銅精鉱の処理方法
【課題】 Fe品位の低い銅精鉱を効率良くかつ経済的に回収することができる銅精鉱の処理方法を提供する。
【解決手段】 銅精鉱の処理方法は、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする精鉱粒子を硫黄(S)と反応させることによって、銅藍(CuS)および黄鉄鉱(FeS2)を主体とする硫化精鉱粒子に変換する硫化変換工程と、硫化精鉱粒子を50%粒子径が30μm〜50μmになるように摩鉱処理する摩鉱工程と、摩鉱工程で得られる摩鉱精鉱粒子に対して粒子径差と比重差とに基づいて選別処理することによって、Cu品位の高い細粒とFe品位の高い粗粒とに分離する分離工程と、を含む。
【解決手段】 銅精鉱の処理方法は、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする精鉱粒子を硫黄(S)と反応させることによって、銅藍(CuS)および黄鉄鉱(FeS2)を主体とする硫化精鉱粒子に変換する硫化変換工程と、硫化精鉱粒子を50%粒子径が30μm〜50μmになるように摩鉱処理する摩鉱工程と、摩鉱工程で得られる摩鉱精鉱粒子に対して粒子径差と比重差とに基づいて選別処理することによって、Cu品位の高い細粒とFe品位の高い粗粒とに分離する分離工程と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅精鉱の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅鉱山で産出される銅鉱石は、主に硫化鉱である。硫化鉱を大別すると、輝銅鉱(Cu2S)、銅藍(CuS)などの鉱物を主体とした比較的高銅品位の二次硫化鉱と、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする初生硫化鉱とに分けられる。近年、銅鉱山で採取される銅鉱石は、後者主体となっている。その結果、鉄、硫黄などの不純物が増加し、銅品位は低下傾向にある。このことは、鉱山で銅製錬向けに生産する銅精鉱の銅品位の低下、鉄分、硫黄分などの増加などの要因となる。
【0003】
一般に、銅精鉱の製錬を経て、銅は製品電気銅として、鉄分はスラグとして、硫黄分は硫酸として回収される。近年の銅精鉱の低品位化は、銅製錬プロセスにおける製造コストの上昇を招く。さらに国内の銅製錬業においては、銅製錬で生じるスラグおよび硫酸の需給悪化に見舞われ、多くが採算の合わない輸出に向けられており、事業収益を圧迫している。今後さらに銅精鉱の銅品位低下が進めば、これらスラグおよび硫酸の問題が顕著となり、事業存続にも影響を及ぼすと考えられる。
【0004】
これらの問題を解決する一手段として、銅精鉱の予備処理法の応用がある。予備処理法とは、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする銅精鉱粒子を硫黄(S)とともに所定の温度で反応させ、銅藍(CuS)と黄鉄鉱(FeS2)とで構成される精鉱粒子に硫化変換する処理のことである。この硫化変換反応は、浸出が困難な黄銅鉱を比較的浸出が容易な形態にするという意味で湿式製錬の前処理法として知られているが、予備処理から湿式製錬までのトータルコストの観点から現状普及していないプロセスである。
【0005】
上記問題を解決する他の手段として、硫黄による硫化変換反応後の銅藍と黄鉄鉱とを選別し、銅藍主体の高銅品位精鉱として乾式製錬に供する方法がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、銅藍と黄鉄鉱との選別において、静電的方法、重力的方法、磁気的方法、風力的方法、粒径的方法、ハイドロサイクロン法、浮遊選鉱あるいはこれらの組み合わせにより行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/074805号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、銅藍と黄鉄鉱とを選別する具体的な方法については記述されていない。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑み、Fe品位の低い銅精鉱を効率良くかつ経済的に回収することができる銅精鉱の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る銅精鉱の処理方法は、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする精鉱粒子を硫黄(S)と反応させることによって、銅藍(CuS)および黄鉄鉱(FeS2)を主体とする硫化精鉱粒子に変換する硫化変換工程と、前記硫化精鉱粒子を、50%粒子径が30μm〜50μmになるように摩鉱処理する摩鉱工程と、前記摩鉱工程で得られる摩鉱精鉱粒子に対して粒子径差と比重差とに基づいて選別処理することによって、Cu品位の高い細粒とFe品位の高い粗粒とに分離する分離工程と、を含むことを特徴とするものである。本発明に係る銅精鉱の処理方法においては、Fe品位の低い銅精鉱を効率良くかつ経済的に回収することができる。
【0010】
前記硫化変換工程は、400℃〜450℃で行ってもよい。前記分離工程において、50%粒子径が5μm〜15μmの細粒と、50%粒子径が35μm〜55μmの粗粒とに分離してもよい。前記摩鉱工程において、湿式粉砕装置または乾式粉砕装置を用いてもよい。前記摩鉱工程において、ボールミル、ジェットミル、アトリッションミル、またはチューブミル、あるいはこれらの組み合わせを用いてもよい。
【0011】
前記選別処理において、テーブル選別機、遠心式分級機、慣性式分級機、重力式分級機、あるいはこれらの組み合わせを用いてもよい。前記分離工程で得られた粗粒に対して、前記摩鉱工程および前記分離工程を再度実施してもよい。前記分離工程で得られた細粒および粗粒に対して、そのままあるいは摩鉱・粉砕してから浮遊選鉱に供してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Fe品位の低い銅精鉱を効率良くかつ経済的に回収することができる銅精鉱の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る銅精鉱の処理方法の一例を示す工程図である。
