銅メッキポリマー及びその製造方法
【課題】ポリマー基材の原料及び形状に制限がなく、該ポリマー基材の表面に対して密着性の高い安定なメッキを形成することができ、かつ導電性に優れる銅メッキポリマー及びその製造方法の提供。
【解決手段】ポリマー基材に対しヨウ素をドープしてポリマーヨウ素複合体を調製するポリマーヨウ素複合体調製工程と、前記ポリマーヨウ素複合体に対し金属種をドープして前記ポリマー基材の内部及び外部に金属粒子を析出させた金属種担持ポリマーを調製する金属種担持ポリマー調製工程と、前記金属種担持ポリマーを銅メッキする銅メッキ工程と、を含むことを特徴とする銅メッキポリマーの製造方法である。
【解決手段】ポリマー基材に対しヨウ素をドープしてポリマーヨウ素複合体を調製するポリマーヨウ素複合体調製工程と、前記ポリマーヨウ素複合体に対し金属種をドープして前記ポリマー基材の内部及び外部に金属粒子を析出させた金属種担持ポリマーを調製する金属種担持ポリマー調製工程と、前記金属種担持ポリマーを銅メッキする銅メッキ工程と、を含むことを特徴とする銅メッキポリマーの製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅メッキポリマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や無機塩をポリマー基材に含有させることにより様々な機能を持たせたポリマー系複合材料(ハイブリッド素材)が注目され、広く研究されている。
該ポリマー系複合材料の製造方法としては、例えば、フィルム等の成形体に対し、化学的無電解メッキ、真空蒸着、スパッタリング等により成形体表層部に金属層を形成する方法が知られており、導電性材料などとして実用化されている。
しかし、これらの方法では、形成された表面の金属層が機械的な摩擦等により脱落して機能低下を生じるという問題や、均一な金属層を形成するために被処理基材の形状や面状が制限されるという問題がある。
【0003】
一方、ポリマー基材中に金属を分布させてなる高分子複合材料としては、例えば、原料のポリマー中に金属塩などを含有させた後、加熱処理により金属塩を還元することによってポリマー原料中に超微粒子を作製し、この原料を用いて繊維や成形体を製造する方法(例えば、特許文献1参照)や、固体高分子化合物をガラス転移温度以上において、重金属化合物の蒸気に接触させ内部に金属クラスターを形成する方法(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。
しかし、これらの方法では、成形加工工程等における熱履歴により金属の分散状態の不均一化や金属の変性を生じることがあるという問題があり、更に、溶融することのできない原料や耐熱性の低い原料には適用できないという問題がある。
【0004】
これらの問題に対して、ポリマー基材に対しヨウ素をドープしてポリヨウ素コンプレックスを調製し、前記ポリヨウ素コンプレックスに対し銀イオンをドープして銀ヨウ化物コンポジットを調製し、前記ポリマー基材の内部に銀粒子を析出させるポリマー−金属複合体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献3及び非特許文献1参照)。この方法によれば、被処理基材の形状に制限がなく、前記被処理基材内部に溶融等の極めて高い温度での処理を行うことなく銀イオンを深部にまで拡散させ、銀粒子を均一に析出させることができる。
しかし、この方法で製造されたポリマー−金属複合体は、銀が析出することによってある程度の導電性が付与されるものの、銀の性質上、その後の曝気によって酸化物や硫化物が形成されやすいという問題や、析出した銀原子そのものがイオンレベルで拡散(マイグレーション)しやすいことなどの理由から安定性が悪く、更にポリマー基材の表面に析出した銀は、いわゆるメッキのような強固なものではなく、銀が担持されている程度であり、またポリマー基材の表面に均一に配されているものでもなくその析出にムラがあるため、その導電性も十分なものではないという問題がある。
【0005】
したがって、ポリマー基材の原料及び形状に制限がなく、該ポリマー基材の表面に対する密着性が高く安定にメッキ被覆層を形成することができ、導電性に優れる銅メッキポリマー及びその製造方法は、未だ提供されておらず、その提供が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−287355号公報
【特許文献2】特開2000−256489号公報
【特許文献3】国際公開第2007/086392号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Takuya Tetsumoto, Yasuo Gotoh, SEN’I GAKKAISHI(報文), 2010, Vol.66, No.9, p.222−227
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、ポリマー基材の原料及び形状に制限がなく、該ポリマー基材の表面に対して密着性の高い安定なメッキを形成することができ、かつ導電性に優れる銅メッキポリマー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> ポリマー基材に対しヨウ素をドープしてポリマーヨウ素複合体を調製するポリマーヨウ素複合体調製工程と、
前記ポリマーヨウ素複合体に対し金属種をドープして前記ポリマー基材の内部及び外部に金属粒子を析出させた金属種担持ポリマーを調製する金属種担持ポリマー調製工程と、
前記金属種担持ポリマーを銅メッキする銅メッキ工程と、
を含むことを特徴とする銅メッキポリマーの製造方法である。
<2> ポリマー基材が、アクリル樹脂及びポリエステル樹脂から選択される少なくとも1種である前記<1>に記載の銅メッキポリマーの製造方法である。
<3> ポリマーヨウ素複合体調製工程が、ポリマー基材を、ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬することにより行われる前記<1>から<2>のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法である。
<4> 金属種担持ポリマー調製工程が、ポリマーヨウ素複合体を、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属酢酸塩、金属炭酸塩、金属塩化物塩、金属臭化物塩、及び金属ヨウ化物、並びにこれらの配位化合物の少なくともいずれかを含む金属塩溶液中に浸漬することにより行われる前記<1>から<3>のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法である。
<5> 金属種担持ポリマー調製工程が、ポリマーヨウ素複合体を、金属イオン及び金属錯体の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬することにより行われる前記<4>に記載の銅メッキポリマーの製造方法である。
<6> 金属種担持ポリマー調製工程が、ポリマーヨウ素複合体を、銀イオン、パラジウムイオン、及び銀アンモニア錯体の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬することにより行われる前記<5>に記載の銅メッキポリマーの製造方法である。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法により製造されたことを特徴とする銅メッキポリマーである。
<8> 表面抵抗値が、20Ω以下である前記<7>に記載の銅メッキポリマーである。
<9> 抗菌素材、建材、被服素材、導電性素材、電磁波遮蔽素材、ガス吸収素材、ガス吸蔵素材、触媒素材、及び金属微粒子形成用鋳型素材のいずれかに用いられる前記<7>から<8>のいずれかに記載の銅メッキポリマーである。
【0010】
<10> ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液が、ヨウ素−ヨウ化カリウム溶液及びヨウ素−ヨウ化アンモニウム溶液の少なくともいずれかである前記<3>から<6>のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法である。
<11> 金属塩溶液中の溶媒が、水及びエタノールの少なくともいずれかである前記<4>から<6>及び<10>のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、ポリマー基材の原料及び形状に制限がなく、該ポリマー基材の表面に対して密着性の高い安定なメッキを形成することができ、かつ導電性に優れる銅メッキポリマー及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1Aは、実施例1の銅メッキアクリル樹脂微粒子の外観の一例を示す図である。
【図1B】図1Bは、実施例1の銅メッキアクリル樹脂微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した表面形状の一例を示す図である。
【図2A】図2Aは、実施例2の銅メッキアクリル樹脂微粒子の外観の一例を示す図である。
【図2B】図2Bは、実施例2の銅メッキアクリル樹脂微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した表面形状の一例を示す図である。
【図3A】図3Aは、比較例1の銀担持アクリル樹脂微粒子の外観の一例を示す図である。
【図3B】図3Bは、比較例1の銀担持アクリル樹脂微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した表面形状の一例を示す図である。
【図4A】図4Aは、比較例2の金属種担持ポリマー調製工程におけるパラジウム担持アクリル樹脂微粒子の外観の一例を示す図である。
【図4B】図4Bは、比較例2の金属種担持ポリマー調製工程におけるパラジウム担持アクリル樹脂微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した表面形状の一例を示す図である。
【図4C】図4Cは、比較例2の銀担持アクリル樹脂微粒子の外観の一例を示す図である。
【図4D】図4Dは、比較例2の銀担持アクリル樹脂微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した表面形状の一例を示す図である。
【図5】図5は、比較例3の銅メッキ工程におけるアクリル樹脂微粒子の外観の一例を示す図である。図5(a)は、無電解銅メッキ水溶液混合前のアクリル樹脂微粒子の外観を示し、図5(b)は、無電解銅メッキ水溶液混合後のアクリル樹脂微粒子の外観を示す。
【図6】図6は、実施例3及び5のPETヨウ素複合体の外観の一例を示す図である。
【図7A】図7Aは、実施例4の銀担持PETフィルムの外観の一例を示す図である。
【図7B】図7Bは、実施例9の銀担持PETフィルムの外観の一例を示す図である。
【図8】図8は、実施例3〜12及び比較例4の銅メッキPETフィルムの外観の一例を示す図である。
【図9】図9は、実施例13〜15の銅メッキPETフィルムの外観の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(銅メッキポリマー及びその製造方法)
本発明の銅メッキポリマーの製造方法は、ポリマーヨウ素複合体調製工程と、金属種担持ポリマー調製工程と、銅メッキ工程と、を少なくとも含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
本発明の銅メッキポリマーは、本発明の前記銅メッキポリマーの製造方法により製造される。
以下に、本発明の前記銅メッキポリマーの製造方法の説明と併せて、本発明の前記銅メッキポリマーについて詳細に説明する。
【0014】
<ポリマーヨウ素複合体調製工程>
前記ポリマーヨウ素複合体調製工程は、前記ポリマー基材に対し、ヨウ素をドープ(添加)してポリマーヨウ素複合体を調製する工程である。
ポリマーヨウ素複合体調製工程を経ることにより、後述する金属種担持ポリマー調製工程における金属種が効率よく担持され、結果として銅メッキの密着性が高まるため導電性に優れる銅メッキポリマーが得られる点で有利である。
【0015】
−ポリマーヨウ素複合体−
前記ポリマーヨウ素複合体とは、前記ポリマー基材にヨウ素が分散及び/又は吸着し、包含されてなるものである。
例えば、前記ポリマー基材の分子鎖間の水素結合によりヨウ素が包接されてなる構造を有するもの、分子鎖又は側鎖上のアミド基などを配位座としてヨウ素が配位した構造を有するもの、結晶など分子鎖の凝集によって分子鎖間に配位座が形成されるもの、単分子鎖であっても分子鎖上の極性基の配列やらせん構造のピッチ変化によって配位座が形成されるものなどが挙げられる。
【0016】
前記ポリマーヨウ素複合体調製工程において、ポリマーヨウ素複合体が形成されたことは、例えば、ラマン分光法、X線回折法、赤外分光法、吸光光度法等の測定法により確認できる。
【0017】
−ポリマー基材−
前記ポリマー基材の原料としては、ヨウ素を包含可能な原料である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、セルロース、タンパク質、核酸などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において、前記ヨウ素を包含可能な原料とは、前記ヨウ素がポリマー基材の内部まで拡散し、かつ分子内に吸着又は非共有結合で会合した構造をとり得る高分子化合物を意味する。
【0018】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂などが挙げられる。
【0019】
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、架橋アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニル重合体、ケイ素樹脂などが挙げられる。
前記セルロースとしては、例えば、植物由来セルロースなどが挙げられ、該植物由来セルロースとしては、綿、木質パルプ、レンコン繊維、竹繊維、ケナフ、寒天ゲルなどが挙げられる。
前記タンパク質としては、例えば、動植物由来タンパク質などが挙げられ、該動植物由来タンパク質としては、蚕糸、羊毛、ゼラチンゲルなどが挙げられる。
前記核酸としては、例えば、DNA、RNAなどが挙げられる。
【0020】
これらの中でも、前記ポリマー基材の原料としては、熱可塑性樹脂が好ましく、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂がより好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が特に好ましい。
前記ポリマー基材は、市販品を用いてもよく、適宜公知の方法で製造したものを用いてもよい。
【0021】
前記ポリマー基材は、前記原料そのものであってもよく、前記原料を成形加工してなる成形体であってもよい。
前記成形体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルム、繊維、粉末、ペレット、不織布、多孔質体、織布、高分子ブレンド、共重合体、ゲルなどが挙げられる。
前記フィルムとしては、例えば、表面に凹凸を有するエンボスフィルムや、多孔質フィルムであってもよい。
