説明

銅材料の下地処理方法および下地処理被膜付き銅材料

【課題】自己析出被膜形成技術において、被接着樹脂材料(例えば熱硬化性樹脂材料)に対して高接着力が期待される樹脂被膜を銅部材(例えば銅配線部)上にのみ形成させる事ができる手段の提供。
【解決手段】有機樹脂(A)、アニオン界面活性剤(B)、酸(C)および酸化剤(D)として鉄(III)イオンを含有するpHが3以下である水性液からなる水性下地処理剤に銅材料を接触させる適用工程と、前記適用工程により銅材料上に形成された下地処理被膜を水洗する水洗工程と、前記水洗工程後に乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とする銅材料の下地処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅材料の表面に下地処理被膜を形成させるための銅材料の下地処理方法、下地処理被膜付き銅材料および積層部材に関する。
【背景技術】
【0002】
工業製品には樹脂材料と金属材料の接合箇所が多く存在し、その接着力向上のために各種対策が取られている。
【0003】
一般的に、金属材料と樹脂材料との接着性を向上させるには、アンカーを形成させる手法が古くから用いられている。アンカー形成のために、金属材料または樹脂材料表面をいずれか粗面化する場合があり、それぞれブラストなどの機械的加工、エッチング、めっき、化成処理などの化学的加工方法が用いられている。
【0004】
しかし、最近、アンカーを形成させずに接着力が求められるケースが出てきている。
【0005】
例えば、プリント配線板においては、近年、プリント配線板の高密度化、信号の高速化が求められており、銅配線の薄型化、挟幅化が進んでいる。
【0006】
銅導体回路と絶縁樹脂層との接着向上を目的として、従来、銅材料および絶縁樹脂材料に対し化学的粗面化処理が用いられてきたが、ファインパターンの形成に限界があり、また、ギガHz以上の高周波数帯で使用されるデバイスでは表皮効果が大きくなるため、銅材料表面が粗化されると伝送損失が大きくなってしまうことから、表面を粗化することなく化学的親和性のみで樹脂との接着を改善させる表面処理の開発が切望されている。
【0007】
しかしながら、現時点で知られている表面粗化のない化学的表面処理としては、銅材料に処理する場合、シランカップリング剤を用いた塗布型処理が知られているが、実用レベルの接着強度が得られていないのが現状である。
【0008】
また、国際公開特許WO2009/066658に開示のエラストマーを主成分とした塗布型処理は、表面粗化なく熱硬化樹脂に対して実用レベルの接着強度が得られる。しかしながら、プリント配線板製造時、銅配線形成後の絶縁樹脂層を積層接着する場合においては、この塗布型の処理では、銅配線部と配線の存在しない部分とで凹凸が形成されるため、均一膜処理が困難であるばかりでなく、銅配線だけではなく、絶縁樹脂表面にも塗布被膜が形成されてしまい、絶縁信頼性や電気特性への影響の観点から業界において好まれない傾向にある。そのような場合では銅配線部分においてのみ、表面を粗化することなく接着下地処理が施されるような反応型の処理が求められている。
【0009】
金属に対する反応型表面処理として、鉄系またはアルミ系金属表面を有機樹脂を含む酸性の被覆組成物に接触させることにより、前記金属表面に有機樹脂皮膜を形成せしめることができる技術(以後、樹脂自己析出処理)が知られており、特許文献1〜4等に開示されている。従来公知の被覆組成物の特徴は、被覆組成物中に清浄な金属表面を浸漬することにより、浸漬時間とともに厚さあるいは重量が増大する有機樹脂皮膜を形成せしめることができることである。さらには、この皮膜形成は金属表面上の被覆組成物の化学作用(エッチングにより金属表面から溶出した金属イオンが樹脂粒子に作用して金属表面上に析出する)により達成されるため、電着のごとく外部からの電気を使用することなく、金属表面上に樹脂皮膜を効果的に形成せしめることができるものである。
【特許文献1】特公昭47−17630号公報
【特許文献2】特公昭52-21006号公報
【特許文献3】特公昭54−13435公報
【特許文献4】特開昭61−168673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前述したような従来の自己析出皮膜用組成物は、適用対象金属が鉄系金属である場合には、期待される被膜を形成させることができるが、適用対象金属が銅である場合には、被膜が形成しないとか樹脂との接着性が低い被膜しか形成されないという問題を抱えている。即ち、銅材料として銅配線部を有するプリント配線基板用材料をはじめとして各種材料が業界に多く存在するにもかかわらず、この自己析出被膜技術が適用できていない現状がある。
【0011】
そこで、本発明は、上記の樹脂自己析出処理により、被接着樹脂材料(例えば熱硬化性樹脂材料)に対して高接着力が期待される樹脂被膜を銅部材(例えば銅配線部)上にのみ形成させる事ができる手段を提供することを目的とする。更に、本発明は、6価クロム等の環境汚染の原因となる物質を用いず、環境負荷が小さい銅材料用下地処理剤を用いた環境面でも有利な銅材料の下地処理方法、この下地処理方法により得られる下地処理被膜付き銅材料および積層部材を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、有機樹脂、アニオン系界面活性剤、酸及び所定の酸化剤を含有する所定液性の水性下地処理剤を用いて銅材料を処理して得られる下地処理被膜付き銅材料が樹脂材料(例えば熱硬化性樹脂材料)と優れた接着性を有する事を見出し、以下の(1)〜(17)の発明を完成させた。
【0013】
本発明(1)は、有機樹脂(A)、アニオン界面活性剤(B)、酸(C)および酸化剤(D)として鉄(III)イオンを含有するpHが3以下である水性液からなる水性下地処理剤に銅材料を接触させる適用工程と、前記適用工程により銅材料上に形成された下地処理被膜を水洗する水洗工程と、前記水洗工程後に乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とする銅材料の下地処理方法である。
【0014】
本発明(2)は、有機樹脂(A)がエラストマーである、前記発明(1)の下地処理方法である。ここで、「エラストマー」とは、ゴム状の弾力性を有する工業用材料の総称を意味する。
【0015】
本発明(3)は、アニオン系界面活性剤(B)が、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩から選ばれる1種以上で合計の含有量が500〜3000ppmである、前記発明(1)または(2)の下地処理方法である。ここで、この界面活性剤の「アルキル」部分や「アルカン」部分の炭素数の範囲は、1〜15であることが好適である。
【0016】
本発明(4)は、25℃、イオン強度0.5Mでの鉄(III)イオンとの第一錯体安定度定数β1-Fe(III)が5以上である陰イオン供給源(E)を更に含有する、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの下地処理方法である。
【0017】
本発明(5)は、水性下地処理剤が、1〜1000ppmの銅イオン(F)を更に含有する、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの下地処理方法である。
【0018】
本発明(6)は、銅材料がプリント配線基板用材料である、前記発明(1)〜(5)のいずれか一つの下地処理方法である。
【0019】
本発明(7)は、前記発明(1)〜(6)のいずれか一つの下地処理方法により得られる下地処理被膜付き銅材料である。
【0020】
本発明(8)は、下地処理皮膜における銅元素の割合が0.1〜10原子%であり、下地処理皮膜における鉄元素含有量が0.003g/m以下である、前記発明(7)の下地処理被膜付き銅材料である。
【0021】
本発明(9)は、下地処理前の銅材料表面粗さ(Ra)に対する下地処理後の銅材料表面粗さ(Ra)の変化ΔRaが0.5μm以下である、前記発明(7)または(8)の下地処理被膜付き銅材料である。
【0022】
本発明(10)は、前記発明(7)〜(9)のいずれか一つの下地処理被膜付き銅材料と、下地処理被膜上に設けられた樹脂層とを有する、積層部材である。
