説明

銅イオンの分離方法、及び電気ニッケルの製造方法

【課題】 銅を含有するニッケルの酸性溶液中から銅イオンを分離するにあたり、硫化物の反応効率を向上させてその添加量を低減し、効率的に銅イオンを分離することが可能な銅イオンの分離方法、及びその銅イオンの分離方法を適用した電気ニッケルの製造方法を提供する。
【解決手段】 銅イオンを含有するニッケルの酸性溶液から、銅イオンを分離する銅イオンの分離方法であって、少なくとも、ニッケルの酸性溶液に硫化物を添加し、酸性溶液中の銅イオン濃度が平衡状態に達した後に、得られたスラリーを固液分離する第1の固液分離工程と、第1の固液分離工程を経て得られた濾液に硫化物を添加し、濾液中の銅イオン濃度が平衡状態に達した後に、得られたスラリーを固液分離する第2の固液分離工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電気ニッケル製造プロセスにおける塩化ニッケル溶液等のニッケルの酸性溶液中に含まれる銅イオンを分離する方法、及びその電気ニッケルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルの製錬方法の1つとして、鉱石を熔融し硫化焙焼してニッケルマットを得て、得られたニッケルマットを酸化剤と共に、塩酸等の酸を用いて浸出してニッケルを含有する酸性溶液とし、電解採取等によってニッケルメタルを得る方法がある。
【0003】
また最近では、低品位のニッケル酸化鉱を高温高圧下で硫酸によって浸出し、得られた硫酸酸性ニッケル含有溶液に硫化水素等の硫化剤を添加してニッケルを含有する混合硫化物(Mixed Sulfide又はMSとも称する)を生成し、次に塩酸や塩素ガスで混合硫化物を浸出して塩化ニッケル溶液とし、電解採取してニッケルメタルを得る方法も用いられてきた。
【0004】
いずれの場合であっても、ニッケルを含有する塩化ニッケル溶液等の酸性溶液には、鉱石に含有された銅も共存する。このため、ニッケルメタルを精製する前に、予め酸性溶液に含有された銅を分離する処理が必要となる。
【0005】
塩化ニッケル溶液中の銅イオンを分離する方法としては、塩化ニッケル溶液に硫化水素ガスを吹き込む方法や、例えば特許文献1に示されるように硫化物によるイオン交換を利用する方法がある。
【0006】
これらの方法はいずれも、塩化ニッケル溶液中の銅イオンの量に比して、硫化水素ガスや硫化物等を大量に添加しなければ、低濃度まで銅を除去(完全除去)することは困難であることが知られている。
【0007】
塩化ニッケル溶液中に含まれる銅イオンを硫化物の添加によりイオン交換(置換又はセメンテーションとも呼ばれる)を利用して除去する場合、その置換反応は下記(1)式に従って進行する。なお、ここで添加する硫化物は、当然のことながら硫化銅以外の銅イオンよりもイオン化傾向の大きなメタル(M)を主として含有する硫化物である。
CuCl + MS ⇔ MCl + CuS ・・・(1)
【0008】
上記の反応は、塩化ニッケル液中の銅濃度が下がると平衡状態となる。したがって、目標とする濃度まで銅濃度を低くする場合、添加する硫化物を増やす必要があり、スラリー量の増加と大きな濾過設備を必要とすることが問題となっていた。
【0009】
このような問題の解決方法としては、例えば特許文献2に記載されているように、添加する硫化物に、例えばNi等で表されるメタルを含んだマットを用いる方法が提案されている。さらに、硫化物を粉砕し、比表面積を増やして反応性を向上する方法も提案されている。
【0010】
しかしながら、メタルを含むマットを得るには熔錬炉を用いること必要があり、大きな設備投資が必要となる。さらに、硫化物を機械的に破砕するには、乾式精錬と粉砕を必要とするため、投資がかさみ原料コストが高くなる。また、硫化物を粉砕して表面積を増加した場合、反応後に得られた硫化銅が微細なものとなり、濾過性が著しく低下し、必要な濾過能力を得るための設備投資と作業手間が増すという問題がある。
【0011】
このように、工業的には取り扱う反応スラリーの物量が著しく増大し、設備容量増加の原因となる等の問題があり、塩化ニッケル溶液中の銅イオンをより効率的に分離する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平5−57203号公報
