説明

銅微粒子分散液

【課題】 200nm未満の粒子径を有する銅微粒子分散液の提供。
【解決手段】 200nm未満の粒子径を有する銅化合物を、ポリオール溶媒中に懸濁した後、引き続き温度150℃未満で、加圧水素下で還元処理して得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子機器の実装分野において導電性ペースト、導電性インク等の用途で用いられている銅微粒子分散液に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、電子機器の実装分野において導電性ペースト・導電性インク等の用途で用いられている銅微粒子分散液は、近年配線密度の高密度化に伴い、フィラーサイズの低減が必要とされている。銅微粒子の作成方法には、物理的方法、化学的方法等の方法がある。物理的方法の中では、ガス中蒸発法によって100nm以下の粒子径を有する銅微粒子の製造方法が公知であるが(特開平3−34211)、この方法では銅微粒子間の凝集を防ぐために、銅微粒子は炭素数が5以上のアルコール、有機エステル(α―テルピネオール、シトロネノール、オレイン酸メチル、リノール酸グリセリド等)で被覆される必要がある。これらの被覆有機物は、立体的に嵩高い長鎖アルキル、あるいは環状骨格を有するため、このため、例えばこの粒子を銅微粒子分散液のフィラーとして用いる場合には、銅微粒子間の接触が不十分である。加熱して被覆有機物を除去することも可能であるが、その場合には400℃程度あるいはそれ以上の高温を必要とするという問題がある。
【0003】一方、化学的な作成方法としては、銅化合物を溶液中においてヒドラジン等の還元剤によって還元する方法がある。しかしながらこの方法は、作成した銅粒子間に強い凝集力が働くため、保護ポリマー等の添加なしには200nm未満の粒子径を有する銅微粒子を作成することができない。即ち、配線密度の高密度化に対応できても導電性が不充分である。また、銅化合物をポリオール溶媒中にてポリオールの沸点(例えばポリオールにエチレングリコールを用いた場合には198℃)で加熱還元する方法によって銅微粒子を得る方法も公知であるが(特公平4−24402)、この方法では高温下での銅化合物の溶解−析出反応を利用するために、得られる銅微粒子の粒径は大きくなり、200nm未満の粒子径を有する銅微粒子を得ることはできない。即ち、この方法では導電性は十分であっても配線密度の高密度化に対応できないのである。
【0004】さらに、銅化合物を常圧で水素還元する方法も提案されているが(特開昭64−47801)、この方法では通常150℃あるいはそれ以上の高い反応温度を必要とする。こういった高温での反応では生成する銅微粒子が容易に凝集するために、200nm未満の粒子径を有する銅微粒子を得ることはできない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】即ち、本発明は、銅本来の導電性を損なうことなく200nm未満の粒子径を有する銅微粒子分散液を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、200nm未満の粒子径を有する銅化合物の超微粒子を、ポリオール溶媒中に懸濁し、特定の温度および圧力下で水素を用いて還元処理をして得られた銅粒子の分散液が銅本来の導電性を損なうことなく配性密度の高密度化に対応できることを見出し本発明を完成したのである。
【0007】即ち、本発明は、200nm未満の粒子径を有する銅微粒子がポリオール溶媒に分散していることを特徴とする銅微粒子分散液、特に該ポリオール溶媒がジエチレングリコールであることを特徴とする銅微粒子分散液に関するものであり、200nm未満の粒子径を有する銅化合物を、ポリオール溶媒中に懸濁した後、引き続き温度150℃未満で、加圧水素下で還元処理して得られることを特徴とする銅微粒子分散液の製造方法に関するものである。
【0008】以下に本発明を詳細に説明する。本発明の銅微粒子分散液は粒子径200nm未満の銅粒子がポリオール溶媒に分散していることを特徴としている。本発明の銅微粒子は球形、立方形、あるいは多面体形の形状を有し、1nm以上200nm未満、さらに限定すると1nm以上100nm未満の粒子径を有する。また、銅の分散液全体の中の含有率は、0.01質量%以上、90質量%未満、さらに好ましくは0.01質量%以上85質量%未満である。
