説明

銅ナノ構造体の製造方法

【課題】ナノサイズの銅材料を製造するための、簡便な方法を提供することを課題とする。
【解決手段】銅アンミン錯体水溶液から銅ナノ構造体を製造する方法であって、前記銅アンミン錯体水溶液を、飽和カロメル参照電極に対し電解電位−1.2V〜−3.0Vで電気分解することで陰極上に銅ナノ構造体を析出させることで、銅ナノ構造体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅ナノ構造体の電解製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズの金属材料については、様々な提案がなされている。例えば、金属単結晶ウイスカーは、内部に格子欠陥を殆ど有しない高強度材料であることから、高強度複合材料の強化材料や高強度繊維材料の充填剤として用いられている。金属単結晶ウイスカーの製造方法としては、例えば、亜鉛−ニッケル合金の単結晶ウイスカーを電解析出する方法が知られている(特許文献1参照)。また、ナノサイズの金属コバルト微粒子を電解析出する方法が、本発明者らによって提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
一方、銅は、導電性材料、放熱材料、触媒等の用途に使用され、銅微粒子の製造方法としては、バリン残基を有する双頭型ペプチド脂質及び金属イオンから形成された金属複合化ペプチド脂質から成るナノファイバーを、還元剤を用いて還元する方法が知られている(特許文献3参照)。
【0004】
近年、カーボンナノチューブやナノワイヤーが開発され、金属ナノ材料への関心が高まっている。平均径が数十nm〜数百nm程度で、平均長さが1μm程度以上の金属ナノワイヤーは、導電性材料、磁性材料、触媒、電子放出素子、カーボンナノチューブのテンプレート、等の様々な用途に用いられ、有用な材料として更なる開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−312050号公報
【特許文献2】特開2004−149871号公報
【特許文献3】特開2002−266007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ナノサイズの銅微粒子の一形態であるナノワイヤー状の銅の製造方法は、上記特許文献3に記載されているが、非常に手が込んだ作成方法であり煩雑な面を有する。また、原料として用いられるバリン残基を有する双頭型ペプチド脂質を合成することにも手間がかかり、大量生産には向かない。本発明はこのような状況下なされたものであり、ナノサイズの銅材料を製造するための、簡便な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記特許文献2に記載されているように、ナノサイズの金属コバルト微粒子の電解析出方法を開発した。しかしながら、当該方法を銅に適用しても、銅の析出はみられるものの、ナノサイズの銅材料を得ることができなかった。
【0008】
本発明者らは、ナノサイズの銅材料を得るべく鋭意研究を重ね、水が電気分解を起こす電位(飽和カロメル参照電極に対し、理論値で−1.23V程度)以上の負電位で電気分解反応を行うことにより、優れた特性が期待されるナノワイヤー構造やナノデンドライト構造(樹枝状結晶)の銅ナノ構造体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は以下の構成を有する。
[1] 銅アンミン錯体水溶液から銅ナノ構造体を製造する方法であって、前記銅アンミ
ン錯体水溶液を、飽和カロメル参照電極に対し電解電位−1.2V〜−3.0Vで電気分解することで陰極上に銅ナノ構造体を析出させることを特徴とする、銅ナノ構造体の製造方法。
[2] 前記電解電位が−1.5V〜−2.5Vであることを特徴とする、[1]に記載の銅ナノ構造体の製造方法。
[3] 前記銅アンミン錯体水溶液の濃度は、1mM〜300mMであることを特徴とする、[1]または[2]に記載の銅ナノ構造体の製造方法。
[4] 前記銅アンミン錯体水溶液は、[Cu(NH34]SO4または[Cu(NH34](NO32を、水、アンモニア水または塩化アンモニウム水溶液に溶解してなる、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の銅ナノ構造体の製造方法。
[5] 前記銅アンミン錯体水溶液は、銅イオン供給物質とアンモニウムイオン供給物質から調製されることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の銅ナノ構造体の製造方法。
【0010】
また、本発明の別の態様は、以下の構成を有する。
[6] 対向する一対の電極と、前記一対の電極間に充填される電解液とを少なくとも含むキャパシタであって、前記一対の電極の少なくとも一方に[1]〜[5]のいずれか1つの製造方法により製造された銅ナノ構造体を含むキャパシタ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来のような煩雑な方法ではなく、非常に簡便な方法で、銅ナノ構造体を得ることができる。また、用いる陰極の面積に応じて一度に大量の銅ナノ構造体を生産できる利点もあり、生産性にも優れている。