前記繊維としては、中空糸、多孔化繊維等の特殊加工繊維や、らせん状等の特殊形状の繊維であってもよい。
【0022】
前記ポリマー基材の性質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、親水性基及び極性基のいずれかを有することが、前記ポリマー基材へのヨウ素のドープ量を高めることができる点で好ましい。
ただし、前記ポリマー基材が、親水性基及び極性基のいずれかを有さない場合は、アルカリ溶液でポリマー基材粒子表面部を部分的に加水分解することが、ポリマー基材にヨウ素親和性を付与し、ヨウ素のドープ量を高めることができる点で好ましい。また、有機溶媒を混合した溶媒を使用し、その混合比を調整することによってヨウ素のドープ量を高めることもできる。
【0023】
前記アルカリ溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、アンモニア水、炭酸水素ナトリウム水溶液などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において、前記ポリマー基材は、前記アルカリ溶液で、部分的に加水分解したものも含まれる。
【0024】
前記ポリマー基材は、前記銅メッキポリマーの用途などに応じて、適宜その他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス、セラミックス、無機塩類等の無機化合物、ゴム等の有機材料、顔料などが挙げられる。
【0025】
−ヨウ素のドープ−
前記ポリマーヨウ素複合体調製工程においてヨウ素をドープする方法としては、前記ポリマー基材がポリマーヨウ素複合体を形成できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ポリマー基材を、ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬する方法、ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液を噴霧する方法、ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む蒸気に長時間曝露する方法、ヨウ素単体と混合して溶融及び/又は成型する方法などが挙げられる。前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかは、イオンの状態でドープされてもよい。
これらの中でも、ヨウ素をドープする方法としては、前記ポリマー基材をポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬する方法が好ましい。
【0026】
前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヨウ素−ヨウ化カリウム溶液、ヨウ素−ヨウ化アンモニウム溶液、ヨウ素−ヨウ化リチウム溶液、その他金属イオンのヨウ化物溶液にヨウ素単体を溶解させた溶液、又はヨウ素単体を溶質とする有機溶媒等が挙げられる。
これらの中でも、前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液としては、ヨウ素−ヨウ化カリウム溶液、ヨウ素−ヨウ化アンモニウム溶液等の1価の陽イオンのヨウ化物溶液にヨウ素単体を溶解させた溶液が好ましい。
【0027】
前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液における溶媒の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒、水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水、エタノール、又はこれらの混合溶媒が好ましい。
【0028】
前記ポリマー基材が極性の強いものである場合は、水と有機溶媒との混合溶媒が該ポリマー基材にヨウ素がドープされやすくなる点でより好ましい。
前記ポリマー基材が非極性のものである場合に、前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液が有機溶媒を多く含むと、前記ポリマー基材へのヨウ素の拡散は進むものの、極性を有するイオンが存在しないために、該ポリマー基材中にヨウ素が固定化されにくく、ヨウ素が再放出されやすくなると推察される。そのため、前記ポリマー基材が非極性である場合は、水を多く含む溶媒を用いることが好ましい。
【0029】
前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液における溶媒が、水及びエタノールの混合溶媒である場合、水とエタノールとの混合比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水:エタノール(V/V)が、9:1〜1:9が好ましく、7:3〜3:7がより好ましい。
【0030】
前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液中の前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかの濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01N〜10Nが好ましく、0.1N〜5Nがより好ましく、0.2N〜3Nが特に好ましい。前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかの濃度が、0.01N未満であると、ヨウ素のポリマー基材への侵入深さが不十分であることや、ヨウ素をドープ後に揮発などを通じてヨウ素の脱離などが生じやすくなったりすることがあり、10Nを超えると、高分子鎖の分解や化学基としての付加反応が生じることがある。
【0031】
前記ヨウ素をドープする際の温度としては、特に制限はなく、用いるポリマー基材の種類などに応じて適宜選択することができるが、0℃〜90℃が好ましく、5℃〜80℃がより好ましい。
【0032】
前記ヨウ素をドープする際の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0033】
<金属種担持ポリマー調製工程>
前記金属種担持ポリマー調製工程は、前記ポリマーヨウ素複合体に対し、金属種をドープして前記ポリマー基材の内部及び外部に無機化合物粒子(例えば、金属粒子又は金属塩粒子)を析出させた金属種担持ポリマーを調製する工程である。
前記ポリマー基材に無機化合物粒子が析出されると、析出された金属種がいわゆる触媒のように機能することで後述する銅メッキ工程における銅メッキの形成効率が向上する。
【0034】
−金属種担持ポリマー−
前記金属種担持ポリマーとは、前記ポリマー基材の内部及び外部に無機化合物粒子が析出したものである。前記ポリマーヨウ素複合体中に金属種をドープすると、前記ポリマーヨウ素複合体の構成要素であるヨウ素及びポリヨウ素の少なくともいずれかから分離したヨウ素イオンと、前記金属種とが反応して金属ヨウ化物を形成する(以下、「金属ヨウ化物コンポジット」と称することがある)。この金属ヨウ化物コンポジットから、更にヨウ素イオンの放出(揮発乃至酸化)が進行すると、前記金属ヨウ化物が分解されることにより前記ポリマー基材の内部及び外部に金属粒子が析出する。
【0035】
前記金属ヨウ化物は、通常、室温におけるイオン伝導性が極めて低く、高温条件下(例えば、ヨウ化銀の場合、約150℃以上)でなければイオン伝導が誘起されることはないが、前記金属ヨウ化物コンポジットを形成した場合は、転移点まで昇温することなく、室温においても比較的容易にイオンの伝導や拡散が生じる。このため、前記金属ヨウ化物コンポジットは、例えば、室温条件下(例えば、5℃〜30℃)でヨウ素イオンが放出され、前記金属粒子が析出する点で有利である。
【0036】
前記金属粒子が内部及び外部に析出していることは、例えば、断面の顕微鏡観察等により観察することができ、金属粒子の存在は、例えば、広角X線回折(WAXD)を用い、金属粒子(単体金属)からの反射を検出することにより確認することができる。
【0037】
なお、前記金属ヨウ化物コンポジットは、同一の金属塩を同一のポリマーヨウ素複合体にドープした場合においても、前記ポリマーヨウ素複合体調製工程及び後述する金属種担持ポリマー調製工程における条件、例えば、ヨウ素のドープ量、金属種のドープ量、処理時間、温度履歴、ポリマー基材の種類、サイズ及び形状などに応じて、外観や特性が異なるものが得られることがある。
【0038】
−金属種−
前記金属種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、銀、白金、金、鉄、水銀、コバルト、カドミウム、タングステン、チタン、鉛、ビスマス、クロム、ニッケル、亜鉛、モリブデン、マンガン、パラジウム、スズなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記金属種は、銀、パラジウムが好ましい。
【0039】
−金属種の担持−
前記金属種担持ポリマー調製工程において前記金属種を担持させる方法としては、前記ポリマー基材の内部及び外部に無機化合物粒子を析出できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ポリマーヨウ素複合体を、前記金属種を含む溶液に浸漬する方法、前記金属種を含む溶液を噴霧する方法などが挙げられる。これらの中でも、前記ポリマーヨウ素複合体を、金属種を含む溶液中に浸漬する方法が好ましい。
前記金属種担持ポリマー調製工程が2種以上の金属種を用いて行われる場合は、2種以上の金属種を同時に用いて1回の処理で行われてもよく、一の金属種を含む溶液を用いて処理した後に該一の金属種を含む溶液に他の金属種を後から添加してもよく、また、一の金属種で処理した後に他の金属種で処理してもよい。
【0040】
前記金属種を含む溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、金属塩溶液が好ましい。
前記金属塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属酢酸塩、金属炭酸塩、金属塩化物塩、金属臭化物塩、金属ヨウ化物、又はこれらの配位化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、沈殿を生じないものが好ましく、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属ヨウ化物がより好ましい。
【0041】
前記ポリマーヨウ素複合体は、前記金属塩溶液中で、金属イオン又は金属錯体の状態で金属種がドープされることが好ましい。前記金属イオン又は金属錯体としては、銀イオン、パラジウムイオン、銀アンモニア錯体(雷銀ともいう)の少なくともいずれかが好ましく、パラジウムイオン、銀アンモニア錯体の少なくともいずれかが特に好ましい。
前記金属イオンが、パラジウムイオンであると、前記基材ポリマーと銅メッキとの密着性が向上する点で有利である。また、前記金属錯体が、銀アンモニア錯体であると、ポリマー基材がアクリル樹脂等の内部に金属種が拡散されやすい材質を用いた場合であっても、該ポリマー基材の外部に金属粒子が析出されやすくなり、前記銅メッキポリマーの導電性が向上する点で有利である。
【0042】
前記金属種を含む溶液における溶媒の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒、水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水、エタノール、又はこれらの混合溶媒が好ましい。
【0043】
前記金属種を含む溶液における溶媒が、水及びエタノールの混合溶液である場合、水とエタノールとの混合比(V/V)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水:エタノールが、1:4〜99:1が好ましく、1:2〜9:1がより好ましい。
【0044】
前記金属種を含む溶液中の前記金属種の濃度としては、特に制限はなく、該金属種の種類などに応じて適宜選択することができるが、0.01mol/L〜10mol/Lが好ましく、0.1mol/L〜1mol/Lがより好ましい。前記金属種の濃度が、0.01mol/L未満であると、前記ポリマー基材の内部への金属種の拡散に長い時間を要することや、金属塩の析出によって更なるイオンの金属種の内部への拡散が妨げられることなどがあり、10mol/Lを超えると、前記ポリマー基材の内部に析出した金属塩が錯イオンとして再溶出することや、析出物の急成長による凹凸が生じることがある。
【0045】
前記金属種を担持させる際の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0℃〜90℃が好ましく、30℃〜60℃がより好ましい。
【0046】
前記金属種を担持させる際の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0047】
<銅メッキ工程>
前記銅メッキ工程は、前記金属種担持ポリマー調製工程で得られた金属種担持ポリマーを銅メッキする工程である。
ポリマー基材に直接銅メッキすることは困難であるが、本発明においては、前記金属種担持ポリマー調製工程においてポリマー基材に金属種が担持されているため、ポリマー基材に均一かつ適度な厚みを有する銅メッキを形成することができる。これにより非常に電気抵抗の低い導電性を有し、かつ酸化防止効果や、長時間の導通により金属イオン(例えば、銅イオン)が移動し絶縁が必要な部分にまで汚染して絶縁不良を起こす、いわゆるマイグレーションの防止効果を奏することができる点で有利である。また、本発明における銅メッキポリマーは、ポリマー基材に対する密着性が高いため耐久性に優れる点でも有利である。
【0048】
前記銅メッキ工程に用いられる銅メッキ剤としては、銅メッキを施すことができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、市販品を用いてもよい。
前記銅メッキ可能な市販品の具体例としては、商品名で、スルカップPSY(上村工業株式会社製)などが挙げられる。
【0049】
前記金属種担持ポリマーに銅メッキを施す方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記金属種担持ポリマーを、前記銅メッキ剤を含む溶液に浸漬する方法、前記銅メッキ剤を含む溶液を噴霧する方法、前記銅メッキ剤の蒸気に長時間曝露する方法などが挙げられる。これらの中でも、前記金属種担持ポリマーを前記銅メッキ剤を含む溶液に浸漬する方法が好ましい。
【0050】
前記銅メッキ剤を含む溶液における溶媒の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒、水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水、エタノール、又はこれらの混合溶媒が好ましい。
【0051】
前記銅メッキ剤を含む溶液の前記銅メッキ剤の濃度としては、銅メッキすることができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0052】