【特許文献2】特開平2−145731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、銅を含有するニッケルの酸性溶液中から銅イオンを分離するにあたり、硫化物の反応効率を向上させてその添加量を低減し、効率的に銅イオンを分離することが可能な銅イオンの分離方法、及びその銅イオンの分離方法を適用した電気ニッケルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、銅イオンを含有するニッケルの酸性溶液に対して硫化物の添加を多段階で行うことによって、反応平衡を銅イオンの分離が進行する方向に促進させることができ、少ない硫化物の添加量で効率的に銅イオンを分離できることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明に係る銅イオンの分離方法は、銅イオンを含有するニッケルの酸性溶液から、該銅イオンを分離する銅イオンの分離方法であって、少なくとも、前記ニッケルの酸性溶液に硫化物を添加し、該酸性溶液中の銅イオン濃度が平衡状態に達した後に、得られたスラリーを固液分離する第1の固液分離工程と、前記第1の固液分離工程を経て得られた濾液に硫化物を添加し、該濾液中の銅イオン濃度が平衡状態に達した後に、得られたスラリーを固液分離する第2の固液分離工程とを有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る電気ニッケルの製造方法は、ニッケル硫化物を塩素浸出して得られる含銅塩化ニッケル溶液から銅を分離除去し、電解採取法により電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造方法において、前記含銅塩化ニッケル溶液にニッケル硫化物を添加し、該含銅塩化ニッケル溶液中の銅イオン濃度が平衡状態に達した後に、得られたスラリーを固液分離する第1の固液分離工程と、前記第1の固液分離工程を経て得られた濾液にニッケル硫化物を添加し、該濾液中の銅イオン濃度が平衡状態に達した後に、得られたスラリーを固液分離する第2の固液分離工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、硫化物の添加を多段階で行うことによって、効率的に反応平衡を銅イオンが硫化銅として固定化される方向に進行させることができるので、少ない硫化物の添加量で、ニッケルの酸性溶液に含まれる銅イオンの濃度をより低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】塩素浸出法による電気ニッケル製造プロセスの工程図である。
【図2】添加した混合硫化物に対する塩化ニッケル溶液の反応終液における銅濃度の関係を示すグラフである。
【図3】添加した混合硫化物に対する塩化ニッケル溶液の反応終液における銅濃度の関係を示すグラフである。
【図4】反応温度に対する塩化ニッケル溶液の反応終液における銅濃度の関係を示すグラフである。
【図5】混合硫化物の粉砕効果について、添加した混合硫化物の濃度に対する塩化ニッケル溶液の反応終液における銅濃度の関係を示すグラフである。
【図6】混合硫化物の粉砕効果について、添加した混合硫化物の比表面積に対する塩化ニッケル溶液の反応終液における銅濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施の形態に係る、銅イオンを含有するニッケルの酸性溶液の銅イオン分離方法について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.銅イオンの分離方法
2.電気ニッケル製造プロセス
3.実施例
【0020】
<1.銅イオンの分離方法>
本実施の形態に係る銅イオンの分離方法は、銅イオンを含有したニッケルの酸性溶液に対して硫化物を添加して銅イオンを硫化銅として分離する方法であって、少ない硫化物の添加量で効率的に銅イオンを分離して銅イオン濃度をより低濃度まで減らすことを可能にするものである。
【0021】
具体的に、本実施の形態に係る銅イオンの分離方法は、ニッケルの酸性溶液に硫化物を添加し、得られたスラリーを固液分離する第1の固液分離工程と、第1の固液分離工程を経て得られた濾液に硫化物を添加し、得られたスラリーを固液分離する第2の固液分離工程とを有する。
【0022】
ここで、ニッケルを含有する酸性溶液から硫化物を添加することによって銅イオンを分離する方法は、下記の式(1)に示されるイオン置換反応によって進行する。以下の(1)式に示す反応は、ニッケルを含有する酸性溶液として塩化ニッケル溶液を用い、この塩化ニッケル溶液中に含まれる銅イオンを分離する反応の例について示す。なお、式中MS(Mixed Sulfide)は、ニッケルやコバルト等の銅以外を主成分として含有する混合硫化物である。
CuCl + MS ⇔ MCl + CuS ・・・(1)
【0023】
上記式(1)に示されるイオン置換反応は、ニッケルを含有する酸性溶液である塩化ニッケル溶液中において、銅イオン濃度が次第に低下していくと平衡状態となっていく。したがって、塩化ニッケル溶液中における銅イオンを完全に分離除去しようとした場合、添加する硫化物を増加させることが必要となり、硫化物の増加とその硫化物増加に対応できる大きな濾過設備等が必要となる。
【0024】
そこで、本実施の形態に係る銅イオンの分離方法では、上述のように、銅イオンを含有したニッケルの酸性溶液に硫化物を多段階に亘って添加する。つまり、ニッケルの酸性溶液に硫化物を添加することによって上述の反応式に示すような平衡状態に達して硫化銅が生成したスラリーを一旦濾過して固液分離し、固液分離後に得られた濾液に対し、新たに硫化物を添加することによって新たな平衡状態を形成させるようにする。
【0025】