【0023】
本発明(11)は、銅配線回路が形成された絶縁樹脂層において、銅回路表面にのみ前記発明(7)〜(9)のいずれか一つの下地処理被膜が形成され、上記下地処理被膜表面および銅配線回路が形成されていない上記絶縁樹脂層表面に、絶縁樹脂層が形成されている構造を1〜100層有するプリント配線基板である。
【0024】
本発明(12)は、有機樹脂(A)、アニオン界面活性剤(B)、酸(C)および酸化剤(D)として鉄(III)イオンを含有するpHが3以下である水性液であることを特徴とする、銅材料用水性下地処理剤である。
【0025】
本発明(13)は、有機樹脂(A)がエラストマーである、前記発明(12)の銅材料用水性下地処理剤である。
【0026】
本発明(14)は、アニオン系界面活性剤(B)が、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩から選ばれる1種以上で合計の含有量が500〜3000ppmである、前記発明(12)または(13)の銅材料用水性下地処理剤である。
【0027】
本発明(15)は、25℃、イオン強度0.5Mでの鉄(III)イオンとの第一錯体安定度定数β1-Fe(III)が5以上である陰イオン供給源(E)を更に含有する、前記発明(12)〜(14)のいずれか一つの銅材料用水性下地処理剤である。
【0028】
本発明(16)は、1〜1000ppmの銅イオン(F)を更に含有する、前記発明(12)〜(15)のいずれか一つの銅材料用水性下地処理剤である。
【0029】
本発明(17)は、プリント配線基板用材料用である、前記発明(12)〜(16)のいずれか一つの銅材料用水性下地処理剤である。
【発明の効果】
【0030】
本発明(1)及び(12)によれば、適用対象金属が銅である場合にも、被接着樹脂材料(例えば熱硬化性樹脂材料)に対して高接着力を有する自己析出被膜を形成させることが可能になると共に、6価クロム等の環境汚染の原因となる物質を用いないので環境負荷も小さいという効果を奏する。更には、鉄を実質的に含有しない自己析出被膜を形成させることができることに加え、銅材料の表面粗さの変化を抑制することができるという効果を奏する。
【0031】
本発明(2)及び(13)によれば、有機樹脂としてエラストマーが選択された場合には、エポキシ系の熱硬化性樹脂に対して特に高い接着力を有する自己析出被膜を形成させることが可能になるという効果を奏する。
【0032】
本発明(3)及び(14)によれば、形成される自己析出被膜を低膜厚化させることができるという効果を奏する。
【0033】
本発明(4)及び(15)によれば、銅(II)イオンと有機樹脂等との膜形成反応に影響を与えることなく、且つ、酸化剤である鉄イオンの正電荷化を防ぐことができるために液安定性を向上させることが可能になるという効果を奏する。
【0034】
本発明(5)及び(16)によれば、本発明に係る自己析出被膜用組成物については銅イオンが含まれていても形成される自己析出被膜の性能に影響がなく、したがって、使用の際に適用対象金属である銅から自己析出自己析出被膜用組成物に銅イオンが溶出して残存しても問題が無いので、頻繁に交換しなくても同一自己析出被膜用組成物を何度も使用可能であるという効果を奏する。
【0035】
本発明(6)及び(17)によれば、プリント配線基板用材料に適用した場合、プリント配線基板用材料における銅材料部分にのみ選択的に自己析出被膜を形成させることが可能であるという効果を奏する。
【0036】
本発明(7)によれば、被接着樹脂材料(例えば熱硬化性樹脂材料)に対して高接着力を有する自己析出被膜を有する銅材料を提供することが可能になるという効果を奏する。
【0037】
本発明(8)によれば、自己析出被膜が鉄を実質的に含有しないので、更に高い接着力を有する銅材料を提供することができるという効果を奏する。
【0038】
本発明(9)によれば、銅材料の表面粗さ変化が少ないので、プリント配線板の銅回路に適用した場合、銅材料表面が粗化される場合に比べ、伝送損失を少なくする事ができるという効果を奏する。
【0039】
本発明(10)によれば、銅材料と下地処理被膜との間並びに下地処理被膜と樹脂層との間がより強固に接着した積層部材を提供することができるという効果を奏する。
【0040】
本発明(11)によれば、銅材料と下地処理被膜との間並びに下地処理被膜と樹脂層との間がより強固に接着した、銅部分にのみ下地処理被膜が形成された回路を有するプリント配線基板を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、本発明の積層部材を示す模式的な断面図である。
【図2】図2は、本発明のプリント配線基板の構造を示す模式的な断面図である。
【図3】図3は、片面銅回路形成エポキシ樹脂板の銅回路部断面写真である。
【図4】図4は、実施例4で得られた下地被膜付片面銅回路形成エポキシ樹脂板の銅回路部断面写真である。
【図5】図5は、実施例5に関する、自己析出被膜についてのXPS深さ方向分析結果である。
【図6】図6は、比較例5に関する、自己析出被膜についてのXPS深さ方向分析結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明に係る銅材料用水性下地処理剤を用いた銅材料用の下地処理方法、この下地処理方法により得られる下地処理被膜付き銅材料および積層部材について詳細に説明する。
【0043】
《銅材料用水性下地処理剤》
本発明の銅材料用水性下地処理剤は、有機樹脂(A)とアニオン界面活性剤(B)と酸(C)と酸化剤(D)として鉄(III)イオンとを含有する、pHが3以下である水性液からなる。ここで、当該処理剤は、例えば、有機樹脂(A)とアニオン系界面活性剤(B)を含む水性液の中に、酸(C)及び酸化剤(D)を必須的に添加することで得られる液である。
【0044】
<表面処理の対象>
本発明の下地処理液による表面処理の対象は、銅材料である。銅材料は特に限定されず、その具体例としては、純銅、銅合金が挙げられる。また、本発明でも用いられる銅材料の形状、構造等は特に限定されず、例えば、板状、箔状、棒状、粒状等の形状であってもよい。更に、本発明でも用いられる材料は、別の金属材料、セラミックス材料、有機材料の基材上に、例えば、めっき、蒸着などの手法により被覆されたものであってもよい。銅合金は、銅を50質量%以上含有するものが好ましく、例えば、黄銅等が挙げられる。銅合金における銅以外の合金成分としては、例えば、Zn、P、Al、Fe、Ni等が挙げられる。
【0045】
<必須添加成分1:有機樹脂(A)>
まず、本発明に係る水性下地処理剤の第一の必須添加成分である有機樹脂(A)について説明する。ここで、本発明の下地処理剤においては、有機樹脂(A)は、銅材料を処理することにより得られる下地処理被膜の主成分となる。
【0046】
ここで、有機樹脂(A)は、(1)後述するアニオン性界面活性剤(B)を用いて強制乳化されるものであっても、(2)スルホン基、カルボキシル基、ホスホン基、フェノール性水酸基、水酸基、エチレンオキサイド等の親水基が付加された自己乳化するものであっても、(3)これらの併用したものであってもよい。このように、(1)の場合には、有機樹脂(A)とアニオン性界面活性剤(B)とが別化合物として存在し、(2)の場合には、有機樹脂(A)とアニオン性界面活性剤(B)とが同一化合物として存在する。
【0047】
有機樹脂(A)は、如何なるものでもよく、例えば従来公知の水分散性または水溶性の有機樹脂を使用する事が可能である。具体的には、エラストマー、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ポリオレフィン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド、ポリアミン、ナイロン樹脂、ポリフェニレンスルフィド等を溶媒中に溶解または分散させた状態のものが挙げられる。
【0048】
