説明

銅の製錬方法

【課題】 マグネタイトの析出・再溶解を抑制しつつスラグロスを低減させることができる銅の製錬方法を提供する。
【解決手段】 銅の製錬方法は、マット(60)およびスラグ(70)を生成するための溶鉱炉において、スラグ(70)の温度を、スラグ(70)におけるマグネタイト析出温度よりも20℃〜40℃高く制御する温度制御工程を含むことを特徴とする。スラグの温度をマグネタイト析出温度よりも20℃〜40℃高く制御することによって、マグネタイトの析出・再溶解を抑制しつつ、スラグの銅品位を低下させることができる。それにより、マグネタイトの析出・再溶解を抑制しつつ、スラグロスを低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅の製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な銅製錬においては、溶鉱炉において銅精鉱から溶融マットおよび溶融スラグが生成される。溶融マットと溶融スラグとは、比重差を利用して分離される。溶融スラグは、さらに錬カン炉に導入され、溶融マットと溶融スラグとに分離される。
【0003】
スラグ中に銅分が溶解等によって混入することによって生じる銅ロスをスラグロスという。スラグロスが少ないほど、効率的な銅製錬が実現される。スラグ中の銅には、溶解したものと機械的に混入して懸垂するもの(懸垂マット粒子)との2種類がある。前者のスラグ中に溶解する銅分の量は、スラグ中の酸素分圧により決定され、通常は回収することができない。スラグ中の酸素分圧はマット品位により決定される。また、懸垂マット粒子に起因するスラグロスは回収が可能であり、このスラグロスを低減させるには、スラグが高い流動性を有していることが好ましい。そこで、特許文献1では、FeO−SiO系スラグの1250℃における粘性を低く調整する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−146448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スラグの粘性を調整するためにスラグ成分を調整すると、スラグ中にマグネタイトが析出する際のスラグ温度が変動してしまう。その結果、スラグの温度が、スラグ中にマグネタイトが析出する温度に近づいてしまうと、スラグ中に固相のマグネタイトが析出してくるので、スラグの粘性が上昇しスラグロスが増加するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、マグネタイトの析出・再溶解を抑制しつつスラグロスを低減させることができる銅の製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る銅の製錬方法は、マットおよびスラグを生成するための溶鉱炉において、スラグの温度を、スラグにおけるマグネタイト析出温度よりも20℃〜40℃高く制御する温度制御工程を含むことを特徴とするものである。本発明に係る銅の製錬方法においては、スラグの温度をマグネタイト析出温度よりも20℃以上高く制御することによって、マグネタイトの析出が抑制される。それにより、スラグの銅品位の上昇を抑制することができる。また、スラグの温度がマグネタイト析出温度を上回る値を40℃以下とすることによって、マグネタイトが過大に溶解し、マグネタイト中に捕獲されていたマット粒子がスラグ中へ分散していく機会を減らすことにより、スラグの銅品位の上昇を抑制することができる。以上のことから、マグネタイトの析出・再溶解を適正に抑制しつつ、スラグロスを低減させることができる。
【0008】
上記方法は、スラグのCaO品位を3wt%〜5wt%に制御する品位制御工程を含んでいてもよい。この場合、スラグ中へのマグネタイトの析出を抑制しつつ、塩基性のCaOを添加することで、FeO−SiO系スラグの粘性が高い要因とされる酸性のSiOのネットワークを切断することができ、スラグの粘性を効率的に低下させることができる。それにより、懸垂マット粒子に起因するスラグロスを低減させることができる。
【0009】
品位制御工程において、石膏を前記スラグに添加することによってCaOの品位を制御してもよい。また、スラグは、FeO−SiO系スラグとすることができる。また、溶鉱炉は、自溶炉及び、自溶炉から取り出されたスラグからマットおよびスラグを生成するための錬カン炉とすることができる。自溶炉から取り出されたマットの品位は、60wt%〜68wt%とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マグネタイトの析出・再溶解を適正に抑制しつつスラグロスを低減させることができる銅の製錬方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】銅の製錬工程の概略を説明するための図である。
