説明

銅張積層板用処理銅箔及び該処理銅箔を絶縁性樹脂基材に接着してなる銅張積層板並びに該銅張積層板を用いたプリント配線板。

【課題】 低粗度でありながら絶縁性樹脂基材と強固な引きはがし強さが得られ、吸湿処理後、活性処理液浸漬後に引きはがし強さの劣化率が小さく、活性処理液浸漬後にしみ込み量が少なく、エッチング性に優れた処理銅箔を提供すること。
【解決手段】 絶縁性樹脂基材に接着される処理銅箔面に粗化処理層、クロメート層及びシランカップリング剤層が順次設けられており、当該処理銅箔面の十点平均粗さRzが1.0μm〜2.7μmであり、かつ、局部山頂の平均間隔Sが0.0230mm以下(但し0は含まない)であることを特徴とする処理銅箔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅張積層板用処理銅箔及び該処理銅箔を絶縁性樹脂基材に接着してなる銅張積層板並びに該銅張積層板を用いたプリント配線板に関し、当該銅張積層板は電子機器に使用されるプリント配線板材料として好適なものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、プリント配線板に使用される圧延銅箔や電解銅箔には、当該銅箔の用途に応じて粗化処理層、耐熱処理層、防錆処理層等々の各種処理層が設けられている(以下、処理層が設けられている銅箔を「処理銅箔」といい、処理層が設けられていない銅箔を「未処理銅箔」という)。
そして、処理銅箔を絶縁性樹脂基材に接着してなる銅張積層板の代表的な用途であるプリント配線板に使用される処理銅箔には、絶縁性樹脂基材に強固に接着して容易に引き剥がれない特性が必要とされており、この引きはがし強さ特性を付与するために最も有効な手段は、未処理銅箔の絶縁性樹脂基材に接着される面に粗化処理層を設ける手段とされている。
【0003】
通常、前記粗化処理層は、圧延未処理銅箔又は電解未処理銅箔の絶縁性樹脂基材に接着される面に電気めっき法によって銅又は銅合金の微細粒子(以下「粗化粒子」という)を析出・付着させて粗化粒子の集合体層を形成させる処理(以下「粗化処理」という)を施すことによって設けられていて、該集合体層による機械的投錨効果によって引きはがし強さ特性が得られており、粗化粒子の量(以下「粗化処理量」という)を多くすればするほど該銅箔の表面粗度が高くなって機械的投錨効果も増大し、引きはがし強さが向上する。
【0004】
ところが、プリント配線板を製造する際に銅の回路を形成するため処理銅箔をエッチングする工程があり、処理銅箔の粗化処理量が多い場合には、エッチング残渣(粗化粒子の溶け残り)の発生やエッチングファクターが低下する等の不具合が生ずるので、引きはがし強さ特性を向上させるために無闇に粗化処理量を多くして表面粗度を高くすることは出来ず、特に、電子機器の軽薄、短小化に伴いファインピッチ化が進んでいることから、エッチング残渣の発生を可及的に抑制する必要があり、このためには粗化処理量を少なくして当該箔面の表面粗度を低くする事が有効な手段とされている。
【0005】
すなわち、プリント配線板に使用される粗化処理層が設けられている処理銅箔には、引きはがし強さ特性の面からは粗化処理量を多くして表面粗度を高くする必要があり、エッチング特性の面からは、粗化処理量を少なくして表面粗度を低くする必要があるため、当該両特性を満たすことが困難という難題が内在しているのである。
【0006】
しかし、プリント配線板製造工程には、エッチング液を用いるエッチング工程を始め、硫酸、塩酸、苛性ソーダを用いる洗浄工程、錫めっき工程、無電解ニッケルめっき工程、無電解金めっき工程等の各種活性処理液を用いる工程が多く存在し、処理銅箔の引きはがし強さが弱い場合には、当該処理銅箔と絶縁性樹脂基材との接着界面から活性処理液がしみ込んで引きはがし強さの低下(劣化)が生じやすく、引きはがし強さが低下すると製造されたプリント配線板、特に、ファインピッチプリント配線板では熱的衝撃や機械的衝撃により回路の剥離・脱落が発生し易くなるので、活性処理液浸漬後にも引きはがし強さが低下せず、しみ込み量の少ない処理銅箔が求められている。
【0007】
さらに、電子機器に使用されるプリント配線板は近年多用化される傾向にあり、このためプリント配線板は様々な環境で使用されたり長期に渡り使用される場合が多くなってきている。このため処理銅箔には銅張積層板成型後に吸湿処理後の引きはがし強さ試験や加熱処理後の引きはがし強さ試験等の所謂過酷な条件での加速試験が行われ、これら過酷試験後にも引きはがし強さが低下しない処理銅箔が求められている。
【0008】
当業者間では、プリント配線板に内在する前記難題を克服して前記要求に応えるべく研究・開発が進められており、例えば、後出特許文献1には、プリント配線板に形成した配線回路ボトム部に良好な直線性が得られ、絶縁性樹脂基材との密着性(接着性)はもとより、耐薬品性や耐吸湿性も良好な処理銅箔として、「絶縁樹脂基材と張り合わせる接着表面は、表面粗さRzjisが2.5μm以下で、かつ、2次元表面積が6550μm2の領域をレーザー法で測定したときの3次元表面積(A)μm2と当該2次元表面積との比[(A)/(6550μm2)]の値である表面積比(B)が1.2〜2.5であることを特徴とする処理銅箔」が開示されていると共に、当該接着面には「10cm×10cmの2次元領域の評価において、亜鉛−ニッケル層が含む亜鉛とニッケルの合計量(C) mg/m2が40mg/m2以上である」亜鉛−ニッケル層が設けられていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008-285751号公報
【特許文献2】特公平3-35394号公報
【特許文献3】特開昭56-118390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者も、プリント配線板に内在する前記難題を克服して前記要求に応え、引きはがし強さ特性とエッチング特性の両特性を満たしており、活性処理液浸漬後にも引きはがし強さが低下せず、かつ、活性処理液浸漬後のしみ込み量が少なく、かつ、過酷な条件での加速試験にも十分な引きはがし強さが維持できる処理銅箔を提供するべく研究・開発を進めているが、その途上において、前出特許文献1に開示されている表面処理銅箔について検討したところ、当該処理銅箔は、絶縁性樹脂基材(FR-4基材)で引きはがし強さに優れ、活性処理液での処理(希塩酸処理)後の劣化率が小さく、エッチング性も優れているが、次の点では、前記要求に充分応えるものとは言い難いものであった。
