説明

銅張積層板及びその製造方法

【課題】液晶ポリマーフィルムの表面を、2.6〜15Paのガス圧の酸素雰囲気又は窒素雰囲気下でプラズマ処理した面に、乾式めっき及び/又は湿式めっきにより形成された金属導体層を備えた銅張積層板。液晶ポリマーフィルムのプラズマ処理後の表面粗さが、算術平均粗さRaが0.15μm以下であり、かつ二乗平均平方根粗さRqが0.20μm以下である上記銅張積層板。
【解決手段】液晶ポリマーフィルムの表面を、2.6〜15Paのガス圧の酸素雰囲気又は窒素雰囲気下でプラズマ処理したした後、乾式めっき及び/又は湿式めっきにより金属導体層を形成することを特徴とする銅張積層板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波特性に優れた銅張積層板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマーフィルムの絶縁材料として持っている誘電率や誘電正接の物性は、高周波領域においても安定しており、また吸水率が低いことから高周波回路基板や高速伝送路用回路への適用が検討されている。
しかし、液晶ポリマーと金属導体層の密着性や親和性が乏しいため、金属導体層として一般的に用いられる銅箔の表面粗さを粗くする、又は粗化処理の粒子形状を変更することによって、アンカー効果により物理的な密着を強化しているのが現状である。
【0003】
しかし、高周波領域では周波数が高くなるにつれ、表皮粗さが薄くなるため、液晶ポリマーと金属導体層の界面が粗くなると、表皮粗さの関与する割合が増え、伝送損失が大きくなり、本来高周波特性の優れた液晶ポリマーフィルムの性能が十分に発揮できないという問題がある。
【0004】
従来技術では、熱可塑性液晶ポリマーフィルムに、気体状の酸素原子含有化合物の存在下で、気体放電プラズマ処理を施して、表面部の酸素原子対炭素原子のモル比を、内部のモル比に対して1.2倍以上とする表面改質を行うことが記載されている(特許文献1)。この場合は、液晶ポリマーフィルムへの酸素導入による改質が必須の要件となっている。また、酸素による表面改質のみに言及しており、酸素含有化合物の存在下でのプラズマ処理であり、その他ガスでの表面改質効果は述べられていない。
【0005】
また、特許文献2には、熱可塑性液晶ポリマーフィルムに酸素ガス圧0.6〜2.5Paの雰囲気下で放電プラズマ処理することが記載されている。これは、液晶ポリマーフィルムの粗さに関して規定しているが、表面粗さの増大は金属シード層の均一な被覆を阻害する影響を述べるに止まっている。
【0006】
特許文献1及び特許文献2は、酸素ガスでのプラズマ処理による液晶ポリマーフィルムの表面改質効果を見出したものであるが、その他のガス種も含めたプラズマ処理で表面の改質を狙ったものである。下記に説明する本願発明の内容である、表面粗さを処理前後で変えないこと、そして本来液晶ポリマーフィルムが持っている優れた高周波特性を維持することについては、特許文献1、2には一切開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−49002号公報
【特許文献2】特開2005−297405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、液晶ポリマーと金属導体層の間の界面粗さを、元々のフィルム粗さと同等に保ち、プラズマ処理により化学的な密着を強固にすることによって、高周波特性に優れた液晶ポリマーの銅張積層板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、
1)液晶ポリマーフィルムの表面を、2.6〜15Paのガス圧の酸素雰囲気又は窒素雰囲気下でプラズマ処理した面に、乾式めっき及び/又は湿式めっきにより形成された金属導体層を備えることを特徴とする銅張積層板
2)液晶ポリマーフィルムのプラズマ処理後の表面粗さが、算術平均粗さRaが0.15μm以下であり、かつ二乗平均平方根粗さRqが0.20μm以下であることを特徴とする上記1)記載の銅張積層板
3)単位長さあたりの伝送損失が、5GHzで20dB/m以下であることを特徴とする上記1)又は2)記載の銅張積層板
4)単位長さあたりの伝送損失が、20GHzで50dB/m以下であることを特徴とする上記1)又は2)記載の銅張積層板
