説明

銅溶接方法及び銅溶接装置

【課題】銅の溶接時に溶接部分に形成されるブローホールの数を抑制することにより溶接強度を高めること。
【解決手段】不活性ガスが充填された不活性ガスボンベ11と、この不活性ガスボンベ11から配管16を介して取り入れられた不活性ガスを被溶接物であるステータ21の銅製の導体セグメントの端部21aへ噴射して当該端部21aの溶接部分を不活性ガスで覆うガス噴射ノズル14a及び、溶接部分に溶接のための放電を行う電極14bを有するトーチ14と、電極14bに放電が行われるように電力を供給する溶接電源13とを備えて構成において、不活性ガスボンベ11とガス噴射ノズル14aとの間の配管16に、当該不活性ガスボンベ11からの不活性ガスに含まれる水分を吸湿し、この吸湿後の不活性ガスを当該ガス噴射ノズル14aへ送出する脱湿度装置12を介挿する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製の導体セグメントの端部等の銅を溶接する銅溶接方法及び銅溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、JIS規格で酸素含有率が10ppm以上の酸化銅(タフピッチ銅)を溶接する場合、溶接時の熱による銅の酸化防止の目的でアルゴンガス等の不活性ガスを溶接部分に噴射して覆い、これによって溶接部分への酸素を遮断することが行われている。この種の溶接手法は例えば特許文献1において、回転電機におけるステータの銅製の導体セグメントの端部を溶接する場合に適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−54263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の特許文献1などに適用されている従来の銅溶接方法においては、酸化銅の溶接部分を不活性ガスで覆って溶接するが、不活性ガスの中に水分が入っていた場合、その水分が溶接熱で分解して水素と酸素とに分離する。この内の水素が溶接部分の溶銅の中に巻き込まれると、酸化銅(CuO)の酸素(O)は水素(H)に結合し易いので酸素と水素が結合して水(HO)と成り、この水が溶接熱で気化して水蒸気になる。この水蒸気が溶銅の凝固までに排出されなかった場合に空洞孔のブローホールとなる。
【0005】
また、酸化銅の溶接部分に油などの有機物が付着していた場合、有機物は水素、酸素、炭素で構成されているので、これらが熱分解され、炭素が発生する。この炭素(C)が溶銅中の酸素(O)と結合して二酸化炭素(Co)となって蒸発し、ブローホールができる。これらのように酸化銅の溶接部分に多数のブローホールが形成された場合、溶接強度が弱くなるという問題がある。
【0006】
その酸化銅へのブローホールの発生メカニズムを図9(a)〜(f)の模式図を参照して説明する。まず(a)に示すように、タングステン製等の非消耗電極1と銅の溶融池4との間にアーク3が発生しているとする。このアーク3を発生する電極1の発生部を、電極1の周囲から放射されるアルゴンガス等のシールドガス2で空気から遮蔽している。シールドガス2には僅かな水分が含まれており、また空気中の水分も僅かにシールドガス2の遮蔽内に混入する。これらの水分がアーク3によって分解されて水素5が生成され、この水素5が溶融池4に吸収される。
【0007】
この吸収によって(b)に示すように、溶融池4内で水素5が気泡5aを生成する。次に、(c)に示すように、溶融池4の底部が符号6で示す凝固を開始する。水素5は固相になると液相の時よりも溶解度が小さくなるために、(d)に示すように凝固境界6aで水素の気泡5aが液相に放出されて、溶融池4内を浮上し外部に放出される。次に、(e)に示すように、溶融池4の凝固6が進行して外部への放出が間に合わなかった気泡5aが残留して(f)に示すようにブローホール7になる。なお、(f)では溶融池4の凝固が完了し、その内部にブローホール7が形成されている様子を示す。
【0008】
ところで、図10のアルミニウムAlや銅Cu等の各種金属原子のモル分率と温度(K)との関係図に線L3で示すように、アルミニウム(又はアルミニウム合金)は凝固する際、急激に水素溶解度が著しく低下する。これにより発生する水素ガスがブローホールになることが知られている。一方、線L4で示すように、銅の場合は凝固に際し水素溶解度の低下が小さいため、水素ガスの発生によるブローホールは問題とならない。
【0009】
