説明

銅−錫合金めっき皮膜、非シアン系銅−錫合金めっき浴およびそれを用いためっき方法

【課題】 ニッケルめっき皮膜と同程度の白色外観および皮膜特性を有する銅−錫合金めっき皮膜、ならびにそれを形成するための非シアン系銅−錫合金めっき浴を提供する。
【解決手段】 銅−錫合金めっき皮膜をCuSnの結晶で構成し、錫の含有率を40体積%以上50体積%以下とし、銅の含有率を50体積%以上60体積%以下とする。この銅−錫合金めっき皮膜は、2価錫イオン換算で2g/L以上20g/L以下の2価錫塩と、2価銅イオン換算で5g/L以上30g/L以下の2価銅塩と、50g/L以上400g/L以下の無機酸と、2g/L以上50g/L以下の光沢剤と、0.5g/L以上20g/L以下の湿潤剤と、4価錫イオン換算で5g/L以上30g/L以下の4価錫塩とを含有し、pHが3以下であり、光沢剤がアルデヒド系化合物であり、湿潤剤がたとえば非イオン系アリールフェノール類である非シアン系銅−錫合金めっき浴を用いて形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅−錫合金めっき皮膜、ならびにそれを形成するための非シアン系銅−錫合金めっき浴および銅−錫合金めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気めっきにおいて、めっき皮膜に含まれる金属元素の有害性が問題視されて、古くから広く使用されていたニッケルめっきについても、その代用めっきが望まれている。
【0003】
銅−錫合金めっきは、ニッケル代用めっきの候補に挙げられているが、めっき浴として、シアンイオンを含有するめっき浴を用いるシアンタイプが多く、シアンの有害性および環境への影響の問題が、工業化の難点になっている。
【0004】
このような問題に対して、シアンイオンを含有しないめっき浴を用いる非シアンタイプの銅−錫合金めっきが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特許第3455712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1などに開示の技術では、非シアン化合物を使用しためっき浴を用いて、白色外観のめっき皮膜が安定して得られるとして、シアンタイプの代替を謳っているが、特許文献1などに開示の銅−錫合金めっきは装飾目的であり、皮膜特性的にはニッケル代用として問題がある。
【0007】
本発明の目的は、ニッケルめっき皮膜と同等の白色外観および皮膜特性を有する銅−錫合金めっき皮膜、ならびにそれを形成するための非シアン系銅−錫合金めっき浴および銅−錫合金めっき方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、CuSnの結晶から成り、
錫の含有率が40体積%以上50体積%以下であり、
銅の含有率が50体積%以上60体積%以下であることを特徴とする銅−錫合金めっき皮膜である。
【0009】
また本発明は、2価錫イオン換算で2g/L以上20g/L以下の2価錫塩と、
2価銅イオン換算で5g/L以上30g/L以下の2価銅塩と、
50g/L以上400g/L以下の無機酸と、
2g/L以上50g/L以下の光沢剤と、
0.5g/L以上20g/L以下の湿潤剤と、
4価錫イオン換算で5g/L以上30g/L以下の4価錫塩とを含有し、
pHが3以下であり、
光沢剤が、アルデヒド系化合物であり、
湿潤剤が、非イオン系アルキルフェノール類、非イオン系アリールフェノール類、非イオン系アルキルエーテル類および非イオン系アルキルアリールエーテル類から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする非シアン系銅−錫合金めっき浴である。
【0010】
また本発明は、前記本発明の非シアン系銅−錫合金めっき浴を用いて、銅−錫合金めっき皮膜を形成する銅−錫合金めっき法であって、
4価錫塩を非シアン系銅−錫合金めっき浴中で電解酸化によって生成させ、
