説明

銅合金及び銅合金塑性加工材

【課題】高強度で、かつ、優れた加工性を有する銅合金、及び、この銅合金からなる銅合金塑性加工材を提供する。
【解決手段】Mgを3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含み、残部が実質的にCu及び不可避不純物とされ、かつ、酸素量が500原子ppm以下とされており、導電率σ(%IACS)が、Mgの含有量をX原子%としたときに、
σ≦1.7241/(−0.0347×X+0.6569×X+1.7)×100
の範囲内とされている。
また、走査型電子顕微鏡観察において、粒径0.1μm以上のCuとMgを主成分とする金属間化合物の平均個数が、1個/μm以下とされている
さらに、少なくともAl,Ni,Si,Mn,Li,Ti,Fe,Co,Cr,Zrの1種又は2種以上を合計で0.01原子%以上3.0原子%以下の範囲で含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、機械部品、電気部品、日用品、建材等に使用される銅合金、及び、この銅合金からなる銅素材を塑性加工することによって成形された銅合金塑性加工材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機械部品、電気部品、日用品、建材等の素材として、鋳塊等に対して、圧延、線引き、押出、溝圧延、鍛造、プレス等の塑性加工を行うことによって成形された銅合金塑性加工材が使用されている。
特に、製造の効率化の観点から、機械部品、電気部品、日用品、建材等の素材として、銅合金の棒、線、管、板、条、帯等の長尺体が使用されている。
【0003】
棒は、例えば、ソケット、ブッシュ、ボルト、ナット、軸、カム、シャフト、スピンドル、バルブ、エンジン部品、抵抗溶接用電極等の素材として使用されている。
線は、例えば、接点、抵抗、ロボット用配線、自動車用配線、トロリー線、ピン、ばね、溶接棒等の素材として使用されている。
管は、例えば、給水管、ガス管、熱交換器、ヒートパイプ、ブレーキパイプ、建材等の素材として使用されている。
板及び条は、例えば、スイッチ、リレー、コネクタ、リードフレーム、屋根板、ガスケット、歯車、ばね、印刷版、ガスケット、ラジエータ、ダイヤフラム、貨幣等の素材として使用されている。
帯は、例えば、太陽電池用インターコネクタ、マグネットワイヤー等の素材として使用されている。
【0004】
ここで、これら棒、線、管、板、条、帯等の長尺体(銅合金塑性加工材)は、それぞれの用途に応じて、各種組成の銅合金が用いられている。
例えば、電子機器や電気機器等に用いられる銅合金として、非特許文献1に記載されているCu−Mg合金、及び、特許文献1に記載されているCu−Mg−Zn−B合金等が開発されている。
【0005】
これらのCu−Mg系合金では、図1に示すCu−Mg系状態図から分かるように、Mgの含有量が3.3原子%以上の場合、溶体化処理と、析出処理を行うことで、CuとMgからなる金属間化合物を析出させることができる。すなわち、これらのCu−Mg系合金においては、析出硬化によって比較的高い導電率と強度を有することが可能となるのである。
【0006】
また、トロリー線等に用いられる銅合金塑性加工材として、特許文献2に記載されているCu−Mg合金の荒引線が提案されている。このCu−Mg合金は、Mgの含有量が0.01質量%以上0.70質量%以下とされており、図1に示すCu−Mg系状態図から分かるように、Mgの含有量が固溶限よりも少なくされており、Mgが銅の母相中に固溶した固溶強化型の銅合金とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07−018354号公報
【特許文献2】特開2010−188362号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】掘茂徳、他2名、「Cu−Mg合金における粒界型析出」、伸銅技術研究会誌Vol.19(1980)p.115−124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、非特許文献1および特許文献1に記載されたCu−Mg系合金では、母相中に多くの粗大なCuとMgを主成分とする金属間化合物が分散されていることから、曲げ加工時にこれらの金属間化合物が起点となって割れ等が発生しやすいため、複雑な形状の製品を成形することができないといった問題があった。
また、特許文献2に記載されたCu−Mg系合金では、Mgが銅の母相中に固溶していることから、加工性に問題はないが、用途によっては強度が不足する場合があった。
【0010】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、高強度で、かつ、優れた加工性を有する銅合金、及び、この銅合金からなる銅合金塑性加工材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、Cu−Mg合金を溶体化後に急冷することによって作製したCu−Mg過飽和固溶体の加工硬化型銅合金においては、高強度であり、かつ、優れた加工性を有するとの知見を得た。また、酸素量を低減することにより、銅合金の引張強度を向上させることが可能であるとの知見を得た。
【0012】
本発明は、かかる知見に基いてなされたものであって、本発明の銅合金は、Mgを3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含み、残部が実質的にCu及び不可避不純物とされ、かつ、酸素量が500原子ppm以下とされており、導電率σ(%IACS)が、Mgの含有量をX原子%としたときに、