しかし、酸素を含む銅(酸化銅)の場合は、上述のように溶銅中に融解した水素(H)又は炭素(C)が酸化銅(CuO)の酸素(O)と結合して発生した水蒸気(HO)又は、二酸化炭素(Co)がブローホールとなり溶接強度が低下するという問題となる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、銅の溶接時に溶接部分に形成されるブローホールを抑制することにより溶接強度を高めることができる銅溶接方法及び銅溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、不活性ガスを被溶接物である銅へ噴射して当該銅の溶接部分を不活性ガスで覆いつつ、前記溶接部分に溶接のための放電を行う銅溶接方法において、前記溶接部分を覆う不活性ガスは、前記不活性ガスに含まれる水分を除去する水分除去工程を経たものであることを特徴とする。
【0012】
この方法によれば、ガス噴射手段から銅の溶接部分に噴射される不活性ガス中の水分が除去されているので、その除去後に水分が残っていたとしても、この残った水分が溶接熱で水素と酸素とに分離された際に、分離された水素量も減少する。このため、溶接部分の酸化銅に含まれる酸素に、分離水素が結合して水となる水量も減少するので、この水が溶接熱で気化して形成されるブローホールも減少する。従って、銅の溶接時に溶接部分に形成されるブローホールを抑制することができるので、溶接強度を高めることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記水分除去工程は、前記不活性ガスから除湿するものであることを特徴とする。
【0014】
この方法によれば、ガス噴射手段から銅の溶接部分に噴射される不活性ガス中の水分が除湿されるので、上記請求項1と同様の作用効果を得ることが出来る。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記水分除去工程を経た不活性ガスに含まれる水分量を検出する水分量検出工程を有することを特徴とする。
【0016】
この方法によれば、水分除去工程を経て銅の溶接部分に噴射される不活性ガス中の水分を検出するようにしたので、その不活性ガス中の水分が、所定の溶接強度となるブローホール数に抑制できる量とすることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記水分除去工程後の不活性ガスは、不活性ガスに含まれる水分量が200mg/m以下の不活性ガスであることを特徴とする。
【0018】
この方法によれば、銅の溶接部分に噴射される不活性ガス中の水分量が200mg/m以下となる。この200mg/m以下の含有水分量では、溶接時に溶接部分に形成されるブローホール率が14%以下となる。溶接強度を被溶接物に必要な強度に保持できるブローホール率は約15%以下であるため、ブローホール率が14%以下となれば、溶接強度を必要な強度に保持することができる。更に説明すると、図8の溶接強度と含有水分量との関係図に示すように、酸素含有量10ppm以上の銅の溶接においては、不活性ガス中の水分が縦破線L10で示すように200mg/mを超えると溶接強度が著しく低下する。従って、不活性ガスに含まれる水分量を200mg/m以下とするのがよい。
【0019】
請求項5に記載の発明は、前記水分除去工程後の不活性ガスは、不活性ガスに含まれる水素量が22.2mg/m以下の不活性ガスであることを特徴とする。
【0020】
この方法によれば、銅の溶接部分に噴射される不活性ガス中の水素量が22.2mg/m以下となる。この22.2mg/m以下の含有水素量では、溶接時に溶接部分に形成されるブローホール率が14%以下となるので、溶接強度を必要な強度に保持することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、前記不活性ガスは、アルゴンガス、ヘリュウムガス、窒素ガスの何れか1つ又はそれらを任意に組み合わせたものであることを特徴とする。
【0022】
この方法によれば、アルゴンガス、ヘリュウムガス、窒素ガスの何れも溶接時に酸化銅の元素と結合してブローホールの原因となるガスではないので、ガス自体がブローホールの原因となることが無くなる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、前記溶接を実施する前に、被溶接物である銅の表面に付着した有機物を清浄する清浄工程を有することを特徴とする。
【0024】