【0009】本発明の銅微粒子分散液に溶媒として用いることができるポリオールは、分子中に2個以上の水酸基を有し、室温において溶液である化合物であり、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アルキレングリコール、グリセロール等である。ポリオールは高温で加熱するとそれ自身に還元性があることが知られており、分子構造の違いによってその還元力が大きく異なるが、本発明は水素の還元力を利用する反応であるので、ポリオールの還元力に制限はない。
【0010】室温において粘度の低いエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール等、炭素数の小さなものが好ましいが、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ポリエチレングリコール等の炭素数の大きなものも使用可能である。これらのポリオール溶媒1種類のみを単独溶媒として用いても良いし、複数のポリオール溶媒を混合して混合溶媒として用いてもよい。ポリオール溶媒の中で、最も好ましい溶媒はジエチレングリコールである。
【0011】次に本発明の銅微粒子分散液の製造方法について説明する。本発明の銅微粒子分散液は200nm未満の粒子径を有する銅化合物をポリオール溶媒中に懸濁し、特定の温度および圧力下で水素を用いて還元処理をして得られることを特徴とする。
【0012】以下、詳細について説明する。本発明に使用し得る銅化合物としては第一銅化合物、例えば、酸化第一銅、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、硫酸第一銅、硝酸第一銅、酢酸第一銅である。また第二銅化合物として、例えば酸化第二銅、水酸化第二銅、塩化第二銅、臭化第二銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、酢酸第二銅、アジ化第二銅等が例示される。これら銅化合物の中でより好ましいものとしては、ハロゲンイオンを含まない、酸化第一銅、酸化第二銅を挙げることができる。
【0013】本発明では上記の銅化合物の粒子径が200nm未満の粒子径であることを特徴とする。これらは市販品を用いてもかまわないし、公知の合成方法を用いて合成することも可能である。例えば、粒子径が200nm未満である酸化第一銅の合成方法としてはアセチルアセトナト銅錯体をポリオール溶媒中で200℃程度で加熱して合成する方法が公知である(アンゲバンテ ケミ インターナショナル エディション、40号、2巻、p.359、2001年)。原料である銅化合物の粒子径が200nmを越えると、還元処理によって200nm未満の銅微粒子を得ることができない。
【0014】本発明では、上記の銅化合物の超微粒子を先ずポリオール溶媒中に分散する。ポリオール溶媒中に銅化合物を分散する方法としては、銅化合物粉体を溶液に分散する一般的な方法を用いることができる。例えば、超音波法、ミキサー法、3本ロール法、ボールミル法、等を挙げることができる。中でも特に好ましいのは、超音波法、及びボールミル法である。通常は、これらの分散手段の複数を組み合わせて分散を行う。これらの分散処理は室温で行っても構わないし、溶媒の粘度を下げるために、加熱して行っても構わない。
【0015】ポリオール溶媒中に分散させる銅化合物超微粒子の重量に特に制限はないが、混合する粉体が大きな表面積を有する超微粒子であるために、90wt%を超える条件で、均一な分散液を作成することは不可能である。尚、200nm未満の粒子径を有する銅化合物の超微粒子をポリオール溶媒中にて合成することによって、分散処理を省略することも可能である。
【0016】上記の方法でポリオール溶媒中に分散した銅化合物は反応容器中で水素に接触させ、熱を加えることによって銅化合物を還元処理し銅微粒子を合成する。水素との接触は、耐圧の反応容器を用い、真空ポンプを用いて反応容器中の酸素を窒素等の不活性ガスで充分に置換した後、所定の圧力まで水素を充填することによって行う。水素の圧力と加える熱の量は、原料である銅化合物超微粒子の粒子径に依存して変わるが、加える圧力は大気圧より大きい必要がある。好ましくは、大気圧より大きく、10MPa未満の圧力で、さらに好ましくは、大気圧より大きく、8MPa未満の圧力である。一般に原料となる銅化合物超微粒子の粒子径が小さくなると、粒子が還元されやすくなるので、低圧の水素雰囲気で還元反応が進む。加圧水素を用いると、一般的に加える熱量を小さくすることができるのでより好ましい。
【0017】反応温度の範囲は、150℃未満、さらに好ましくは120℃未満である。一般に、原料となる銅化合物超微粒子の粒子径が小さくなると、加える熱の量は少なくてよい。また、加える熱の量が多すぎると、生成する銅微粒子間で凝集が進み、たとえ200nm未満の粒子径を有する銅化合物を原料としても、生成する銅微粒子の粒子径は200nmより大きくなる。本発明の還元処理は反応雰囲気を窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスと水素の混合雰囲気にしても差し支えない。酸素の存在は銅化合物からの銅イオンの溶出を促進するので好ましくない。