このように、本実施の形態においては、銅イオンを含有したニッケルの酸性溶液に対して硫化物を多段階に亘って添加することによって、少ない硫化物の添加量で、溶液中の銅イオン濃度をより低濃度にすることができる。また、添加する硫化物の総量を抑えることができるので、大きな濾過設備等を要することなく、効率的かる効果的に銅イオンを分離することができる。
【0026】
この銅イオンの分離方法において、ニッケルを含有する酸性溶液に添加する硫化物としては、硫化ニッケル、硫化コバルト、硫化亜鉛等の、硫化銅以外の硫化物を用いることができる。これら硫化物は、1種単独で用いてもよく、また複数を混合した混合硫化物として用いてもよい。
【0027】
また、硫化物としては、低品位ニッケル酸化鉱から、例えば高温加圧酸浸出法等の湿式製錬法により得られたニッケル硫化物を用いてもよい。低品位ニッケル酸化鉱から得られたニッケル硫化物は、主としてNiS等の形態からなり、ニッケルとコバルトとを主として含有する混合硫化物である。このニッケル硫化物は、例えば電気ニッケル製造プロセスにおける塩素浸出の原料としても用いられ、塩素浸出して得られた塩化ニッケル溶液中の銅イオンをセメンテーションする際にも、本実施の形態に係る銅イオンの分離方法を適用することができ、硫化物として同様のニッケル硫化物を再利用することができる点で好ましい。
【0028】
なお、低品位ニッケル酸化鉱から湿式製錬によりニッケル硫化物を生成する方法としては、具体的には、例えば低品位ニッケル酸化鉱石を酸化性雰囲気下で高温高圧で硫酸浸出し、この高圧浸出液を酸化鉱石スラリーと合わせて硫酸酸性下で常圧浸出し、次いで、常圧浸出液を中和後、硫化水素ガス(HS)や硫化ナトリウム(NaS)等の硫化剤を添加してニッケル、コバルトを硫化物として回収する。
【0029】
また、添加する硫化物は、粉砕処理等を行うことによって平均粒径(D10、D50、D90)を小さくし、比表面積を大きくしたものを用いることが好ましい。粉砕処理して得られた比表面積の大きい硫化物を添加することによって、より一層に少ない添加量で、酸性溶液中の銅イオン濃度を低減させることができる。
【0030】
具体的に、硫化物は、粉砕処理することによって、その平均粒径を例えばD50で10μm以下に調整することが好ましい。また、硫化物の比表面積としては、4.5m/g以上に調整することが好ましく、5.0m/g以上に調整することがより好ましい。硫化物の粉砕処理方法は、特に限定されるものではなく、例えば遊星ボールミルやロッドミル、タワーミル、ビーズミル等を用いた公知の方法を用いることができる。なお、平均粒径(D10、D50、D90)とは、レーザー粒度分布測定により累積体積がそれぞれ10%、50%、90%となる粒子径である。
【0031】
また、低品位ニッケル酸化鉱から湿式製錬により得られたニッケル硫化物を用いる場合には、その生成において硫化剤として硫化ナトリウム(NaS)を用いて生成されたものを用いることが、生成された硫化物の比表面積が大きいという点で好ましい。
【0032】
硫化物は、まず始液となる銅を含有するニッケルの酸性溶液に順次添加していき、上記式(1)に示した、ニッケルの酸性溶液から銅を分離するイオン交換反応が平衡状態となり、溶液中の銅イオン濃度が平衡に達するまで添加する。具体的には、例えば約18g/lの銅を含有する酸性溶液を始液として用いた場合には、銅イオン濃度が平衡に達する約1g/lとなるまで硫化物を添加する。本実施の形態においては、上述のようにして銅イオン濃度が平衡に達した後、得られたスラリーを固液分離し、イオン交換反応によって酸性溶液中に生成した硫化銅を分離する。そして、固液分離によって生成した濾液に対して、新たな硫化物を添加してイオン交換反応の脱銅処理を行い、銅イオンが平衡状態に達した後に固液分離することによって、銅濃度が低減されたニッケルの酸性溶液を得ることができる。
【0033】
なお、銅を含有する酸性溶液に対する硫化物の添加は、上述のように2段階に亘って行うことに限られず、固液分離処理を繰り返し行って、さらに多段階に亘って硫化物を添加してもよい。
【0034】
銅イオン分離の反応温度としては、特に限定されないが、常圧下で80〜100℃の範囲をすることが好ましい。反応温度を80℃以上とすることにより、硫化物とのイオン交換反応を促進させて酸性溶液中の銅濃度をより低減させることができる。また、反応温度を100℃以下とすることによって、高温高圧装置等の設備を要することなく容易に温度制御をでき、効率的な脱銅処理を行うことができる。
【0035】
以上のように、本実施の形態に係る銅イオンの分離方法は、銅イオンを含有するニッケルの酸性溶液に対して、固液分離処理を行いながら多段階に亘って硫化物を添加することによって、少ない硫化物の添加量で酸性溶液中の銅イオンを極めて低い濃度とすることができる。具体的には、硫化物を、多段階に亘って合計で約200g/l程度添加することによって、銅濃度を0.1g/l以下にすることができる。
【0036】
したがって、このような銅イオンの分離方法によれば、大きな濾過設備等を用意することなく、効率的かつ効果的に、銅イオンを分離除去したニッケルの酸性溶液を生成することができる。