【0011】
すなわち、本発明者の行った追試実験結果によれば、表面積比が1.2〜1.8では十分な引きはがし強さ特性が得られない、吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率が大きい傾向が認められた。
【0012】
また、前述したとおり、プリント配線板用銅箔として求められる重要な特性に加熱処理後の引きはがし強さがある。特に近年は絶縁性樹脂基材は多くの種類が使用されており多様化している。特に二層フレキシブル基板では粗化処理層表面に設ける金属種により本特性は大きく変わる傾向がある。加熱処理後の引きはがし強さは長期に渡り電子機器を使用する場合を想定しており、加熱処理を行うことで加速試験を行うものである。
【0013】
加熱処理条件としては、例えば前述した二層フレキシブル基板では150℃-168時間などの条件が採用される場合が多い。これについても前記表面積比1.2〜2.5の処理銅箔を使用し、亜鉛−ニッケル層を設け、本願発明者が追試実験を行ったところ、前記技術の処理銅箔では加熱処理後の引きはがし強さの劣化率が大きく改善の余地が有ることが判明した。
【0014】
そこで、本願発明者は、絶縁性樹脂基材と強固な引きはがし強さが得られ、吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率が小さく、活性処理液浸漬後の引きはがし強さの劣化率が小さく、活性処理液浸漬後のしみ込み量が少なく、エッチング性が良好である処理銅箔を得ることを技術的課題として、その具現化をはかるべく、試作・実験を繰り返した結果、絶縁性樹脂基材に接着される処理銅箔面に粗化処理層、クロメート層及びシランカップリング剤層が順次設けられており、当該処理銅箔面の十点平均粗さRzが1.0μm〜2.7μmであり、かつ、局部山頂の平均間隔Sが0.0230mm以下(但し0は含まない)であることを特徴とする処理銅箔にすることにより満足できるという刮目すべき知見を得、前記技術的課題を達成したものである。
また、絶縁性樹脂基材に接着される処理銅箔面の算術平均粗さRaが0.18μm〜0.36μmであり、かつ、当該算術平均粗さRaと前記局部山頂の平均間隔Sが下記式(1)の関係を有することを特徴とする処理銅箔にすることで、更に強固な引きはがし強さが得られ、更に吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率が小さくなり、更に活性処理液浸漬後の引きはがし強さの劣化率が小さくなり、更に活性処理液浸漬後のしみ込み量が少なくなり、更にエッチング性が良好である処理銅箔を得ることができる。
45.0≦{(S×1000)/Ra} ≦100.0 (1)
(式中、S×1000の単位はμmである。)
また、絶縁性樹脂基材と接着する処理銅箔面にモリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層を設けることで加熱処理後の引きはがし強さの劣化率が小さくなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって解決できる。
即ち、本発明に係る処理銅箔は、絶縁性樹脂基材に接着される処理銅箔面に粗化処理層、クロメート層及びシランカップリング剤層が順次設けられており、当該処理銅箔面の十点平均粗さRzが1.0μm〜2.7μmであり、かつ、局部山頂の平均間隔Sが0.0230mm以下(但し0は含まない)であることを特徴とする銅張積層板用処理銅箔である。
また、本発明に係る処理銅箔は、絶縁性樹脂基材に接着される処理銅箔面の算術平均粗さRaが0.18μm〜0.36μmであり、かつ、当該算術平均粗さRaと前記局部山頂の平均間隔Sが下記式(1)の関係を有することを特徴とする銅張積層板用処理銅箔である。
45.0≦{(S×1000)/Ra} ≦100.0 (1)
(式中、S×1000の単位はμmである。)
また、本発明に係る処理銅箔は、絶縁性樹脂基材に接着される処理銅箔面にモリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層が設けられていることを特徴とする銅張積層板用処理銅箔である。
【0016】
また、本発明に係る処理銅箔は、モリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層の析出付着量が20mg/m2〜300mg/m2であり、かつ、モリブデンの含有率が10wt%以上であって残部がニッケル及び/又はコバルトである事を特徴とする銅張積層板用処理銅箔である。
また、本発明に係る銅張積層板は、前記いずれかの処理銅箔を絶縁性樹脂基板に加熱圧着させてなるものである。
また、本発明に係るプリント配線板は、前記銅張積層板を用いてなるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、絶縁性樹脂基材に接着される処理銅箔面に粗化処理層、クロメート層及びシランカップリング剤層が順次設けられており、当該処理銅箔面の十点平均粗さRzが1.0μm〜2.7μmであり、かつ、局部山頂の平均間隔Sが0.0230mm以下(但し0は含まない)であることを特徴とする処理銅箔にすることで、絶縁性樹脂基材と強固な引きはがし強さが得られ、吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率が小さくなり、活性処理液浸漬後の引きはがし強さの劣化率が小さくなり、活性処理液浸漬後のしみ込み量が少なくなり、エッチング性が良好な処理銅箔を得ることが可能となる。