【図2】(a)はスラグの温度とスラグの銅品位との関係を示す図であり、(b)はスラグのマグネタイト品位とスラグの銅品位との関係を示す図であり、(c)はスラグの温度とスラグのマグネタイト品位との関係を示す図である。
【図3】実験によって得られたマグネタイト析出温度を示す図である。
【図4】比較例および実施例におけるスラグの銅品位、スラグのCaO品位、および、自溶炉におけるマットの銅品位の推移を示す図である。
【図5】比較例および実施例におけるスラグの銅品位、温度距離、および、自溶炉におけるマットの銅品位の推移を示す図である。
【図6】自溶炉におけるマットの銅品位と錬カン炉におけるスラグの銅品位との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0013】
(実施の形態)
図1は、銅の製錬工程の概略を説明するための図である。図1においては、銅の製錬工程で用いられる自溶炉100および錬カン炉200が図示されている。図1に示すように、精鉱バーナ10から銅精鉱および珪酸鉱と酸素富化空気とが同時に吹き込まれる。それにより、下記反応式(1)により銅精鉱が酸化反応を起こし、反応塔20の底部でマット30およびスラグ40が生成される。マット30およびスラグ40は、比重差に起因して分離する。なお、下記反応式(1)で、CuS・FeSがマットの主成分に相当し、FeO・SiOがスラグの主成分に相当する。珪酸鉱は、溶剤として機能している。
CuFeS+SiO+O→CuS・FeS+2FeO・SiO+SO (1)
【0014】
一部の銅は、スラグ40に含まれている。そこで、スラグ40は、錬カン炉200へと導入される。錬カン炉200は、電気炉であり、複数本の電極50を備えている。錬カン炉200において、スラグ40は抵抗体として機能する。したがって、電極50に電圧を印加することによってスラグ40が発熱する。それにより、スラグ40をさらにマット60とスラグ70とに分離させることができる。なお、錬カン炉200における発熱量を制御することによって、スラグ70の温度を制御することができる。
【0015】
本実施の形態においては、錬カン炉200においてスラグ70の温度をマグネタイト析出温度よりも20℃〜40℃高く制御する。それにより、スラグ70からのマグネタイトの析出・再溶解を抑制することができる。以下、スラグ70の温度をマグネタイト析出温度よりも20℃〜40℃高く制御する理由について説明する。
【0016】
スラグ70の温度は上下変動を繰り返しているため、スラグ70中のマグネタイトは析出と再溶解とを繰り返している。錬カン炉200内では側壁及び、炉底の冷却面に沿って、マグネタイト成分がコーティングされている。このマグネタイト成分に炉底の煉瓦摩耗等を防ぐ役割等があるので、通常、マグネタイトは錬カン炉200内に少なからず存在している必要がある。
【0017】
しかしながら、スラグ70中にマグネタイトが析出する温度にスラグ温度が近くなりすぎると、スラグ70中に固相のマグネタイトが大量に析出し始める。この場合、スラグ70の粘性が上昇し、懸垂マット粒子の沈降を阻害しスラグロスが上昇する。
【0018】
また、スラグ70中にマグネタイトが析出する温度よりも、スラグ70の温度の方が過大に高いと、スラグ70中のマグネタイトは溶解していき、マグネタイト中に捕獲されていたマット粒子がスラグ70中へ分散していき、スラグロスが上昇する。
【0019】
したがって、スラグ70の温度とマグネタイトの析出温度との差には適正な範囲が存在し、その範囲にスラグ70の温度を制御することにより、スラグロスの上昇を抑制することができる。
【0020】
図2(a)は、スラグ70の温度とスラグ70の銅品位(wt%)との関係を示す図である。図2(a)において、横軸は温度距離(℃)を示し、縦軸はスラグ70の銅品位を示す。ここで、温度距離とは、マグネタイト析出温度を基準としたスラグ70の相対温度を示す。したがって、図2(a)の横軸において、「0℃」はマグネタイト析出温度を示し、「40℃」はマグネタイト析出温度よりも40℃高い温度を示す。図2(a)に示すように、スラグ70の温度変化に伴って、スラグ70の銅品位も変化する。温度距離が40℃を超えると、スラグ中のマグネタイトは溶解していき、マグネタイトが捕獲していたマット粒子がスラグ中へ分散していくため、スラグ70の銅品位が上昇してしまう。したがって、温度距離は、40℃以下であることが好ましい。