非シアン系銅−錫合金めっき浴を攪拌するとともに、銅−錫合金めっき皮膜を形成することを特徴とする銅−錫合金めっき法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、銅−錫合金めっき皮膜は、CuSnの結晶から成り、錫の含有率が40体積%以上50体積%以下であり、銅の含有率が50体積%以上60体積%以下である。錫の含有率が40体積%未満では、CuSnの結晶化が不完全であり、脆皮膜特性が、ニッケルめっき皮膜と比べて劣る。CuSnを完全に結晶化させるためには、錫の含有率は40体積%以上であることが必要である。また錫含有率が50体積%を超えると、光沢外観が得られず、めっき皮膜の結晶状態もCuSnとSnとの結晶が交錯しており、錫含有率が40体積%以上50体積%以下のめっき皮膜と比べて、結晶状態に差がある。本発明の銅−錫合金めっき皮膜は、CuSnの結晶から成り、錫の含有率が40体積%以上50体積%以下であり、銅の含有率が50体積%以上60体積%以下であるので、ニッケルめっき皮膜と同等の白色外観を有し、かつ硬度、折曲げ強度、耐食性および応力などの皮膜特性が、ニッケルめっき皮膜と比べてほぼ同程度の特性を有する銅−錫合金めっき皮膜を実現することができる。
【0012】
また本発明によれば、非シアン系銅−錫合金めっき浴は、2価錫イオン換算で2g/L以上20g/L以下の2価錫塩と、2価銅イオン換算で5g/L以上30g/L以下の2価銅塩と、50g/L以上400g/L以下の無機酸と、2g/L以上50g/L以下の光沢剤と、0.5g/L以上20g/L以下の湿潤剤と、4価錫イオン換算で5g/L以上30g/L以下の4価錫塩とを含有し、pHが3以下であり、光沢剤が、アルデヒド系化合物であり、湿潤剤が、非イオン系アルキルフェノール類、非イオン系アリールフェノール類、非イオン系アルキルエーテル類および非イオン系アルキルアリールエーテル類から選ばれる少なくとも1種である。この非シアン系銅−錫合金めっき浴を用いることによって、CuSnの結晶から成り、ニッケルめっき皮膜と同等の白色外観を有し、かつ硬度、折曲げ強度、耐食性および応力などの皮膜特性が、ニッケルめっき皮膜と比べてほぼ同程度の特性を有する銅−錫合金めっき皮膜を形成することができる。
【0013】
また本発明によれば、前記本発明の非シアン系銅−錫合金めっき浴を用いて、4価錫塩を非シアン系銅−錫合金めっき浴中で電解酸化によって生成させ、非シアン系銅−錫合金めっき浴を攪拌するとともに、銅−錫合金めっき皮膜を形成する。これによって、CuSnの結晶から成り、ニッケルめっき皮膜と同等の白色外観を有し、かつ硬度、折曲げ強度、耐食性および応力などの皮膜特性が、ニッケルめっき皮膜と比べてほぼ同程度の特性を有する銅−錫合金めっき皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の銅−錫合金めっき皮膜(以下、単に「銅−錫合金めっき皮膜」ということがある)は、CuSnの結晶から成り、錫の含有率が40体積%以上50体積%以下であり、銅の含有率が50体積%以上60体積%以下である。
【0015】
錫−銅合金状態図から、200℃以下の常温での結晶(中間化合物)は、CuSnおよびCuSnのみが存在すると言われている。これに対し、本発明の銅−錫合金めっき皮膜は、CuSnのみの結晶である。
【0016】
このCuSnの結晶として得られた本発明の銅−錫合金めっき皮膜は、硬度、折曲げ強度、耐食性、応力などが、ニッケルめっき皮膜と比べてほぼ同程度の特性を有する。つまり、ニッケル代用として好適な皮膜特性を得るためには、銅−錫合金めっき皮膜は、CuSn型化合物の結晶状態であることが必要である。
【0017】
このCuSnのみの結晶からなる本発明の銅−錫合金めっき皮膜を得るためには、銅−錫合金めっき皮膜における錫の含有率は40体積%以上50体積%以下であり、銅の含有率は50体積%以上60体積%以下であることが必要である。
【0018】
