説明

銅含有酸性廃液の処理・回収方法及びそのための装置

【課題】塩化銅含有エッチング廃液や電解銅箔メッキ浴の更新廃液などの銅含有酸性廃液を、複雑な設備を要することなく処理し、同時に良好な水質の処理水が得られる処理方法及び装置を提供すること。
【解決手段】銅含有酸性廃液を、当該銅含有酸性廃液に対して中和当量以上のアルカリ性溶液中に注加、混合して酸化銅を主成分とする固形物を含有する懸濁液を生成させ、当該懸濁液中から当該固形物を分離する銅含有酸性廃液の中和および銅の回収方法であって、(1)反応開始時から、銅含有酸性廃液のアルカリ性溶液に対する全注加量の70ないし90%までは、銅含有酸性廃液と酸化剤とを混合してからアルカリ性溶液中に注加、混合し、(2)銅含有酸性廃液の全注加量が上記量を越えた後は、酸化剤を用いず銅含有酸性廃液をアルカリ性溶液中に注加、混合することを特徴とする銅含有酸性廃液の中和および銅の回収方法並びにこれに用いる装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅含有酸性廃液の処理・回収方法に関し、更に詳細には、例えば銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液や、電解銅箔製造におけるメッキ浴液の更新廃液、多層プリント基板生産の積層工程において基板表面の粗化処理で発生するエッチング廃液など、高濃度銅イオンを含有する銅含有酸性廃液を中和処理することで、溶液中から銅を除去し、これを回収する方法及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銅イオンを高濃度で含有する酸性の廃液(以下、「銅含有酸性廃液」という)としては、銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液や、電解銅箔製造におけるメッキ浴液の更新廃液、多層プリント基板生産の積層工程において基板表面の粗化処理で発生するエッチング廃液等が知られている。これらの廃液は、銅濃度が5〜20質量%(以下、単に「%」で示す)程度と高い一方で、共存する塩素イオンや硫酸イオンの濃度も、通常5〜30%と高い。
【0003】
このような銅含有酸性廃液を対象にした銅の回収処理方法としては、イオン化傾向の差を利用し、例えば鉄スクラップと反応させて金属銅を析出させて回収する方法が一部で行われているが、この方法では廃液からの銅回収率が低いという問題がある。また、銅イオンとの反応により溶出した鉄イオンと残留した銅イオンが含まれる廃液が残るため、この廃液の処理が別途必要になり、効率的な処理方法とは言いがたい。
【0004】
ところで、本発明者らは先に、銅含有酸性廃液と酸化剤を混合した後、アルカリ溶液に添加することで、酸化銅を効率よく回収できる方法を見出し、特許出願した(特許文献1)。この方法によれば、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液をアルカリ溶液中に滴下することで、酸化銅を主成分とする固形物が得られる。これは、銅含有酸性廃液を酸化剤と共に、少量ずつアルカリ剤に混合することで、適切な希釈効果を得ながら銅含有酸性廃液を中和し、銅含有酸性廃液に含まれる銅イオンを酸化し、酸化銅とすることができるためである。
【0005】
ここで、特許文献1の方式は、回収した酸化銅の再利用に重点を置いた方式であり、高純度の酸化銅を回収できる特長がある。しかし、この方式では、生成した固形成分の沈降分離性にやや難があり、固液分離のための沈殿槽を大きくしなければならないものであった。また、固液分離の際に、上澄液側に生成した固形成分の一部が残留し、処理水水質の悪化が起こりうる場合があった。高純度の酸化銅の回収が求められる場合の廃液処理設備として運用する場合には、これに対応した設備はやむを得ないが、余り高純度の酸化銅の回収まで求めない場合には、設備が過大になるという問題がある。
【0006】
