説明

銅イオン修飾酸化チタン及びその製造方法、並びに光触媒

【課題】光触媒とした場合に、可視光照射下において良好な触媒活性を発現し得る銅修飾酸化チタン及びその製造方法、並びに該銅イオン修飾酸化チタンを主成分とする光触媒を提供する。
【解決手段】表面が銅イオンによって修飾されており、かつブルッカイト型結晶を含む銅イオン修飾酸化チタンである。また、酸化チタンを生成するチタン化合物を反応溶液中で加水分解する加水分解工程と、加水分解後の溶液に銅イオンを含有する水溶液を混合し、酸化チタンの表面修飾を行う表面修飾工程とを含む銅イオン修飾酸化チタンの製造方法である。さらに、当該銅イオン修飾酸化チタンを70質量%以上含む光触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光線の照射により活性を発現する光触媒に好適な銅イオン修飾酸化チタン及びその製造方法、並びに該銅イオン修飾酸化チタンを主成分とする光触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、光触媒として幅広く知られている物質であるが、紫外線のない場所ではほとんど機能しない。従って、現在、酸化チタンに可視光を吸収させる性質を付与する試みがなされている。
【0003】
試みの1つとして、酸化チタンに銅イオンをドーピングすることが挙げられる。銅イオンと酸化チタンを複合化させたものは、可視光照射下での光触媒活性を発現できる(例えば、特許文献1参照)。しかし、上記手法では添加金属が酸化チタンの表面又はバルクのどちらに存在しているのか明らかになっていない。
一方、酸化チタンの表面のみへの銅イオン修飾は、紫外光活性を向上させる又は抗菌性を高める目的で行われており、可視光照射下での揮発性有機化合物分解性能は調べられていない(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0004】
上記に対し、銅イオンの修飾によって、界面電荷移動による可視光吸収帯と多電子還元機能を酸化チタンに付与し、可視光照射下でイソプロパノールの分解ができることが非特許文献1で報告されている。しかし、この報告では、ルチル型酸化チタンのみへの適応しか検討しておらず、一般的に活性が高いとされるアナターゼ又はブルッカイトには適応できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−192496号公報
【特許文献2】特開平6−205977号公報
【特許文献3】特開平6−65012号公報
【非特許文献1】Chemical Physics Letters 457 (2008) 202-205 Hiroshi Irie, Shuhei Miura, Kazuhide Kamiya, Kazuhito Hashimoto
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上から本発明は、光触媒とした場合に、可視光照射下において良好な触媒活性を発現し得る銅イオン修飾酸化チタン及びその製造方法、並びに該銅イオン修飾酸化チタンを主成分とする光触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、下記本発明に想到し上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は下記の通りである。
【0008】
[1] 表面が銅イオンによって修飾されており、かつブルッカイト型結晶を含む銅イオン修飾酸化チタン。
[2] Cu−Kα1線を用いた粉末X線回折で測定される面間隔d(Å)において、少なくとも2.90±0.02Åに回折線が検出される[1]に記載の銅イオン修飾酸化チタン。
[3] 10質量%の酸化ニッケルを内標準物質として用いたリートベルト解析におけるブルッカイト型結晶の含有量が、14質量%以上60質量%以下である[1]又は[2]に記載の銅イオン修飾酸化チタン。
[4] シェラーの式から求められるブルッカイト型結晶の結晶子サイズが24nm以下である[1]〜[3]のいずれかに記載の銅イオン修飾酸化チタン。
[5] 前記銅イオンが塩化銅(II)に由来する[1]〜[4]のいずれかに記載の銅イオン修飾酸化チタン。
[6] 金属換算で0.05〜0.3質量%の銅イオンで修飾された[1]〜[5]のいずれかに記載の銅イオン修飾酸化チタン。
【0009】
[7] 酸化チタンを生成するチタン化合物を反応溶液中で加水分解する加水分解工程と、前記加水分解後の溶液に銅イオンを含有する水溶液を混合し、前記酸化チタンの表面修飾を行う表面修飾工程とを含む銅イオン修飾酸化チタンの製造方法。
