説明

銅含有酸性廃液からの銅の回収方法及び装置

【課題】産業廃棄物として処分されていた塩化銅含有エッチング廃液や電解銅箔メッキ浴の更新廃液などの銅含有酸性廃液を複雑な設備を要することなく処理し、銅含有酸性廃液から塩素含有率が低い酸化銅を回収する方法を提供する。
【解決手段】所定量のアルカリ性溶液が供給された混合反応槽中に、当該混合反応槽中の液のpHが一時的にでも9以下に下がらないよう管理しつつ、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液を、当該混合反応槽中に注加、混合し、酸化銅を主成分とする固形物を含有するアルカリ性懸濁液を生成させ、当該アルカリ性懸濁液中から当該固形物を分離する銅の回収方法であって、当該混合液の添加量が混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の少なくとも0.5当量を超えた時点において、混合反応槽中への当該混合液の注加を間欠的に行いつつ、注加の休止時間を10分以上とする銅含有酸性廃液からの銅回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液や電解銅箔製造におけるメッキ浴液の更新廃液などの銅イオンを含有する銅含有酸性廃液を処理して銅を回収する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅イオンを高濃度で含有する酸性の廃液(以下、「銅含有酸性廃液」という)としては、銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液や、電解銅箔製造におけるメッキ浴液の更新廃液などが知られている。これらの廃液は、銅濃度が5〜20質量%(以下、単に「%」で示す)程度と高い一方で、共存する塩化物イオンや硫酸イオンの濃度も通常5〜30%と高い。
【0003】
このような銅含有酸性廃液を対象にした銅の回収処理としては、イオン化傾向の差を利用し、例えば鉄スクラップと反応させて金属銅を析出させて回収する方法が一部で行われているが、この方法では廃液からの銅回収率が低い。また、銅イオンとの反応により溶出した鉄イオンと残留した銅イオンが含まれる廃液が残るため、この廃液の処理が別途必要になり効率的な処理方法とは言いがたい。
【0004】
また、一般的な方法として、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性物質を添加することにより重金属類を水酸化物として沈殿除去する処理方法が知られているが、この方法は、生成する水酸化銅スラッジの含水率が高く量も多いため、銅イオンの含有濃度が高い銅含有酸性廃液の処理には適さない。
【0005】
ところで、本発明者らは特許文献1において、銅含有酸性廃液と酸化剤を混合した後、アルカリ溶液に添加することで、酸化銅を製造・回収できる方法を開示した。この方法によれば、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液をアルカリ溶液に滴下することで、複塩を含まない酸化銅が製造できる。これは、適切な希釈効果を得ながら銅含有酸性廃液を中和・酸化できるためである。
【0006】
上記特許文献1の方法で得られた酸化銅は、要求される純度が比較的低い酸化銅の用途であればそのまま再利用することも可能であるが、例えば、プリント基板の銅めっき浴液の原料等に再利用する場合には、問題があった。
【0007】
すなわち、プリント基板の銅めっき浴液の原料に用いられる酸化銅の塩素含有率は、銅めっき浴液の塩化物イオン濃度がめっき状態に影響するため低いことが望ましいが、特許文献1の方法を用い酸化銅を製造した場合には塩素含有率が約400mg−Cl/kg−CuOとやや高く、銅めっき浴液の原料等として再利用するためには、更に純度を向上させるため反応工程の工夫や別途純度を向上させる工程が必要であった。
【0008】
従って、銅含有酸性廃液を処理して、回収した酸化銅を銅めっき浴液の原料等として再利用するリサイクルを成立させるためには、銅含有酸性廃液の処理設備と製造酸化銅の純度向上設備が必要となり、全体の設備が複雑になるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許4199821号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、これまで産業廃棄物として処分されていた塩化銅含有エッチング廃液や電解銅箔メッキ浴の更新廃液などの銅含有酸性廃液を複雑な設備を要することなく処理し、銅含有酸性廃液から塩素含有率が低い酸化銅を回収するための方法及び装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、処理対象液である銅イオンを高濃度で含有する酸性廃液と酸化剤とを混合した後、所定のpH域になるよう管理しつつアルカリ溶液に注加、混合する際に、所定の時点を超えた以降は、混合反応槽中への当該混合液の注加を間欠的に行いつつ、その注加の休止時間を延長することで、生成する酸化銅の塩素含有率を低減できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は次の内容を含むものである。
(1)所定量のアルカリ性溶液が供給された混合反応槽中に、当該混合反応槽中の液のpHが一時的にでも9以下に下がらないよう管理しつつ、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液を、当該混合反応槽中に注加、混合し、酸化銅を主成分とする固形物を含有するアルカリ性懸濁液を生成させ、当該アルカリ性懸濁液中から当該固形物を分離する銅の回収方法であって、
当該混合液の添加量が混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の少なくとも0.5当量を超えた時点において、混合反応槽中への当該混合液の注加を間欠的に行いつつ、注加の休止時間を10分以上とすることを特徴とする銅含有酸性廃液からの銅回収方法。
【0013】
