説明

銅張積層基板とその製造方法

【課題】銅箔の表裏に容易に防錆効果に富む防錆被膜を形成することができ、形成した防錆被膜は回路基板として回路形成時のインキ濡れ性、カバーフィルムの密着性、半田濡れ性に優れ、該表面処理銅箔を樹脂基板と張り合わせることでエッチング加工性、高耐熱密着性、非マイグレーション性に優れる銅張積層基板を提供する。
【解決手段】未処理又は粗化処理後の銅箔の少なくとも一方の表面に、インジウムからなる防錆被膜が形成され、その表面にシランカップリング剤保護層が施された表面処理銅箔が絶縁基板に張り付けられている銅張積層基板である。
未処理又は粗化処理後の銅箔の少なくとも一方の表面に浸漬処理又は陰極電解処理によりインジウムからなる防錆被膜を施し、該防錆被膜上にシランカップリング剤による保護層を単一又は複数層施した表面処理銅箔を、その表面処理面を絶縁基板に貼り付けてなる銅張積層基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板等の回路基板を作成するのに適した銅張積層基板と該銅張積層基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅張積層基板はプリント配線板等に加工されて民生用の電子機器に止まらず、ハイブリット自動車や電気自動車の制御回路にも使用、搭載され生活環境とモータリゼーションの利便性を向上させている。また太陽光発電により得られた電力を蓄える産業用から家庭用に至る蓄電設備にもプリント配線板として採用され、今や回路基板として銅張積層基板は揺るぎ無い存在となっている。
【0003】
銅張積層基板に用いられる銅箔には電解銅箔と圧延銅箔が用いられる。電解銅箔は一般的に民生用のリジット基板に用いられ、圧延銅箔はフレキシブルな回路を必要とする。例えば、携帯電話のヒンジ部位やプリンターの印字摺動部の配線回路部位に用いられている。このように銅箔の選択は用途により棲み分けがなされているが、用途に共通する必須要件の一つに銅箔自体の防錆力と耐熱性が求められている。
【0004】
従来の銅箔表面の防錆手法として、電解銅箔にはクロメート防錆が、圧延銅箔にはベンゾトリアゾール(BTA)やその誘導体に代表される有機防錆剤による防錆が一般的になされている。前者のクロメート防錆処理は銅箔表面にクロムからなる防錆被膜を浸漬処理、陰極電解処理により施している。従ってクロメート防錆はコストパフォーマンスに優れ電解銅箔の表面処理として汎用的に用いられている。
一方、有機防錆処理は、銅箔表面を脱脂した後の活性化された表面と相性が良いことから、圧延銅箔の防錆処理として広く用いられている。
【0005】
上記防錆処理において、クロメート防錆は被膜の厚みが大きくなると回路形成後の半田濡れ性を悪くするばかりか、回路形成のエッチング後に防錆剤が残留残渣として残る場合があり、残留残差によるマイグレーション不具合を起す懸念がある。特に近年のファインパターン回路形成ではこのマイグレーション不具合を発見することが難しくなってきているため、マイグレーションを起こさない防錆処理が望まれている。
【0006】
一方有機防錆剤は、最近では耐熱性のあるBTA誘導体が開発され、銅張積層基板製造時の200℃前後のプレス温度では銅箔表面の酸化変色や耐熱劣化が回避されるものの、まだまだ完全な防錆被膜が形成できず、200℃より高い温度では酸化変色が発生したり、樹脂との密着性低下が生じたりする。昨今、高Tg(ガラス転移点)のエポキシ樹脂、LCP(液晶ポリマー)基板に代表される高周波基板、高温特性に優れるポリミド樹脂等々との積層には、積層温度が220℃から350℃程度まで必要とされるので、この様な樹脂材料との積層には未だ採用できない状況にある。
【0007】
また、クロメート防錆でも300℃を越える温度域では、耐熱性も限界となり銅箔と樹脂との界面では、密着剥離や膨れ不具合を誘発し、樹脂基板と積層しない面である光沢面側も酸化変色の進行が顕著となり、次工程で酸化被膜を除去する工程の追加を余儀なくしている。
【0008】
近年、環境面に対して規制が厳しくなり、三価クロム水和物の被膜であるクロメート防錆も、六価クロムの存在が懸念される、との理由でその使用に規制を懸ける顧客も少なくない。