[8] 前記チタン化合物が四塩化チタン又は三塩化チタンである[7]に記載の銅イオン修飾酸化チタンの製造方法。
[9] 加水分解時の前記反応溶液の温度が70℃以上で前記反応溶液の沸点以下である[7]又は[8]に記載の銅イオン修飾酸化チタンの製造方法。
[10] 加水分解時に、前記反応溶液中で酸素又はオゾンをバブリングする[7]〜[9]のいずれかに記載の銅イオン修飾酸化チタンの製造方法。
[11] 前記表面修飾工程において、表面修飾を行う際の温度を80〜95℃とする[7]〜[10]のいずれかに記載の銅イオン修飾酸化チタンの製造方法。
[12] 上記[7]〜[11]のいずれかに記載の製造方法で得られた銅イオン修飾酸化チタン。
[13] 上記[1]〜[6]及び[12]のいずれかに記載の銅イオン修飾酸化チタンを70質量%以上含む光触媒。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光触媒とした場合に、可視光照射下において良好な触媒活性を発現し得る銅イオン修飾酸化チタン及びその製造方法、並びに該銅イオン修飾酸化チタンを主成分とする光触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の銅イオン修飾酸化チタンのX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[銅修飾酸化チタン]
本発明の銅イオン修飾酸化チタンの結晶構造の少なくとも一部は、ブルッカイト型結晶となっている。そして、ブルッカイト型結晶を含んでいれば、含水酸化チタン、水酸化チタン、チタン酸、アモルファス、アナターゼ型結晶、ルチル型結晶等が混在していてもよい。
【0013】
ブルッカイト型結晶の存在は、Cu−Kα1線を用いた粉末X線回折で確認することができる。すなわち、当該粉末X線回折で測定される面間隔d(Å)において、少なくとも2.90±0.02Åに回折線が検出されることで確認することができる。
【0014】
そして、ブルッカイト型結晶由来の2.90Å、アナターゼ型結晶由来の2.38Å、ルチル型結晶由来の3.25Åのピークを比較することによって酸化チタン中に各結晶相がある程度存在していることの確認や、相対的な存在比率が概算できる。しかしながら、この3種のピークの相対強度と酸化チタン中に含まれるそれぞれの結晶相の割合は完全に一致せず、アモルファスの存在を無視していることから、各結晶相の含有率の測定に関しては、内標準物質を用いたリートベルト法を利用することが好ましい。
【0015】
すなわち、ブルッカイト型結晶の含有量は、内標準物質として10質量%となるように酸化ニッケルを混合して、リートベルト解析で求めることが可能である。各結晶の存在比をPanalytical社のX’ Pert High Score Plusプログラム中のリートベルト解析ソフトにて求めることができる。
【0016】
ブルッカイト型結晶の含有量は、14質量%以上60質量%以下であることが好ましく、14質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
14質量%以上であることで、酸化チタンゾルの分散性及び銅イオンの酸化チタンへの吸着性が向上するために好ましい。また、光触媒として使用した場合に優れた触媒能を発揮させることができる。一方、60質量%以下であることで、結晶子サイズが大きくなりすぎず、表面に修飾される銅イオンと酸化チタンとの相互作用を良好な状態に保つことができる。
【0017】
また、ブルッカイト型結晶の結晶子サイズは、24nm以下であることが好ましく、18nm以下であることがより好ましく、5〜18nmであることがさらに好ましく、5〜12nmであることが特に好ましく、9〜12nmであることが最も好ましい。結晶子サイズが24nm以下であると、銅イオンとの相互作用が向上するため好ましい。また、光触媒粒子表面と銅イオンとの反応性に変化が生じ、可視光活性を高くすることができる。
【0018】
なお、結晶の結晶子サイズは、結晶子サイズをt(nm)、X線の波長をλ(Å)、サンプルの半値幅をBM、リファレンス(SiO2)の半値幅をBs、回折角をθとしたときに、以下のシェラーの式により求められる。
【0019】
【数1】

【0020】
本発明の銅イオン修飾酸化チタンの表面は銅イオンによって修飾されているが、銅イオンとしては、塩化銅(II)、酢酸銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、フッ化銅(II)、ヨウ化銅(II)、臭化銅(II)等に由来するものが挙げられる。なかでも入手のしやすさや生産性を考慮すると、塩化銅(II)に由来するものであることが好ましい。