【0021】
図2(b)は、スラグ70のマグネタイト品位(wt%)とスラグ70の銅品位(wt%)との関係を示す図である。図2(b)において、横軸はスラグ70のマグネタイト品位を示し、縦軸はスラグ70の銅品位を示す。図2(b)に示すように、スラグ70のマグネタイト品位が10wt%以上になると、スラグの粘性が上昇し、懸垂マット粒子の沈降を阻害して、スラグ70の銅品位が上昇してしまう。したがって、スラグ70のマグネタイト品位は、10wt%以下であることが好ましい。
【0022】
図2(c)は、スラグ70の温度(℃)とスラグ70のマグネタイト品位(wt%)との関係を示す図である。図2(c)において、温度距離を示し、縦軸はスラグ70のマグネタイト品位を示す。図2(c)に示すように、スラグ70のマグネタイト品位を10wt%以下に制御しようとすると、スラグ70の温度はマグネタイト析出温度よりも20℃以上高いことが好ましい。
【0023】
以上のことから、スラグ70の温度をマグネタイト析出温度よりも20℃〜40℃高く制御することによって、スラグ70の銅品位を低く維持することができる。本実施形態においては、錬カン炉200においてスラグ70の温度をマグネタイト析出温度よりも20℃〜40℃高く制御することによって、マグネタイトの析出・再溶解を抑制しつつスラグロスを低減させることができる。なお、上記温度距離は、上記温度範囲において25℃以上であることが好ましく、35℃以下であることが好ましい。
【0024】
続いて、マグネタイト析出温度について説明する。図3は、実験によって得られたマグネタイト析出温度を示す図である。図3において、横軸はSiOに対するFeの重量比を示し、縦軸はスラグの温度(℃)を示す。なお、酸素分圧をlogPO=約−7.5(マットの銅品位=65wt%程度に相当)に固定し、Fe/SiOwt%比を変動させるとともに、CaO、MgO、およびAlのwt%を変動させた。
【0025】
図3の液相線から、スラグにマグネタイトが析出する温度を得ることができる。図3の実験結果においては、マグネタイト析出温度は、下記式(2)のように表わすことができる。
マグネタイト析出温度=1006.893+168.897×(Fe/SiOwt%比)−26.708×(Fe/SiOwt%比)+5.92673×(wt%CaO)+3.6397×(wt%MgO)+5.65552×(wt%Al) (2)
【0026】
なお、スラグ70におけるCaO量(wt%)を増加させることによって、スラグ70の粘性を低下させることができる。それにより、懸垂マット粒子に起因するスラグロスを低下させることができる。しかし、上記式(2)から、CaO品位が1wt%上昇すると約6℃もマグネタイト析出温度が上昇するので、CaO量が多くなるとスラグ70中にマグネタイトが析出する温度が大幅に高くなってしまう。よって、スラグ温度を適正な範囲に制御しなければ、スラグ中にマグネタイトが析出してしまう。この場合、CaOを添加しても、スラグの粘性が低下せずに、スラグロスは上昇してしまう。しかしながら、温度距離20℃〜40℃の範囲にスラグの温度を制御することにより、マグネタイトの析出・再溶解を適正に抑制することができる。したがって、CaO品位が3wt%〜5wt%であっても、スラグロスを効率よく低下させることができる。なお、スラグ中のCaO量は、上記範囲で3.5wt%以上であることが好ましく、4.5wt%以下であることが好ましい。
【0027】
例えば、スラグ40のCaO源として、排脱石膏を用いることができる。ここで、排脱石膏とは、排煙脱硫石膏のことで、排煙脱硫装置でSOガスを回収して石膏化したCaSO・2HOのことである。
【0028】
なお、本実施形態においては錬カン炉でのスラグ温度制御に着目したが、錬カン炉スラグの温度制御性は自溶炉でのスラグ生成条件によって影響を受けやすいため、自溶炉操業条件を調整して自溶炉スラグを生成する温度を制御することも加味することが好ましい。したがって、自溶炉および錬カン炉においてスラグの温度をマグネタイト析出温度よりも20℃〜40℃高く制御することによって、スラグからのマグネタイトの析出・再溶解をより抑制することができる。
【実施例】
【0029】
(比較例)