(2)当該混合液の添加を、終止間欠的に行い、かつ、当該混合液の添加量が混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の0.5当量を超えた場合の注加の休止時間を、当該混合液の添加量が混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の0.5当量までの注加の休止時間の3倍以上とすることを特徴とする上記(1)記載の銅含有酸性廃液からの銅の回収方法。
【0014】
(3)当該混合液の添加を、終止間欠的に行い、かつ、混合反応槽のpHが、混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の0.5当量に相当する銅含有酸性廃液を添加した状態におけるpHよりも低くなった後においては、当該混合液の注加の休止時間を、pHが低くなるまでの混合液の注加の休止時間の3倍以上とすることを特徴とする上記(1)記載の銅含有酸性廃液からの銅の回収方法。
【0015】
(4)混合反応槽中の懸濁液のpHの管理を、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液及び/またはアルカリ剤の注加により行う上記(1)ないし(3)の何れかに記載の銅含有酸性廃液からの銅の回収方法。
【0016】
(5)銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液をアルカリ性溶液が供給された混合反応槽に滴下または配管を通じて供給することを特徴とする上記(1)ないし(4)の何れかに記載の銅含有酸性廃液からの銅回収の方法。
【0017】
(6)銅含有酸性廃液と酸化剤を混合する手段、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液を混合反応槽へ注加する手段、アルカリ剤が供給され、注加された該混合液と該アルカリ剤の反応により酸化銅を含むアルカリ性懸濁液を生成する混合反応槽及び該混合反応槽と連通し該混合反応槽より引き抜いた酸化銅を含むアルカリ性懸濁液から酸化銅を回収する固液分離装置であって、
更に、
銅含有酸性廃液の総注加量を測定する手段、
及び銅含有酸性廃液の総注加量に応じて、該混合液の注加を制御する手段、
を備えることを特徴とする銅含有酸性廃液からの銅の回収設備。
【0018】
(7)銅含有酸性廃液と酸化剤を混合する手段、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液を混合反応槽へ注加する手段、アルカリ剤が供給され、注加された該混合液と該アルカリ剤の反応により酸化銅を含むアルカリ性懸濁液を生成する混合反応槽及び該混合反応槽と連通し該混合反応槽より引き抜いた酸化銅を含むアルカリ性懸濁液から酸化銅を回収する固液分離装置であって、
更に、
銅含有酸性廃液と酸化剤の該混合液の注加回数を数える手段、
及び注加回数に応じて、該混合液の注加を制御する手段、
を備えることを特徴とする銅含有酸性廃液からの銅の回収設備。
【0019】
(8)銅含有酸性廃液と酸化剤を混合する手段、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液を混合反応槽へ注加する手段、アルカリ剤が供給され、注加された該混合液と該アルカリ剤の反応により酸化銅を含むアルカリ性懸濁液を生成する混合反応槽、及び該混合反応槽と連通し該混合反応槽より引き抜いた酸化銅を含むアルカリ性懸濁液から酸化銅を回収する固液分離装置であって、
更に、
該混合反応槽のpHを測定するための手段、
及び該混合槽のpHに応じて、該混合液の注加を制御する手段、
を備えることを特徴とする銅含有酸性廃液からの銅の回収設備。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、これまでの処理技術では複塩の生成などにより処理が困難であった、銅イオンの含有濃度が5〜20%という高濃度の銅含有酸性廃液を希釈することなく直接処理することができ、しかも、塩素含有率の低い酸化銅として回収することができる。
【0021】
また、通常、反応に供するアルカリ溶液や銅含有酸性廃液は、それらの液温が高い場合に反応が良好に進み、製造した酸化銅の塩素含有率が低くなる傾向があるので、アルカリ溶液や銅含有酸性廃液をあらかじめ加温することがあるが、本発明によれば、アルカリ溶液や銅含有酸性廃液をあらかじめ加温することは特に必要無く、常温で反応を開始することができるため、特別な加温設備が不要となる。
【0022】
更に、本発明方法で得られる酸化銅は、上記の通り塩素含有率が低く、銅めっき浴液の原料としてそのまま使用できるため、めっき工場内に本発明にかかる装置を設置すれば工場内での銅の再利用が可能となり、省資源に寄与する。また、高濃度の銅含有酸性廃液を外部に排出する必要が無くなるため、廃棄物削減にも寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の銅含有酸性廃液からの銅の回収方法(以下、「本発明方法」という)による処理プロセスでは、所定量のアルカリ性溶液が供給された混合反応槽中に、当該混合反応槽中の液のpHが一時的にでも9以下に下がらないよう管理しつつ、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液を、当該混合反応槽中に注加、混合し、酸化銅を主成分とする固形物を含有するアルカリ性懸濁液を生成させる。この時、混合反応槽への銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液の注加量が、混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の少なくとも0.5当量を超えた時点において、混合反応槽中への当該混合液の注加を間欠的に行うことが必要であり、この場合の注加の休止時間を10分以上とすることが必要である。この混合液の注加量が、混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の少なくとも0.5当量を超えた時点において、混合反応槽中への当該混合液の注加の休止時間を10分以上とする理由を以下に述べる。銅含有酸性廃液の注加量が0.5当量までは、塩素含有率の低い酸化銅が生成するが、銅含有酸性廃液の注加量が0.5当量を超えた後には、注加の休止時間を3分とったとしても、塩素含有率が高い酸化銅(約200mg−Cl/kg−CuO)しか生成しない。これに対し、銅含有酸性廃液の注加量が0.5当量を超えた後に、混合液の注加の休止時間を10分以上とした所、生成する酸化銅の塩素含有率が低減(約100mg−Cl/kg−CuO)できることを見いだしたからある。