また、絶縁性樹脂基材に接着される処理銅箔面の算術平均粗さRaが0.18μm〜0.36μmであり、かつ、当該算術平均粗さRaと前記局部山頂の平均間隔Sが下記式(1)の関係を有することを特徴とする処理銅箔にすることで、絶縁性樹脂基材と更に強固な引きはがし強さが得られ、更に吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率が小さくなり、更に活性処理液浸漬後の引きはがし強さの劣化率が小さくなり、更に活性処理液浸漬後のしみ込み量が少なくなり、更にエッチング性が良好な処理銅箔を得ることが可能となる。
45.0≦{(S×1000)/Ra} ≦100.0 (1)
(式中、S×1000の単位はμmである。)
また、絶縁性樹脂基材と接着する処理銅箔面にモリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層を設けることで加熱処理後の引きはがし強さの劣化率が小さくなる。
従って、本発明の産業上利用性は非常に高いといえる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明に係る未処理銅箔としては、電解液に浸した陽極と陰極との間に電流を流すことによって陰極側に析出させて形成される電解銅箔や、インゴット状の銅を圧延してなる圧延銅箔などを使用すればよい。また、圧延銅箔は表裏がないので区別して使用する必要は無いが、電解銅箔の場合も特に区別する必要は無く、析出面、光沢面のいずれの面を使用しても良い。
【0019】
なお、未処理銅箔の厚さは、6μm〜300μmが好ましく、より好ましくは、9μm〜150μmである。また、未処理銅箔表面の十点平均粗さRzは、粗化処理層の形成に伴う粗度の上昇を考慮して0.1μm〜2.0μmが好ましく、より好ましくは0.5μm〜1.8μmである。
【0020】
先ず、粗化処理層及び粗化処理層を形成する粗化粒子について詳述する。
本発明の粗化処理層とは電気めっき法によって得られる結晶粒径2.0μm以下の粗化粒子の集合体層のことである。粗化処理層の十点平均粗さRz(以下、Rzという)は、1.0μm〜2.7μmが好ましく、より好ましくは1.2μm〜2.5μmである。本発明に使用しているRzはJISB0601-1994に準拠した十点平均粗さのことである。
Rzが1.0μm未満の場合は、粗化処理層の凹凸が小さいため効果的な機械的投錨効果が得られず、強固な引きはがし強さが得られない、吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率が大きくなる、活性処理液浸漬後の引きはがし強さの劣化率が大きくなる、活性処理液浸漬後のしみ込み量が多くなる。Rzが2.7μmを越える場合、粗化処理層の凹凸が大きいため処理銅箔エッチング後の回路間に粗化粒子の溶け残りが発生し、短絡異常が発生する場合がある。
【0021】
これまで銅箔表面の粗度を表すパラメータにはRzが多くの頻度で用いられてきた。一方、粗化処理層を形成する粗化粒子の形状や間隔によっては、Rzが同じ場合でも引きはがし強さが異なる場合が多く発生している。そこで本発明者は局部山頂の平均間隔Sに着目をした。
【0022】
本発明に使用している局部山頂の平均間隔S(以下、Sという)もRzと同じくJISB0601-1994に準拠したものである。Sは粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、隣り合う局部山頂間に対応する平均線の長さを求め、この多数の局部山頂間の平均値を(mm)で表したパラメータである。Sが小さいほどの局部山頂の間隔が狭く、密であることを示し、一方、Sが大きいほど局部山頂の間隔が広く、疎であることを示している。
【0023】
Sは0.0230mm以下(但し0は含まない)が好ましく、より好ましくは0.0220μm以下である。Sが0.0230mmを越える場合、局部山頂の間隔が広くなり効率的な機械的投錨効果が得られにくくなり、強固な引きはがし強さが得られない、吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率が大きくなる、活性処理液浸漬後の引きはがし強さの劣化率が大きくなる、活性処理液浸漬後のしみ込み量が多くなる。
【0024】
Sが小さいほど好ましい理由は、局部山頂の間隔が密であるため、単位面積あたりの局部山頂が多く、このため、絶縁性樹脂基材との接着表面積が増え、効率的な機械的投錨効果が得られる。この結果、引きはがし強さが向上する、吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率が小さくなる、活性処理液浸漬後の劣化率が小さくなる、活性液浸漬後のしみ込み量が少なくなる。
次に粗化処理層の算術平均粗さRa(以下、Raという)は、0.18μm〜0.36μmが好ましく、より好ましくは0.20μm〜0.35μmである。本発明に使用しているRaもJISB0601-1994に準拠したものである。Raが0.18μm未満の場合、粗化処理層の凹凸が小さいため効果的な機械的投錨効果が得られず、強固な引きはがし強さが得られない、吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率が大きくなる、活性処理液浸漬後の引きはがし強さの劣化率が大きくなる、活性処理液浸漬後のしみ込み量が多くなる。Raが0.36μmを越える場合、粗化処理層の凹凸が大きいため処理銅箔エッチング後の回路間に粗化粒子の溶け残りが発生し、短絡異常が発生する場合がある。
【0025】
また、RaとSが下記式(1)の関係を有することも重要である。
45.0≦{(S×1000)/Ra} ≦100.0 (1)
(式中、S×1000の単位はμmである。)
更に好ましくは
50.0≦{(S×1000)/Ra} ≦95.0 (2)
(式中、S×1000の単位はμmである。)
である。
【0026】