5)単位長さあたりの伝送損失が、40GHzで130dB/m以下であることを特徴とする上記1)又は2)記載の銅張積層板、を提供する。
【0010】
また、本発明は、
6)プラズマ処理された液晶ポリマーフィルムの表面と乾式めっき及び/又は湿式めっきにより形成された金属導体層との間に、バリア層を有することを特徴とする上記1)〜5)のいずれか一項に記載の銅張積層板
7)バリア層が、ニッケル若しくはニッケル合金、コバルト若しくはコバルト合金、又はクロム若しくはクロム合金からなるタイコート層であることを特徴とする上記6)記載の銅張積層板
8)前記金属導体層が、銅スパッタリング層及び該スパッタリング層の上に形成された電解銅めっき層であることを特徴とする上記1)〜7)のいずれか一項に記載の銅張積層板、を提供する。
【0011】
本発明は、また
9)液晶ポリマーフィルムの表面を、2.6〜15Paのガス圧の酸素雰囲気又は窒素雰囲気下でプラズマ処理したした後、乾式めっき及び/又は湿式めっきにより金属導体層を形成することを特徴とする銅張積層板の製造方法
10)液晶ポリマーフィルムをプラズマ処理することにより、液晶ポリマーフィルムの表面粗さを、算術平均粗さRaを0.15μm以下に、かつ二乗平均平方根粗さRqを0.20μm以下にすることを特徴とする上記9)記載の銅張積層板の製造方法
11)銅張積層板の単位長さあたりの伝送損失を、5GHzで20dB/m以下とすることを特徴とする上記9)又は10)記載の銅張積層板の製造方法
12)銅張積層板の単位長さあたりの伝送損失を、20GHzで50dB/m以下とすることを特徴とする上記9)又は10)記載の銅張積層板の製造方法、を提供する。
【0012】
本発明は、また
13)銅張積層板の単位長さあたりの伝送損失を、40GHzで130dB/m以下とすることを特徴とする上記9)又は10)記載の銅張積層板の製造方法
14)プラズマ処理された液晶ポリマーフィルムの表面と乾式めっき及び/又は湿式めっきにより形成された金属導体層との間に、バリア層を形成することを特徴とする上記9)〜13)のいずれか一項に記載の銅張積層板
15)バリア層として、ニッケル若しくはニッケル合金、コバルト若しくはコバルト合金、又はクロム若しくはクロム合金からなるタイコート層を形成することを特徴とする上記14)記載の銅張積層板の製造方法
16)前記金属導体層として、予め銅スパッタリング層を形成し、このスパッタリング層上に電解銅めっき層を形成することを特徴とする上記9)〜15)のいずれか一項に記載の銅張積層板の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液晶ポリマーフィルムの表面を、2.6〜15Paのガス圧の酸素雰囲気又は窒素雰囲気下でプラズマ処理したした後、乾式めっき及び/又は湿式めっきにより金属導体層を形成することにより、液晶ポリマーと金属導体層の間の界面粗さを、元々のフィルム粗さと同等に保ち、プラズマ処理により化学的な密着を強固にすることによって、高周波特性に優れた液晶ポリマーの銅張積層板を提供することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】液晶ポリマーフィルムの両面に、タイコート層、銅スパッタリング層、電解銅めっき層を形成した、本願発明の一例を示す銅張積層板の概略図である。
【図2】実施例のプラズマ処理のパワー密度とピール強度の関係を示す図である。
【図3】実施例と比較例の伝送損失の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る液晶ポリマーフィルムベースの銅張積層板は、一例として、図1に示されるような液晶ポリマーフィルムの両面、あるいは片面に金属導体層との密着性を付与するため、酸素、または窒素雰囲気下でプラズマ処理し、バリア効果のある金属、あるいは合金をスパッタリング法若しくは蒸着法のような乾式めっき法又は湿式めっき法によりバリア層を付与する。
【0016】
その後、バリア層の上にスパッタリング法や蒸着法のような乾式めっき法で銅又は銅合金の導電体層を積み上げるか、無電解銅めっきや電解銅めっきのような湿式めっき法により導電体層を形成して銅張積層板を作製する。
【0017】