【0018】
【発明の実施の形態】次に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるべきではない。なお、以下の実施例中、比較例中に記載の銅化合物粒子及び銅粒子の粒径は、いずれも堀場製作所製レーザー散乱式粒度分布計(LA−920)で測定した。また、水素処理によって得られた分散液中の超微粒子が銅であることは、株式会社リガク製X線回折装置(Rigaku−RINT 2500)で確認した。
【0019】
【実施例1】酢酸銅(和光純薬工業株式会社製)0.3gをジエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製)50mlに懸濁し、水0.5mlを加えて190℃で3時間加熱反応させ、平均粒径80nmの酸化第一銅分散液を得た。この分散液をステンレス製の反応器(オートクレーブ)に入れ、また、攪拌のためのマグネティック攪拌子を入れ、真空ポンプを使って反応器中の酸素を除去した後、4.4MPaの圧力になるよう、容器内に水素を充填した。70℃に設定したオイルバス中で5時間、内部をマグネティックスターラーで攪拌しながら反応器を過熱して銅微粒子分散液を得た。得られた銅微粒子の平均粒径は75nmであった。
【0020】
【実施例2】平均粒子径30nmを有するCuOナノ粒子(シーアイ化成株式会社製)1gを、ジエチレングリコール50mlに加え、超音波分散機とボールミル分散機にて分散処理を行った。得られた分散液をオートクレーブに入れ、真空ポンプを使って反応器中の酸素を除去した後、3.9MPaの圧力になるよう、容器内に水素を充填した。70℃に設定したオイルバス中で5時間、内部をマグネティックスターラーで攪拌しながら反応器を過熱して銅微粒子分散液を得た。銅微粒子の平均粒径は50nmであった。
【0021】
【実施例3】実施例1と同様の操作で得た平均粒径80nmの酸化第一銅分散液を、さらに室温で1週間攪拌することで、平均粒径120nmの酸化第一銅分散液を得た。この分散液をオートクレーブに入れ、真空ポンプを使って反応器中の酸素を除去した後、1.2MPaの圧力になるよう、容器内に水素を充填した。102℃に設定したオイルバス中で2時間、内部をマグネティックスターラーで攪拌しながら反応器を過熱して銅微粒子分散液を得た。得られた銅微粒子の平均粒径は94nmであった。
【0022】
【比較例1】水素圧力が大気圧である以外は実施例3と同じ条件で反応を行ったが、酸化第一銅粒子は還元されず、銅微粒子分散液は得られなかった。
【0023】
【比較例2】反応温度が200℃である以外は実施例1と同じ条件で反応を行った。酸化第一銅粒子は還元されたが、銅は約1ミリ角の大きさをもつ凝集体となって沈降し、銅微粒子分散液は得られなかった。
【0024】
【発明の効果】本発明による方法においては、被覆有機物や保護ポリマー等の添加物を必要とせずに、200nm未満の粒子径を有する銅微粒子分散液を合成できるため、絶縁物成分が低減された高密度配線用の導電性ペースト、導電性インクを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 200nm未満の粒子径を有する銅微粒子をポリオール溶媒に含有させてなる銅微粒子分散液。
【請求項2】 該ポリオール溶媒がジエチレングリコールであることを特徴とする請求項1に記載の銅微粒子分散液。
【請求項3】 200nm未満の粒子径を有する銅化合物を、ポリオール溶媒中に懸濁した後、引き続き温度150℃未満で、加圧水素下で還元処理して得られることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の銅微粒子分散液の製造方法。
【請求項4】 該銅化合物が、酸化第一銅、酸化第二銅であることを特徴とする請求項3に記載の銅微粒子分散液の製造方法。

【公開番号】特開2003−166006(P2003−166006A)
【公開日】平成15年6月13日(2003.6.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−364327(P2001−364327)
【出願日】平成13年11月29日(2001.11.29)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】