前記銅メッキを施す際の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5℃〜80℃が好ましく、20℃〜60℃がより好ましく、25℃〜30℃が特に好ましい。
【0053】
前記銅メッキを施す際の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1時間〜120時間が好ましく、銅メッキの均一性と生産性とを考慮すると、1時間〜24時間がより好ましい。
【0054】
前記銅メッキの厚みとしては、特に制限はなく、銅メッキポリマーの用途などに応じて適宜選択することができる。
一般的なメッキの厚みとしては、1nm〜100nm程度であり、本発明においてもこの厚みを適用することができる。前記銅メッキの厚みが、1nm未満であると、銅メッキが欠如する部分が発生することがあり、十分な導電性が得られないことがあり、100nmを超えると、銅メッキの強度が強くなりすぎ、大きく割れたり、剥がれやすくなることがある。
【0055】
前記銅メッキの厚みは、例えば、可視光、X線、中性子線等を用いた反射率や透過率などにより測定することができる。
【0056】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、公知の工程から適宜選択することができる。
前記ポリマーヨウ素複合体調製工程の後に1次洗浄工程を、前記金属種担持ポリマー調製工程の後に2次洗浄工程を行うことが好ましい。
ポリマー基材が成形体である場合は、例えば、表面処理工程、端面処理工程などが挙げられる。前記ポリマー基材が原料である場合は、例えば、成形工程、結晶化度制御工程、分子量制御工程、ブレンドによる異性化工程、架橋反応による粘性制御工程、紡糸工程、一軸又は二軸の延伸処理工程、熱処理工程、溶媒等による膨潤処理工程などが挙げられる。
【0057】
−1次洗浄工程−
前記1次洗浄工程は、前記ポリマーヨウ素複合体調製工程の後、該ポリマーヨウ素複合体を洗浄する工程である。これによりポリマーヨウ素複合体調製工程を停止させることができる。また洗浄時間を調整することにより、前記ポリマーヨウ素複合体表面のヨウ素及びポリヨウ素の少なくともいずれかの濃度を調整することができる。
前記洗浄に用いる洗浄溶液は、前記ヨウ素を含まない溶液であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0058】
前記ポリマー基材の内部に残存した未反応のヨウ素成分は、前記金属種担持ポリマー調製又は還元工程後に析出した金属あるいは前記銅メッキ工程後の銅メッキ被覆層に影響を及ぼす可能性があるが、未反応ヨウ素成分は、アセトン等の有機溶媒を用いた洗浄あるいは高温熱処理によってポリマー粒子内部から除去することが可能である。
なお、熱処理においては、減圧下で行う方が、より低温で効率よくヨウ素を揮発させることができるため効果的である。
【0059】
−2次洗浄工程−
前記2次洗浄工程は、前記金属種担持ポリマー調製の後、該金属種担持ポリマーを洗浄する工程である。これにより金属種担持ポリマー調製工程を停止させることができる。また洗浄時間を調整することにより、前記ポリマー基材表面の金属種の濃度を調整することができる。
前記洗浄に用いる洗浄溶液は、前記ヨウ素や前記金属種を含まない溶液であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0060】
(銅メッキポリマー)
本発明の銅メッキポリマーの製造方法により得られた本発明の銅メッキポリマーは、前記ポリマー基材の内部には前記金属粒子が析出し、外部が銅メッキされてなる。
【0061】
本発明において、銅メッキポリマーの導電性は、抵抗値が低いものを導電性が高いものとする。
前記銅メッキ被覆ポリマーの表面抵抗値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50Ω以下が好ましく、25Ω以下がより好ましく、20Ω以下が更に好ましく、20Ω未満が特に好ましい。
前記抵抗値は、例えば、デジタルマルチメータ(商品名:R6441A、ADVANTEST社製)を用いて2端子法で測定することができる。また、特開2010−238419号公報に記載の導電圧縮試験を用いて測定することもできる。
【0062】
前記銅メッキポリマーにおける銅メッキの密着性は、金属尖端、綿棒、紙、粘着テープ等を用いた剥離法、折り曲げや圧縮等の機械的負荷条件下での顕微鏡観察などにより評価することができる。
【0063】
前記銅メッキポリマーは、その用途に応じ、適宜その他の成分を含有していてもよい。
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス、セラミックス、無機塩類等の無機化合物、親水性やヨウ素親和性の異なる異種高分子、ゴム等の有機材料、及び顔料、染料等の着色剤などが挙げられる。
【0064】
<用途>
前記銅メッキポリマーは、前記ポリマー基材の原料や成形体の種類などに応じ、各種機能性材料として用いることができ、例えば、抗菌素材、建材、被服素材、導電性素材、電磁波遮蔽素材、ガス吸収素材、ガス吸蔵素材、触媒素材、及び金属微粒子形成用鋳型素材等として用いることができる。
具体的には、各種サニタリー用品、ペット用品、容器、包装材、文具、建築内装材、建築外装材、車両等の部材や内外装材、服飾製品、電子機器、電気機器、電池、半導体、高透過度の光学偏光材料、環境応答センサー、フィルム状導線、及び多孔質状の触媒フィルター、特定の気体分子の吸着剤、並びにこれらの原料として用いることができる。
これらの中でも、前記銅メッキポリマーは、基材ポリマーに対する銅メッキの密着性、導電性に優れることから、導電性素材として好適に用いられ、導電スペーサ、ACF用導電材料、電子ペーパー用導通材、ハンダボールなどに特に好適に用いられる。
【実施例】
【0065】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
−ポリマーヨウ素複合体調製工程−
ポリマー基材として、アクリル樹脂微粒子(商品名:ハヤビーズM−11N、早川ゴム株式会社製)(粒子形状:球状)を用いた。このアクリル樹脂微粒子のうち、大きな凝集体については、予め解砕した。
室温(20±5℃)条件下で、0.01Nヨウ素−ヨウ化アンモニウム−エタノール水溶液(0.005mol/Lヨウ素、0.85mol/Lヨウ化アンモニウム、15容量%エタノールを含む水溶液)58.8mLに、アクリル樹脂微粒子4.62gを投入し、ヨウ素−ヨウ化アンモニウム−エタノール水溶液中にアクリル樹脂微粒子を30分間浸漬し、アクリル樹脂微粒子にヨウ素をドープしたアクリル樹脂微粒子ヨウ素複合体を得た。
【0067】
−金属種担持ポリマー調製工程−
ポリマーヨウ素複合体調製工程で得られたアクリル樹脂微粒子ヨウ素複合体を吸引濾過した後、50容量%エタノール水溶液で洗浄した。次いで、アクリル樹脂微粒子ヨウ素複合体50.6gを硝酸銀−エタノール水溶液(0.1mol/L硝酸銀、50容量%エタノールを含む水溶液)10mLに投入し、室温(25±5℃)にて30分間浸漬した(1段目)。
次いで、硝酸銀−エタノール水溶液中に雷銀(銀アンモニア錯体)−エタノール水溶液(0.25mol/L硝酸銀、1.2mol/Lアンモニア、50容量%エタノールを含む水溶液)10mLを添加し、室温(25±5℃)にて更に30分間浸漬した(2段目)。
これにより、アクリル樹脂微粒子ヨウ素複合体の内部や表面近傍に金属種(銀)を析出させた銀担持アクリル樹脂微粒子を得た。
【0068】
−銅メッキ工程−
金属種担持ポリマー調製工程で得られた銀担持アクリル樹脂微粒子を吸引濾過した後、50容量%エタノール水溶液で洗浄した。次いで、無電解銅メッキ水溶液(商品名:スルカップPSY、上村工業株式会社製)でメーカーのプロトコルに従って銅メッキした。これにより銅メッキアクリル樹脂微粒子を得た。
【0069】
(実施例2)
実施例1において、金属種担持ポリマー調製工程を下記に示す方法で行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で、銅メッキアクリル樹脂微粒子を得た。
【0070】
−金属種担持ポリマー調製工程−
ポリマーヨウ素複合体調製工程で得られたアクリル樹脂微粒子ヨウ素複合体を吸引濾過した後、50容量%エタノール水溶液で洗浄した。次いで、アクリル樹脂微粒子ヨウ素複合体42.7gを酢酸パラジウム−エタノール水溶液(0.001mol/L酢酸パラジウム、50容量%エタノールを含む水溶液)30mLに投入し、室温(25±5℃)にて30分間浸漬した(1段目)。これにより、アクリル樹脂微粒子ヨウ素複合体の内部や表面近傍に金属種(パラジウム)を析出させたパラジウム担持アクリル樹脂微粒子を得た。
次いで、パラジウム担持アクリル樹脂微粒子を、硝酸銀−エタノール水溶液(0.1mol/L硝酸銀、50容量%エタノールを含む水溶液)10mLに投入し、室温(25±5℃)で30分間浸漬した。これにより、更に金属種(銀)を担持させた銀担持アクリル樹脂微粒子を得た。
【0071】
(比較例1)
実施例1において、銅メッキ工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で銀担持アクリル樹脂微粒子を得た。
【0072】
(比較例2)
実施例2において、銅メッキ工程を行わなかったこと以外は、実施例2と同様の方法でパラジウム担持アクリル樹脂微粒子を得た。
【0073】
(比較例3)
実施例1において、金属種担持ポリマー調製工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0074】
<外観の評価>
実施例1〜2の銅メッキアクリル樹脂微粒子、比較例1の銀担持アクリル樹脂微粒子、比較例2のパラジウム担持アクリル樹脂微粒子及び銀担持アクリル樹脂微粒子、及び比較例3のアクリル樹脂微粒子の外観を観察した。結果を図1A(実施例1)、図2A(実施例2)、図3A(比較例1)、図4A(比較例2)、図4C(比較例2)、図5(比較例3)に示す。
【0075】
<表面形状の評価>
実施例1〜2の銅メッキアクリル樹脂微粒子、比較例1の銀担持アクリル樹脂微粒子、比較例2のパラジウム担持アクリル樹脂微粒子及び銀担持アクリル樹脂微粒子の表面形状を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。結果を図1B(実施例1)、図2B(実施例2)、図3B(比較例1)、図4B(比較例2)、及び図4D(比較例2)に示す。
【0076】
<導電性の評価>
実施例1〜2の銅メッキアクリル樹脂微粒子、並びに比較例1及び2の銀担持アクリル樹脂微粒子、及び比較例3のアクリル樹脂微粒子の抵抗値をデジタルマルチメータ(商品名:R6441A、ADVANTEST社製)を用いて2端子法で測定た。結果を下記表1に示す。
【0077】
<銅メッキ被覆ポリマーの密着性の評価>
実施例1〜2の銅メッキアクリル樹脂微粒子、並びに比較例1及び2の銀担持アクリル樹脂微粒子における、銅メッキ又は担持させた銀の密着性は、機械的な堅牢性により評価した。即ち、微小圧縮試験機(MCT−W200J、株式会社島津製作所製)を用い、粒子を直径50μmのダイアモンド製円錐からなる平滑圧子端面で、圧縮速度2.2mN/秒間、最大試験荷重10gの条件下で、1個のアクリル樹脂球の圧縮を行った。その後、銅メッキ又は銀の剥離を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、下記評価基準に基づいて行った。結果を下記表1に示す。なお、比較例3は、銅メッキを形成することができなかったため、密着性を評価することができなかった。
【0078】
【表1】
なお、表1の「評価」において、「−」は、評価することができなかったことを示す。
【0079】
実施例1の銅メッキアクリル樹脂微粒子の外観を観察した結果を図1Aに、表面形状を観察した結果を図1Bに示す。実施例2の銅メッキアクリル樹脂微粒子の外観を観察した結果を図2Aに、表面形状を観察した結果を図2Bに示す。比較例1の銀担持アクリル樹脂微粒子の外観を観察した結果を図3Aに、表面形状を観察した結果を図3Bに示す。比較例2のパラジウム担持アクリル樹脂微粒子の外観を観察した結果を図4Aに、このときの表面形状を観察した結果を図4Bに示す。また、比較例2の銀担持アクリル樹脂微粒子の外観を観察した結果を図4Cに、このときの表面形状を観察した結果を図4Dに示す。比較例3のアクリル樹脂微粒子を図5(a)に、該アクリル樹脂微粒子を無電解銅メッキ水溶液と混合した後の外観を図5(b)に示す。
【0080】
図1B、図2B、及び表1の結果より、実施例1及び2は、いずれも密着性の高い銅メッキが形成され、これにより良好な導電性が得られることがわかった。また、実施例1と実施例2とを比較すると、実施例2の方が、銅メッキの密着性が高く、均一で滑らかな銅メッキが形成されていた。
一方、図3B及び表1の結果より、比較例1の銀担持アクリル樹脂微粒子の表面の滑らかさは、実施例1(図1B)と同程度であったが、密着性及び導電性は劣る結果であった。また、図4D及び表1の結果より、比較例2の銀担持アクリル樹脂微粒子は、表面が均一で滑らかであったが、密着性及び導電性は劣る結果であった。
また、比較例3は、アクリル樹脂微粒子にヨウ素がドープされているため、無電解銅メッキ水溶液中にかろうじて分散したが(図5(b))、アクリル樹脂ヨウ素複合体自体や無電解銅メッキ水溶液において、変色や発泡等の変化が認められず、銅メッキは形成されなかった。
【0081】
比較例1及び2は、アクリル樹脂微粒子表面への銀の析出によってある程度金属の導電層が形成されるが、銀の性質上、その後の曝気によって酸化物や硫化物が形成されやすいこと、また、析出した銀原子そのものがイオンレベルで拡散(マイグレーション)しやすいことなどの理由から、ミクロンサイズの球状微粒子の表面導電層としては、安定性が低かった。
これに対し、銅メッキした実施例1及び2は、安定性が高く、高い導電性を得ることができることがわかった。
【0082】
(実施例3)
−ポリマーヨウ素複合体調製工程−
ポリマー基材として厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名:テトロン S−75、帝人デュポンフィルム株式会社製)を用いた。
3Nヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液(1.5mol/Lヨウ素、4.5mol/Lヨウ化カリウムを含む水溶液)にPETフィルムを投入し、75℃に昇温させ、75℃に保ったままヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液中にPETフィルムを2週間浸漬し、ヨウ素をドープしたPETヨウ素複合体を得た。
【0083】
−金属種担持ポリマー調製工程−
ポリマーヨウ素複合体調製工程で得られたPETヨウ素複合体を処理溶液(ヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液)から取り出した後、純水で洗浄した。次いで、PETヨウ素複合体を2M硝酸銀水溶液に投入し、室温(25±5℃)にて6日間浸漬した(1段目)。
これにより、PETヨウ素複合体の内部や表面近傍に金属種(銀)を析出させた銀担持PETフィルムを得た。
【0084】
−銅メッキ工程−
金属種担持ポリマー調製工程で得られた銀担持PETフィルムを処理溶液(硝酸銀水溶液)から取り出した後、純水で洗浄した。次いで、無電解銅メッキ水溶液(商品名:スルカップPSY、上村工業株式会社製)でメーカーのプロトコルに従って銅メッキした。これにより銅メッキPETフィルムを得た。