液晶ポリマーには、芳香族ポリアミドに代表されるレオトロピック液晶ポリマーと芳香族ポリエステルに代表されるサーモトロピック液晶ポリマーがある。
銅張積層板としては、吸湿が少なく、吸湿による寸法変化率が小さいサーモトロピック液晶ポリマーが好ましい。このサーモトロピック液晶ポリマーは、熱可塑性樹脂としてはポリイミドや芳香族ポリアミドには耐熱性は劣るが、耐熱性に優れたスーパーエンジニアリングプラスチックに分類される。
【0018】
このサーモトロピック液晶ポリマーをフィルム成形する方法は、押出成形法が適用されるが、Tダイ法、インフレーション法などが工業的に行われている。
本発明に使用するサーモトロピック液晶ポリマーフィルムについては、p−ヒドロキシ安息香酸とポリエチレンテレフタレートからなるタイプ、p−ヒドロキシ安息香酸とテレフタル酸,4,4’―ジヒドロキシビフェニルからなるタイプ、p−ヒドロキシ安息香酸と2,6―ヒドロキシナフトエル酸からなるタイプなどが開発され、市販されているので、これらを使用することができる。しかし、これらの種類に限定されるものではない。
【0019】
液晶ポリマーフィルムとしては、クラレ社からは、ベクスターCT−Z、CT−F、FB、OCのようなフィルム、ジャパンゴアテックス社からはBIAC BA、BCのようなフィルムが市販されている。
【0020】
前記のように液晶ポリマーフィルムに対して、金属導体層との密着性のためにプラズマ処理を施す。このプラズマ処理は、それを施すことで表面粗さの増大によるアンカー効果を期待したものではなく、表面粗さは殆ど変化させない程度、つまり、ポリマーと金属の化学的な結合を強固にすることで、密着性を付与することが重要である。
【0021】
また、本願発明は、液晶ポリマーフィルムに酸素を導入することを特徴としたものでもない。酸素ガスでのプラズマ処理は、ラジカルがポリマー表面に作用し、活性化したポリマー表面と金属の密着性の向上が期待できるが、窒素ガスでのプラズマ処理は、元々液晶ポリマーフィルムに存在しない窒素を導入することにより、新たなポリマーと金属の結合を形成することが期待できる。
表面粗さの増大は、高周波領域での伝送損失に対して負の効果を示し、液晶ポリマーを用いた銅張積層板で本来目的とする高周波特性を得るために、表面粗さは小さくすることが望ましい。
【0022】
このプラズマ処理で使用されるガスとしては、前記特許文献1、特許文献2に記載されている酸素ガスを使用できるが、窒素ガス雰囲気下でプラズマ処理をすることで、ポリマーと金属の密着性を強化することも可能である。
プラズマガス圧については、ガス圧が低い場合、プラズマ放電が不安定になり、処理することができなくなる。一方、ガス圧が高い場合、プラズマ放電は安定化するが、リークガスが多くなりガスの無駄となる。したがって、むやみにガス圧を高くしても意味がなく、経済的に得策でない。したがって、2.6〜15Paのガス圧にするのが望ましいと言える。
【0023】
図1に示すタイコート層はバリア層に相当するが、バリア効果を発揮するニッケル、コバルト、クロムのような金属、あるいはニッケル合金、コバルト合金、クロム合金が好適である。これらは導体層の銅に比べて導電率が小さく、高周波領域では電流が表皮効果により、表面を流れるようになり、タイコート層が抵抗層となる。
【0024】
したがって、高周波特性の面では、タイコート層が無いのが良いのであるが、プリント基板用の銅張積層板としては、タイコート層のようなバリア層が無いと、長期的には銅がポリマー側に拡散し、結合を切断するような影響が出てくる場合がある。
このため、現実的にはタイコート層は導電率が大きな金属又は合金を、できるだけ薄くすることが望ましい。また、このタイコート層は、素子の使用条件によって、不必要と考えられる場合には、施工する必要はない。
タイコート層はスパッタリング法、蒸着法、無電解めっき法などが適用できるが、プラズマ処理からの一連の流れの中で、プラズマ処理と同一チャンバー内でスパッタリングする方が、生産効率の面から得策である。
【0025】
タイコート層を付与後、本来の電流を流すための金属導体層を形成するが、一連の乾式工程の流れから、スパッタリング法で銅層を形成することが可能である。
しかし、目的とする銅厚が1μmを超える場合、スパッタリング法で規定の銅厚に金属導体層を形成するのはコスト的に不利であり、その場合、タイコート層上にスパッタリングで数百nmの銅シード層を形成後、湿式めっき法で規定の銅厚まで銅めっきする方が好ましいと言える。