また、有機防錆剤は劣化液の処理費用コストがまだまだ高くつき、適切な濃度管理手法を確立するのも難しく管理運用上の課題が多々ある。
この様に耐熱性と防錆効果を相乗させる処理手法の課題は未だ十分に検討がなされていない。
【0009】
前記した様に電解銅箔や電解銅合金箔にはクロメート防錆被膜処理、圧延銅箔や圧延銅合金箔には、ベンゾトリアゾールに代表される有機防錆剤やその誘導体による防錆被膜処理がなされている。しかし、前者は防錆効果には優れるが回路基板に加工した場合に半田濡れ性に不十分な不具合を有し、後者は回路基板に加工するときの熱処理工程における耐熱性に問題点を有し、半田濡れ性、耐熱性に優れ、防錆被膜形成が容易な防錆処理が施された銅箔が求められ、該銅箔を積層した銅張積層基板が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−117655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のリジット銅張積層基板及びフレキシブル銅張積層基板に用いる銅箔の防錆被膜処理は、酸化変色を防止するばかりでなく、樹脂基材との積層密着時の耐熱性や部品接続時の半田接合性(半田濡れ性)に優れることが求められる。しかし、一般に防錆力の向上と耐熱性、半田濡れ性とを両立させることは従来のクロメート防錆や有機防錆剤では困難とされていた。
【0012】
なお、金属材料の防錆処理方法として、重金属の一種または複数種の防錆被膜を陰極電解処理やスパッタ蒸着によって形成する手法も考えられるが、これらの方法は防食効果を目的とする手法でありプリント配線板用の銅張積層基板のような薄物銅箔の防錆処理には適さないばかりか、仮に適用できたとしても処理設備がコスト高になり工業的な量産化に採用することは極めて困難である。
【0013】
電子機器部材として用いられる銅張積層基板を構成する銅箔表面の防錆処理は、長期防錆効果を有し、かつ長期に渡り信頼性を満足するシンプルな組成からなる被膜形成が可能で、絶縁樹脂基板との密着性を阻害することなく寧ろ向上させる処理である必要がある。また、かかる防錆処理は銅箔との界面で酸化還元反応や触媒反応を起こさない被膜であることが必須用件のひとつである。
【0014】
本発明はこの様な相反する要求を満足する防錆被膜が施された表面処理銅箔を有する銅箔を絶縁樹脂基板に張り合わせた銅張積層基板とその製造方法を提供することを目的とし、銅箔表面の新規な防錆手法を鋭意検討した結果、銅箔の表裏に容易に処理が施せるばかりか、防錆効果に富む被膜をシンプルな浸漬法、又は陰極電解処理法で形成でき、形成した防錆被膜は回路基板として回路形成時のインキ濡れ性やカバーフィルムの密着性、半田濡れ性を大きくする効果に優れ、該表面処理銅箔を樹脂基板と張り合わせることでエッチング加工性、高耐熱密着性、非マイグレーション性に優れる銅張積層基板の開発に成功したものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の銅張積層基板は、電解銅箔、電解銅合金箔、圧延銅箔、又は圧延銅合金箔(なお以後、これらの銅箔を区別して表現する必要がないときは単に「銅箔」と表現する。)の少なくとも一方の表面に、表面張力特性と防錆効果に優れるインジウムからなる防錆被膜が形成され、その表面に表面張力特性と防錆効果に優れるシランカップリング剤保護層が施された表面処理銅箔を絶縁樹脂基板に張り付けた銅張積層基板である。
前記シランカップリング剤による保護層は単一層でも複数層でもよく、該剤間での層間剥離を起さない範囲の塗工層厚みとすることが好ましい。
【0016】
前記銅箔の表面処理が施される面の素地粗度が、JIS−B−0601に規定されるRz値で0.2〜12.5μmであることが好ましい。
また、前記銅箔の伸びは常温状態で3.5%以上であることが望ましい。
【0017】
本発明の銅張積層基板の製造方法は、銅箔表面に浸漬又は陰極電解処理によりインジウムからなる防錆被膜を施し、該防錆被膜上にシランカップリング剤による保護層を単一又は複数層施した表面処理銅箔を絶縁樹脂基板に貼り付けてなる銅張積層基板の製造方法である。
【0018】
