説明

銅−亜鉛合金電気めっき浴および銅−亜鉛合金めっき付きスチールコード用ワイヤ

【課題】シアン化合物を含むことなく、経時的に安定なめっき被膜の得られる銅−亜鉛合金電気めっき浴および銅−亜鉛合金めっき付きスチールコード用ワイヤを提供する。
【解決手段】銅塩、亜鉛塩およびソルビトールを含有する銅−亜鉛合金電気めっき浴である。さらに、アミノ酸またはその塩から選ばれた少なくとも一種を含有することが好ましく、浴中に含まれる銅イオンおよび亜鉛イオンの総容量モル濃度Mに対する、ソルビトールの容量モル濃度Sの比(S/M)が、2.0〜6.2%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅−亜鉛合金電気めっき浴および銅−亜鉛合金めっき付きスチールコード用ワイヤに関し、詳しくは、シアン化合物を含むことなく、経時的に安定なめっき被膜の得られる銅−亜鉛合金電気めっき浴および銅−亜鉛合金めっき付きスチールコード用ワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、銅−亜鉛合金めっきは、金属製品、プラスチック製品、セラミック製品等に真鍮色の金属光沢および色調を与えるため、装飾めっきとして工業的に広く用いられている。しかし、従来のめっき浴はシアン化合物を多量に含んでいるため、その毒性が大きな問題となっており、また、含シアン化合物廃液の処理負担も大きなものであった。
【0003】
かかる解決手段として、今日、シアン化合物を用いない銅−亜鉛合金めっき方法が多数報告されている。例えば、逐次めっきは、黄銅めっきを被めっき製品に施すための実際的な方法であり、かかる方法においては、電着によって銅めっき層と亜鉛めっき層が被めっき製品表面に順次めっきされ、ついで、熱拡散工程が施される。逐次黄銅めっきの場合、ピロりん酸銅めっき溶液と酸性の硫酸亜鉛めっき溶液が通常使用されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
一方、銅−亜鉛を同時にめっきする方法として、シアン化合物を含まない銅−亜鉛めっき浴も報告されており、グルコヘプトン酸浴や錯化剤としてヒスチジン添加のピロりん酸カリウム浴を用いためっき浴が提案されている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開平5−98496号公報
【特許文献2】特公平3−20478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に記載されているようなピロりん酸浴を使用しためっき方法は、シアン化合物を含んでいないため、シアン化合物による毒性の問題はなく、また、含シアン化合物廃液の処理負担の問題もないが、ピロりん酸めっきの使用pH領域ではめっきのやけが発生しやすいため、光沢のあるめっき処理を行うためには高pH領域(10以上)でめっきすることが必要となる。その結果、高pH領域では、ピロりん酸がりん酸に変化し、このりん酸の濃度が一定以上になると系の物性が変化して、経時的にめっき付着量の低下および組成変化が起るという問題がある。
【0006】
そこで本発明の目的は、シアン化合物を含むことなく、経時的に安定なめっき被膜の得られる銅−亜鉛合金電気めっき浴および銅−亜鉛合金めっき付きスチールコード用ワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、無電解めっき浴で用いられているソルビトールを用いることで、ピロりん酸浴に比べて浴の劣化が抑制できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の銅−亜鉛合金電気めっき浴は、銅塩、亜鉛塩およびソルビトールを含有することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の銅−亜鉛合金電気めっき浴は、さらに、アミノ酸またはその塩から選ばれた少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0010】
