説明

銅及びモリブデンを含む多層膜用エッチング液

【課題】
銅及びモリブデンを含む多層膜用エッチング液、及びこれを用いた銅及びモリブデンを含む多層膜のエッチング方法を提供する。
【解決手段】
(A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源、(B)銅イオン供給源、及び(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源を配合してなり、pHが5〜8であり、(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源の(B)銅イオン供給源に対する配合比(モル比)が0.1〜20である銅及びモリブデンを含む多層膜用エッチング液、及びこれを用いたエッチング方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅及びモリブデンを含む多層膜用エッチング液及びこれを用いたエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からフラットパネルディスプレイなどの表示デバイスの配線材料として、アルミニウムまたはアルミニウム合金が一般に使用されてきた。しかし、ディスプレイの大型化及び高解像度化に伴い、このようなアルミニウム系の配線材料では配線抵抗などの特性に起因した信号遅延の問題が発生し、均一な画面表示は困難である。
【0003】
銅は抵抗が低いという利点を有する一方、ゲート配線で用いる場合はガラス等の基板と銅との密着性が十分ではない、またソース・ドレイン配線で用いる場合はその下地となるシリコン半導体膜への拡散が生じる場合があるといった問題がある。そのため、これを防止するために、ガラス等の基板との密着性が高く、シリコン半導体膜への拡散が生じにくいバリア性をも兼ね備えた金属を配するバリア膜の積層の検討が行われている。当該金属としてはモリブデンやチタンといった金属が検討されており、銅とこれらの金属あるいはこれら金属の合金との多層膜構造が採用されている。
【0004】
銅を含む多層構造配線は、スパッタ法などの成膜プロセスによりガラス等の基板上に形成し、次いでレジストなどをマスクにしてエッチングするエッチング工程を経て電極パターンとなる。そして、このエッチング工程の方式にはエッチング液を用いる湿式(ウェット)とプラズマ等のエッチングガスを用いる乾式(ドライ)とがある。ここで、湿式(ウェット)において用いられるエッチング液は、(i)高い加工精度、(ii)エッチング残渣を生じないこと、(iii)成分の安定性や安全性が高く、取り扱いが容易なこと、(iv)エッチング性能が安定していること、などに加えて、ディスプレイの大型化及び高解像度化に対応するために、(v)エッチング後の配線形状を所定の範囲内とする良好な配線形状を得ることが求められる。より具体的には、図1に示される銅を含む配線の断面形状において、(ア)配線端部のエッチング面と下層の基板とのなす角度(テーパー角)が20〜70度の順テーパー形状であること、(イ)配線の下層(ボトム)に設けられるバリア膜の端部からレジスト端部までの水平距離(ボトムCDロス)が0.01〜1μmであることなどが求められる。
【0005】
銅を含む多層膜のエッチング工程で用いられるエッチング液として、銅(II)イオン及びアンモニアを含有するアンモニアアルカリ性のエッチング液が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1及び2を参照)。このようなアンモニアアルカリ性のエッチング液でも銅を含む多層膜のエッチングは可能であるが、該エッチング液はpHが高いため、該エッチング液からアンモニアが大量に揮発し、アンモニア濃度の低下によるエッチングレートの変動や作業環境を著しく悪化させる場合がある。また、pHが高いとレジストが溶解してしまうという問題も発生する。この場合、pHを中性領域にすることによって、エッチング液からのアンモニアの揮発を抑制することはできるが、このようなエッチング液はエッチングの後、水リンスを行う際に残渣が析出するという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−243286号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】PRINTED CIRCUIT ASSEMBLY MANUFACTURING,Fred W.Kear,MARCEL DEKKER,INC.,Page140,1987