σ≦1.7241/(−0.0347×X+0.6569×X+1.7)×100
の範囲内とされていることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の銅合金は、Mgを3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含み、残部が実質的にCu及び不可避不純物とされ、かつ、酸素量が500原子ppm以下とされており、走査型電子顕微鏡観察において、粒径0.1μm以上のCuとMgを主成分とする金属間化合物の平均個数が、1個/μm以下とされていることを特徴としている。
【0014】
さらに、本発明の銅合金は、Mgを3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含み、残部が実質的にCu及び不可避不純物とされ、かつ、酸素量が500原子ppm以下とされており、導電率σ(%IACS)が、Mgの含有量をX原子%としたときに、
σ≦1.7241/(−0.0347×X+0.6569×X+1.7)×100
の範囲内とされており、走査型電子顕微鏡観察において、粒径0.1μm以上の金属間化合物の平均個数が、1個/μm以下とされていることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の銅合金は、Mgを3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含み、さらに少なくともAl,Ni,Si,Mn,Li,Ti,Fe,Co,Cr,Zrの1種又は2種以上を合計で0.01原子%以上3.0原子%以下の範囲で含み、残部が実質的にCu及び不可避不純物とされ、かつ、酸素量が500原子ppm以下とされており、走査型電子顕微鏡観察において、粒径0.1μm以上のCuとMgを主成分とする金属間化合物の平均個数が、1個/μm以下とされていることを特徴としている。
【0016】
上述の構成とされた銅合金においては、図1の状態図に示すように、Mgを固溶限度以上の3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含有しており、かつ、導電率σが、Mgの含有量をX原子%としたときに、上記式の範囲内に設定されていることから、Mgが母相中に過飽和に固溶したCu−Mg過飽和固溶体とされていることになる。
あるいは、Mgを固溶限度以上の3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含有しており、かつ、走査型電子顕微鏡観察において、粒径0.1μm以上の金属間化合物の平均個数が、1個/μm以下とされていることから、金属間化合物の析出が抑制されており、Mgが母相中に過飽和に固溶したCu−Mg過飽和固溶体とされていることになる。
【0017】
なお、粒径0.1μm以上のCuとMgを主成分とする金属間化合物の平均個数は、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、倍率:5万倍、視野:約4.8μmで10視野の観察を行って算出する。
また、CuとMgを主成分とする金属間化合物の粒径は、金属間化合物の長径(途中で粒界に接しない条件で粒内に最も長く引ける直線の長さ)と短径(長径と直角に交わる方向で、途中で粒界に接しない条件で最も長く引ける直線の長さ)の平均値とする。
【0018】
このようなCu−Mg過飽和固溶体からなる銅合金においては、母相中には、割れの起点となる粗大なCuとMgを主成分とする金属間化合物が多く分散されておらず、加工性が大幅に向上することになる。
また、Mgを過飽和に固溶させていることから、加工硬化によって強度を大幅に向上させることが可能となる。
【0019】
そして、本発明の銅合金においては、酸素量が500原子ppm以下とされているので、Mg酸化物の発生量が抑えられることになり、引張強度を大幅に向上させることが可能となる。また、加工時に、Mg酸化物が起点となる断線や割れの発生を抑制でき、加工性を大幅に向上させることができる。
なお、この作用効果を確実に奏功せしめるためには、酸素量を50原子ppm以下とすることが好ましく、さらに酸素量を5原子ppm以下とすることが好ましい
【0020】
さらに、本発明の銅合金において少なくともAl,Ni,Si,Mn,Li,Ti,Fe,Co,Cr,Zrの1種又は2種以上を合計で0.01原子%以上3.0原子%以下の範囲で含む場合には、これらの元素の作用効果により、機械的強度を大幅に向上させることが可能となる。
【0021】
本発明の銅合金塑性加工材は、前述の銅合金からなる銅素材を塑性加工することによって成形されたことを特徴としている。なお、この明細書において塑性加工材とは、いずれかの製造工程において、塑性加工が施された銅合金をいうものとする。
この構成の銅合金塑性加工材においては、前述のように、Cu−Mg過飽和固溶体とされているので、高強度で、かつ、優れた加工性を有することになる。
【0022】
ここで、本発明の銅合金塑性加工材においては、前記銅素材を400℃以上900℃以下の温度にまで加熱する加熱工程と、加熱された前記銅素材を200℃/min以上の冷却速度で、200℃以下にまで冷却する急冷工程と、急冷された銅素材を塑性加工する塑性加工工程と、を備えた製造方法によって成形されたこととすることが好ましい。