【0037】
<2.電気ニッケル製造プロセス>
本実施の形態に係る銅イオンの分離方法は、ニッケル硫化物を塩素浸出して得られる含銅塩化ニッケル溶液から銅を除去し、電解採取法により電気ニッケルを製造する電気ニッケルプロセスに適用することができる。以下では、具体的に、上述した銅イオンの分離方法を適用した電気ニッケル製造プロセスについて説明する。
【0038】
図1に、電気ニッケル製造プロセスの工程図を示す。この図1に示すように、電気ニッケル製造プロセスは、ニッケル硫化物10を原料としてニッケル等の金属を塩素浸出し、塩素浸出液11である含銅塩化ニッケル溶液11’を生成する塩素浸出工程S1と、塩素浸出工程S1にて得られた含銅塩化ニッケル溶液11’に硫化物を添加し、銅イオンを硫化銅として固定化するセメンテーション工程S2と、セメンテーション終液12からニッケル以外の不純物を除去する浄液工程S3と、浄液工程S3を経て得られた塩化ニッケル溶液から電解採取法により電気ニッケル13を得る電解工程S4とを有する。本実施の形態に係る銅イオンの分離方法は、上述のセメンテーション工程S2において適用する。以下、各工程について順に説明する。
【0039】
<塩素浸出工程>
塩素浸出工程S1では、例えばニッケル酸化鉱から湿式製錬により製造されたニッケル硫化物10等の銅を含有する金属硫化物を原料として塩素でニッケル等の金属を浸出する。具体的には、後述するセメンテーション工程S2後のセメンテーション残渣14と共に電解工程S4で回収された塩素ガス15等によって、ニッケル硫化物10等の金属硫化物原料中のニッケル等を浸出し、塩素浸出液11としての含銅塩化ニッケル溶液11’を生成する。ここで、ニッケル硫化物10等の金属硫化物原料は、電解工程S4にて得られる塩化ニッケル溶液16と共にレパルプされてスラリー化したものが用いられる。
【0040】
この塩素浸出工程S1では、例えば下記の(2)及び(3)式に示す反応が起こる。
NiS+Cl → Ni2++S+2Cl ・・・(2)
CuS+2Cl → 2Cu2++S+4Cl ・・・(3)
【0041】
すなわち、塩素浸出工程S1では、原料としてのニッケル硫化物10が送液されると、ニッケル硫化物10中に含まれる硫化ニッケル及び硫化銅等の金属成分を塩素ガス15によって酸化浸出し、塩素浸出液11としての含銅塩化ニッケル溶液11’を生成する。この塩素浸出工程S1にて生成された塩素浸出液11(含銅塩化ニッケル溶液11’)は、後述するセメンテーション工程S2に送液され、銅イオンが固定除去される。一方で、この塩素浸出工程S1では、硫黄を主成分とした塩素浸出残渣17が固相に残存する。
【0042】
<セメンテーション工程>
セメンテーション工程S2では、塩素浸出工程S1にて生成された塩素浸出液11であり、銅イオンを含有する含銅塩化ニッケル溶液11’が送液され、この含銅塩化ニッケル溶液11’に硫化物を添加する。これにより、含銅塩化ニッケル溶液11’中に含まれる銅イオンが、添加した硫化物の硫黄と反応して硫化銅となり固定化される。
【0043】
具体的に、このセメンテーション工程S2では、例えば下記の(4)式に示す反応等が生じる。
NiS+2Cu → Ni2++CuS ・・・(4)
【0044】
本実施の形態では、このセメンテーション工程S2において、多段階に亘る硫化物の添加により、含銅塩化ニッケル溶液11’中の銅イオンが硫化銅として固定化される。すなわち、セメンテーション工程S2では、少なくとも、含銅塩化ニッケル溶液11’に硫化物を添加し、溶液中の銅イオン濃度が平衡状態に達した後に、得られたスラリーを固液分離する第1の固液分離工程と、第1の固液分離工程を経て得られた濾液にさらに硫化物を添加し、濾液中の銅イオン濃度が平衡状態に達した後に、得られたスラリーを固液分離する第2の固液分離工程とを有し、第2の固液分離工程を経て硫化銅を分離することによって、銅イオンが分離された塩化ニッケル溶液を生成する。
【0045】
このように、本実施の形態では、セメンテーション工程S2において含銅塩化ニッケル11’に対して、固液分離処理を行いながら多段階に亘って硫化物を添加することによって、少ない硫化物の添加量で銅を固定分離することができ、含銅塩化ニッケル溶液11’中の銅イオンを極めて低い濃度とすることができる。したがって、大きな濾過設備等を用意することなく、効率的かつ効果的に、銅イオンが分離された塩化ニッケル溶液を生成することができる。そして、この生成された塩化ニッケル溶液を用いて、後述する電解処理を行うことにより、不純物としての銅の含有を抑制した電気ニッケルを製造することができる。
【0046】
ここで、上述のように、銅を含有するニッケル硫化物10が原料として塩素浸出工程S1に投入されると、この塩素浸出工程S1を経て、銅を含有する塩素浸出液11が含銅塩化ニッケル溶液11’としてセメンテーション処理される。そして、その銅を含有するセメンテーション残渣14が再び塩素浸出工程S1に繰り返し戻されるようになる。したがって、電気ニッケルの増産を目的として、塩素浸出工程S1へのニッケル硫化物10の投入量が増大すると、電気ニッケル製造プロセス系内にインプットされる銅量は必然的に増加することとなる。