本発明の銅張積層基板の製造方法は、銅箔の表面処理を施す側の素地粗度がJIS−B−0601に規定されるRz値で0.2〜12.5μmであることが好ましい。
【0019】
前記銅張積層基板の製造方法で使用する銅箔は、該銅箔の伸びが常温状態で3.5%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の表面処理銅箔は、銅箔の表面にインジウムを常温浸漬処理または陰極電解処理により、インジウムからなる表面張力特性と防錆効果のある防錆被膜を形成させることができ、該防錆被膜を施した銅箔と樹脂基板とを積層することで表面張力特性と防錆効果に優れた銅張積層基板を提供できる。
また、インジウムは環境に優しい金属で、防錆被膜製膜後の廃液の管理が容易であり、優れた防錆被膜で覆われた銅箔を提供でき、強いては品質的に優れる銅張積層基板が安価に提供することができる。
【0021】
前記表面張力特性と防錆効果に優れる防錆被膜を設けた銅箔を絶縁基板に貼り付けた積層銅張基板は、リジットおよびフレキシブルプリント配線板用の銅箔、半田濡れ性、エッチング加工性、高耐熱密着性、非触媒反応性、マイグレーション不具合のない伝送特性に優れるプリント配線板を作成する基板となり、強いては品質的にも優れる回路基板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の防錆処理工程の一実施形態を示す工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
先ず、本発明の表面張力特性と防錆効果に優れる銅箔の製造方法につき詳細に説明する。
本発明の表面張力特性と防錆特性に優れる銅箔は、該箔の表裏面に樹脂基板との密着性を持たせるために、従来のクロメート防錆剤や有機防錆剤に代えて被膜形成が均一性に優れかつ表面張力特性と防錆効果の高い被膜を、硫酸インジウムを主成分とする処方浴により、浸漬処理あるいは陰極電解処理により施す。次いで該防錆被膜面の上にシランカップリング剤の溶液を用いてシランカップリング剤保護層を単一層或いは複数層設ける。
【0024】
プリント配線板用の銅箔の場合には該シランカップリング保護層を複数層に重ね塗工処理することにより、樹脂基板との密着性をより高めることができる。この場合のシランカップリング剤の選択は、金属との親和性に優れる例えばエポキシ系のメトキシ基やエトキシ基を有するカップリング剤が好ましく、樹脂側であれば同様にメトキシ基やエトキシ基を有する例えばビニル系やアミノ系のカップリング剤との組み合わせが好ましい。
【0025】
銅箔表面の防錆処理につき、銅箔表面に施す防錆被膜としてニッケル、クロム、亜鉛及びインジウムの少なくとも1種類を含有する防錆剤が提案されている(特許文献1参照)。しかし、特許文献1に開示されている技術は、この特許文献1の段落0049に、「集電体としての銅箔表面に防錆層を施し、その後不活性ガス中で熱処理することが要件となっており、熱処理箔の表面に黒鉛を活物質として積層する」と記載されているのみで、インジウムを用いた防錆層についての具体例な開示はなされていない。このように、該特許文献1には、銅箔の防錆層を形成する手段の一つにインジウムが使用可能である、との示唆はなされているが、インジウム防錆層を施した銅箔を銅張積層基板に適用した事例については何らの開示も示唆もなされていず、インジウム防錆層とシランカップリング剤保護層との組み合わせにより半田濡れ性が改善され、耐熱性が向上する、との効果については何等の示唆もなされていない。
【0026】
図1により本発明の表面張力特性と防錆処理機能を有する銅箔の表面処理方法につきその一実施形態を説明する。
図1においてリールに巻き取られた未処理銅箔(例えば、電解銅箔又は電解銅合金箔あるいは電解脱脂済みの圧延銅箔又は圧延銅合金箔で、表面が粗化処理されていない銅箔)あるいは未処理銅箔の表面を粗化処理した銅箔Aを防錆処理層1へ導く。
処理槽1にはSUSアノード11が配置され、硫酸インジウム液12が充填されており、銅箔Aの表面にインジウム防錆被膜が施される。
防錆処理槽1においてインジウム被膜が施された銅箔Bは水洗槽2で洗浄された後、シランカップリング剤液が充填されている処理槽3へ導かれる。
【0027】