【0024】
本発明方法で処理対象となる銅含有酸性廃液としては、銅をイオン状態で含有する酸性廃液であれば、これに含まれる銅イオン濃度や、アニオン濃度に特に制約されない。本発明方法で特に好適に処理できる銅含有酸性廃液の具体例としては、例えば、銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液や、電解銅箔製造におけるメッキ浴液の更新廃液など、銅イオン濃度及び塩化物イオン濃度、硫酸イオン濃度等の高い廃液が挙げられる。
【0025】
また、本発明方法で利用される酸化剤としては、2価の銅イオンを酸化できるものであれば、特に制約されず、種々の酸化剤を利用することができる。しかしながら、溶液として取り扱えることや、反応後に水以外の成分が残らないことから、本発明においては、酸化剤として過酸化水素やオゾン水などが適している。これらの酸化剤の中でも、過酸化水素は特別な発生装置が不要で、取り扱いが容易なことから、本用途には特に適している。酸化剤として過酸化水素を用いる場合の濃度は特に限定されないが、例えば、市販で入手が容易な30%程度の過酸化水素水が挙げられる。また、酸化剤としてオゾン水を用いる場合、オゾン水に代えて、気体オゾンを直接銅含有酸性廃液に吹き込んでもよい。
【0026】
更に、本発明方法で利用されるアルカリ性溶液としては、アルカリ剤を含有させた溶液であれば特に制限されない。このアルカリ性溶液に利用されるアルカリ剤としては、種々のアルカリ剤の何れも使用することができ、その形態としては、固体状でも液体状でもよい。具体的なアルカリ剤の選定には、溶液中に共存する可能性がある陰イオンと沈降性の塩を形成しないアルカリ金属の水酸化物が適当である。一方、アルカリ性溶液量は、処理する銅含有酸性廃液量によって決定される。即ち、予め小スケールの実験で、混合すると中和する銅含有酸性廃液とアルカリ性溶液の比率を決める。実際の処理では、この比率を元に必要なアルカリ性溶液量を決めると良い。
【0027】
アルカリ剤として固体状のアルカリを使用する場合は、廃液量の増加を抑制できる利点がある。また、固体状のアルカリ剤を用いる場合、固体状のアルカリ剤を水等で予め溶解させてから混合反応槽に供給しても良く、混合反応槽内に固体状のまま供給して混合反応槽で溶解させても良い。更に、固体状のアルカリ剤を溶解させる水としては後記する固液分離により固形物から分離された分離液、分離された固形物の洗浄処理で生じた洗浄処理排水等を用いることもできる。
【0028】
本発明方法では、アルカリ剤として比較的安価で入手が容易なことから水酸化ナトリウムが好ましい。水酸化ナトリウムを用いる場合は、フレーク状、粒状等固体や溶液を利用できる。水酸化ナトリウム溶液を用いる場合は、濃度は特に限定されないが、例えば、25%程度の濃度の水酸化ナトリウム溶液が利用できる。
【0029】
以上まとめた形態を踏まえ、酸化剤として過酸化水素溶液を、アルカリ性溶液として水酸化ナトリウム溶液を用いる場合を例にとり、銅含有酸性廃液と過酸化水素溶液を混合し、この混合液(以下、単に「混合液」ということもある)を水酸化ナトリウム溶液に注加する反応を以下に説明する。
【0030】
本発明方法による処理プロセスにおいては、まず、銅含有酸性廃液と過酸化水素溶液とを混合させ、この混合液を水酸化ナトリウム溶液に注加し、pHが9を下回らないように反応させるという添加順序および管理が重要である。
【0031】
銅含有酸性廃液に第一銅イオンが含有される場合には、水酸化ナトリウム溶液と接触させる前に過酸化水素溶液と混合することで、過酸化水素の酸化作用により第一銅イオンが第二銅イオンに酸化されるため、水酸化ナトリウム溶液と接触しても塩化第一銅(CuCl)などの第一銅塩の析出を回避できる。
【0032】
本発明方法において、銅含有酸性廃液と過酸化水素溶液を混合し、銅イオンと過酸化水素とを反応させるために必要な時間は、混合する両者の濃度にもよるが、両者が高濃度の場合は、酸化反応は速やかに進行するので、5〜20秒間程度でも酸化反応が十分に進行する。
【0033】
一方で、銅含有酸性廃液と過酸化水素溶液を混合すると、過酸化水素の分解反応が進行する。その分解反応は、両者を混合後約60秒経過した時点から顕在化し、7分間〜10分間経過後には顕著な発泡を伴いながら激しく進行する。混合する両者の濃度にもよるが、例えば、銅含有酸性廃液中の銅イオンに対し、モル量で2倍量の過酸化水素を含む過酸化水素溶液と混合した場合、過酸化水素の分解に伴う発泡は20分間経過後には減少し、25分間経過後には僅かなものになり、この時点で水酸化ナトリウム溶液に注加した場合には酸化剤が分解しているため、酸化銅よりも水酸化銅を多く含む沈殿物が生成する。
【0034】
以上のことから、銅含有酸性廃液と過酸化水素溶液との混合・反応時間として、5秒間〜20分間程度、望ましくは20秒間〜7分間程度の時間を取ることが好ましい。
【0035】
銅含有酸性廃液と過酸化水素溶液を混合した混合液の、混合反応槽内の水酸化ナトリウム溶液への注加は、連続的でも間欠的もかまわないが、好ましくは間欠的に行う。こうすることで、混合液中の第二銅イオンの酸化銅への反応が、混合液を水酸化ナトリウム溶液に注加し、中和する際に速やかに進む。混合液を注加する方法としては、例えば、混合反応槽に滴下する方法や配管を通して液中に供給する方法等が適用可能である。
【0036】
一方、水酸化ナトリウム溶液の注加方法としては、混合反応槽に到達する前に上記混合液と混ざらないよう供給する以外は、特に限定されず、例えば、混合反応槽に滴下する方法や少量を連続的に注入する方法等が挙げられる。なお、水酸化ナトリウム溶液は加熱せずに混合反応槽に注加することができる。
【0037】