【図2】電子線マイクロアナライザで同定した銅藍および黄鉄鉱のマッピングにより得られた精鉱粒子である。
【図3】テーブル選別機の一例を示す模式図である。
【図4】実施例1に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。
【図5】XRDによる分析結果を示す図である。
【図6】摩鉱処理後の粒度分布を示す図である。
【図7】Cu品位の高い細粒の粒度分布測定結果を示す図である。
【図8】Fe品位の高い粗粒の粒度分布測定結果を示す図である。
【図9】Cu品位の高い細粒のXRD解析結果を示す図である。
【図10】Fe品位の高い粗粒のXRD解析結果を示す図である。
【図11】実施例2に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。
【図12】摩鉱処理後の粒度分布を示す図である。
【図13】比較例に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。
【図14】摩鉱処理後の粒度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0015】
(実施形態)
本実施形態は、硫化変換した銅精鉱粒子を摩鉱することによって、銅藍と黄鉄鉱とを分離し、Fe品位の低い銅藍主体の銅精鉱を回収することによって、銅精鉱に含まれる鉄量・硫黄量を低減し、銅製錬プロセスのコスト低減、スラグ・硫酸の発生量減少による事業採算の改善などを可能とするプロセスを供するものである。
【0016】
本実施形態に係る対象処理物は、銅精鉱である。特には、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする銅精鉱である。黄銅鉱主体の銅精鉱は、銅を25wt%から40wt%、鉄を20wt%から35wt%含有する。このような黄銅鉱は、鉄を多く含むためく、製錬工程において、多量のスラグ発生をもたらす。
【0017】
図1は、本実施形態に係る銅精鉱の処理方法の一例を示す工程図である。図1を参照して、まず、銅精鉱に対して、硫化変換工程を実施する。例えば、銅精鉱中の銅(Cu)に対して、硫黄(S)を1.0から1.2のモル比で添加する。硫黄は、一例として、単体硫黄の状態で添加し、よく混合する。混合した処理物に対して、不活性雰囲気において、所定の温度および所定の時間で熱処理を施す。この熱処理は、例えば、ロータリキルンなどを用いて行うことができる。例えば、不活性雰囲気として、窒素ガスを用いることができる。また、熱処理時間を30分〜60分とすることが好ましい。未反応黄銅鉱の残存量を低下させることができるからである。
【0018】
熱処理温度は、400℃〜450℃であることが好ましい。例えば400℃未満の350℃または375℃で硫化変換工程を実施した場合、硫化変換前の銅精鉱に含まれる主化合物である黄銅鉱(CuFeS2)の残存量が多くなるため、銅藍と黄鉄鉱としてCuとFeとを分離する本プロセスにそぐわない。また、450℃を上回る温度で処理した場合、銅藍の状態が不安定となり、Bornite(Cu5FeS4)、Nukundamite((Cu,Fe)4S4)などが生成することによって、CuとFeとの分離が困難となる。したがって、熱処理温度は、400℃〜450℃であることが好ましい。
【0019】
上記熱処理の結果、銅藍と黄鉄鉱とで構成される硫化精鉱粒子が得られる。この硫化精鉱粒子は、内殻として黄鉄鉱が存在し、黄鉄鉱を銅藍が外殻として覆って構成されている。図2は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で同定した銅藍および黄鉄鉱のマッピングにより得られた硫化精鉱粒子である。図2を参照して、淡灰色の黄鉄鉱を濃灰色の銅藍が覆っている。このような硫化精鉱粒子から銅藍を主体に回収するためには、各硫化精鉱粒子を銅藍と黄鉄鉱とに単体分離することが必要である。
【0020】
そこで、再度図1を参照して、硫化変換工程を経た精鉱粒子に対して摩鉱工程を施す。なお、銅藍と黄鉄鉱とを比重差および粒子径差に基づいて選別するためには、外殻の銅藍を剥ぎ取りつつも内殻の黄鉄鉱を破壊しないように残存させることが望まれる。過度な摩鉱は黄鉄鉱を微細化してしまうことから、摩鉱条件には最適範囲が存在する。
【0021】
外殻の銅藍を剥ぎ取りつつも内殻の黄鉄鉱を破壊しないように残存させることができる摩鉱条件においては、銅藍は2μm〜20μm程度の粒子径で剥ぎ取られ、内殻の黄鉄鉱の粒子径は30μm〜70μm程度となる。本発明者らが鋭意試験・調査した結果、上記粒子径範囲を実現するためには、外郭に存在する銅藍を摩鉱により分離しテーブル選別機で選別するのに適した粒子径は、50%粒子径で30μm〜50μmであることがわかった。
【0022】
摩鉱工程において、湿式粉砕装置または乾式粉砕装置を用いることができる。粉砕装置として、例えば、ボールミル、ジェットミル、アトリッションミル、チューブミル等を用いることができる。50%粒子径30μm〜50μm程度に粉砕できるものであれば、種類は問わない。ただし、外殻に存在する銅藍を削り取り、内部に存在する黄鉄鉱を粗大な状態で温存することができる粉砕装置が好ましい。
【0023】
次に、摩鉱工程で得られる精鉱粒子に対して、粒子径差と比重差とに基づいて選別処理し、Cu品位の高い細粒とFe品位の高い粗粒とに分離する。選別処理においては、テーブル選別機、遠心式分級機、慣性式分級機、重力式分級機、あるいはこれらの組み合わせを用いることができる。テーブル選別機は、機械的に簡易な構造を有しかつ低摩耗性を有する装置であることから、メンテナンス、運転コストなどの点で他の選別機と比べて有利であり、良好な選別成績を容易に得ることができる。したがって、テーブル選別機を用いることが好ましい。
【0024】