本発明の製造方法で製造した銅ナノ構造体は、ナノサイズのワイヤー構造やデンドライト構造などになると、膨大な表面積が稼げる、すなわち反応の効率を上げられるので、(1)電磁波吸収材などの導電性材料、(2)ケーブルなどの配線素材、(3)2次電池やキャパシタ材料、(4)触媒、(5)抗菌繊維、(6)プローブ顕微鏡のプローブ等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1において通電量3000mC/cm2の条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図2】実施例1において通電量4000mC/cm2の条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図3】実施例1において通電量5000mC/cm2の条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図4】実施例1において通電量6000mC/cm2の条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図5】実施例2において電解電位−1.4Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図6】実施例2において電解電位−1.7Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図7】実施例2において電解電位−2.0Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図8】実施例2において電解電位−2.2Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図9】比較例1において電解電位−1.0Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図10】実施例3において電解電位−2.3Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図11】実施例3において電解電位−2.5Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図12】実施例4で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図13】実施例5において電解電位−1.4Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図14】実施例5において電解電位−1.5Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図15】実施例5において電解電位−1.65Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図16】実施例6において電解電位−1.8Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図17】実施例6において電解電位−2.0Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図18】実施例7において銅アンミン錯体濃度20mMの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図19】実施例7において銅アンミン錯体濃度25mMの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図20】実施例8において電解電位−1.4Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図21】実施例8において電解電位−1.45Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図22】実施例8において電解電位−1.5Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図23】実施例8において電解電位−1.55Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図24】実施例9において電解電位−1.4Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図25】実施例9において電解電位−1.45Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図26】実施例9において電解電位−1.5Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図27】実施例9において電解電位−1.55Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図28】実施例10で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図29】実施