【非特許文献2】Zashchita Metallov(1987),Vol.23(2),Page295−7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況下になされたもので、銅及びモリブデンを含む多層膜用エッチング液及びこれを用いた銅及びモリブデンを含む多層膜のエッチング方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、銅及びモリブデンを含む多層膜用エッチング液であって、(A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源、(B)銅イオン供給源、及び(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源を配合してなり、pHが5〜8であり、(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源の(B)銅イオン供給源に対する配合比(モル比)を0.1〜20とすることにより、(ア)配線端部のエッチング面と下層の基板とのなす角度(順テーパー角)が20〜70度であり、且つ(イ)配線の下層(ボトム)に設けられるバリア膜の端部からレジスト端部までの水平距離(ボトムCDロス)が0.01〜1μmであることを特徴とするエッチング液及びエッチング方法を見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
【0010】
[1]銅及びモリブデンを含む多層膜をエッチングするエッチング液であって、(A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源、(B)銅イオン供給源、及び(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源を配合してなり、pHが5〜8であり、(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源の(B)銅イオン供給源に対する配合比(モル比)が0.1〜20であるエッチング液。
[2](A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源が、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びこれらのアンモニウム塩から選ばれる少なくとも一種である上記1に記載のエッチング液。
[3](A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源の(B)銅イオン供給源に対する配合比(モル比)が0.1〜1.5である上記1又は2に記載のエッチング液。
[4](B)銅イオン供給源が、銅、硫酸銅、及び硝酸銅から選ばれる少なくとも一種である上記1〜3のいずれかに記載のエッチング液。
[5](C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源が、アンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、及びリンゴ酸アンモニウムから選ばれる少なくとも一種である上記1〜4のいずれかに記載のエッチング液。
[6]エッチング対象物を上記1〜5のいずれかに記載のエッチング液に接触させ、(ア)配線端部のエッチング面と下層の基板とのなす角度(順テーパー角)が20〜70度であり、且つ(イ)配線の下層(ボトム)に設けられるバリア膜の端部からレジスト端部までの水平距離(ボトムCDロス)が0.01〜1μmであることを特徴とする銅及びモリブデンを含む多層膜のエッチング方法。
[7]多層膜が、モリブデンまたはモリブデンを主成分とする化合物の層と、銅または銅を主成分とする化合物の層を積層した二層膜である上記6に記載のエッチング方法。
[8]多層膜が、モリブデンまたはモリブデンを主成分とする化合物の層と、銅または銅を主成分とする化合物の層、およびモリブデンまたはモリブデンを主成分とする化合物の層を順に積層した三層膜である上記6に記載のエッチング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、銅及びモリブデンを含む多層膜のエッチング工程において、エッチング残渣や析出物が発生せず、ディスプレイの大型化及び高解像度化に対応しうるエッチング液、及びこれを用いた銅及びモリブデンを含む多層膜のエッチング方法を提供することができる。また、当該エッチング液は、銅及びモリブデンを含む多層膜構造からなる配線を、一括でエッチングを行うことができるので、高い生産性で得ることができる。さらに、当該エッチング液はpHが5〜8と中性領域であるためアンモニアの揮発が抑制され、結果としてエッチング液の安定性に優れ、且つ取扱いが容易である。
また本発明によれば、エッチング後の配線形状を、(ア)配線端部のエッチング面と下層の基板とのなす角度(順テーパー角)が20〜70度であり、且つ(イ)配線の下層(ボトム)に設けられるバリア膜の端部からレジスト端部までの水平距離(ボトムCDロス)が0.01〜1μmの範囲内とする良好な配線形状を得ることができるため、ディスプレイの大型化及び高解像度化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のエッチング液を用いてエッチングした時の銅及びモリブデンを含む多層膜構造からなる配線断面の模式図である。