図3は、テーブル選別機の一例を示す模式的な上面図である。テーブル選別機は、粒子径差と比重差とに基づいて対象物を分離する装置である。テーブル面に投入された摩鉱後の精鉱粒子のスラリーは、テーブル面の揺動運動によって粒子径の大きいものと小さいものとが選別され、シャワー水流によって比重の大きいものと小さいものとが選別される。図3の例では、回収位置1で比重が小さく粒子径が大きいものが回収され、回収位置3では比重が大きく粒子径が大きいものと比重が小さく粒子径が小さいものが回収され、回収位置2では回収位置1と回収位置3との中間の特性を示すものが回収されるのが一般的である。ただし、スラリーを形成する粒子の粒子径、シャワー水流の条件等により回収位置で回収される粒子の特性は異なる。例えば、粒子径が数μmの粒子は、水流に随伴しやすいため比重差にかかわらず回収位置1で回収されることが多い。
【0025】
硫化変換工程で得られる硫化精鉱粒子において黄鉄鉱粒子を銅藍が覆っていることから、摩鉱工程において得られる銅藍の粒子径は比較的小さく、黄鉄鉱の粒子径は比較的大きくなる。また、銅藍の比重は比較的小さく、黄鉄鉱の比重は比較的大きい。したがって、選別機を用いた選別処理を介して細粒と粗粒とに分離することによって、Cu品位の高い細粒(銅藍比率が高くFe品位の低い粒子)とFe品位の高い粗粒(黄鉄鉱比率の高い粒子)とに分離することができる。例えば、分離回収されるCu品位の高い細粒の50%粒子径は5μm〜15μmであることが好ましく、Fe品位の高い粗粒の50%粒子径は35μm〜55μmであることが好ましい。
【0026】
次に、Cu品位の高い細粒を選別精鉱として回収する。この選別精鉱を銅製錬原料として用いることによって、スラグ発生量の少ない銅製錬を行うことができる。一方、Fe品位の高い粗粒を選別尾鉱として回収する。なお、この選別尾鉱に対して、再度、摩鉱工程、選別処理および分離工程を実施することによって、Cu品位の高い細粒を回収することができる。
【0027】
なお、上記Cu品位の高い細粒およびFe品位の高い粗粒を、そのままあるいは摩鉱・粉砕した後に浮遊選鉱に供することによって、CuおよびFeをそれぞれ選別精鉱と選別尾鉱とに濃縮することができる。
【0028】
本実施形態によれば、Fe品位の低い銅精鉱を効率良くかつ経済的に回収することができる。
【実施例】
【0029】
以下、上記実施形態に基づく実施例について説明する。
【0030】
(実施例1)
図4は、実施例1に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。黄銅鉱主体の銅精鉱(Cu品位=34wt%、Fe品位=24wt%)と単体硫黄とをモル比で銅精鉱中Cu:硫黄=1.0:1.2で混合し、窒素雰囲気中において425℃で60分間熱処理することで黄銅鉱を銅藍と黄鉄鉱に変換した。図5のXRDによる分析結果の通り、硫化変換後に銅藍と黄鉄鉱とが生成していることがわかる。
【0031】
次に、銅藍と黄鉄鉱とに変換した銅精鉱(Cu品位=30wt%、Fe品位=21wt%)を、湿式ボールミルにより摩鉱し、図6の粒度分布を示す摩鉱精鉱を得た。このときのスラリー濃度は30wt%であり、摩鉱時間は30分、50%粒子径は42μmであった。
【0032】
この摩鉱精鉱をテーブル選別機により選別(1回目)し、細粒と粗粒とに選別した後、選別した粗粒を再度テーブル選別機により選別(2回目)した。2回目の選別で回収した粗粒を再度湿式ボールミルにより摩鉱し、テーブル選別機により3回目の選別を実施した。選別機のストロークを15mm、変速機の回転数を357rpmとして選別を実施した。
【0033】
図7および図8は、それぞれ、選別分離し得られたCu品位の高い細粒(図3の回収位置1で回収)の粒度分布測定結果、およびFe品位の高い粗粒(図3の回収位置3で回収)の粒度分布測定結果である。図9および図10は、それぞれ、選別分離し得られたCu品位の高い細粒のXRD解析結果とFe品位の高い粗粒のXRD解析結果である。
【0034】
次に、上記テーブル選別機で選別回収したそれぞれのサンプルを、Cu品位の高いサンプル(選別精鉱)、Fe品位の高いサンプル(選別尾鉱)、および、その他(中間精鉱)の3グループに分けて混合した場合のそれぞれのグループの重量割合(wt%)、Cu回収率(wt%)、Cu品位(wt%)、Fe品位(wt%)を調査した。表1に結果を示す。
【0035】
【表1】
【0036】
選別精鉱は、硫化変換後の元精鉱(Cu品位=30wt%、Fe品位=21wt%)と比較して、Cu品位が高くFe品位が低くなった。また、硫化変換前の元精鉱(Cu品位=34wt%、Fe品位=24wt%)に対して、選別精鉱はFe品位が5.8wt%低下している。このことから硫化変換前の精鉱中には重量比でCu:1.00に対してFe:0.71が含まれているが、選別精鉱中は重量比でCu:1.00に対してFe:0.53まで低減されており、製錬所でのスラグ発生量の低減が可能となる。また選別尾鉱はCu品位が16.2%で最も低く、Fe品位は33.8%で最も高い。
【0037】
選別条件は、選別の成績、即ちCu回収率および選別精鉱Cu品位、あるいは処理コストにより、任意に変更可能である。中間精鉱および選別尾鉱は、そのまま浮遊選鉱に供する、あるいは再度摩鉱、多段選別を繰り返すことでCuおよびFeをそれぞれ精鉱と尾鉱とに濃縮することが可能である。
【0038】
(実施例2)
図11は、実施例2に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。黄銅鉱主体の銅精鉱の硫化変換処理については実施例1と同様である。銅藍と黄鉄鉱とに変換した硫化銅精鉱(Cu品位=30wt%、Fe品位=21wt%)を湿式ボールミルにより摩鉱し、図12の粒度分布を示す摩鉱精鉱を得た。このときのスラリー濃度は30wt%であり、摩鉱時間は30分、50%粒子径は45μmであった。
【0039】
この摩鉱精鉱をテーブル選別機により選別(1回目)し、細粒と粗粒とに選別した後、選別した粗粒を再度湿式ボールミルにより摩鉱し、テーブル選別機により2回目の選別を実施した。選別機のストロークを15mm、変速機の回転数を357rpmとして選別を実施した。それぞれの選別時に回収したサンプル品位は図11に示す。
【0040】
次に、上記テーブル選別機で選別し回収したそれぞれのサンプルをCu品位の高いサンプル(選別精鉱)、Fe品位の高いサンプル(選別尾鉱)、その他1(中間精鉱1)、およびその他2(中間精鉱2)の4グループに分けて混合した場合のそれぞれのグループの重量割合(wt%)、Cu回収率(wt%)、Cu品位(wt%)、Fe品位(wt%)を調査した。表2に結果を示す。