例11で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図30】実施例12において電解電位−1.4Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図31】実施例12において電解電位−1.45Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図32】実施例12において電解電位−1.5Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図33】実施例12において電解電位−1.55Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図34】実施例13において電解電位−1.5Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図35】実施例13において電解電位−1.55Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図36】実施例13において電解電位−1.6Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図37】実施例14で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図38】実施例15において電解電位−1.4Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図39】実施例15において電解電位−1.45Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図40】実施例15において電解電位−1.5Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図41】実施例15において電解電位−1.55Vの条件で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図42】実施例16で製造した銅ナノ構造体である(図面代用写真)。
【図43】実施例17で製造した銅ナノ構造体について、サイクリックボルタンメトリーを行った結果を示す図である。
【図44】実施例17で製造した銅ナノ構造体について、充放電を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、銅アンミン錯体水溶液から銅ナノ構造体を製造する方法であって、前記銅アンミン錯体水溶液を、飽和カロメル参照電極に対し電解電位−1.2V〜−3.0Vで電気分解することで陰極上に銅ナノ構造体を析出させることを特徴とする、銅ナノ構造体の製造方法である。
上記説明したように、本発明においては、水が電気分解を起こす電位(飽和カロメル参照電極に対し、理論値で−1.23V程度)よりも負に大きいか等しい電位で電気分解反応を行うことにより、優れた特性が期待されるナノワイヤー構造やナノデンドライト構造(樹枝状結晶)などの銅ナノ構造体が得られることを見出したものである。電解電位−1.2Vよりも負に小さい場合には、図9で示すように銅ナノ構造体は析出せず、通常の膜に近い形状の銅が析出する。一方、−3.0Vよりも負に大きい電位で行うことは、溶媒や支持電解質の分解を招くこととなり、実験システムの設計上難しい。
【0014】
本発明における銅ナノ構造体とは、非常に小さな構造体であって、ナノ材料として用いることができるものである。その形状は特に限定されるものではないが、円柱(ワイヤーを含む)、及び三角柱、四角柱などの多角柱を含む柱状形状、並びに樹枝状形状(デンドライト)の構造体が確認されている。その大きさは、おおよそ、直径が100μm以下、かつ長さが50nm以上であり、好ましくは直径が5μm以下で、かつ長さが100nm以上である。なお、ここでいうナノ構造体の大きさは、樹枝状形状の場合には、樹枝を形成する幹・枝それぞれの大きさを意味する。本発明の銅ナノ構造体の形状、大きさは、電子顕微鏡の観察により確認することができる。
【0015】
また、本発明の製造方法により製造された銅ナノ構造体は、純銅のみで構成されてもよく、条件によっては酸化銅や水酸化銅を含有していてもよい。このような場合であっても、本発明の製造方法により製造された構造体であれば、銅ナノ構造体に含まれる。
【0016】
上記銅アンミン錯体は、[Cu(NH342+で表される。本発明において、[Cu(NH34]SO4や[Cu(NH34](NO32を水系溶媒に溶解させることで、銅アンミン錯体水溶液を調製することができる。
銅アンミン錯体水溶液中における銅アンミン錯体の濃度は、1mM以上であることが好ましく、より直径の細い材料を製造する観点から10mM以上であることがより好ましく、20mM以上であることがさらに好ましく、60mM以上であることが特に好ましい。また、銅アンミン錯体水溶液中における銅アンミン錯体の濃度は、300mM以下とすることが好ましく、より直径の細い材料を製造する観点から220mM以下であることがより好ましい。
【0017】