【0047】
従来の電気ニッケル製造プロセスにおけるセメンテーション工程では、塩素浸出工程で得られた塩素浸出液である含銅塩化ニッケル溶液に対して、ニッケル硫化物の添加量を増大させていくことによって、銅イオンを固定化するようにしていた。しかしながら、銅を固定分離して塩化ニッケル溶液中の銅イオン濃度を、例えば0.1g/l以下にまで低減させるためには、多量の硫化物を添加する必要があった。そして、電気ニッケルの増産によりプロセス系内にインプットされる銅量が増加することに伴い、固定化に要する硫化物の増加も顕著になっていき、電気ニッケルの増産に適切に対応することができなかった。
【0048】
これに対して、本実施の形態おける電気ニッケル製造プロセスにおいては、含銅塩化ニッケル溶液11’中の銅イオンの固定分離を行うセメンテーション工程S2において、反応スラリーの固液分離処理を行うことによって、硫化物を多段階に亘って添加するようにしているので、少ない硫化物の添加量で銅イオンを固定化することができ、含銅塩化ニッケル溶液11’中の銅イオン濃度をより低濃度にすることができる。これにより、電気ニッケルの増産に伴って系内にインプットされる銅量が増加しても、その銅を効果的に分離除去することが可能となり、不純物としての銅の含有を抑制した電気ニッケルを効率的に製造することができる。
【0049】
含銅塩化ニッケル溶液11’に添加する硫化物は、上述したように、例えば塩素浸出工程S1の原料として用いたものと同様に、低品位ニッケル酸化鉱から湿式製錬方法により製造されたニッケル硫化物10等が用いられる。このニッケル硫化物10は、ニッケルの他、コバルトや亜鉛等を含有する混合硫化物である。このような低品位ニッケル酸化鉱を湿式製錬することにより得られたニッケル硫化物10を原料として含銅塩化ニッケル溶液11’に多段階に亘って添加することにより、硫化ニッケル及び硫化コバルトの還元力によって、より効果的に銅イオンを硫化銅として固定することができる。
【0050】
また、添加するニッケル硫化物10等の硫化物は、公知の粉砕処理を行うことによって、平均粒径を小さくし、比表面積を大きくしたものを用いることが好ましい。これにより、含銅塩化ニッケル溶液11’に含まれる銅イオンと硫化物とのイオン交換反応をより効率的に進行させることができる。
【0051】
なお、このニッケル硫化物10は、電気ニッケル製造プロセスにおける後工程で得られる塩化ニッケル溶液16と共にレパルプされて生成したスラリーとして添加される。
【0052】
セメンテーション工程S2で用いる含銅塩化ニッケル溶液11’、換言すると塩素浸出工程S1から送液される塩素浸出液11としては、特に限定されるものではなく如何なる組成状態のものであっても適用可能である。例えば、含銅塩化ニッケル溶液11’の組成例として、ニッケル濃度が150〜270g/L、銅濃度が20〜40g/L、pH0.5〜2.0であるものを用いることができる。また、この含銅塩化ニッケル溶液11’中における銅イオンの形態に関しても特に限定されず、例えば2価銅イオン比率が60〜90%であり、1価銅イオン比率が10〜40%であるもの等を用いることができる。
【0053】
セメンテーション工程S2における温度条件としては、80〜100℃とすることが好ましい。反応温度条件を80℃以上とすることにより、効率的に含銅塩化ニッケル溶液11’中の銅イオンと硫化物とのイオン交換反応を促進させることができ、脱銅効率を向上させることができる。また、反応温度条件を100℃以下とすることによって、容易に反応温度を制御することができ、操業効率の観点からも効率的に処理することができる。
【0054】
なお、このセメンテーション工程S2では、上述のようにニッケル硫化物10等の硫化物を添加することに加えて、例えば乾式製錬によって得られたニッケルマットを添加するようにしてもよい。このようにしてニッケル硫化物10と共にニッケルマットを添加することにより、ニッケルマットの還元力を利用して2価銅イオンを1価銅イオンに還元させることができ、より効率的に銅イオンを硫化銅に固定して分離することができる。
【0055】
<浄液工程>
浄液工程S3では、セメンテーション工程S2を経て得られたセメンテーション終液(ニッケル浸出液)12、すなわち銅を硫化銅として分離除去した後の濾液から、ニッケル以外の不純物を除去し、電解採取するための塩化ニッケル溶液を得る。
【0056】
浄液工程S3は、主な工程として、脱鉄工程と、脱コバルト工程と、脱鉛工程と、脱亜鉛工程とがある。これらの工程では、セメンテーション終液12であるニッケル浸出液から不純物を除去する方法として、例えば酸化剤としての塩素ガスとアルカリ剤としての炭酸塩を用いる酸化中和法を用いることができる。この酸化中和法は、コバルトや鉄等の重金属が高次の酸化イオンになると、低いpH領域で水酸化物になりやすい性質を利用したものであり、湿式精錬の浄液工程をはじめ、重金属を含む排水処理等に汎用されている方法である。
【0057】