めっき皮膜の組成が、錫の含有率が40体積%以上50体積%以下で、銅の含有率が50体積%以上60体積%以下、すなわち錫/銅比が体積比で40/60〜50/50の範囲内でCuSn型化合物が形成され、結晶質の皮膜が得られる。CuSn型化合物の皮膜特性は、硬度、耐クラック、耐食性、応力等において優れていて、代替ニッケルとしてその効果が認められる。
【0019】
他方で、錫含有率が40体積%未満、たとえば30体積%では、CuSnの結晶化が不完全であり、完全に結晶化させるためには、錫含有率として40体積%以上が必要である。それ故、錫含有率が40体積%未満では、皮膜特性はニッケルめっき皮膜と比べて劣っている。また錫含有率が50体積%を超える場合、たとえば60体積%台では、光沢外観が得られず、結晶状態もCuSnとSnとの結晶が交錯しているので、錫含有率が40〜50体積%のめっき皮膜と比べて結晶状態に差がある。
【0020】
このように皮膜組成比が上記の範囲外、たとえば錫/銅比が体積比で30/70では、微結晶質で脆さが出て、逆に60/40では、光沢外観が得られない。各組成比におけるX線回折図から推察すると、錫/銅比が体積比で40/60以上、すなわち錫の含有率が40体積%以上で、かつ銅の含有率が60体積%以下で、結晶のピークが鮮明になり、めっき皮膜が結晶質になり、クラックが観察できなくなる。これに対し、錫/銅比が体積比で30/70のめっき皮膜では、クラックが起きる。
【0021】
前述のニッケルめっき皮膜と同等の皮膜特性を有する本発明の銅−錫合金めっき皮膜を得るための浴組成および浴条件は以下のとおりである。
【0022】
めっき浴としては、(a)2価錫塩と、(b)2価銅塩と、(c)無機酸と、(d)光沢剤と、(e)湿潤剤と、(f)4価錫塩とを含有する、本発明の非シアン系銅−錫合金めっき浴(以下、単に「めっき浴」ということがある)を用いる。光沢剤としては、アルデヒド系化合物が用いられ、湿潤剤としては、非イオン系アルキルフェノール類、非イオン系アリールフェノール類、非イオン系アルキルエーテル類および非イオン系アルキルアリールエーテル類から選ばれる少なくとも1種が用いられる。また本発明の非シアン系銅−錫合金めっき浴において、残部は水である。
【0023】
(a)2価錫塩としては、たとえば硫酸第一錫、塩化第一錫、酸化第一錫、シュウ酸第一錫が挙げられる。2価錫塩の濃度は、金属錫分として、すなわち2価錫イオン換算で、2g/L以上20g/L以下である。
(b)2価銅塩としては、たとえば硫酸銅、酸化銅、水酸化銅、炭酸銅が挙げられる。2価銅塩の濃度は、金属銅分として、すなわち2価銅イオン換算で、5g/L以上30g/L以下である。
(c)無機酸としては、たとえば硫酸、スルファミン酸、塩酸が挙げられる。無機酸の濃度は、50g/L以上400g/L以下である。
(d)光沢剤として用いられるアルデヒド系化合物(以下「アルデヒド類」ということがある)としては、たとえばホルムアルデヒド、アニスアルデヒド、ベンズアルデヒドが挙げられる。光沢剤の濃度は、2g/L以上50g/L以下である。
(e)湿潤剤として用いられる非イオン系アリールフェノール類としては、たとえばポリオキシエチレンフェニルフェノールなどの、アリールエーテルのアルキレンオキサイド付加物たとえばエチレンオキサイド(略称EO)付加物が挙げられる。非イオン系アルキルエーテル類としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどの、アルキルエーテルのアルキレンオキサイド付加物たとえばエチレンオキサイド付加物が挙げられる。非イオン系アルキルアリールエーテル類としては、たとえばポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどの、アルキルアリールエーテルのアルキレンオキサイド付加物たとえばエチレンオキサイド付加物が挙げられる。これらの中でも、被付加物1モルに対するアルキレンオキサイドの付加モル数が5以上20以下のものが好ましい。湿潤剤の濃度は、0.5g/L以上20g/L以下である。