【0026】
液晶ポリマーフィルムをプラズマ処理することにより、液晶ポリマーフィルムの表面粗さを、算術平均粗さRaを0.15μm以下に、かつ二乗平均平方根粗さRqを0.20μm以下にすることができる。このように、プラズマ処理が液晶ポリマーフィルムの表面を粗くすることが本質的な目的でないことが理解されるであろう。
ただし、銅層の密着性を得るためには、液晶ポリマーフィルムの表面粗さとして、少なくとも算術平均粗さRa0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上が必要である。
以上の処理によって、銅張積層板の単位長さあたりの伝送損失を、5GHzで20dB/m以下とすること、また20GHzで50dB/m以下とすること、さらには40GHzで130dB/m以下とすることができる。
【実施例】
【0027】
実施例を比較例と共に具体的に説明するが、以下の説明は理解し易くするものであり、発明の本質を制限されるものではない。すなわち、発明に含まれる他の態様または変形を含有するものである。
【0028】
(実施例1〜実施例8)
液晶ポリマーフィルムとしては、ジャパンゴアテックス社製のBIAC,BC,50μm、及びクラレ社製のベクスター,CT−Z,50μmを使用した。
この液晶ポリマーフィルム上に、表1に示したガス種、ガス圧、パワー密度の各条件でプラズマ処理を施した。プラズマの強度をパワー密度で表現したが、個々の装置によりターゲットのサイズや電流―電圧特性、処理速度などのプロセス条件が異なるため、一概に印加電圧と処理時間で定義しても無意味なため、ポリイミドフィルムをプラズマ処理する条件を1とした場合のパワー密度として記載した。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例1は、液晶ポリマーフィルムとして上記BIACを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:13Pa、ガス種:窒素、パワー密度:4.3。
実施例2は、液晶ポリマーフィルムとして上記BIACを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:13Pa、ガス種:窒素、パワー密度:4.3。
実施例3では、液晶ポリマーフィルムとして上記BIACを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:10Pa、ガス種:窒素、パワー密度:8.1。
実施例4では、液晶ポリマーフィルムとして上記BIACを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:10Pa、ガス種:窒素、パワー密度:8.1。
【0031】
実施例5は、液晶ポリマーフィルムとして上記BIACを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:10Pa、ガス種:窒素、パワー密度:8.1。
実施例6は、液晶ポリマーフィルムとして上記BIACを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:10Pa、ガス種:酸素、パワー密度:5.3。
実施例7では、液晶ポリマーフィルムとして上記ベクスターを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:10Pa、ガス種:酸素、パワー密度:5.3。
実施例8では、液晶ポリマーフィルムとして上記ベクスターを使用した。プラズマ条件は次の通りである。ガス圧:10Pa、ガス種:窒素、パワー密度:5.3。
【0032】
プラズマ処理後の液晶ポリマーフィルムは、その表面形状をVeeco社製のWyco NT1100の表面形状測定器にて120μm×92μmの視野での表面粗さを計測し、算術平均粗さRaと二乗平均平方根粗さRqを求めた。
実施例1〜実施例8の算術平均粗さRaと二乗平均平方根粗さRqは、次の通りであった。また、この結果の一覧を、同様に表1に示す。
【0033】
実施例1:Ra:0.11μm、Rq:0.14μm
実施例2:Ra:0.10μm、Rq:0.14μm