RaとSが式(1)の関係を有する場合は、更に強固な引きはがし強さが得られ、更に吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率が小さくなる、更に活性処理液浸漬後の引きはがし強さの劣化率が小さくなる、更に活性処理液浸漬後のしみ込み量が少なくなる、更にエッチング性が良好である。一方、式(1)が45.0未満の場合は処理銅箔エッチング後の回路間に粗化粒子の溶け残りが発生し、短絡異常が発生する場合がある。式(1)が100.0を越える場合は効率的な機械的投錨効果が得られにくくなり、強固な引きはがし強さが得られない、吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率が大きくなる、活性処理液浸漬後の引きはがし強さの劣化率が大きくなる、活性処理液浸漬後のしみ込み量が多くなる。
【0027】
次に、未処理銅箔表面に設ける粗化処理層を形成する粗化粒子を析出させる処理方法を説明する。
本発明の粗化処理層は二段の粗化処理により形成されるものである。一段目は銅イオンを含んだ電解液中で限界電流密度以上の電流を流すことで微細な樹枝状の銅粉を未処理銅箔に付着させる工程である。二段目は一段目で得られた微細な樹枝状の銅粉が脱落しないようにカバーめっきを行う工程であり、銅イオンを含んだ電解液中で限界電流密度未満の電流を流すことにより形成される。本発明はこの二段の電気めっきで得られた粗化粒子の集合体層を粗化処理層と称す。
【0028】
(一段目粗化処理層)
一段目の電気めっきを行う電解液組成、液温、添加剤、電解条件、電極としては、例えば以下に示すものが挙げられるが特にこれに限定されるものではない。
硫酸銅五水和物:12g/L〜70g/L(更に好ましくは30g/L〜60g/L)
硫酸:30g/L〜200g/L(更に好ましくは50g/L〜150g/L)
添加剤:塩素イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、鉄イオン、チタンイオン、モリブデンイオン、バナジウムイオン、亜鉛イオン、タングステンイオン、アルミニウムイオン、1−10−フェナントロリン、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸
液温:25℃〜50℃(更に好ましくは30℃〜45℃)
電流密度:5A/dm2〜100A/dm2(更に好ましくは10A/dm2〜80A/dm2)
電極:白金属酸化物被覆チタン板等の不溶性電極
添加剤は単独でも複数組み合わせて使用してもよい
【0029】
(二段目粗化処理層)
次に一段目で得られた微細な樹枝状の銅粉をカバーするめっきとして行う二段目の電気めっきについて詳述する。二段目の電気めっきを行う電解液組成、液温、電解条件、電極としては、例えば以下に示すものが挙げられるが特にこれに限定されるものではない。
硫酸銅五水和物:150g/L〜300g/L(更に好ましくは170g/L〜280g/L)
硫酸:50g/L〜200g/L(更に好ましくは60g/L〜170g/L)
液温:25℃〜50℃(更に好ましくは30℃〜45℃)
電流密度:2A/dm2〜60A/dm2(更に好ましくは5A/dm2〜50A/dm2)
電極:白金属酸化物被覆チタン板等の不溶性電極
必要に応じて周知の技術であるゼラチンなどを添加しても良い。
【0030】
本発明に係る処理銅箔の粗化処理層及び粗化処理層を形成する粗化粒子の形状を表す重要なパラメータである、十点平均粗さRz、局部山頂の平均間隔S及び算術平均粗さRaは前記二段階の電気めっきにより粗化処理層が形成された時点で決定する。この後に行う本発明のモリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層や周知の技術であるクロメート層、シランカップリング剤層を粗化処理層表面に設けても前記パラメータが変化することはない。
【0031】
また、必要に応じて前記粗化処理層表面に特公平3−35394に記載されているジエチレントリアミン五酢酸を使用した電解液から得られた銅の微細粗化粒子層を施しても良い。
本処理を設けることで引きはがし強さを更に向上させることができる。
次に前記粗化処理層表面に設けるモリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層について詳述する。
【0032】
粗化処理層を備えた処理銅箔表面にモリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層を設けることにより加熱処理後の引きはがし強さの劣化率が小さくなる。また、近年使用頻度の高い二層フレキシブルプリント配線基板では接着剤を介さずポリイミドと銅の直接反応となるためポリイミドと相性の良いコバルトやニッケルを処理銅箔接着面側に設けることは有効である。
【0033】
モリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層の析出付着量は20mg/m2〜300mg/m2が好ましく、更に好ましくは30mg/m2〜290mg/m2である。モリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層の析出付着量が20mg/m2未満の場合、加熱処理後の引きはがし強さの劣化が大きくなる。一方、300mg/m2をこえる場合は、ニッケルを使用した場合であるが、モリブデンの含有率や絶縁性樹脂基材の種類にもよるがエッチング後絶縁性樹脂基材にニッケルが残渣し耐マイグレーション性が低下する場合が有るため好ましくない。また、これ以上付着させても特性の向上が認められないため不経済である。
【0034】
また、モリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層の各元素の含有率も重要である。モリブデンの含有率は10wt%以上が好ましい。より好ましくは13wt%以上である。含有率の単位として使用している「wt%」であるが、モリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層に使用した各元素の質量の和を100wt%とし、不可避不純物は考慮していないことを明記しておく。モリブデンの含有率が10wt%未満の場合、加熱処理後の引きはがし強さの劣化率が大きくなる。
【0035】