比較例においては、上記温度距離を40℃以上に制御した。また、スラグへの排脱石膏の添加は行わなかった。
【0030】
(実施例)
実施例においては、温度距離を20℃〜40℃に制御した。具体的には、温度距離の目標値を30℃として、温度距離を制御した。また、スラグに排脱石膏を添加することによって、スラグのCaO品位を3wt%〜5wt%に制御した。
【0031】
図4は、比較例および実施例におけるスラグの銅品位(wt%)、スラグのCaO品位(wt%)、および、自溶炉におけるマットの銅品位(wt%)の推移を示す図である。図4において、横軸は時間経過を示し、縦軸はスラグの銅品位、スラグのCaO品位、および、自溶炉におけるマットの銅品位を示す。なお、図4および図5において、「EF」は錬カン炉を示し、「FF」は自溶炉を示す。
【0032】
図5は、比較例および実施例におけるスラグの銅品位(wt%)、温度距離、スラグの温度、および、自溶炉におけるマットの銅品位(wt%)の推移を示す図である。図5において、横軸は時間経過を示し、縦軸はスラグの銅品位、スラグの温度、温度距離、および、自溶炉におけるマットの銅品位を示す。表1は、図4および図5の結果を示す。表1においては、それぞれ平均値が示されている。
【0033】
【表1】

【0034】
(分析)
図4および表1に示すように、実施例において排脱石膏をスラグに添加することによって、スラグのCaO品位を調整することができた。また、図5および表1に示すように、実施例において自溶炉及び錬カン炉を用いてスラグの温度を調整することができた。さらに、表1に示すように、比較例においてはスラグの銅品位が高くなった。これは、温度距離が40℃を超えて63℃になったからであると考えられる。これに対して、実施例においては、比較例に対してスラグの銅品位を0.17wt%低くすることができた。これは、温度距離が20℃〜40℃の範囲にあり、さらに、スラグのCaO品位が3wt〜5wt%の範囲にあったからであると考えられる。
【0035】
図6は、自溶炉におけるマットの銅品位と錬カン炉におけるスラグの銅品位との関係を示す図である。図6において、横軸は自溶炉におけるマットの銅品位(wt%)を示し、縦軸は錬カン炉におけるスラグの銅品位(wt%)を示す。また、白丸が実施例を示し、黒丸が比較例を示す。図6に示すように、自溶炉のマットの銅品位60wt%〜68wt%のいずれにおいても、実施例のスラグの銅品位は比較例に対して低くなった。以上のことから、温度距離を20℃〜40℃に制御し、マグネタイトの析出・再溶解を制御しつつ、スラグのCaO品位を3wt%〜5wt%に制御してスラグの粘性を低下させたことによって、錬カン炉におけるスラグの銅品位を低減させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0036】
10 精鉱バーナ
20 反応塔
30 マット
40 スラグ
50 電極
60 マット
70 スラグ
100 自溶炉
200 錬カン炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マットおよびスラグを生成するための溶鉱炉において、前記スラグの温度を、前記スラグの組成におけるマグネタイト析出温度よりも20℃〜40℃高く制御する温度制御工程を含むことを特徴とする銅の製錬方法。
【請求項2】
前記スラグのCaO品位を3wt%〜5wt%に制御する品位制御工程を含むことを特徴とする請求項1記載の銅の製錬方法。
【請求項3】
前記品位制御工程において、石膏を前記スラグに添加することによって前記CaOの品位を制御することを特徴とする請求項2記載の銅の製錬方法。
【請求項4】
前記スラグは、FeO−SiO系スラグであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅の製錬方法。
【請求項5】
前記溶鉱炉は、自溶炉及び、前記自溶炉から取り出されたスラグからマットおよびスラグを生成するための錬カン炉であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の銅の製錬方法。
【請求項6】
前記自溶炉から取り出されたマットの品位は、60wt%〜68wt%であることを特徴とする請求項5記載の銅の製錬方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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