次に、銅含有酸性廃液と過酸化水素溶液との混合液と水酸化ナトリウム溶液との反応について説明する。ここで、複塩の生成を回避するためには、イオンとしての銅濃度が希薄な条件下で反応させることが必要である。また、銅イオンの酸化反応を速やかに進行させるためには、酸化剤の反応性が高くなるアルカリ性条件下で反応させることが望ましいため、混合反応槽中の液のpHは一時的にでも9以下に下がらないようする。好ましくは11.5に管理する必要がある。このpHを管理する方法としては、例えば、混合反応槽へ銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液の注加を少量ずつ行う方法及び/またはアルカリ剤の注加により管理する方法等が挙げられる。
【0038】
上記のようにして混合反応槽中の液のpHが管理された状態で、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液を、当該混合反応槽中に注加、混合し、酸化銅を主成分とする固形物を含有するアルカリ性懸濁液を生成させ、当該アルカリ性懸濁液中から当該固形物を分離することにより銅を回収することができるのであるが、更に以下のごとく処理することで、塩素イオンの含量が少ない酸化銅を主成分とする固形物が得られるのである。
【0039】
本発明方法は、上記回収において、混合液の添加量が混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の少なくとも0.5当量を超えた時点において、混合反応槽中への当該混合液の注加を間欠的に行いつつ、その注加の休止時間を10分以上、好ましくは30分とするものである。これにより生成した酸化銅の塩素含有率を低減させることができる。ここで混合液の間欠的な注加とは、混合液の注加と、その休止を交互に行うものである。また、混合液の間欠的な注加を行っている際、混合反応槽の撹拌は連続的に行うことが望ましい。
【0040】
なお、混合液の添加量が混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の少なくとも0.5当量となるまでは、混合液の注加量が水酸化ナトリウム溶液に対し十分少なければ、適切な希釈効果を得ながら銅含有酸性廃液が中和・酸化されるので、その注加方法は特に限定されず、連続的な注加であっても、または間欠的な注加であってもよいが、好ましくは間欠的な注加である。この間欠的な注加の条件としては、例えば、注加を3分とし、休止時間を3分とする条件が挙げられる。
【0041】
注加の休止時間は、混合液の添加量、反応混合層のpH、混合液の添加回数等を元に設定することができ、例えば、次のようして決めることができる。すなわち、混合液の添加を終止間欠的に行いつつ、当該混合液の添加量が混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の0.5当量までの注加の休止時間を、3分とし、0.5当量を超えた場合の注加の休止時間を、上記銅含有酸性廃液量の0.5当量までの注加の休止時間の3倍以上、好ましくは10倍とすればよい。
【0042】
より具体的な態様の一つとしては、混合液の添加を終止間欠的に行う方法であって、混合反応槽に供給したアルカリ性溶液を中和する銅含有酸性廃液量の0.5当量に相当する量を添加するまでは、混合液の注加の時間間隔(休止時間)を3分とし、0.5当量を超えた後は、混合液の注加の時間間隔(休止時間)を10分以上、好ましくは30分とする方法が挙げられる。なお、混合液の注加にかかる時間は3分とする。ここで、0.5当量を境界として、混合液の注加の休止時間を長くした理由を以下に述べる。後述する比較例の結果で示されるように、注加の休止時間を3分として0.5当量相当まで混合液を注加すると、塩素含有率100mg−Cl/kg−CuO未満の酸化銅が製造できる。しかし更に、0.8当量相当まで注加の休止時間を3分とした場合(実施例の対照系列)、塩素含有率が200mg−Cl/kg−CuO程度まで増加してしまった。これに対し、0.5当量を境界に、0.5当量まで注加の休止時間を3分とし、0.5当量を超えて0.8当量まで注加の休止時間を30分とした場合(実施例のRun3)では、塩素含有率を100mg−Cl/kg−CuO未満まで改善することができた。これらの知見をまとめると、混合反応槽に供給したアルカリ性溶液量に対し、これを中和する銅含有酸性廃液量が0.5当量を超えた場合の注加の休止時間を0.5当量までの注加の休止時間よりも長くすることが、回収酸化銅の塩素含有率低減に有効であると判断されたのである。
【0043】
また、別の態様の注加の休止時間の設定方法は次の通りである。混合液の添加を終止間欠的に行う方法であって、混合反応槽のpHが、混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の0.5当量に相当する銅含有酸性廃液を添加した状態におけるpHよりも低くなった後においては、当該混合液の注加の休止時間を、pHが低くなるまでの混合液の注加の休止時間の3倍以上、好ましくは10倍とする方法である。
なお、混合反応槽のpHが、混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の0.5当量に相当する銅含有酸性廃液を添加した状態でのpHより高い場合には注加の休止時間を3分とすればよい。
【0044】
この態様において、銅含有酸性廃液を0.5当量添加した状態でのアルカリ剤溶液のpHは、具体的には以下の方法で決めることができる。即ち、あらかじめ小スケールでの実験において、使用するアルカリ性溶液に銅含有酸性廃液を添加し、中和曲線を測定する。ここから、銅含有酸性廃液を0.5当量注加した場合のアルカリ性溶液のpHを求め、このpHを休止時間の設定の目安とするとよい。
【0045】
また更に、別の態様の休止時間の設定方法としては、上記混合液の添加量および混合反応槽のpHは、混合液の注加回数に対応しているので、これを目安に混合液の注加の休止時間を設定する方法を挙げることもできる。
【0046】
なお、何れの休止時間の設定方法でも、注加回数が少ないと1回あたりの混合液すなわち銅含有酸性廃液の注加量が増加し、混合反応槽のアルカリ性溶液と混合した時の希釈効果が小さくなる。この場合、混合液中の銅イオンが酸化銅まで酸化されず、水酸化銅が生成する可能性があり、事前に小スケールでの実験などで適切な注加回数を決めることが好ましい。
【0047】