この場合、前記銅素材を400℃以上900℃以下の温度にまで加熱する加熱工程により、Mgの溶体化を行うことができる。ここで、加熱温度が400℃未満では、溶体化が不完全となり、母相中にCuとMgを主成分とする金属間化合物が多く残存するおそれがある。一方、加熱温度が900℃を超えると、銅素材の一部が液相となり、組織や表面状態が不均一となるおそれがある。よって、加熱温度400℃以上900℃以下の範囲に設定している。なお、このような作用効果を確実に奏功せしめるためには、加熱工程における加熱温度を500℃以上800℃以下の範囲内とすることが好ましい。
【0023】
また、加熱された前記銅素材を、200℃/min以上の冷却速度で200℃以下にまで冷却する急冷工程を備えているので、冷却の過程でCuとMgを主成分とする金属間化合物が析出することを抑制することが可能となり、銅合金塑性加工材をCu−Mg過飽和固溶体とすることができる。
【0024】
さらに、急冷された銅素材(Cu−Mg過飽和固溶体)に対して塑性加工を行う加工工程を備えているので、加工硬化による強度向上を図ることができる。ここで、加工方法には、特に限定はなく、例えば最終形態が板や条の場合は圧延、線や棒の場合は線引きや押出、溝圧延、バルク形状であれば鍛造やプレスを採用する。加工温度も特に限定されないが、析出が起こらないように、冷間または温間となる−200℃から200℃の範囲となることが好ましい。加工率は最終形状に近づけるよう適宜選択するが、加工硬化を考慮した場合には、20%以上が好ましく、30%以上とすることがより好ましい。
【0025】
また、本発明の銅合金塑性加工材においては、棒、線、管、板、条、帯の中から選択される長尺体とされていることが好ましい。
この場合、高強度で、かつ、加工性に優れた銅合金塑性加工材を効率良く製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高強度で、かつ、優れた加工性を有する銅合金、及び、この銅合金からなる銅合金塑性加工材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】Cu−Mg系状態図である。
【図2】本実施形態である銅合金及び銅合金塑性加工材の製造方法のフロー図である。
【図3】従来例2の析出物を観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の第1の実施形態である銅合金及び銅合金塑性加工材について説明する。
本発明の第1の実施形態である銅合金の成分組成は、Mgを3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含み、残部が実質的にCu及び不可避不純物とされ、かつ、酸素量が500原子ppm以下とされている。すなわち、本実施形態である銅合金及び銅合金塑性加工材は、CuとMgの2元系合金とされているのである。
【0029】
そして、導電率σ(%IACS)が、Mgの含有量をX原子%としたときに、
σ≦1.7241/(−0.0347×X+0.6569×X+1.7)×100
の範囲内とされている。
また、走査型電子顕微鏡観察において、粒径0.1μm以上の金属間化合物の平均個数が、1個/μm以下とされている。
【0030】
(組成)
Mgは、導電率を大きく低下させることなく、強度を向上させるとともに再結晶温度を上昇させる作用効果を有する元素である。また、Mgを母相中に固溶させることにより、優れた曲げ加工性が得られる。
ここで、Mgの含有量が3.3原子%未満では、その作用効果を奏功せしめることはできない。一方、Mgの含有量が6.9原子%を超えると、溶体化のために熱処理を行った際に、CuとMgを主成分とする金属間化合物が残存してしまい、その後の加工等で割れが発生してしまうおそれがある。
このような理由から、Mgの含有量を、3.3原子%以上6.9原子%以下に設定している。
【0031】
さらに、Mgの含有量が少ないと、強度が十分に向上しない。また、Mgは活性元素であることから、過剰に添加されることによって、溶解鋳造時に、酸素と反応して生成されたMg酸化物を巻きこむおそれがある。したがって、Mgの含有量を、3.7原子%以上6.3原子%以下の範囲とすることが、さらに好ましい。
【0032】
また、酸素は、上述のように活性金属であるMgと反応し、Mg酸化物を多量に発生させる元素である。Mg酸化物が銅合金塑性加工材の中に混在した場合には、引張強度が大幅に低下することになる。また、加工時に断線や割れの起点となって加工性を著しく阻害するおそれがある。
そこで、本実施形態では、酸素量を500原子ppm以下に制限しているのである。このように酸素量を制限することで、引張強度の向上、加工性の向上を図ることが可能となるのである。
なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、酸素量を50原子ppm以下とすることが好ましく、さらに酸素量を5原子ppm以下とすることが好ましい
【0033】
なお、不可避不純物としては、Sn,Zn,Fe,Co,Al,Ag,Mn,B,P,Ca,Sr,Ba,Sc,Y,希土類元素,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W, Re,Ru,Os,Se,Te,Rh,Ir,Pd,Pt,Au,Cd,Ga,In, Li,Si,Ge,As,Sb,Ti,Tl,Pb,Bi,S,C,Ni,Be,N,H,Hg等が挙げられる。これらの不可避不純物は、総量で0.3質量%以下であることが望ましい。
特に、Snは0.1質量%未満、Znは0.01質量%未満とすることが好ましい。これは、Snは0.1質量%以上添加されるとCuとMgを主成分とする金属間化合物の析出が起こりやすくなるためであり、Znは0.01質量%以上添加されると溶解鋳造工程においてヒュームが発生して炉やモールドの部材に付着して鋳塊の表面品質が劣化するとともに、耐応力腐食割れ性が劣化するためである。