一方、ニッケル及び/又はコバルトの含有率は90wt%以下が好ましい。より好ましくは87wt%以下である。ニッケルの含有率が90wt%を越える場合、絶縁性樹脂基材の種類にもよるがエッチング後の絶縁性樹脂基材にニッケルが残渣し耐マイグレーション性が低下する場合があるため好ましくない。また、加熱処理後の引きはがし強さの劣化率が大きくなる。コバルトが含有率が90wt%を越える場合、加熱処理後の引きはがし強さの劣化率が大きくなる、活性処理液浸漬後の引きはがし強さの劣化率が大きくなる、活性処理液浸漬後のしみ込み量が多くなる。ニッケル及び/又はコバルトの含有率が90wt%を越える場合は、両者の含有率にもよるが活性処理液浸漬後の引きはがし強さの劣化率が大きくなる、活性処理液浸漬後のしみ込み量が多くなる場合がある。また、加熱処理後の引きはがし強さの劣化率が大きくなる。
【0036】
次にモリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層を析出させる処理方法を説明する。
本発明のモリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層は電気めっき法により形成される。モリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層を電気めっきで形成する電解液組成、液温、pH、電解条件、電極としては、例えば以下に示すものが挙げられるが特にこれに限定されるものではない。
【0037】
(モリブデンを含有するニッケル層)
モリブデン酸二ナトリウム二水和物:1g/L〜80g/L(更に好ましくは5g/L〜70g/L)
硫酸ニッケル六水和物:10g/L〜100g/L(更に好ましくは20g/L〜70g/L)
クエン酸三ナトリウム二水和物:5g/L〜100g/L(更に好ましくは20g/L〜70g/L)
pH:10.0〜12.0(更に好ましくは10.5〜11.5)
電解液温度:20℃〜50℃(更に好ましくは25℃〜40℃)
電流密度:0.1A/dm2〜10.0A/dm2(更に好ましくは0.5A/dm2〜5.0A/dm2)
電極:白金
pHはアンモニアで調整すればよい。
【0038】
(モリブデンを含有するコバルト層)
モリブデン酸二ナトリウム二水和物:1g/L〜80g/L(更に好ましくは5g/L〜50g/L)
硫酸コバルト七水和物:10g/L〜100g/L(更に好ましくは20g/L〜70g/L)
クエン酸三ナトリウム二水和物:5g/L〜100g/L(更に好ましくは20g/L〜70g/L)
pH:4.0〜10.0(更に好ましくは5.0〜7.0)
電解液温度:20℃〜50℃(更に好ましくは25℃〜40℃)
電流密度:0.1A/dm2〜10.0A/dm2(更に好ましくは0.5A/dm2〜5.0A/dm2)
電極:白金
pHは硫酸で調整すればよい。
【0039】
(モリブデンを含有するニッケル及びコバルト層)
モリブデン酸二ナトリウム二水和物:1g/L〜80g/L(更に好ましくは5g/L〜70g/L)
硫酸ニッケル六水和物:10g/L〜100g/L(更に好ましくは20g/L〜70g/L)
硫酸コバルト七水和物:10g/L〜100g/L(更に好ましくは20g/L〜70g/L)
クエン酸三ナトリウム二水和物:5g/L〜100g/L(更に好ましくは20g/L〜70g/L)
pH: 4.0〜10.0 (更に好ましくは5.0〜7.0)
電解液温度:20℃〜50℃(更に好ましくは25℃〜40℃)
電流密度:0.1A/dm2〜10.0A/dm2(更に好ましくは0.5A/dm2〜5.0A/dm2)
電極:白金
pHは硫酸で調整すればよい。
【0040】
次に、モリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層表面に周知の処理方法に基づき、クロメート層を設ける。クロメート層を設けることで引きはがし強さが向上する、耐酸化性が向上する等の特性が付与される。このクロメート層を形成させる浴は公知のものでよく、例えばクロム酸、重クロム酸ナトリウム、重クロム酸カリウムなどの六価クロムを有するものであればよい。また、特開昭56-118390号にある亜鉛を含有するクロメート層を使用してもよい。
なお、クロメート層形成後のクロムの析出形態はCr(OH)3とCr2O3が混在した状態であり、人体に悪影響を及ぼす六価クロムは含有されておらず三価クロムの形態で析出している。また、クロム酸液はアルカリ性、酸性のどちらでも構わない
【0041】
次に、クロメート層表面に周知の処理方法に基づきシランカップリング剤層を設ける。シランカップリング剤層を設けることで処理銅箔接着面と絶縁性樹脂基材とのぬれ性が向上し引きはがし強さが向上する、吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率が小さくなる等の特性が付与される。シランカップリング剤の種類はエポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ウレイド基、ビニル基等多種あるが絶縁性樹脂基材の種類により異なった特性を示すため相性を考慮して設ける必要がある。
【0042】
なお、前記処理銅箔を絶縁性樹脂基材に加熱圧着する等の方法により、プリント配線基板として使用できる銅張積層板を成型することができる。絶縁性樹脂基材としては、ポリイミド、フェノール、エポキシ、ポリエステル、液晶ポリマーなどを使用すればよい。
本実施の形態においては、未処理銅箔の一方面のみに各処理層を設けたが、未処理銅箔の両面に各処理層を設けてもよい。
【実施例】
【0043】
実施例1
未処理電解銅箔を以下の電解液組成、添加剤、電極、液温、電解条件で作製した。
(未処理電解銅箔の製造方法)
硫酸:100g/L、硫酸銅五水和物:280g/Lの硫酸−硫酸銅水溶液を調整し、添加剤としてポリエチレングリコール:20mg/L(平均分子量:20000、三洋化成製)、ポリエチレンイミン:20mg/L(商品名:エポミン、品番:PP-061、平均分子量:1200、日本触媒製)、3−メルカプト−1−プロパンスルフォン酸ナトリウム:6μmol/L、塩素イオン:20mg/Lを添加した。この添加剤を含む電解液を白金属酸化物にて被覆したチタンからなる不溶性陽極と陰極であるチタン製陰極ドラムの間に充填し、電流密度50A/dm2、液温:50℃で電流を流し厚さ12μmの未処理電解銅箔を得た。この未処理電解銅箔の析出面の十点平均粗さRzは0.93μmであった。