従って、高純度の回収酸化銅の必要がない場合の銅含有酸性廃液の廃液処理においては、銅含有酸性廃液を中和処理すると同時に、良好な水質の処理水と取り扱いやすい銅含有汚泥を得ることができる簡易な銅含有酸性廃液の処理方法の提供が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−167462
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、塩化銅含有エッチング廃液や電解銅箔メッキ浴の更新廃液、多層プリント基板表面の粗化処理でのエッチング廃液などの銅含有酸性廃液を、過大、複雑な設備を要することなく処理し、同時に良好な水質の処理水が得られる処理方法及び装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、処理対象液である銅イオンを高濃度で含有する酸性廃液と酸化剤とを混合した後、アルカリ溶液に少量ずつ、注加、混合することで、銅含有酸性廃液中の含まれる銅イオンを酸化銅まで酸化し、沈降させる上記特許文献1の方法について、改良研究を行っていたところ、ある程度まで銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液の注加操作を繰り返した後に、銅含有酸性廃液のみをアルカリ溶液に注加することで、意外にも沈降性の良好なスラッジを得ることができ、上澄液への微細な浮遊物の残留や、銅イオン量が抑制された良好な処理水が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、銅含有酸性廃液を、当該銅含有酸性廃液に対して中和当量以上のアルカリ性溶液中に注加、混合して、酸化銅を主成分とする固形物を含有する懸濁液を生成させ、当該懸濁液中から当該固形物を分離する銅含有酸性廃液の中和および銅の回収方法であって、
(1)反応開始時から、銅含有酸性廃液のアルカリ性溶液に対する全注加量の70ない
し90%までは、銅含有酸性廃液と酸化剤とを混合してからアルカリ性溶液中に注
加、混合し、
(2)銅含有酸性廃液の全注加量が上記量を越えた後は、酸化剤を用いず銅含有酸性廃液
をアルカリ性溶液中に注加、混合する
ことを特徴とする銅含有酸性廃液の中和および銅の回収方法である。
【0011】
また本発明は、銅含有酸性廃液と酸化剤供給手段からの酸化剤とを混合する混合槽と、該混合槽で得られた銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液を、アルカリ剤が供給された混合反応槽に供給する手段と、該混合液とアルカリ剤を混合し、アルカリ性懸濁席を生成する混合反応槽とを含む銅含有酸性廃液の処理装置であって、
更に、銅含有酸性廃液の積算注加量を計量する手段、および
該銅含有酸性廃液の積算注加量に応じ、酸化剤の供給を制御する手段
を備えたことを特徴とする、銅含有酸性廃液の中和、回収処理装置である。
【0012】
更に本発明は、アルカリ性水溶液の供給手段、銅含有酸性廃液の注加手段、酸化剤の注加手段および混合手段を有し、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液がアルカリ性水溶液と反応してアルカリ性懸濁液を生成する第一の混合反応槽と;
第一の混合反応槽と連通し、銅含有酸性廃液の注加手段および混合手段を有すると共に、第一の混合反応槽からのアルカリ性懸濁液剤を収容し、注加された銅含有酸性廃液と該アルカリ性懸濁液を反応させる第二の混合反応槽と
を備えた銅含有酸性廃液の中和、回収処理装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、これまでの処理技術では複塩の生成などにより処理が困難であった、銅イオンの含有濃度が5〜20%という高濃度の銅含有酸性廃液を希釈することなく、直接処理することができる。また、生成物は酸化銅を含むため沈降性や脱水性が良好であり、水酸化銅を生成させる方法と比較して取扱が容易である。更に、処理水も、浮遊物質や銅イオンの少ない良好な水質なものである。