【0085】
(実施例4)
実施例3において、金属種担持ポリマー調製工程における洗浄溶液を純水に代えて、エタノール水溶液を用い、2M硝酸銀水溶液に代えて、2.5M硝酸銀エタノール水溶液(2.5mol/Lヨウ素、50容量%エタノールを含む水溶液)を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0086】
(実施例5)
実施例3において、ポリマーヨウ素複合体調製工程における3Nヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液に代えて、0.8Nヨウ素−ヨウ化アンモニウム−エタノール水溶液(0.4mol/Lヨウ素、1mol/Lヨウ化アンモニウム、66容量%エタノールを含む水溶液)を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0087】
(実施例6)
実施例4において、ポリマーヨウ素複合体調製工程における3Nヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液に代えて、0.8Nヨウ素−ヨウ化アンモニウム−エタノール水溶液(0.4mol/Lヨウ素、1mol/Lヨウ化アンモニウム、66容量%エタノールを含む水溶液)を用い、金属種担持ポリマー調製工程における洗浄溶液を純水に代えて、エタノール水溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0088】
(実施例7)
実施例5において、金属種担持ポリマー調製工程における洗浄溶液を純水に代えて、エタノール水溶液を用い、2M硝酸銀水溶液に代えて、酢酸パラジウム−エタノール水溶液(0.001mol/L酢酸パラジウム、50容量%エタノールを含む水溶液)を用いたこと以外は、実施例5と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0089】
(実施例8)
実施例3において、金属種担持ポリマー調製工程を以下に示す方法で行ったこと以外は、実施例3と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0090】
−金属種担持ポリマー調製工程−
ポリマーヨウ素複合体調製工程で得られたPETヨウ素複合体を処理溶液(ヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液)から取り出した後、純水で洗浄した。次いで、PETヨウ素複合体を2M硝酸銀水溶液に投入し、室温(25±5℃)にて9日間浸漬した(1段目)。
次いで、雷銀(銀アンモニア錯体)水溶液(0.27mol/L硝酸銀、1.3質量%アンモニアを含む水溶液)3mLに投入し、更に2日間浸漬した(2段目)。
これにより、PETヨウ素複合体の内部や表面近傍に金属種(銀)を析出させた銀担持PETフィルムを得た。
【0091】
(実施例9)
実施例8において、金属種担持ポリマー調製工程における洗浄溶液を純水に代えて、エタノール水溶液を用い、2M硝酸銀水溶液に代えて、2.5M硝酸銀水溶液エタノール水溶液(2.5mol/Lヨウ素、50容量%エタノールを含む水溶液)を用い、雷銀水溶液に代えて、雷銀(銀アンモニア錯体)−エタノール水溶液(0.27mol/L硝酸銀、1.3質量%アンモニア、50容量%エタノールを含む水溶液)を用いたこと以外は、実施例8と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0092】
(実施例10)
実施例8において、ポリマーヨウ素複合体調製工程における3Nヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液に代えて、0.8Nヨウ素−ヨウ化アンモニウム−エタノール水溶液(0.4mol/Lヨウ素、1mol/Lヨウ化アンモニウム、66容量%エタノールを含む水溶液)を用いたこと以外は、実施例8と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0093】
(実施例11)
実施例9において、ポリマーヨウ素複合体調製工程における3Nヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液に代えて、0.8Nヨウ素−ヨウ化アンモニウム−エタノール水溶液(0.4mol/Lヨウ素、1mol/Lヨウ化アンモニウム、66容量%エタノールを含む水溶液)を用い、金属種担持ポリマー調製工程における洗浄溶液を純水に代えて、エタノール水溶液を用いたこと以外は、実施例9と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0094】
(実施例12)
実施例11において、2.5M硝酸銀エタノール水溶液に代えて、酢酸パラジウム−エタノール水溶液(0.001mol/L酢酸パラジウム、50容量%エタノールを含む水溶液)を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0095】
(比較例4)
実施例3において、銅メッキ工程を行わなかったこと以外は、実施例3と同様の方法で銀担持PETフィルムを得た。
【0096】
<ポリマーヨウ素複合体調製工程のヨウ素ドープ効率及びPETヨウ素複合体の外観の評価>
実施例3及び5のポリマーヨウ素複合体調製工程におけるヨウ素のドープ量を比較した。
ヨウ素のドープ量は、未処理のポリマー基材の質量(m0)と、ポリマーヨウ素複合体調製工程後の質量(m1)とをそれぞれ測定し、下記式より算出した質量増加率(m(%))により評価した。なお、質量増加率は、8つのPETヨウ素複合体についての平均値として算出した。その結果、実施例3の質量増加率(m)は、31%であり、実施例5の質量増加率(m)は2.2%であった。
また、実施例3及び5のPETヨウ素複合体の外観を観察した結果を図6に示す。
m(%)=(m1−m0)/m0
【0097】
これらの結果より、ポリエステル系フィルム(PET)に対してヨウ素がドープ(ポリマーヨウ素複合体調製)されていることが確認された。
【0098】
<銀担持ポリマーの外観の評価>
実施例3〜12及び比較例4の銀担持PETフィルムの外観を観察したところ、実施例3〜12及び比較例4のいずれのフィルムについても銀ヨウ化物コンポジットが形成され、銀イオンの内部拡散が認められた。
特に実施例4では、1段目の硝酸銀水溶液で処理すると内部への銀の浸潤が明確に進行した。更に、2段目で雷銀−エタノール水溶液で処理した実施例9では、水ぶくれのような構造が生じる程にまで内部への銀の溶液拡散が進行した。一例として、実施例4の結果を図7Aに、実施例9の結果を図7Bに示す。
【0099】
<銅メッキPETフィルムの外観の評価>
実施例3〜12の銅メッキPETフィルム及び比較例4の銀担持PETフィルムの外観を観察した結果を図8に示す。
【0100】
<銅メッキPETフィルムの導電性の評価>
実施例3〜12の銅メッキPETフィルム及び比較例4の銀担持PETフィルムの導電性を実施例1〜2と同様の方法で評価した。結果を下記表2に示す。
なお、比較例4は、導電性がなく、測定することができなかった。
【0101】
<銅メッキPETフィルムの密着性の評価>
実施例3〜12の銅メッキPETフィルム及び比較例4の銀担持PETフィルムの密着性は、機械的な堅牢性により評価した。即ち、金属尖端(ステンレス製の細口ピンセット)、綿棒、紙等で擦る、又は水で洗浄するなどの処理を施した後、銅メッキの剥離を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、下記評価基準に基づいて行った。結果を下記表2に示す。
〔評価基準〕
◎:金属尖端(ステンレス製の細口ピンセット)で擦っても剥離しない
○:ピンセットで擦ると剥離するが、綿棒程度の緩い摩擦では剥離しない
△:紙や綿棒で擦ると剥離するが、溶液洗浄などの水流では剥離しない
×:金属皮膜として表面に析出してはいるが、溶液中の水流や洗浄で剥離する
【0102】
【表2】
なお、表2の「評価」において、「−」は、評価することができなかったことを示す。
【0103】
表2の結果より、金属種担持ポリマー調製工程において、2段目に雷銀で処理すると、導電性が向上することがわかった。
【0104】
(実施例13)
−ポリマーヨウ素複合体調製工程−
ポリマー基材として厚さ1mmのポリメチルメタクリレート(PMMA)板状試料(商品名:コモグラス、クラレ株式会社製)を用いた。
0.8Nヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液(0.4mol/Lヨウ素、1.2mol/Lヨウ化カリウムを含む水溶液)にPMMA板状試料を投入し、ヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液中にPMMA板状試料を5日間浸漬し、ヨウ素をドープしたPMMAヨウ素複合体を得た。
【0105】
−金属種担持ポリマー調製工程−
ポリマーヨウ素複合体調製工程で得られたPMMAヨウ素複合体を処理溶液(ヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液)から取り出した後、純水で洗浄した。次いで、PMMAヨウ素複合体を酢酸パラジウム水溶液(酢酸パラジウム0.0019mol/L、50容量%エタノールを含む水溶液)3mLに投入し、室温(25±5℃)で約3時間浸漬した。これにより、パラジウム担持PMMA板状試料を得た。
【0106】
−銅メッキ工程−
パラジウム担持PMMA板状試料を50容量%エタノールで洗浄した。次いで、無電解銅メッキ水溶液(商品名:スルカップPSY、上村工業株式会社製)でメーカーのプロトコルに従って銅メッキした。これにより銅メッキPMMA板状試料を得た。
【0107】
(実施例14)
実施例13において、金属種担持ポリマー調製工程を以下に示す方法で行ったこと以外は、実施例13と同様の方法で銅メッキPMMA板状試料を得た。
【0108】
−金属種担持ポリマー調製工程−
ポリマーヨウ素複合体調製工程で得られたPMMAヨウ素複合体を処理溶液(ヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液)から取り出した後、純水で洗浄した。次いで、PMMAヨウ素複合体を1M硝酸銀水溶液に投入し、室温(25±5℃)にて約1日間浸漬した。これにより、PMMAヨウ素複合体の内部や表面近傍に金属種(銀)を析出させた銀担持PMMA板状試料を得た。
【0109】
(実施例15)
実施例14において、金属種担持ポリマー調製工程を以下に示す方法で行ったこと以外は、実施例14と同様の方法で銅メッキPMMA板状試料を得た。
【0110】
−金属種担持ポリマー調製工程−
ポリマーヨウ素複合体調製工程で得られたPMMAヨウ素複合体を処理溶液から取り出した後、純水で洗浄した。次いで、PMMAヨウ素複合体を1M硝酸銀水溶液に投入し、室温(25±5℃)にて約1日間浸漬した。(1段目)。次いで、雷銀(銀アンモニア錯体)水溶液(0.27mol/L硝酸銀、1.3質量%アンモニアを含む水溶液)3mLに投入し、更に2日間浸漬した(2段目)。これにより、PMMAヨウ素複合体の内部や表面近傍に金属種(銀)を析出させた銀担持PMMA板状試料を得た。
【0111】
<外観の評価>
実施例13〜15の銅メッキ工程後の銅メッキPMMA板状試料の外観を観察した結果を図10に示す。
【0112】
<銅メッキPMMAの導電性及び密着性の評価>
実施例13〜16の銅メッキPMMA板状試料の導電性及び密着性を実施例3〜12と同様の方法で評価した。結果を下記表3に示す。
【0113】
【表3】
【0114】
表3の結果より、1段目に酢酸パラジウム溶液を用いると、密着性が向上した。
【0115】
実施例1〜15の結果より、本発明の銅メッキポリマーの製造方法によれば、PETやPMMA等の室温で極めて安定な素材に対しても、加熱することなく金属種を均一に担持することができ、担持された金属種がいわゆる触媒のように機能することで引き続く銅メッキ工程における銅メッキの形成効率が向上し、これにより、均一かつ適度な厚みを有する銅メッキを好適に形成できるため、導電性及び密着性に優れるポリマーを得ることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の銅メッキポリマーの製造方法は、ポリマー基材の原料及び形状に制限がなく、該ポリマー基材の表面に対する密着性が高く安定にメッキ被覆層を形成することができ、更に導電性に優れるため、各種機能性材料として用いることができ、例えば、抗菌素材、建材、被服素材、導電性素材、電磁波遮蔽素材、ガス吸収素材、ガス吸蔵素材、触媒素材、及び金属微粒子形成用鋳型素材等として用いることができる。これらの中でも、導電性素材として好適に用いられ、導電スペーサ、ACF用導電材料、電子ペーパー用導通材、ハンダボールなどに特に好適に用いられる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅メッキポリマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や無機塩をポリマー基材に含有させることにより様々な機能を持たせたポリマー系複合材料(ハイブリッド素材)が注目され、広く研究されている。
該ポリマー系複合材料の製造方法としては、例えば、フィルム等の成形体に対し、化学的無電解メッキ、真空蒸着、スパッタリング等により成形体表層部に金属層を形成する方法が知られており、導電性材料などとして実用化されている。
しかし、これらの方法では、形成された表面の金属層が機械的な摩擦等により脱落して機能低下を生じるという問題や、均一な金属層を形成するために被処理基材の形状や面状が制限されるという問題がある。
【0003】
一方、ポリマー基材中に金属を分布させてなる高分子複合材料としては、例えば、原料のポリマー中に金属塩などを含有させた後、加熱処理により金属塩を還元することによってポリマー原料中に超微粒子を作製し、この原料を用いて繊維や成形体を製造する方法(例えば、特許文献1参照)や、固体高分子化合物をガラス転移温度以上において、重金属化合物の蒸気に接触させ内部に金属クラスターを形成する方法(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。
しかし、これらの方法では、成形加工工程等における熱履歴により金属の分散状態の不均一化や金属の変性を生じることがあるという問題があり、更に、溶融することのできない原料や耐熱性の低い原料には適用できないという問題がある。
【0004】
これらの問題に対して、ポリマー基材に対しヨウ素をドープしてポリヨウ素コンプレックスを調製し、前記ポリヨウ素コンプレックスに対し銀イオンをドープして銀ヨウ化物コンポジットを調製し、前記ポリマー基材の内部に銀粒子を析出させるポリマー−金属複合体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献3及び非特許文献1参照)。この方法によれば、被処理基材の形状に制限がなく、前記被処理基材内部に溶融等の極めて高い温度での処理を行うことなく銀イオンを深部にまで拡散させ、銀粒子を均一に析出させることができる。