次に作製した未処理電解銅箔の析出面に、以下の電解液組成、液温、添加剤、電極、電解条件で一段目粗化処理層を設けた。
【0044】
(一段目粗化処理層)
硫酸:80g/L、硫酸銅五水和物:45g/Lの硫酸−硫酸銅水溶液を調整し、液温:35℃に調整した。添加剤としてチタンイオン:600mg/L、タングステンイオン:25mg/L、塩素イオン:5mg/Lを添加した。この添加剤を含む電解液を白金属酸化物にて被覆したチタンからなる不溶性陽極と陰極である未処理電解銅箔の間に充填し、電流密度10A/dm2、電気量65C/ dm2の電解条件で一段目粗化処理層を設けた。
【0045】
次に一段目粗化処理層を設けた処理銅箔表面に以下の電解液組成、液温、電極、電解条件で二段目粗化処理層を設けた。
(二段目粗化処理層)
硫酸:120g/L、硫酸銅五水和物:250g/Lの硫酸−硫酸銅水溶液を調整し、液温を45℃に調整した。この電解液を白金属酸化物にて被覆したチタンからなる不溶性陽極と陰極である一段目処理層を設けた処理銅箔の間に充填し、電流密度10A/dm2、電気量300C/ dm2の電解条件で二段目粗化処理層を設けた。
【0046】
次に粗化処理層を設けた処理銅箔表面に以下の電解液組成、液温、pH、電極、電解条件でクロメート層を設けた。
(クロメート層)
ニクロム酸ナトリウム二水和物:40g/L、液温35℃のクロメート水溶液を調整し、水酸化ナトリウム用いてpH12.0に調整した。このクロメート水溶液を陽極として使用する白金と陰極である前記処理銅箔の間に充填し、電流密度2.0A/dm2、電気量10C/ dm2の電解条件でクロメート層を設けた
【0047】
次にクロメート層を設けた処理銅箔面に以下の液組成、液温、浸漬時間でシランカップリング剤層を設けた。
(シランカップリング剤層)
シランカップリング剤処理液として、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン5mL/Lを含有する水溶液を調整した。そして、前記各処理を設けた処理銅箔を液温30℃のシランカップリング剤処理液に10秒間浸漬してシランカップリング剤処理を施した。
そして、前記シランカップリング剤層の形成が完了した後、常温(25℃)にて自然乾燥させて本発明の処理銅箔を得た。
【0048】
実施例2〜6及び比較例1〜6
(未処理電解銅箔)
実施例1で使用した未処理電解銅箔と同じものを使用した。
(一段目粗化処理層)
表1に示すとおりに、一段目粗化処理層を形成する電解液に添加する各添加剤濃度を変更し、電流密度及び電気量を変更したほかは、前記実施例1と同じ条件、同じ方法で一段目粗化処理層を得た。
(二段目粗化処理層)
実施例1と同じ電解液組成、液温、電極、電解条件で二段目粗化処理層を設けた。
(クロメート層)
実施例1と同じ電解液組成、液温、pH、電極、電解条件でクロメート層を設けた。
(シランカップリング剤層)
実施例1と同じ液組成、液温、浸漬時間でシランカップリング剤層を設けた。
【0049】
【表1】

【0050】
次に、前記実施例1〜6 及び比較例1〜6 にて得られた処理銅箔に対して次の測定を行った。
(十点平均粗さ粗度Rz)
前記各処理層が設けられた面について、JISB0651-2001に規定される触針式表面粗さ計に適合するサーフコーダSE1700α(株式会社小坂研究所製)にて、触針として触針先端の半径2μmのものを使用し、粗さ曲線用カットオフ値0.8mm、測定距離4.0mmとしてJISB0601-1994に定義される十点平均粗さRzを測定した。測定した結果を表2に示す。なお、前記未処理電解銅箔析出面の十点平均粗さRzも本方法で測定した。
【0051】
(局部山頂の平均間隔S)
前記各処理層が設けられた面について、JISB0651-2001に規定される触針式表面粗さ計に適合するサーフコーダSE1700α(株式会社小坂研究所製)にて、触針として触針先端の半径2μmのものを使用し、粗さ曲線用カットオフ値0.8mm、測定距離4.0mmとしてJISB0601-1994に定義される局部山頂の平均間隔Sを測定した。測定した結果を表2に示す。
【0052】
(算術平均粗さ粗度Ra)
前記各処理層が設けられた面について、JISB0651-2001に規定される触針式表面粗さ計に適合するサーフコーダSE1700α(株式会社小坂研究所製)にて、触針として触針先端の半径2μmのものを使用し、粗さ曲線用カットオフ値0.8mm、測定距離4.0mmとしてJISB0601-1994に定義される算術平均粗さRaを測定した。測定した結果を表2に示す。
式(1) { (S×1000)/Ra}
前記方法で測定したRa及びSを使用し、請求項1に記載している式(1){(S×1000)/Ra}に測定値を代入し算出した。算出した結果を表2に示す。
【0053】

【表2】

【0054】
次に実施例1〜6及び比較例1〜6の処理銅箔を使用して銅張積層板を作製した。
(FR-4基材を使用したリジッド銅張積層板の作製(以下銅張積層板Aという))
実施例1〜6及び比較例1〜6の処理銅箔の各種処理層が設けられた面を被接着面としてFR-4基材(京セラケミカル製、品名:TLP-551、厚さ:0.18mm)を3枚重ね、圧力:40kgf/cm、温度:170℃、時間:60分間の条件でプレス機で加熱加圧成型を行い、銅張積層板Aを得た。
【0055】
次に銅張積層板Aについて次の測定を行った。
(引きはがし強さ)
エッチングマシーンを使用し、エッチングにより1mm幅の銅の回路サンプルを作製した。JIS C 6481に準拠し、万能試験機を用いて、引きはがし強さを測定した。測定結果を表3に示す。
【0056】
(吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率)