【0034】
(導電率σ)
CuとMgの2元系合金において、導電率σが、Mgの含有量をX原子%としたとき、
σ≦1.7241/(−0.0347×X+0.6569×X+1.7)×100
の範囲内である場合には、CuとMgを主成分とする金属間化合物がほとんど存在しないことになる。
すなわち、導電率σが上記式を超える場合には、CuとMgを主成分とする金属間化合物が多量に存在し、サイズも比較的大きいことから、曲げ加工性が大幅に劣化することになる。よって、導電率σが、上記式の範囲内となるように、製造条件を調整することになる。
なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、導電率σ(%IACS)を、
σ≦1.7241/(−0.0300×X+0.6763×X+1.7)×100
の範囲内とすることが好ましい。この場合、CuとMgを主成分とする金属間化合物がより少量であるために、曲げ加工性がさらに向上することになる。
さらに、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、導電率σ(%IACS)を、
σ≦1.7241/(−0.0292×X+0.6797×X+1.7)×100
の範囲内とすることが好ましい。この場合、CuとMgを主成分とする金属間化合物がより少量であるために、曲げ加工性がさらに向上することになる。
【0035】
(組織)
本実施形態である電子機器用銅合金においては、走査型電子顕微鏡で観察した結果、粒径0.1μm以上のCuとMgを主成分とする金属間化合物の平均個数が、1個/μm以下とされている。すなわち、CuとMgを主成分とする金属間化合物がほとんど析出しておらず、Mgが母相中に固溶しているのである。
ここで、溶体化が不完全であったり、溶体化後にCuとMgを主成分とする金属間化合物が析出することにより、サイズの大きい金属間化合物が多量に存在すると、これらの金属間化合物が割れの起点となり、加工時に割れが発生したり、曲げ加工性が大幅に劣化することになる。
【0036】
組織を調査した結果、粒径0.1μm以上のCuとMgを主成分とする金属間化合物が合金中に1個/μm以下の場合、すなわち、CuとMgを主成分とする金属間化合物が存在しないあるいは少量である場合、良好な曲げ加工性が得られることになる。
さらに、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、粒径0.05μm以上のCuとMgを主成分とする金属間化合物の個数が合金中に1個/μm以下であることが、より好ましい。
【0037】
なお、CuとMgを主成分とする金属間化合物の平均個数は、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、倍率:5万倍、視野:約4.8μmで10視野の観察を行い、その平均値を算出する。
また、CuとMgを主成分とする金属間化合物の粒径は、金属間化合物の長径(途中で粒界に接しない条件で粒内に最も長く引ける直線の長さ)と短径(長径と直角に交わる方向で、途中で粒界に接しない条件で最も長く引ける直線の長さ)の平均値とする。
【0038】
ここで、CuとMgを主成分とする金属間化合物は、化学式MgCu、プロトタイプMgCu、ピアソン記号cF24、空間群番号Fd−3mで表される結晶構造を有するものである。
【0039】
このような構成とされた本発明の第1の実施形態である銅合金及び銅合金塑性加工材は、例えば、図2のフロー図に示す製造方法によって製造される。
【0040】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、前述の元素を添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を製出する。なお、Mgの添加には、Mg単体やCu−Mg母合金等を用いることができる。また、Mgを含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、本合金のリサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。
ここで、銅溶湯は、純度が99.9999質量%以上とされたいわゆる6NCuとすることが好ましい。また、溶解工程では、Mgの酸化を抑制するために、真空炉、あるいは、不活性ガス雰囲気または還元性雰囲気とされた雰囲気炉を用いることが好ましい。
そして、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
【0041】
(加熱工程S02)
次に、得られた鋳塊の均質化および溶体化のために加熱処理を行う。鋳塊の内部には、凝固の過程においてMgが偏析で濃縮することにより発生したCuとMgを主成分とする金属間化合物等が存在することになる。そこで、これらの偏析および金属間化合物等を消失または低減させるために、鋳塊を400℃以上900℃以下にまで加熱する加熱処理を行うことで、鋳塊内において、Mgを均質に拡散させたり、Mgを母相中に固溶させたりするのである。なお、この加熱工程S02は、非酸化性または還元性雰囲気中で実施することが好ましい。
ここで、加熱温度が400℃未満では、溶体化が不完全となり、母相中にCuとMgを主成分とする金属間化合物が多く残存するおそれがある。一方、加熱温度が900℃を超えると、銅素材の一部が液相となり、組織や表面状態が不均一となるおそれがある。よって、加熱温度を400℃以上900℃以下の範囲に設定している。より好ましくは500℃以上850℃以下、更に好ましくは520℃以上800℃以下とする。