さらに、本発明の銅−亜鉛合金電気めっき浴は、浴中に含まれる銅イオンおよび亜鉛イオンの総容量モル濃度Mに対する、前記ソルビトールの容量モル濃度Sの比(S/M)が、2.0〜6.2%であることが好ましく、前記総容量モル濃度Mが0.03〜0.30mol/Lであることがより好ましい。さらにまた、pHが8.5〜14であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のスチールコード用ワイヤは、前記銅−亜鉛合金電気めっき浴を用いてめっきを施されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記構成としたことにより、シアン化合物を含むことなく、経時的に安定なめっき被膜の得られる銅−亜鉛合金電気めっき浴および銅−亜鉛合金めっき付きスチールコード用ワイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明の銅−亜鉛合金電気めっき浴は、銅塩、亜鉛塩およびソルビトールを含有する。ピロりん酸浴より強アルカリ浴として無電解めっきで使用されているソルビトールを、ピロりん酸に替えて含有することで、経時的なめっき付着量の低下および組成変化の発生を、ピロりん酸浴に比べて抑制できる。また、低電流から高電流の密度の範囲で均一にめっきできる。
【0014】
本発明において、ソルビトールは、グルコース等を還元して得られる糖アルコールの一種であり、本発明においては、市販品などを使用することができる。
【0015】
また、銅塩としては、めっき浴の銅イオン源として公知のものであればいずれも使用可能であり、例えば、ピロりん酸銅、硫酸銅、塩化第2銅、スルファミン酸銅、酢酸第2銅、塩基性炭酸銅、臭化第2銅、ギ酸銅、水酸化銅、酸化第2銅、りん酸銅、ケイフッ化銅、ステアリン酸銅、クエン酸第2銅等を挙げることができ、これらのうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0016】
さらに、亜鉛塩としては、めっき浴の亜鉛イオン源として公知のものであればいずれも使用可能であり、例えば、ピロりん酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、スルファミン酸亜鉛、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、臭化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、りん酸亜鉛、ケイフッ化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、乳酸亜鉛等を挙げることができ、これらのうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0017】
本発明においては、さらに、アミノ酸またはその塩から選ばれた少なくとも一種を含有することが好ましい。かかるアミノ酸としては、公知のものであればいずれでも使用可能であり、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、トレオニン、セリン、プロリン、トリプトファン、ヒスチジン等のα−アミノ酸若しくはその塩酸塩、ナトリウム塩等を挙げることができ、好ましくはヒスチジンである。なお、これらのうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0018】
また、本発明の銅−亜鉛合金電気めっき浴は、浴中に含まれる銅イオンおよび亜鉛イオンの総容量モル濃度Mに対する、ソルビトールの容量モル濃度Sの比(S/M)が、2.0〜6.2%であることが好ましい。かかる容量モル濃度比(S/M)をかかる範囲とすることにより、経時的安定性をより良好にすることができる。なお、本発明において、容量モル濃度比(S/M)とは、ソルビトールの容量モル濃度Sを、浴中に含まれる銅イオンおよび亜鉛イオンの総容量モル濃度Mで除した値をパーセント表示したものである。
【0019】
さらに、本発明の銅−亜鉛合金電気めっき浴の銅イオンおよび亜鉛イオンの総容量モル濃度Mは、0.03〜0.30mol/Lであることが好ましい。総容量モル濃度Mが0.03mol/L未満であると、銅の析出が優先されるおそれがあり、一方、0.30mol/Lを超えると被膜表面に光沢が得られないおそれがあり、好ましくない。
【0020】
また、本発明の銅−亜鉛合金電気めっき浴のpHは、8.5〜14の範囲であることが好ましい。pH14を超えると電流効率が著しく低下するおそれがあり、一方、pHが8.5未満であると光沢のある均一なめっき被膜を得られないおそれがあり、好ましくない。また、本発明の銅−亜鉛合金電気めっき浴のpH調整には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物および水酸化カルシウムのようなアルカリ土類金属水酸化物を好適に用いることができ、好ましくは水酸化カリウムである。
【0021】