【図2】実施例2のエッチング後の銅及びモリブデンを含む多層膜構造からなる配線断面のSEM写真である。
【図3】比較例2のエッチング後の銅及びモリブデンを含む多層膜構造からなる配線断面のSEM写真である。
【図4】比較例4のエッチング後の銅及びモリブデンを含む多層膜構造からなる配線断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[銅及びモリブデンを含む多層膜用エッチング液]
本発明のエッチング液は銅及びモリブデンを含む多層膜をエッチングするに際し、(ア)配線端部のエッチング面と下層の基板とのなす角度(順テーパー角)が20〜70度であり、且つ(イ)配線の下層(ボトム)に設けられるバリア膜の端部からレジスト端部までの水平距離(ボトムCDロス)が0.01〜1μmであるエッチング液であって、(A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源、(B)銅イオン供給源、及び(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源を配合してなり、pHが5〜8であり、(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源の(B)銅イオン供給源に対する配合比(モル比)が0.1〜20であることを特徴とするものである。
【0014】
《(A)有機酸イオン供給源》
本発明のエッチング液で用いられる(A)有機酸イオン供給源(以下、単に(A)成分ということがある。)は分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸構造を含むものである。この(A)有機酸イオン供給源はエッチング後の基板を水リンスする際、基板上の残渣物や析出物の発生を抑制しうるものである。(A)有機酸イオン供給源としては、例えばリンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸などのモノヒドロキシジカルボン酸;クエン酸、イソクエン酸などのモノヒドロキシトリカルボン酸;グルカル酸、ガラクタル酸などのヒドロキシ糖酸類;ヒドロキシアミンのカルボン酸類などの有機酸が好ましく挙げられ、これらを単独で、又は複数を混合して用いることができる。これらのなかでも、エッチング液中で安定した溶解性を示し、かつ基板上の残渣物や析出物の発生を抑制する観点からは、モノヒドロキシジカルボン酸及びモノヒドロキシトリカルボン酸が好ましく、特にクエン酸、リンゴ酸、及び酒石酸が好ましい。
また、(A)成分としては上記した有機酸のアンモニウム塩、例えばクエン酸アンモニウム、リンゴ酸アンモニウム、酒石酸アンモニウムなども好ましく挙げられる。なお、これらの有機酸のアンモニウム塩は、(A)成分としての機能を有しつつ、後述する(C)成分としての機能も有する。
【0015】
《(B)銅イオン供給源》
本発明のエッチング液で用いられる(B)銅イオン供給源(以下、単に(B)成分ということがある。)は、銅(II)イオンを供給できるものであれば特に制限はないが、良好なエッチング速度を得るために銅のほか、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅、塩化第二銅、臭化第二銅、フッ化第二銅、及びヨウ化第二銅などの銅塩が好ましく挙げられ、これらを単独で又は複数を組み合わせて用いることができる。また、クエン酸銅、酒石酸銅、リンゴ酸銅などの上記(A)有機酸イオン供給源の銅塩も好ましく挙げられる。これらのなかで銅、硫酸銅、及び硝酸銅がより好ましく、特に硫酸銅、及び硝酸銅が好ましい。なお、(A)有機酸イオン供給源の銅塩は、(B)成分としての機能を有しつつ、(A)成分としての機能も有する。
【0016】
《(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源》
本発明のエッチング液で用いられる(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源(以下、単に(C)成分ということがある。)は、アンモニア及び/又はアンモニウムイオンを供給できるものであれば特に制限はなく、アンモニアあるいはアンモニウム塩を用いることができる。
アンモニウム塩としては、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウムのほか、(A)成分の有機酸のアンモニウム塩として例示したクエン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、及びリンゴ酸アンモニウムなどの(A)有機酸イオン供給源のアンモニウム塩なども好ましく挙げられ、これらを単独で又は複数を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、アンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、及びリンゴ酸アンモニウムが好ましイ。なお、(A)有機酸イオン供給源のアンモニウム塩は、(C)成分としての機能を有しつつ、(A)成分としての機能も有する。