処理槽3にはシランカップリング剤液32が充填されており、銅箔Bの表面にシランカップリング剤32を塗布する。
処理槽3においてシランカップリング剤を塗布された銅箔Cは乾燥装置4を経て巻取りロール5に巻き取られる。
【0028】
本発明の表面処理剤としての硫酸インジウムを主成分とする処理浴の組成は、硫酸インジウム(III)を1.0〜3.0g/l程度の水溶液とする。浸漬処理の場合には3.0g/l、陰極電解処理の場合には1.0g/lにして表裏面共に電流密度を1A/dmに設定して処理する。金属インジウムの付着量は浸漬処理でも陰極電解処理の場合でも0.003〜0.035mg/dm程度にすることが好ましい。
【0029】
該表面張力特性と防錆処理特性を有する層にシランカップリング剤からなる保護層を単一保護層として、あるいは複数層からなる保護層として形成する。シランカップリング剤の付着量は、合計されるケイ素として0.001〜0.015mg/dmとすることが望ましい。
【0030】
銅箔Aとしては、積層や塗工対象とする樹脂材料(絶縁樹脂基板)との密着特性の向上を図るために、少しでも表裏面が粗化処理されていることが好ましいが、昨今の配線基板(PWB/Printed Wiring Board)には、フレキシブル配線基板(FPC/Flexible Printed Circuits)も多用されることから、極めて低粗化あるいは無粗化でありながら投錨効果、樹脂との密着性に優れかつ耐熱性や防錆効果も求められている。そのために、粗化処理銅箔であれば粗化する金属粒子の粗度はなるべく小さく、粗化処理面の粗度は平滑である方が好ましい。
【0031】
PWB、FPCに一般的に用いられる銅箔の場合で、特に電解銅箔にあっては、柱状晶粒からなる結晶構造を有する電解銅箔でなく、微細結晶構造を有して製箔される表裏が平滑な表面形状をなす両面光沢電解銅箔を用いる方が好ましい。例えば非粗化処理で6μm厚さ以上であればマット面側の素地粗度がJIS−B−0601に規定されるRz値で0.6〜2.0μm範囲で、かつ常温伸び率が3.5%以上である電解銅箔が好ましい。
【0032】
本発明の防錆処理を施した銅箔は、防錆効果は公知の防錆処理剤(クロメート処理、ベンゾトリアゾールやその誘導体等による処理)に匹敵するばかりか、種々樹脂基板(リジット材やフレキブル材等)との密着性、特に自動車部品として搭載される耐熱回路基板用途や、更には通信機器モジュール基板、EV自動車用の制御回路基板用途でも、好適に使用することができる。
【0033】
銅箔Aに設ける表面張力特性と防錆処理特性を有する防錆被膜は、防錆処理槽1で硫酸インジウム(III)が溶解されている浴を用いて浸漬(dipping)または陰極電解処理により設ける。
硫酸インジウム(III)が溶解されている溶液は、浴温度15.5〜50.5℃の範囲に設定し、陰極電解処理を施す場合には電流密度を1.0〜3.5A/dmに設定し、適宜な流速と極間距離とで必要とする面に防錆被膜を形成する。なお、浴のpHは特に規定するものではないが、未処理銅箔の前処理の条件により酸性側あるいはアルカリ性側にして処理を施すことが可能である。
【0034】
酸性側とする場合には、硫酸酸性とするのが好ましく硫酸濃度を約0.1規定濃度(4.9g/l)以下とし、アルカリ性側にする場合には、pHを11.5〜12.5の範囲に苛性ソーダ等の水酸基を有する化合物で設定することが好ましい。
【0035】
ここまでの工程で銅張積層基板に採用する銅箔としての防錆効果はほぼ十分に確保できるが、絶縁樹脂基板や高温時(想定温度は鉛フリーの半田リフロー工程の条件を最大温度として288℃)の密着性に課題が生じることがあるため、該防錆被膜表面に耐熱性を高めるシランカップリング剤による保護層を設ける。
本発明の防錆被膜は銅箔の表裏面に形成するが、シランカップリング剤による保護層は絶縁樹脂基板との接着面側のみに形成しても良い。例えばPWB、FPC用途等の場合には樹脂基板と積層される面側のみに形成させる。PCB用途でも内層導体に用いる場合には、表裏面に均一に保護層を施す。
【0036】
表面張力特性と防錆処理特性を有する防錆被膜としてのインジウムの被膜厚みは、浸漬処理の場合であっても陰極電解処理であってもインジウム量として0.003〜0.035mg/dmの範囲が好ましい。