上記水系溶媒は、水と混合することが可能な溶媒、例えばアルコール類、グリコール類、アンモニア等と水との混合溶媒、及び水である。水系溶媒としては、イオン交換水等の水、またはアンモニア水を用いることが好ましく、アンモニア水を用いることがより好ましい。水系溶媒としてアンモニア水を用いた場合、濃度は0.01M〜5Mであることが好ましい。
【0018】
また、上記銅アンミン錯体水溶液は、導電性塩(支持電解質)を含むことが好ましい。導電性塩としては、電極基板に負電位を印加した際に電気分解を起こしにくい塩が好ましく、例えば、NaCl、NaBr、NaI、Na2SO4、NaNO3、CH3COONaなどのナトリウム塩、LiCl、LiBr、LiI、Li2SO4、LiNO3、CH3COOLiなどのリチウム塩、KCl、KBr、KI、K2SO4,KNO3,CH3COOKなどのカリウム塩、さらには二価の金属(カルシウム塩、マグネシウム塩)などの塩(要するにアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属の塩、及びテトラアルキルアンモニウムの塩)が挙げられる。
【0019】
上記導電性塩の添加量は、電気化学反応を生じさせることができれば特に限定されないが、0.001〜5Mが好ましく、0.01〜1Mがより好ましく、0.01〜0.5Mが特に好ましい。
【0020】
上記銅アンミン錯体は、市販のものを用いてもよく、また、調製することもできる。銅アンミン錯体は、銅イオン供給物質とアンモニウムイオン供給物質から調製することができる。
【0021】
上記銅イオン供給物質は、水溶液中でCu+またはCu2+を供給する物質である。このような物質としては、銅塩や銅酸化物が挙げられる。銅塩としては、硫酸銅、硝酸銅、塩化第一銅、塩化第二銅、フッ化銅、第一臭化銅、第二臭化銅、ヨウ化銅、酢酸銅、及びギ酸銅が挙げられ、銅酸化物としては酸化第一銅及び酸化第二銅などを挙げることができる。前記銅塩は水和物であってもよい。
【0022】
上記銅イオン供給物質としての銅塩又は銅酸化物の濃度は、混合液中に1mM以上であることが好ましく、より直径の細い材料を製造する観点から10mM以上であることがより好ましく、20mM以上であることがさらに好ましく、60mM以上であることが特に好ましい。また、上記銅塩の濃度は、300mM以下とすることが好ましく、より直径の細い材料を製造する観点から220mM以下であることがより好ましい。また、アンモニア水の濃度は0.01M〜2Mであることが好ましい。
【0023】
上記アンモニウムイオン供給物質としては、アンモニアや塩化アンモニウムが挙げられる。また、これらの水溶液であってもよい。アンモニウムイオン供給物質としてアンモニア水を用いた場合、濃度は0.01M〜5Mであることが好ましい。
【0024】
以下、本発明の銅ナノ構造体の製造方法について説明する。
市販されている銅アンミン錯体硫酸塩([Cu(NH34]SO4)を水またはアンモニア水に溶解させ、銅アンミン錯体水溶液を調製する。銅アンミン錯体水溶液は、銅アンミン錯体硫酸塩を水溶液にした場合に沈殿物が生じることがあるので、水に対して一定量銅アンミン錯体を添加した後、その上澄み液を使用することが好ましい。水溶液中の銅アンミン錯体濃度を上げると沈殿物量は増すが、上澄みの[Cu(NH34]2+の濃度も高くなる。また、本発明の別の実施態様では、上記銅アンミン錯体硫酸塩を調製するために、市販されている硫酸銅五水和物(銅イオン供給物質)とアンモニア水(アンモニウムイオン供給物質)とを混合し、混合液を調製する。
【0025】
ここで、好ましくはLi2SO4などの電気分解を起こさない導電性塩(支持電解質)を添加するとよい。
【0026】
次に、電気分解における陰極としては、導電性材料であればよく、Pt、Au、Co、Al、Cu、Ni、ステンレス鋼など殆どの金属が使用できる。また、酸化インジウム・錫(ITO)などの導電性酸化物や導電性プラスチックス、および炭素材料も使用することができる。
【0027】
一方、電気分解における陽極材料としては、電気化学的な酸化に耐える材料であればよく、例えば、金、白金、カーボン、ステンレス鋼などを好適に用いることができる。特に、溶解等を起こして電解液を汚染することがない白金を白金板や白金線として用いることが好ましい。
【0028】
既に説明したとおり、上記電気分解における陰極および陽極の間に印加する電圧(電解電位)は、飽和カロメル参照電極に対して−1.2〜−3.0Vであり、−1.25V〜3.0Vであることが好ましく、−1.5〜−2.5Vであることがより好ましい。
【0029】
また、本発明の製造方法は、空気中においても行うことはできるが、空気中の酸素の影響をできる限り少なくするため窒素雰囲気中で行うことが好ましく、溶液に対し窒素バブリングを行うことがより好ましい。また、製造温度は特に限定されるわけではないが、−40℃以上40℃以下であることが好ましい。
【0030】
上記方法により製造された本発明の銅ナノ構造体は、陰極上にワイヤー状やデンドラト状の構造体として形成され、その大きさは、おおよそ、直径が100μm以下であり、かつ長さが50nm以上であることが好ましく、より好ましくは直径が5μm以下であり、かつ長さが100nm以上である。直径及び長さは、電子顕微鏡写真の測定で求めることができる。
【0031】
