説明

銅−錫含有ペースト、銅−錫含有ペーストの製造方法、リチウムイオン二次電池用電極、および、銅−錫含有ペースト形成用キット

【課題】非水電解液二次電池用電極として用いられる、銅−錫合金箔膜電極を、効率よく安価に形成する方法を提供する。
【解決手段】有機金属化合物である蓚酸錫および酢酸銅、テトラエチレングリコールおよび1,2−ジアミノシクロヘキサンを含有してなる銅−錫含有ペーストであって、蓚酸錫、テトラエチレングリコールおよび1,2−ジアミノシクロヘキサンを、モル比で1:「2以上4以下」:「2以上4以下」の割合にて含有する錫前駆体と、酢酸銅、および、テトラエチレングリコールを、モル比で1:「2以上4以下」の割合にて含有する銅前駆体とを混合した銅−錫含有ペーストを作成し、該ペーストを集電体上に塗布、焼成する事により、均一な薄膜状銅−錫合金電極を作成する事ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池(以下、LIBという場合がある。)の電極を形成するために用いられる銅−錫含有ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
LIBは、携帯電話やノートパソコンなどの携帯電源として一般に広く使用されている。現在、それらの高機能化ならびに小型軽量化に伴い,さらなる高エネルギー密度化が求められている。現状のLIBの負極電極膜としては、グラファイトを集電体へ蒸着することにより負極膜としたものが知られている。
【0003】
LIBを備えた電子機器の高機能化および小型軽量化を実現しようとする場合、LIBの高エネルギー密度化が必要となる。しかし、グラファイトを使用して負極電極を形成した場合、電気保有量が低く、高エネルギー密度化を実現することは困難である(特許文献1)。そこで、近年、グラファイト(理論容量372mAh/g)よりも約3倍高い電気保有量を持つ錫(理論容量994mAh/g)が注目されているが、錫膜は一般的に蒸着法により調製されるため、高温で特殊な装置を必要とし、成膜プロセスが高価であるというデメリットがあった(特許文献2〜4)。
また、錫膜をメッキにより形成することも可能であるが(特許文献5〜7)、メッキ処理および洗浄処理等が必要となり、製法上効率が悪く、また、溶媒を多量に使用するため、環境上好ましい方法ではなかった。
また、金属錫膜により負極電極を形成した場合、該錫膜においてウィスカーが発生し、電極間を短絡させる虞があった。また、放充電反応に伴う体積変化により、錫粒子が集電体から離脱する虞があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−307095号公報
【特許文献2】特開平8−53761号公報
【特許文献3】特開2002−29744号公報
【特許文献4】特開平5−151827号公報
【特許文献5】特開2001−68094号公報
【特許文献6】特開2001−68095号公報
【特許文献7】特開2002−198091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題を解決すべく、高エネルギー密度の銅−錫合金膜を、均一な薄膜として、集電体上に形成し、リチウムイオン二次電池用電極を効率良く安価に形成することができ、形成した合金膜からのウィスカーの発生および合金膜の集電体からの離脱を防止できる、銅−錫含有ペーストを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の本発明は、有機金属化合物として蓚酸錫および酢酸銅、テトラエチレングリコールおよび1,2−ジアミノシクロヘキサンを含有してなる銅−錫含有ペーストであって、
蓚酸錫、テトラエチレングリコールおよび1,2−ジアミノシクロヘキサンを、モル比で1:「2以上4以下」:「2以上4以下」の割合にて含有する錫前駆体と、酢酸銅、および、テトラエチレングリコールを、モル比で1:「2以上4以下」の割合にて含有する銅前駆体とを混合することにより形成される、銅−錫含有ペーストである。
【0007】