実施例3:Ra:0.12μm、Rq:0.15μm
実施例4:Ra:0.12μm、Rq:0.14μm
実施例5:Ra:0.11μm、Rq:0.15μm
実施例6:Ra:0.12μm、Rq:0.15μm
実施例7:Ra:0.11μm、Rq:0.14μm
実施例8:Ra:0.10μm、Rq:0.14μm
【0034】
プラズマ処理後のフィルムは、スパッタリングにより表1に示すタイコート層と湿式めっきの種層になる銅スパッタ層を200nm形成した。実施例1〜実施例8のタイコート層の条件は、次の通りである。この結果の一覧を、同様に表1に示す。
【0035】
実施例1:タイコート層:なし、厚み:−
実施例2:タイコート層の種類と厚み、種類:Cr、厚み:3nm
実施例3:タイコート層の種類と厚み、種類:Cr、厚み:3nm
実施例4:タイコート層の種類と厚み、種類:Cr、厚み:7nm
実施例5:タイコート層の種類と厚み、種類:NiCr、厚み:3nm
実施例6:タイコート層の種類と厚み、種類:NiCr、厚み:3nm
実施例7:タイコート層の種類と厚み、種類:NiCr、厚み:3nm
実施例8:タイコート層の種類と厚み、種類:NiCr、厚み:3nm
【0036】
その後、銅スパッタ層上に電解めっきで銅層を18μmまで成長させ、試料を作製した。伝送損失測定にあたり、液晶ポリマーフィルムの両面にプラズマ処理、タイコート層、銅スパッタ、電解銅めっきと行った。図1の銅張積層板の概略図は、本実施例の構造を示すものである。
【0037】
各実施例の試料は密着性の評価のため、ピール強度を測定した。ピール強度測定に際し、3mm幅のパターンを塩化銅エッチング液で形成した後、Dage社製のボンドテスター4000を用いてピール強度の測定を行った。
実施例1〜実施例8のピール強度は、次の通りである。この結果の一覧を、同様に表1に示す。
【0038】
実施例1:0.9kN/m
実施例2:0.9kN/m
実施例3:0.6kN/m
実施例4:0.7kN/m
実施例5:0.8kN/m
実施例6:0.6kN/m
実施例7:0.5kN/m
実施例8:0.5kN/m
【0039】
伝送損失については、特性インピーダンスが50Ωのマイクロストリップ線路を形成し、HP社製のネットワークアナライザーHP8510Cにより透過係数を測定し、各周波数での伝送損失を求めた。なお、銅層は12μmまで電解めっきしたものを測定に供した。実施例1〜実施例8の伝送損失測定の結果は、次の通りである。この結果の一覧を、同様に表1に示す。
【0040】
実施例1:5GHz:14dB/m、20GHz:36dB/m、40GHz:76dB/m
実施例2:5GHz:15dB/m、20GHz:38dB/m、40GHz:92dB/m
実施例3:5GHz:15dB/m、20GHz:38dB/m、40GHz:92dB/m
実施例4:5GHz:16dB/m、20GHz:40dB/m、40GHz:110dB/m
実施例5:5GHz:17dB/m、20GHz:43dB/m、40GHz:124dB/m
実施例6:5GHz:17dB/m、20GHz:43dB/m、40GHz:124dB/m
実施例7:5GHz:18dB/m、20GHz:45dB/m、40GHz:128dB/m
実施例8:5GHz:18dB/m、20GHz:45dB/m、40GHz:128dB/m
【0041】
上記実施例1〜実施例8については、各種プラズマ条件で処理しても、フィルム表面粗さに殆ど差はなく、ピール強度については、算術平均粗さRaが0.15μm以下、かつ、二乗平均平方根粗さRq0.20μm以下であっても、0.5kN/m以上の値になっており、実用上問題ないレベルを示した。
【0042】
図2にプラズマ処理のパワー密度とピール強度の関係を示す。前記のように、ここでのパワー密度は通常ポリイミドフィルムを処理する際のパワー密度を1と規定しており、液晶ポリマーフィルムについては、各実施例ともに1より大きなパワー密度を掛けている。パワー密度の増大とともにピール強度も大きくなる傾向が見られる。
【0043】
一方、図3に伝送損失の結果を示す。実施例より、伝送損失は同一タイコートであれば、タイコート厚が薄い程、伝送損失が小さく、同一厚みであれば、導電率の大きなタイコート組成の方が伝送損失を小さくすることがわかる。なお、伝送損失とフィルム表面粗さの関係については、表面粗さに大きな差がないため、説明を省略する。