【0014】
更に、本発明方法で得られる回収物は、単純な水酸化物沈殿方式と比較して含水率が低いため、汚泥排出量を低減することが可能となる。また、回収物は酸化銅を主体とする化合物のため、脱水後は、回収物を銅精錬の原料として利用することも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における銅エッチング廃液と水酸化ナトリウム溶液の中和曲線である。
【図2】実施例1で得られた回収物の粉末X線回折のピークチャートである。
【図3】本発明方法で使用される装置の一例を模式的に示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の銅含有酸性廃液からの銅の回収方法(以下、「本発明方法」という)による処理プロセスでは、処理銅含有酸性廃液の中和当量に対して過剰量のアルカリ性溶液が供給された混合反応槽中に、銅含有酸性廃液を、最初からの大部分は酸化剤と共に、最後の一部は酸化剤なしで、それぞれ徐々に注加するというものである。
【0017】
より詳しくは、銅含有酸性廃液の注加に当たっては、最初からの大部分は酸化剤との混合液として、当該混合反応槽中に注加、混合し、酸化銅を主成分とする微粒子が懸濁するアルカリ性懸濁液(以下、「アルカリ性懸濁液」と略称する)を生成させる。そして、所定量の銅含有酸性廃液の注加が終了した後の残りの一部は、酸化剤の供給を停止し、銅含有酸性廃液を当該混合反応槽中に注加、混合し、酸化銅と水酸化銅を主成分とする固形物を析出させる。
【0018】
本発明方法においては、基本的に銅含有酸性廃液とアルカリ性溶液の中和を、中和点よりアルカリ側で実施することが重要である。従って、本発明方法を実施するには、アルカリ性溶液が過剰の状態、例えば、中和量に対して1.2倍程度過剰な状態で中和を行うことが必要であり、アルカリ性水溶液中に、銅含有酸性廃液(および酸化剤)を徐々に、十分に撹拌しつつ加えていく必要がある。また、反応中は常にアルカリ性溶液が中和当量より過剰にあることが必要である。
【0019】
また、本発明において重要なことは、銅含有酸性廃液の注加を、途中で銅含有酸性廃液と酸化剤との混合物としての供給から、銅含有酸性廃液単独での供給に切り替えることである。
【0020】
すなわち、処理すべき銅含有酸性廃液の積算注入量が、全注入量の70ないし90%となるまで(以下、この時点を「切替時点」ということがある)は、酸化剤と共にアルカリ性水溶液中に注加し、この量を超えた時点からは、酸化剤を使用せず、銅含有酸性廃液だけを注加することが好ましい。
【0021】
銅含有酸性廃液だけの注入の開始が上記切替時点より早すぎる場合は、固形物中の酸化銅の割合が低く、水酸化銅の割合が増加し、スラッジの沈降性の悪化やスラッジ含水率が増加する。逆に、銅含有酸性廃液だけの注入が切替時点より遅い場合は、スラッジの沈降性は良いものの、固形物を除去した処理水中の懸濁物や、銅イオンが増えたりする問題が生じることがある。
【0022】
従って、本発明方法を実施するに当たっては、処理する銅含有酸性廃液や、使用するアルカリ性溶液、酸化剤に応じて予め実験を行い、銅含有酸性廃液単独での供給に切り替える適切なタイミング(切替時点)を調べておくことが好ましい。
【0023】
本発明方法で処理対象となる銅含有酸性廃液としては、銅をイオン状態で含有する酸性廃液であり、銅含有酸性廃液中の銅イオン濃度や、陰イオン濃度は特に制約されない。本発明方法で特に好適に処理できる銅含有酸性廃液の具体例として、銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液や、電解銅箔製造におけるメッキ浴液の更新廃液、多層プリント基板生産の積層工程において基板表面の粗化処理で発生するエッチング廃液など、銅イオン濃度及び塩素イオン濃度、硫酸イオン濃度等陰イオン濃度の高い廃液が挙げられる。
【0024】