【0041】
【表2】
【0042】
選別精鉱は、硫化変換後の元精鉱(Cu品位=30wt%、Fe品位=21wt%)と比較し、Cu品位が高くFe品位が低くなった。また、硫化変換前の元精鉱(Cu品位=34wt%、Fe品位=24wt%)に対しては、Fe品位が5.8wt%低下している。このことから変換前精鉱中には重量比でCu:1.00に対してFe:0.71が含まれているが、選別精鉱中は重量比でCu:1.00に対してFe:0.57まで低減されており、製錬所でのスラグ発生量の低減が可能となる。また選別尾鉱はCu品位が15.0%で最も低く、Fe品位は36.0%で最も高い。
【0043】
(比較例)
図13は、比較例に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。黄銅鉱主体の銅精鉱の変換処理については実施例1,2と同様である。銅藍と黄鉄鉱とに変換した硫化銅精鉱(Cu品位=30wt%、Fe品位=20wt%)を、実施例1,2と異なる摩鉱機であるジェットミルにより摩鉱し、図14の粒度分布を示す摩鉱精鉱を得た。
【0044】
このときの粉砕圧力は0.5MPaで、得られた摩鉱精鉱粒子の50%粒子径は8.0μmであった。比較例においては、実施例1,2における摩鉱精鉱粒子の50%粒子径40μmに比べて小さくなる条件で摩鉱した。この摩鉱精鉱をテーブル選別機により選別(1回目)し、細粒と粗粒とに選別した。テーブル選別機のストロークを15mm、変速機の回転数を357rpmとして選別を実施した。それぞれの選別時に回収したサンプル品位を図13に示す。
【0045】
次に、テーブル選別機で選別し回収したそれぞれのサンプルをCu品位の高いサンプル(選別精鉱)およびFe品位の高いサンプル(選別尾鉱)の2グループに分けて混合した場合のそれぞれのグループの重量割合(wt%)、Cu回収率(wt%)、Cu品位(wt%)、Fe品位(wt%)を調査した。表3に結果を示す。
【0046】
【表3】
【0047】
選別精鉱は、硫化変換後の元精鉱(Cu品位=30wt%、Fe品位=21wt%)と比較し、Cu品位、Fe品位とも僅かに高くなった。表3に示すように、銅の回収率は、85wt%と高い値が得られた。しかしながら、硫化変換前の元精鉱(Cu品位=34wt%、Fe品位=24wt%)に対しては、Fe品位が1.9wt%しか低下しておらず、硫化変換前精鉱中に重量比でCu:1.00に対してFe:0.71が含まれているのと同様、選別精鉱中にも重量比でCu:1.00に対してFe:0.71が含まれており、あまり高い値が得られていない。この選別条件では製錬所でのスラグ発生量をより低減することは困難である。また選別尾鉱はCu品位、Fe品位とも最も低くなった。
【0048】
(分析)
実施例1,2では、それぞれ図4と図11に示すフロー(実施例1は硫化変換後、摩鉱1→選別1→選別2→摩鉱2→選別3、実施例2は摩鉱1→選別1→摩鉱2→選別2)で選別処理を行ったが、最終的な選別精鉱のCu品位、Cu回収率は、ほぼ同様の結果が得られた。また発明者らは、その他の摩鉱条件と選別条件の組み合わせフローでも選別試験を実施したが、1回目の摩鉱で得られる摩鉱精鉱粒子の50%粒子径を概ね30μm〜50μmとすることで、同様の選別結果が得られることを確認した。
【0049】
一方、比較例では摩鉱精鉱粒子の50%粒子径を約8.0μmまで小さくしたことにより、良好な選別成績を得ることができなかった。これは過度な摩鉱条件により硫化変換時に内殻に生成するFeS2を破壊してしまったことで、粒子径差に基づく選別が主体であるテーブル選別機の選別効果が得られなかったことを示している。
【0050】
実施例1,2における摩鉱精鉱粒子の50%粒子径はそれぞれ42μm、45μmであり、50%粒子径30μm〜50μmの範囲におさまっているが、比較例の摩鉱精鉱粒子の50%粒子径は8μmであり内殻のFeS2を粗大な状態で残存することの出来る30μm〜50μmの適正範囲から外れ、FeS2が微細粒子にまで破壊されたことで選別効果を得ることができなかった。摩鉱精鉱粒子が50%粒子径の適正範囲30μm〜50μmを超えた場合、例えば50%粒子径が80μm〜100μm程度の摩鉱状態では、外殻のCuSが十分に剥ぎ取られていない状態(単体分離していない状態)であり、選別効果が小さくなる。
【0051】
ただし、摩鉱精鉱粒子の50%粒子径の適正範囲は、黄銅鉱主体の銅精鉱の硫化変換後の50%粒子径が80μm〜150μm程度の変換粒子を対象とした選別試験での適正範囲である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅精鉱の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅鉱山で産出される銅鉱石は、主に硫化鉱である。硫化鉱を大別すると、輝銅鉱(Cu2S)、銅藍(CuS)などの鉱物を主体とした比較的高銅品位の二次硫化鉱と、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする初生硫化鉱とに分けられる。近年、銅鉱山で採取される銅鉱石は、後者主体となっている。その結果、鉄、硫黄などの不純物が増加し、銅品位は低下傾向にある。このことは、鉱山で銅製錬向けに生産する銅精鉱の銅品位の低下、鉄分、硫黄分などの増加などの要因となる。
【0003】
一般に、銅精鉱の製錬を経て、銅は製品電気銅として、鉄分はスラグとして、硫黄分は硫酸として回収される。近年の銅精鉱の低品位化は、銅製錬プロセスにおける製造コストの上昇を招く。さらに国内の銅製錬業においては、銅製錬で生じるスラグおよび硫酸の需給悪化に見舞われ、多くが採算の合わない輸出に向けられており、事業収益を圧迫している。今後さらに銅精鉱の銅品位低下が進めば、これらスラグおよび硫酸の問題が顕著となり、事業存続にも影響を及ぼすと考えられる。
【0004】