【0044】
次に、比較例について説明する。
(比較例1)
フィルムにはポリイミドフィルムとして、DuPont社製のカプトンE,50ミクロンを使用し、プラズマのパワー密度を変更した以外は実施例6と同じである。
表1及び図2に示すように、ポリイミドフィルムの場合、液晶ポリマーと比較して表面粗さが小さい(Ra:0.04μm、Rq:0.06μm)にもかかわらず、ピール強度は高い値(1.0kN/m)が得られた。しかし、伝送損失は液晶ポリマーより大きく(5GHz:27dB/m、65GHz:45dB/m、40GHz:−)、結果としては不良であった。
【0045】
(比較例2)
液晶ポリマーを銅張積層板として使用する際、一般的な方法として熱ラミネーションが行われる。比較例2は、液晶ポリマーとしてBIACを使用し、熱ラミネーションで作製された銅張積層板として、圧延銅箔(JX日鉱日石金属株式会社製 BHY 12ミクロン)を使用した場合の結果である。
圧延銅箔を熱ラミネーションすることで、フィルムの表面粗さは圧延銅箔の表面形状を反映する結果となり、表1に示すように表面粗さは、Ra:0.18μm、Rq:0.23μmと、大きくなった。
【0046】
ピール強度については、比較例2のような銅箔そのものをフィルムに張り合わせる熱ラミネーション法では、適用した液晶ポリマーフィルムにプラズマ処理を施しておらず、銅箔の粗化処理が軟化したフィルムに食い込むアンカー効果が密着力の主体であるが、強固な密着性が得られず、ピール強度は0.3kN/mとなり、実施例と比較し、劣る結果となった。
また、表面粗さが大きいことに起因して、実施例と比較し、伝送損失も5GHz:18dB/m、20GHz:48dB/m、40GHz:137dB/m大きくなった。以上から、比較例2の液晶ポリマーを使用した銅張積層板は、本願発明の目的を達成することができなかった。
【0047】
(比較例3)
プラズマ処理中にパワーを掛けず、処理ガス(窒素)中を通過させたこと以外、実施例5と同じである。ピール強度については、プラズマ処理をしない液晶ポリマーにタイコート層、銅スパッタ層を形成して、電解めっきで銅層を成長させる際、液晶ポリマーと金属導体層の密着力が不十分(ピール強度は0kN/m)であり、電解めっきをすることができなかった。
【0048】
(比較例4)
プラズマ処理のパワー密度を、比較例1のポリイミドの場合と同様に処理した以外、液晶ポリマー(BIAC)を使用した比較例3と同じである。
ポリイミドと同じパワー密度では液晶ポリマーは十分に活性化しておらず、電解めっきで18μmの銅層は形成できても、表1及び図2に示すように、ピール強度は低い結果(ピール強度は0.1kN/m)であった。
実施例のように、液晶ポリマーフィルムでプラズマ処理を施すことで密着性を得るためには、通常のポリイミドのプラズマ条件より、強いパワー密度で処理する必要があることがわかる。
【0049】
(比較例5)
プラズマ処理のガス圧2Paとした以外、表1に示すように、実施例6と同じである(プラズマガス:酸素、パワー密度:5.3)。プラズマガス圧を低くすることで、プラズマ放電が不安定になり、処理不可能であった。この結果を同様に、表1に示す。
【0050】
以上の実施例及び比較例に示すように、本発明の実施例1〜実施例8では、いずれも比較例1〜比較例5と比べて、高いピール強度と小さい伝送損失を兼ね備える銅張積層板を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の液晶ポリマーフィルムの表面を、2.6〜15Paのガス圧の酸素雰囲気又は窒素雰囲気下でプラズマ処理した面に、乾式めっき及び/又は湿式めっきにより形成された金属導体層を備える銅張積層板は、液晶ポリマーと金属導体層の間の界面粗さを、元々のフィルム粗さと同等に保ち、プラズマ処理により化学的な密着を強固にすることによって、高周波特性に優れた液晶ポリマーの銅張積層板を提供することができるという優れた効果を有するので、高周波回路基板及び高速伝送路用回路等へ適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマーフィルムの表面を、2.6〜15Paのガス圧の酸素雰囲気又は窒素雰囲気下でプラズマ処理した面に、乾式めっき及び/又は湿式めっきにより形成された金属導体層を備えることを特徴とする銅張積層板。