また、本発明方法で利用される酸化剤としては、2価の銅イオンを酸化できるものであれば、特に制約されず、種々の酸化剤を利用することができる。しかしながら、溶液として取り扱えることや、反応後に水以外の成分が残らないことから、本発明においては、酸化剤として過酸化水素やオゾン水などが適している。これらの酸化剤の中でも、過酸化水素は特別な発生装置が不要で、取り扱いが容易なことから、本用途には特に適している。酸化剤として過酸化水素を用いる場合の濃度は特に限定されないが、例えば、市販で入手が容易な30%程度の過酸化水素水が挙げられる。また、酸化剤としてオゾン水を用いる場合、オゾン水に代えて、気体オゾンを直接銅含有酸性廃液に吹き込んでもよい。
【0025】
更に、本発明方法でのアルカリ性溶液の調製に利用されるアルカリ剤としては、種々のアルカリ剤を使用することができ、その形態としては、固体状でも液体状でもよい。しかし、具体的なアルカリ剤の選定は、銅含有酸性廃液中に共存する可能性がある陰イオンと沈降性の塩を形成しないアルカリ金属の水酸化物が適当である。一方、使用するアルカリ剤量は、処理する銅含有酸性廃液の銅イオン濃度、陰イオン濃度および液量によって決定される。従って、予め小スケールの実験で、処理すべき銅含有酸性廃液を中和するのに必要なアルカリ剤量を予め求め、実際の処理では、この結果を元に必要なアルカリ剤量を決めると良い。
【0026】
なお、アルカリ剤として固体状のアルカリを使用する場合は、廃液量の増加を抑制できる利点がある。固体状のアルカリ剤を用いる場合、固体状のアルカリ剤を水等で予め溶解させてから混合反応槽に供給しても良く、混合反応槽内に固体状のまま供給して混合反応槽で溶解させても良い。更に、固体状のアルカリ剤を溶解させる水としては後記する固液分離により固形物から分離された分離液、分離された固形物の洗浄処理で生じた洗浄処理排水等を用いることもできる。一方、アルカリ剤としてアルカリ性溶液を用いる場合は、使用するアルカリ剤量の制御が容易である点や、薬剤の補充が容易、溶解操作が不要であるなどの取り扱い面での利点がある。
【0027】
本発明方法では、アルカリ剤として比較的安価で入手が容易なことから水酸化ナトリウムが好ましい。水酸化ナトリウムを用いる場合は、フレーク状、粒状等固体や溶液を利用できる。水酸化ナトリウム溶液を用いる場合は、濃度は特に限定されないが、例えば、25%程度の濃度の水酸化ナトリウム溶液が利用できる。
【0028】
以上まとめた形態を踏まえ、酸化剤として過酸化水素溶液を、アルカリ性溶液として水酸化ナトリウム溶液を用いる場合を例にとり、銅含有酸性廃液である銅エッチング廃液の処理を以下に説明する。
【0029】
本発明方法による処理プロセスにおいては、まず、処理すべき銅エッチング廃液の中和当量を超える量の水酸化ナトリウム水溶液を準備する。そして、混合反応槽中にこの水酸化ナトリウム溶液を入れ、この中に過酸化水素を加えた銅エッチング廃液を少量づつ注加して行く。そして、銅エッチング廃液の積算の注加量が、全銅エッチング廃液量の70ないし90%に達した時点(切替時点)で、銅エッチング廃液のみを水酸化ナトリウム溶液に注加する。
【0030】
切替時点前での銅エッチング廃液に対する過酸化水素溶液の量は、銅エッチング廃液中の銅イオンが酸化される量であれば特に制約はないが、一般には、混合後の銅エッチング廃液中の銅のモル比と、酸化剤のモル比が、1.2ないし2倍程度となる量であることが好ましい。またこれらを混合した混合液の、混合反応槽内の水酸化ナトリウム溶液への注加は、連続的でも間欠的もかまわないが、混合液と水酸化ナトリウム液を十分に混合させるためには間欠的に行うことが好ましい。こうすることで、混合液中の銅イオンから酸化銅への反応が、混合液を水酸化ナトリウム溶液に注加し、中和する際に速やかに進む。混合液を注加する方法としては、例えば、混合反応槽に滴下する方法や配管を通して液中に供給する方法等が適用可能である。
【0031】
一方、水酸化ナトリウム溶液の注加方法としては、混合反応槽に到達する前に上記混合液と混ざらないよう供給する以外は、特に限定されず、例えば、混合反応槽に滴下する方法や少量を連続的に注入する方法等が挙げられる。