これらの問題を解決する一手段として、銅精鉱の予備処理法の応用がある。予備処理法とは、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする銅精鉱粒子を硫黄(S)とともに所定の温度で反応させ、銅藍(CuS)と黄鉄鉱(FeS2)とで構成される精鉱粒子に硫化変換する処理のことである。この硫化変換反応は、浸出が困難な黄銅鉱を比較的浸出が容易な形態にするという意味で湿式製錬の前処理法として知られているが、予備処理から湿式製錬までのトータルコストの観点から現状普及していないプロセスである。
【0005】
上記問題を解決する他の手段として、硫黄による硫化変換反応後の銅藍と黄鉄鉱とを選別し、銅藍主体の高銅品位精鉱として乾式製錬に供する方法がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、銅藍と黄鉄鉱との選別において、静電的方法、重力的方法、磁気的方法、風力的方法、粒径的方法、ハイドロサイクロン法、浮遊選鉱あるいはこれらの組み合わせにより行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/074805号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、銅藍と黄鉄鉱とを選別する具体的な方法については記述されていない。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑み、Fe品位の低い銅精鉱を効率良くかつ経済的に回収することができる銅精鉱の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る銅精鉱の処理方法は、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする精鉱粒子を硫黄(S)と反応させることによって、銅藍(CuS)および黄鉄鉱(FeS2)を主体とする硫化精鉱粒子に変換する硫化変換工程と、前記硫化精鉱粒子を、50%粒子径が30μm〜50μmになるように摩鉱処理する摩鉱工程と、前記摩鉱工程で得られる摩鉱精鉱粒子に対して粒子径差と比重差とに基づいて選別処理することによって、Cu品位の高い細粒とFe品位の高い粗粒とに分離する分離工程と、を含むことを特徴とするものである。本発明に係る銅精鉱の処理方法においては、Fe品位の低い銅精鉱を効率良くかつ経済的に回収することができる。
【0010】
前記硫化変換工程は、400℃〜450℃で行ってもよい。前記分離工程において、50%粒子径が5μm〜15μmの細粒と、50%粒子径が35μm〜55μmの粗粒とに分離してもよい。前記摩鉱工程において、湿式粉砕装置または乾式粉砕装置を用いてもよい。前記摩鉱工程において、ボールミル、ジェットミル、アトリッションミル、またはチューブミル、あるいはこれらの組み合わせを用いてもよい。
【0011】
前記選別処理において、テーブル選別機、遠心式分級機、慣性式分級機、重力式分級機、あるいはこれらの組み合わせを用いてもよい。前記分離工程で得られた粗粒に対して、前記摩鉱工程および前記分離工程を再度実施してもよい。前記分離工程で得られた細粒および粗粒に対して、そのままあるいは摩鉱・粉砕してから浮遊選鉱に供してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Fe品位の低い銅精鉱を効率良くかつ経済的に回収することができる銅精鉱の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る銅精鉱の処理方法の一例を示す工程図である。
【図2】電子線マイクロアナライザで同定した銅藍および黄鉄鉱のマッピングにより得られた精鉱粒子である。
【図3】テーブル選別機の一例を示す模式図である。
【図4】実施例1に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。
【図5】XRDによる分析結果を示す図である。
【図6】摩鉱処理後の粒度分布を示す図である。
【図7】Cu品位の高い細粒の粒度分布測定結果を示す図である。
【図8】Fe品位の高い粗粒の粒度分布測定結果を示す図である。
【図9】Cu品位の高い細粒のXRD解析結果を示す図である。
【図10】Fe品位の高い粗粒のXRD解析結果を示す図である。
【図11】実施例2に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。
【図12】摩鉱処理後の粒度分布を示す図である。
【図13】比較例に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。
【図14】摩鉱処理後の粒度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0015】
(実施形態)
本実施形態は、硫化変換した銅精鉱粒子を摩鉱することによって、銅藍と黄鉄鉱とを分離し、Fe品位の低い銅藍主体の銅精鉱を回収することによって、銅精鉱に含まれる鉄量・硫黄量を低減し、銅製錬プロセスのコスト低減、スラグ・硫酸の発生量減少による事業採算の改善などを可能とするプロセスを供するものである。
【0016】
本実施形態に係る対象処理物は、銅精鉱である。特には、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする銅精鉱である。黄銅鉱主体の銅精鉱は、銅を25wt%から40wt%、鉄を20wt%から35wt%含有する。このような黄銅鉱は、鉄を多く含むためく、製錬工程において、多量のスラグ発生をもたらす。
【0017】
図1は、本実施形態に係る銅精鉱の処理方法の一例を示す工程図である。図1を参照して、まず、銅精鉱に対して、硫化変換工程を実施する。例えば、銅精鉱中の銅(Cu)に対して、硫黄(S)を1.0から1.2のモル比で添加する。硫黄は、一例として、単体硫黄の状態で添加し、よく混合する。混合した処理物に対して、不活性雰囲気において、所定の温度および所定の時間で熱処理を施す。この熱処理は、例えば、ロータリキルンなどを用いて行うことができる。例えば、不活性雰囲気として、窒素ガスを用いることができる。また、熱処理時間を30分〜60分とすることが好ましい。未反応黄銅鉱の残存量を低下させることができるからである。
【0018】