(f)4価錫塩としては、SnOSO、SnOClが挙げられる。4価錫塩は、めっき浴中で電解酸化にて生成される。4価錫塩の濃度は、4価錫イオン換算で、たとえばSnOSOまたはSnOClとして、5g/L以上30g/L以下である。
【0024】
本発明の非シアン系銅−錫合金めっき浴は、pHが3以下である。めっき浴のpHが3を超えると、水酸化錫などの塩の沈殿が起こる。pHを3以下に調整することによって、水酸化錫などの沈殿性を有する塩の沈殿を防ぐことができる。
【0025】
この本発明の非シアン系銅−錫合金めっき浴を用いて、前述の本発明の銅−錫合金めっき皮膜が形成される。本発明の非シアン系銅−錫合金めっき浴を用いて、銅−錫合金めっき皮膜を形成する場合、4価錫塩を非シアン系銅−錫合金めっき浴中で電解酸化によって生成させ、本発明の非シアン系銅−錫合金めっき浴を攪拌するとともに、銅−錫合金めっき皮膜を形成する。撹拌は、たとえば、ろ過機を用いて、1〜3μmのろ過精度で、液循環によって行われる。本発明の非シアン系銅−錫合金めっき浴は、温度を15℃以上30℃以下として用いられる。本発明の非シアン系銅−錫合金めっき浴は、電解めっきで用いられる。
【0026】
めっき浴を攪拌しながらめっき皮膜を形成することによって、2価錫の凝集を防いで、めっき浴中の4価錫の過度の増加を防ぐことができる。2価錫は、プラスチック上のめっき前処理に用いられるように樹脂表面に吸着されやすく、還元剤として作用する。つまり、2価錫は酸化され易い。めっき浴が静止状態の場合、すなわちめっき浴が撹拌されていない場合、2価錫は凝集してコロイド状に吸着し、さらに還元作用が促進される。前述のように攪拌することは、2価錫を分散させて凝集を防ぐ効果がある。これによって、2価錫による還元力を弱めることができるので、結果的に、4価錫の過度の増加を防ぐことができる。
【0027】
撹拌は、めっき浴成分をろ過機またはポンプなどで循環させる液循環方式で行うことが好ましい。撹拌としては、空気撹拌もあるが、空気中の酸素による酸化を防止するために、前述のようにろ過機などによる液循環方式の方が好ましい。またプロペラなどによる機械撹拌によって撹拌すると、空気が巻き込まれて空気中の酸素がめっき浴に溶け込み、2価錫がSnO、SnSOなどの4価錫になってしまい、2価錫が存在しなくなってしまうおそれがある。ろ過機またはポンプなどでめっき浴成分を循環させて撹拌する場合、水中での撹拌になるので、空気の巻き込みを防ぎ、2価錫の酸化を防いで、前述の濃度で2価錫を存在させることができる。
【0028】
本発明の非シアン系銅−錫合金めっき浴では、懸濁状態でめっきが行われる。このように懸濁状態でめっきすることによって、滑らかな白色外観を得ることができる。まためっき浴中の銅濃度と錫濃度との比を前述のように調整することによって、めっき皮膜の組成比(錫/銅)を40/60〜50/50に維持する、すなわち錫の含有率を40体積%以上50体積%以下に維持し、かつ銅の含有率を50体積%以上60体積%以下に維持することができるので、耐食性、硬度、耐クラック性などの皮膜特性が、ニッケルめっき皮膜と同程度の銅−錫合金めっき皮膜が得られる。
【0029】
前述の光沢剤および湿潤剤は、皮膜外観を整えるのに必要であるが、懸濁状態で処理することも、めっき皮膜の外観を滑らかにさせる作用が認められる。滑らかな外観のめっき皮膜を得るために、本実施形態では、ろ過機を使用してめっき液中での懸濁量及び粒径を一定にさせ、被めっき体に対して均一に対流できるように設定する。懸濁物の均一な粒径を確保するためには、ろ過精度として、1〜3μmが必要である。ろ過精度が1μm未満では、目詰まりを起こして使用不可になり、3μmを超える、特に10μm以上では、懸濁物がろ過機をほとんど通り抜けてしまうので、めっき皮膜の光沢効果がなくなる。懸濁物は、4価錫塩と考えられ、具体的にはSnO、SnOSO、Sn(SOなどの硫酸塩、塩化塩であると推察される。
【0030】