第1の本発明において、錫前駆体は、蓚酸錫、テトラエチレングリコールおよび1,2−ジアミノシクロヘキサンを混合して撹拌し、その後、加熱処理して得られるものであることが好ましく、また、銅前駆体は、酢酸銅、および、テトラエチレングリコールを混合して撹拌し、その後、加熱処理して得られるものであることが好ましい。また、錫前駆体および銅前駆体を形成するための撹拌は、50時間以上行われることが好ましい。また、錫前駆体および銅前駆体を形成するための加熱処理は、80度以上130度以下において、30分以上90分以下行われることが好ましい。
【0008】
第1の本発明の銅−錫含有ペーストは、集電体上に塗布し、焼成してリチウムイオン二次電池の電極膜を形成するために好適に使用される。
【0009】
第2の本発明は、蓚酸錫、テトラエチレングリコールおよび1,2−ジアミノシクロヘキサンを、モル比で、1:「2以上4以下」:「2以上4以下」にて混合して蓚酸錫混合体を形成し、酢酸銅、および、テトラエチレングリコールを、モル比で、1:「2以上4以下」にて混合して酢酸銅混合体を形成する混合工程、
該蓚酸錫混合体および該酢酸銅混合体を、それぞれ50時間以上撹拌して、蓚酸錫撹拌体および酢酸銅撹拌体を形成する撹拌工程、
該蓚酸錫撹拌体および該酢酸銅撹拌体を、それぞれ80度以上130度以下において、30分以上90分以下加熱して、錫前駆体および銅前駆体を形成する加熱工程、および、
形成した錫前駆体および銅前駆体を混合する工程、
を備えてなる、銅−錫含有ペーストの製造方法である。
【0010】
第3の本発明は、第1の本発明の銅−錫含有ペーストを、集電体上に塗布し、焼成して形成される、リチウムイオン二次電池用電極である。
【0011】
第4の本発明は、蓚酸錫、テトラエチレングリコールおよび1,2−ジアミノシクロヘキサンを、モル比で1:「2以上4以下」:「2以上4以下」の割合にて含有する錫前駆体ペースト、および、酢酸銅、および、テトラエチレングリコールを、モル比で1:「2以上4以下」の割合にて含有する銅前駆体ペースト、を別体として備えてなる、
銅−錫含有ペースト形成用キットである。
【0012】
ここで、「別体として」とは、錫前駆体ペーストおよび銅前駆体ペーストが混合されていない状態であれば、特に限定されず、例えば、別の容器に保存されていてもよいし、同一容器中において、仕切りを挟んで保存され、仕切りを取り除くことにより混合されるような形態であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の銅−錫含有ペーストを用いることにより、高エネルギー密度の銅−錫合金膜を、均一な薄膜として、集電体上に形成し、リチウムイオン二次電池用電極を効率良く、安価に形成することができる。また、形成された銅−錫合金膜は、ウィスカーを発生し難く、該銅−錫合金膜は、集電体から離脱し難い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の銅−錫含有ペーストの製造方法、および、該ペーストを用いた銅−錫合金膜の製造方法を示すフロー図である。
【図2】実施例1で得られた銅−錫合金膜の写真である。
【図3】実施例1で得られた銅−錫合金膜のX線回折図である。
【図4】実施例1で得られた銅−錫合金膜のFE−SEM写真である。
【図5】実施例2〜5で得られた銅−錫合金膜のX線回折図である。
【図6】比較例1で作製した銅−錫含有ぺーストの製造方法、および、該ペーストを用いた銅−錫合金膜の製造方法を示すフロー図である。
【図7】比較例1で得られた銅−錫合金膜の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<銅−錫含有ペースト>
本発明の銅−錫含有ペーストは、有機金属化合物として蓚酸錫および酢酸銅、テトラエチレングリコール(TEG)および1,2−ジアミノシクロヘキサン(DAC)を含有している。本発明の銅−錫含有ペーストは、その製造方法に特徴があり、蓚酸錫、TEGおよびDACをモル比で、1:「2以上4以下」:「2以上4以下」(蓚酸錫:TEG:DAC)の割合にて含有する錫前駆体と、酢酸銅およびTEGをモル比で、1:「2以上4以下」(酢酸銅:TEG)の割合にて含有する銅前駆体とを混合することにより形成される。
【0016】