銅イオンは、上記のような前駆体が酸化チタン上で分解や酸化等の化学反応や、析出等の物理変化を経て生成される。
【0021】
銅イオンによる修飾量は、酸化チタンに対し金属(Cu)換算で0.05〜0.3質量%であることが好ましく、0.1〜0.2質量%であることがより好ましい。
修飾量が0.05質量%以上であることで、光触媒とした際の光触媒能を良好なものとすることができる。0.3質量%以下であることで、銅イオンの凝集が起こりにくく、光触媒とした際の光触媒能が低下を防ぐことができる。
【0022】
銅イオンとルチル型酸化チタンとの相互作用のメカニズムは明らかでないが、非特許文献1には、以下の機構が記載されている。
すなわち、光が照射された際に、ルチル型酸化チタンの価電子帯から銅イオンへの直接遷移が起こるため、可視光照射下でも光触媒活性を発現するというものである。
【0023】
本発明の結晶子サイズの小さなブルッカイト型結晶含有酸化チタンにおいても上記のような機構で可視光応答化ができ、なおかつ、結晶構造の違いにより銅イオンとの相互作用が促進され、従来の酸化チタンよりも優れた光触媒活性を発現することができると考えられる。
特に、アナターゼ型、ルチル型というバンドギャップの異なる2種の結晶形が混在する場合は、光生成した電子と正孔の電荷分離が促進され、光触媒活性が増加する可能性もある。従って、バンドギャップの異なる酸化チタンが混在することで、電荷分離が促進され、本発明のブルッカイト型結晶含有酸化チタンの優れた特性に大いに寄与すると推測される。
【0024】
[銅修飾酸化チタンの製造方法]
本発明の銅イオン修飾酸化チタンの製造方法は、酸化チタンを生成するチタン化合物を反応溶液中で加水分解する加水分解工程と、加水分解後の溶液に銅イオンを含有する水溶液を混合し、酸化チタンの表面修飾を行う表面修飾工程とを含む。
以下、各工程について説明する。
【0025】
(加水分解工程)
当該工程では、例えば、塩化チタン等の酸化チタンを生成し得るチタン化合物の水溶液を加水分解することによって、酸化チタンスラリーを得る。加水分解時の溶液の条件を変えることによって、任意の結晶形に作りわけることができ、例えば、ブルッカイト含有率が7〜60質量%である酸化チタン粒子が得られる。また、X線回折ピークの半値幅とシェラーの式から求まる結晶子サイズを例えば、9〜24nmで作り分けられる。酸化チタンの結晶構造又は結晶子サイズは、光生成したキャリヤーの移動度に大きく影響を与える。さらに、銅イオンとの相互作用にも影響を与える。
具体的には、加水分解温度が80℃以下の時にはルチル型が、80から90℃まではアナターゼ型が、95℃ではブルッカイト型ができやすい。塩酸添加によって、アナターゼ型量を減らして、ブルッカイトまたはルチル型含有量を増やすことができる。これらによって、結晶相を作り分けることができる。
【0026】
チタン化合物としては、四塩化チタン、三塩化チタン、硫酸チタン、チタニウムテトラエトキシサイド、チタニウムテトライソプロポキサイド等が挙げられ、中でも、四塩化チタン、三塩化チタンが好ましい。
【0027】
加水分解時の反応溶液の温度は70℃以上で反応溶液の沸点以下であることが好ましい。このような温度範囲とすることで、効率よく酸化チタンゾルを合成することができる。
【0028】
また、加水分解時には、反応溶液中で酸素又はオゾンをバブリングすることが好ましい。これにより、結晶構造、結晶子径を制御することができる。
【0029】
(表面修飾工程)
表面修飾工程において、表面修飾を行う際の温度は80〜95℃とすることが好ましく、90〜95℃とすることがより好ましい。80〜95℃とすることで、効率よく銅イオンを酸化チタンの表面に修飾することができる。
【0030】
銅イオンによる修飾には、非特許文献1に記載されている方法を用いることができ、(1)酸化チタン粒子と塩化銅とを媒液中で加熱下で混合した後、水洗し回収する方法、(2)酸化チタン粒子と塩化銅とを媒液中で加熱下で混合した後、蒸発乾固し回収する方法等が挙げられる。(1)の方法は、カウンターアニオンを熱処理することなく取り除けるので好ましい。
【0031】
本発明の製造方法で得られる銅イオン修飾酸化チタンは、その粒子表面が銅イオンで修飾されたものである。修飾した銅イオンの状態分析は、微量であるがゆえに難しい。このため、拡散反射スペクトル(積分球付の分光光度計、島津製作所製)で(420〜500nm付近に酸化チタン又は銅イオンのみでは観測されない吸収帯が観測できれば、銅イオン修飾に包含される。銅イオンの定性・定量は、ICP分析によっても可能である。