【0017】
《エッチング液組成》
本発明のエッチング液における有機酸イオンの配合量は、(A)成分の量、あるイは(B)成分が(A)有機酸イオン供給源の銅塩の場合、及び/又は(C)成分が(A)有機酸イオン供給源のアンモニウム塩の場合は、(A)成分の量とこれら(B)成分及び/又は(C)成分の量との合計量となる。そして、該有機酸イオンの配合量は、(B)銅イオン供給源に対する配合比(モル比)として0.1〜1.5倍であることが好ましく、0.2〜1.0倍がより好ましイ本発明のエッチング液における有機酸イオンの含有量が上記範囲内であれば、基板上の残渣物や析出物の発生を効率的に抑制することができ、エッチング速度や配線断面形状も良好となる。
【0018】
本発明のエッチング液における(B)銅イオン供給源の配合量は、0.01〜1モル/kg−エッチング液の範囲が好ましく、0.02〜0.8モル/kg−エッチング液がより好ましい。(B)成分の配合量が上記範囲内であれば、良好なエッチング速度が得られる。
【0019】
本発明のエッチング液における(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源の配合量は、0.15〜10モル/kg−エッチング液の範囲が好ましく、0.3〜8モル/kg−エッチング液の範囲がより好ましい。また、本発明のエッチング液における(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源の配合量は、(B)銅イオン供給源に対する配合比(モル比)として、0.1〜20であり、好ましくは1〜15であり、特に2〜12が好ましい。配合比が20を超えると配線断面形状が不良となる。(C)成分の配合量が上記範囲内であれば、良好なエッチング速度および配線断面形状が得られる。一方で、配合比が0.1未満であるとエッチング液を調製することが困難となる。
【0020】
《(D)pH調整剤》
本発明のエッチング液では、pH調整を行うため、必要に応じて(D)pH調整剤を配合することができる。(D)pH調整剤としては、該エッチング液の効果を阻害しないものであれば特に制限はなく、アンモニア、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの金属水酸化物、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンなどのアミン塩、塩酸、硫酸、及び硝酸などの無機酸などが好ましく挙げられる。なかでも、アンモニア、水酸化カリウム、硫酸がより好ましい。
本発明における(D)pH調整剤の配合量は、本発明のエッチング液のpHを5〜8とするような量であり、他の成分により決定されるものである。
【0021】
《pH》
本発明のエッチング液は、pH5〜8であることを要し、より好ましくはpH6〜8である。pH5未満であるとエッチング速度が遅くなりすぎる。また、pH8よりも大きいと、配線断面形状が不良となるうえ、エッチング液からアンモニアの揮発が生じるため、エッチング液の安定性や作業環境を損なうおそれがある。
【0022】
《その他の成分》
本発明のエッチング液は、上記した(A)〜(C)成分、及び必要に応じて添加する(D)pH調整剤のほか、水、その他エッチング液に通常用いられる各種添加剤をエッチング液の効果を害しない範囲で含む。水としては、蒸留、イオン交換処理、フイルター処理、各種吸着処理などによって、金属イオンや有機不純物、パーテイクル粒子などが除去されたものが好ましく、特に純水、超純水が好ましい。
【0023】
《テーパー角》
配線端部のエッチング面と下層の基板とのなす角度(テーパー角)は、順テーバ角であることが重要であり、その角度が20〜70度であることが好ましく、さらに25〜65度が好ましく、特に、25〜60度が好ましい。
【0024】
《ボトムCDロス》
配線の下層(ボトム)に設けられるバリア膜の端部からレジスト端部までの水平距離(ボトムCDロス)は0.01〜1μmであることが好ましく、さらに0.05〜0.9μmが好ましく、特に0.1〜0.8μmが好ましい。
【0025】
[銅及びモリブデンを含む多層膜のエッチング方法]