このようにして得られた本発明の銅ナノ構造体は、導電性を有し、かつ表面積を稼げるため、導電性ナノ材料として様々な用途への応用が期待できる。特に、2次電池やキャパシタの材料に用いることが好適である。以下、キャパシタに用いた場合について説明する。
【0032】
本発明の銅ナノ構造体は、レドックスキャパシタ、および電気二重層キャパシタのいずれにおいても好適に使用することができる。電気二重層キャパシタへの応用について説明すると、対向する一対の電極と、上記一対の電極間に充填される電解液とを少なくとも含むキャパシタであって、上記一対の電極の少なくとも一方に本発明の銅ナノ構造体を含むキャパシタを好ましく例示できる。
【0033】
キャパシタの電極が、本発明の銅ナノ構造体を含むことで、実電極面積を拡大することができるため、好ましい。また、本発明の銅ナノ構造体は、一方の電極にのみ含まれていてもよいが、両方の電極上に含まれることが好ましい。
【0034】
本発明の銅ナノ構造体は、例えば、電気分解により電極上に生成した銅ナノ構造体を削り取って、導電性基板上に塗布することにより電極に含ませることができる。本発明の銅ナノ構造体は、電極上に10μg/cm2以上1g/cm2以下含むことが好ましく、より好ましくは50μg/cm2以上、500mg/cm2以下含むことである。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の銅ナノ構造体について、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこ
れらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
<実施例1>
水に銅アンミン錯体硫酸塩[Cu(NH34]SO4を終濃度が85mMになるように加え、導電性塩としてLi2SO4を終濃度が0.1Mになるように加え、銅アンミン錯体水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、飽和カロメル電極に対し電解電位−1.6Vで電気分解を行った。電気分解における通電量の条件を変化させ、それぞれの場合において、陰極上に析出した銅ナノ構造体のSEM観察の結果を図1〜4に示す。通電量は、(1)3000mC/cm2(図1)、(2)4000mC/cm2(図2)、(3)5000mC/cm2(図3)、(4)6000mC/cm2(図4)の4条件で実施した。
【0037】
<実施例2>
水に銅アンミン錯体硫酸塩[Cu(NH34]SO4を終濃度が75mMになるように加え、導電性塩としてLi2SO4を終濃度が0.1Mになるように加え、銅アンミン錯体水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、通電量2000mC/cm2で電気分解を行った。電気分解における飽和カロメル電極に対する電解電位の条件を変化させ、それぞれの場合において、陰極上に析出した銅ナノ構造体のSEM観察の結果を図5〜8に示す。電解電位は、(1)−1.4V(図5)、(2)−1.7V(図6)、(3)−2.0V(図7)、(4)−2.2V(図8)の4条件で実施した。
【0038】
<比較例1>
電解電位を−1.0Vとした以外は上記実施例2と同様の条件で電気分解を行い、陰極上に析出した銅のSEM観察の結果を図9に示す。電解電位が低い場合には、銅は析出するものの、銅ナノ構造体にはならなかった。
【0039】
<実施例3>
水に銅アンミン錯体硫酸塩[Cu(NH34]SO4を終濃度が200mMになるように加え、導電性塩としてLi2SO4を終濃度が0.1Mになるように加え、銅アンミン錯体水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、通電量5000mC/cm2で電気分解を行った。電気分解における飽和カロメル電極に対する電解電位の条件を変化させ、それぞれの場合において、陰極上に析出した銅ナノ構造体のSEM観察の結果を図10〜11に示す。電解電位は、(1)−2.3V(図10)、(2)−2.5V(図11)の2条件で実施した。
【0040】
<実施例4>
銅アンミン錯体硫酸塩の終濃度を300mMとし、電気分解における飽和カロメル電極に対する電解電位を−2.5Vとした以外は上記実施例3と同様の条件で電気分解を行い、陰極上に析出した銅のSEM観察の結果を図12に示す。銅アンミン錯体の濃度が高くなると、銅ナノ構造体の径が大きくなることが理解できる。
【0041】
<実施例5>
0.1Mアンモニア水に銅アンミン錯体硫酸塩[Cu(NH34]SO4を終濃度が25mMになるように加え、導電性塩としてLi2SO4を終濃度が0.1Mになるように加え、銅アンミン錯体水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、通電量2000mC/cm2で電気分解を行った。電気分解における飽和カロメル電極に対する電解電位の条件を変化させ、それぞれの場合において、陰極上に析出した銅ナノ構造体のSEM観察の結果を図13〜15に示す。電解電位は、(1)−1.4V(図13)、(2)−1.5V(図14)、(3
)−1.65V(図15)の3条件で実施した。
【0042】
<実施例6>