熱処理温度は、400℃〜450℃であることが好ましい。例えば400℃未満の350℃または375℃で硫化変換工程を実施した場合、硫化変換前の銅精鉱に含まれる主化合物である黄銅鉱(CuFeS2)の残存量が多くなるため、銅藍と黄鉄鉱としてCuとFeとを分離する本プロセスにそぐわない。また、450℃を上回る温度で処理した場合、銅藍の状態が不安定となり、Bornite(Cu5FeS4)、Nukundamite((Cu,Fe)4S4)などが生成することによって、CuとFeとの分離が困難となる。したがって、熱処理温度は、400℃〜450℃であることが好ましい。
【0019】
上記熱処理の結果、銅藍と黄鉄鉱とで構成される硫化精鉱粒子が得られる。この硫化精鉱粒子は、内殻として黄鉄鉱が存在し、黄鉄鉱を銅藍が外殻として覆って構成されている。図2は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で同定した銅藍および黄鉄鉱のマッピングにより得られた硫化精鉱粒子である。図2を参照して、淡灰色の黄鉄鉱を濃灰色の銅藍が覆っている。このような硫化精鉱粒子から銅藍を主体に回収するためには、各硫化精鉱粒子を銅藍と黄鉄鉱とに単体分離することが必要である。
【0020】
そこで、再度図1を参照して、硫化変換工程を経た精鉱粒子に対して摩鉱工程を施す。なお、銅藍と黄鉄鉱とを比重差および粒子径差に基づいて選別するためには、外殻の銅藍を剥ぎ取りつつも内殻の黄鉄鉱を破壊しないように残存させることが望まれる。過度な摩鉱は黄鉄鉱を微細化してしまうことから、摩鉱条件には最適範囲が存在する。
【0021】
外殻の銅藍を剥ぎ取りつつも内殻の黄鉄鉱を破壊しないように残存させることができる摩鉱条件においては、銅藍は2μm〜20μm程度の粒子径で剥ぎ取られ、内殻の黄鉄鉱の粒子径は30μm〜70μm程度となる。本発明者らが鋭意試験・調査した結果、上記粒子径範囲を実現するためには、外郭に存在する銅藍を摩鉱により分離しテーブル選別機で選別するのに適した粒子径は、50%粒子径で30μm〜50μmであることがわかった。
【0022】
摩鉱工程において、湿式粉砕装置または乾式粉砕装置を用いることができる。粉砕装置として、例えば、ボールミル、ジェットミル、アトリッションミル、チューブミル等を用いることができる。50%粒子径30μm〜50μm程度に粉砕できるものであれば、種類は問わない。ただし、外殻に存在する銅藍を削り取り、内部に存在する黄鉄鉱を粗大な状態で温存することができる粉砕装置が好ましい。
【0023】
次に、摩鉱工程で得られる精鉱粒子に対して、粒子径差と比重差とに基づいて選別処理し、Cu品位の高い細粒とFe品位の高い粗粒とに分離する。選別処理においては、テーブル選別機、遠心式分級機、慣性式分級機、重力式分級機、あるいはこれらの組み合わせを用いることができる。テーブル選別機は、機械的に簡易な構造を有しかつ低摩耗性を有する装置であることから、メンテナンス、運転コストなどの点で他の選別機と比べて有利であり、良好な選別成績を容易に得ることができる。したがって、テーブル選別機を用いることが好ましい。
【0024】
図3は、テーブル選別機の一例を示す模式的な上面図である。テーブル選別機は、粒子径差と比重差とに基づいて対象物を分離する装置である。テーブル面に投入された摩鉱後の精鉱粒子のスラリーは、テーブル面の揺動運動によって粒子径の大きいものと小さいものとが選別され、シャワー水流によって比重の大きいものと小さいものとが選別される。図3の例では、回収位置1で比重が小さく粒子径が大きいものが回収され、回収位置3では比重が大きく粒子径が大きいものと比重が小さく粒子径が小さいものが回収され、回収位置2では回収位置1と回収位置3との中間の特性を示すものが回収されるのが一般的である。ただし、スラリーを形成する粒子の粒子径、シャワー水流の条件等により回収位置で回収される粒子の特性は異なる。例えば、粒子径が数μmの粒子は、水流に随伴しやすいため比重差にかかわらず回収位置1で回収されることが多い。
【0025】
硫化変換工程で得られる硫化精鉱粒子において黄鉄鉱粒子を銅藍が覆っていることから、摩鉱工程において得られる銅藍の粒子径は比較的小さく、黄鉄鉱の粒子径は比較的大きくなる。また、銅藍の比重は比較的小さく、黄鉄鉱の比重は比較的大きい。したがって、選別機を用いた選別処理を介して細粒と粗粒とに分離することによって、Cu品位の高い細粒(銅藍比率が高くFe品位の低い粒子)とFe品位の高い粗粒(黄鉄鉱比率の高い粒子)とに分離することができる。例えば、分離回収されるCu品位の高い細粒の50%粒子径は5μm〜15μmであることが好ましく、Fe品位の高い粗粒の50%粒子径は35μm〜55μmであることが好ましい。
【0026】
次に、Cu品位の高い細粒を選別精鉱として回収する。この選別精鉱を銅製錬原料として用いることによって、スラグ発生量の少ない銅製錬を行うことができる。一方、Fe品位の高い粗粒を選別尾鉱として回収する。なお、この選別尾鉱に対して、再度、摩鉱工程、選別処理および分離工程を実施することによって、Cu品位の高い細粒を回収することができる。
【0027】
なお、上記Cu品位の高い細粒およびFe品位の高い粗粒を、そのままあるいは摩鉱・粉砕した後に浮遊選鉱に供することによって、CuおよびFeをそれぞれ選別精鉱と選別尾鉱とに濃縮することができる。
【0028】
本実施形態によれば、Fe品位の低い銅精鉱を効率良くかつ経済的に回収することができる。
【実施例】
【0029】
以下、上記実施形態に基づく実施例について説明する。
【0030】
(実施例1)
図4は、実施例1に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。黄銅鉱主体の銅精鉱(Cu品位=34wt%、Fe品位=24wt%)と単体硫黄とをモル比で銅精鉱中Cu:硫黄=1.0:1.2で混合し、窒素雰囲気中において425℃で60分間熱処理することで黄銅鉱を銅藍と黄鉄鉱に変換した。図5のXRDによる分析結果の通り、硫化変換後に銅藍と黄鉄鉱とが生成していることがわかる。
【0031】
次に、銅藍と黄鉄鉱とに変換した銅精鉱(Cu品位=30wt%、Fe品位=21wt%)を、湿式ボールミルにより摩鉱し、図6の粒度分布を示す摩鉱精鉱を得た。このときのスラリー濃度は30wt%であり、摩鉱時間は30分、50%粒子径は42μmであった。