以上のように本発明によれば、2価錫塩、2価銅塩および無機酸を含有するめっき浴に、光沢剤としてアルデヒド系化合物および湿潤剤として非イオン係アルキルフェノール類を添加して、かつ4価錫塩を含有させた懸濁液状態で処理することによって、CuSnの結晶から成り、ニッケルめっき皮膜と同程度の特性を有する銅−錫合金めっき皮膜を得ることができる。
【実施例】
【0031】
[測定方法]
実施例、参考例および比較例におけるめっき皮膜の特性は、以下のようにして測定した。各測定におけるめっき皮膜の膜厚は、3〜5μmとした。
【0032】
<皮膜組成>
蛍光X線膜厚計を用いて求めた。
【0033】
<皮膜の結晶性>
X線回折のパターン図より解析した。
【0034】
試験機器には、X線回折装置(商品名:RINT2100V PC、株式会社リガク製)を用いた。試験条件は以下のとおりである。
X線光学系:集中光学系(湾曲モノクロメータ使用)
X線源:CuKα線
管球出力:40KV 30mA
【0035】
試験結果については、X線回折図形とICD(International Center for Diffraction Data)Dカードとの参照によって解析した。
【0036】
<耐食性>
日本工業規格(JIS)H8502に基づく塩水噴霧試験において、24時間噴霧後の腐食の有無を評価した。
【0037】
<硬度>
マイクロビッカース硬度計にて荷重:5g、保持時間:15秒で測定した。
【0038】
<耐クラック性>
マイクロビッカース硬度計を使用して荷重:50g、保持時間:15秒で、圧子が窪んだ周辺のめっき皮膜上へのクラックの有無を顕微鏡観察によって確認した。
【0039】
<応力>
藤化成株式会社製ストリップ式電着応力測定器で測定した。後述する表2において、「+」は、引張応力を示し、「−」は、圧縮応力を示す。
【0040】
[めっき皮膜の作製]
表1〜表3に示す各組成のめっき浴を用いて、めっき浴を撹拌しながら、測定板にめっき皮膜を形成した。攪拌は、ろ過機(日本フィルター株式会社製、商品名:超小型UBiCA)を用いて行なった。フィルターカートリッジとしては、ろ過精度1μmと3μmのものを用いた。
【0041】
具体的には、測定板として真鍮素材からなる真鍮板を用いて陰極にして、対極の陽極にカーボン板を用いて、陰極および陽極をそれぞれ直流電源に接続させた。真鍮板には、100mm×70mm×0.3mmのハルセル試験用測定板(株式会社山本鍍金試験器製)を用いた。ハルセル試験用測定板には、めっき前の処理として、脱脂剤(商品名:アクチベーターS、株式会社シミズ製)を用いて温度50℃で、5A/dm、20秒間の通電を行って電解脱脂を施し、その後水洗して、酸中和を行い、その後水洗した状態でめっき処理した。酸中和は、2%硫酸に室温で5秒間浸漬することで行なった。
【0042】
めっき条件は、以下のとおりである。
陽極:カーボン板
陰極:真鍮板
電流:0.7〜3.5A
通電時間:10〜30分
めっき浴の液量:3L
【0043】
表1および表2に、実施例のめっき浴である実施例浴1〜10の組成を示し、表3に参考例のめっき浴である参考例浴、および比較例のめっき浴である比較例浴1〜5の組成を示す。表1〜表3において、物質名の横または下の数値は、その物質の濃度を示す。表1〜表3では、ポリオキシエチレンフェニルフェノールを「EO」と略記し、EOの横の括弧内には、フェニルフェノール1モルに対するエチレンオキサイドの付加モル数を記載する。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
以上のようにして形成しためっき皮膜の特性を表4〜表6に示す。表4〜表6には、外観の評価結果および錫/銅比を併せて示す。外観は、目視観察によって評価し、参考例浴で形成されたニッケルめっき皮膜と同程度の銀白色の光沢外観を有する場合を良好(○)と評価し、有しない場合を不良(×)と評価した。得られためっき皮膜において、銅および錫の合計体積は100体積%であるので、表4〜表6における錫/銅比の「/」の左側の数値は、錫の含有率(体積%)に相当し、「/」の右側の数値は、銅の含有率(体積%)に相当する。