本発明方法においては、処理の終了は酸化銅を主成分とする固形物が生成さえされていれば、どの時点でも特に問題はないが、当該混合液の添加量が混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の0.5当量以上、好ましくは0.8当量となる量である。銅含有酸性廃液が0.5当量未満の添加量で反応を停止させた場合は、塩素含有率の低い酸化銅を回収できるが、反応スラリーの上澄液が高pHであるため、溶解性の銅が残留したり、必要なアルカリ剤溶液量が増加する。一方、銅含有酸性廃液を0.8当量を超えて添加した場合、反応スラリーの上澄液のpHが7に近くなるため、アルカリ剤溶液を有効に活用できるが、回収酸化銅の塩素含有率が高くなるという問題点がある。
【0048】
なお、処理の終了時、混合反応槽中の液のpHは、pH9〜11.5の間にすることが望ましい。これは、pHが7未満ではCu2+が生成し、pHが11.5を超えるとCuO2−等のイオン状の銅が生成するため、いずれも混合反応槽内の溶液中の銅イオン濃度が高くなり、このような状態では、精製した酸化銅を固液分離した後の分離液の銅濃度も高くなるので、銅の回収率が悪化することや、分離液から銅を除去する処理が更に必要となるためである。また、pHが9より低いと回収酸化銅の塩素含有率が高くなり、再利用する際には別途精製操作が必要となる。このように混合反応槽内の溶液を銅イオン濃度が低い状態を維持することで、これによる希釈効果が得られ、複塩の生成を回避して酸化剤による銅イオンからの酸化銅の生成反応を良好に維持、進行することができる。従って、効率良く酸化銅を析出させることが可能となる。
【0049】
混合反応槽での反応終了後、必要により休止時間と同程度の時間撹拌を行った後、酸化銅を主成分とする固形物を含有するアルカリ性懸濁液を引き抜き、これを固形物(主に酸化銅)と、分離液に固液分離する。固液分離には、例えば、ろ過分離、遠心分離、沈降分離等が適用可能である。
【0050】
アルカリ性懸濁液から分離された固形物は、当該固形物中にはアルカリ性懸濁液中に含有されるアルカリ剤と、中和反応により生じた高濃度の塩類も共存しているので、再利用を目的とした固形物の回収に際しては、塩類を洗い流し、回収物の純度を上げるため、水洗等の洗浄処理を複数回繰り返して精製固形物として回収することが好ましい。前記洗浄処理に用いられる処理水としては、塩類含有量が少ない清澄な水、例えば水道水や工業用水等が挙げられる。
【0051】
こうして得られる精製固形物は酸化銅を少なくとも95%以上、一般には98%以上含有するものである。また、反応条件が適切に設定されていれば、この精製固形物の塩素含有率は100mg−Cl/kg−CuO未満まで低減できる。
【0052】
以上説明した本発明方法を実施することにより銅含有酸性廃液から酸化銅を主成分とし、かつ塩素イオン含量が低減された固形分を生成させ、回収することができる。
【0053】
次に図面を参照し、本発明を実施するために使用する装置を説明する。
図1は、本発明を実施する場合の銅の回収装置の一様態を示す系統図である。図中、1は銅含有酸性廃液処理設備、2は混合反応槽、3は混合槽、4は固液分離装置、5は固形物精製装置、6は精製スラリー移送ポンプ、7は分離液移送ポンプ、8は洗浄排水移送ポンプ、9はpH計、10は撹拌機、11、12は三方弁、13は銅含有酸性廃液供給配管、14は酸化剤供給配管、15はアルカリ剤供給配管、16は撹拌機、17はバルブ18、バルブ19およびバルブ20を制御する制御器、18は銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液の供給を制御するバルブ、19は銅含有酸性廃液の供給を制御するバルブ、20は酸化剤の供給を制御するバルブ、21はアルカリ剤の供給を制御するバルブ、22はバルブ21を制御する制御器、23は銅含有酸性廃液貯留槽、24は酸化剤貯留槽、25はアルカリ剤貯留槽をそれぞれ示す。
【0054】
図1に示す銅の回収設備において、最初にバルブ21を開け、アルカリ剤貯留槽25からアルカリ剤供給配管15を通してアルカリ剤を所定量、混合反応槽2に供給し、その中にアルカリ性溶液を準備する。一方、反応槽3では、バルブ19と20を開け、反応槽3に銅含有酸性廃液貯留槽23および酸化剤貯留槽24から銅含有酸性廃液と酸化剤を供給する。反応槽3では、銅含有酸性廃液と酸化剤を所定時間混合した後、バルブ18を開け、攪拌機10でアルカリ性溶液が撹拌された状態の混合反応槽2に銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液を供給する。この時、混合反応槽2ではpHをpH計9で測定し、pHが低下した場合、pH9以上を維持するように、制御器22で制御することによりバルブ21を開けてアルカリ剤をアルカリ剤貯留槽25からアルカリ剤供給配管15を通して混合反応槽2へ供給する。
【0055】
また、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液の注加量は、銅含有酸性廃液の供給配管に備えた流量計(図示せず)での流量や、注加回数から、制御器17で制御する。そして、反応槽3へ銅含有酸性廃液や酸化剤を供給する時間間隔や、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液を混合反応槽2に供給する時間隔隔は、バルブ18、19および20を開閉することにより制御器17で制御する。また、各バルブの代わりに流量可変のポンプを利用して、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液の注加を制御することも可能である。この場合、ポンプ流量を、混合液のアルカリ剤による希釈効果が得られる状態を維持できる流量に設定することで、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液を連続的に注加することも可能である。
【0056】