中でもエラストマーが好ましい。上記エラストマーは特に限定されず、水に溶解または分散した従来公知のエラストマーを用いることができる。上記エラストマーとしては、具体的には、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンスチレンゴム、メタクリル酸メチルブタジエンゴムなどジエン系ゴム;ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、クロロスルフォン化ゴム、塩素化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ふっ素ゴム、等を水に溶解または分散させた状態のものが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらのエラストマーは、アミノ基、ヒドロキシル基、メチロール基等のヒドロキシアルキル基、カルボキシル基、スルホン基、ホスホン基、エポキシ基、イソシアネート基、カルボジイミド基、等の官能基で変性したものであってもよい。上記エラストマーのなかでも、エラストマーのガラス転移温度(Tg){示差走査熱量計(例えばDSC6200:セイコーインスツルメンツ社製)を用いて測定されたガラス転移温度}が−100〜350℃が好ましく、−65〜110℃であることがより好ましい。また、上記エラストマーのなかでも、エラストマーの比重が、0.8〜2.0が好ましい。これらのエラストマーのうち、ブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンスチレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、メタクリル酸メチルブタジエンゴム、アクリルゴムであるのが、接着対象となる熱硬化性樹脂との親和性が高い理由から好ましい。
【0049】
<必須添加成分2:アニオン系界面活性剤(B)>
次に、本発明に係る水性下地処理剤の第二の必須添加成分であるアニオン界面活性剤(B)について説明する。アニオン系界面活性剤(B)は、特に限定されず、従来公知のアニオン系界面活性剤を用いることができる。本発明の水性下地処理剤においては、アニオン系界面活性剤(B)は、下地処理剤中に含有させる事により、下地処理剤中で水分散性または水溶性の有機樹脂(A)に吸着し、水分散性または水溶性の有機樹脂(A)に、銅イオンと静電凝集させるための負電荷を生じさせるために必要な成分である。
【0050】
アニオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、カルボキシレート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリカルボン酸型界面活性剤等が挙げられる。
【0051】
上記アニオン系界面活性剤(B)のうちアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩から選ばれる1種以上は、作用機構は現時点では明らかではないが、更に水性下地処理剤中に含有させる事により銅材料表面に析出する下地処理被膜の膜厚を薄くする効果がある。特に本発明の水性下地処理剤をプリント配線基板の銅回路‐層間絶縁樹脂材料間の接着性向上処理として適用を考えた際、下地処理被膜のプリント配線基板の電気特性への影響を考えた場合、出来るだけ薄膜である方が良い場合があり、上記アニオン系界面活性剤添加により影響が少ないと考えられる1μm以下の膜厚の下地処理被膜を安定して形成させることが可能となる。
【0052】
ここで、有機樹脂(A)としてはエラストマーが好適であるが、エラストマーとアニオン系界面活性剤とを含む水性液の市販品としては、ブタジエンゴムについては、DIC株式会社のバテラコールE−301、アクリロニトリルブタジエンスチレンゴムについては、Emerald Performance Materials社製のNychem1570X75、Nychem1562X160、Nychem1577、1578X1、が例示され、アクリロニトリルブタジエンゴムについては、EmeraldPerformance Materials社製のNychem1561X87、Nychem1561、Nychem1571、Nychem1581、Nychem1552、Nychem1562、Nychem1562X103、Nychem1562X117、Nychem1572X64、Nychem1572、Nychem1570X79、NychemN4000、DIC株式会社製のラックスターDN‐703、ラックスター1570B、ラックスター6541G、日本エイアンドエル株式会社製のNA‐11、NA‐13、NA‐20、日本ゼオン株式会社製のNipol1561、Nipol1562、Nipol1571H、Nipol1571C、Nipol1571CL、Nipol1577、NipolLX511、NipolLX513、NipolLX517A、NipolLX531、NipolLX531B、NipolLX550、Nipol550L、Nipol551、Nipol552、NipolSX1503、が例示され、スチレンブタジエンゴムについては、EmeraldPerformance Materials社製のNychem2570X59、Nychem1800X73、DIC株式会社製のラックスター7300A、ラックスターDS‐602、ラックスター7310‐K、ラックスター2800A、ラックスター3009A、ラックスターDS‐410、ラックスターCB‐2、ラックスターDS‐407H、ラックスター3307BE、ラックスターDS‐205、ラックスター7440N、JSR株式会社製のSB0695、SB0696、SB0561、SB0589、SB0602、SB2108、SB0533、SB0545、SB0548、SB0568、SB0569、SB0573、SB0597C、日本エイアンドエル株式会社製のSR‐100、SR‐102、SR‐103、SR‐104、SR‐107、SR‐110、SR‐112、SR‐113、SR‐115、SR‐116、SR‐117、SR‐118、SR‐130、SR‐140、SR‐142、SR‐143、日本ゼオン株式会社製のNipolLX407ASシリーズ、NipolLX407Fシリーズ、NipolLX407Gシリーズ、NipolLX407Hシリーズ、NipolLX407Kシリーズ、NipolLX407Sシリーズ、NipolLX407BPシリーズ、NipolV1004、NipolMH5055、NipolC4850A、NipolLX110、NipolLX112、NipolLX119、NipolLX206、Nipol2507H、NipolLX303A、Nipol2518FS、Nipol2518GL、NipolLX603、NipolLX415A、NipolLX416、NipolLX426、NipolLX430、NipolLX432A、NipolLX433C、NipolLX435、NipolLX438C、NipolLX473B、NipolLX476、Nipol2570X5、NipolSX1105、Lubrizol社製のStycarTMSB‐1168、StycarTMSB−1177、StycarTMSB−0738、StycarTMSB−1170、StycarTMSB−0706、StycarTMSB−1459、StycarTM1780、StycarTM1795、が例示され、メタクリル酸メチルブタジエンゴムについては、DIC株式会社製のラックスターDM‐886、ラックスターDM‐801、ラックスターDM‐808、日本エイアンドエル株式会社製のMR‐170、MR‐171、MR‐172、MR‐173、MR‐174、日本ゼオン株式会社製のNipolLX811B、NipolLX814、NipolLX816、NipolLX820A、NipolLX821、NipolLX844B、NipolLX851C、NipolLX851E、NipolLX851F、NipolLX852、NipolLX854E、NipolLX855EX1、NipolLX857X2、NipolLX874、NipolSX1706、Lubrizol社製のHycar26843、HycarT‐122、HycarT‐9202、Hycar26‐1042、Hycar26477、Hycar26717、Hycar26479、Hycar26‐1199、Hycar26083、Hycar26322、Hycar26552、Hycar26‐0202、Hycar26092、Hycar2671、Hycar26120、HycarT‐9207、Hycar26319、Hycar26871、Hycar26345、Hycar26‐0912、Hycar2679、Hycar26796、Hycar26084、Hycar26349、Hycar26091、Hycar26288、Hycar26‐1265、Hycar26