0.1Mアンモニア水に銅アンミン錯体[Cu(NH34]SO4を終濃度が60mMになるように加え、導電性塩としてLi2SO4を終濃度が0.1Mになるように加え、銅アンミン錯体水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、通電量2000mC/cm2で電気分解を行った。電気分解における飽和カロメル電極に対する電解電位の条件を変化させ、それぞれの場合において、陰極上に析出した銅ナノ構造体のSEM観察の結果を図16及び17に示す。電解電位は、(1)−1.8V(図16)、(2)−2.0V(図17)の2条件で実施した。
【0043】
<実施例7>
1Mアンモニア水に銅アンミン錯体[Cu(NH34]SO4を下記終濃度になるように加え、導電性塩としてLi2SO4を終濃度が0.1Mになるように加え、銅アンミン錯体水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、通電量2000mC/cm2、電解電位−1.45Vで電気分解を行った。アンモニア水に添加する銅アンミン錯体の濃度の条件を変化させ、それぞれの場合において、陰極上に析出した銅ナノ構造体のSEM観察の結果を図18及び19に示す。銅アンミン錯体の濃度は、(1)20mM(図18)、(2)25mM(図19)の2条件で実施した。
【0044】
<実施例8>
2Mアンモニア水に銅アンミン錯体[Cu(NH34]SO4を終濃度が25mMになるように加え、導電性塩としてLi2SO4を終濃度が0.1Mになるように加え、銅アンミン錯体水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、通電量2000mC/cm2で電気分解を行った。電気分解における飽和カロメル電極に対する電解電位の条件を変化させ、それぞれの場合において、陰極上に析出した銅ナノ構造体のSEM観察の結果を図20〜23に示す。電解電位は、(1)−1.4V(図20)、(2)−1.45V(図21)、(3)−1.5V(図22)、(4)−1.55V(図23)の4条件で実施した。
【0045】
<実施例9>
3Mアンモニア水に銅アンミン錯体[Cu(NH34]SO4を終濃度が25mMになるように加え、導電性塩としてLi2SO4を終濃度が0.1Mになるように加え、銅アンミン錯体水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、通電量2000mC/cm2で電気分解を行った。電気分解における飽和カロメル電極に対する電解電位の条件を変化させ、それぞれの場合において、陰極上に析出した銅ナノ構造体のSEM観察の結果を図24〜27に示す。電解電位は、(1)−1.4V(図24)、(2)−1.45V(図25)、(3)−1.5V(図26)、(4)−1.55V(図27)の4条件で実施した。
【0046】
<実施例10>
4Mアンモニア水に銅アンミン錯体[Cu(NH34]SO4を終濃度が25mMになるように加え、導電性塩としてLi2SO4を終濃度が0.1Mになるように加え、銅アンミン錯体水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、通電量2000mC/cm2、電解電位−1.45Vで電気分解を行った(図28)。
【0047】
<実施例11>
5Mアンモニア水に銅アンミン錯体[Cu(NH34]SO4を終濃度が25mMになるように加え、導電性塩としてLi2SO4を終濃度が0.1Mになるように加え、銅アンミン錯体水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、通電量2000mC/cm2、電解電位−1.45Vで電気分解を行った(図29)。
【0048】
<実施例12>
3Mアンモニア水に銅アンミン錯体[Cu(NH34]SO4を終濃度が25mMになるように加え、導電性塩としてLi2SO4を終濃度が0.5Mになるように加え、銅アンミン錯体水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、通電量2000mC/cm2で電気分解を行った。電気分解における飽和カロメル電極に対する電解電位の条件を変化させ、それぞれの場合において、陰極上に析出した銅ナノ構造体のSEM観察の結果を図30〜33に示す。電解電位は、(1)−1.4V(図30)、(2)−1.45V(図31)、(3)−1.5V(図32)、(4)−1.55V(図33)の4条件で実施した。
【0049】
<実施例13>
3Mアンモニア水に銅アンミン錯体[Cu(NH34]SO4を終濃度が25mMになるように加え、導電性塩であるLi2SO4を添加せずに、銅アンミン錯体水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、通電量2000mC/cm2で電気分解を行った。電気分解における飽和カロメル電極に対する電解電位の条件を変化させ、それぞれの場合において、陰極上に析出した銅ナノ構造体のSEM観察の結果を図34〜36に示す。電解電位は、(1)−1.5V(図34)、(2)−1.55V(図35)、(3)−1.6V(図36)の3条件で実施した。
【0050】
<実施例14>