反応は、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液の注加を所定回数繰り返し、最後の注加の後、休止時間を経て終了する。終了後、混合反応槽2内の酸化銅を含むアルカリ性懸濁液は、分離液移送ポンプ7により固液分離装置4に送られ、固形物と上澄液に分離される。上澄液は溶解性の銅濃度が低いため、単純な中和処理を行った後、工場の総合排水処理設備など処理することで下水道や公共水域に放流される。また、上澄液にはアルカリ剤が残留しているので、ポンプ7を用い、再び混合反応槽2に供給することで、アルカリ剤を有効活用することも可能である。一方、固液分離装置4からの固形物は、固形物精製装置5に送られ洗浄される。さらに固液分離され、精製物として回収される。
【0057】
図2は、本発明の別の実施形態を実施する場合の銅の回収装置の一様態を示す系統図である。図中、1は銅含有酸性廃液処理設備、2は混合反応槽、3は混合槽、4は固液分離装置、5は固形物精製装置、6は精製スラリー移送ポンプ、7は分離液移送ポンプ、8は洗浄排水移送ポンプ、9はpH計、10は撹拌機、11、12は三方弁、13は銅含有酸性廃液供給配管、14は酸化剤供給配管、15はアルカリ剤供給配管、16は撹拌機、18は銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液の供給を制御するバルブ、19は銅含有酸性廃液の供給を制御するバルブ、20は酸化剤の供給を制御するバルブ、21はアルカリ剤の供給を制御するバルブ、23は銅含有酸性廃液貯留槽、24は酸化剤貯留槽、25はアルカリ剤貯留槽、26はバルブ18、バルブ19、バルブ20およびバルブ21を制御する制御器をそれぞれ示す。
【0058】
図2に示す銅の回収設備において、最初にバルブ21を開け、アルカリ剤貯留槽25からアルカリ剤供給配管15を通してアルカリ剤を所定量、混合反応槽2に供給し、その中にアルカリ性溶液を準備する。一方、反応槽3では、バルブ19と20を開け、反応槽3に銅含有酸性廃液貯留槽23および酸化剤貯留槽24から銅含有酸性廃液と酸化剤を供給する。反応槽3では、銅含有酸性廃液と酸化剤を所定時間混合した後、バルブ18を開け、攪拌機10でアルカリ性溶液が撹拌された状態の混合反応槽2に銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液を供給する。同時に、混合反応槽2のpHをpH計9で測定し、pHが低下した場合、pH9以上を維持するように、制御器23で制御することによりバルブ21を開けてアルカリ剤をアルカリ剤貯留槽25からアルカリ剤供給配管15を通して混合反応槽2へ供給する。
【0059】
また、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液を供給した後に、混合反応槽2のpHをpH計9で測定する。このpHの測定結果に応じて、反応槽3へ銅含有酸性廃液や酸化剤を供給する時間間隔や、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液を混合反応槽に2供給する時間間隔を、バルブ18、19および20を開閉することにより制御器17で制御する。
【0060】
反応は、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液の注加を所定回数繰り返し、最後の注加の後、休止時間を経て終了する。反応終了後、混合反応槽2内の酸化銅を含むアルカリ性懸濁液は分離液移送ポンプ7により固液分離装置4に送られ、固形物と上澄液に分離される。このうち、上澄液はアルカリ剤が残留しているので、ポンプ7を用い、再び混合反応槽2に供給することで、アルカリ剤を有効活用することも可能である。一方、固液分離装置4からの固形物は、固形物精製装置5に送られ洗浄される。さらに固液分離され、精製物として回収される。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。
【0062】
実 施 例 1
銅エッチング廃液からの銅の回収:
銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じた61Lの銅エッチング廃液(pH:1.2、銅イオン濃度:137g/L、塩化物イオン濃度:257g/L:以下、これを「銅エッチング廃液」という)の処理を図1に示す装置で実施した。なお、酸化剤として30%過酸化水素溶液、アルカリ剤として25%水酸化ナトリウム溶液を用いた。
【0063】
実施例1では、処理終了(反応終了)時点の混合反応槽pHを9以上とするため、25%水酸化ナトリウムをpH7に中和するのに必要な銅エッチング廃液量(1当量)に対し、0.8当量の銅エッチング廃液を混合反応槽に供給することとし、銅エッチング廃液と過酸化水素溶液の混合液を8回に分けて水酸化ナトリウム溶液に間欠的に注加した。注加後の休止時間は最初の5回(0.5当量に相当)までは各Run共3分、5回目から7回目まではRun1は10分、Run2は20分、Run3は30分に設定した。さらに、各Runとも8回目(0.8当量に相当)を注加し反応を終了した。反応終了後、各Runともそのまま30分間撹拌を継続した。また、混合液の注加にかかる時間は、各Run共3分とした(例として、図3にRun3における注加の時間間隔を示す)。なお、比較のため、注加後の休止時間を3分で固定した対照系列でも処理を行い、回収した酸化銅の塩素含有率を比較・評価した。
【0064】
<装置>
容量370Lの混合反応槽2に、撹拌機10とpH計9を設置した。また、本試験装置での、混合槽3の有効容積は10Lであった。pH計9では混合反応槽2内の液のpHを測定する機能が備えられている。なお、本試験装置にはpH9以上に維持する制御が備えられているが、実際の処理ではpHは常時11.5以上に維持されていた。撹拌機10は、反応終了間際には酸化銅を含む高粘度の懸濁液を撹拌する必要があるため、リボン型の撹拌機を採用した。
【0065】
<予備試験>
処理の前に、処理予定の銅エッチング廃液量に対する必要最低限の25%水酸化ナトリウム溶液量を求めるため、小スケールで中和処理を行った。25%水酸化ナトリウム溶液に銅エッチング廃液を少量ずつ添加し、銅エッチング廃液の添加量に対するpHを測定したところ、図4のような中和曲線が得られた。図4より1mLの25%水酸化ナトリウム溶液を中和してpH7とするための銅エッチング廃液量を求めると(図4中の太線)約1.15mLであった。この結果より、本実施例で使用する銅エッチング廃液と25%水酸化ナトリウム溶液量を混合してpH7とするための混合比率は、容積比で1.15:1であった。