しかし、この方法で製造されたポリマー−金属複合体は、銀が析出することによってある程度の導電性が付与されるものの、銀の性質上、その後の曝気によって酸化物や硫化物が形成されやすいという問題や、析出した銀原子そのものがイオンレベルで拡散(マイグレーション)しやすいことなどの理由から安定性が悪く、更にポリマー基材の表面に析出した銀は、いわゆるメッキのような強固なものではなく、銀が担持されている程度であり、またポリマー基材の表面に均一に配されているものでもなくその析出にムラがあるため、その導電性も十分なものではないという問題がある。
【0005】
したがって、ポリマー基材の原料及び形状に制限がなく、該ポリマー基材の表面に対する密着性が高く安定にメッキ被覆層を形成することができ、導電性に優れる銅メッキポリマー及びその製造方法は、未だ提供されておらず、その提供が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−287355号公報
【特許文献2】特開2000−256489号公報
【特許文献3】国際公開第2007/086392号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Takuya Tetsumoto, Yasuo Gotoh, SEN’I GAKKAISHI(報文), 2010, Vol.66, No.9, p.222−227
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、ポリマー基材の原料及び形状に制限がなく、該ポリマー基材の表面に対して密着性の高い安定なメッキを形成することができ、かつ導電性に優れる銅メッキポリマー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> ポリマー基材に対しヨウ素をドープしてポリマーヨウ素複合体を調製するポリマーヨウ素複合体調製工程と、
前記ポリマーヨウ素複合体に対し金属種をドープして前記ポリマー基材の内部及び外部に金属粒子を析出させた金属種担持ポリマーを調製する金属種担持ポリマー調製工程と、
前記金属種担持ポリマーを銅メッキする銅メッキ工程と、
を含むことを特徴とする銅メッキポリマーの製造方法である。
<2> ポリマー基材が、アクリル樹脂及びポリエステル樹脂から選択される少なくとも1種である前記<1>に記載の銅メッキポリマーの製造方法である。
<3> ポリマーヨウ素複合体調製工程が、ポリマー基材を、ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬することにより行われる前記<1>から<2>のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法である。
<4> 金属種担持ポリマー調製工程が、ポリマーヨウ素複合体を、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属酢酸塩、金属炭酸塩、金属塩化物塩、金属臭化物塩、及び金属ヨウ化物、並びにこれらの配位化合物の少なくともいずれかを含む金属塩溶液中に浸漬することにより行われる前記<1>から<3>のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法である。
<5> 金属種担持ポリマー調製工程が、ポリマーヨウ素複合体を、金属イオン及び金属錯体の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬することにより行われる前記<4>に記載の銅メッキポリマーの製造方法である。
<6> 金属種担持ポリマー調製工程が、ポリマーヨウ素複合体を、銀イオン、パラジウムイオン、及び銀アンモニア錯体の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬することにより行われる前記<5>に記載の銅メッキポリマーの製造方法である。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法により製造されたことを特徴とする銅メッキポリマーである。
<8> 表面抵抗値が、20Ω以下である前記<7>に記載の銅メッキポリマーである。
<9> 抗菌素材、建材、被服素材、導電性素材、電磁波遮蔽素材、ガス吸収素材、ガス吸蔵素材、触媒素材、及び金属微粒子形成用鋳型素材のいずれかに用いられる前記<7>から<8>のいずれかに記載の銅メッキポリマーである。
【0010】
<10> ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液が、ヨウ素−ヨウ化カリウム溶液及びヨウ素−ヨウ化アンモニウム溶液の少なくともいずれかである前記<3>から<6>のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法である。
<11> 金属塩溶液中の溶媒が、水及びエタノールの少なくともいずれかである前記<4>から<6>及び<10>のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、ポリマー基材の原料及び形状に制限がなく、該ポリマー基材の表面に対して密着性の高い安定なメッキを形成することができ、かつ導電性に優れる銅メッキポリマー及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1Aは、実施例1の銅メッキアクリル樹脂微粒子の外観の一例を示す図である。
【図1B】図1Bは、実施例1の銅メッキアクリル樹脂微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した表面形状の一例を示す図である。
【図2A】図2Aは、実施例2の銅メッキアクリル樹脂微粒子の外観の一例を示す図である。
【図2B】図2Bは、実施例2の銅メッキアクリル樹脂微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した表面形状の一例を示す図である。
【図3A】図3Aは、比較例1の銀担持アクリル樹脂微粒子の外観の一例を示す図である。
【図3B】図3Bは、比較例1の銀担持アクリル樹脂微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した表面形状の一例を示す図である。
【図4A】図4Aは、比較例2の金属種担持ポリマー調製工程におけるパラジウム担持アクリル樹脂微粒子の外観の一例を示す図である。
【図4B】図4Bは、比較例2の金属種担持ポリマー調製工程におけるパラジウム担持アクリル樹脂微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した表面形状の一例を示す図である。
【図4C】図4Cは、比較例2の銀担持アクリル樹脂微粒子の外観の一例を示す図である。
【図4D】図4Dは、比較例2の銀担持アクリル樹脂微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した表面形状の一例を示す図である。
【図5】図5は、比較例3の銅メッキ工程におけるアクリル樹脂微粒子の外観の一例を示す図である。図5(a)は、無電解銅メッキ水溶液混合前のアクリル樹脂微粒子の外観を示し、図5(b)は、無電解銅メッキ水溶液混合後のアクリル樹脂微粒子の外観を示す。
【図6】図6は、実施例3及び5のPETヨウ素複合体の外観の一例を示す図である。
【図7A】図7Aは、実施例4の銀担持PETフィルムの外観の一例を示す図である。
【図7B】図7Bは、実施例9の銀担持PETフィルムの外観の一例を示す図である。
【図8】図8は、実施例3〜12及び比較例4の銅メッキPETフィルムの外観の一例を示す図である。
【図9】図9は、実施例13〜15の銅メッキPETフィルムの外観の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(銅メッキポリマー及びその製造方法)
本発明の銅メッキポリマーの製造方法は、ポリマーヨウ素複合体調製工程と、金属種担持ポリマー調製工程と、銅メッキ工程と、を少なくとも含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
本発明の銅メッキポリマーは、本発明の前記銅メッキポリマーの製造方法により製造される。
以下に、本発明の前記銅メッキポリマーの製造方法の説明と併せて、本発明の前記銅メッキポリマーについて詳細に説明する。
【0014】
<ポリマーヨウ素複合体調製工程>
前記ポリマーヨウ素複合体調製工程は、前記ポリマー基材に対し、ヨウ素をドープ(添加)してポリマーヨウ素複合体を調製する工程である。
ポリマーヨウ素複合体調製工程を経ることにより、後述する金属種担持ポリマー調製工程における金属種が効率よく担持され、結果として銅メッキの密着性が高まるため導電性に優れる銅メッキポリマーが得られる点で有利である。
【0015】
−ポリマーヨウ素複合体−
前記ポリマーヨウ素複合体とは、前記ポリマー基材にヨウ素が分散及び/又は吸着し、包含されてなるものである。
例えば、前記ポリマー基材の分子鎖間の水素結合によりヨウ素が包接されてなる構造を有するもの、分子鎖又は側鎖上のアミド基などを配位座としてヨウ素が配位した構造を有するもの、結晶など分子鎖の凝集によって分子鎖間に配位座が形成されるもの、単分子鎖であっても分子鎖上の極性基の配列やらせん構造のピッチ変化によって配位座が形成されるものなどが挙げられる。
【0016】
前記ポリマーヨウ素複合体調製工程において、ポリマーヨウ素複合体が形成されたことは、例えば、ラマン分光法、X線回折法、赤外分光法、吸光光度法等の測定法により確認できる。
【0017】
−ポリマー基材−
前記ポリマー基材の原料としては、ヨウ素を包含可能な原料である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、セルロース、タンパク質、核酸などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において、前記ヨウ素を包含可能な原料とは、前記ヨウ素がポリマー基材の内部まで拡散し、かつ分子内に吸着又は非共有結合で会合した構造をとり得る高分子化合物を意味する。
【0018】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂などが挙げられる。
【0019】
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、架橋アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニル重合体、ケイ素樹脂などが挙げられる。
前記セルロースとしては、例えば、植物由来セルロースなどが挙げられ、該植物由来セルロースとしては、綿、木質パルプ、レンコン繊維、竹繊維、ケナフ、寒天ゲルなどが挙げられる。
前記タンパク質としては、例えば、動植物由来タンパク質などが挙げられ、該動植物由来タンパク質としては、蚕糸、羊毛、ゼラチンゲルなどが挙げられる。
前記核酸としては、例えば、DNA、RNAなどが挙げられる。
【0020】
これらの中でも、前記ポリマー基材の原料としては、熱可塑性樹脂が好ましく、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂がより好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が特に好ましい。
前記ポリマー基材は、市販品を用いてもよく、適宜公知の方法で製造したものを用いてもよい。
【0021】
前記ポリマー基材は、前記原料そのものであってもよく、前記原料を成形加工してなる成形体であってもよい。
前記成形体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルム、繊維、粉末、ペレット、不織布、多孔質体、織布、高分子ブレンド、共重合体、ゲルなどが挙げられる。
前記フィルムとしては、例えば、表面に凹凸を有するエンボスフィルムや、多孔質フィルムであってもよい。
前記繊維としては、中空糸、多孔化繊維等の特殊加工繊維や、らせん状等の特殊形状の繊維であってもよい。
【0022】
前記ポリマー基材の性質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、親水性基及び極性基のいずれかを有することが、前記ポリマー基材へのヨウ素のドープ量を高めることができる点で好ましい。
ただし、前記ポリマー基材が、親水性基及び極性基のいずれかを有さない場合は、アルカリ溶液でポリマー基材粒子表面部を部分的に加水分解することが、ポリマー基材にヨウ素親和性を付与し、ヨウ素のドープ量を高めることができる点で好ましい。また、有機溶媒を混合した溶媒を使用し、その混合比を調整することによってヨウ素のドープ量を高めることもできる。
【0023】
前記アルカリ溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、アンモニア水、炭酸水素ナトリウム水溶液などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において、前記ポリマー基材は、前記アルカリ溶液で、部分的に加水分解したものも含まれる。
【0024】
前記ポリマー基材は、前記銅メッキポリマーの用途などに応じて、適宜その他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス、セラミックス、無機塩類等の無機化合物、ゴム等の有機材料、顔料などが挙げられる。
【0025】
−ヨウ素のドープ−
前記ポリマーヨウ素複合体調製工程においてヨウ素をドープする方法としては、前記ポリマー基材がポリマーヨウ素複合体を形成できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ポリマー基材を、ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬する方法、ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液を噴霧する方法、ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む蒸気に長時間曝露する方法、ヨウ素単体と混合して溶融及び/又は成型する方法などが挙げられる。前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかは、イオンの状態でドープされてもよい。
これらの中でも、ヨウ素をドープする方法としては、前記ポリマー基材をポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬する方法が好ましい。
【0026】
前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヨウ素−ヨウ化カリウム溶液、ヨウ素−ヨウ化アンモニウム溶液、ヨウ素−ヨウ化リチウム溶液、その他金属イオンのヨウ化物溶液にヨウ素単体を溶解させた溶液、又はヨウ素単体を溶質とする有機溶媒等が挙げられる。
これらの中でも、前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液としては、ヨウ素−ヨウ化カリウム溶液、ヨウ素−ヨウ化アンモニウム溶液等の1価の陽イオンのヨウ化物溶液にヨウ素単体を溶解させた溶液が好ましい。
【0027】