138、Hycar26523、Hycar26‐1084、Hycar26106、Hycar26348、Hycar26450、Hycar26688、Hycar26172、Hycar26391、Hycar26256、Hycar26‐1475、Hycar26315、Hycar26459、Hycar594、Hycar595、Hycar2003、HystretchV‐60、HystretchHystretchV‐43、HystretchV‐43FDA、HystretchV‐43FF、HystretchV‐29が例示され、アクリルゴムについては、DIC株式会社製のボンコートAB‐901、ボンコートAN‐155‐E、ボンコートAN‐200、ボンコートED‐85‐E、ボンコートR‐3380‐E、ボンコートAN‐782‐E、ボンコートAB‐886、ボンコートAN‐1190、ボンコートH‐5、ボンコートS‐5、ボンコートAC‐501、ボンコートHV−E、ボンコートTA‐96、ボンコートSFA‐33、ボンコートAK‐261E、ボンコートAK‐3090、ボンコートAK‐2100、ボンコートSEP‐119、JSR株式会社製のAE610H、AE200A、AE337、AE945H、AE981A、AE120A、AE982、AE986B、SX8900C、SX8900D、AE116、AE150Bが例示される。
【0053】
<必須添加成分3:酸(C)>
次に、本発明に係る水性下地処理剤の第三の必須添加成分である酸(C)について説明する。本発明の水性下地処理剤においては、酸(C)は、銅材料上に水洗時にも脱落しない耐水洗性の高い下地処理被膜を形成させるのに必要な成分である。酸(C)の作用機構としては、現時点では明らかではないが、1つの作用として水性下地処理剤中に酸(C)を含有させる事により処理剤pHを低下させる。それにより、銅材料より溶出した銅イオン、または処理剤中に存在する銅イオンへの水酸化物イオンなどの配位が抑制され、銅イオン由来の正電荷によるクーロン引力が大きくなる事が考えられる。それにより、アニオン系界面活性剤が吸着して表面に負電荷を有している水分散性または水溶性の有機樹脂(A)をより強く静電凝集し、水洗時にも脱落しない下地処理被膜が形成されるものと考えられる。
【0054】
酸(B)としては、例えばジルコンフッ化水素酸、チタンフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸、ホウフッ化水素酸、フッ化水素酸、リン酸、硝酸等から選ばれる少なくとも1種を使用できるが、硝酸、フッ酸から選ばれる1種以上を使用するのがより好ましい。
【0055】
<必須添加成分4:酸化剤(D)>
次に、本発明に係る水性下地処理剤の第四の必須添加成分である酸化剤(D)について説明する。本発明の水性下地処理剤においては、酸化剤(D)は、銅材料を酸化溶解することにより上記の様に、水分散性または水溶性の有機樹脂(A)を銅材料表面に静電凝集析出させるために必要な銅イオンの発生源である。
【0056】
ここで、式(1)の反応における標準水素電極電位E(25℃)は0.34Vであり、式(2)の反応における標準水素電極電位E(25℃)は0Vであり、鉄、亜鉛、アルミなどとは異なり、水素イオンが銅の酸化剤とは通常成り得ず、銅を酸化溶解するための酸化剤が特別に必要となる。
Cu → Cu2+ + 2e- 式(1)
2H + 2e- -→ H 式(2)
【0057】
このような理論を踏まえ、銅の酸化剤として使用可能なものは多く存在する(例えば、硝酸系化合物、例えば、亜硝酸、ペルオキソ硝酸、ペルオキソ亜硝酸、ニトロキシル酸、トリオキソ二硝酸、テトラオキソ二硝酸、これらの塩;硫酸系化合物、例えば、亜硝酸、ペルオキソ硝酸、ペルオキソ亜硝酸、ニトロキシル酸、トリオキソ二硝酸、テトラオキソ二硝酸、これらの塩;ハロゲン酸系化合物、例えば、過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、過臭素酸、臭素酸、亜臭素酸、次亜臭素酸、過ヨウ素酸、ヨウ素酸、次亜ヨウ素酸、これらの塩;有機過酸化物、例えば、過酸化水素、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、・・・)。しかしながら、本発明者らは、本発明の水性下地処理剤の液組成であって且つ適用対象を銅材料とした場合においては、諸性能を発揮させるには、数ある酸化剤の内、鉄(III)イオンが顕著な性能を発揮することを見出した。
【0058】
ここで、鉄(III)イオンを液中に供給する鉄(III)イオン供給源としては、具体的には、例えば、弗化鉄(III)、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)、ヨウ化鉄(III)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、酢酸鉄(III)、アセチルアセトン鉄(III)、クエン酸鉄(III)、グリシン鉄(III)、蓚酸鉄(III)、ピコリン酸鉄(III)、L-フェニルアラニン鉄(III)、マロン酸鉄(III)等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
次に、本発明に係る水性下地処理剤の任意含有成分を説明する。本発明に係る水性下地処理剤は、従来公知の各種成分や添加剤を含有していてもよい。以下では、これらの内、陰イオン供給源(E)、銅イオン(F)及び過酸化水素(G)について特に説明するが、これ以外の任意成分を含有することを排除する趣旨ではない。
【0060】
<任意添加成分1:陰イオン供給源(E)>
次に、本発明に係る水性下地処理剤の任意含有成分である陰イオン供給源(E)について説明する。25℃、イオン強度0.5Mでの鉄(III)イオンとの第一錯体安定度定数β1-Fe(III)が5以上である陰イオン供給源(E)を、処理剤中に添加することにより、陰イオン供給源(E)由来の陰イオンが鉄(III)イオンに配位することにより、鉄(III)イオンのもつ正電荷による静電気力を弱める事ができ、それにより液安定性を高める事ができる。具体的には、フッ酸(β1-Fe(III)=5.20)、蓚酸(β1-Fe(III)=7.53)、アセチルアセトン、クエン酸、グリシン、ピコリン酸、L-フェニルアラニン鉄、マロン酸またはそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩など)が例示される。
【0061】
ここで、酸化剤(D)としての鉄(III)イオンを液中に供給する鉄(III)イオン供給源とこの陰イオン供給源(E)は同一化合物由来であってもよい。例えば、鉄(III)イオン供給源として例示した弗化鉄(III)や蓚酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)がこれに該当する。
【0062】
<任意含有成分2:銅イオン(F)>
本発明に係る水性下地処理剤の任意含有成分である銅イオン(F)について説明する。銅イオン(F)としては、銅(I)イオン、銅(II)イオンが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの金属イオンは、銅(II)化合物、銅(I)化合物、金属銅、から選ばれる1種以上を本水性下地処理剤中に添加または浸漬することで本発明の下地処理剤中に存在させる事ができる。ここで、銅(I)化合物としては、塩化銅(I)等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。銅(II)化合物としては、具体的には、例えば、蟻酸銅(II)、酢酸銅(II)、プロピオン酸銅(II)、吉草酸銅(II)、グルコン酸銅(II)、酒石酸銅(II)などの有機酸の銅塩;塩化銅(II)、臭化銅(II)、水酸化銅(II)、酢酸銅(II)、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)、炭酸銅(II)、酸化銅(II)、弗化銅(II)、硫化銅(II);等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。金属銅としては、上記銅材料を用いる事ができる。
【0063】
また、酸化剤として更に過酸化水素(G)を含有することが好適である。鉄(III)イオンが酸化剤として作用する際、自身は鉄(II)イオンとなるが、過酸化水素を含有していると当該鉄(II)イオンを酸化して鉄(III)イオンに戻す効果があるからである。
