜30nmであって、中心部は銅で、表層部がニッケルと銅の合金により形成される。より詳しくは、銅元素の濃度は、粒子の中心部が表層部より高く、中心部で90at.%以上を占め、粒子表層部では、それより希薄になっている。一方、ニッケル元素の濃度は、粒子の中心部では希薄で、表層部ではそれより高くなっている。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の粒子は微細で表層部がニッケルリッチのニッケル−銅合金であるため、耐酸化性の高いものが得られる。したがって、従来の耐酸化性に劣る粒子であれば、配線パターンなどの金属の形成体にする前に酸化物となっていたものが、金属態を呈した形成体の形態で得られるようになり、導電率の高い配線パターンなどを得ることができる。さらに本発明のニッケル−銅合金は、数十nm程度の金属粒子であるので、印刷法による配線のファインピッチ化に好適なものであるとともに、インクジェット法を用いたバンプを形成する際にもノズル詰まりが少なく、正確に所望の位置に形成することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1により得られた銅−ニッケルナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真。
【図2】(a)実施例1により得られた銅−ニッケルナノ粒子の経時変化を示すX線回折図(室温)と(b)実施例1により得られた銅−ニッケルナノ粒子の経時変化を示すX線回折図(60℃)。
【図3】(a)比較例1により得られた銅−ニッケルナノ粒子の経時変化を示すX線回折図(室温)と(b)比較例1により得られた銅−ニッケルナノ粒子の経時変化を示すX線回折図(60℃)。
【図4】実施例3により得られた銅−ニッケルナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真。
【図5】実施例3により得られた銅−ニッケルナノ粒子の経時変化を示すX線回折図(60℃)。
【図6】実施例4により得られた銅−ニッケルナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真。
【図7】実施例4により得られた銅−ニッケルナノ粒子の経時変化を示すX線回折図(60℃)。
【図8】実施例5により得られた銅−ニッケルナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真。
【図9】実施例5により得られた銅−ニッケルナノ粒子の経時変化を示すX線回折図(60℃)。
【図10】実施例6により得られた銅−ニッケルナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真。
【図11】実施例6により得られた銅−ニッケルナノ粒子の経時変化を示すX線回折図(60℃)。
【図12】酸化率の比を計算するために使用する値を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明者らは、上述の問題に対し、銅−ニッケルナノ粒子の製造を特定条件下のアルコール中で行い、粒子の中心部では銅を主体とし、粒子の表層部(以降「シェル」とも言う)を銅−ニッケルの合金とし、とりわけ銅元素の濃度は中心部から表層部に向けて濃度勾配を有すると思われる構成とすることによって、解決できうることを見いだし本願発明を完成させた。すなわち、本発明の銅−ニッケルナノ粒子は、銅粒子の表面にニッケル元素だけの層が形成された明確な二層構造ではない。
【0018】
銅を核に持ち、銅−ニッケルをシェルとする二層構造を有する粒子は、銅を核に持ち、ニッケルだけをシェルとした二層構造を有する粒子に比較して、低温焼結性において有利となる。なぜなら、融点では銅よりもニッケルよりの方が高いので、完全な二層構造の粒子では、ニッケルが融解する温度に達しない場合、金属薄膜化することができない懸念があるからである。一方、本発明に係る粒子の場合、シェルの銅−ニッケル合金は、ニッケル単体の融点よりは低い融点で金属薄膜化することができ、また耐酸化性ではシェルが銅単体よりもはるかに酸化しにくいので、低温焼結性と保存安定性を両立したものとなっているため好ましい。以下に本発明の銅−ニッケルナノ粒子について詳細に説明する。