【0032】
次に、銅エッチング廃液の積算の注加量が、切替時点に達した後は、過酸化水素を添加せず、銅エッチング廃液のみを、水酸化ナトリウム溶液に注加する。この反応では、酸化剤がない状態で銅エッチング廃液が水酸化ナトリウム溶液に注加されることになるので、銅エッチング廃液中の銅イオンは、酸化銅に完全に酸化されず一部が水酸化銅として残留する。この水酸化銅は、大量に存在すると水で膨潤し、取り扱いにくい汚泥となるが、本発明方法のように、少量存在する場合では、これが微細な浮遊物質を取り込むことで、固液分離を促進し、得られる処理水の性状が改善するのである。
【0033】
なお、反応中に、銅エッチング廃液の注加量が、混合反応槽内の水酸化ナトリウム溶液の中和当量を超えると、混合反応槽内の懸濁液のpHが7未満となり、銅がCu2+の形態で再溶解し、処理水中の銅濃度が上昇する。そして、銅エッチング廃液(銅含有酸性廃液)からの銅の除去・回収が目的である本発明では、このような現象は好ましいことでないので、銅含有酸性廃液の注加、混合に当たり、反応系内において、一時的にでもまた部分的にでもpHが中和点より酸性側にならないよう管理することも重要である。具体的には、反応中、混合反応槽のpHを測定し、反応中の液のpHを7以上、好ましくは8以上を維持するよう管理することで、銅がCu2+の形態で再溶解することを抑制することが望ましい。
【0034】
本発明方法では、銅含有酸性廃液の注加操作において、酸化剤の添加の有無を使い分けることで、酸化銅を主成分とする回収物と、酸化銅に加え、一部水酸化銅が含まれる回収物を得ることが重要である。例えば、銅含有酸性廃液の積算の注加量が少ない時点で酸化剤の添加を停止すると、膨潤しやすい水酸化銅の生成量が多くなり、結果として、回収物の取扱が困難になる。従って、酸化剤の添加は、注加操作の後半、具体的には前記の切替時点で停止することで、微細な浮遊物を取り込むのに十分な量の水酸化銅が生成するよう管理することが望ましい。
【0035】
以上のようにして混合反応槽での反応終了後、酸化銅を主成分とする固形物を含有するアルカリ性懸濁液を引き抜き、これを固形物(主に酸化銅)と、分離液(上澄液)に固液分離する。固液分離には、公知の手段、例えば、ろ過分離、遠心分離、沈降分離等が適用可能である。こうすることにより、資源として再利用可能な酸化銅を主成分とする固形物と、懸濁物や銅イオンの含量の少ない分離液を得ることができる。
【0036】
上記本発明方法の実施は、一般には、反応混合槽が1槽である装置を用い、この中にアルカリ性溶液を入れた後、最初は銅含有酸性廃液と酸化剤の混合物を加えたものを徐々に注加し、十分に攪拌して酸化銅を主成分とする回収物を生成させ、切替時点以後は、銅含有酸性廃液のみを加えて酸化銅と水酸化銅を含む沈殿物を生成させることで実施されるが、以下の図3に示すような、2つの混合槽を有する装置を用い、最初の混合槽には銅含有酸性廃液と酸化剤の混合物を加え、2番目の混合槽では、銅含有酸性廃液のみを加えるようにしても良い。
【0037】
図3は、本発明法に使用し得る、混合槽を2つ有する装置の一例を模式的に示した図面である。図3中、1は銅含有酸性廃液、2は酸化剤、3はアルカリ性水溶液、4はアルカリ性懸濁液、5は酸化銅ケーキ、6は上澄液を示し、11は混合槽、12は第一混合反応槽、13は脱水装置、14は制御装置、15は銅含有酸性廃液供給ポンプ、16は酸化剤供給ポンプ、17は第二混合反応槽、18は液移送ポンプをそれぞれ示す。
【0038】