【0064】
本発明に係る水性下地処理剤は、上述した各成分が配合されてなる(または含有する)水系液体媒体(水性液)である。ここで、「水系液体媒体」は、水を主体とする液体媒体である。「主体」とは、液体媒体の全質量を基準として少なくとも50容量%以上が水であることを意味する。尚、水以外の液体媒体を含んでいてもよく、例えば、ヘキサン、ペンタンなどのアルカン系;ベンゼン、トルエンなどの芳香族系;エタノール、1−ブタノール、エチルセロソルブなどのアルコール系;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系;酢酸エチル、酢酸ブトキシエチルなどのエステル系;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系;ジメチルスルホキシドなどのスルホン系溶媒;ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのリン酸アミド;等を好適に用いることができる。
【0065】
次に、水性下地処理剤における、上述した各成分の添加量(または含有量)について説明することとする。
【0066】
<必須添加成分(A)>
本発明の水性下地処理剤においては、有機樹脂(A)は、下地処理剤全量に対して、0.5〜80質量%であるのが好ましく、1〜50質量%であるのがより好ましい。上記有機樹脂(A)の含有量がこの範囲にあると下地処理剤を使って本発明でも用いられる銅材料を処理した後、水洗時の下地処理被膜脱落防止性が良好になる。
【0067】
更に、有機樹脂がエラストマーである場合、エラストマーを水中に溶解または分散させたエラストマー分散溶液(エマルジョンとも称する)中のエラストマー濃度としては、特に限定されないが、処理剤の取り扱いやすさの点から、1〜80質量%が好ましく、10〜60質量%がより好ましい。尚、上記分散溶液の粘度としては、特に制限されないが、処理剤の取り扱いやすさの点から、5〜3000cPが好ましい。また、上記分散溶液中のエラストマーの粒径は、特に制限されないが、0.001〜10μmが好ましく、0.01〜2μmがより好ましい。
【0068】
<必須添加成分(B)>
本発明の水性下地処理剤においては、アニオン系界面活性剤(B)の含有量は、下地処理剤全量に対して、100〜10000ppmであるのが好ましく、500〜3000ppmであるのがより好ましい。特に、前述したアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩から選ばれる1種以上を選択して上記濃度に設定した場合に、1μm以下の膜厚の下地処理被膜を安定して形成させることが可能となる。
【0069】
<必須添加成分(C)>
本発明の水性下地処理剤においては、酸(C)は、水性下地処理剤全量に対して、0.5〜20質量%であるのが好ましく、1〜10質量%であるのがより好ましい。酸(C)の含有量がこの範囲にあると下地処理剤を使って本発明でも用いられる銅材料を処理した後、水洗時の下地処理被膜脱落防止性がより良好になる。
【0070】
<必須添加成分(D)>
本発明の水性下地処理剤においては、酸化剤(D)は、水性下地処理剤全量に対して、0.01〜10質量%であるのが好ましく、0.05〜5質量%であるのがより好ましい。酸化剤(D)の含有量がこの範囲にあると下地処理剤を使って本発明でも用いられる金属材料を処理した後、水洗時の自己析出被膜脱落防止性が良好になる。
<任意添加成分(E)>
本発明の水性下地処理剤においては、陰イオン(E)は、水性下地処理剤全量に対して、0.01〜10質量%であるのが好ましく、0.05〜5質量%であるのがより好ましい。酸化剤(D)の含有量がこの範囲にあると、下地処理剤の反応性を維持しつつ液安定性が良好になる。
【0071】
<任意含有成分(F)>
本発明の水性下地処理剤においては、銅イオン(F)は、水性下地処理剤全量に対して、0.0001〜0.1質量%であるのが好ましく、0.001〜0.05質量%であるのがより好ましい。銅イオン(F)の含有量がこの範囲にあると下地処理剤を使って本発明でも用いられる金属材料を処理する際、処理負荷をかけて処理した場合も、安定した下地被膜析出量が得られる。
【0072】
また、酸化剤として過酸化水素(G)を添加する場合には、当該酸化剤の濃度は、液中に存在する全ての鉄イオンを鉄(III)イオンに酸化してそれを維持するに十分な量である必要がある。ここで、当該酸化剤の濃度は、白金電極を作用極に用いた市販のORP電極で測定される酸化還元電位で管理することができる。ここで、本発明の自己析出反応メカニズムからは、全ての第一鉄イオンを第二鉄イオンに酸化した状態で若干の余剰の過酸化水素が処理浴に存在する状態が好ましい。酸化還元電位を選択した酸化剤によって与えられる値の最小値以上に保つことによって、前記状態を維持することが可能となる。ここで、好ましい酸化還元電位は、すくなくとも300mV以上であり、好ましくは350mV以上である。300mVより低い場合、弗化物イオンとの錯安定性の低い第一鉄イオンが処理液中に存在しえるため結果として処理液の安定性低下の原因となり得る。
【0073】
《銅材料の下地処理方法(水性下地処理剤の使用方法)》
本発明に係る銅材料の下地処理方法(以下、単に「本発明の下地処理方法」という。)は、上述した本発明の水性下地処理剤を銅材料に接触させる接液工程と、上記接液工程の後、水洗することにより酸(C)、酸化剤(D)を除去する工程と、水洗工程後乾燥する乾燥工程と、を有する銅材料の下地処理方法である。
【0074】
<接液工程>
上記接液工程は、上述した本発明の水性下地処理剤を、本発明で用いられる銅材料に接触させる工程である。本発明の下地処理方法においては、上記接液工程における接液方法は特に限定されず、例えば、ディップ法、スプレー法やこれらの組み合わせ等の方法により塗布することができる。また、本発明の下地処理方法においては、上記接液工程における本発明の下地処理剤の使用条件は特に限定されない。例えば、下地処理剤を塗布する際の処理剤および本発明でも用いられる銅材料の温度は、10〜90℃であるのが好ましく、20〜50℃であるのがより好ましい。温度が50℃以下であると、無駄なエネルギーの使用を抑制することができるため、経済的な観点から好ましい。また、下地処理剤を接液する時間は、適宜設定することができる。
【0075】
<水洗工程>
本発明の下地処理方法においては、上記水洗工程における水洗方法は特に限定されず、例えば、ディップ法、スプレー法やこれらの組み合わせ等の方法により水洗することができる。また、水洗時間は適宜設定する事ができる。この水洗工程により、本発明の下地処理剤中に含有される酸(C)、酸化剤(D)である鉄イオンが除去され、それにより接着性を向上させる事ができる。
【0076】
<乾燥工程>
上記乾燥工程は、水洗工程後に乾燥し、下地被膜を形成する工程である。本発明の下地処理方法においては、乾燥温度は使用する溶媒により相違するため特に限定されないが、例えば、水を溶媒として用いた場合には、50〜200℃の範囲であるのが好ましい。
【0077】
《下地被膜付き銅材料》
本発明の下地被膜付き銅材料は、上述した本発明の下地処理剤を用いて表面処理して得られた銅材料である。ここで、形成される下地皮膜について詳述する。
【0078】
<膜厚>
得られる下地被膜の膜厚としては、0.01〜20μmが好ましく、0.05〜5μmがより好ましい。
【0079】
<含有成分>
本発明の下地処理方法で得られる金属材料上の下地被膜は、水分散性または水溶性の有機樹脂(A)に加え、銅元素を含有する。このような被膜構造を有することにより、密着性能が更に向上する。XPS分析(装置名:ESCA−850M(島津製作所(株)製)を行い、XPS分析装置中に搭載されている解析ソフトを用いて、理論計算により被膜中銅元素を算術する場合、地被膜中の銅元素の含有率(原子比率)は0.01〜10原子%である。酸化剤(D)由来である鉄元素の含有率(原子比率)を同様に算術した場合、シグナル対ノイズ比で2以下を検出限界とした場合、検出限界以下であった。更に詳細に鉄元素の含有の有無を調べるために、蛍光X線分析(装置;ZSX-Primus(リガク製))を行い、検量線法により、被膜中鉄含有量測定を実施した所、検出限界(0.003g/m)以下であった。本発明の下地処理方法で得られる金属材料上の下地被膜中には鉄元素が含有されない事が、後述するように接着性能が高い要因となっているものと現時点では考えている。