本発明のエッチング方法は、銅及びモリブデンを含む多層膜をエッチングする方法であり、本発明のエッチング液、すなわち(A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源、(B)銅イオン供給源、及び(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源を配合してなり、pHが5〜8であり、(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源の(B)銅イオン供給源に対する配合比(モル比)が0.1〜20であるエッチング液を用いることを特徴とし、エッチング対象物と本発明のエッチング液とを接触させる工程を有するものである。本発明のエッチング方法により、(ア)配線端部のエッチング面と下層の基板とのなす角度(順テーパー角)が20〜70度であり、且つ(イ)配線の下層(ボトム)に設けられるバリア膜の端部からレジスト端部までの水平距離(ボトムCDロス)が0.01〜1μmである銅及びモリブデンを含む多層膜を一括でエッチングを行うことができ、かつエッチング残渣や析出物が発生しない。
【0026】
本発明のエッチング方法は、銅及びモリブデンを含む多層膜をエッチング対象物とする。本発明においてエッチング対象物となる多層膜は、銅または銅を主成分とする化合物の層およびモリブデンまたはモリブデンを主成分とする化合物の層を含む多層構造からなる。多層膜としては、銅または銅を主成分とする化合物の層とモリブデンまたはモリブデンを主成分とする化合物の層とを積層した二層膜、モリブデンまたはモリブデンを主成分とする化合物の層と銅または銅を主成分とする化合物の層とモリブデンまたはモリブデンを主成分とする化合物の層とを積層した三層膜などが挙げられる。特に、モリブデンまたはモリブデンを主成分とする化合物の層、銅または銅を主成分とする化合物の層、モリブデンまたはモリブデンを主成分とする化合物の層の順番で積層した三層膜が、本発明のエッチング液の性能が有効に発揮される観点から、特に好ましい。
銅または銅を主成分とする化合物としては、銅(金属)や銅合金あるいは酸化銅、窒化銅などが挙げられる。モリブデンまたはモリブデンを主成分とする化合物としては、モリブデン(金属)やモリブデン合金、あるイはその酸化物や窒化物などが挙げられる。
本発明のエッチング方法においてエッチング対象物は、例えば、ガラス等の基板上に、モリブデンからなる層と、銅からなる層、およびモリブデンからなる層を積層してなる三層膜を形成する。その上に、レジストを塗布し、所望のパターンマスクを露光転写し、現像して所望のレジストパターンを形成したものをエッチング対象物とする。このような銅及びモリブデンを含む多層膜は、フラットパネルディスプレイ等の表示デバイスの配線などに好ましく用いられるものである。
【0027】
エッチング対象物にエッチング液を接触させる方法には特に制限はなく、例えばエッチング液を滴下(枚葉スピン処理)やスプレーなどの形式により対象物に接触させる方法や、対象物をエッチング液に浸漬させる方法などの湿式(ウェット)エッチング方法を採用することができる。本発明においては、エッチング液を対象物に滴下(枚葉スピン処理)して接触させる方法、エッチング液を対象物にスプレーして接触させる方法が好ましく採用される。また、エッチング液を対象物にスプレーして接触させる方法では、対象物の上方からエッチング液を下向きにスプレーする方法、対象物の下方からエッチング液を上向きにスプレーする方法などが挙げられる。
【0028】
エッチング液の使用温度としては、10〜70℃の温度が好ましく、特に20〜50℃が好ましイ。エッチング液の温度が10℃以上であれば、エッチング速度が良好となるため、優れた生産効率が得られる。一方、70℃以下であれば、液組成変化を抑制し、エッチング条件を一定に保つことができる。エッチング液の温度を高くすることで、エッチング速度は上昇するが、エッチング液の組成変化を小さく抑えることなども考慮した上で、適宜最適な処理温度を決定すればよい。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例により、さらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0030】
エッチング後の銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜の配線断面形状の評価
実施例及び比較例で得られたエッチングを行った後の銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜試料の配線断面について、走査型電子顕微鏡(「S5000H形(型番)」;日立製)を用いて観察倍率3万倍(加速電圧2kV、エミッション電流10μA)で観察した。得られたSEM画像をもとに、配線断面のテーパー角が20〜70度の順テーパー形状、およびボトムCDロスが0.01〜1μmであるものを合格品とした。
【0031】
参考例1
モリブデン/銅/モリブデン/ガラス基板の作製
ガラス基板上にモリブデンをスパッタしてモリブデン(金属)からなる層(モリブデン膜厚:200Å)を成膜し、次イで銅をスパッタして銅(金属)からなる層(銅膜厚:5000Å)を成膜し、再びモリブデンをスパッタしてモリブデン(金属)からなる層(モリブデン膜厚:200Å)を成膜し、モリブデン/銅/モリブデンの三層膜構造とした。さらにレジストを塗布し、ライン状パターンマスク(ライン幅:20μm)を露光転写後、現像することで、レジストパターンを形成したモリブデン/銅/モリブデン/ガラス基板を作製した。