この方法によれば、溶接部分に油などの有機物が付着していた場合、その有機物が熱によって分解されて除去される。この除去される有機物は水素、酸素、炭素で構成されているので、溶接部分に有機物が付着した状態で溶接を行えば、水素、酸素、炭素が熱分解され、炭素が発生し、この炭素が溶銅中の酸素と結合して二酸化炭素となって蒸発し、ブローホールができる。しかし、本発明では、上記のように溶接部分から有機物を除去するので、二酸化炭素の発生によりブローホールが形成されることが略無くなる。
【0025】
請求項8に記載の発明は、前記清浄工程において、前記銅の溶接が行なわれない熱量となるように前記溶接部分に熱を供給することで、被溶接物である銅の表面に付着した有機物を清浄する工程を有することを特徴とする。
【0026】
この方法によれば、溶接部分への銅の溶接が行なわれない熱量となるので、溶接部分に油などの有機物が付着していた場合、その有機物が熱によって分解されて除去される。従って、二酸化炭素の発生によりブローホールが形成されることが略無くなる。
【0027】
請求項9に記載の発明は、前記溶接の強度を必要な強度に保持可能なブローホール率とするように定められた水素濃度域で電源が電極に溶接のための電力を供給し、溶接が行われることを特徴とする。
【0028】
この方法によれば、電極への電力供給が、溶接強度を必要強度とするブローホール率となる水素濃度域で行われるので、不要なブローホールが形成されることが無くなる。
【0029】
請求項10に記載の発明は、前記銅は、酸素含有率が10ppm以上のものを含む銅であることを特徴とする。
【0030】
この方法によれば、酸素含有率が10ppm以上のものを含む銅、即ちタフピッチ銅においては、特にCuOの酸素(O)が水素(H)に結合し易いので酸素と水素が結合して水(HO)と成り、この水が水蒸気となってブローホールとなり易かった。しかし、そのようなタフピッチ銅であっても、上記請求項1〜9に記述したようにブローホールを形成し難くすることが出来る。
【0031】
請求項11に記載の発明は、不活性ガスが充填されたガス貯蔵手段と、このガス貯蔵手段から配管を介して取り入れられた不活性ガスを被溶接物である銅へ噴射して当該銅の溶接部分を不活性ガスで覆うガス噴射手段と、前記溶接部分に溶接のための放電を行う電極及び当該電極に放電が行われるように電力を供給する電源から成る溶接手段とを有する銅溶接装置において、前記ガス貯蔵手段と前記ガス噴射手段との間の配管に、当該ガス貯蔵手段からの不活性ガスに含まれる水分を吸湿し、この吸湿後の不活性ガスを当該ガス噴射手段へ送出する脱湿度手段を介挿したことを特徴とする。
【0032】
この構成によれば、ガス噴射手段から銅の溶接部分に噴射される不活性ガス中の水分が吸湿により減少しているので、その減少水分が溶接熱で水素と酸素とに分離された際に、分離された水素量も減少する。このため、溶接部分の酸化銅に含まれる酸素に、分離水素が結合して水となる水量も減少するので、この水が溶接熱で気化して形成されるブローホールの数も減少する。従って、銅の溶接時に溶接部分に形成されるブローホールの数を抑制することができるので、溶接強度を高めることができる。
【0033】
請求項12に記載の発明は、前記ガス貯蔵手段と前記ガス噴射手段とを前記脱湿度手段を介して接続する配管の内面は、ゴム及び鉄に比べて水と親和性の低い材質であることを特徴とする。
【0034】
この構成によれば、配管中に水分が付着しないので、配管を通る不活性ガスにブローホールの原因となる水分が混入することが無くなる。
【0035】
請求項13に記載の発明は、前記溶接手段は、前記ガス噴射手段からの不活性ガスの噴射時における前記電源から前記電極に供給される電力を、供給初期時に前記銅の溶接が行なわれない熱量となるように供給し、この供給の所定時間後に当該銅の溶接が行われるように供給することを特徴とする。
【0036】
この構成によれば、電極への電力の供給初期時に、銅の溶接が行なわれない熱量となるように電力供給が行なわれるので、溶接部分に油などの有機物が付着していた場合、その有機物が熱によって分解されて除去される。この除去される有機物は水素、酸素、炭素で構成されているので、溶接部分に有機物が付着した状態で溶接を行えば、水素、酸素、炭素が熱分解され、炭素が発生し、この炭素が溶銅中の酸素と結合して二酸化炭素となって蒸発し、ブローホールができる。しかし、本発明では、上記のように溶接部分から有機物を除去するので、所定時間経過したその後の電力供給による溶接では、二酸化炭素の発生によりブローホールが形成されることが略無くなる。
【0037】