【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
以上の結果から、実施例浴1〜10のめっき浴を用いて形成した本発明の銅−錫合金めっき皮膜は、比較例浴1〜5のめっき浴を用いて形成した銅−錫合金めっき皮膜に比べて、耐クラック性および硬度が優れていることがわかる。また実施例浴1〜10で得られる銅−錫合金めっき皮膜は、参考例浴である光沢ニッケル浴で形成されたニッケルめっき皮膜と同程度の光沢外観および皮膜特性が得られることがわかる。
【0052】
また比較例浴4,5で得られた銅−錫合金めっき皮膜は、錫/銅比が40/60〜50/50の範囲外、すなわち錫含有率が40体積%未満または50体積%を超えるめっき皮膜であるが、実施例浴1〜10で得られた本発明の銅−錫合金めっき皮膜に比べて、外観および特性が明らかに劣っている。
【0053】
また実施例および比較例で得られためっき皮膜のX線回折パターンを図1〜図4に示す。図1は、錫含有率が40体積%であり、銅含有率が60体積%である実施例浴1で得られためっき皮膜のX線回折パターンを示す。図2は、錫含有率が50体積%であり、銅含有率が50体積%である実施例浴3で得られためっき皮膜のX線回折パターンを示す。図3は、錫含有率が30体積%であり、銅含有率が70体積%である比較例浴4で得られためっき皮膜のX線回折パターンを示す。図4は、錫含有率が60体積%であり、銅含有率が40体積%である比較例浴5で得られためっき皮膜のX線回折パターンを示す。
【0054】
図1〜図4において、横軸は回折角2θ(deg)を示し、縦軸は強度を示す。図1〜図4において、A欄には、ICCDカードにおけるCuSnの回折ピークを示す。また図3において、B欄には、ICDDカードにおけるSnの回折ピークを示す。
【0055】
図1,2に示すX線回折スペクトルから、実施例浴1,3で得られためっき皮膜、すなわち錫含有率が40体積%以上50体積%以下であり、銅含有率が50体積%以上60体積%以下であるめっき皮膜は、CuSnの結晶のみから成ることがわかる。実施例浴2,4〜10で得られためっき皮膜についても、図1,2と同様のX線回折スペクトルが得られた。
【0056】
また図3に示すX線回折スペクトルから、比較例浴4で得られためっき皮膜、すなわち錫含有率が30体積%であり、銅含有率が70体積%であるめっき皮膜では、回折ピークが判然とせず、CuSnの結晶化が不完全であることがわかる。また図4に示すX線回折スペクトルから、比較例浴5で得られためっき皮膜、すなわち錫含有率が60体積%であり、銅含有率が40体積%であるめっき皮膜では、前述の表6に示すように銀白色の光沢外観を有しないだけでなく、結晶状態もCuSnとSnとの結晶が交錯しており、実施例浴1〜10で得られる本発明の銅−錫合金めっき皮膜とは異なることがわかる。
【0057】
銅−錫合金めっき皮膜の結晶の状態については、特開2004−91882号公報の図1にX線回折パターンが開示されている。前記公報の図1において、η相がCuSnであり、Snとの複合結晶になっている。前記公報の図1と前述の図1,2との比較からも、実施例浴1〜10で得られる、錫含有率が40体積%以上50体積%以下であり、銅含有率が50体積%以上60体積%以下であるめっき皮膜は、CuSnの結晶のみから成ることがわかる。
【0058】
また、実施例および比較例で得られためっき皮膜のエネルギー分散型X線分析装置(energy dispersive X-ray spectrometer;略称EDS)による元素分析結果を図5〜図7に示す。図5は、実施例浴1で得られためっき皮膜の元素分析結果を示す。図6は、比較例浴1であるシアン系銅−錫合金めっき浴で得られためっき皮膜の元素分析結果を示す。図7は、比較例浴2である非シアン系銅−錫合金めっき浴で得られためっき皮膜の元素分析結果を示す。図5〜図7において、横軸はエネルギ(keV)を示し、縦軸は計数(cps:counts per second)を示す。