1mm幅の銅の回路サンプルを、120分間イオン交換水の中で煮沸した。次いで水洗を行い、乾燥した後、引きはがし強さを測定した。劣化率は下記式(3)に測定値を代入し算出した。算出した結果を表3に示す。
式(3):吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率(%)={(吸湿処理前の引きはがし強さの値−吸湿処理後の引きはがし強さの値)/吸湿処理前の引きはがし強さの値}×100
【0057】
(活性処理液浸漬後の引きはがし強さ)
1mm幅の銅の回路サンプルを、18wt%塩酸水溶液に液温:25±2℃の条件で60分間浸漬処理を行った。次いで水洗し、乾燥した後、引きはがし強さを測定した。劣化率は下記式(4)に測定値を代入して算出した。算出した結果を表3に示す。
式(4):活性処理液浸漬後の引きはがし強さの劣化率(%)={(塩酸水溶液浸漬前の引きはがし強さの値−塩酸水溶液浸漬後の引きはがし強さの値)/塩酸水溶液浸漬前の引きはがし強さの値}×100
【0058】
(活性処理液浸漬後のしみ込み量)
1mm幅の銅の回路サンプルを、5wt%硫酸水溶液に液温:65±3℃の条件で30分間浸漬処理を行った。次いで水洗し、乾燥した後、銅の回路を銅張積層板Aから剥離した。剥離処理銅箔面を光学顕微鏡で観察し硫酸水溶液のしみ込み量(μm)を読みとった。硫酸水溶液がしみ込んだ部分は色調差が生じるためしみ込み量は読みとれる。読みとった結果を表3に示す。
【0059】
(エッチング性:回路間における銅の溶け残りの有無)
銅張積層板Aの銅箔面側にポジティブ型液状レジストを塗布し、70℃に設定した大気オーブンで7分間乾燥した。次いで、ライン/スペース=30μm/30μmのマスクフィルムを用いて露光し、次いで現像を行い、露光された部分のエッチングレジストを除去した。次いで、塩化第二銅:3.2mol/L、塩酸:0.4mol/Lの組成のエッチング液を使用しスプレー圧:0.15mol/L、液温:50℃の条件でエッチングを行いエッチングレジストのない処理銅箔部分をエッチングした。その後、回路上のエッチングレジストを水酸化ナトリウムで除去した後、大気オーブンで100℃で10分間乾燥を行い、ライン/スペース=30μm/30μmの銅の回路を得た。このサンプルを島津製作所製EPMA-1610で銅の面分析を行い、回路間における銅の溶け残りの有無を調査した。調査した結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
表2、表3に示す諸結果によれば、実施例1〜6はRz及びS及びRa及び式(1){(S×1000/Ra)}が本発明の要件を満たしていることから、強固な引きはがし強さが得られ、吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率が小さく、活性処理液浸漬後の引きはがし強さの劣化率が小さく、活性処理液浸漬後のしみ込みが無く、エッチング性が良好である。
【0062】
一方、比較例1〜6 はRz及びS及びRa及び式(1){(S×1000/Ra)}が一つ又は二つ又は三つ本発明の要件を満たしていない。比較例1〜3と6は引きはがし強さが弱く、吸湿処理後の引きはがし強さの劣化率が大きく、活性処理液浸漬後の引きはがし強さの劣化率が大きく、活性処理液のしみ込みが発生している。また、比較例4、5は処理銅箔エッチング後の回路間において銅の溶け残りがある。
【0063】
実施例7
(未処理電解銅箔)
実施例1で使用した未処理電解銅箔と同じものを使用した。
(一段目粗化処理層)
実施例3と同じ電解液組成、添加剤、液温、電極、電解条件で一段目粗化処理層を設けた。
(二段目粗化処理層)
実施例1と同じ電解液組成、液温、電極、電解条件で二段目粗化処理層を設けた。
次に以下に示す電解液組成、液温、pH、電極、電解条件でモリブデンを含有するニッケル層を前記二段目粗化処理層表面に施した。
(モリブデンを含有するニッケル層)
硫酸ニッケル六水和物:45g/L、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物:15g/L、クエン酸三ナトリウム二水和物:50g/L、液温:35℃のニッケル−モリブデン水溶液を調整し、アンモニア水でpHを10.5に調整した。このニッケル−モリブデン水溶液を陽極として使用する白金と陰極である粗化処理層を設けた処理銅箔の間に充填し、電流密度1.0A/dm2、電気量2.0C/ dm2の電解条件でモリブデンを含有するニッケル層を設けた。
(クロメート層)
実施例1と同じ電解液組成、液温、pH、電解条件でクロメート層を設けた。
(シランカップリング剤層)
実施例1と同じ液組成、液温、浸漬時間でシランカップリング剤層を設けた。
【0064】
実施例8〜13及び比較例7〜9
(未処理電解銅箔)
実施例1で使用した未処理電解銅箔と同じものを使用した。
(一段目粗化処理層)
実施例7(実施例3)と同じ電解液組成、添加剤、液温、電極、電解条件で一段目粗化処理層を得た。
(二段目粗化処理層)
実施例1と同じ電解液組成、液温、電極、電解条件で二段目粗化処理層を設けた。
(モリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層)
表4に示す電解液組成、液温、pH、電解条件でモリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層を形成した。
【0065】
なお、比較例9は以下に示す電解液組成、液温、pH、電極、電解条件で亜鉛−ニッケル層を設けた。
(亜鉛−ニッケル層)
ピロリン酸ニッケル:8g/L、ピロリン亜鉛:20g/L、ピロリン酸カリウム:80g/L、液温:40℃の亜鉛−ニッケル水溶液を調整し、pHを9.5に調整した。この亜鉛−ニッケル水溶液を陽極として使用する白金と陰極である粗化処理層を設けた処理銅箔の間に充填し、電流密度0.5A/dm2、電気量2C/ dm2の電解条件で亜鉛−ニッケル層を設けた。
【0066】
(クロメート層)
実施例1と同じ電解液組成、液温、pH、電解条件でクロメート層を設けた。
(シランカップリング剤層)