請求項14に記載の発明は、前記ガス噴射手段の不活性ガスの噴出口を密閉状態に塞ぐ閉塞手段を自在に移動するアクチュエータと、前記電源が前記電極に溶接のための電力供給を停止時に前記閉塞手段が前記噴出口を密閉状態に塞ぐように前記アクチュエータを制御し、前記電力供給が開始時に前記閉塞手段が前記噴出口から外れて開口するように前記アクチュエータを制御する第1の制御手段とを更に備えることを特徴とする。
【0038】
この構成によれば、溶接が停止した際にガス噴射手段の噴出口が閉塞手段で密閉状態に塞がれるので、ガス噴射手段から脱湿度手段を介したガス貯蔵手段までの配管の不活性ガス通路が外気と遮断状態となる。これによって、不活性ガス通路にブローホールの原因となる水分を含む空気が混入しないので、次に不活性ガス通路の先端(噴射口)を開口して不活性ガスを噴射し溶接を再開した場合でも、ブローホールの形成を抑制することができる。
【0039】
請求項15に記載の発明は、前記ガス噴射手段から噴射される不活性ガス中の水素を検知するセンサを有し、このセンサで検知された水素の濃度を計測する計測手段と、前記計測手段で計測された水素濃度が、前記銅の溶接時に溶接強度を必要な強度に保持可能なブローホール率とするように定められた基準値以下となった際に、前記電源が前記電極に溶接のための電力を供給するように制御し、当該基準値を超えた際に当該電力の供給を停止するように制御する第2の制御手段とを更に備えることを特徴とする。
【0040】
この構成によれば、水素濃度が基準値以下の場合にのみ被溶接物に溶接が行われるので、溶接部分のブローホール率を、溶接強度を必要な強度に保持可能なパーセンテージ以下とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る銅溶接装置の構成を示す図である。
【図2】ブローホール率と含有水分量との関係図である。
【図3】ブローホール率と含有水素量との関係図である。
【図4】ブローホール率と、含有水分量又は含有水素量との関係を数値で示した図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る銅溶接装置の構成を示す図である。
【図6】第2の実施形態に係る銅溶接装置においてトーチの不活性ガス噴出口をキャップで閉塞した状態を示す図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る銅溶接装置の構成を示す図である。
【図8】含有水分量と溶接強度との関係図である。
【図9】ブローホールの発生メカニズムの説明図である。
【図10】各種金属原子のモル分率と温度との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。但し、本明細書中の全図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適時省略する。
【0043】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る銅溶接装置の構成を示す図である。図1に示す銅溶接装置10は、アルゴンガス、ヘリュウムガス、窒素ガスの何れか1つ又はそれらを任意に組み合わせた不活性ガスが充填された不活性ガスボンベ(ガス貯蔵手段)11と、脱湿度装置(脱湿度手段)12と、溶接電源(電源)13と、細長い円筒形状を成し、内部にガス噴射ノズル(ガス噴射手段)14aが形成され、このガス噴射ノズル14aの中空部分の長手方向軸に細長い棒状の電極14bが配設されたトーチ14とを備えて構成されている。但し、銅溶接装置10によって溶接される被溶接物は、本例ではモータにおけるステータ21の酸化銅製の導体セグメントの端部21aであるとする。また、溶接電源13と電極14bとで溶接手段が構成されている。
【0044】
また、不活性ガスボンベ11のガス噴出口と、トーチ14のガス噴射ノズル14aのガス取入口とが、脱湿度装置12を介してフッ素系樹脂の配管16で接続され、溶接電源13とトーチ14の電極14bの一端とが導電ケーブル17で接続されている。つまり、不活性ガスボンベ11のガス噴出口から脱湿度装置12を介してガス噴射ノズル14aの先端のガス噴射口までの間は、密閉状態のガス通路となっている。
【0045】
脱湿度装置12は、シリカゲル等の吸湿材が内蔵されており、その吸湿材で不活性ガスボンベ11から配管16を通って送られてくる不活性ガス中の水分を所定量吸湿し、この所定量の水分が除去された不活性ガス(以降、水分除去不活性ガスと称す)を、配管16を介してトーチ14のガス噴射ノズル14aのガス取入口へ送出する。この送出された水分除去不活性ガスは、破線矢印18で示すようにガス噴射ノズル14aを通って先端からステータ21の導体セグメントの溶接部分である端部21aを覆う。この覆いによって溶接部分への酸素が遮断される。