【0032】
[光触媒]
本発明の光触媒は、本発明の銅イオン修飾酸化チタンを主成分とする。ここで、「主成分」とは、光触媒の全体の70質量%以上であり、好ましくは75質量%以上をいう。また、その他の成分としては、アモルファスの酸化チタン、含水酸化チタン等が挙げられる。
本発明の光触媒は種々の形態で使用されるが、好ましくは粉末状で使用されることが好ましい。
【0033】
本発明の光触媒は波長420nm以下の光でも光触媒能の発現が可能であるが、さらに波長420nm以上の可視光下においても触媒能を発現する。
本発明における光触媒能には、抗菌、消臭、防汚、大気の浄化、水質の浄化等の環境浄化のような機能が含まれる。具体的には以下の機能が例示できるが、特にこれらには限定されない。
特に、系内に光触媒粉末とアルデヒド類等の有機化合物等の環境に悪影響を与える物質が存在したときに、光照射下において、暗所と比較した場合に有機物の濃度の低下と酸化分解物である二酸化炭素濃度の増加が見られる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、各例で得られた銅イオン修飾酸化チタンについて、XRD測定により結晶構造の特定を行い種々の結晶の存在割合とブルッカイト型結晶の結晶子サイズを求めた。XRD測定は、銅ターゲットを使用し、Cu−Kα1線を用いて、管電圧が45kV、管電流が40mA、測定範囲が2θ=20〜80deg、サンプリング幅が0.0167deg、走査速度が1.1deg/minで行った。
測定に使用した装置は、Panalytical社製のX'pertPROであった。
【0035】
(実施例1)
蒸留水690mLを還流冷却器付きの反応槽に注入し、ここに三塩化チタン水溶液(20%質量溶液、密度1.23g/ml)60gを1g/minの速度で反応槽に滴下した。その後、オゾン発生装置を通した酸素をバブリングしながら、30分かけて101℃まで昇温し、90分間保持した。得られたゾルについて、電気透析器にてpHが4になるまで脱塩素処理を行った。得られたスラリー溶液200mL(含有粉末量1.5g)に、塩化銅水溶液0.5mL(TiO2に対して銅として0.1質量%相当)を添加した。次いで、攪拌しながら90℃1時間加熱処理を行った後、室温まで放冷してから遠心分離にて洗浄回収し、120℃で1昼夜乾燥した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、ブルッカイト型結晶を40質量%含む淡黄色を呈した本発明の銅イオン修飾酸化チタンを得た。
なお、図1に当該銅イオン修飾酸化チタンのX線回折パターンを示す。
【0036】
(実施例2)
蒸留水690mLを還流冷却器付きの反応槽に注入し、95℃に加温してそれを維持した。攪拌速度を300rpmに保ちながら、ここに四塩化チタン水溶液(Ti含有量17.0質量%、比重1.52)60gを1g/minの速度で反応槽に滴下した。反応槽中では反応液が滴下直後から、白濁し始めたがそのままの温度で保持し、滴下終了後さらに昇温し沸点付近の温度で60分間維持した。得られたゾルについて、電気透析器にてpHが4になるまで脱塩素処理を行った。得られたスラリー溶液100mL(含有粉末量1.5g)に、塩化銅水溶液0.5mL(TiO2に対して銅として0.1質量%相当)を添加した。次いで、攪拌しながら90℃で1時間加熱処理を行った後、室温まで放冷してから遠心分離にて洗浄回収し、120℃で1昼夜乾燥した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、ブルッカイト型結晶を35質量%含む淡黄色を呈した本発明の銅イオン修飾酸化チタンを得た。
【0037】
(実施例3)
蒸留水690mLを還流冷却器付きの反応槽に注入し、ここに四塩化チタン水溶液(Ti含有量17.0質量%、比重1.52)60gを1g/minの速度で反応槽に滴下した。その後、101℃まで昇温し、120分間保持した。得られたゾルについて、電気透析器にてpHが4になるまで脱塩素処理を行った。得られたスラリー溶液200mL(含有粉末量1.5g)に、塩化銅水溶液0.5mL(TiO2に対して銅として0.1質量%相当)を添加した。次いで、攪拌しながら90℃で1時間加熱処理を行った後、室温まで放冷してから遠心分離にて洗浄回収し、120℃で1昼夜乾燥した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、ブルッカイト型結晶を24質量%含む淡黄色を呈した本発明の銅イオン修飾酸化チタンを得た。
【0038】
(実施例4)