具体的には、浄液工程S3では、例えば下記(5)式に示す反応により不純物を除去する。
2++Cl+3NiCO+3H
→2M(OH)+3Ni2++2Cl+3CO ・・・(5)
(但し、Mは、コバルト又は鉄である。)
【0058】
上記(5)式に示すように、浄液工程S3では、塩素ガスを用いてニッケル浸出液から、対象とする不純物の水酸化物沈殿を形成させ、不純物を除去した塩化ニッケル溶液を得る。
【0059】
一般に、酸化中和法に用いられる薬剤は、酸化剤としては、塩素ガスの他に次亜塩素酸、酸素、空気等を用いることができる。また、アルカリ剤としては、炭酸塩の他に苛性ソーダ等の水酸化物、アンモニア等を用いることができる。これらの薬剤はプロセス条件に適合した組み合わせで使用されるが、ニッケルの湿式精錬プロセスにおいては、酸化剤として塩素ガス、アルカリ剤として炭酸塩を用いることが好ましい。酸化剤として塩素ガスを用いる理由は、塩素ガスは工程内で発生する強酸化剤であって利用し易いためである。また、アルカリ剤として炭酸塩を用いる理由は、プロセス全体のニッケル、ナトリウム、硫酸等のイオン濃度を制御できるとともに、酸化中和の際の反応性に優れるためである。
【0060】
<電解工程>
電解工程S4では、上述の浄液工程S3を経て浄液された塩化ニッケル溶液から電解採取法により電気ニッケル13を得る。
【0061】
具体的に、電解工程S4では、カソード及びアノードにおいて、それぞれ下記(6)及び(7)に示す反応が生じる。
(カソード側)
Ni2++2e → Ni ・・・(6)
(アノード側)
2Cl → Cl↑+2e ・・・(7)
【0062】
すなわち、カソード側では上記(6)式に示すように、塩化ニッケル溶液中のニッケルイオンがメタル(電気ニッケル13)として析出する。また、アノード側では上記(7)式に示すように、塩化ニッケル溶液中の塩素イオンが塩素ガス15として発生する。この塩素ガス15は、例えば回収塩素ガスとして塩素浸出工程S1等で用いられる。
【0063】
以上のように、電気ニッケルの製造プロセスにおいて、塩素浸出工程S1から得られた含銅塩化ニッケル溶液11’に対して、ニッケル硫化物10等の硫化物を多段階に亘って添加することにより、少ない硫化物の添加量で含銅塩化ニッケル溶液11’中の銅イオンを効率的に固定分離することができる。これにより、大きな濾過設備等を要することなく、不純物としての銅の含有を効果的に抑制した電気ニッケルを効率的に製造することができる。また、硫化物の添加量を抑制することができるので、電気ニッケルの増産にも適切に対応することが可能となる。
【実施例】
【0064】
<3.実施例>
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0065】
(銅イオンの分離)
下記表1に示す濃度18g/lの銅イオンを含む塩化ニッケル溶液を始液とし、その始液1Lを80℃に加温した。次に、下記表2に示す組成の混合硫化物(MS)を遊星ボールミルによって表3に示すような粒度と比表面積にしたもの(遊星ボールミル(BM)粉砕品)をサンプル1〜3のように添加した。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
なお、ここで用いた混合硫化物は以下の手順により生成し、遊星ボールミルによって粉砕した。
1)低品位ニッケル酸化鉱石500gを濃度約100g/l硫酸溶液と共にスラリー濃度が30〜40g/lになるようにオートクレーブに入れ、250℃の温度に上昇し、約1時間攪拌した。
2)スラリーをオートクレーブから取り出して固液分離した後、浸出液と浸出残渣とに分離した。
3)得られた浸出液に、消石灰を添加してpH2.5〜3.5の範囲となるまで中和し、再度固液分離して不純物を含む沈澱とニッケルを含む溶液とを分離した。
4)ニッケルを含む溶液に硫化水素ガスを吹き込み、固液分離して混合硫化物(Original)と硫化後液とに分離した。
【0070】
1)〜4)の手順により生成した混合硫化物(Original)の比表面積を、窒素ガス吸着によるBET法により求めたところ、表3に示すように3.3m/gであった。この混合硫化物(Original)を、遊星ボールミルを用いて粉砕処理し、表3のような粒度及び比表面積を有する混合硫化物(遊星ボールミル粉砕品)とした。なお、粒径はレーザー散乱法により測定し、その粒度分布から積算10%での粒径D10、積算50%での粒径D50、積算90%での粒径D90を求めた。
【0071】
・サンプル1
サンプル1では、上述の粉砕処理した混合硫化物(遊星ボールミル粉砕品)を、銅イオンを含有する塩化ニッケル溶液に順次添加して反応させていった。
【0072】
・サンプル2
サンプル2では、サンプル1と同様に上述の混合硫化物(遊星ボールミル粉砕品)を塩化ニッケル溶液に添加していき、反応後のスラリーを固液分離して得られた濾液に新たな混合硫化物(遊星ボールミル粉砕品)を添加する2段階の硫化物添加による脱銅処理を行った。すなわち、サンプル2では、混合硫化物を添加していき、塩化ニッケル溶液中の銅濃度が略平衡に達した時点(銅濃度が約1g/l以下となった時点)でスラリーを固液分離し、同様の遊星ボールミルで粉砕した混合硫化物を新たに添加して反応させた。