【0019】
<粒子の作成>
本発明に係る粒子は次のようにして作成する。溶媒であるアルコールに対し、ニッケル塩および銅塩を溶解させる。この時ニッケル塩および銅塩は溶媒に対して完全に溶解する性質を有することが好ましい。銅塩としては、硝酸銅、塩化銅、酢酸銅、硫酸銅などが使用でき、ニッケルとしては硝酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、硫酸ニッケルが好ましい。ここで、ニッケル塩および銅塩を溶解させた溶液中の銅に対するニッケルの原子量割合は1〜99at.%、好ましくは5〜50at.%、より好ましくは15〜30at.%であるのがよい。また、溶液中の銅とニッケルの合計濃度は0.5mol/L未満、好ましくは0.4mol/L未満、より好ましくは0.3mol/L未満とするのが良い。
【0020】
また、溶媒として使用するアルコール(以降、アルコールAと記載することがある)は一価のアルコールが好適に選択される。具体的には炭素数が5以上10以下のアルコール、好ましくは5以上8以下であり、一層好ましくは、炭素数が7であるヘプタノール、炭素数が8であるオクタノールとするのが好ましい。これらのアルコールは、後の反応では還元剤としても作用する。このようなアルコールを選択すれば、金属成分に対する還元性が適当なものとなるので、銅−ニッケルナノ粒子が効率よく、しかも安定に析出することに寄与する。
【0021】
なお、(アルコールA)/(銅+ニッケル)のモル比は10以上とすることが好ましい。ただし、あまり溶媒の量が増えすぎると収率が悪化して不経済となる。従って、(アルコールA)/(銅+ニッケル)のモル比は概ね400以下の範囲とするのが好ましい。
【0022】
粒子が独立して存在する安定性、ならびに粒子の液中における流動性を確保するためには、粒子の表面には、有機化合物による被覆を行うことが好ましい。粒子の表面に被着する有機化合物(本明細書では界面活性剤と言うこともある)としては、分子量が200〜400の有機化合物、とりわけアミンを選択することが好ましい。なかでもその構造中に不飽和結合を有するものが好ましい。特にオレイルアミンは、後から粒子表面の界面活性剤の置換をすることもできるので、有用である。
【0023】
(界面活性剤分子)/(銅+ニッケル)のモル比は1〜20の範囲とすることが望ましい。このモル比が小さすぎると析出した銅の周囲を素早く界面活性剤の分子で取り囲むことが難しくなり、粒子が粗大化しやすい。また、銅−ニッケルナノ粒子表面に付着する界面活性剤の量が不足して、銅−ニッケルナノ粒子が凝集しやすくなる。
【0024】
種々検討の結果、(界面活性剤分子)/(銅+ニッケル)のモル比は1以上とすることが望ましく、2.5以上とすることがより好ましく、5以上とすることが一層好ましい。一方、(界面活性剤分子)/(銅+ニッケル)のモル比が過剰になると無駄が多く不経済である。したがって、(界面活性剤分子)/(銅+ニッケル)のモル比は2.5〜20の範囲とすることが効率的であり、15以下、あるいは10以下としても構わない。
【0025】
銅を核に持ち、銅−ニッケル合金をシェルに有する銅−ニッケルナノ粒子を得るには、アルコール中に助還元剤として、水酸化アンモニウム塩を添加することが好ましい。とりわけ有機−水酸化アンモニウム塩、なかでも低炭素鎖である、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAOH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)等が利用できるが、とりわけテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、あるいはテトラブチルアンモニウムヒドロキシドが好適に利用できる。
【0026】
この助還元剤の添加量は銅とニッケルの合計量に対してのモル比で0.01以上5以下、好ましくは2以下、一層好ましくは0.5以下とするのがよい。通常の水酸化物であれば助還元剤として同様の効果を示すものの、還元作用が高くなり、反応が急速に進み、粒子径の制御が困難になるため、スケールファクターの影響を受けやすくなる。本発明のように銅が核で周囲がニッケルと銅の合金構造を取るには、上述のような有機−水酸化アンモニウム塩を使用することが好ましい。