【0046】
溶接電源13は、導電ケーブル17を介してトーチ14の電極14bに電力を供給する。この電力は、電極14bと、ステータ21の導体セグメントの端部21aとの間に、当該端部21aの溶接に必要な放電が行われるように供給される。
【0047】
つまり、ガス噴射ノズル14aの先端から噴射された水分除去不活性ガスで、ステータ21の導体セグメントの溶接部分である端部21aが覆われた状態で、電極14bからの放電によって溶接部分の端部21aの溶接が行われる。この溶接時に溶接部分を覆う水分除去不活性ガス中には水分が残っているので、その水分が溶接熱で水素と酸素とに分離され、この水素が溶接部分の酸化銅中の酸素に結合して水となり、この水が溶接熱で気化してブローホールが形成される。
【0048】
このブローホールが形成される率(ブローホール率)%は、図2に示すように、溶接部分を覆う不活性ガスに含有される水分量(含有水分量)mg/mとの関係が線分L1となり、図3に示すように、含有水素量mg/mとの関係が線分L2となる。更に、それらの関係を図4に数値で示した。
【0049】
ここで、従来のように多くのブローホールが形成されると酸化銅の溶接部分の強度が弱くなっていたが、その溶接強度を被溶接物(本例では、ステータ21の導体セグメントの端部21a)に必要な強度に保持できるブローホール率は約15%以下である。この約15%以下とするためには、図4に示すように、ブローホール率が14%の際に、含有水分量が200mg/mであり、含有水素量が22.2mg/mであることから、溶接部分を覆う不活性ガス中の含有水分量が200mg/m以下、又は含有水素量が22.2mg/m以下であればよい。
【0050】
従って、脱湿度装置12は、不活性ガスボンベ11からの不活性ガス中の水分を吸湿する際に、不活性ガス中の含有水分量が200mg/m以下、又は含有水素量が22.2mg/m以下となるように吸湿を行い、この吸湿後の水分除去不活性ガスをトーチ14のガス噴射ノズル14aへ送出する。
【0051】
このような第1の実施形態の銅溶接装置10は、不活性ガスが充填された不活性ガスボンベ11と、この不活性ガスボンベ11から配管16を介して取り入れられた不活性ガスを被溶接物であるステータ21の銅製の導体セグメントの端部21aへ噴射して当該端部21aの溶接部分を不活性ガスで覆うガス噴射ノズル14a及び、溶接部分に溶接のための放電を行う電極14bを有するトーチ14と、電極14bに放電が行われるように電力を供給する溶接電源13とを備えて構成されている。
【0052】
この構成において、本実施形態の特徴は、不活性ガスボンベ11とガス噴射ノズル14aとの間の配管16に、当該不活性ガスボンベ11からの不活性ガスに含まれる水分を吸湿し、この吸湿後の不活性ガスを当該ガス噴射ノズル14aへ送出する脱湿度装置12を介挿したことにある。
【0053】
これによって、ガス噴射ノズル14aからステータ21の導体セグメントの端部21aの溶接部分に噴射される不活性ガス中の水分が吸湿により減少しているので、その減少水分が溶接熱で水素と酸素とに分離された際に、分離された水素量も減少する。このため、溶接部分の酸化ステータ21の導体セグメントの端部21aに含まれる酸素に、分離水素が結合して水となる水量も減少するので、この水が溶接熱で気化して形成されるブローホールの数も減少する。従って、ステータ21の導体セグメントの端部21aの溶接時に溶接部分に形成されるブローホールの数を抑制することができるので、溶接強度を高めることができる。
【0054】
また、脱湿度装置12が、吸湿後の不活性ガスに含まれる水分量が200mg/m以下となるように、不活性ガスボンベ11からの不活性ガスに含まれる水分を吸湿するようにした。
【0055】
これによって、ガス噴射ノズル14aからステータ21の導体セグメントの端部21aの溶接部分に噴射される不活性ガス中の水分量が200mg/m以下となる。この200mg/m以下の含有水分量では、溶接時に溶接部分に形成されるブローホール率が14%以下となる。溶接強度を被溶接物に必要な強度に保持できるブローホール率は約15%以下であるため、ブローホール率が14%以下となれば、溶接強度を必要な強度に保持することができる。
【0056】