【請求項2】
液晶ポリマーフィルムのプラズマ処理後の表面粗さが、算術平均粗さRaが0.15μm以下であり、かつ二乗平均平方根粗さRqが0.20μm以下であることを特徴とする請求項1記載の銅張積層板。
【請求項3】
単位長さあたりの伝送損失が、5GHzで20dB/m以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の銅張積層板。
【請求項4】
単位長さあたりの伝送損失が、20GHzで50dB/m以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の銅張積層板。
【請求項5】
単位長さあたりの伝送損失が、40GHzで130dB/m以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の銅張積層板。
【請求項6】
プラズマ処理された液晶ポリマーフィルムの表面と乾式めっき及び/又は湿式めっきにより形成された金属導体層との間に、バリア層を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の銅張積層板。
【請求項7】
バリア層が、ニッケル若しくはニッケル合金、コバルト若しくはコバルト合金、又はクロム若しくはクロム合金からなるタイコート層であることを特徴とする請求項6記載の銅張積層板。
【請求項8】
前記金属導体層が、銅スパッタリング層及び該スパッタリング層の上に形成された電解銅めっき層であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の銅張積層板。
【請求項9】
液晶ポリマーフィルムの表面を、2.6〜15Paのガス圧の酸素雰囲気又は窒素雰囲気下でプラズマ処理したした後、乾式めっき及び/又は湿式めっきにより金属導体層を形成することを特徴とする銅張積層板の製造方法。
【請求項10】
液晶ポリマーフィルムをプラズマ処理することにより、液晶ポリマーフィルムの表面粗さを、算術平均粗さRaを0.15μm以下に、かつ二乗平均平方根粗さRqを0.20μm以下にすることを特徴とする請求項9記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項11】
銅張積層板の単位長さあたりの伝送損失を、5GHzで20dB/m以下とすることを特徴とする請求
項9又は10記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項12】
銅張積層板の単位長さあたりの伝送損失を、20GHzで50dB/m以下とすることを特徴とする請求項9又は10記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項13】
銅張積層板の単位長さあたりの伝送損失を、40GHzで130dB/m以下とすることを特徴とする請求項9又は10記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項14】
プラズマ処理された液晶ポリマーフィルムの表面と乾式めっき及び/又は湿式めっきにより形成された金属導体層との間に、バリア層を形成することを特徴とする請求項9〜13のいずれか一項に記載の銅張積層板。
【請求項15】
バリア層として、ニッケル若しくはニッケル合金、コバルト若しくはコバルト合金、又はクロム若しくはクロム合金からなるタイコート層を形成することを特徴とする請求項14記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項16】
前記金属導体層として、予め銅スパッタリング層を形成し、このスパッタリング層上に電解銅めっき層を形成することを特徴とする請求項9〜15のいずれか一項に記載の銅張積層板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−140552(P2012−140552A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−478(P2011−478)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】