図3の装置においては、銅含有酸性廃液1と酸化剤2は、混合槽11にて混合後、アルカリ性水溶液3が供給された第一混合反応槽12に少量ずつ注加される。注加の際、銅含有酸性廃液1と酸化剤2の注加量は、制御装置14にて積算される。制御装置14は、銅含有酸性廃液1の注加量が反応開始時から、アルカリ性溶液3に対する銅含有酸性廃液1の全注加量の70ない90%までは、銅含有酸性廃液1と酸化剤2の混合液が第一混合反応槽12に注加されるように制御する。また、制御装置14は、銅含有酸性廃液の全注加量が上記量を越えた後、一旦、注加操作を中断し、液移送ポンプ18を運転し、混合反応槽12内のアルカリ性懸濁液4を第二混合反応槽17に移送する制御を行う。第二混合反応槽17に供給されたアルカリ性懸濁液4には、その後、残りの銅含有酸性廃液1が注加され、反応が完結する。反応終了後、アルカリ性懸濁液4は脱水装置13に移送され、固液分離後、酸化銅ケーキ5が回収される。
【0039】
一般に、水酸化銅は高濃度で存在すると、含水率が高く、難脱水性のスラッジとなることが知られている。しかしながら、本発明のように既に固形物(酸化銅粒子)が多く含まれる懸濁液中において、これが少量存在すればその凝集作用によって、この固形物を凝集させて酸化銅粒子を粗大化させ、固液分離性を改善する。
【0040】
本発明は、このような原理に基づき、銅含有酸性廃液とアルカリ性溶液の中和反応中において意識的に酸化剤の供給を制御することで、少量の水酸化銅を生成させ、効率の良い銅の回収と、処理性の高い上澄液を得ることを可能としたのである。
【実施例】
【0041】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0042】
実 施 例 1
実施例1では、処理終了(反応終了)時点の混合反応槽pHを7以上とするため、使用した25%水酸化ナトリウムをpH7に中和するのに必要な銅エッチング廃液量に対し、銅エッチング廃液の積算の注加量が0.95当量となる量を混合反応槽に供給することとした。また、水酸化ナトリウム溶液を中和するために必要な銅エッチング廃液量の0.8当量までの注加操作では、銅エッチング廃液と過酸化水素溶液の混合液を8回に分けて水酸化ナトリウム溶液に間欠的に注加した。注加後の休止時間は3分に設定した。
【0043】
さらに、0.9当量までの注加操作(分注9回目)と0.95当量までの注加操作(注加10回目)では、過酸化水素水を添加せず、銅エッチング廃液のみを水酸化ナトリウム溶液に注加し反応を終了した。
【0044】
<予備試験>
処理の前に、処理予定の銅エッチング廃液量に対する必要最低限の25%水酸化ナトリウム溶液量を求めるため、小スケールで中和処理を行った。25%水酸化ナトリウム溶液に銅エッチング廃液を少量ずつ添加し、銅エッチング廃液の添加量に対するpHを測定したところ、図1のような中和曲線が得られた。図1より1mLの25%水酸化ナトリウム溶液を中和してpH7とするための銅エッチング廃液量を求めると(図1中の太線)約1.15mLであった。この結果より、本実施例で使用する銅エッチング廃液と25%水酸化ナトリウム溶液量を混合してpH7とするための混合比率は、容積比で1.15:1であるとした。
【0045】
<処理操作>
2リットルのビーカーに25%水酸化ナトリウム溶液を478mL添加し、マグネティックスターラーで撹拌した。次に、別のビーカーに銅エッチング廃液55mLと30%過酸化水素溶液12.6mLを混合し、3分間撹拌して混合液とした。
【0046】
銅エッチング廃液と過酸化水素溶液の混合液の全量を、水酸化ナトリウム溶液が入ったビーカーに3分かけて添加した。この注加の間、2Lビーカーは系内のpHが均一になるように撹拌した。銅エッチング廃液と過酸化水素溶液の混合液の注加終了後も、ビーカーの撹拌を続けた。前の注加から3分経過後、別のビーカーで調製した銅エッチング廃液55mLと、過酸化水素溶液12.6mLの混合液を、2リットルビーカーに注加し、3分間の放置を行った。この操作は計8回繰り返した。この操作中、2リットルビーカーは常時攪拌した。
【0047】
注加操作を8回終了した後、9回目の注加操作では、銅エッチング廃液55mLのみを、ビーカーに3分間かけて注加し、注加終了後に3分間撹拌放置した。次に、10回目の注加操作では、銅エッチング廃液27.5mLをビーカーに3分間かけて注加し、その後30分間撹拌を継続した後、反応を終了した。
【0048】