この溶接強度と含有水分量との関係について、更に図8を参照して説明する。図8は縦軸を溶接強度(%)、横軸を含有水分量(mg/m)として双方の関係を表した図である。但し、縦軸の溶接強度は正常な場合を100%とした場合の割合で示してある。この図8に示すように、酸素含有量10ppm以上の銅の溶接においては、不活性ガス中の水分が縦破線L10で示すように200mg/mを超えると溶接強度が著しく低下する。このため、上記のように、不活性ガスに含まれる水分を脱湿度装置12で吸湿して除去するようにした。
【0057】
また、脱湿度装置12が、吸湿後の不活性ガスに含まれる水素量が22.2mg/m以下となるように、不活性ガスボンベ11からの不活性ガスに含まれる水分を吸湿するようにしてもよい。
【0058】
これによって、ガス噴射ノズル14aからステータ21の導体セグメントの端部21aの溶接部分に噴射される不活性ガス中の水素量が22.2mg/m以下となる。この22.2mg/m以下の含有水素量では、溶接時に溶接部分に形成されるブローホール率が14%以下となるので、溶接強度を必要な強度に保持することができる。
【0059】
また、上記の不活性ガスは、アルゴンガス、ヘリュウムガス、窒素ガスの何れか1つ又はそれらを任意に組み合わせたものである。
【0060】
これによって、アルゴンガス、ヘリュウムガス、窒素ガスの何れも、溶接時に被溶接物である銅製の端部21aの元素と結合してブローホールの原因となるガスではないので、ガス自体がブローホールの原因となることが無くなる。
【0061】
また、不活性ガスボンベ11とガス噴射ノズル14aとを脱湿度装置12を介して接続する配管16は、フッ素系樹脂製の他に、ステンレス系や銅系のゴム及び鉄に比べて水と親和性の低い材質を用いてもよい。
【0062】
このような材質を用いれば、配管16中に水分が付着しないので、配管16を通る不活性ガスにブローホールの原因となる水分が混入することが無くなる。
【0063】
また、トーチ14によるステータ21の導体セグメントの端部21aへの溶接は、電気の放電現象(アーク放電)を利用し、同じ金属同士をつなぎ合わせるアーク溶接と、レーザ素子に光を当てることにより誘導放出現象(光励起)を起こし光を放出して溶接を行うレーザ溶接と、高真空中で高電圧にて加速され、かつ集束・制御された極めてパワー密度の高い電子ビームを利用して溶融溶接を行なう電子溶接(電子ビーム溶接)との何れか1つであればよい。これら何れか1つの溶接時においても、ブローホールの形成が低減する。
【0064】
また、ガス噴射手段からの不活性ガスの噴射時における溶接電源13から電極14bに供給される電力を、供給初期時に被溶接物であるステータ21の導体セグメントの端部21aの溶接が行なわれない熱量となるように供給し、この供給の所定時間後に当該銅の溶接が行われるように供給してもよい。
【0065】
これによって、電極14bへの電力の供給初期時に、被溶接物である銅の溶接が行なわれない熱量となるように電力供給が行なわれるので、溶接部分に油などの有機物が付着していた場合、その有機物が熱によって分解されて除去される。この除去される有機物は水素、酸素、炭素で構成されているので、溶接部分に有機物が付着した状態で溶接を行えば、水素、酸素、炭素が熱分解され、炭素が発生し、この炭素が溶銅中の酸素と結合して二酸化炭素となって蒸発し、ブローホールができる。しかし、本実施形態では、上記のように溶接部分から有機物を除去するので、所定時間経過したその後の電力供給による溶接では、二酸化炭素の発生によりブローホールが形成されることが略無くなる。
【0066】
また、溶接を実施する前に、被溶接物である銅の表面に付着した皮膜カスや油成分を含む有機物を清浄する清浄工程を有してもよい。これによって、溶接部分に油などの有機物が付着していた場合、その有機物が熱によって分解されて除去されるので、ブローホールが形成されることが略無くなる。
【0067】
また、上記の清浄工程において、銅の溶接が行なわれない熱量となるように溶接部分に熱を供給することで、被溶接物である銅の表面に付着した皮膜カスや油成分等を清浄する工程を有してもよい。これによって、溶接部分への銅の溶接が行なわれない熱量となるので、溶接部分に油などの有機物が付着していた場合、その有機物が熱によって分解されて除去される。従って、ブローホールが形成されることが略無くなる。
【0068】
また、溶接の強度を必要な強度に保持可能なブローホール率とするように定められた水素濃度域で電源が電極14bに溶接のための電力を供給し、溶接が行われるようにしてもよい。これによって、電極14bへの電力供給が、溶接強度を必要強度とするブローホール率となる水素濃度域で行われるので、不要なブローホールが形成されることが無くなる。
【0069】