【0032】
この摩鉱精鉱をテーブル選別機により選別(1回目)し、細粒と粗粒とに選別した後、選別した粗粒を再度テーブル選別機により選別(2回目)した。2回目の選別で回収した粗粒を再度湿式ボールミルにより摩鉱し、テーブル選別機により3回目の選別を実施した。選別機のストロークを15mm、変速機の回転数を357rpmとして選別を実施した。
【0033】
図7および図8は、それぞれ、選別分離し得られたCu品位の高い細粒(図3の回収位置1で回収)の粒度分布測定結果、およびFe品位の高い粗粒(図3の回収位置3で回収)の粒度分布測定結果である。図9および図10は、それぞれ、選別分離し得られたCu品位の高い細粒のXRD解析結果とFe品位の高い粗粒のXRD解析結果である。
【0034】
次に、上記テーブル選別機で選別回収したそれぞれのサンプルを、Cu品位の高いサンプル(選別精鉱)、Fe品位の高いサンプル(選別尾鉱)、および、その他(中間精鉱)の3グループに分けて混合した場合のそれぞれのグループの重量割合(wt%)、Cu回収率(wt%)、Cu品位(wt%)、Fe品位(wt%)を調査した。表1に結果を示す。
【0035】
【表1】
【0036】
選別精鉱は、硫化変換後の元精鉱(Cu品位=30wt%、Fe品位=21wt%)と比較して、Cu品位が高くFe品位が低くなった。また、硫化変換前の元精鉱(Cu品位=34wt%、Fe品位=24wt%)に対して、選別精鉱はFe品位が5.8wt%低下している。このことから硫化変換前の精鉱中には重量比でCu:1.00に対してFe:0.71が含まれているが、選別精鉱中は重量比でCu:1.00に対してFe:0.53まで低減されており、製錬所でのスラグ発生量の低減が可能となる。また選別尾鉱はCu品位が16.2%で最も低く、Fe品位は33.8%で最も高い。
【0037】
選別条件は、選別の成績、即ちCu回収率および選別精鉱Cu品位、あるいは処理コストにより、任意に変更可能である。中間精鉱および選別尾鉱は、そのまま浮遊選鉱に供する、あるいは再度摩鉱、多段選別を繰り返すことでCuおよびFeをそれぞれ精鉱と尾鉱とに濃縮することが可能である。
【0038】
(実施例2)
図11は、実施例2に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。黄銅鉱主体の銅精鉱の硫化変換処理については実施例1と同様である。銅藍と黄鉄鉱とに変換した硫化銅精鉱(Cu品位=30wt%、Fe品位=21wt%)を湿式ボールミルにより摩鉱し、図12の粒度分布を示す摩鉱精鉱を得た。このときのスラリー濃度は30wt%であり、摩鉱時間は30分、50%粒子径は45μmであった。
【0039】
この摩鉱精鉱をテーブル選別機により選別(1回目)し、細粒と粗粒とに選別した後、選別した粗粒を再度湿式ボールミルにより摩鉱し、テーブル選別機により2回目の選別を実施した。選別機のストロークを15mm、変速機の回転数を357rpmとして選別を実施した。それぞれの選別時に回収したサンプル品位は図11に示す。
【0040】
次に、上記テーブル選別機で選別し回収したそれぞれのサンプルをCu品位の高いサンプル(選別精鉱)、Fe品位の高いサンプル(選別尾鉱)、その他1(中間精鉱1)、およびその他2(中間精鉱2)の4グループに分けて混合した場合のそれぞれのグループの重量割合(wt%)、Cu回収率(wt%)、Cu品位(wt%)、Fe品位(wt%)を調査した。表2に結果を示す。
【0041】
【表2】
【0042】
選別精鉱は、硫化変換後の元精鉱(Cu品位=30wt%、Fe品位=21wt%)と比較し、Cu品位が高くFe品位が低くなった。また、硫化変換前の元精鉱(Cu品位=34wt%、Fe品位=24wt%)に対しては、Fe品位が5.8wt%低下している。このことから変換前精鉱中には重量比でCu:1.00に対してFe:0.71が含まれているが、選別精鉱中は重量比でCu:1.00に対してFe:0.57まで低減されており、製錬所でのスラグ発生量の低減が可能となる。また選別尾鉱はCu品位が15.0%で最も低く、Fe品位は36.0%で最も高い。
【0043】
(比較例)
図13は、比較例に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。黄銅鉱主体の銅精鉱の変換処理については実施例1,2と同様である。銅藍と黄鉄鉱とに変換した硫化銅精鉱(Cu品位=30wt%、Fe品位=20wt%)を、実施例1,2と異なる摩鉱機であるジェットミルにより摩鉱し、図14の粒度分布を示す摩鉱精鉱を得た。
【0044】
このときの粉砕圧力は0.5MPaで、得られた摩鉱精鉱粒子の50%粒子径は8.0μmであった。比較例においては、実施例1,2における摩鉱精鉱粒子の50%粒子径40μmに比べて小さくなる条件で摩鉱した。この摩鉱精鉱をテーブル選別機により選別(1回目)し、細粒と粗粒とに選別した。テーブル選別機のストロークを15mm、変速機の回転数を357rpmとして選別を実施した。それぞれの選別時に回収したサンプル品位を図13に示す。
【0045】
次に、テーブル選別機で選別し回収したそれぞれのサンプルをCu品位の高いサンプル(選別精鉱)およびFe品位の高いサンプル(選別尾鉱)の2グループに分けて混合した場合のそれぞれのグループの重量割合(wt%)、Cu回収率(wt%)、Cu品位(wt%)、Fe品位(wt%)を調査した。表3に結果を示す。
【0046】
【表3】
【0047】
選別精鉱は、硫化変換後の元精鉱(Cu品位=30wt%、Fe品位=21wt%)と比較し、Cu品位、Fe品位とも僅かに高くなった。表3に示すように、銅の回収率は、85wt%と高い値が得られた。しかしながら、硫化変換前の元精鉱(Cu品位=34wt%、Fe品位=24wt%)に対しては、Fe品位が1.9wt%しか低下しておらず、硫化変換前精鉱中に重量比でCu:1.00に対してFe:0.71が含まれているのと同様、選別精鉱中にも重量比でCu:1.00に対してFe:0.71が含まれており、あまり高い値が得られていない。この選別条件では製錬所でのスラグ発生量をより低減することは困難である。また選別尾鉱はCu品位、Fe品位とも最も低くなった。
【0048】
(分析)