【0027】
以上準備した原料(銅、ニッケル、界面活性剤)を、アルコール内に溶解させた上で完全に溶解させる(以降「溶解液」という)。ただし、攪拌時に溶媒が拡散して溶液濃度が高くなりすぎないように、溶解温度は少なくとも溶媒の沸点以下、より好ましくは沸点の100℃以下の温度で溶解操作を行うのがよい。
【0028】
十分に溶解が進んだ段階で、溶解液を溶媒のアルコールの沸点(便宜的に以降ABP℃という)以下で(ABP−50)℃の範囲まで加熱する。この時の昇温速度は5.0℃/min以下、好ましくは2.0℃/min以下であるとよい。あまりに速度を早くしすぎると、溶解液の突沸が生じたり、あるいは液温が上記の範囲を超えてオーバーシュートしたりして、所望の温度範囲内に収まらない可能性があり好ましくない。
【0029】
溶液の反応温度(T℃)の好ましい範囲は、(ABP−50)≦T(℃)<ABPである。なお、一層好ましい温度範囲は、(ABP−45)≦T(℃)<ABPである。この温度範囲とすることで、所望の銅−ニッケルナノ粒子を得ることができる。一方、この範囲より低温側であると反応が生じにくいため、収率が高くならない。他方高温側であると沸騰が生じ、還流操作が必要となるため装置が大がかりになるばかりか、反応環境が不安定になるため得られる粒子の粒度分布が不均一なものとなる。
【0030】
ここで、アルコールを複数用いて反応を行う場合には、上述の趣旨を逸脱しないよう最も沸点の低いアルコールの沸点をABPとして採用する。ただし、その沸点の低いアルコールの比率が極めて少ない場合には、容量で5割以上を占めるアルコールの沸点を基準としても問題はない。
【0031】
溶解液の温度が所定の温度に達した時点で、助還元剤である有機−水酸化アンモニウム塩を添加する。
【0032】
上述の添加により、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムといった強力なアルカリを使用した場合に比較して穏和な雰囲気で還元反応が進行する。そのため、核の部分にはイオン化傾向の小さい銅が先に析出するが、反応が進行するにつれ周囲に銅とニッケルの合金層が形成されるようになる。従って、このような反応系としたことにより、銅が完全にニッケル内部に包含されることがなく、中心部からニッケルと銅の濃度勾配を有する銅微粒子を得ることができる。
【0033】
得られる粒子は、TEM−EDXにより算出される金属成分の組成割合で、中心部における全金属成分に対する銅は90at.%以上、好ましくは92at.%以上、一層好ましくは95at.%以上であるのがよい。また、同様にTEM−EDXにより算出されるシェル部分におけるニッケルの割合は10at.%以上、好ましくは15at.%以上であるとよい。このようにシェル部分および中心部分の組成比を調整することで、耐酸化性に優れた粒子を得られるようになる。ただし、シェル部分におけるニッケルの割合が高すぎると低温焼結性との両立が難しくなるので好ましくない。シェル部におけるニッケルは高くとも90at.%未満、好ましくは80at.%未満とするのがよい。
【0034】
(有機−水酸化アンモニウム塩の水酸化物基)/(アルコール)のモル比は2.5×10-5〜0.5の範囲とすることが望ましい。液中に存在する水酸化物イオンの濃度が低すぎると、反応溶液中における中間生成物の形成が起こりにくくなることに起因して、本発明に従う粒子を得ることが困難になる。
【0035】
一方、還元剤として作用するアルコールに対するモル比によって、助還元剤である有機−水酸化アンモニウム塩の量を規定することができた。これまでの検討では、(有機−水酸化アンモニウム塩の水酸化物基)/(アルコール)のモル比を2.5×10-5以上とすることによって、良好に銅ナノ粒子を合成することができる。(有機−水酸化アンモニウム塩の水酸化物基)/(アルコール)のモル比を0.005以上とすることがより好ましく、0.01以上とすることが一層好ましい。ただし、過剰に水酸化物を添加すると、反応液中にゲル状の生成物が生じ、粒子を回収することが難しくなる場合がある。(有機−水酸化アンモニウム塩の水酸化物基)/(アルコール)のモル比は0.5以下の範囲で調整することが望ましく、場合によっては0.1以下あるいは0.075以下にコントロールしても構わない。