【0080】
次に、この下地被膜が形成される側の銅材料の物性変化について説明する。本発明に係る金属材料用下地処理剤を用いた処理によれば、金属表面粗さの変化を抑制しつつ樹脂との密着性を向上させることができ、具体的には処理前の金属表面粗さ(Ra)に対する処理後の金属表面粗さ(Ra)の変化ΔRaを、0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下とする事ができる。特にプリント配線板の銅回路に適用した場合、銅材料表面が粗化される場合に比べ、伝送損失を少なくする事ができるという効果を奏する。従来使用されてきた銅材料のエッチングによる粗化方法では、銅材料表面が粗化され、表面粗さがRaで0.2μm以下の銅箔を使用した場合も、通常その表面平均粗さRaは1μmを超えてしまい、本発明のような効果は得られない。前記ΔRaの測定法としては、本発明の下地被膜付き金属材料および処理前の金属材料を樹脂に埋め込んで、倍率1万倍にて断面SEM観察を行い、金属表面粗さプロファイルからそれぞれ、Ra、Raを計算し、それからΔRa(=Ra−Ra)を算出した。なお、平均表面粗さRa(算術平均表面粗さRa)は、JISB 0601によりRaの略号で表される値であり、表面粗さの値の平均線から絶対値偏差の平均値を表す。
【0081】
《積層部材》
本発明の積層部材は、上述した本発明の下地被膜付き銅材料と、下地被膜の上に設けられた熱硬化樹脂材料とを有する積層部材である。本発明の積層部材の構造等は特に限定されず、例えば、板状、箔状、棒状等、または複雑な形状であってもよい。図1は、本発明の積層部材の一例として、本発明の板状の積層部材を示す模式的な断面図である。図1に示される積層部材1は、銅材料2と、この上に本発明の下地処理剤を用いて形成された下地被膜3と、下地被膜3の上に設けられた熱硬化樹脂材料層4とを有する。本発明に係る銅材料用下地処理剤によって処理された銅材料は、その原因は現時点では明らかではないが、従来技術とは異なり、金属材料の表面の粗化が抑制される。
【0082】
(熱硬化樹脂材料)
熱硬化性樹脂層の材料は、加熱により架橋が期待される官能基を有する従来公知の樹脂を使用できる。具体的には、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド、不飽和ポリエステル、ビスマレイミドトリアジン樹脂等が例示される。加熱により架橋が期待される官能基としては、アミノ基、ヒドロキシル基、メチロール基等のヒドロキシアルキル基、フェノール基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、カルボジイミド基等が例示される。これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの樹脂は官能基により変性されていてもよい。また、樹脂層は、強化向上、熱伝導性、電気伝導性向上等の観点から、ガラス繊維、炭酸カルシウム、アラミド繊維、グラファイト、カーボンブラック、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、銀、銅などの金属粉末などのフィラー等を含有していてもよい。樹脂層の材料の好適態様の一つとして、プリプレグが挙げられる。プリプレグとは、熱硬化性樹脂をシート状の繊維基材に含浸し半硬化状態としてなるものをいう。シート状の繊維基材の材質の例としては、Eガラス、Dガラス、SガラスおよびQガラス等の無機物の繊維、アラミド、ポリイミド、ポリエステルおよびポリテトラフルオロエチレン等の有機物の繊維、並びにそれらの混合物等が挙げられる。これらの繊維基材は、例えば、織布、不織布、ロービンク、チョップドストランドマットおよびサーフェシングマット等の形状を有するが、材質および形状は、目的とする成形物の用途や性能により選択され、必要により、単独または2種類以上の材質及び形状を組み合わせることができる。
【0083】
(積層部材の製造方法)
本発明の積層部材は、上述した本発明の下地被膜付き金属材料に、下地被膜を介して熱硬化樹脂層を接合させることにより得ることができる。接合させる方法は、特に限定されず、具体的には、熱硬化樹脂層エポキシ樹脂である場合は、例えば、(1)下地被膜付き金属材料の下地被膜に、未硬化の液体状エポキシ樹脂を塗布した後、乾燥させて硬化させることにより樹脂層を形成させるコーティング法、(2)下地被膜付き金属材料の下地被膜に、エポキシ樹脂フィルムを、下地被膜とエポキシ樹脂フィルムとが接触するように積層した後、加熱圧着するラミネート法、(3)下地被膜付き金属材料を金型にセットし、下地被膜と接触するように、金型内に溶融したエポキシ樹脂を射出することによりエポキシ樹脂層を形成させる射出成形接着法等が挙げられる。
【0084】
(積層部材の特性)
本発明の積層部材においては、銅材料と下地皮膜を介して接着された熱硬化樹脂層との接着強度に優れる。形成される下地皮膜は耐酸性にも優れることから、例えば下記で好適な適用例として詳述するプリント配線基板の作成時に生じるピンクリングなどの不具合が抑制される。さらに、下地皮膜は高温、および高湿度環境下においても優れた接着強度を示す。
【0085】
《プリント配線基板への適用例》
本発明の下地処理剤は、プリント配線基板の銅回路‐層間絶縁樹脂材料間の接着性向上処理としても好適に使用できる。本発明の下地処理剤は、プリント配線基板の種類は従来公知のものに対して適用が可能であり、具体的には片面プリント配線基板、両面プリント配線基板、多層プリント配線基板、ビルドアッププリント配線基板、一括積層型プリント配線基板、フレックスリジッドプリント配線基板、部品内蔵型プリント配線基板、メタルベースプリント配線基板が例示される。
【0086】
本発明の下地処理剤は、プリント配線基板中の層数、銅配線パターン、銅配線幅、銅配線高さ、および間隙幅、絶縁樹脂層厚さ等については特に限定されず、従来公知のものに対して適用できる。
【0087】
また、本発明の下地処理剤は、プリント配線基板中の銅回路形成手法については限定されず、従来公知の手法が適用可能である。具体的には、サブトラクティブ法、アディティブ法、アディティブ-サブトラクティブ法等が例示される。
【0088】
また、本発明の下地処理剤は、層間絶縁樹脂層については、特に限定されず、従来公知の熱硬化性樹脂に対して適用できる。
【0089】
図2は、本発明の下地処理剤を用いて製造したプリント配線板の一例として、4層プリント配線板の模式的な断面図である。銅配線回路が形成された絶縁樹脂層において、本発明の下地処理剤を用いて表面処理を実施することにより、銅回路表面にのみ下地処理被膜が形成される。銅配線回路が形成されていない上記絶縁樹脂層表面には被膜が形成されないため、絶縁信頼性や電気特性への影響の観点から好ましい。
【0090】
また、下地処理被膜の膜厚については特に限定されないが、0.01〜20μmが好ましく、0.05〜5μmがより好ましい。
【0091】
また、特にプリント配線板において、高周波波形を信号とする用途に用いる場合には、特開平7−314603号公報にあるように、表皮効果の点から銅材料表面の表面粗さがRaで0.35μm以下、好ましくは0.2μm以下とする事が好ましい。
【実施例】
【0092】
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0093】
1.下地被膜付き銅材料の作製
後述する実施例および比較例に示すように、種々の下地処理剤を用いて以下の処理工程を被処理材に施し、下地被膜付き銅材料を得た。
【0094】
〔被処理材〕
被処理材の略号と内訳を以下に示す。
・銅箔:電解銅箔(純度99.8質量%以上)、厚さ18μm、Ra0.3μm
・ニッケル箔:(純度99質量%以上)、厚さ20μm
・片面銅回路形成エポキシ樹脂板、LS12.5μm、エポキシ樹脂層厚さ0.1mm
【0095】
〔処理工程〕
処理工程としては、以下の工程(1)〜(7)を順に行った。
(1)脱脂(60℃、10分、浸せき法、日本パーカライジング社製のファインクリーナー4360を用いて調製された5質量%水溶液を使用した。)
(2)水洗(常温、30秒、浸せき法)