この付着量範囲であればJIS-Z−2371に規定される塩水噴霧試験(塩水濃度:5%−NaCl、温度35℃)条件下で24時間までは表面が酸化銅に変色しない。また防錆被膜が銅箔の表裏全面に均一かつ不備(処理抜け)なく施されているかの簡易的な測定方法として、常温の硫化カリウム5g/l溶液中に5分程度浸漬し、水洗乾燥後においても硫化銅の黒変色は見られない。
【0037】
インジウム処理の施された防錆被膜面の主に樹脂基板と接着される面にはシランカップリング剤を適宜コーティングする。シランカップリング剤は積層する絶縁樹脂基板により適宜選択されるが、特に汎用モジュール対応基板やポリイミド基板には相性に優れるエポキシ系、アミノ系、ビニル系のカップリング剤を選択することが好ましい。
また、本発明においてはシランカップリング剤の品種種類を限定しないが、シランカップリング剤の付着量はケイ素として0.001〜0.015mg/dmの範囲であることが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下に記載する実施例、比較例の検体において表裏の区別がつかない銅箔は、目視評価また測定が可能な面の結果を表1に記載する。
〔実施例1〕
【0039】
公称厚み10μm(単重量で89g/m)の両面共に光沢のある電解銅箔で、そのマット面側(電着液面側)の素地のJIS−B−0601に規定のRz値が0.8μmで、光沢面側(ドラム面側)の素地のRz値が1.2μmのNC−WS−10μm箔(古河電気工業株式会社製造の両面光沢電解銅箔)を未処理のまま用いて該表裏面に以下の条件で陰極電解処理で防錆被膜を形成した。
【0040】
防錆浴組成と処理条件
硫酸インジウム(III)9水和物 インジウムとして 1.0g/l
浴温 23.5℃
pH 4.5
陰極電解処理電流密度 1.0A/dm
【0041】
シランカップリング剤処理条件は、前記のインジウム防錆被膜を施した銅箔に0.5wt%に建浴したエポキシ系のシランカップリング剤(チッソ株式会社製サイラエースS−510)を該銅箔の表裏面に23.5℃の浴温で浸漬処理により薄膜塗布を一回処理(単一処理層)で付着した。
【0042】
得られた処理箔の付着インジウム量と付着珪素量とを蛍光X線で予め検量された数値に比して、換算付着量値を計測し、その値を表1に記載した。なお、検量線の作成に際しては、インジウムの理論値を段階的に測定した。
【0043】
更に、該処理銅箔を250mm角に切断して市販のFR4規格のガラスエポキシ系樹脂基板(日立化成工業株式会社製LX-67Nプリプレグ使用)に表裏処理面をそれぞれ樹脂面に重ね合わせて加熱プレス積層(180〜205℃*25Kgf/cm*60〜90min)して、両面銅張積層基板を作成し吸湿後の耐熱半田密着性の評価用とした。
【0044】
耐熱半田密着性の良否判定は、前記両面銅張積層基板を50mm角に切断して、該銅張積層基板の片面の銅箔を完全にエッチング溶解した後、3ヶの試験片を準備して、PCT(プレッシャークッカーテスト)試験条件(相対湿度100%、2気圧、121℃、120分)下で前処理を行い、次いでその試験片を260℃に設定された半田浴に30秒浸漬させて、銅箔と基板との間の膨れ発生の有無を、膨れが試験片の全てに全く発生しなかったものを◎、試験片の一片に1ヶの5mmΦ未満の軽微な膨れが見られた場合を○、2〜3ヶの5mmΦ未満の膨れが見られた場合を△、4ヶ以上の5mmΦ未満の膨れまたは数に関係なく5mmΦ以上の膨れが見られた場合を×として評価し、その結果を表1に記載した。
【0045】
また、半田濡れ性の良否判定は、前記両面銅張積層基板を25mm*50mmサイズに切断して、表面を希薄な塩酸溶液(0.01%-HCL sol.)で酸洗前処理をした後に、NA200ロジン液フラックス(タムラ化研製)を一様に銅箔表面に付着させ、260℃に保持された半田浴槽に5秒間浸漬させて直ちに引き上げて表面をMEK(メチルエチルケトン)溶液にて洗浄し、半田が均一に濡れているものを「◎」、若干濡れない箇所があるものハジキ箇所が全体の10%未満の場合を「○」、ハジキ箇所が全体の10%程度見られるものを「△」、ハジキ箇所が全体の10%以上見られるものを「×」、全く半田が濡れない場合を「■」として評価し、その結果を表1に記載した。