実施例1と同じ液組成、液温、浸漬時間でシランカップリング剤層を設けた。
【0067】
【表4】

【0068】
次に、前記実施例7〜13 及び比較例7〜9にて得られた処理銅箔に対して次の測定を行った。
(モリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層の析出付着量)
理学電機株式会社製のRIX2000を用い、モリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層の各元素の析出付着量を測定し、各元素の和を析出付着量とした。なお、比較例9もRIX2000を用い亜鉛とニッケルの析出付着量を測定し、その和を析出付着量とした。測定した結果を表5に示す。
(モリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層の各元素の含有率)
モリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層の析出付着量から得られた各元素の析出付着量を用い、各元素の含有率(wt%)を下記式(5)に代入して算出した。なお、比較例9の亜鉛―ニッケル層も式(5)の分母を(亜鉛―ニッケル層の析出付着量)に置き換え、分子を亜鉛の析出付着量又はニッケルの析出付着量に置き換え各元素の含有率を算出した。算出した結果を表5に示す。
式(5):各元素の含有率(wt%)={(各元素の析出付着量)/(モリブデンを含有するコバルト又はニッケル層の析出付着量)}×100
【0069】
【表5】

【0070】
次に実施例7〜13及び比較例7〜9の処理銅箔を使用して銅張積層板を作製した。
(ポリアミック酸を使用した2層フレキシブル銅張積層板(以下銅張積層板Bという))
実施例7〜13及び比較例7〜9の処理銅箔の各種処理層が設けられた面をピロメリット酸型のポリイミド前駆体をクリアランス350μmで塗布を行った。
このポリイミド前駆体はセパラブルフラスコ中にN,N−ジメチルアセトアミドを425g採取し、無水ピロメリット酸0.18モル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル0.18モルを撹拌しながら溶解させ4時間の撹拌により重合反応を行なうことで得られた。次いでポリイミド前駆体塗布後の処理銅箔をイナート乾燥機で130℃−12分、160℃−2分、220℃―2分、250℃―2分の加熱条件で溶剤を揮発させた後、イナート乾燥機により、360℃−2分間の加熱硬化処理を行い銅張積層板Bを得た。
【0071】
次に銅張積層板Bについて次の測定を行った。
(引きはがし強さ)
エッチングマシーンを使用し、エッチングにより1mm幅の銅の回路サンプ
ルを作製した。JIS C 5016に準拠し、万能試験機を用いて、90°での引きはがし強さを測定した。測定結果を表6に示す。
(加熱処理後の引きはがし強さの劣化率)
1mm幅の銅の回路サンプルを、大気オーブンを使用し、温度:150℃、時間:168時間の条件で加熱処理を行い、引きはがし強さを測定した。劣化率は下記式(6)に値を代入して算出した。算出した結果を表6に示す。
式(6):加熱処理後の引きはがし強さの劣化率(%)={(加熱処理前の引きはがし強さの値−加熱処理後の引きはがし強さの値)/加熱処理前の引きはがし強さの値}×100
【0072】
【表6】

【0073】
表5、表6の示す諸結果によると、モリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層を設けた実施例7〜13は、強固な引きはがし強さが得られ、加熱処理後の引きはがし強さの劣化率が小さい。
一方、比較例7の様にモリブデンを含有するコバルト層の析出付着量が少ない場合、比較例8の様にモリブデンを含有するニッケルのモリブデン含有率が10wt%未満である場合、比較例9の様に亜鉛−ニッケル層である場合は、強固な引きはがし強さは得られているが加熱処理後の引きはがし強さの劣化率が大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅張積層板用処理銅箔であって、絶縁性樹脂基材に接着される処理銅箔面に粗化処理層、クロメート層及びシランカップリング剤層が順次設けられており、当該処理銅箔面の十点平均粗さRzが1.0μm〜2.7μmであり、かつ、局部山頂の平均間隔Sが0.0230mm以下(但し0は含まない)であることを特徴とする銅張積層板用処理銅箔。
【請求項2】
絶縁性樹脂基材に接着される処理銅箔面の算術平均粗さRaが0.18μm〜0.36μmであり、かつ、当該算術平均粗さRaと前記局部山頂の平均間隔Sが下記式(1)の関係を有することを特徴とする請求項1に記載の銅張積層板用処理銅箔。
45.0≦{(S×1000)/Ra} ≦100.0 (1)
(式中、S×1000の単位はμmである。)
【請求項3】
絶縁性樹脂基材に接着される処理銅箔面にモリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の銅張積層板用処理銅箔。
【請求項4】
モリブデンを含有するニッケル及び/又はコバルト層の析出付着量が20mg/m2〜300mg/m2であり、かつ、モリブデンの含有率が10wt%以上であって残部がニッケル及び/又はコバルトである事を特徴とする請求項3に記載の銅張積層板用処理銅箔。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の銅張積層板用処理銅箔が絶縁性樹脂基材に加熱圧着させたことを特徴とする銅張積層板。
【請求項6】
請求項5記載の銅張積層板を用いて得られることを特徴とするプリント配線板。

【公開番号】特開2011−219789(P2011−219789A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87794(P2010−87794)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000239426)福田金属箔粉工業株式会社 (83)
【Fターム(参考)】