蒸留水690mLを還流冷却器付きの反応槽に注入し、70℃に加温してそれを維持した。攪拌速度を300rpmに保ちながら、ここに四塩化チタン水溶液(Ti含有量17.0質量%、比重1.52)60gを1g/minの速度で反応槽に滴下した。反応槽中では反応液が滴下直後から、白濁し始めたがそのままの温度で保持し、滴下終了後さらに75℃まで昇温し、60分間維持した。得られたゾルについて、電気透析器にてpHが4になるまで脱塩素処理を行った。得られたスラリー溶液100mL(含有粉末量1.5g)に、塩化銅水溶液0.5mL(TiO2に対して銅として0.1質量%相当)を添加した。次いで、攪拌しながら90℃1時間加熱処理を行った後、室温まで放冷してから遠心分離にて洗浄回収し、120℃で1昼夜乾燥した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、ブルッカイト型結晶を14質量%含む淡黄色を呈した銅イオン修飾酸化チタンを得た。
【0039】
(実施例5)
蒸留水690mLを還流冷却器付きの反応槽に注入し、95℃に加温してそれを維持した。攪拌速度を300rpmに保ちながら、オゾン発生装置を通した酸素をバブリングしながら、ここに三塩化チタン水溶液(20質量%溶液、密度1.23g/ml)60gを1g/minの速度で反応槽に滴下した。その後、オゾン発生装置を通した酸素のバブリングを終了し、そのままの温度で保持し、滴下終了後さらに昇温し沸点付近の温度で60分間維持した。得られたゾルについて、電気透析器にてpHが4になるまで脱塩素処理を行った。得られたスラリー溶液150mL(含有粉末量1.5g)に、塩化銅水溶液0.5mL(TiO2に対して銅として0.1質量%相当)を添加した。次いで、攪拌しながら90℃1時間加熱処理を行った後、室温まで放冷してから遠心分離にて洗浄回収し、120℃で1昼夜乾燥した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、ブルッカイト型結晶を54質量%含む淡黄色を呈した本発明の銅イオン修飾酸化チタンを得た。
【0040】
(実施例6)
蒸留水690mLを還流冷却器付きの反応槽に注入し、95℃に加温してそれを維持した。攪拌速度を300rpmに保ちながら、オゾン発生装置を通した酸素をバブリングしながら、ここに三塩化チタン水溶液(20質量%溶液、密度1.23g/ml)60gを1g/minの速度で反応槽に滴下した。そのままの温度で保持し、滴下終了後さらに昇温し沸点付近の温度で60分間維持した。得られたゾルについて、電気透析器にてpHが4になるまで脱塩素処理を行った。得られたスラリー溶液150mL(含有粉末量1.5g)に、塩化銅水溶液0.5mL(TiO2に対して銅として0.1質量%相当)を添加した。次いで、攪拌しながら90℃1時間加熱処理を行った後、室温まで放冷してから遠心分離にて洗浄回収し、120℃で1昼夜乾燥した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、ブルッカイト型結晶を60質量%含む淡黄色を呈した本発明の銅イオン修飾酸化チタンを得た。
【0041】
(比較例1)
蒸留水690mLを還流冷却器付きの反応槽に注入し、80℃に加温してそれを維持した。攪拌速度を300rpmに保ちながら、ここに四塩化チタン水溶液(Ti含有量17.0質量%、比重1.52)60gを1g/minの速度で反応槽に滴下した。反応槽中では反応液が滴下直後から、白濁し始めたがそのままの温度で保持し、滴下終了後、85℃に昇温し、60分間維持した。得られたゾルについて、電気透析器にてpHが4になるまで脱塩素処理を行った。得られたスラリー溶液100mL(含有粉末量1.5g)に、塩化銅水溶液0.5mL(TiO2に対して銅として0.1質量%相当)を添加した。次いで、攪拌しながら90℃で1時間加熱処理を行った後、室温まで放冷してから遠心分離にて洗浄回収し、120℃で1昼夜乾燥した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、ルチル型結晶のみからなる銅イオン修飾酸化チタンを得た。
【0042】
(比較例2)
200mlのイオン交換水に1.5gの主にアナターゼ型の市販の酸化チタン(商品名:スーパータイタニア(登録商標)F6、昭和電工製)を懸濁し、実施例1と同様にして塩化銅による処理を行い、銅イオン修飾酸化チタンを得た。
【0043】
(比較例3)
アナターゼ型のみからなる市販の酸化チタン(商品名:ST01、石原産業製)について、比較例2と同様にして、銅イオンを修飾し、銅イオン修飾酸化チタンを得た。
【0044】
(二酸化炭素発生量の測定)