本発明における上記各成分の配合量は特に制限されず、適宜選択することができるが、工業的な取扱いを考慮すると、銅塩を銅換算で2〜40g/L、亜鉛塩を亜鉛換算で0.5〜30g/L、アミノ酸又はその塩を0.2〜50g/L程度とすることが好ましい。
【0022】
次に、銅−亜鉛合金電気めっきの方法について説明する。
本発明において、銅−亜鉛合金電気めっきの方法は、本発明の銅−亜鉛合金電気めっき浴を使用し、1〜6A/dmの電流密度にてめっき処理を行うものである。本発明の銅−亜鉛合金電気めっき浴を使用して、銅−亜鉛合金電気めっきを施すに際しては、通常の電気めっき方法を採用することができる。例えば、浴温20〜60℃程度で、無攪拌下あるいは機械攪拌下又は空気攪拌下で電気めっきをすればよい。この際、陽極としては、通常の銅−亜鉛合金の電気めっきに用いられるものであれば、いずれも使用できる。
【0023】
上記電気めっきを行う前に、被めっき体には、常法に従ってバフ研磨、脱脂、希酸浸漬等の通常の前処理を施すことができ、あるいは光沢ニッケルめっき等の下地めっきを施すことも可能である。また、めっき後には、水洗、湯洗、乾燥等の通常行われている操作を行ってもよく、さらに必要に応じて、重クロム酸希薄溶液への浸漬、クリヤー塗装等を行ってもよい。
【0024】
本発明では、被めっき体としては特に制限されず、通常、銅−亜鉛合金電気めっき被膜を施されるものいずれでも使用でき、例えば、ゴム物品補強用スチールコードに使用するスチールフィラメントをはじめとした金属製品、プラスチック製品、セラミックス製品等を挙げることができる。
【0025】
本発明の銅−亜鉛合金電気めっき浴は、スチールコード用ワイヤのめっきに適用することができる。本発明のスチールコード用ワイヤは、上記銅−亜鉛合金電気めっきが施されたスチールコード用ワイヤであり、ワイヤ表面に銅−亜鉛合金めっき被膜が施されていることにより、機能性を維持しつつ耐腐食性が向上している。本発明のスチールコード用ワイヤはゴム物品補強用スチールコードの製造に用いることができ、また、得られたスチールコードはタイヤの製造に良好に用いることができる。
【0026】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
下記の表1にそれぞれ示す銅−亜鉛合金電気めっき浴の組成に従い、各実施例および比較例の銅−亜鉛合金電気めっき浴を調製し、下記の表1中のめっき条件に従って、鉄棒に銅−亜鉛合金電気めっき処理を行った。また、2週間経過後に同一の条件で銅−亜鉛合金電気めっき処理を行った。
【0027】
その後、得られた被めっき鉄棒につき、下記評価方法に従って、めっき付着量、めっき被膜組成、光沢について評価を行った。評価結果を表1に併記する。
【0028】
(めっき付着量およびめっき被膜組成)
得られた被めっき鉄棒の被膜を溶液に溶解し、その溶液を蛍光X線分析装置により定量分析して、銅および亜鉛として付着しためっき付着量(mg/cm)およびめっき被膜組成(質量%)を測定した。
【0029】
(光沢)
得られた被めっき鉄棒の表面を目視により観察し、銅−亜鉛合金めっき被膜の光沢の有無について確認した。
【0030】
【表1】

【0031】
上記表の実施例1〜3と比較例1および2の結果を比較すると、ソルビトールを含有することにより、経時的に安定なめっき被膜が得られることが確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅塩、亜鉛塩およびソルビトールを含有することを特徴とする銅−亜鉛合金電気めっき浴。
【請求項2】
さらに、アミノ酸またはその塩から選ばれた少なくとも一種を含有する請求項1記載の銅−亜鉛合金電気めっき浴。
【請求項3】
浴中に含まれる銅イオンおよび亜鉛イオンの総容量モル濃度Mに対する、前記ソルビトールの容量モル濃度Sの比(S/M)が、2.0〜6.2%である請求項1または2記載の銅−亜鉛合金電気めっき浴。
【請求項4】
前記総容量モル濃度Mが0.03〜0.30mol/Lである請求項3記載の銅−亜鉛合金電気めっき浴。
【請求項5】
pHが8.5〜14である請求項1〜4のうちいずれか1項記載の銅−亜鉛合金電気めっき浴。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1項記載の銅−亜鉛合金電気めっき浴を用いてめっきを施されたことを特徴とするスチールコード用ワイヤ。

【公開番号】特開2010−31333(P2010−31333A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196686(P2008−196686)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】