【0066】
<処理操作>
処理に先立ち、混合反応槽2内を撹拌するために必要最低限の液量を確保するため、水道水を混合反応槽2に88L供給した。その後、撹拌機10の運転を開始するとともに、アルカリ剤供給配管15より25%水酸化ナトリウム溶液68Lを混合反応槽2に注加した。水酸化ナトリウム注加後も混合反応槽2内を撹拌した所、溶液のpHは14、液温は約25℃であった。
【0067】
次に、無加温の銅エッチング廃液7.6Lを混合槽3に供給した。また、同時に30%過酸化水素溶液2.5Lを混合槽3に供給した。銅エッチング廃液と過酸化水素溶液を混合槽3に供給後、撹拌機16により3分間撹拌し混合した。
【0068】
撹拌終了後、銅エッチング廃液と過酸化水素溶液の混合液10.1Lを混合反応槽2に注加した。混合液は、3分かけて混合反応槽2に注加した。この注加の間、混合反応槽2内は系内のpHが均一になるように撹拌した。銅エッチング廃液と過酸化水素溶液の混合液の注加終了後は、混合反応槽2の撹拌を、各系列とも3分間継続した。撹拌終了後、銅エッチング廃液を7.6L、過酸化水素溶液を2.5L混合し、混合反応槽2に注加する操作を計5回繰り返した。注加操作を5回終了した時点での、銅エッチング廃液の供給量は合計38L、過酸化水素溶液の供給量は合計12.5Lであった。また、混合反応槽2のpHは、約13.4であった。
【0069】
注加操作を5回終了した後、注加操作の休止時間を対照系列は3分、Run1は10分、Run2は20分、Run3は30分とし、休止時間中も撹拌を継続した。その後、銅エッチング廃液を7.6L、過酸化水素溶液を2.5L混合し、混合反応槽2に注加・休止する操作を計3回繰り返し、反応を終了した。反応終了後、さらに30分撹拌を継続した時点での、銅エッチング廃液の供給量は合計60.8L、過酸化水素溶液の供給量は合計20Lであった。また、混合反応槽2内の液のpHは約11.5、反応スラリーの温度は34℃であった。
【0070】
この後直ちに、生成した酸化銅を主成分とする固形物を含む懸濁液(以下、「懸濁液」という)の一部を混合反応槽2の下部から移送ポンプ6で抜き出し、懸濁液を固液分離装置4で固液分離した所、ろ液と黒色のスラッジが得られた。
【0071】
得られた黒色スラッジを、水洗・乾燥し、粉末X線回折法で評価したところ、酸化銅が主成分であることを確認した(図5)。また、塩素含有率と注加の休止時間との関係を表1に示した。
【0072】
【表1】

【0073】
表1より、注加1〜5回目までの休止時間を3分、注加5〜8回目までの休止時間を30分としたRun3では、塩素含有率が100mg−Cl/kg−CuO未満に低下した。以上の結果より、注加間隔を注加回数に応じて延長することで、銅めっき浴液の原料として再利用できる品質の酸化銅が製造できた。なお、ろ液の溶解性銅濃度は1mg/L未満であり、中和処理のみで放流が可能な水質であった。一方、注加の休止時間を注加1〜8回目まで3分とした対照系列は、塩素含有率が高く、約200mg−Cl/kg−CuOであった。
【0074】
実 施 例 2
実施例2では、ラボスケール試験において、反応終点pHを実施例1より高くした場合の、回収した酸化銅の塩素含有率を評価した。
【0075】
試験操作は、最初にビーカーに25%水酸化ナトリウム溶液1000mLを入れ、撹拌した。次に、撹拌状態のまま、銅エッチング廃液115mLと30%過酸化水素水54mLを混合し、この混合液を3分かけて、水酸化ナトリウム溶液に注加した。注加終了後、次の注加開始まで、注加操作を3分間休止した。一連の操作の間、ビーカー内の混合液は常時撹拌した。この注加・攪拌を1セットとした。
【0076】
この後、銅エッチング廃液と過酸化水素水の混合液を水酸化ナトリウム溶液に注加・攪拌操作を5セット繰り返した。この時、銅エッチング廃液の合計処理量は577mLであり、ビーカーに用意した水酸化ナトリウム溶液を中和する銅エッチング廃液量の0.5当量に相当する。反応終了後、さらに30分間撹拌を継続した。その後、生成した酸化銅を主成分とする固形物を含む懸濁液のpHを測定したところ13.1であった。この懸濁液を固液分離し、黒色のスラッジを回収した。さらに黒色のスラッジを水洗・乾燥し、黒褐色の酸化銅を回収した。
【0077】
回収した酸化銅の塩素含有率を測定したところ、98mg−Cl/kg−CuOであり、銅メッキ浴液の原料として再利用できる品質の酸化銅が製造できた。しかし、実施例2は、銅エッチング廃液を処理するために必要な25%水酸化ナトリウム溶液量が、実施例1の約1.6倍必要となるため、アルカリ剤使用量が増えることになる。一方、反応終了後の懸濁液から酸化銅スラッジを回収した後は、実施例1と比較して高アルカリ(pH13以上)の上澄液が残り、アルカリ剤が有効に活用されていなかった。また、この上澄液の溶解性銅濃度は約25mg/Lであり、放流するためには中和処理に加えて銅の除去が必要であった。そのため、懸濁液の反応終点pHは12以下である方が好ましいことが分かった。
【0078】
【表2】

【0079】
以上、水酸化ナトリウム溶液に、常温で、銅エッチング廃液と過酸化水素水溶液の混合液を間欠的に注加する際に、注加の時間間隔を延長することで、銅エッチング廃液から塩素含有率が低い酸化銅を回収・製造できた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、エッチング廃液や電解めっき浴の更新廃液などの銅を高濃度で含有する酸性銅廃液中の銅を、複塩の生成を回避しながら効率良く水に不溶性の酸化物として分離回収することが可能であり、かつ回収された酸化銅を主成分とする銅固形物は、めっき材料等として再利用可能なものである。
【0081】
従って本発明は、エッチング工業やめっき工業において、経済的な酸性銅廃液からの銅の回収方法として利用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明における銅含有酸性廃液の処理装置の図。
【図2】本発明の別の実施形態における銅含有酸性廃液の処理装置の図。
【図3】実施例1のRun3における注加の時間間隔の説明図。