【0073】
・サンプル3
サンプル3では、サンプル2と同様にして、混合硫化物(遊星ボールミル粉砕品)を塩化ニッケル溶液に添加していき、塩化ニッケル溶液中の銅濃度が略平衡に達した時点(銅濃度が約1g/lとなった時点)でスラリーを固液分離し、硫化剤としてNaSを用いて得られた混合硫化物を添加して反応させた。すなわち、サンプル3では、上述の混合硫化物の生成手順1)〜4)における4)の工程において、硫化水素ガスに代えてNaSを硫化剤として用いて生成した混合硫化物(NaS生成MS)を新たに濾液に添加して2段階目の反応を行った。なお、硫化水素ガスに代えてNaSを硫化剤として用いて生成した混合硫化物は、表4に示すような粒度と比表面積を有していた。
【0074】
【表4】

【0075】
上述のサンプル1〜3においては、スラリーを80℃に維持し、常圧下で300rpmの回転速度で攪拌しながら反応させた。その後、反応後のスラリーを固液分離し、濾液中の銅濃度をICP分光分析にて分析した。図2に、分析結果を示す。
【0076】
図2に示されるように、サンプル1においては、混合硫化物を約150g/l以上添加することによって、塩化ニッケル溶液中の銅濃度を0.1g/l以下にすることができたものの、300g/lの混合硫化物を添加しても、塩化ニッケル溶液中の銅濃度を0.01g/l以下にすることはできなかった。
【0077】
一方で、2段階の硫化物添加による脱銅処理を行ったサンプル2及び3では、サンプル1よりも少ない硫化物の添加量で、塩化ニッケル溶液中の銅濃度を0.1g/l以下にすることができた。また、サンプル2においては、約180g/lという少ない硫化物の添加量で塩化ニッケル溶液中の銅濃度を0.01g/l以下にすることできた。さらに、サンプル3においては、約140g/lというより少ない硫化物の添加量で塩化ニッケル溶液中の銅濃度を0.01g/l以下にすることでき、約180g/l添加することによって、塩化ニッケル溶液中の銅濃度を0.001g/l以下にすることができた。
【0078】
以上のように、銅を含有する塩化ニッケル溶液に対して、多段階で硫化物を添加して脱銅処理を行うことによって、硫化物の添加量を抑えて、効率的かつ効果的に溶液中の銅イオンを分離することができることがわかった。
【0079】
・サンプル4
なお、サンプル4として、以下の脱銅処理を行った。すなわち、サンプル4では、サンプル1〜3と同様に、上記表1に示す濃度18g/lの銅イオンを含む塩化ニッケル溶液を始液として、その始液1Lを80℃に加温した。次に、上記1)〜4)に示した手順により生成したそのままの混合硫化物(Original)を、塩化ニッケル溶液に添加していった。次に、スラリーを80℃に維持し、常圧下で300rpmの回転速度で攪拌しながら2時間反応させた。その後、反応後のスラリーを固液分離し、濾液中の銅濃度をICP分光分析にて分析した。
【0080】
すなわち、サンプル4では、粉砕未処理の混合硫化物(Original)を用い、多段階による硫化物添加を行わずに、塩化ニッケル溶液の脱銅処理を行った。図3に、その分析結果を示す。
【0081】
図3に示されるように、サンプル4では、塩化ニッケル溶液中の銅イオンを10g/l以下の低濃度まで低下させるためには、混合硫化物を300g/l以上添加する必要があることがわかった。また、塩化ニッケル溶液中の銅イオンを0.1g/l以下にするには、混合硫化物を約450g/l以上も添加することが必要であることがわかった。なお、混合硫化物に代えて、比表面積を揃えた試薬硫化ニッケル、硫化コバルト、硫化亜鉛を添加したが、いずれも図3に示した結果とほぼ同じ結果であった。
【0082】
(反応温度の検討)
次に、ニッケルの酸性溶液に対する脱銅反応の反応温度について、反応促進の影響について検討した。
【0083】
具体的には、銅を含有する塩化ニッケル溶液に一定量(100g/l)の混合硫化物を添加し、常圧下において反応温度を変化させ、上述と同様に300rpmの回転速度で2時間反応させて、その後反応スラリーを固液分離して濾液中の銅濃度をICP分光分析にて測定した。図4に、その結果を示す。
【0084】
なお、ここで添加した塩化ニッケル溶液は、上述と同様に、上記表1に示す濃度18g/lの銅イオンを含む塩化ニッケル溶液を用いた。また、混合硫化物は、上述した1)〜4)の手順によって生成され、比表面積が3.3m/gの混合硫化物(Original)を添加した。
【0085】
図4に示されるように、反応温度が80℃を超えると、塩化ニッケル溶液中の銅濃度が低濃度となり、効果的に銅を分離することが可能になることがわかった。なお、反応温度が120℃を越えるとさらに効果的であることがわかったが、反応装置にオートクレーブのような高温高圧装置が必要であった。
【0086】
以上の結果から、脱銅処理においては、反応温度を80〜100℃の常圧下で反応させることにより、設備的な負荷を大きくすることなく、効率的に脱銅反応を進行させることができることがわかった。