密閉式のガラス製反応容器(容量0.5L)内に、直径1.5cmのガラス製シャーレを配置し、そのシャーレ上に、各実施例、比較例で得られた粒子状酸化チタン0.3gを置いた。反応容器内を酸素と窒素との体積比が1:4である混合ガスで置換し、5.2μLの水(相対湿度50%相当(25℃))、5.1%アセトアルデヒド(窒素との混合ガス 標準状態25℃ 1気圧)を5.0mL封入し、反応容器の外から可視光線を照射した。可視光線の照射には、キセノンランプに、波長420nm以下の紫外線をカットするフィルター(商品名:Y−44 旭テクノグラス)を装着したものを光源として用いた。アセトアルデヒドの減少速度と酸化的分解生成物である二酸化炭素の発生速度をガスクロマトグラフィーで経時的に測定した。
光照射8時間後の二酸化炭素発生量から、光を照射する直前の量を引いた値を真のアセトアルデヒド由来の二酸化炭素発生量とした。結果を下記表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
上記の結果から、本発明の銅イオンを修飾したブルッカイト型結晶を含有する酸化チタンは、銅イオンを修飾したブルッカイト型結晶を含まない酸化チタンよりも1.3倍から2.4倍の二酸化炭素を生成しており、明らかに高活性光触媒である。ブルッカイト型結晶の含有率が40質量%までは、含有率が増えるにつれて光触媒活性は向上した。それより多くなると、光触媒活性は低下した。40質量%までは、ブルッカイト型結晶粒子の割合が多くなっていくために、光触媒能の向上が見られる。しかし、40質量%を超えるとブルッカイト型結晶の結晶子サイズが約20nmまで大きくなることで、銅イオンと酸化チタンの相互作用が小さくなり、光触媒活性が低下する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が銅イオンによって修飾されており、かつブルッカイト型結晶を含む銅イオン修飾酸化チタン。
【請求項2】
Cu−Kα1線を用いた粉末X線回折で測定される面間隔d(Å)において、少なくとも2.90±0.02Åに回折線が検出される請求項1に記載の銅イオン修飾酸化チタン。
【請求項3】
10質量%の酸化ニッケルを内標準物質として用いたリートベルト解析におけるブルッカイト型結晶の含有量が、14質量%以上60質量%以下である請求項1又は2に記載の銅イオン修飾酸化チタン。
【請求項4】
シェラーの式から求められるブルッカイト型結晶の結晶子サイズが24nm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅イオン修飾酸化チタン。
【請求項5】
前記銅イオンが塩化銅(II)に由来する請求項1〜4のいずれか1項に記載の銅イオン修飾酸化チタン。
【請求項6】
金属換算で0.05〜0.3質量%の銅イオンで修飾された請求項1〜5のいずれか1項に記載の銅イオン修飾酸化チタン。
【請求項7】
酸化チタンを生成するチタン化合物を反応溶液中で加水分解する加水分解工程と、前記加水分解後の溶液に銅イオンを含有する水溶液を混合し、前記酸化チタンの表面修飾を行う表面修飾工程とを含む銅イオン修飾酸化チタンの製造方法。
【請求項8】
前記チタン化合物が四塩化チタン又は三塩化チタンである請求項7に記載の銅イオン修飾酸化チタンの製造方法。
【請求項9】
加水分解時の前記反応溶液の温度が70℃以上で前記反応溶液の沸点以下である請求項7又は8に記載の銅イオン修飾酸化チタンの製造方法。
【請求項10】
加水分解時に、前記反応溶液中で酸素又はオゾンをバブリングする請求項7〜9のいずれか1項に記載の銅イオン修飾酸化チタンの製造方法。
【請求項11】
前記表面修飾工程において、表面修飾を行う際の温度を80〜95℃とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の銅イオン修飾酸化チタンの製造方法。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項に記載の製造方法で得られた銅イオン修飾酸化チタン。
【請求項13】
請求項1〜6及び請求項12のいずれか1項に記載の銅イオン修飾酸化チタンを70質量%以上含む光触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2011−79713(P2011−79713A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234370(P2009−234370)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】