(3)酸洗(常温、30秒、浸せき法、市販の硫酸を用いて調製された10%水溶液を使用)
(4)水洗(常温、30秒、浸せき法)
(5)表面処理(後述のとおり)
(6)水洗(常温、30秒、浸せき法)
(7)加熱乾燥(100℃、5分、熱風オーブン)
【0096】
〔表面処理〕
(実施例1)
水溶性、水分散性の有機樹脂(A)として、カルボキシル基およびメチロール基を有するアクリロニトリルブタジエンスチレンゴムの水分散体(固形分濃度:47%、pH:8、粘度:45cP、Tg:18℃、比重:1.01)を5重量部と、アニオン性界面活性剤(B)として、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(花王(株)製、ペレックスSS-H、固形分濃度50%)を固形分として0.15重量部と、脱イオン水を89.5重量部とを混合させる事で水分散性の有機樹脂(A)、アニオン性界面活性剤(B)とを含有する水性液を作製し、その中に、酸(C)として硝酸(有効成分60%)を5重量部、酸化剤(D)および陰イオン(E)として弗化鉄を0.35重量部を添加、溶解させることにより下地処理剤(a)を得た。下地処理剤(a)のpHを測定した所pH=1.5(25℃)であった。上記処理剤中(温度;25℃)に、被処理材の銅箔を3分間浸漬する表面処理を実施した。
【0097】
(実施例2)
アニオン性界面活性剤(B)として、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王(株)製、デモールNL、固形分濃度41%)を固形分として0.25重量部と、脱イオン水を88.5重量部とを添加する以外は下地処理剤(a)と同組成の下地処理剤(b)を得た。下地処理剤(b)のpHを測定した所pH=1.5(25℃)であった。上記処理剤中(温度;25℃)に、被処理材の銅箔を3分間浸漬する表面処理を実施した。
【0098】
(実施例3)
水溶性、水分散性の有機樹脂(A)として、カルボキシル基を有するアクリルゴムの水分散体(固形分濃度:48.5%、pH:8、粘度:70cP、粒子径:0.24μm、Tg:−29℃、比重:1.04、表面張力:42dyne/cm)を10重量部と、アニオン性界面活性剤(B)として、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王(株)製、ネオペレックスG-15、固形分濃度16%)を固形分として0.02重量部と、脱イオン水を84.63重量部とを混合させる事で水溶性の有機樹脂(A)、アニオン性界面活性剤(B)とを含有する水性液を作製し、その中に、酸(C)として硝酸(有効成分60%)を5重量部、酸化剤(D)および陰イオン(E)として弗化鉄を0.35重量部、とを含有する水溶液を調製して、下地処理剤(c)を得た。下地処理剤(c)のpHを測定した所pH=2.0(25℃)であった。上記処理剤中(温度;25℃)に、被処理材の銅箔を10分間浸漬する表面処理を実施した。
【0099】
(実施例4)
下地処理剤(a)を用い、上記処理剤中(温度;25℃)に、被処理材の片面銅回路形成エポキシ樹脂板を10分間浸漬する表面処理を実施した。
【0100】
(実施例5)
酸化剤(D)および陰イオン(E)として、蓚酸鉄(III)アンモニウム3水和物を10.9重量部、を添加する以外は下地処理剤(a)と同組成の下地処理剤(d)を得た。下地処理剤(d)のpHを測定した所pH=0.4(25℃)であった。上記処理剤中(温度;25℃)に、被処理材の銅箔を3分間浸漬する表面処理を実施した。
【0101】
(比較例1)
酸化剤(D)および陰イオン(E)を添加せず、酸化剤として過酸化水素水(有効成分30%)を10重量部添加し、脱イオン水を79.7重量部添加する以外は下地処理剤(a)と同組成の下地処理剤(e)を得た。下地処理剤(e)のpHを測定した所pH=0.33(25℃)であった。上記処理剤中(温度;25℃)に、被処理材の銅箔を3分間浸漬する表面処理を実施した。
【0102】
(比較例2)
有機樹脂及び界面活性剤を含有する水性液として、カチオン性ウレタン樹脂エマルジョン(第一工業製薬(株)製、製品名「F2614D」、固形分濃度25%、pH=8.5)を10重量部添加し、脱イオン水を79.7重量部添加し、酸(C)として硝酸(有効成分60%)を0.3重量部添加し、アニオン性界面活性剤(B)を添加しない以外は、下地処理剤(a)と同組成の下地処理剤(f)を得た。下地処理剤(f)のpHを測定した所pH=2.9(25℃)であった。上記処理剤中(温度;25℃)に、被処理材の銅箔を3分間浸漬する表面処理を実施した。
【0103】
(比較例3)
下地処理剤(a)を用い、上記処理剤中(温度;25℃)に、被処理材のNi箔を10分間浸漬する表面処理を実施した。
【0104】
(比較例4)
酸(C)を添加しない以外は下地処理剤(a)と同組成の下地処理剤(g)を得た。下地処理剤(g)のpHを測定した所pH=3.4(25℃)であった。上記処理剤中(温度;25℃)に、被処理材の銅箔を3分間浸漬する表面処理を実施した。
【0105】
(比較例5)
下地処理剤(a)を用い、処理剤中に金属銅箔を3分間浸漬した後、上記処理工程(6)水洗を行わずに(7)加熱乾燥(100℃、5分、熱風オーブン)を実施した。
【0106】
(比較例6)
上記処理工程のうち(4)水洗まで実施後に、黒化処理浴(亜塩素酸ナトリウム30g/L、リン酸3ナトリウム12水和物10g/L、水酸化ナトリウム15g/Lを含む水溶液)に、銅箔を処理温度90℃で3min浸漬した。その後、水洗後熱風オーブン中で、100℃で5min加熱乾燥することで黒化処理サンプルを作製した。
【0107】
2.下地被膜付き銅材料の評価
実施例1〜5および比較例1で得られた下地被膜付き銅材料について、以下のようにして各種の評価を行った。
【0108】
(1)銅材料表面の算術平均表面粗さ評価および下地被膜の膜厚測定
実施例1〜5で得られた下地被膜付き銅材料をエポキシ樹脂に埋め込んだサンプルを作製し、そのサンプルの断面を走査型電子顕微鏡(倍率:10000倍)を用いて観察し、下地被膜付き金属材料の金属材料表面の算術平均表面粗さRaを見積もったところ、いずれのサンプルもRaが0.50μm以下で、処理前後の金属材料表面粗さの変化ΔRaは0.20μm以下である事を確認した。
【0109】
また、図3は片面銅回路形成エポキシ樹脂板の銅回路部断面写真を示したものであり、図4は実施例4で得られた下地被膜付片面銅回路形成エポキシ樹脂板の銅回路部断面写真である。膜厚1μm以下の下地被膜が銅回路部に均一に形成されており、銅回路部以外においては下地被膜が形成されていない事を確認した。また、断面観察より下地被膜厚を測定した。結果を表1に示す。
【0110】
(2)下地被膜の被膜構造分析
実施例1および比較例5で得られた下地被膜付き銅材料について、以下に示す条件でXPSによる被膜の深さ方向分析によりを実施し、XPS分析装置中に搭載されている解析ソフトを用いて、理論計算により以下に示す元素について含有率を算術した。実施例1について得られた結果を図5に、比較例5について得られた結果を図6に示す。
<XPS深さ方向分析>
・使用装置;島津製作所(株)製 ESCA850
・励起X線;Mg-Kα
・測定面積;約50mm2
・測定領域;C1s, O1s,N1s,Cu2p, F1s, Fe2p
・スパッタリング時間;6min (SiO2換算でスパッタリング速度80nm/min)
また、鉄元素については、以下に示す条件で蛍光X線分析を行い、検量線法により被膜中鉄元素含有量(g/m)を測定した。更に、得られた値を用い、上記XPS分析で得られた鉄元素以外の元素含有率(原子%)および膜厚測定結果から、鉄元素含有率(原子%)を見積もった。
<蛍光X線分析>
・装置;ZSX−Primus(リガク製)
・励起;Rh−Kα、30kV−100mA
・測定面積;10mmφ
【0111】
図5より、実施例1で得られた下地被膜は、測定深さにおいて、フッ素元素、および酸化剤(D)由来の鉄元素は検出限界以下(シグナル対ノイズ比が2以下)であり、また、蛍光X線分析を用いた被膜中鉄含有量測定についても検出限界(0.003g/m)以下であることから、水溶性の有機樹脂(A)であるアクリロニトリルブタジエンスチレンゴム由来の炭素元素、窒素元素、と、被処理金属基材由来の銅元素で構成されている事が確認された。銅元素含有率は、スパッタリング時間1secの最表面で6原子%であり、それ以降は1〜2原子%であった。