0.1Mアンモニア水に硫酸銅五水和物CuSO4・5H2Oを終濃度が30mMになるように加え、導電性塩としてLi2SO4を終濃度が0.1Mになるように加えた。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、通電量2000mC/cm2、電解電位−1.6Vで電気分解を行った。陰極上に析出した銅ナノ構造体のSEM観察の結果を図37に示す。
【0051】
<実施例15>
2Mアンモニア水に硫酸銅五水和物CuSO4・5H2Oを終濃度が30mMになるように加え、導電性塩としてLi2SO4を終濃度が0.1Mになるように加え、硫酸銅水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、通電量2000mC/cm2で電気分解を行った。電気分解における飽和カロメル電極に対する電解電位の条件を変化させ、それぞれの場合において、陰極上に析出した銅ナノ構造体のSEM観察の結果を図38〜41に示す。電解電位は、(1)−1.4V(図38)、(2)−1.45V(図39)、(3)−1.5V(図40)、(4)−1.55V(図41)の4条件で実施した。
【0052】
<実施例16>
2Mアンモニア水に酸化第二銅CuOを終濃度が38mMになるように加え、導電性塩としてLi2SO4を終濃度が0.1Mになるように加え、酸化第二銅水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、飽和カロメル電極に対し電解電位−1.65V、通電電気量2000mC/cm2で電気分解を行った(図42)。
【0053】
<実施例17>
1Mアンモニア水に銅アンミン錯体[Cu(NH34]SO4を終濃度が25mMになるように加え、導電性塩としてLi2SO4を終濃度が0.1Mになるように加え、銅アンミン錯体水溶液を得た。この溶液を用い、陰極としてITO、陽極として白金板、参照電極として飽和カロメル電極を使用し、溶液温度18℃、電解電位−1.45V、通電量2000mC/cm2で電気分解を行った。
その後、このITO電極を動作電極として用い、電解液として0.1MのLiOH水溶液中で、対向電極としてPtプレートを用い、掃引速度50mV/s、掃引範囲0V〜0.6Vでサイクリックボルタンメトリーを行った。その結果を図43に示す。また、この条件で電流値0.5mA/cm2で充放電を行った。この結果を図44に示す。これよりキャパシタ特性を測定したところ、静電容量は、100F/g(比容量)、1mF/cm2(固有容量)、内部抵抗は、56Ωであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の製造方法で製造した銅ナノ構造体は、ナノサイズのワイヤーやデンドライト構造などになると、膨大な表面積が稼げる、すなわち反応の効率を上げられるので、(1)電磁波吸収材などの導電性材料、(2)ケーブルなどの配線素材、(3)2次電池やキャパシタ材料、(4)触媒、(5)抗菌繊維、(6)プローブ顕微鏡のプローブ等に有用であり、様々な用途へ適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅アンミン錯体水溶液から銅ナノ構造体を製造する方法であって、前記銅アンミン錯体水溶液を、飽和カロメル参照電極に対し電解電位−1.2V〜−3.0Vで電気分解することで陰極上に銅ナノ構造体を析出させることを特徴とする、銅ナノ構造体の製造方法。
【請求項2】
前記電解電位が−1.5V〜−2.5Vであることを特徴とする、請求項1に記載の銅ナノ構造体の製造方法。
【請求項3】
前記銅アンミン錯体水溶液中の銅アンミン錯体の濃度は、1mM〜300mMであることを特徴とする、請求項1または2に記載の銅ナノ構造体の製造方法。
【請求項4】
前記銅アンミン錯体水溶液は、[Cu(NH34]SO4または[Cu(NH34](NO32を、水、アンモニア水または塩化アンモニウム水溶液に溶解してなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅ナノ構造体の製造方法。
【請求項5】
前記銅アンミン錯体水溶液は、銅イオン供給物質とアンモニウムイオン供給物質から調製されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅ナノ構造体の製造方法。
【請求項6】
対向する一対の電極と、前記一対の電極間に充填される電解液とを少なくとも含むキャパシタであって、前記一対の電極の少なくとも一方に請求項1〜5のいずれか1項の製造方法により製造された銅ナノ構造体を含むキャパシタ。

【図43】
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【図44】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【公開番号】特開2011−195865(P2011−195865A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62120(P2010−62120)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】