【0046】
銅箔の防錆力(耐酸化変色性)効果の評価測定は、JIS-Z−2371に規定される塩水噴霧試験(塩水濃度:5%-NaCl、温度35℃)条件下で、3、6、12、24時間までの表面の酸化銅変色進行程度を目視で確認し24時間後に、全く変色を呈しなかったものを「◎」、若干の淡い薄茶の変色がみられた場合を「○」、褐色に変色した場合を「△」、青〜紫色に変色した場合を「☆」、橙〜黄赤色に変色した場合を「■」と評価し、その結果を表1に記載した。
【0047】
防錆被膜塗工均一性の評価は、常温(23.5℃)の硫化カリウム5g/l溶液中に、銅箔を300秒浸漬し水洗乾燥後に硫化銅の黒点変色(銅箔、銅合金箔であれば黒色点スポット変色)を単位面積(250mm×250mm)当たりの個数で測定(Zonax法)し、該黒色点スポット変色が全く見られない場合を「○」、大きさに関わらず1ヶでも見られる場合を「△」、2ヶ以上見られる場合を「×」、防錆の効果が認められない場合を「■」として評価し、その結果を表1に記載した。
【0048】
更に、インジウム処理後の表面張力の測定は、JIS−K−6768に規定されるJIS濡れ試薬(和光純薬工業株式会社製)にて該表面の濡れ性向上の効果を、数値22.6mN/m〜73.0mN/m(数値が小さい程疎水性を示し、数値が大きい程親水性で濡れ易い)範囲で比較し、その結果を表1に記載した。
【0049】
絶縁樹脂基板との密着性は、市販のFR4クラスのガラスエポキシプリプレグ〔4枚重ねたプリプレグ(厚さ180μm)〕に処理面を積層し、プレスプレートに挟み170℃で120分間、面圧15kg/cmで加熱加圧成形した後の引剥し強さを、JIS C−6481に規定されている方法により測定し、その結果を表1に記載した。
【0050】
【表1】

【0051】
〔実施例2〕
実施例1で用いた未処理電解銅箔の防錆処理を浸漬処理(Dipping)で行なった以外は、実施例1と同様の評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0052】
〔実施例3〕
実施例1で用いた未処理電解銅箔に代えてGTS−MP−18μm箔(古河電気工業株式会社製造、電解製箔条件により柱状結晶でIPC規格に分類されるミドルプロファイル形状のマット面側を有している銅箔)のマット面に下記の粗化処理を施した後に、実施例1と同様の防錆処理を表裏面に施し、実施例1と同じ評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0053】
(1) 銅箔表面の粗化メッキ処理条件
硫酸銅・・・・・・・・・・・金属銅として 23.5g/l
硫酸として・・・・・・・・・・・・・・・ 100g/l
砒素化合物・・・・・・・・・・砒素として 0.150g/l
塩酸・・・・・・・・・・塩素イオンとして 0.0022g/l
浴温度:・・・・・・・・25.5℃
電解メッキ電流密度:・・28.5A/dm
【0054】
(2) 粗化メッキ表面の平滑カプセルメッキ処理条件
硫酸銅・・・・・・・・・・・金属銅として 52.5g/l
硫酸として・・・・・・・・・・・・・・・ 100g/l
塩酸・・・・・・・・・・塩素イオンとして 0・002g/l
浴温度:・・・・・・・・45.5℃
電解メッキ電流密度:・・18.5A/dm
【0055】
平滑カプセルメッキ処理層の表面のニッケルメッキ条件
硫酸ニッケル・・・・・金属ニッケルとして 5.0g/l
過硫酸アンモニュームとして・・・・・・・ 40.0g/l
ホウ酸として・・・・・・・・・・・・・・ 28.5g/l
pH:・・・・・・・・・3.5〜4.2
浴温度:・・・・・・・・28.5℃
【0056】
亜鉛メッキ条件
硫酸亜鉛・・・・・・・・・金属亜鉛として 4.8g/l
水酸化ナトリュウムとして・・・・・・・・ 35.0g/l
pH:・・・・・・・・・12.5〜13.8
浴温度:・・・・・・・・18.5℃
電解メッキ電流密度:・・0.8A/dm
【0057】
前記の銅粒子粗化処理とニッケルメッキと亜鉛メッキ処理された銅箔に本願の防錆処理を施した後に、該表面にのみ0.5wt%に建浴したエポキシ系のシランカップリング剤(チッソ株式会社製サイラエースS-510)を薄膜塗布し保護層とし、実施例1と同じ評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0058】