また、被溶接物である銅製の端部21aは、酸素含有率が10ppm以上のものを含む銅であってもよい。酸素含有率が10ppm以上のものを含む銅、即ちタフピッチ銅においては、特にCuOの酸素(O)が水素(H)に結合し易いので酸素と水素が結合して水(HO)と成り、この水が水蒸気となってブローホールとなり易かった。しかし、そのようなタフピッチ銅であっても、上述の作用効果で記述したようにブローホールを形成し難くすることが出来る。
【0070】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態に係る銅溶接装置の構成を示す図である。第2の実施形態の銅溶接装置30が、第1の実施形態の銅溶接装置10と異なる点は、銅溶接装置10の構成要素に加え、キャップ(閉塞手段)32を自在に移動するアクチュエータ33と、制御部(第1の制御手段)34とを備えたことにある。
【0071】
制御部34は、溶接電源13が電極14bに溶接のための電力(溶接電力とも称す)を供給している場合に、キャップ32がトーチ14のガス噴射ノズル14aの先端開口から外れるようにアクチュエータ33を制御し、溶接電源13が溶接電力の供給を停止した場合に、図6に示すように、キャップ32がトーチ14の先端開口(噴出口)を密閉状態に塞ぐようにアクチュエータ33を制御する。そして、再び溶接電力の供給が開始された場合に、キャップ32がトーチ14の先端開口から外れるようにアクチュエータ33を制御する。
【0072】
このように制御すれば、トーチ14による溶接が停止した際にトーチ14の先端開口が密閉状態に塞がれるので、ガス噴射ノズル14a及び当該ガス噴射ノズル14aから脱湿度装置12を介した不活性ガスボンベ11までの配管16の不活性ガス通路が外気と遮断状態となる。これによって、不活性ガス通路にブローホールの原因となる水分を含む空気が混入しないので、次に不活性ガス通路の先端を開口して不活性ガスを噴射し溶接を再開した場合でも、ブローホールの形成を抑制することができる。
【0073】
(第3の実施形態)
図7は、本発明の第3の実施形態に係る銅溶接装置の構成を示す図である。第3の実施形態の銅溶接装置40が、第1の実施形態の銅溶接装置10と異なる点は、銅溶接装置10の構成要素に加え、ガス噴射ノズル14aから噴射される不活性ガス中の水素を検知するセンサ42を備え、このセンサ42で検知された水素の濃度を計測する計測部(計測手段)43と、この計測部43で計測された水素濃度が予め定められた基準値以下となった際に溶接電源13が電極14bに溶接電力を供給するように制御し、基準値を超えた際に溶接電力の供給を停止するように制御する制御部(第2の制御手段)44とを備えたことにある。
【0074】
但し、水素濃度の基準値は、ガス噴射ノズル14aから噴射される不活性ガス中の水素量が、被溶接物であるステータ21の導体セグメントの端部21aの溶接時に、溶接強度を必要な強度に保持可能なブローホール率となるようにする値である。例えば、溶接強度を必要な強度に保持可能なブローホール率は約15%以下なので、水素濃度の基準値を、ブローホール率を14%以下とする22.2mg/m以下の含有水素量となるような値とすればよい。
【0075】
このような第3の実施形態の銅溶接装置40によれば、水素濃度が基準値以下の場合にのみ被溶接物に溶接が行われるので、溶接部分のブローホール率を、溶接強度を必要な強度に保持可能な約15%以下とすることができる。
【0076】
また、センサ42を有する計測部43と、制御部44とは、図5に示した第2の実施形態の銅溶接装置30の構成に加えてもよい。
【符号の説明】
【0077】
10,30,40 銅溶接装置
11 不活性ガスボンベ
12 脱湿度装置
13 溶接電源
14 トーチ
14a ガス噴射ノズル
14b 電極
16 配管
17 導電ケーブル
18 不活性ガス
21 ステータ
21a 酸化銅製の導体セグメントの端部
32 キャップ
33 アクチュエータ
34,44 制御部
42 センサ
43 計測部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスを被溶接物である銅へ噴射して当該銅の溶接部分を不活性ガスで覆いつつ、前記溶接部分に溶接のための放電を行う銅溶接方法において、
前記溶接部分を覆う不活性ガスは、前記不活性ガスに含まれる水分を除去する水分除去工程を経たものであることを特徴とする銅溶接方法。
【請求項2】
前記水分除去工程は、前記不活性ガスから除湿するものであることを特徴とする請求項1に記載の銅溶接方法。
【請求項3】