【0042】
(急冷工程S03)
そして、加熱工程S02において400℃以上900℃以下にまで加熱された銅素材を、200℃以下の温度にまで、200℃/min以上の冷却速度で冷却する。この急冷工程S03により、母相中に固溶したMgがCuとMgを主成分とする金属間化合物として析出することを抑制し、走査型電子顕微鏡観察において、粒径0.1μm以上のCuとMgを主成分とする金属間化合物の平均個数を1個/μm以下とすることができる。すなわち、銅素材をCu−Mg過飽和固溶体とすることができるのである。
なお、粗加工の効率化と組織の均一化のために、前述の加熱工程S02の後に熱間加工を実施し、この熱間加工の後に上述の急冷工程S03を実施する構成としてもよい。この場合、加工方法に特に限定はなく、例えば最終形態が板や条の場合には圧延、線や棒の場合には線引きや押出や溝圧延等、バルク形状の場合には鍛造やプレス、を採用することができる。
【0043】
(中間加工工程S04)
加熱工程S02および急冷工程S03を経た銅素材を必要に応じて切断するとともに、加熱工程S02および急冷工程S03等で生成された酸化膜等を除去するために必要に応じて表面研削を行う。そして、所定の形状へと塑性加工を行う。
なお、この中間加工工程S04における温度条件は特に限定はないが、冷間または温間加工となる−200℃から200℃の範囲内とすることが好ましい。また、加工率は、最終形状に近似するように適宜選択されることになるが、最終形状を得るまでの中間熱処理工程S05の回数を減らすためには、20%以上とすることが好ましい。また、加工率を30%以上とすることがより好ましい。加工方法は特に限定されないが、最終形状が板、条の場合は圧延を採用することが好ましい。線や棒の場合には押出や溝圧延、バルク形状の場合には鍛造やプレスを採用することが好ましい。さらに、溶体化の徹底のために、S02〜S04を繰り返しても良い。
【0044】
(中間熱処理工程S05)
中間加工工程S04後に、溶体化の徹底、再結晶組織化または加工性向上のための軟化を目的として熱処理を実施する。
熱処理の方法は特に限定はないが、好ましくは400℃以上900℃以下の条件で、非酸化雰囲気または還元性雰囲気中で熱処理を行う。より好ましくは500℃以上850℃以下、さらに好ましくは520℃以上800℃以下とする。
【0045】
ここで、中間熱処理工程S05においては、400℃以上900℃以下にまで加熱された銅素材を、200℃以下の温度にまで、200℃/min以上の冷却速度で冷却する。このように急冷することによって、母相中に固溶したMgがCuとMgを主成分とする金属間化合物として析出することが抑制されることになり、走査型電子顕微鏡観察において、粒径0.1μm以上のCuとMgを主成分とする金属間化合物の平均個数が1個/μm以下とすることができる。すなわち、銅素材をCu−Mg過飽和固溶体とすることができるのである。
なお、中間加工工程S04及び中間熱処理工程S05は、繰り返し実施してもよい。
【0046】
(仕上加工工程S06)
中間熱処理工程S05後の銅素材を所定の形状に仕上加工を行う。なお、この仕上加工工程S06における温度条件は特に限定はないが、常温で行うことが好ましい。また、塑性加工の加工率は、最終形状に近似するように適宜選択されることになるが、加工硬化によって強度を向上させるためには、20%以上とすることが好ましい。また。さらなる強度の向上を図る場合には、加工率を30%以上とすることがより好ましい。塑性加工方法は特に限定されないが、最終形状が板、条の場合は圧延を採用することが好ましい。線や棒の場合には押出や溝圧延、バルク形状の場合には鍛造やプレスを採用することが好ましい。また、必要に応じて、旋盤加工、フライス加工、ドリル加工といった切削加工を施してもよい。
【0047】
このようにして、本実施形態である銅合金塑性加工材が製出されることになる。なお、本実施形態である銅合金塑性加工材は、棒、線、管、板、条、帯の中から選択される長尺体とされているのである。
【0048】
以上のような構成とされた本実施形態である銅合金及び銅合金塑性加工材によれば、Mgを3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含み、残部が実質的にCu及び不可避不純物とされ、かつ、酸素量が500原子ppm以下とされており、導電率σ(%IACS)が、Mgの含有量をX原子%としたときに、
σ≦1.7241/(−0.0347×X+0.6569×X+1.7)×100
の範囲内とされており、走査型電子顕微鏡観察において、粒径0.1μm以上の金属間化合物の平均個数が、1個/μm以下とされている。
【0049】
すなわち、本実施形態である電子機器用銅合金は、Mgが母相中に過飽和に固溶したCu−Mg過飽和固溶体とされているのである。
このようなCu−Mg過飽和固溶体からなる銅合金では、母相中には、割れの起点となる粗大なCuとMgを主成分とする金属間化合物が多く分散されておらず、曲げ加工性が向上することになる。
しかも、本実施形態では、酸素量が500原子ppm以下とされているので、Mg酸化物の発生量が抑えられることになり、引張強度を大幅に向上させることが可能となる。また、加工時に、Mg酸化物が起点となる断線や割れの発生を抑制でき、加工性を大幅に向上させることができるのである。
【0050】
さらに、本実施形態によれば、Mgを過飽和に固溶させていることから、加工硬化させることで強度が大幅に向上することになり、比較的高い強度を有する銅合金塑性加工材を提供することが可能となる。
【0051】