なお、錫前駆体を調整する際のモル比の好ましい範囲としては、好ましくは、1:「2.5以上3.7以下」:「2.5以上3.7以下」(蓚酸錫:TEG:DAC)であり、さらに好ましくは1:「2.8以上3.7以下」:「2.8以上3.7以下」(蓚酸錫:TEG:DAC)であり、特に好ましくは、1:「3.0以上3.5以下」:「3.0以上3.5以下」(蓚酸錫:TEG:DAC)である。また、銅前駆体を調整する際のモル比の好ましい範囲としては、好ましくは、1:「2.5以上3.7以下」(酢酸銅:TEG)であり、さらに好ましくは1:「2.8以上3.7以下」(蓚酸錫:TEG)であり、特に好ましくは1:「3.0以上3.5以下」(蓚酸錫:TEG)である。
【0017】
後に製造方法を記載するように、本発明の銅−錫含有ペーストは、錫前駆体と銅前駆体とを、目的とする合金組成の割合にて混合して得られる。この錫前駆体および銅前駆体の混合割合を調整することにより、種々の組成の合金膜を形成することが可能である。本発明の銅−錫含有ペーストの製造方法では、まず混合工程において、蓚酸錫、TEGおよびDACを所定割合にて混合し蓚酸錫混合体を形成し、酢酸銅およびTEGを所定割合にて混合して酢酸銅混合体を形成する。これら形成した各混合体を、それぞれ所定時間撹拌して、蓚酸錫撹拌体および酢酸銅撹拌体を形成する。そして、各撹拌体を、それぞれ所定温度にて、所定時間加熱することにより、錫前駆体および銅前駆体が得られ、これらを所定割合にて混合することにより銅−錫含有ペーストが得られる。
【0018】
上記の蓚酸錫混合体および酢酸銅混合体のそれぞれは、撹拌工程において、粘度が上昇し、その後、加熱工程においてさらに粘度が上昇する。これは、蓚酸錫あるいは酢酸銅と溶媒とが、それぞれ相互作用を起こすことにより生じる現象であると考えられており、本発明においては、このような増粘現象が起こるまで、撹拌および加熱を行って、錫前駆体および銅前駆体をそれぞれ形成してから、これらを混合することにより銅−錫含有ペーストを形成する。これにより本発明の銅−錫含有ペーストは、緻密な銅−錫合金膜を形成することができる。なお、撹拌工程および加熱工程において、錫前駆体においては、蓚酸錫と溶媒であるDACとが、アミド結合を生じ、これにより粘度が上昇していると考えられる。また、銅前駆体においては、酢酸銅と溶媒であるTEGとが反応し、グリコール酸塩を形成するため粘度が上昇していると考えられる。
【0019】
よって、本発明の銅−錫含有ペーストは、蓚酸錫、酢酸銅、TEGおよびDACを所定の組成で単に混合した混合体だけでなく、蓚酸錫の一部または全部と、溶媒の一部または全部とが縮合反応等により結合している状態、ならびに、酢酸銅の一部または全部と、溶媒の一部または全部とが縮合反応等により結合している状態、も含む概念である。
【0020】
撹拌工程によって得られる蓚酸錫撹拌体および酢酸銅撹拌体の粘度としては、塗布した場合に周りに広がらない程度が最適である。撹拌体、前駆体、および、銅−錫含有ぺーストの粘度が小さすぎると、緻密な銅膜を形成することができない虞がある。また、逆に、粘度が大きすぎると、ペーストが取り扱い難くなる。
【0021】
<銅−錫含有ペーストの製造方法>
本発明の銅−錫含有ペーストの製造方法は、混合工程、撹拌工程、および、加熱工程により、錫前駆体および銅前駆体をそれぞれ作製する工程、および、形成した錫前駆体および銅前駆体を混合する工程、を備えている。得られた銅−錫含有ペーストは、集電体上に塗布し、所定条件で熱処理することにより、集電体上に銅−錫合金膜が形成され、リチウムイオン二次電池用電極となる。図1に銅−錫含有ペーストおよびリチウムイオン二次電池用電極の製造方法のフローチャートを示した。
【0022】
(混合工程)
混合工程においては、蓚酸錫、TEGおよびDACを所定のモル比おいて混合して蓚酸錫混合体を形成し、これとは別個に、酢酸銅およびTEGを所定のモル比において混合して酢酸銅混合体を形成する。所定のモル比ついては、上記した通りである。
【0023】
(撹拌工程)
撹拌工程においては、上記で得た蓚酸錫混合体および酢酸銅混合体を、それぞれ個別に、増粘現象が見られるまで均一撹拌を行い、蓚酸錫撹拌体および酢酸銅撹拌体を形成する。撹拌時間は、好ましくは50時間以上、より好ましくは70時間以上、さらに好ましくは100時間以上である。撹拌時間が少なすぎると、粘度が十分に大きくならず、最終的に得られるペーストにより、均一な銅−錫合金膜が形成できない虞がある。また、混合時間の上限は、特に限定されないが、300時間撹拌すれば十分であり、効率の点からは好ましくは200時間以下である。撹拌方法は、特に限定されず、マグネチックスターラー、メカニカルスターラー等の従来の撹拌方法が採用できる。