【0036】
水酸化物を溶解液に添加してからの反応時間は、概ね1〜12時間の範囲で調整することができる。反応終了後は、固液分離操作が可能な温度まで冷却させるが、その冷却過程において液中に有機溶媒を添加しても構わない。これにより液が希釈されて温度低下に伴うスラリーの粘性増大が抑制され、後工程での固液分離操作がし易くなる。
【0037】
ただし、使用している界面活性剤がその希釈用有機溶媒に溶けやすい(溶解度が大きい)場合は、希釈量が多いと、銅−ニッケルナノ粒子に付着している界面活性剤分子の脱着を招く恐れがある。それを防ぐためには、予め希釈用有機溶媒に当該界面活性剤を溶解させておくことが有効である。例えば界面活性剤としてオレイルアミンを使用し、希釈用溶媒としてメタノールを使用する場合だと、予めそのメタノール中に溶液全体に対して10質量%程度のオレイルアミンを溶解させておき、これを添加することが有効である。なお、この希釈操作は必ずしも必要ではなく、固液分離の作業性等に応じて実施すればよい。
【0038】
<固液分離工程>
次に、上記のようにして合成された銅−ニッケルナノ粒子を含むスラリーを固液分離して、固形分を回収する。固液分離方法はデカンテーションや遠心分離が好適である。
【0039】
<洗浄工程>
回収された固形分には、界面活性剤が表面に付着した銅−ニッケルナノ粒子が存在するが、それに混じって種々の反応生成物や残った原料物質が混在している。これらの混在物質(不純物)をできるだけ排除することが、分散性の良い銅−ニッケルナノ粒子を得る上で重要である。アルコールと界面活性剤の混合溶媒中で金属ナノ粒子を合成する公知の方法においては、合成された金属ナノ粒子に混在する不純物は有機物質が主体であり、メタノールその他の有機溶媒を洗浄液に用いて、例えば「超音波洗浄後に固液分離する」の操作を1回または複数回行うことにより、分散性に優れた金属ナノ粒子を得ることが可能であった。
【0040】
このようにして洗浄された銅−ニッケルナノ粒子は、界面活性剤分子が表面に付着しており、種々の非極性溶媒中で良好な分散性を呈する。例えば、界面活性剤にオレイルアミンを使用した銅−ニッケルナノ粒子は、トルエン、デカン、テトラデカン、イソパラフィン系溶剤等の炭化水素の液状媒体中で単分散することが確認された。また、この銅−ニッケルナノ粒子に付着している界面活性剤を、他の種類の界面活性剤に付け替える操作を有機溶媒中で行うことによって、各種媒体に適した銅−ニッケルナノ粒子を得ることが可能である。特に界面活性剤のオレイルアミンは、銅−ニッケルナノ粒子に付着する性質を有している一方で、アルコール溶媒等への溶解が非常に起こりやすい。
【0041】
従って、オレイルアミンが付着した銅−ニッケルナノ粒子と、目的とする別の界面活性剤が溶解している有機溶媒が混合された液中に、オレイルアミンが溶解しやすいアルコール溶媒を多量に加えることで、比較的容易に界面活性剤を付け替えることが可能である。また、この段階で真空乾燥を行えば、粒子の粉末を得ることも可能である。またその際において、乾燥条件を変更することでウエットの状態の凝集体、いわゆるケーキ状の形態としても提供することができる。
【0042】
<TEMによる粒子径の算出>
上記の分散液について、TEM(日本電子株式会社製:透過型電子顕微鏡JEM−100CX−MarkII)により粒子の観察を行った。倍率30万倍のTEM画像において、重なっていない独立した銅−ニッケルナノ粒子300個を無作為に選んでその径(長径)を測定し、測定した全粒子の径の平均値を平均粒子径DTEMとした。また、測定した全粒子の径について標準偏差σDを算出し、下記(1)式により変動係数を求めた。
【0043】
変動係数=σD/DTEM×100 ……(1)
<粒子中の元素濃度の計測>
TEM−EDXを用いて、粒子中における組成を算出した。なお、この明細書で言う中心部(コア)とは粒子の中心、すなわちTEM画像上で粒子の直径を算出するために用いた仮想直線の中点から、粒子の直径の1/10の半径で描かれる円(すなわち直径は粒子径の1/5に相当する)の内部における部分を指すものとし、中心(コア)部分の元素分析はその内部で計測するものとする。また、シェル部分の測定箇所は、粒子の輪郭部分から、粒子の中心へ1/5の部分までの範囲で計測するものとする。別法としては、粒子の表層部と中心部分の構成比を算出するため、ESCAを使用して観測することも可能である。