また、本実施形態である銅合金塑性加工材においては、鋳塊または加工材を400℃以上900℃以下の温度にまで加熱する加熱工程S02と、加熱された鋳塊または加工材を200℃/min以上の冷却速度で、200℃以下にまで冷却する急冷工程S03と、急冷材を塑性加工する中間加工工程S04と、によって成形されているので、Cu−Mg過飽和固溶体とされた銅合金塑性加工材を得ることができる。
【0052】
すなわち、鋳塊または加工材を400℃以上900℃以下の温度にまで加熱する加熱工程02により、Mgの溶体化を行うことができる。
また、加熱工程S02によって400℃以上900℃以下にまで加熱された鋳塊または加工材を、200℃/min以上の冷却速度で200℃以下にまで冷却する急冷工程S03を備えているので、冷却の過程でCuとMgを主成分とする金属間化合物が析出することを抑制することが可能となり、急冷後の鋳塊または加工材をCu−Mg過飽和固溶体とすることができる。
【0053】
さらに、急冷材(Cu−Mg過飽和固溶体)に対して塑性加工を行う中間加工工程S04を備えているので、最終形状に近い形状を容易に得ることができる。
また、中間加工工程S04の後に、溶体化の徹底、再結晶組織化または加工性向上のための軟化を目的として中間熱処理工程S05を備えているので、特性の向上および加工性の向上を図ることができる。
また、中間熱処理工程S05においては、400℃以上900℃以下にまで加熱された塑性加工材を、200℃/min以上の冷却速度で200℃以下にまで冷却するので、冷却の過程でCuとMgを主成分とする金属間化合物が析出することを抑制することが可能となり、急冷後の塑性加工材をCu−Mg過飽和固溶体とすることができる。
また、中間熱処理工程S05後の塑性加工材を、所定の形状に塑性加工するための仕上加工工程S06を備えているので、加工硬化による強度の向上を図ることができる。
【0054】
次に、本発明の第2の実施形態である銅合金及び銅合金塑性加工材について説明する。
本発明の第2の実施形態である銅合金の成分組成は、Mgを3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含み、さらに少なくともAl,Ni,Si,Mn,Li,Ti,Fe,Co,Cr,Zrの1種又は2種以上を合計で0.01原子%以上3.0原子%以下の範囲で含み、残部が実質的にCu及び不可避不純物とされ、かつ、酸素量が500原子ppm以下とされている。
そして、本発明の第2の実施形態である銅合金は、走査型電子顕微鏡観察において、粒径0.1μm以上の金属間化合物の平均個数が、1個/μm以下とされている。
【0055】
(組成)
Mgは、第1の実施形態で記載したように、導電率を大きく低下させることなく、強度を向上させるとともに再結晶温度を上昇させる作用効果を有する元素である。また、Mgを母相中に固溶させることにより、優れた曲げ加工性が得られる。
そこで、Mgの含有量を3.3原子%以上6.9原子%以下に設定している。上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Mgの含有量を、3.7原子%以上6.3原子%以下の範囲とすることが好ましい。
【0056】
また、本実施形態では、第1の実施形態と同様に、酸素量を500原子ppm以下に制限しているのである。これにより、引張強度の向上、加工性の向上を図っている。なお、酸素量を50原子ppm以下とすることが好ましく、さらに酸素量を5原子ppm以下とすることが好ましい
【0057】
そして、本発明の第2の実施形態である銅合金においては、少なくともAl,Ni,Si,Mn,Li,Ti,Fe,Co,Cr,Zrの1種又は2種以上を含んでいる。
Al,Ni,Si,Mn,Li,Ti,Fe,Co,Cr,Zrは、Cu−Mg過飽和固溶体とされた銅合金の強度をさらに向上させる作用効果を有する元素である。
ここで、少なくともAl,Ni,Si,Mn,Li,Ti,Fe,Co,Cr,Zrの1種又は2種以上の元素の含有量の合計が0.1原子%未満では、その作用効果を奏功せしめることはできない。一方、少なくともAl,Ni,Si,Mn,Li,Ti,Fe,Co,Cr,Zrの1種又は2種以上の元素の含有量の合計が3.0原子%を超えると、導電率が大きく低下することから好ましくない。
このような理由から、少なくともAl,Ni,Si,Mn,Li,Ti,Fe,Co,Cr,Zrの1種又は2種以上の元素の含有量の合計を0.1原子%以上3.0原子%以下の範囲内に設定している。
【0058】
なお、不可避不純物としては、Sn,Zn,Ag,B,P,Ca,Sr,Ba,Sc,Y,希土類元素,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Re,Ru,Os,Se,Te,Rh,Ir,Pd,Pt,Au,Cd,Ga,In,Ge,As,Sb,Tl,Pb,Bi,S,C,Be,N,H,Hg等が挙げられる。これらの不可避不純物は、総量で0.3質量%以下であることが望ましい。
特に、Snは0.1質量%未満、Znは0.01質量%未満とすることが好ましい。これは、Snは0.1質量%以上添加されるとCuとMgを主成分とする金属間化合物の析出が起こりやすくなるためであり、Znは0.01質量%以上添加されると溶解鋳造工程においてヒュームが発生して炉やモールドの部材に付着して鋳塊の表面品質が劣化するとともに、耐応力腐食割れ性が劣化するためである。
【0059】
(組織)
本実施形態である銅合金においては、走査型電子顕微鏡で観察した結果、粒径0.1μm以上のCuとMgを主成分とする金属間化合物の平均個数が、1個/μm以下とされている。すなわち、CuとMgを主成分とする金属間化合物がほとんど析出しておらず、Mgが母相中に固溶しているのである。