例えば、マグネチックスターラーを用いた撹拌においては、回転数を、好ましくは50〜200rpm、より好ましくは70〜150rpm、さらに好ましくは110〜130rmpとして、上記の時間撹拌すれば、適度に増粘した撹拌体が形成される。
【0024】
(加熱工程)
加熱工程においては、上記で得た蓚酸錫撹拌体および酢酸銅撹拌体を、所定温度にて、所定時間加熱して、錫前駆体および銅前駆体が形成される。該加熱工程により、撹拌体の粘度がさらに増す。この工程を経ることで、最終的に得られる銅−錫含有ペーストにより、緻密な銅−錫合金膜を形成することができる。加熱温度は、下限は好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、上限は好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下である。加熱温度が低すぎると増粘効果が得られない虞があり、また、加熱温度が高すぎると、反応が過度に生じるため、撹拌体が固化してしまう。
【0025】
加熱時間は、下限は好ましくは30分以上、より好ましくは50分以上であり、上限は特に限定されないが、90分間加熱すれば十分であり、効率の点からは好ましくは70分以下、より好ましくは60分以下である。なお、加熱時間が短すぎると増粘効果が得られない虞がある。また、加熱工程においても、上記した撹拌工程と同様の条件で撹拌を続けることが好ましい。
【0026】
(錫前駆体および銅前駆体の混合工程)
最後に、上記で得られた錫前駆体および銅前駆体を所定の割合にて混合して、銅−錫含有ペーストを形成する。このときの混合割合は、目的としている合金の組成に合わせて調整すればよい。この際の混合方法についても、特に限定されず、上記した撹拌工程と同様の方法が採用できる。本発明の製造方法においては、錫前駆体および銅前駆体を、混合工程、撹拌工程、および、加熱工程により、それぞれ個別に作製する。これら撹拌工程および加熱工程により、十分に増粘された錫前駆体および銅前駆体を、最終的に、要求されている合金組成に沿って混合することにより、本発明の銅−錫含有ペーストが得られる。
錫前駆体および銅前駆体の混合工程においても、上記した撹拌工程と同様の条件で撹拌し、両前駆体を混合することができる。
【0027】
<銅−錫含有ペースト形成用キット>
本発明の銅−錫含有ペーストは、それを使用する現場において、所望の合金組成に合わせて錫前駆体および銅前駆体を所望の組成で混合させて銅−錫含有ペーストとすることができる。よって、上記した混合工程、撹拌工程および加熱工程によりそれぞれ作製した錫前駆体ペーストおよび銅前駆体ペーストからなるキットとしても有用である。該キットがあれば、種々の組成の銅−錫含有ぺーストをあらかじめ用意しておかなくても、現場において、所望の組成で混合することにより、種々の組成の銅−錫含有ぺーストが形成でき、対応する種々の組成の銅−錫合金膜を形成できる。
【0028】
<リチウムイオン二次電池用電極>
上記で形成した銅−錫含有ペーストを集電体上に塗布し、焼成することにより、集電体上に銅−錫合金膜が形成され、これがリチウムイオン二次電池用電極となる。焼成条件は特に限定されず、通常の金属ペーストを焼成する条件を採用できるが、例えば、3vol.%の水素混合窒素気流中で熱処理することにより銅−錫合金膜を形成できる。本発明の銅−錫合金含有ペーストは、リチウムイオン二次電池用電極形成用として、特に、負極形成用のペーストとして有用である。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
蓚酸錫、テトラエチレングリコール(TEG)および1,2−ジアミノシクロヘキサン(DAC)をモル比で1:3:3の割合で混合し、マグネチックスターラーにより室温で120時間撹拌を行う(回転数:120rpm、以下同様)ことにより蓚酸錫撹拌体を得た。同様に、酢酸銅、テトラエチレングリコール(TEG)をモル比で1:3の割合で混合し、マグネチックスターラーにより室温で120時間撹拌を行うことにより酢酸銅撹拌体を得た。