前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液における溶媒の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒、水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水、エタノール、又はこれらの混合溶媒が好ましい。
【0028】
前記ポリマー基材が極性の強いものである場合は、水と有機溶媒との混合溶媒が該ポリマー基材にヨウ素がドープされやすくなる点でより好ましい。
前記ポリマー基材が非極性のものである場合に、前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液が有機溶媒を多く含むと、前記ポリマー基材へのヨウ素の拡散は進むものの、極性を有するイオンが存在しないために、該ポリマー基材中にヨウ素が固定化されにくく、ヨウ素が再放出されやすくなると推察される。そのため、前記ポリマー基材が非極性である場合は、水を多く含む溶媒を用いることが好ましい。
【0029】
前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液における溶媒が、水及びエタノールの混合溶媒である場合、水とエタノールとの混合比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水:エタノール(V/V)が、9:1〜1:9が好ましく、7:3〜3:7がより好ましい。
【0030】
前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液中の前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかの濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01N〜10Nが好ましく、0.1N〜5Nがより好ましく、0.2N〜3Nが特に好ましい。前記ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかの濃度が、0.01N未満であると、ヨウ素のポリマー基材への侵入深さが不十分であることや、ヨウ素をドープ後に揮発などを通じてヨウ素の脱離などが生じやすくなったりすることがあり、10Nを超えると、高分子鎖の分解や化学基としての付加反応が生じることがある。
【0031】
前記ヨウ素をドープする際の温度としては、特に制限はなく、用いるポリマー基材の種類などに応じて適宜選択することができるが、0℃〜90℃が好ましく、5℃〜80℃がより好ましい。
【0032】
前記ヨウ素をドープする際の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0033】
<金属種担持ポリマー調製工程>
前記金属種担持ポリマー調製工程は、前記ポリマーヨウ素複合体に対し、金属種をドープして前記ポリマー基材の内部及び外部に無機化合物粒子(例えば、金属粒子又は金属塩粒子)を析出させた金属種担持ポリマーを調製する工程である。
前記ポリマー基材に無機化合物粒子が析出されると、析出された金属種がいわゆる触媒のように機能することで後述する銅メッキ工程における銅メッキの形成効率が向上する。
【0034】
−金属種担持ポリマー−
前記金属種担持ポリマーとは、前記ポリマー基材の内部及び外部に無機化合物粒子が析出したものである。前記ポリマーヨウ素複合体中に金属種をドープすると、前記ポリマーヨウ素複合体の構成要素であるヨウ素及びポリヨウ素の少なくともいずれかから分離したヨウ素イオンと、前記金属種とが反応して金属ヨウ化物を形成する(以下、「金属ヨウ化物コンポジット」と称することがある)。この金属ヨウ化物コンポジットから、更にヨウ素イオンの放出(揮発乃至酸化)が進行すると、前記金属ヨウ化物が分解されることにより前記ポリマー基材の内部及び外部に金属粒子が析出する。
【0035】
前記金属ヨウ化物は、通常、室温におけるイオン伝導性が極めて低く、高温条件下(例えば、ヨウ化銀の場合、約150℃以上)でなければイオン伝導が誘起されることはないが、前記金属ヨウ化物コンポジットを形成した場合は、転移点まで昇温することなく、室温においても比較的容易にイオンの伝導や拡散が生じる。このため、前記金属ヨウ化物コンポジットは、例えば、室温条件下(例えば、5℃〜30℃)でヨウ素イオンが放出され、前記金属粒子が析出する点で有利である。
【0036】
前記金属粒子が内部及び外部に析出していることは、例えば、断面の顕微鏡観察等により観察することができ、金属粒子の存在は、例えば、広角X線回折(WAXD)を用い、金属粒子(単体金属)からの反射を検出することにより確認することができる。
【0037】
なお、前記金属ヨウ化物コンポジットは、同一の金属塩を同一のポリマーヨウ素複合体にドープした場合においても、前記ポリマーヨウ素複合体調製工程及び後述する金属種担持ポリマー調製工程における条件、例えば、ヨウ素のドープ量、金属種のドープ量、処理時間、温度履歴、ポリマー基材の種類、サイズ及び形状などに応じて、外観や特性が異なるものが得られることがある。
【0038】
−金属種−
前記金属種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、銀、白金、金、鉄、水銀、コバルト、カドミウム、タングステン、チタン、鉛、ビスマス、クロム、ニッケル、亜鉛、モリブデン、マンガン、パラジウム、スズなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記金属種は、銀、パラジウムが好ましい。
【0039】
−金属種の担持−
前記金属種担持ポリマー調製工程において前記金属種を担持させる方法としては、前記ポリマー基材の内部及び外部に無機化合物粒子を析出できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ポリマーヨウ素複合体を、前記金属種を含む溶液に浸漬する方法、前記金属種を含む溶液を噴霧する方法などが挙げられる。これらの中でも、前記ポリマーヨウ素複合体を、金属種を含む溶液中に浸漬する方法が好ましい。
前記金属種担持ポリマー調製工程が2種以上の金属種を用いて行われる場合は、2種以上の金属種を同時に用いて1回の処理で行われてもよく、一の金属種を含む溶液を用いて処理した後に該一の金属種を含む溶液に他の金属種を後から添加してもよく、また、一の金属種で処理した後に他の金属種で処理してもよい。
【0040】
前記金属種を含む溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、金属塩溶液が好ましい。
前記金属塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属酢酸塩、金属炭酸塩、金属塩化物塩、金属臭化物塩、金属ヨウ化物、又はこれらの配位化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、沈殿を生じないものが好ましく、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属ヨウ化物がより好ましい。
【0041】
前記ポリマーヨウ素複合体は、前記金属塩溶液中で、金属イオン又は金属錯体の状態で金属種がドープされることが好ましい。前記金属イオン又は金属錯体としては、銀イオン、パラジウムイオン、銀アンモニア錯体(雷銀ともいう)の少なくともいずれかが好ましく、パラジウムイオン、銀アンモニア錯体の少なくともいずれかが特に好ましい。
前記金属イオンが、パラジウムイオンであると、前記基材ポリマーと銅メッキとの密着性が向上する点で有利である。また、前記金属錯体が、銀アンモニア錯体であると、ポリマー基材がアクリル樹脂等の内部に金属種が拡散されやすい材質を用いた場合であっても、該ポリマー基材の外部に金属粒子が析出されやすくなり、前記銅メッキポリマーの導電性が向上する点で有利である。
【0042】
前記金属種を含む溶液における溶媒の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒、水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水、エタノール、又はこれらの混合溶媒が好ましい。
【0043】
前記金属種を含む溶液における溶媒が、水及びエタノールの混合溶液である場合、水とエタノールとの混合比(V/V)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水:エタノールが、1:4〜99:1が好ましく、1:2〜9:1がより好ましい。
【0044】
前記金属種を含む溶液中の前記金属種の濃度としては、特に制限はなく、該金属種の種類などに応じて適宜選択することができるが、0.01mol/L〜10mol/Lが好ましく、0.1mol/L〜1mol/Lがより好ましい。前記金属種の濃度が、0.01mol/L未満であると、前記ポリマー基材の内部への金属種の拡散に長い時間を要することや、金属塩の析出によって更なるイオンの金属種の内部への拡散が妨げられることなどがあり、10mol/Lを超えると、前記ポリマー基材の内部に析出した金属塩が錯イオンとして再溶出することや、析出物の急成長による凹凸が生じることがある。
【0045】
前記金属種を担持させる際の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0℃〜90℃が好ましく、30℃〜60℃がより好ましい。
【0046】
前記金属種を担持させる際の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0047】
<銅メッキ工程>
前記銅メッキ工程は、前記金属種担持ポリマー調製工程で得られた金属種担持ポリマーを銅メッキする工程である。
ポリマー基材に直接銅メッキすることは困難であるが、本発明においては、前記金属種担持ポリマー調製工程においてポリマー基材に金属種が担持されているため、ポリマー基材に均一かつ適度な厚みを有する銅メッキを形成することができる。これにより非常に電気抵抗の低い導電性を有し、かつ酸化防止効果や、長時間の導通により金属イオン(例えば、銅イオン)が移動し絶縁が必要な部分にまで汚染して絶縁不良を起こす、いわゆるマイグレーションの防止効果を奏することができる点で有利である。また、本発明における銅メッキポリマーは、ポリマー基材に対する密着性が高いため耐久性に優れる点でも有利である。
【0048】
前記銅メッキ工程に用いられる銅メッキ剤としては、銅メッキを施すことができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、市販品を用いてもよい。
前記銅メッキ可能な市販品の具体例としては、商品名で、スルカップPSY(上村工業株式会社製)などが挙げられる。
【0049】
前記金属種担持ポリマーに銅メッキを施す方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記金属種担持ポリマーを、前記銅メッキ剤を含む溶液に浸漬する方法、前記銅メッキ剤を含む溶液を噴霧する方法、前記銅メッキ剤の蒸気に長時間曝露する方法などが挙げられる。これらの中でも、前記金属種担持ポリマーを前記銅メッキ剤を含む溶液に浸漬する方法が好ましい。
【0050】
前記銅メッキ剤を含む溶液における溶媒の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒、水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水、エタノール、又はこれらの混合溶媒が好ましい。
【0051】
前記銅メッキ剤を含む溶液の前記銅メッキ剤の濃度としては、銅メッキすることができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0052】
前記銅メッキを施す際の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5℃〜80℃が好ましく、20℃〜60℃がより好ましく、25℃〜30℃が特に好ましい。
【0053】
前記銅メッキを施す際の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1時間〜120時間が好ましく、銅メッキの均一性と生産性とを考慮すると、1時間〜24時間がより好ましい。
【0054】
前記銅メッキの厚みとしては、特に制限はなく、銅メッキポリマーの用途などに応じて適宜選択することができる。
一般的なメッキの厚みとしては、1nm〜100nm程度であり、本発明においてもこの厚みを適用することができる。前記銅メッキの厚みが、1nm未満であると、銅メッキが欠如する部分が発生することがあり、十分な導電性が得られないことがあり、100nmを超えると、銅メッキの強度が強くなりすぎ、大きく割れたり、剥がれやすくなることがある。
【0055】
前記銅メッキの厚みは、例えば、可視光、X線、中性子線等を用いた反射率や透過率などにより測定することができる。
【0056】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、公知の工程から適宜選択することができる。
前記ポリマーヨウ素複合体調製工程の後に1次洗浄工程を、前記金属種担持ポリマー調製工程の後に2次洗浄工程を行うことが好ましい。
ポリマー基材が成形体である場合は、例えば、表面処理工程、端面処理工程などが挙げられる。前記ポリマー基材が原料である場合は、例えば、成形工程、結晶化度制御工程、分子量制御工程、ブレンドによる異性化工程、架橋反応による粘性制御工程、紡糸工程、一軸又は二軸の延伸処理工程、熱処理工程、溶媒等による膨潤処理工程などが挙げられる。
【0057】
−1次洗浄工程−
前記1次洗浄工程は、前記ポリマーヨウ素複合体調製工程の後、該ポリマーヨウ素複合体を洗浄する工程である。これによりポリマーヨウ素複合体調製工程を停止させることができる。また洗浄時間を調整することにより、前記ポリマーヨウ素複合体表面のヨウ素及びポリヨウ素の少なくともいずれかの濃度を調整することができる。
前記洗浄に用いる洗浄溶液は、前記ヨウ素を含まない溶液であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0058】
前記ポリマー基材の内部に残存した未反応のヨウ素成分は、前記金属種担持ポリマー調製又は還元工程後に析出した金属あるいは前記銅メッキ工程後の銅メッキ被覆層に影響を及ぼす可能性があるが、未反応ヨウ素成分は、アセトン等の有機溶媒を用いた洗浄あるいは高温熱処理によってポリマー粒子内部から除去することが可能である。
なお、熱処理においては、減圧下で行う方が、より低温で効率よくヨウ素を揮発させることができるため効果的である。
【0059】
−2次洗浄工程−
前記2次洗浄工程は、前記金属種担持ポリマー調製の後、該金属種担持ポリマーを洗浄する工程である。これにより金属種担持ポリマー調製工程を停止させることができる。また洗浄時間を調整することにより、前記ポリマー基材表面の金属種の濃度を調整することができる。
前記洗浄に用いる洗浄溶液は、前記ヨウ素や前記金属種を含まない溶液であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0060】
(銅メッキポリマー)
本発明の銅メッキポリマーの製造方法により得られた本発明の銅メッキポリマーは、前記ポリマー基材の内部には前記金属粒子が析出し、外部が銅メッキされてなる。