【図4】実施例1における銅エッチング廃液と水酸化ナトリウム溶液の中和曲線。
【図5】実施例1における生成酸化銅のX線回折のピークチャート。
【符号の説明】
【0083】
1:銅含有酸性廃液処理設備
2:混合反応槽
3:混合槽
4:固液分離装置
5:固形物精製装置
6:精製スラリー移送ポンプ
7:分離液移送ポンプ
8:洗浄排水移送ポンプ
9:pH計
10:撹拌機
11、12:三方弁
13:銅含有酸性廃液供給配管
14:酸化剤供給配管
15:アルカリ剤供給配管
16:撹拌機
17:バルブ18、バルブ19およびバルブ20を制御する制御器
18:銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液の供給を制御するバルブ
19:銅含有酸性廃液の供給を制御するバルブ
20:酸化剤の供給を制御するバルブ
21:アルカリ剤の供給を制御するバルブ
22:バルブ21を制御する制御器
23:銅含有酸性廃液貯留槽
24:酸化剤貯留槽
25:アルカリ剤貯留槽
26:バルブ18、バルブ19、バルブ20およびバルブ21を制御する制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量のアルカリ性溶液が供給された混合反応槽中に、当該混合反応槽中の液のpHが一時的にでも9以下に下がらないよう管理しつつ、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液を、当該混合反応槽中に注加、混合し、酸化銅を主成分とする固形物を含有するアルカリ性懸濁液を生成させ、当該アルカリ性懸濁液中から当該固形物を分離する銅の回収方法であって、
当該混合液の添加量が混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の少なくとも0.5当量を超えた時点において、混合反応槽中への当該混合液の注加を間欠的に行いつつ、注加の休止時間を10分以上とすることを特徴とする銅含有酸性廃液からの銅回収方法。
【請求項2】
当該混合液の添加を、終止間欠的に行い、かつ、当該混合液の添加量が混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の0.5当量を超えた場合の注加の休止時間を、当該混合液の添加量が混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の0.5当量までの注加の休止時間の3倍以上とすることを特徴とする請求項1記載の銅含有酸性廃液からの銅の回収方法。
【請求項3】
当該混合液の添加を、終止間欠的に行い、かつ、混合反応槽のpHが、混合反応槽のアルカリ性溶液を中和するために必要な銅含有酸性廃液量の0.5当量に相当する銅含有酸性廃液を添加した状態におけるpHよりも低くなった後においては、当該混合液の注加の休止時間を、pHが低くなるまでの混合液の注加の休止時間の3倍以上とすることを特徴とする請求項1記載の銅含有酸性廃液からの銅の回収方法。
【請求項4】
混合反応槽中の懸濁液のpHの管理を、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液及び/またはアルカリ剤の注加により行う請求項1ないし3の何れかに記載の銅含有酸性廃液からの銅の回収方法。
【請求項5】
銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液をアルカリ性溶液が供給された混合反応槽に滴下または配管を通じて供給することを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の銅含有酸性廃液からの銅回収の方法。
【請求項6】
銅含有酸性廃液と酸化剤を混合する手段、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液を混合反応槽へ注加する手段、アルカリ剤が供給され、注加された該混合液と該アルカリ剤の反応により酸化銅を含むアルカリ性懸濁液を生成する混合反応槽及び該混合反応槽と連通し該混合反応槽より引き抜いた酸化銅を含むアルカリ性懸濁液から酸化銅を回収する固液分離装置であって、
更に、
銅含有酸性廃液の総注加量を測定する手段、
及び銅含有酸性廃液の総注加量に応じて、該混合液の注加を制御する手段、
を備えることを特徴とする銅含有酸性廃液からの銅の回収設備。
【請求項7】
銅含有酸性廃液と酸化剤を混合する手段、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液を混合反応槽へ注加する手段、アルカリ剤が供給され、注加された該混合液と該アルカリ剤の反応により酸化銅を含むアルカリ性懸濁液を生成する混合反応槽及び該混合反応槽と連通し該混合反応槽より引き抜いた酸化銅を含むアルカリ性懸濁液から酸化銅を回収する固液分離装置であって、
更に、
銅含有酸性廃液と酸化剤の該混合液の注加回数を数える手段、
及び注加回数に応じて、該混合液の注加を制御する手段、
を備えることを特徴とする銅含有酸性廃液からの銅の回収設備。
【請求項8】
銅含有酸性廃液と酸化剤を混合する手段、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液を混合反応槽へ注加する手段、アルカリ剤が供給され、注加された該混合液と該アルカリ剤の反応により酸化銅を含むアルカリ性懸濁液を生成する混合反応槽、及び該混合反応槽と連通し該混合反応槽より引き抜いた酸化銅を含むアルカリ性懸濁液から酸化銅を回収する固液分離装置であって、
更に、
該混合反応槽のpHを測定するための手段、
及び該混合槽のpHに応じて、該混合液の注加を制御する手段、
を備えることを特徴とする銅含有酸性廃液からの銅の回収設備。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−168856(P2011−168856A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35035(P2010−35035)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(591030651)水ing株式会社 (94)
【Fターム(参考)】