【0044】
<粒子の耐酸化性の評価>
粒子の耐酸化性は、以下の方法により評価した。得られた反応操作後の銅−ニッケルナノ粒子スラリー20mL(0.14gの金属成分が存在する)に対し、メタノール20mLを添加し、遠心分離法によって銅−ニッケルナノ微粒子を分別した。得られた銅−ニッケルナノ粒子塊を大気中室温条件、あるいは酸化反応の加速を進行させる目的で60℃恒温条件下で合成直後(0日)、7日、14日、28日(、場合によっては56日)それぞれ放置したものについて、X線回折(株式会社Rigaku製X線回折装置:RINT−2100、Co管球によりCo−Kαの特性X線により観察)により酸化銅ピークが生じるか否かに関し評価した。なお、図中では上部から56日、28日、21日、14日、7日、合成直後のX線回折像を並列して示してある。
【0045】
酸化の定量化は、銅の最大ピーク(2θ=51.1°近傍)と酸化銅(2θ=42.9°近傍)の最大ピークを比較することで酸化度合を算出した。具体的には、図12を参照して、合成直後と60℃の温度で大気中7日経過させた後の両サンプルに対して、X線回折図の2θ=41.5〜43.5°の範囲(酸化銅のピーク近傍)で最も強度(cps)の高い点を比較することで酸化銅成分の増加割合を確認し、酸化のされやすさを定量化した。なお、評価としては酸化銅の存在割合として求めた。また、図12は、横軸が2θであり、縦軸が強度(cps)に相当する任意単位を表わす。なお、X線回折の結果図は、全て縦軸は強度に相当する任意単位として示す。
【0046】
また、2θ=50〜52°の範囲(銅のピーク近傍)での範囲で最も強度(cps)の高い点を比較することで銅成分の減少割合を確認して、銅の残存割合を評価した。あわせて0日と7日経過後のサンプルについて、それぞれ酸化銅と銅のX線回折図の最大ピークの強度比を算出し、主要銅成分における酸化物/金属成分比を算出した。
【実施例】
【0047】
<実施例1>
セパラブルフラスコに酢酸ニッケル四水和物(和光純薬工業株式会社製)1.20g、無水酢酸銅(和光純薬工業株式会社製)3.46gを分取した。これに1−オクタノール(和光純薬工業株式会社製)102.84g、オレイルアミン(花王株式会社製ファーミンO)63.12gをそれぞれ添加して、窒素雰囲気中50℃で攪拌し、酢酸ニッケル、無水酢酸銅を溶解させ、溶解液を作成した。
【0048】
次に、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(シグマアルドリッチ社製)0.94gを1−オクタノール11.42gへ添加し、100℃に加温溶解して、有機−水酸化アンモニウム塩溶液を調製した。
【0049】
溶解液を155℃まで0.5℃/minの昇温速度で昇温し、温度が安定してから、100℃に昇温させた有機−水酸化アンモニウム塩溶液を一挙に添加した。添加した後0.2℃/minの昇温速度で165℃まで昇温し、3時間保持して反応させることで粒子を析出させた。その後、自然放冷により室温まで液温を低下させ、実施例1に係る銅−ニッケルナノ粒子を得た。
【0050】
こうして得られた粒子は、平均粒子径DTEM:21.79nmで標準偏差が4.27nm、変動係数(標準偏差σ/平均粒子径)=19.6%であった。得られた粒子のTEM像を図1に示す。若干いびつで大きさも少し幅があるナノ粒子を得た。
【0051】
図2(a)に、実施例1のナノ粒子の経時変化を示すX線回折図を示す。すでに説明したように、横軸は2θ(度)であり、縦軸はカウント数である。また、チャートは上から56日後、28日後、21日後、14日後、7日後、合成直後(0日後)のデータである。なお、チャートで示すX線回折図は、途中で管球が変わっているので、このチャートから直接酸化されやすさや、銅の残存率は読み取れない。
【0052】
図2(a)では、2θ=41.5〜43.5°の範囲(矢印参照)に観測されるはずの酸化銅のピークがほとんど観測できなかった。一方、図2(b)には、60℃の加速環境下での経時変化を示す。同じくチャートは上から56日後、28日後、21日後、14日後、7日後、1日後のデータである。これを見ると、14日目からわずかに2θ=41.5〜43.5°の範囲(矢印参照)が盛り上がってきており、56日後には、明らかに酸化銅のピークが観測された。なお、酸化の定量化はこの環境下での作製直後および7日後の値の比較である。