前記水分除去工程を経た不活性ガスに含まれる水分量を検出する水分量検出工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の銅溶接方法。
【請求項4】
前記水分除去工程後の不活性ガスは、不活性ガスに含まれる水分量が200mg/m以下の不活性ガスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅溶接方法。
【請求項5】
前記水分除去工程後の不活性ガスは、不活性ガスに含まれる水素量が22.2mg/m以下の不活性ガスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の銅溶接方法。
【請求項6】
前記不活性ガスは、アルゴンガス、ヘリュウムガス、窒素ガスの何れか1つ又はそれらを任意に組み合わせたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の銅溶接方法。
【請求項7】
前記溶接を実施する前に、被溶接物である銅の表面に付着した有機物を清浄する清浄工程を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の銅溶接方法。
【請求項8】
前記清浄工程において、前記銅の溶接が行なわれない熱量となるように前記溶接部分に熱を供給することで、被溶接物である銅の表面に付着した有機物を清浄する工程を有することを特徴とする請求項7に記載の銅溶接方法。
【請求項9】
前記溶接の強度を必要な強度に保持可能なブローホール率とするように定められた水素濃度域で電源が電極に溶接のための電力を供給し、溶接が行われることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項10】
前記銅は、酸素含有率が10ppm以上のものを含む銅であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の銅溶接方法。
【請求項11】
不活性ガスが充填されたガス貯蔵手段と、このガス貯蔵手段から配管を介して取り入れられた不活性ガスを被溶接物である銅へ噴射して当該銅の溶接部分を不活性ガスで覆うガス噴射手段と、前記溶接部分に溶接のための放電を行う電極及び当該電極に放電が行われるように電力を供給する電源から成る溶接手段とを有する銅溶接装置において、
前記ガス貯蔵手段と前記ガス噴射手段との間の配管に、当該ガス貯蔵手段からの不活性ガスに含まれる水分を吸湿し、この吸湿後の不活性ガスを当該ガス噴射手段へ送出する脱湿度手段を介挿したことを特徴とする銅溶接装置。
【請求項12】
前記ガス貯蔵手段と前記ガス噴射手段とを前記脱湿度手段を介して接続する配管の内面は、ゴム及び鉄に比べて水と親和性の低い材質であることを特徴とする請求項11に記載の銅溶接装置。
【請求項13】
前記溶接手段は、前記ガス噴射手段からの不活性ガスの噴射時における前記電源から前記電極に供給される電力を、供給初期時に前記銅の溶接が行なわれない熱量となるように供給し、この供給の所定時間後に当該銅の溶接が行われるように供給することを特徴とする請求項11又は12に記載の銅溶接装置。
【請求項14】
前記ガス噴射手段の不活性ガスの噴出口を密閉状態に塞ぐ閉塞手段を自在に移動するアクチュエータと、
前記電源が前記電極に溶接のための電力供給を停止時に前記閉塞手段が前記噴出口を密閉状態に塞ぐように前記アクチュエータを制御し、前記電力供給が開始時に前記閉塞手段が前記噴出口から外れて開口するように前記アクチュエータを制御する第1の制御手段とを更に備えることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の銅溶接装置。
【請求項15】
前記ガス噴射手段から噴射される不活性ガス中の水素を検知するセンサを有し、このセンサで検知された水素の濃度を計測する計測手段と、
前記計測手段で計測された水素濃度が、前記銅の溶接時に溶接強度を必要な強度に保持可能なブローホール率とするように定められた基準値以下となった際に、前記電源が前記電極に溶接のための電力を供給するように制御し、当該基準値を超えた際に当該電力の供給を停止するように制御する第2の制御手段とを更に備えることを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載の銅溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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