【0112】
また、図6より、比較例5で得られた下地被膜は、測定深さにおいて、実施例1と同じく、水溶性の有機樹脂(A)であるアクリロニトリルブタジエンスチレンゴム由来の炭素元素、窒素元素と、被処理金属基材由来の銅元素が検出された。それに加え、酸化剤(D)由来の鉄原子がスパッタリング時間1secの最表面でのみ検出され、その含有率は1.5原子%であった。また、蛍光X線分析を用いた手法により得られた被膜中鉄含有量は、0.02g/m2であった。鉄元素含有率を見積もった所、0.5原子%であった。銅元素含有率は、スパッタリング時間1secの最表面で14原子%であり、それ以降は3〜4原子%であった。
【0113】
(3)接着性
実施例1〜3、5および比較例1〜6で得られた下地被膜付き銅材料に、厚さ約100μmのガラス布基材エポキシ樹脂シート(日立化成工業(株)製、商品名:GEA−679N)を積層し、さらにガラス布基材エポキシ樹脂シートの裏面に銅箔の粗化面を向かい合わせて積層したものを加熱温度180℃、圧力45kgf/cm2、加熱時間1時間の条件でプレス接着し、金属材料−エポキシ樹脂の積層部材を得た。
【0114】
<1次接着性試験>
この積層部材を1cm幅に切断し、ガラス布基材エポキシ樹脂シートを固定した状態で、一部接着していない下地被膜付き金属材料の部分を垂直方向に引っ張る90度はく離試験を行い、はく離強度を測定した。
【0115】
<耐熱2次接着性試験>
この積層部材を1cm幅に切断し、オーブンで275℃、1分間加熱し、その後、室温にて30分間放置した後に、1次接着性と同様の90度はく離試験を行い、はく離強度を測定した。
【0116】
<耐湿2次接着性試験>
この積層部材を1cm幅に切断し、オーブンで121℃、2気圧、100%相対湿度条件下、1時間加熱し、その後、室温まで温度を下げ、水気を除いた後に1次接着性と同様の90度はく離試験を行い、はく離強度を測定した。
【0117】
<耐酸2次接着性試験>
この積層部材を1cm幅に切断し、25℃の1M塩酸水溶液中に15分間浸漬し、その後、常温にて30秒間水洗し、水気を除いた後に、1次接着性と同様の90度はく離試験を行い、はく離強度を測定した。
【0118】
<耐アルカリ2次接着性試験>
この積層部材を1cm幅に切断し、25℃の1M水酸化ナトリウム水溶液中に15分間浸漬し、その後、常温にて30秒間水洗し、水気を除いた後に、1次接着性と同様の90度はく離試験を行い、はく離強度を測定した。
【0119】
〔評価基準〕
はく離強度が0.4kgf/cm以下であるものを接着性に劣るものとして評価した。得られた結果を以下の表1に示す。
【表1】

【0120】
表1から明らかなように、本発明の下地処理剤を用いて本発明の下地処理方法により得られた本発明の下地被膜付き銅材料(実施例1〜3、5)は、エポキシ樹脂と積層して本発明の積層部材とした場合に、銅材料とエポキシ樹脂との間で優れた接着性、特に高温下での優れた接着性を示すことが確認された。
【0121】
それに対し、酸化剤として鉄(III)イオンの代わりに過酸化水素を用いた比較例1では、1次接着性、耐湿2次接着性、耐酸2次接着性、耐アルカリ2次接着性が良好であったものの耐熱2次接着性に劣る事が確認された。
【0122】
アニオン性界面活性剤(B)を含まない比較例2、被処理材にNi箔を用いた比較例3、酸(C)を添加しない比較例4では被膜が析出せず、何れの接着強度においても劣る事が確認された。
【0123】
水洗を行わず被膜中に鉄元素の含有が確認された比較例5では、何れの接着強度においても劣る事が確認された。
【0124】
プリント配線基板の接着下地処理として広く用いられている黒化処理を実施した比較例6では、1次接着性、耐アルカリ2次接着性が良好であったものの、耐熱2次、耐湿2次、耐酸2次接着性に劣る事が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の下地処理剤は、背景技術において記載したプリント配線板等における銅材料と樹脂との接着だけでなく、種々の銅材料上にコーティング法、ラミネート接着法、射出成形接着法等の手法により熱硬化性樹脂を形成させる際の下地処理剤としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機樹脂(A)、アニオン界面活性剤(B)、酸(C)および酸化剤(D)として鉄(III)イオンを含有するpHが3以下である水性液からなる水性下地処理剤に銅材料を接触させる適用工程と、前記適用工程により銅材料上に形成された下地処理被膜を水洗する水洗工程と、前記水洗工程後に乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とする銅材料の下地処理方法。
【請求項2】
有機樹脂(A)がエラストマーである、請求項1記載の下地処理方法。
【請求項3】
アニオン系界面活性剤(B)が、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩から選ばれる1種以上で合計の含有量が500〜3000ppmである、請求項1または2記載の下地処理方法。
【請求項4】
25℃、イオン強度0.5Mでの鉄(III)イオンとの第一錯体安定度定数β1-Fe(III)が5以上である陰イオン供給源(E)を更に含有する請求項1〜3のいずれか一項記載の下地処理方法。
【請求項5】
水性下地処理剤が、1〜1000ppmの銅イオン(F)を更に含有する、請求項1〜4のいずれか一項記載の下地処理方法。
【請求項6】
銅材料がプリント配線基板用材料である、請求項1〜5のいずれか一項記載の下地処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載の下地処理方法により得られる下地処理被膜付き銅材料。
【請求項8】
下地処理皮膜における銅元素の割合が0.1〜10原子%であり、下地処理皮膜における鉄元素含有量が0.003g/m以下である、請求項7記載の下地処理被膜付き銅材料。
【請求項9】
下地処理前の銅材料表面粗さ(Ra)に対する下地処理後の銅材料表面粗さ(Ra)の変化ΔRaが0.5μm以下である、請求項7または8記載の下地処理被膜付き銅材料。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項記載の下地処理被膜付き銅材料と、下地処理被膜上に設けられた樹脂層とを有する、積層部材。
【請求項11】
銅配線回路が形成された絶縁樹脂層において、銅回路表面にのみ請求項7〜9のいずれか一項記載の下地処理被膜が形成され、上記下地処理被膜表面および銅配線回路が形成されていない上記絶縁樹脂層表面に、絶縁樹脂層が形成されている構造を1〜100層有するプリント配線基板。
【請求項12】
有機樹脂(A)、アニオン界面活性剤(B)、酸(C)および酸化剤(D)として鉄(III)イオンを含有するpHが3以下である水性液であることを特徴とする、銅材料用水性下地処理剤。
【請求項13】
有機樹脂(A)がエラストマーである、請求項12記載の銅材料用水性下地処理剤。
【請求項14】
アニオン系界面活性剤(B)が、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩から選ばれる1種以上で合計の含有量が500〜3000ppmである、請求項12または13記載の銅材料用水性下地処理剤。
【請求項15】
25℃、イオン強度0.5Mでの鉄(III)イオンとの第一錯体安定度定数β1-Fe(III)が5以上である陰イオン供給源(E)を更に含有する請求項12〜14のいずれか一項の銅材料用水性下地処理剤。
【請求項16】
1〜1000ppmの銅イオン(F)を更に含有する、請求項12〜15のいずれか一項記載の銅材料用水性下地処理剤。
【請求項17】
プリント配線基板用材料用である、請求項12〜16のいずれか一項記載の銅材料用水性下地処理剤。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−105989(P2011−105989A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261794(P2009−261794)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】