〔実施例4〕
実施例1で用いた未処理電解銅箔に代えて公称18μmで、常温伸び率が3.6%で、表面粗度がRz値で0.8μmのOFC圧延銅箔(古河電気工業株式会社製造)を用いて、実施例2と同様の浸漬防錆処理を表裏面に設けた後に、実施例1と同じ評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0059】
〔実施例5〕
実施例1で用いた未処理電解銅箔に代えて公称18μmの、銅−錫合金箔(古河電気工業株式会社製造)を用いて、実施例2と同様の浸漬防錆処理を表裏面に設けた後に、実施例1と同じ評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0060】
〔比較例1〕
実施例1で用いた未処理NC−WS箔の表裏面に、CrOとして3.0g/lの常温浴中で陰極電解処理(電流密度1.0A/dm)でメッキ処理し、その表面に実施例1と同じシランカップリング剤保護層を施し、実施例1と同様の評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0061】
〔比較例2〕
比較例1で用いた未処理NC−WS箔の表面処理をCrOとして3.0g/lの常温浴中に浸漬処理することで防錆被膜を施し、次いで実施例1と同じシランカップリング剤保護層を施し、実施例1と同様の評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0062】
〔比較例3〕
実施例3で用いたマット面を粗化処理したGTS−MP銅箔に、比較例1と同様なメッキ処理を施し、次いで実施例1と同じシランカップリング剤保護層を施し、実施例1と同様の評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0063】
〔比較例4〕
実施例4で用いたOFC箔に、比較例1と同様なメッキ処理防錆被膜を施し、次いで実施例1と同じシランカップリング剤保護層を施し、実施例1と同様の評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0064】
〔比較例5〕
実施例5で用いた合金銅箔に、比較例1と同様なメッキ処理防錆被膜、シランカップリング剤保護層を施した以外は、実施例1と同様の評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0065】
〔比較例6〕
実施例1で用いた箔に、BTA系の有機防錆剤(千代田ケミカル株式会社の品番C−143)の5.0Wt%(重量パーセント)で40℃に建浴した浴中で防錆被膜を設けた箔に、実施例1と同様の評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0066】
〔比較例7〕
実施例3に用いた箔に、比較例6と同様な浸漬処理を施した以外は、実施例1と同様の評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0067】
〔比較例8〕
実施例4に用いたOFC箔に、比較例6と同様な浸漬処理を施した以外は、実施例1と同様の評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0068】
〔比較例9〕
実施例5で用いた合金銅箔に、比較例6と同様な浸漬処理を施した以外は、実施例1と同様の評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0069】
〔比較例10〕
実施例1で用いた電解銅箔に、何らの防錆処理もシラン保護層処理を設けなかった以外は、実施例1と同様の評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0070】
〔比較例11〕
実施例3で用いたGTS−MP電解銅箔に、何らの防錆処理も設けなかった以外は、実施例1と同様の評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0071】