【0061】
本発明において、銅メッキポリマーの導電性は、抵抗値が低いものを導電性が高いものとする。
前記銅メッキ被覆ポリマーの表面抵抗値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50Ω以下が好ましく、25Ω以下がより好ましく、20Ω以下が更に好ましく、20Ω未満が特に好ましい。
前記抵抗値は、例えば、デジタルマルチメータ(商品名:R6441A、ADVANTEST社製)を用いて2端子法で測定することができる。また、特開2010−238419号公報に記載の導電圧縮試験を用いて測定することもできる。
【0062】
前記銅メッキポリマーにおける銅メッキの密着性は、金属尖端、綿棒、紙、粘着テープ等を用いた剥離法、折り曲げや圧縮等の機械的負荷条件下での顕微鏡観察などにより評価することができる。
【0063】
前記銅メッキポリマーは、その用途に応じ、適宜その他の成分を含有していてもよい。
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス、セラミックス、無機塩類等の無機化合物、親水性やヨウ素親和性の異なる異種高分子、ゴム等の有機材料、及び顔料、染料等の着色剤などが挙げられる。
【0064】
<用途>
前記銅メッキポリマーは、前記ポリマー基材の原料や成形体の種類などに応じ、各種機能性材料として用いることができ、例えば、抗菌素材、建材、被服素材、導電性素材、電磁波遮蔽素材、ガス吸収素材、ガス吸蔵素材、触媒素材、及び金属微粒子形成用鋳型素材等として用いることができる。
具体的には、各種サニタリー用品、ペット用品、容器、包装材、文具、建築内装材、建築外装材、車両等の部材や内外装材、服飾製品、電子機器、電気機器、電池、半導体、高透過度の光学偏光材料、環境応答センサー、フィルム状導線、及び多孔質状の触媒フィルター、特定の気体分子の吸着剤、並びにこれらの原料として用いることができる。
これらの中でも、前記銅メッキポリマーは、基材ポリマーに対する銅メッキの密着性、導電性に優れることから、導電性素材として好適に用いられ、導電スペーサ、ACF用導電材料、電子ペーパー用導通材、ハンダボールなどに特に好適に用いられる。
【実施例】
【0065】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
−ポリマーヨウ素複合体調製工程−
ポリマー基材として、アクリル樹脂微粒子(商品名:ハヤビーズM−11N、早川ゴム株式会社製)(粒子形状:球状)を用いた。このアクリル樹脂微粒子のうち、大きな凝集体については、予め解砕した。
室温(20±5℃)条件下で、0.01Nヨウ素−ヨウ化アンモニウム−エタノール水溶液(0.005mol/Lヨウ素、0.85mol/Lヨウ化アンモニウム、15容量%エタノールを含む水溶液)58.8mLに、アクリル樹脂微粒子4.62gを投入し、ヨウ素−ヨウ化アンモニウム−エタノール水溶液中にアクリル樹脂微粒子を30分間浸漬し、アクリル樹脂微粒子にヨウ素をドープしたアクリル樹脂微粒子ヨウ素複合体を得た。
【0067】
−金属種担持ポリマー調製工程−
ポリマーヨウ素複合体調製工程で得られたアクリル樹脂微粒子ヨウ素複合体を吸引濾過した後、50容量%エタノール水溶液で洗浄した。次いで、アクリル樹脂微粒子ヨウ素複合体50.6gを硝酸銀−エタノール水溶液(0.1mol/L硝酸銀、50容量%エタノールを含む水溶液)10mLに投入し、室温(25±5℃)にて30分間浸漬した(1段目)。
次いで、硝酸銀−エタノール水溶液中に雷銀(銀アンモニア錯体)−エタノール水溶液(0.25mol/L硝酸銀、1.2mol/Lアンモニア、50容量%エタノールを含む水溶液)10mLを添加し、室温(25±5℃)にて更に30分間浸漬した(2段目)。
これにより、アクリル樹脂微粒子ヨウ素複合体の内部や表面近傍に金属種(銀)を析出させた銀担持アクリル樹脂微粒子を得た。
【0068】
−銅メッキ工程−
金属種担持ポリマー調製工程で得られた銀担持アクリル樹脂微粒子を吸引濾過した後、50容量%エタノール水溶液で洗浄した。次いで、無電解銅メッキ水溶液(商品名:スルカップPSY、上村工業株式会社製)でメーカーのプロトコルに従って銅メッキした。これにより銅メッキアクリル樹脂微粒子を得た。
【0069】
(実施例2)
実施例1において、金属種担持ポリマー調製工程を下記に示す方法で行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で、銅メッキアクリル樹脂微粒子を得た。
【0070】
−金属種担持ポリマー調製工程−
ポリマーヨウ素複合体調製工程で得られたアクリル樹脂微粒子ヨウ素複合体を吸引濾過した後、50容量%エタノール水溶液で洗浄した。次いで、アクリル樹脂微粒子ヨウ素複合体42.7gを酢酸パラジウム−エタノール水溶液(0.001mol/L酢酸パラジウム、50容量%エタノールを含む水溶液)30mLに投入し、室温(25±5℃)にて30分間浸漬した(1段目)。これにより、アクリル樹脂微粒子ヨウ素複合体の内部や表面近傍に金属種(パラジウム)を析出させたパラジウム担持アクリル樹脂微粒子を得た。
次いで、パラジウム担持アクリル樹脂微粒子を、硝酸銀−エタノール水溶液(0.1mol/L硝酸銀、50容量%エタノールを含む水溶液)10mLに投入し、室温(25±5℃)で30分間浸漬した。これにより、更に金属種(銀)を担持させた銀担持アクリル樹脂微粒子を得た。
【0071】
(比較例1)
実施例1において、銅メッキ工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で銀担持アクリル樹脂微粒子を得た。
【0072】
(比較例2)
実施例2において、銅メッキ工程を行わなかったこと以外は、実施例2と同様の方法でパラジウム担持アクリル樹脂微粒子を得た。
【0073】
(比較例3)
実施例1において、金属種担持ポリマー調製工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0074】
<外観の評価>
実施例1〜2の銅メッキアクリル樹脂微粒子、比較例1の銀担持アクリル樹脂微粒子、比較例2のパラジウム担持アクリル樹脂微粒子及び銀担持アクリル樹脂微粒子、及び比較例3のアクリル樹脂微粒子の外観を観察した。結果を図1A(実施例1)、図2A(実施例2)、図3A(比較例1)、図4A(比較例2)、図4C(比較例2)、図5(比較例3)に示す。
【0075】
<表面形状の評価>
実施例1〜2の銅メッキアクリル樹脂微粒子、比較例1の銀担持アクリル樹脂微粒子、比較例2のパラジウム担持アクリル樹脂微粒子及び銀担持アクリル樹脂微粒子の表面形状を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。結果を図1B(実施例1)、図2B(実施例2)、図3B(比較例1)、図4B(比較例2)、及び図4D(比較例2)に示す。
【0076】
<導電性の評価>
実施例1〜2の銅メッキアクリル樹脂微粒子、並びに比較例1及び2の銀担持アクリル樹脂微粒子、及び比較例3のアクリル樹脂微粒子の抵抗値をデジタルマルチメータ(商品名:R6441A、ADVANTEST社製)を用いて2端子法で測定た。結果を下記表1に示す。
【0077】
<銅メッキ被覆ポリマーの密着性の評価>
実施例1〜2の銅メッキアクリル樹脂微粒子、並びに比較例1及び2の銀担持アクリル樹脂微粒子における、銅メッキ又は担持させた銀の密着性は、機械的な堅牢性により評価した。即ち、微小圧縮試験機(MCT−W200J、株式会社島津製作所製)を用い、粒子を直径50μmのダイアモンド製円錐からなる平滑圧子端面で、圧縮速度2.2mN/秒間、最大試験荷重10gの条件下で、1個のアクリル樹脂球の圧縮を行った。その後、銅メッキ又は銀の剥離を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、下記評価基準に基づいて行った。結果を下記表1に示す。なお、比較例3は、銅メッキを形成することができなかったため、密着性を評価することができなかった。
【0078】
【表1】
なお、表1の「評価」において、「−」は、評価することができなかったことを示す。
【0079】
実施例1の銅メッキアクリル樹脂微粒子の外観を観察した結果を図1Aに、表面形状を観察した結果を図1Bに示す。実施例2の銅メッキアクリル樹脂微粒子の外観を観察した結果を図2Aに、表面形状を観察した結果を図2Bに示す。比較例1の銀担持アクリル樹脂微粒子の外観を観察した結果を図3Aに、表面形状を観察した結果を図3Bに示す。比較例2のパラジウム担持アクリル樹脂微粒子の外観を観察した結果を図4Aに、このときの表面形状を観察した結果を図4Bに示す。また、比較例2の銀担持アクリル樹脂微粒子の外観を観察した結果を図4Cに、このときの表面形状を観察した結果を図4Dに示す。比較例3のアクリル樹脂微粒子を図5(a)に、該アクリル樹脂微粒子を無電解銅メッキ水溶液と混合した後の外観を図5(b)に示す。
【0080】
図1B、図2B、及び表1の結果より、実施例1及び2は、いずれも密着性の高い銅メッキが形成され、これにより良好な導電性が得られることがわかった。また、実施例1と実施例2とを比較すると、実施例2の方が、銅メッキの密着性が高く、均一で滑らかな銅メッキが形成されていた。
一方、図3B及び表1の結果より、比較例1の銀担持アクリル樹脂微粒子の表面の滑らかさは、実施例1(図1B)と同程度であったが、密着性及び導電性は劣る結果であった。また、図4D及び表1の結果より、比較例2の銀担持アクリル樹脂微粒子は、表面が均一で滑らかであったが、密着性及び導電性は劣る結果であった。
また、比較例3は、アクリル樹脂微粒子にヨウ素がドープされているため、無電解銅メッキ水溶液中にかろうじて分散したが(図5(b))、アクリル樹脂ヨウ素複合体自体や無電解銅メッキ水溶液において、変色や発泡等の変化が認められず、銅メッキは形成されなかった。
【0081】
比較例1及び2は、アクリル樹脂微粒子表面への銀の析出によってある程度金属の導電層が形成されるが、銀の性質上、その後の曝気によって酸化物や硫化物が形成されやすいこと、また、析出した銀原子そのものがイオンレベルで拡散(マイグレーション)しやすいことなどの理由から、ミクロンサイズの球状微粒子の表面導電層としては、安定性が低かった。
これに対し、銅メッキした実施例1及び2は、安定性が高く、高い導電性を得ることができることがわかった。
【0082】
(実施例3)
−ポリマーヨウ素複合体調製工程−
ポリマー基材として厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名:テトロン S−75、帝人デュポンフィルム株式会社製)を用いた。
3Nヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液(1.5mol/Lヨウ素、4.5mol/Lヨウ化カリウムを含む水溶液)にPETフィルムを投入し、75℃に昇温させ、75℃に保ったままヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液中にPETフィルムを2週間浸漬し、ヨウ素をドープしたPETヨウ素複合体を得た。
【0083】
−金属種担持ポリマー調製工程−
ポリマーヨウ素複合体調製工程で得られたPETヨウ素複合体を処理溶液(ヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液)から取り出した後、純水で洗浄した。次いで、PETヨウ素複合体を2M硝酸銀水溶液に投入し、室温(25±5℃)にて6日間浸漬した(1段目)。
これにより、PETヨウ素複合体の内部や表面近傍に金属種(銀)を析出させた銀担持PETフィルムを得た。
【0084】
−銅メッキ工程−
金属種担持ポリマー調製工程で得られた銀担持PETフィルムを処理溶液(硝酸銀水溶液)から取り出した後、純水で洗浄した。次いで、無電解銅メッキ水溶液(商品名:スルカップPSY、上村工業株式会社製)でメーカーのプロトコルに従って銅メッキした。これにより銅メッキPETフィルムを得た。
【0085】
(実施例4)
実施例3において、金属種担持ポリマー調製工程における洗浄溶液を純水に代えて、エタノール水溶液を用い、2M硝酸銀水溶液に代えて、2.5M硝酸銀エタノール水溶液(2.5mol/Lヨウ素、50容量%エタノールを含む水溶液)を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0086】
(実施例5)
実施例3において、ポリマーヨウ素複合体調製工程における3Nヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液に代えて、0.8Nヨウ素−ヨウ化アンモニウム−エタノール水溶液(0.4mol/Lヨウ素、1mol/Lヨウ化アンモニウム、66容量%エタノールを含む水溶液)を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0087】
(実施例6)
実施例4において、ポリマーヨウ素複合体調製工程における3Nヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液に代えて、0.8Nヨウ素−ヨウ化アンモニウム−エタノール水溶液(0.4mol/Lヨウ素、1mol/Lヨウ化アンモニウム、66容量%エタノールを含む水溶液)を用い、金属種担持ポリマー調製工程における洗浄溶液を純水に代えて、エタノール水溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0088】
(実施例7)
実施例5において、金属種担持ポリマー調製工程における洗浄溶液を純水に代えて、エタノール水溶液を用い、2M硝酸銀水溶液に代えて、酢酸パラジウム−エタノール水溶液(0.001mol/L酢酸パラジウム、50容量%エタノールを含む水溶液)を用いたこと以外は、実施例5と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0089】
(実施例8)
実施例3において、金属種担持ポリマー調製工程を以下に示す方法で行ったこと以外は、実施例3と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0090】
−金属種担持ポリマー調製工程−
ポリマーヨウ素複合体調製工程で得られたPETヨウ素複合体を処理溶液(ヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液)から取り出した後、純水で洗浄した。次いで、PETヨウ素複合体を2M硝酸銀水溶液に投入し、室温(25±5℃)にて9日間浸漬した(1段目)。
次いで、雷銀(銀アンモニア錯体)水溶液(0.27mol/L硝酸銀、1.3質量%アンモニアを含む水溶液)3mLに投入し、更に2日間浸漬した(2段目)。
これにより、PETヨウ素複合体の内部や表面近傍に金属種(銀)を析出させた銀担持PETフィルムを得た。
【0091】
(実施例9)
実施例8において、金属種担持ポリマー調製工程における洗浄溶液を純水に代えて、エタノール水溶液を用い、2M硝酸銀水溶液に代えて、2.5M硝酸銀水溶液エタノール水溶液(2.5mol/Lヨウ素、50容量%エタノールを含む水溶液)を用い、雷銀水溶液に代えて、雷銀(銀アンモニア錯体)−エタノール水溶液(0.27mol/L硝酸銀、1.3質量%アンモニア、50容量%エタノールを含む水溶液)を用いたこと以外は、実施例8と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0092】