【0032】
実施例1
容量10Lのポリプロピレン容器に純水7536gと(A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有しかつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源としてクエン酸水溶液(濃度:50質量%、扶桑化学工業株式会社製、分子量192.1)700gと、(B)銅イオン供給源として硫酸銅五水和物(和光純薬工業株式会社製、特級グレード、分子量249.7)782g、および(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源の一つとして硫酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社製、特級グレード、分子量132.1)350gを投入した。攪拌して各成分の溶解を確認した後、(D)pH調整剤でありかつ(C)成分の一つでもあるアンモニア水溶液(濃度:28質量%,三菱瓦斯化学株式会社製)632gを加えて、再び攪拌し、エッチング液を調製した。得られたエッチング液の(A)成分の配合量は0.18モル/kg−エッチング液であり、(B)成分の配合量は0.31モル/kg−エッチング液で、(A)成分の(B)成分に対する配合比(モル比)は0.58である。(C)成分の配合量は、硫酸アンモニウムの配合量(0.26モル/kg−エッチング液の二倍量)とアンモニア水溶液の配合量(1.04モル/kg−エッチング液)との合計で1.57モル/kg−エッチング液であり、(C)成分の(B)成分に対する配合比(モル比)は5.0であった。また得られたエッチング液のpHは7.0であった。
得られたエッチング液を用いて、参考例1で得られた、レジストパターンを形成したモリブデン/銅/モリブデン/ガラス基板に対し、小型エッチング機(関東機械工業製)を使用して、35℃でスプレー処理を行った。レジストで覆われてイなイ部分のモリブデン/銅/モリブデン積層膜が消失し、透明なガラス基板が露出するまで時間(ジャストエッチング時間)は、目視で確認した結果、162秒であった。243秒エッチング(50%オーバーエッチング条件)後のモリブデン/銅/モリブデン/ガラス基板を、水リンスした後、ブロワーで乾燥し、光学顕微鏡を用いて観察した結果、パターニングされたレジストで覆われた以外のむき出しのモリブデン/銅/モリブデン積層膜が完全に消失していることが確認された。ガラス基板上に、残渣や析出物は確認されなかった。
エッチング処理後のモリブデン/銅/モリブデン/ガラス基板を破断し、基板の断面を走査型二次電子顕微鏡を用いて観察した結果、配線端部のエッチング面と下層の基板とのなす角度(テーパー角)は25度の順テーパー形状であり、配線の下層(ボトム)端部からレジスト端部までの水平距離(ボトムCDロス)は0.44μmであった。ここで得られた評価結果を表1に示す。
【0033】
実施例2〜8
実施例1において、エッチング液の組成を第1表に示される組成とした以外は、実施例1と同様にしてエッチング液を調製し、該エッチング液を用いてスプレー処理(50%オーバーエッチング条件)を行った。得られた試料について、上記方法により得られた評価結果(ジャストエッチング時間、テーパー角、ボトムCDロス)を第1表に示す。
また走査型二次電子顕微鏡を用いた配線断面の観察結果の一例として、実施例2の二次電子顕微鏡像を図2に示す。
【0034】
【表1】

*1)モル/kg−エッチング液
*2)50%オーバーエッチング条件
【0035】
実施例9〜11
実施例1において、エッチング液の組成およびpHを第2表に示される組成とした以外は、実施例1と同様にしてエッチング液を調製し、該エッチング液を用いてスプレー処理(50%オーバーエッチング条件)を行った。得られた試料について、上記方法により得られた評価結果(ジャストエッチング時間、テーパー角、ボトムCDロス)を第2表に示す。
【0036】
【表2】

*1)モル/kg−エッチング液
*2)50%オーバーエッチング条件
【0037】
本発明のエッチング例を用いた実施例はイずれも、エッチング後の残渣や析出物が確認されず、エッチング時のアンモニア臭気もなかった。
【0038】
比較例1〜4