〔比較例12〕
実施例1で用いたNC−WS電解銅箔に、防錆処理はせずにシランカップリング保護層の一層塗工処理を設けた以外は、実施例1と同様の評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0072】
〔比較例13〕
実施例3で用いたGTS−MP電解銅箔に、防錆処理はせずにマット面側のみにシラン剤保護層の一層塗工処理を設けた以外は、実施例1と同様の評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0073】
〔比較例14〕
実施例3で用いたGTS−MP電解銅箔に、防錆処理はせずにタイプの異なる2種類のシランカップリング剤保護層による2層塗工処理をマット面側のみに設けた以外は、実施例1と同様の評価測定を行った。その結果を表1に併記した。
【0074】
表1から明らかなように、実施例1〜5の銅箔は、防錆力、半田濡れ性に影響する表面張力、半田濡れ性、耐熱半田密着性、絶縁樹脂基板との密着性いずれも従来製品に優るとも劣るものではなかった。
一方、比較例1〜5は銅箔表面の防錆被膜がクロメート被膜であるために半田濡れ性、耐熱半田密着性にやや難点が見え、比較例4、5では基板との密着性に弱点が見られた。
また比較例6〜9、12〜14はシランカップリング剤被膜のみで防錆効果を見たもので、防錆力、耐熱半田密着性に難点が見られた。
【0075】
本発明の製造方法によれば、防錆効果、半田濡れ性、半田耐熱性(積層時の耐熱性)、表面張力(溶媒との密着性に優れる)に優れる表面処理金属箔を提供出来るので、負極集電体や銅張積層基板として優れた効果を発揮する銅張積層基板を提供することができる。
また、本発明銅箔の製造方法によれば、電解銅箔の場合には連続的に一貫した工程で製造できるので、表面処理銅箔を低価格で製造することができ、来るべき環境対応の観点からクロムフリー化を可能とし、銅箔の供給面でも特性面でも、十分に対応することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 防錆処理槽
3 シランカップリング剤保護層の処理槽
A 未処理銅箔(又は表面粗化銅箔)
B インジウム防錆被膜が施された銅箔
C シランカップリング剤保護層が施された銅箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔の表面に、インジウムからなる防錆被膜が形成され、その少なくとも一方の表面にシランカップリング剤保護層が施された表面処理銅箔が絶縁基板に張り付けられている銅張積層基板。
【請求項2】
前記シランカップリング剤による保護層は単一層又は複数層である請求項1に記載の銅張積層基板。
【請求項3】
前記銅箔の防錆皮膜が施される面の素地粗度が、JIS−B−0601に規定されるRz値で0.2〜12.5μmである請求項1又は2に記載の銅張積層基板。
【請求項4】
前記銅箔の伸びは常温状態で3.5%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の銅張積層基板。
【請求項5】
銅箔の表面に浸漬処理又は陰極電解処理によりインジウムからなる防錆被膜を施し、該防錆被膜の少なくとも一方の面にシランカップリング剤による保護層を単一又は複数層施した防錆皮膜を有する銅箔を、その防錆被膜面を絶縁基板に貼り付けてなる銅張積層基板の製造方法。
【請求項6】
前記防錆被膜を施す側の銅箔の素地粗度がJIS−B−0601に規定されるRz値で0.2〜12.5μmである請求項5に記載の銅張積層基板の製造方法。
【請求項7】
前記製造方法で使用する銅箔の伸びが常温状態で3.5%以上である請求項5又は6に記載の銅張積層基板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−41626(P2012−41626A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186456(P2010−186456)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】