(実施例10)
実施例8において、ポリマーヨウ素複合体調製工程における3Nヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液に代えて、0.8Nヨウ素−ヨウ化アンモニウム−エタノール水溶液(0.4mol/Lヨウ素、1mol/Lヨウ化アンモニウム、66容量%エタノールを含む水溶液)を用いたこと以外は、実施例8と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0093】
(実施例11)
実施例9において、ポリマーヨウ素複合体調製工程における3Nヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液に代えて、0.8Nヨウ素−ヨウ化アンモニウム−エタノール水溶液(0.4mol/Lヨウ素、1mol/Lヨウ化アンモニウム、66容量%エタノールを含む水溶液)を用い、金属種担持ポリマー調製工程における洗浄溶液を純水に代えて、エタノール水溶液を用いたこと以外は、実施例9と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0094】
(実施例12)
実施例11において、2.5M硝酸銀エタノール水溶液に代えて、酢酸パラジウム−エタノール水溶液(0.001mol/L酢酸パラジウム、50容量%エタノールを含む水溶液)を用いたこと以外は、実施例11と同様の方法で銅メッキPETフィルムを得た。
【0095】
(比較例4)
実施例3において、銅メッキ工程を行わなかったこと以外は、実施例3と同様の方法で銀担持PETフィルムを得た。
【0096】
<ポリマーヨウ素複合体調製工程のヨウ素ドープ効率及びPETヨウ素複合体の外観の評価>
実施例3及び5のポリマーヨウ素複合体調製工程におけるヨウ素のドープ量を比較した。
ヨウ素のドープ量は、未処理のポリマー基材の質量(m0)と、ポリマーヨウ素複合体調製工程後の質量(m1)とをそれぞれ測定し、下記式より算出した質量増加率(m(%))により評価した。なお、質量増加率は、8つのPETヨウ素複合体についての平均値として算出した。その結果、実施例3の質量増加率(m)は、31%であり、実施例5の質量増加率(m)は2.2%であった。
また、実施例3及び5のPETヨウ素複合体の外観を観察した結果を図6に示す。
m(%)=(m1−m0)/m0
【0097】
これらの結果より、ポリエステル系フィルム(PET)に対してヨウ素がドープ(ポリマーヨウ素複合体調製)されていることが確認された。
【0098】
<銀担持ポリマーの外観の評価>
実施例3〜12及び比較例4の銀担持PETフィルムの外観を観察したところ、実施例3〜12及び比較例4のいずれのフィルムについても銀ヨウ化物コンポジットが形成され、銀イオンの内部拡散が認められた。
特に実施例4では、1段目の硝酸銀水溶液で処理すると内部への銀の浸潤が明確に進行した。更に、2段目で雷銀−エタノール水溶液で処理した実施例9では、水ぶくれのような構造が生じる程にまで内部への銀の溶液拡散が進行した。一例として、実施例4の結果を図7Aに、実施例9の結果を図7Bに示す。
【0099】
<銅メッキPETフィルムの外観の評価>
実施例3〜12の銅メッキPETフィルム及び比較例4の銀担持PETフィルムの外観を観察した結果を図8に示す。
【0100】
<銅メッキPETフィルムの導電性の評価>
実施例3〜12の銅メッキPETフィルム及び比較例4の銀担持PETフィルムの導電性を実施例1〜2と同様の方法で評価した。結果を下記表2に示す。
なお、比較例4は、導電性がなく、測定することができなかった。
【0101】
<銅メッキPETフィルムの密着性の評価>
実施例3〜12の銅メッキPETフィルム及び比較例4の銀担持PETフィルムの密着性は、機械的な堅牢性により評価した。即ち、金属尖端(ステンレス製の細口ピンセット)、綿棒、紙等で擦る、又は水で洗浄するなどの処理を施した後、銅メッキの剥離を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、下記評価基準に基づいて行った。結果を下記表2に示す。
〔評価基準〕
◎:金属尖端(ステンレス製の細口ピンセット)で擦っても剥離しない
○:ピンセットで擦ると剥離するが、綿棒程度の緩い摩擦では剥離しない
△:紙や綿棒で擦ると剥離するが、溶液洗浄などの水流では剥離しない
×:金属皮膜として表面に析出してはいるが、溶液中の水流や洗浄で剥離する
【0102】
【表2】
なお、表2の「評価」において、「−」は、評価することができなかったことを示す。
【0103】
表2の結果より、金属種担持ポリマー調製工程において、2段目に雷銀で処理すると、導電性が向上することがわかった。
【0104】
(実施例13)
−ポリマーヨウ素複合体調製工程−
ポリマー基材として厚さ1mmのポリメチルメタクリレート(PMMA)板状試料(商品名:コモグラス、クラレ株式会社製)を用いた。
0.8Nヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液(0.4mol/Lヨウ素、1.2mol/Lヨウ化カリウムを含む水溶液)にPMMA板状試料を投入し、ヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液中にPMMA板状試料を5日間浸漬し、ヨウ素をドープしたPMMAヨウ素複合体を得た。
【0105】
−金属種担持ポリマー調製工程−
ポリマーヨウ素複合体調製工程で得られたPMMAヨウ素複合体を処理溶液(ヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液)から取り出した後、純水で洗浄した。次いで、PMMAヨウ素複合体を酢酸パラジウム水溶液(酢酸パラジウム0.0019mol/L、50容量%エタノールを含む水溶液)3mLに投入し、室温(25±5℃)で約3時間浸漬した。これにより、パラジウム担持PMMA板状試料を得た。
【0106】
−銅メッキ工程−
パラジウム担持PMMA板状試料を50容量%エタノールで洗浄した。次いで、無電解銅メッキ水溶液(商品名:スルカップPSY、上村工業株式会社製)でメーカーのプロトコルに従って銅メッキした。これにより銅メッキPMMA板状試料を得た。
【0107】
(実施例14)
実施例13において、金属種担持ポリマー調製工程を以下に示す方法で行ったこと以外は、実施例13と同様の方法で銅メッキPMMA板状試料を得た。
【0108】
−金属種担持ポリマー調製工程−
ポリマーヨウ素複合体調製工程で得られたPMMAヨウ素複合体を処理溶液(ヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液)から取り出した後、純水で洗浄した。次いで、PMMAヨウ素複合体を1M硝酸銀水溶液に投入し、室温(25±5℃)にて約1日間浸漬した。これにより、PMMAヨウ素複合体の内部や表面近傍に金属種(銀)を析出させた銀担持PMMA板状試料を得た。
【0109】
(実施例15)
実施例14において、金属種担持ポリマー調製工程を以下に示す方法で行ったこと以外は、実施例14と同様の方法で銅メッキPMMA板状試料を得た。
【0110】
−金属種担持ポリマー調製工程−
ポリマーヨウ素複合体調製工程で得られたPMMAヨウ素複合体を処理溶液から取り出した後、純水で洗浄した。次いで、PMMAヨウ素複合体を1M硝酸銀水溶液に投入し、室温(25±5℃)にて約1日間浸漬した。(1段目)。次いで、雷銀(銀アンモニア錯体)水溶液(0.27mol/L硝酸銀、1.3質量%アンモニアを含む水溶液)3mLに投入し、更に2日間浸漬した(2段目)。これにより、PMMAヨウ素複合体の内部や表面近傍に金属種(銀)を析出させた銀担持PMMA板状試料を得た。
【0111】
<外観の評価>
実施例13〜15の銅メッキ工程後の銅メッキPMMA板状試料の外観を観察した結果を図10に示す。
【0112】
<銅メッキPMMAの導電性及び密着性の評価>
実施例13〜16の銅メッキPMMA板状試料の導電性及び密着性を実施例3〜12と同様の方法で評価した。結果を下記表3に示す。
【0113】
【表3】
【0114】
表3の結果より、1段目に酢酸パラジウム溶液を用いると、密着性が向上した。
【0115】
実施例1〜15の結果より、本発明の銅メッキポリマーの製造方法によれば、PETやPMMA等の室温で極めて安定な素材に対しても、加熱することなく金属種を均一に担持することができ、担持された金属種がいわゆる触媒のように機能することで引き続く銅メッキ工程における銅メッキの形成効率が向上し、これにより、均一かつ適度な厚みを有する銅メッキを好適に形成できるため、導電性及び密着性に優れるポリマーを得ることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の銅メッキポリマーの製造方法は、ポリマー基材の原料及び形状に制限がなく、該ポリマー基材の表面に対する密着性が高く安定にメッキ被覆層を形成することができ、更に導電性に優れるため、各種機能性材料として用いることができ、例えば、抗菌素材、建材、被服素材、導電性素材、電磁波遮蔽素材、ガス吸収素材、ガス吸蔵素材、触媒素材、及び金属微粒子形成用鋳型素材等として用いることができる。これらの中でも、導電性素材として好適に用いられ、導電スペーサ、ACF用導電材料、電子ペーパー用導通材、ハンダボールなどに特に好適に用いられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー基材に対しヨウ素をドープしてポリマーヨウ素複合体を調製するポリマーヨウ素複合体調製工程と、
前記ポリマーヨウ素複合体に対し金属種をドープして前記ポリマー基材の内部及び外部に金属粒子を析出させた金属種担持ポリマーを調製する金属種担持ポリマー調製工程と、
前記金属種担持ポリマーを銅メッキする銅メッキ工程と、
を含むことを特徴とする銅メッキポリマーの製造方法。
【請求項2】
ポリマー基材が、アクリル樹脂及びポリエステル樹脂から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の銅メッキポリマーの製造方法。
【請求項3】
ポリマーヨウ素複合体調製工程が、ポリマー基材を、ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬することにより行われる請求項1から2のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法。
【請求項4】
金属種担持ポリマー調製工程が、ポリマーヨウ素複合体を、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属酢酸塩、金属炭酸塩、金属塩化物塩、金属臭化物塩、及び金属ヨウ化物、並びにこれらの配位化合物の少なくともいずれかを含む金属塩溶液中に浸漬することにより行われる請求項1から3のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法。
【請求項5】
金属種担持ポリマー調製工程が、ポリマーヨウ素複合体を、金属イオン及び金属錯体の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬することにより行われる請求項4に記載の銅メッキポリマーの製造方法。
【請求項6】
金属種担持ポリマー調製工程が、ポリマーヨウ素複合体を、銀イオン、パラジウムイオン、及び銀アンモニア錯体の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬することにより行われる請求項5に記載の銅メッキポリマーの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法により製造されたことを特徴とする銅メッキポリマー。
【請求項8】
表面抵抗値が、20Ω以下である請求項7に記載の銅メッキポリマー。
【請求項9】
抗菌素材、建材、被服素材、導電性素材、電磁波遮蔽素材、ガス吸収素材、ガス吸蔵素材、触媒素材、及び金属微粒子形成用鋳型素材のいずれかに用いられる請求項7から8のいずれかに記載の銅メッキポリマー。
【請求項1】
ポリマー基材に対しヨウ素をドープしてポリマーヨウ素複合体を調製するポリマーヨウ素複合体調製工程と、
前記ポリマーヨウ素複合体に対し金属種をドープして前記ポリマー基材の内部及び外部に金属粒子を析出させた金属種担持ポリマーを調製する金属種担持ポリマー調製工程と、
前記金属種担持ポリマーを銅メッキする銅メッキ工程と、
を含むことを特徴とする銅メッキポリマーの製造方法。
【請求項2】
ポリマー基材が、アクリル樹脂及びポリエステル樹脂から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の銅メッキポリマーの製造方法。
【請求項3】
ポリマーヨウ素複合体調製工程が、ポリマー基材を、ポリヨウ素及びヨウ素の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬することにより行われる請求項1から2のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法。
【請求項4】
金属種担持ポリマー調製工程が、ポリマーヨウ素複合体を、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属酢酸塩、金属炭酸塩、金属塩化物塩、金属臭化物塩、及び金属ヨウ化物、並びにこれらの配位化合物の少なくともいずれかを含む金属塩溶液中に浸漬することにより行われる請求項1から3のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法。
【請求項5】
金属種担持ポリマー調製工程が、ポリマーヨウ素複合体を、金属イオン及び金属錯体の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬することにより行われる請求項4に記載の銅メッキポリマーの製造方法。
【請求項6】
金属種担持ポリマー調製工程が、ポリマーヨウ素複合体を、銀イオン、パラジウムイオン、及び銀アンモニア錯体の少なくともいずれかを含む溶液中に浸漬することにより行われる請求項5に記載の銅メッキポリマーの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の銅メッキポリマーの製造方法により製造されたことを特徴とする銅メッキポリマー。
【請求項8】
表面抵抗値が、20Ω以下である請求項7に記載の銅メッキポリマー。
【請求項9】
抗菌素材、建材、被服素材、導電性素材、電磁波遮蔽素材、ガス吸収素材、ガス吸蔵素材、触媒素材、及び金属微粒子形成用鋳型素材のいずれかに用いられる請求項7から8のいずれかに記載の銅メッキポリマー。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2013−96000(P2013−96000A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242468(P2011−242468)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
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