【0053】
酸化の定量化という観点の値では、金属銅成分の残存割合は79.4%、酸化銅成分は94.4%増加した。従って、温度を高くし、酸化されやすい状態に置いたとしても、金属銅成分はおおよそ8割程度残存するため、高い耐酸化性を有することがわかる。また、TEM像にて室温で大気中にて56日経過後の粒子を確認したところ、粒子としては大きな変化は確認されなかった。
【0054】
組成分布をTEM−EDXにより算出したところ、粒子表層部ではニッケルが15at.%、銅が85at.%の構成であり、中心部においては、ニッケルが4at.%、銅が96at.%を示し、ニッケルおよび銅の濃度に勾配のある銅−ニッケルナノ粒子が得られていることがわかった。
【0055】
<実施例2>
実施例1における有機−水酸化アンモニウム塩溶液に代えて、次の溶液を作成した。すなわち、TBAH−40(テトラブチルアンモニウムヒドロキシド40%メタノール溶液)(ライオンアグゾ社製)50.0gと1−オクタノール30.0gを混合し、混合液をロータリーエバポレーターを用いることにより、減圧下で加温処理を行いメタノールの除去を行った溶液を作成した。
【0056】
この溶液6.8gに1−オクタノール11.42gを添加し、100℃に加温溶解して、有機−水酸化アンモニウム塩溶液を調製したものを使用した以外は実施例1と同様にして、銅−ニッケルナノ微粒子を得た。
【0057】
こうして得られた粒子は、平均粒子径:13.6nmで標準偏差が2.7nm、変動係数(標準偏差σ/平均粒子径)=19.9%であった。実施例1の場合より平均粒子径が小さく、また標準偏差が小さい、均整な微粒子を得ることができた。
【0058】
実施例1と同様のサンプリングにより、粒子の表面から中心方向の組成比の推定を行ったところ実施例1と同様の傾向が確認され、実施例1と同様の粒子が形成されているものと推定された。
【0059】
<実施例3〜6>
粒子を構成するニッケル量を種々変化させた以外は、実施例1と同様にして、銅−ニッケルナノ粒子を合成した。その条件と得られた粒子の物理特性を表1に示すとともに、粒子の透過型電子顕微鏡像と経時変化を示すX線回折図を図4〜11に示す。具体的には、図4は実施例3のTEM写真であり、図5は、60℃環境下での経時変化を示す。また、図6、7は実施例4のTEM写真と60℃環境下での経時変化である。また、図8、9は実施例5のTEM写真と60℃環境下での経時変化である。また、図10、11は実施例6のTEM写真と60℃環境下での経時変化である。なお、実施例5および6には56日後のデータはない。なお、経時変化を調べたX線回折図(図5,7,9,11)では、酸化銅のピークである2θ=41.5〜43.5°の範囲に矢印を記した。
【0060】
いずれの実施例も平均粒子径が約13〜22nmであり、耐候性(一週間後におけるCu存在率)が当初の75%以上に保たれる、安定した銅−ニッケルナノ粒子を得ることができた。
【0061】
<比較例1>
比較例1は助還元剤を強いアルカリである水酸化ナトリウムにしたサンプルである。まず、セパラブルフラスコに塩化銅無水物(和光純薬工業株式会社製)2.5gを分取した。これに1−ヘプタノール(和光純薬工業株式会社製)56.09g、オレイルアミン(花王株式会社製ファーミンO)28.0gをそれぞれ添加して、窒素雰囲気中50℃で攪拌し、塩化銅を溶解させ、溶解液を作成した。
【0062】
次に、水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)1.80gを1−ヘプタノール38.28gへ添加し、120℃に加温溶解して、水酸化ナトリウム溶液を調製した。
【0063】
溶解液を160℃まで0.5℃/minの昇温速度で昇温し、160℃で安定してから水酸化ナトリウム溶液を一挙に添加し、4時間保持して反応することで粒子を析出させた。その後、自然放冷により室温まで液温を低下させることで、銅微粒子を得た。従って、比較例1はNiを含有しない銅だけの粒子である。
【0064】