【0059】
図5に示すスペクトルから、実施例浴1で得られた本発明の銅−錫合金めっき皮膜には、銅および錫以外の元素がほとんど含まれていないことがわかる。本発明の銅−錫合金めっき皮膜では、銅および錫以外の元素に関しては、含まれていたとしてもppm単位であり、使用原材料からの不純物と考えられる。使用原材料からの不純物元素としては、Pb、Cl、Oが考えられるが、図5に示すように、実施例浴1で得られた本発明の銅−錫合金めっき皮膜では、たとえばO(酸素)は含まれていない。これに対し、図6および図7に示すように、従来の銅−錫合金めっき浴である比較例浴1および比較例浴2で得られためっき皮膜では、炭素(C)と酸素(O)が含まれることがわかる。
【0060】
酸素(O)を含むCu−Sn−O系めっき皮膜では、得られる外観は、黒色になると考えられるが、本発明の銅−錫合金めっき皮膜では、図5に示すように酸素(O)が含まれていないので、前述のように白色から銀白色の外観が得られるものと考えられる。 以上のように本発明によれば、CuSnの結晶から成り、錫の含有率が40体積%以上50体積%以下であり、銅の含有率が50体積%以上60体積%以下であり、ニッケルめっき皮膜と同等の外観および皮膜特性を有する銅−錫合金めっき皮膜が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例浴1で得られためっき皮膜のX線回折パターンを示す図である。
【図2】実施例浴3で得られためっき皮膜のX線回折パターンを示す図である。
【図3】比較例浴4で得られためっき皮膜のX線回折パターンを示す図である。
【図4】比較例浴5で得られためっき皮膜のX線回折パターンを示す図である。
【図5】実施例浴1で得られためっき皮膜の元素分析結果を示す図である。
【図6】比較例浴1で得られためっき皮膜の元素分析結果を示す図である。
【図7】比較例浴2で得られためっき皮膜の元素分析結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuSnの結晶から成り、
錫の含有率が40体積%以上50体積%以下であり、
銅の含有率が50体積%以上60体積%以下であることを特徴とする銅−錫合金めっき皮膜。
【請求項2】
2価錫イオン換算で2g/L以上20g/L以下の2価錫塩と、
2価銅イオン換算で5g/L以上30g/L以下の2価銅塩と、
50g/L以上400g/L以下の無機酸と、
2g/L以上50g/L以下の光沢剤と、
0.5g/L以上20g/L以下の湿潤剤と、
4価錫イオン換算で5g/L以上30g/L以下の4価錫塩とを含有し、
pHが3以下であり、
光沢剤が、アルデヒド系化合物であり、
湿潤剤が、非イオン系アルキルフェノール類、非イオン系アリールフェノール類、非イオン系アルキルエーテル類および非イオン系アルキルアリールエーテル類から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする非シアン系銅−錫合金めっき浴。
【請求項3】
請求項2に記載の非シアン系銅−錫合金めっき浴を用いて、銅−錫合金めっき皮膜を形成する銅−錫合金めっき法であって、
4価錫塩を非シアン系銅−錫合金めっき浴中で電解酸化によって生成させ、
非シアン系銅−錫合金めっき浴を攪拌するとともに、銅−錫合金めっき皮膜を形成することを特徴とする銅−錫合金めっき法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−161804(P2009−161804A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341480(P2007−341480)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(390035219)株式会社シミズ (14)
【Fターム(参考)】