以上の操作より、黒色の固形物を含む懸濁液が生成した。この懸濁液から、遠心分離機を用い固形物を分離した。得られた固形物を乾燥し、粉末X線回折法で評価したところ、酸化銅が主成分であることを確認した(図2)。
【0049】
なお、本発明の作用機序は、混合の最終段階で銅エッチング廃液に過酸化水素溶液を加えず水酸化ナトリウム溶液中に注加することで、水酸化銅の生成を許容し、この水酸化銅がそれ以前に生成した酸化銅が主成分の生成物の沈澱剤として作用するというものである。従って、注加操作7回目以降(注加全量の70%以降)で銅エッチング廃液のみをアルカリ性溶液に混合すれば、生成する量は別として水酸化銅を含む生成物が生成し、実施例と同じ効果が得られことは明らかである。
【0050】
比 較 例 1
<処理操作>
2リットルのビーカーに25%水酸化ナトリウム溶液を478mL添加し、マグネティックスターラーで撹拌した。次に、別のビーカーに実施例1と同じ銅エッチング廃液55mLと30%過酸化水素溶液12.6mLを混合し、3分間撹拌して混合液とした。
【0051】
銅エッチング廃液と過酸化水素溶液の混合液の全量を、水酸化ナトリウム溶液が入ったビーカーに3分かけて添加した。この注加の間、2Lビーカーは系内のpHが均一になるように撹拌した。銅エッチング廃液と過酸化水素溶液の混合液の注加終了後も、ビーカーの撹拌を続けた。前の注加から3分経過後、別のビーカーで調製した銅エッチング廃液55mLと、過酸化水素溶液を12.6mLの混合液を、2リットルビーカーへ注加し、次いで3分間の攪拌放置を行った。この操作は計9回繰り返した。
【0052】
10回目の注加操作では、銅エッチング廃液27.5mLと過酸化水素水6.3mLを混合、3分間撹拌した。次に、この混合液をビーカーに3分間かけて注加し、その後30分間撹拌を継続した後反応を終了した。以上の操作より、黒色の固形物を含む懸濁液が生成した。この懸濁液から、遠心分離機を用い固形物を分離した。
【0053】
比 較 例 2
<処理操作>
比較例2では、過酸化水素水を使用せずに塩化銅エッチング廃液の中和を試みた。2リットルのビーカーに25%水酸化ナトリウム溶液を478mL添加し、マグネティックスターラーで撹拌した。次に、銅エッチング廃液55mLを水酸化ナトリウム溶液が入ったビーカーに3分かけて添加した。この注加の間、濃青色の膨潤した汚泥状の固形物が析出した。この注加操作を9回繰り返し、10回目には、塩化銅エッチング廃液27.5mLを注加した。注加操作の間、生成した濃青色の汚泥状の物質は、徐々に水色の膨潤した汚泥状の固形物に変化した。この汚泥状の物質はビーカーを満たし、撹拌が困難な状態になった。また、反応終了後に放置しても上澄液が分離せず、水酸化銅や複塩(CuCl・3Cu(OH))を主成分とする含水率の高い汚泥が生成した。
【0054】
試 験 例
実施例及び比較例で得られた各スラリーについて、汚泥の沈降性、上澄水の濁度およびSS、上澄水中銅濃度を測定した。この結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
この結果から明らかなように、実施例1のスラリーは、比較例1のものと比較して、やや汚泥の沈降性が劣ったものの、上澄水の濁度やSS、残留した銅濃度が低く、良好な上澄水が得られるものであった。なお、比較例2では膨潤した汚泥状の物質が生成したため、固液分離操作が行えず、上澄水の濁度およびSS、上澄水中の銅濃度は測定できなかった。
【0057】
以上の結果より、分注操作の後半で酸化剤の添加を停止し、銅含有酸性廃液のみをアルカリ剤に添加することで、沈降性の良好な固形物を回収しつつ、良好な上澄水も得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明方法によれば、これまでの処理技術では複塩の生成などにより処理が困難であった、銅イオンの含有濃度が5〜20%という高濃度の銅含有酸性廃液を希釈することなく、直接処理することができる。また、本発明方法で得られる回収物は、酸化銅の含量が多いため、単純な水酸化物沈殿方式と比較して含水率が低く、沈降、分離性が良く、容易に酸化銅を主体とする固形物を回収することもできる。