【0030】
前記蓚酸錫撹拌体および前記酢酸銅撹拌体を、それぞれ120℃において、1時間加熱処理することにより錫前駆体ならびに銅前駆体を得た。
【0031】
調製した錫前駆体ならびに銅前駆体を、錫および銅の割合がモル比で1:1になる割合で混合し、1時間マグネチックスターラーによる撹拌を行い、銅−錫含有ペーストを得た。
【0032】
前記銅−錫含有ペーストの塗布は、5×10mmの大きさに穴をあけたメンディングテープ(厚さ58μm)を基板(スライドガラス)に貼ることにより作製した溝にペーストを垂らして、ガラス棒で均一に引き伸ばすことにより行った。そして、テープを剥がすことにより溝の大きさに保たれたペースト膜を得た。
【0033】
このペーストを塗布した基板は、赤外線反射炉(真空理工株式会社製、RHL−E44VHT)に入れ、石英反応管内へ20分間、3vol.%の水素混合窒素ガスを流して置換した後、3vol.%の水素混合窒素気流中(1リットル/分)にて、120℃/分で昇温し、500℃において、10分保持し、銅−錫合金膜(Cu−Sn alloy film)を形成し、終了後自然冷却した。
【0034】
形成したCu−Sn合金膜は、図2の写真に示すように金属光沢が確認されるとともに図3のX線回折図に示すように酸化物の存在は確認されなかった。
また、図4のFE−SEM写真に示すように、緻密な膜が形成されていることを確認した。さらに、表面粗さ測定機による測定結果は、平均膜厚1.80μmであり、算出した比抵抗の値は、3.32×10−1[Ω・cm]であった。
【0035】
(実施例2〜5)
本発明における銅前駆体と錫前駆体とを所定の組成比で混合分散して得られる銅−錫含有ペーストにより、種々の組成の薄膜Cu−Sn合金合成が可能であることを以下の実施例によって説明する。
【0036】
蓚酸錫、TEGおよびDACをモル比で1:3:3の割合で混合し、マグネチックスターラーにより室温で、120時間撹拌を行うことにより蓚酸錫撹拌体を得た。同様に、酢酸銅とTEGをモル比で1:3の割合で混合し、マグネチックスターラーにより室温で120時間撹拌を行うことにより酢酸銅撹拌体を得た。
【0037】
前記蓚酸錫撹拌体および前記酢酸銅撹拌体を、それぞれ120℃において、1時間加熱処理することにより錫前駆体ならびに銅前駆体を得た。
【0038】
調製した銅前駆体ならびに錫前駆体を、1:3(銅前駆体:錫前駆体、以下同様、実施例2)、1:1(実施例3)、6:5(実施例4)、3:1(実施例5)で混合し、1時間マグネチックスターラーによる撹拌を行い、それぞれの銅−錫含有ペーストを得た。
【0039】
銅−錫含有ペーストの塗布は、5×10mmの大きさに穴をあけたメンディングテープ(厚さ:58μm)を基板(スライドガラス)に貼ることにより作製した溝にペーストを垂らして、ガラス棒で均一に引き伸ばすことにより行った。そして、テープを剥がすことにより溝の大きさに保たれたペースト膜を得た。
【0040】
このペーストを塗布した基板は、赤外線反射炉(真空理工株式会社製、RHL−E44VHT)に入れ、石英反応管内へ、20分間、3vol.%の水素混合窒素ガスを流して置換した後、3vol.%の水素混合窒素気流中(1リットル/分)にて、120℃/分で昇温し、500℃において、10分間保持し、終了後自然冷却した。
【0041】
形成したCu−Sn合金膜の組成は、図5に示すように、調製に用いた銅−錫含有ペーストの金属比率に対応した組成の合金が生成していることを確認した。
【0042】
(比較例1)
図6に実施プロセスの流れを示したように銅−錫含有ペーストを作製した。
【0043】
蓚酸錫、酢酸銅、TEGおよびDACを、モル比で1:1:6:3(蓚酸錫:酢酸銅:TEG:DAC)で混合し、マグネチックスターラーにより室温で、120時間撹拌を行うことにより銅−錫混合物を得た。
【0044】
該銅−錫混合物を120℃において1時間加熱還流することにより銅−錫含有ペーストを得た。
【0045】
銅−錫含有ペーストの塗布は、5×10mmの大きさに穴をあけたメンディングテープ(厚さ58μm)を基板(スライドガラス)に貼ることにより作製した溝にペーストを垂らして、ガラス棒で均一に引き伸ばすことにより行った。そして、テープを剥がすことにより溝の大きさに保たれたペースト膜を得た。