【0087】
(硫化物の表面積の検討)
次に、銅を含有するニッケルの酸性溶液に添加する硫化物の反応比表面積による反応促進の影響を検討した。
【0088】
具体的に、下記表5に粒度及び比表面積を示すようにして、上述の1)〜4)の手順により生成させた混合硫化物(MS)(Original)と、混合硫化物(Original)をロッドミルを用いて粉砕した硫化物(ロッドミル粉砕品)と、混合硫化物(Original)を遊星ボールミルを用いて粉砕した硫化物(遊星ボールミル(BM)粉砕品)と、上記1)〜4)の手順のうちの4)工程において硫化剤としてNaSを用いて生成した混合硫化物(NaS生成MS)、の4種類を準備し、各硫化物を銅を含有する塩化ニッケル溶液に添加して、脱銅反応における溶液中の銅イオン濃度の推移を測定した。
【0089】
なお、それぞれの硫化物の添加による脱銅処理は、塩化ニッケル溶液に硫化物を添加していき、塩化ニッケル溶液中の銅濃度が略平衡に達した時点(銅濃度が約1g/l以下となった時点)でスラリーを固液分離し、新たな硫化物を添加して反応させる2段階で処理した。
【0090】
また、硫化物を添加する塩化ニッケル溶液は、下記表6に示す2種類の溶液1Lを始液1,2(始液1:銅濃度18g/l、始液2:銅濃度35g/l)とし、反応温度約80℃の常圧下において硫化物濃度を100〜450g/lの範囲で変化させ、300rpmの回転速度で2時間反応させて、その後反応スラリーを固液分離して濾液中の銅濃度をICP分光分析にて測定した。
【0091】
図5に、各硫化物の添加量に対する終液の銅濃度の関係を示し、図6に、添加した混合硫化物に対する終液の銅濃度の関係を示す。
【0092】
【表5】

【0093】
【表6】

【0094】
図5及び図6の結果から分かるように、硫化物を粉砕処理したり、硫化剤としてNaSを用いて硫化物を生成させて、添加する硫化物の比表面積を大きくすることによって、少ない添加量で効率的に銅イオンを分離除去できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオンを含有するニッケルの酸性溶液から、該銅イオンを分離する銅イオンの分離方法であって、
少なくとも、
前記ニッケルの酸性溶液に硫化物を添加し、該酸性溶液中の銅イオン濃度が平衡状態に達した後に、得られたスラリーを固液分離する第1の固液分離工程と、
前記第1の固液分離工程を経て得られた濾液に硫化物を添加し、該濾液中の銅イオン濃度が平衡状態に達した後に、得られたスラリーを固液分離する第2の固液分離工程と
を有することを特徴とする銅イオンの分離方法。
【請求項2】
前記硫化物は、粉砕処理されたものであることを特徴とする請求項1記載の銅イオンの分離方法。
【請求項3】
前記硫化物は、硫化ニッケル、硫化コバルト、及び硫化亜鉛の何れか1種以上からなることを特徴とする請求項1又は2記載の銅イオンの分離方法。
【請求項4】
前記硫化物は、ニッケル酸化鉱から湿式製錬方法によって得られたニッケル硫化物であることを特徴とする請求項1又は2記載の銅イオンの分離方法。
【請求項5】
前記ニッケル硫化物は、前記湿式製錬方法において硫化剤として硫化ナトリウムを用いて生成されたものであることを特徴とする請求項4記載の銅イオンの分離方法。
【請求項6】
前記ニッケルの酸性溶液は、ニッケル酸化鉱から湿式製錬方法によって得られたニッケル硫化物を塩素浸出して得られる塩化ニッケル溶液であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の銅イオンの分離方法。
【請求項7】
前記第1及び第2の固液分離工程における反応温度を80〜100℃とすることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の銅イオンの分離方法。
【請求項8】
ニッケル硫化物を塩素浸出して得られる含銅塩化ニッケル溶液から銅を分離除去し、電解採取法により電気ニッケルを製造する電気ニッケルの製造方法において、
前記含銅塩化ニッケル溶液にニッケル硫化物を添加し、該含銅塩化ニッケル溶液中の銅イオン濃度が平衡状態に達した後に、得られたスラリーを固液分離する第1の固液分離工程と、
前記第1の固液分離工程を経て得られた濾液にニッケル硫化物を添加し、該濾液中の銅イオン濃度が平衡状態に達した後に、得られたスラリーを固液分離する第2の固液分離工程と
を含むことを特徴とする電気ニッケルの製造方法。
【請求項9】
前記ニッケル硫化物は、ニッケル酸化鉱から湿式製錬方法によって得られ、ニッケル及びコバルトを含有することを特徴とする請求項8記載の電気ニッケルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−107264(P2012−107264A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254653(P2010−254653)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】