実施例1において、エッチング液の組成およびpHを第3表に示される組成とした以外は、実施例1と同様にしてエッチング液を調製し、該エッチング液を用いてスプレー処理(50%オーバーエッチング条件)を行った。得られた試料について、上記方法により得られた評価結果(ジャストエッチング時間、テーパー角、ボトムCDロス)を第3表に示す。(C)成分を含まない比較例1(水酸化カリウムを用イてpHを調整)は、エッチング液の成分が溶解せず調製することができないため、評価できなかった。(C)成分の(B)成分に対する配合比(モル比)を20.5とした比較例2では、エッチング処理後のモリブデン/銅/モリブデン/ガラス基板を破断し、基板の断面を走査型二次電子顕微鏡を用いて観察した結果、良好なテーパー形状が得られなかった(比較例2の二次電子顕微鏡像を図3に示す)。pHを4.0とした比較例3では、600秒間スプレー処理を行ってもパターニングされたレジストで覆われた以外のむき出しのモリブデン/銅/モリブデン積層膜が完全には消失しなかった。pHを9.0とした比較例4では、エッチング処理後のモリブデン/銅/モリブデン/ガラス基板を破断し、基板の断面を走査型二次電子顕微鏡を用いて観察した結果、テーパー角が90°と大きく、CDロスも4.48μmと大きかった(比較例4の二次電子顕微鏡像を図4に示す)。
【0039】
【表3】

*1)モル/kg−エッチング液
*2)50%オーバーエッチング条件
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のエッチング液は、銅及びモリブデンを含む多層膜、(なかでもモリブデン/銅/モリブデンの三層膜)のエッチングに好適に用いることができ、当該エッチング液を用いたエッチング方法は、銅及びモリブデンを含む多層構造からなる配線を一括でエッチングすることができ、(ア)配線端部のエッチング面と下層の基板とのなす角度(順テーパー角)が20〜70度であり、且つ(イ)配線の下層(ボトム)に設けられるバリア膜の端部からレジスト端部までの水平距離(ボトムCDロス)が0.01〜1μmであり、エッチング残渣の発生がなく、高い生産性を達成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅及びモリブデンを含む多層膜をエッチングするエッチング液であって、(A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源、(B)銅イオン供給源、及び(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源を配合してなり、pHが5〜8であり、(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源の(B)銅イオン供給源に対する配合比(モル比)が0.1〜20であるエッチング液。
【請求項2】
(A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源が、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びこれらのアンモニウム塩から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
(A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源の(B)銅イオン供給源に対する配合比(モル比)が0.1〜1.5である請求項1又は2に記載のエッチング液。
【請求項4】
(B)銅イオン供給源が、銅、硫酸銅、及び硝酸銅から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項5】
(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源が、アンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、及びリンゴ酸アンモニウムから選ばれる少なくとも一種である請求項1〜4のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項6】
エッチング対象物を請求項1〜5のいずれかに記載のエッチング液に接触させ、(ア)配線端部のエッチング面と下層の基板とのなす角度(順テーパー角)が20〜70度であり、且つ(イ)配線の下層(ボトム)に設けられるバリア膜の端部からレジスト端部までの水平距離(ボトムCDロス)が0.01〜1μmであることを特徴とする銅及びモリブデンを含む多層膜のエッチング方法。
【請求項7】
多層膜が、モリブデンまたはモリブデンを主成分とする化合物の層と、銅または銅を主成分とする化合物の層を積層した二層膜である請求項6に記載のエッチング方法。
【請求項8】
多層膜が、モリブデンまたはモリブデンを主成分とする化合物の層と、銅または銅を主成分とする化合物の層、およびモリブデンまたはモリブデンを主成分とする化合物の層を順に積層した三層膜である請求項6に記載のエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−87353(P2013−87353A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231458(P2011−231458)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】