【0046】
このペーストを塗布した基板は、赤外線反射炉(真空理工株式会社製、RHL−E44VHT)に入れ、石英反応管内へ20分間、3vol.%の水素混合窒素ガスを流して置換した後、3vol.%の水素混合窒素気流中(1リットル/分)にて、120℃/分で昇温し 500℃において10分保持し、終了後自然冷却した。
【0047】
形成した銅−錫膜の写真を図7に示す。調製した膜は、目視においてかなり粗い状態であることが観察された。
【0048】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う銅−錫含有ペースト、銅−錫含有ペーストの製造方法、リチウムイオン二次電池用電極、および、銅−錫含有ペースト形成用キットもまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の銅−錫含有ペーストは、リチウムイオン二次電池の電極を形成するのに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属化合物として蓚酸錫および酢酸銅、テトラエチレングリコールおよび1,2−ジアミノシクロヘキサンを含有してなる銅−錫含有ペーストであって、
蓚酸錫、テトラエチレングリコールおよび1,2−ジアミノシクロヘキサンを、モル比で1:「2以上4以下」:「2以上4以下」の割合にて含有する錫前駆体と、
酢酸銅、および、テトラエチレングリコールを、モル比で1:「2以上4以下」の割合にて含有する銅前駆体とを混合することにより形成される、
銅−錫含有ペースト。
【請求項2】
前記錫前駆体が、蓚酸錫、テトラエチレングリコールおよび1,2−ジアミノシクロヘキサンを混合して撹拌し、その後、加熱処理して得られ、
前記銅前駆体が、酢酸銅、および、テトラエチレングリコールを混合して撹拌し、その後、加熱処理して得られる、
請求項1に記載の銅−錫含有ペースト。
【請求項3】
前記錫前駆体および銅前駆体を形成するための前記撹拌が、50時間以上行われる、請求項2に記載の銅−錫含有ペースト。
【請求項4】
前記錫前駆体および銅前駆体を形成するための前記加熱処理が、80度以上130度以下において、30分以上90分以下行われる、請求項2または3に記載の銅−錫含有ペースト。
【請求項5】
集電体上に塗布し、焼成してリチウムイオン二次電池の電極膜を形成するために使用される、請求項1〜4のいずれかに記載の銅−錫含有ペースト。
【請求項6】
蓚酸錫、テトラエチレングリコールおよび1,2−ジアミノシクロヘキサンを、モル比で、1:「2以上4以下」:「2以上4以下」にて混合して蓚酸錫混合体を形成し、酢酸銅、および、テトラエチレングリコールを、モル比で、1:「2以上4以下」にて混合して酢酸銅混合体を形成する混合工程、
該蓚酸錫混合体および該酢酸銅混合体を、それぞれ50時間以上撹拌して、蓚酸錫撹拌体および酢酸銅撹拌体を形成する撹拌工程、
該蓚酸錫撹拌体および該酢酸銅撹拌体を、それぞれ80度以上130度以下において、30分以上90分以下加熱して、錫前駆体および銅前駆体を形成する加熱工程、および、
形成した錫前駆体および銅前駆体を混合する工程、
を備えてなる、銅−錫含有ペーストの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の銅−錫含有ペーストを、集電体上に塗布し、焼成して形成される、リチウムイオン二次電池用電極。
【請求項8】
蓚酸錫、テトラエチレングリコールおよび1,2−ジアミノシクロヘキサンを、モル比で1:「2以上4以下」:「2以上4以下」の割合にて含有する錫前駆体ペースト、および、酢酸銅、および、テトラエチレングリコールを、モル比で1:「2以上4以下」の割合にて含有する銅前駆体ペースト、を別体として備えてなる、
銅−錫含有ペースト形成用キット。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−218958(P2010−218958A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66500(P2009−66500)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】