【0059】
従って、本発明方法は、高濃度で銅を含有するエッチング廃液、めっき更新廃液などの酸性廃液の処理方法として、有用なものである。
【符号の説明】
【0060】
1:銅含有酸性廃液
2:酸化剤
3:アルカリ性水溶液
4:アルカリ性懸濁液
5:酸化銅ケーキ
6:上澄液
11:混合槽
12:(第一)混合反応槽
13:脱水装置
14:制御装置
15:銅含有酸性廃液供給ポンプ
16:酸化剤供給ポンプ
17:第2混合反応槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅含有酸性廃液を、当該銅含有酸性廃液に対して中和当量以上のアルカリ性溶液中に注加、混合して、酸化銅を主成分とする固形物を含有する懸濁液を生成させ、当該懸濁液中から当該固形物を分離する銅含有酸性廃液の中和および銅の回収方法であって、
(1)反応開始時から、銅含有酸性廃液のアルカリ性溶液に対する全注加量の70ない
し90%までは、銅含有酸性廃液と酸化剤とを混合してからアルカリ性溶液中に注
加、混合し、
(2)銅含有酸性廃液の全注加量が上記量を越えた後は、酸化剤を用いず銅含有酸性廃液
をアルカリ性溶液中に注加、混合する
ことを特徴とする銅含有酸性廃液の中和および銅の回収方法。
【請求項2】
銅含有酸性廃液の注加、混合に当たり、反応系内において、一時的にでもまた部分的にでもpHが中和点より酸性側にならないよう管理する請求項1記載の銅含有酸性廃液の中和および銅の回収方法。
【請求項3】
相対的に容量の大きな混合反応槽と、相対的に容量の小さな混合反応槽を用い、相対的に容量の大きな混合反応槽には、アルカリ性水溶液を収容し、このアルカリ性溶液中に銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液を注加、混合し、これにより得られたアルカリ性懸濁液は、相対的に容量の小さな混合反応槽に送液し、当該混合反応槽内において、銅含有酸性廃液のみを注加することを特徴とする請求項1ないし2のいずれかの項記載の銅含有酸性廃液の中和および銅の回収法。
【請求項4】
銅含有酸性廃液と酸化剤供給手段からの酸化剤とを混合する混合槽と、該混合槽で得られた銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液を、アルカリ剤が供給された混合反応槽に供給する手段と、該混合液とアルカリ剤を混合し、アルカリ性懸濁席を生成する混合反応槽とを含む銅含有酸性廃液の処理装置であって、
更に、銅含有酸性廃液の積算注加量を計量する手段、および
該銅含有酸性廃液の積算注加量に応じ、酸化剤の供給を制御する手段
を備えたことを特徴とする、銅含有酸性廃液の中和、回収処理装置。
【請求項5】
アルカリ性水溶液の供給手段、銅含有酸性廃液の注加手段、酸化剤の注加手段および混合手段を有し、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液がアルカリ性水溶液と反応してアルカリ性懸濁液を生成する第一の混合反応槽と;
第一の混合反応槽と連通し、銅含有酸性廃液の注加手段および混合手段を有すると共に、第一の混合反応槽からのアルカリ性懸濁液剤を収容し、注加された銅含有酸性廃液と該アルカリ性懸濁液を反応させる第二の混合反応槽と
を備えた銅含有酸性廃液の中和、回収処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−224901(P2012−224901A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92554(P2011−92554)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(591030651)水ing株式会社 (94)
【Fターム(参考)】