こうして得られた粒子は、大気中に暴露したところたちまち色が変化し、著しく酸化していることが確認された。また、上述の評価法による酸化のされやすさでは、金属銅成分の残存割合は15.2%、酸化銅成分は699.5%増加した。従って温度を高くし、酸化されやすい状態に置いた場合においては、金属銅成分はおおよそ2割程度にまで少なくなり、ほぼ酸化されたことがわかる。
【0065】
さらに、経時変化によるX線回折変化を図3に並列して示す。図3(a)は通常温度であり、図3(b)は60℃の環境下での保存である。測定は、合成直後、1日後、7日後、14日後、21日後の測定結果である。なお、図3(b)では21日後のデータはない。酸化銅の存在を示す2θ=41.5〜43.5°の範囲(矢印参照)のピークは1日目以降観測されており、ニッケルのない比較例では初期の段階から酸化されていることが分かった。しかし、一度酸化してしまうと、それ以上酸化が進行することはなく、1日目以降の経時変化は見られなかった。
【0066】
【表1】

以上のことから、同様の有機化合物で被覆しても酸化は生じてしまうため、有機化合物では耐酸化性を得ることができないが、本発明に従う方法により得られた銅−ニッケルナノ粒子とすることで、経時劣化の小さい、耐酸化性に優れた粒子を得ることができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に従う粒子は、印刷法による配線のファインピッチ化に好適なものであるとともに、インクジェット法を用いたバンプを形成する際にも、銅ナノ粒子単独の際に見られた酸化物の析出によるノズル詰まりが少なく、正確に所望の位置に形成することができるようになるため、導電回路、バンプ、ビア、パッド等実装部品の形成材料、高密度磁気記録媒体、RF−ID等に用いられるアンテナ、ガス改良用フィルタ、燃料電池電極用触媒材料、導電性接着材、鉛はんだ代替材料、接合材料として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数6〜10の直鎖アルコールの一種以上と、分子数200〜400の有機化合物の一種以上が溶解されてなる反応溶媒に、銅およびニッケルの化合物を溶解させた溶解液を得る工程と、
前記溶解液に有機−水酸化アンモニウム塩溶液を添加する工程と、
前記有機−水酸化アンモニウム塩溶液が添加された前記溶解液を保持して反応させる工程を有する銅−ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記反応させる工程は、前記直鎖アルコールの沸点より50℃低い温度から前記直鎖アルコールの沸点までの間の所定の温度で反応させる工程である請求項1に記載の銅−ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記直鎖アルコールがオクタノールもしくはヘプタノールもしくはその両方を使用する、請求項1または2に記載の銅−ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記有機−水酸化アンモニウム塩は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドあるいはテトラブチルアンモニウムヒドロキシドのいずれか若しくは併用したものである、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の銅−ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
分子数200〜400の有機化合物により被覆され、透過型電子顕微鏡により計測される平均粒子径DTEMが1〜30nmであって、中心部の銅構成割合が高く、表層部がニッケルと銅の合金により形成される、銅−ニッケルナノ粒子。
【請求項6】
銅元素の濃度は中心部が表層部より高く、ニッケル元素の濃度は、粒子の中心部では希薄で、表層部ではそれより高い請求項5に記載の銅−ニッケルナノ粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−63828(P2011−63828A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213477(P2009−213477)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】