ここで、CuとMgを主成分とする金属間化合物は、化学式MgCu、プロトタイプMgCu、ピアソン記号cF24、空間群番号Fd−3mで表される結晶構造を有するものである。
【0060】
なお、CuとMgを主成分とする金属間化合物の平均個数は、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、倍率:5万倍、視野:約4.8μmで10視野の観察を行い、その平均値を算出する。
また、CuとMgを主成分とする金属間化合物の粒径は、金属間化合物の長径(途中で粒界に接しない条件で粒内に最も長く引ける直線の長さ)と短径(長径と直角に交わる方向で、途中で粒界に接しない条件で最も長く引ける直線の長さ)の平均値とする。
【0061】
この第2の実施形態である銅合金及び銅合金塑性加工材についても、第1の実施形態と同様の方法によって製造されることになる。
【0062】
このような構成とされた本発明の第2の実施形態である銅合金及び銅合金塑性加工材によれば、走査型電子顕微鏡で観察した結果、粒径0.1μm以上のCuとMgを主成分とする金属間化合物の平均個数が、1個/μm以下とされており、さらに、酸素量が500原子ppm以下とされているので、第1の実施形態と同様に、加工性が大幅に向上されることになる。
【0063】
そして、本実施形態では、少なくともAl,Ni,Si,Mn,Li,Ti,Fe,Co,Cr,Zrの1種又は2種以上を合計で0.01原子%以上3.0原子%以下の範囲で含んでいるので、これらの元素の作用効果により、機械的強度を大幅に向上させることが可能となる。
【0064】
以上、本発明の実施形態である銅合金及び銅合金塑性加工材について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、銅合金塑性加工材の製造方法の一例について説明したが、製造方法は本実施形態に限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
銅原料を坩堝内に装入して、Nガス雰囲気あるいはN−Oガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。得られた銅溶湯内に、各種添加元素を添加して表1に示す成分組成に調製し、カーボン鋳型に注湯して鋳塊を製出した。なお、鋳塊の大きさは、厚さ約50mm×幅約50mm×長さ約300mmとした。また、各種添加元素の酸素含有量は50質量ppm以下のものを使用した。
【0066】
なお、銅原料として、純度99.9999質量%以上の6N銅と、酸素を所定量含有するタフピッチ銅(C1100)のいずれか、あるいは、適宜混合して使用した。これにより、酸素含有量を調整した。
表1に示す酸素含有量は、不活性ガス融解−赤外線吸収分析を用いて、合金中に含有される酸化物の酸素も含めて測定した。
【0067】
得られた鋳塊に対して、Arガス雰囲気中において、表2に記載の温度条件で4時間の加熱を行う加熱工程を実施し、その後、水焼き入れを実施した。
【0068】
熱処理後の鋳塊を切断するとともに、酸化被膜を除去するために表面研削を実施した。その後、常温で、冷間溝圧延を実施し、断面形状を50mm角から10mm角となるように中間加工を実施し、中間材(角棒材)を得た。
そして、得られた中間加工材(角棒材)に対して、表2に記載された温度の条件でソルトバス中で中間熱処理を実施した。その後、水焼入れを実施した。
次に、仕上加工として、引き抜き加工(伸線加工)を実施し、直径0.5mmの仕上材(線材)を製出した。
【0069】
(加工性評価)
加工性の評価は、前述の引き抜き加工(伸線加工)における断線の有無によって評価した。最終形状まで伸線加工できた場合を○とし、伸線加工中において断線が多発し、最終形状まで加工できなかった場合を×とした。
【0070】
前述の特性評価用条材を用いて、機械的特性および導電率を測定した、
(機械的特性)
中間材(角棒材)については、JIS Z 2201に規定される2号試験片を採取し、JIS Z 2241の引張試験方法により、引張強さを測定した。
仕上材(線材)については、JIS Z 2201に規定される9号試験片を採取し、JIS Z 2241の引張試験方法により、引張強さを測定した。
【0071】
(導電率)
中間材(角棒材)に対し、JIS H 0505(非鉄金属材料の体積抵抗率及び導電率測定方法)により、導電率を算出した。
仕上材(線材)に対し、JIS C 3001に準拠した四端子法により、測定長1mにて測定を実施し、電気抵抗値を求めた。測定した電気抵抗値と、線径及び測定長から求めた体積から体積抵抗率を求めて導電率を算出した。
【0072】
(組織観察)
中間材(角棒材)の断面中心に対して、鏡面研磨、イオンエッチングを行った。CuとMgを主成分とする金属間化合物の析出状態を確認するため、FE−SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)を用い、1万倍の視野(約120μm/視野)で観察を行った。
次に、CuとMgを主成分とする金属間化合物の密度(個/μm)を調査するために、金属間化合物の析出状態が特異ではない1万倍の視野(約120μm/視野)を選び、その領域で、5万倍で連続した10視野(約4.8μm/視野)の撮影を行った。金属間化合物の粒径については、金属間化合物の長径(途中で粒界に接しない条件で粒内に最も長く引ける直線の長さ)と短径(長径と直角に交わる方向で、途中で粒界に接しない条件で最も長く引ける直線の長さ)の平均値とした。そして、粒径0.1μm以上および粒径0.05μm以上のCuとMgを主成分とする金属間化合物の密度(個/μm)を求めた。
【0073】
成分組成、製造条件、評価結果について、表1、2に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
Mgの含有量が本発明の範囲よりも低い従来例1においては、中間材(角棒材)及び仕上材(線材)の引張強さがいずれも低かった。
また、CuとMgを主成分とする金属間化合物が多く析出した従来例2においては、中間材(角棒材)の引張強さが低かった。また、引き抜き加工(伸線加工)時に断線が多発したため、製作を中止した。
【0077】
Mgの含有量が本発明の範囲よりも多い比較例1においては、中間加工(冷間溝圧延)時に、粗大な金属間化合物を起点とする大きな割れが発生したことから、その後の製作を中止した。
酸素量が本発明の範囲よりも多い比較例2においては、中間材(角棒材)の引張強さが低かった。また、引き抜き加工(伸線加工)時に断線が多発したため、製作を中止した。Mg酸化物の影響であると推測される。
Al,Ni,Si,Mn,Li,Ti,Fe,Co,Cr,Zrの1種又は2種以上の含有量の合計が3.0原子%を超えた比較例3,4については、導電率が大幅に低下していることが確認される。
【0078】
これに対して、本発明例1−21においては、加工性、中間材及び仕上材の引張強さ、導電率が確保されていることが確認される。
【0079】
ここで、従来例2において確認された析出物の電子回折パターンを図3に示す。この電子回折パターンは、ピアソン記号cF24、空間群番号Fd−3m(227)、格子定数a=b=c=0.7034nmであるMgCuの電子線入射方位を、
【数1】

として得られる電子線回折パターンと一致するものであり、本発明における「CuとMgを主成分とする金属間化合物」に該当する。
【0080】
そして、本発明例1−21においては、上述したCuとMgを主成分とする金属間化合物が観察されておらず、Mgが母相中に過飽和に固溶したCu−Mg過飽和固溶体とされているのである。
【0081】
以上のことから、本発明例によれば、高強度で、かつ、優れた加工性を有する銅合金、及び、この銅合金からなる銅合金塑性加工材を提供できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgを3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含み、残部が実質的にCu及び不可避不純物とされ、かつ、酸素量が500原子ppm以下とされており、
導電率σ(%IACS)が、Mgの含有量をX原子%としたときに、
σ≦1.7241/(−0.0347×X+0.6569×X+1.7)×100
の範囲内とされていることを特徴とする銅合金。
【請求項2】
Mgを3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含み、残部が実質的にCu及び不可避不純物とされ、かつ、酸素量が500原子ppm以下とされており、
走査型電子顕微鏡観察において、粒径0.1μm以上のCuとMgを主成分とする金属間化合物の平均個数が、1個/μm以下とされていることを特徴とする銅合金。
【請求項3】
Mgを3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含み、残部が実質的にCu及び不可避不純物とされ、かつ、酸素量が500原子ppm以下とされており、
導電率σ(%IACS)が、Mgの含有量をX原子%としたときに、
σ≦1.7241/(−0.0347×X+0.6569×X+1.7)×100
の範囲内とされており、
走査型電子顕微鏡観察において、粒径0.1μm以上の金属間化合物の平均個数が、1個/μm以下とされていることを特徴とする銅合金。
【請求項4】
Mgを3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含み、さらに少なくともAl,Ni,Si,Mn,Li,Ti,Fe,Co,Cr,Zrの1種又は2種以上を合計で0.01原子%以上3.0原子%以下の範囲で含み、残部が実質的にCu及び不可避不純物とされ、かつ、酸素量が500原子ppm以下とされており、
走査型電子顕微鏡観察において、粒径0.1μm以上のCuとMgを主成分とする金属間化合物の平均個数が、1個/μm以下とされていることを特徴とする銅合金。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の銅合金からなる銅素材を塑性加工することによって成形されたことを特徴とする銅合金塑性加工材。
【請求項6】
前記銅素材を400℃以上900℃以下の温度にまで加熱する加熱工程と、加熱された前記銅素材を200℃/min以上の冷却速度で、200℃以下にまで冷却する急冷工程と、急冷された銅素材を塑性加工する塑性加工工程と、を備えた製造方法によって成形されたことを特徴とする請求項5に記載の銅合金塑性加工材。
【請求項7】
棒、線、管、板、条、帯の中から選択される長尺体とされていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の銅合金塑性加工材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−104101(P2013−104101A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248731(P2011−248731)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)