実施例1,2では、それぞれ図4と図11に示すフロー(実施例1は硫化変換後、摩鉱1→選別1→選別2→摩鉱2→選別3、実施例2は摩鉱1→選別1→摩鉱2→選別2)で選別処理を行ったが、最終的な選別精鉱のCu品位、Cu回収率は、ほぼ同様の結果が得られた。また発明者らは、その他の摩鉱条件と選別条件の組み合わせフローでも選別試験を実施したが、1回目の摩鉱で得られる摩鉱精鉱粒子の50%粒子径を概ね30μm〜50μmとすることで、同様の選別結果が得られることを確認した。
【0049】
一方、比較例では摩鉱精鉱粒子の50%粒子径を約8.0μmまで小さくしたことにより、良好な選別成績を得ることができなかった。これは過度な摩鉱条件により硫化変換時に内殻に生成するFeS2を破壊してしまったことで、粒子径差に基づく選別が主体であるテーブル選別機の選別効果が得られなかったことを示している。
【0050】
実施例1,2における摩鉱精鉱粒子の50%粒子径はそれぞれ42μm、45μmであり、50%粒子径30μm〜50μmの範囲におさまっているが、比較例の摩鉱精鉱粒子の50%粒子径は8μmであり内殻のFeS2を粗大な状態で残存することの出来る30μm〜50μmの適正範囲から外れ、FeS2が微細粒子にまで破壊されたことで選別効果を得ることができなかった。摩鉱精鉱粒子が50%粒子径の適正範囲30μm〜50μmを超えた場合、例えば50%粒子径が80μm〜100μm程度の摩鉱状態では、外殻のCuSが十分に剥ぎ取られていない状態(単体分離していない状態)であり、選別効果が小さくなる。
【0051】
ただし、摩鉱精鉱粒子の50%粒子径の適正範囲は、黄銅鉱主体の銅精鉱の硫化変換後の50%粒子径が80μm〜150μm程度の変換粒子を対象とした選別試験での適正範囲である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする精鉱粒子を硫黄(S)と反応させることによって、銅藍(CuS)および黄鉄鉱(FeS2)を主体とする硫化精鉱粒子に変換する硫化変換工程と、
前記硫化精鉱粒子を、50%粒子径が30μm〜50μmになるように摩鉱処理する摩鉱工程と、
前記摩鉱工程で得られる摩鉱精鉱粒子に対して粒子径差と比重差とに基づいて選別処理することによって、Cu品位の高い細粒とFe品位の高い粗粒とに分離する分離工程と、を含むことを特徴とする銅精鉱の処理方法。
【請求項2】
前記硫化変換工程は、400℃〜450℃で行うことを特徴とする請求項1記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項3】
前記分離工程において、50%粒子径が5μm〜15μmの細粒と、50%粒子径が35μm〜55μmの粗粒とに分離することを特徴とする請求項1または2記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項4】
前記摩鉱工程において、湿式粉砕装置または乾式粉砕装置を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項5】
前記摩鉱工程において、ボールミル、ジェットミル、アトリッションミル、またはチューブミル、あるいはこれらの組み合わせを用いることを特徴とする請求項4記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項6】
前記選別処理において、テーブル選別機、遠心式分級機、慣性式分級機、重力式分級機、あるいはこれらの組み合わせを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項7】
前記分離工程で得られた粗粒に対して、前記摩鉱工程および前記分離工程を再度実施することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項8】
前記分離工程で得られた細粒および粗粒に対して、そのままあるいは摩鉱・粉砕してから浮遊選鉱に供することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項1】
黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする精鉱粒子を硫黄(S)と反応させることによって、銅藍(CuS)および黄鉄鉱(FeS2)を主体とする硫化精鉱粒子に変換する硫化変換工程と、
前記硫化精鉱粒子を、50%粒子径が30μm〜50μmになるように摩鉱処理する摩鉱工程と、
前記摩鉱工程で得られる摩鉱精鉱粒子に対して粒子径差と比重差とに基づいて選別処理することによって、Cu品位の高い細粒とFe品位の高い粗粒とに分離する分離工程と、を含むことを特徴とする銅精鉱の処理方法。
【請求項2】
前記硫化変換工程は、400℃〜450℃で行うことを特徴とする請求項1記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項3】
前記分離工程において、50%粒子径が5μm〜15μmの細粒と、50%粒子径が35μm〜55μmの粗粒とに分離することを特徴とする請求項1または2記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項4】
前記摩鉱工程において、湿式粉砕装置または乾式粉砕装置を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項5】
前記摩鉱工程において、ボールミル、ジェットミル、アトリッションミル、またはチューブミル、あるいはこれらの組み合わせを用いることを特徴とする請求項4記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項6】
前記選別処理において、テーブル選別機、遠心式分級機、慣性式分級機、重力式分級機、あるいはこれらの組み合わせを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項7】
前記分離工程で得られた粗粒に対して、前記摩鉱工程および前記分離工程を再度実施することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項8】
前記分離工程で得られた細粒および粗粒に対して、そのままあるいは摩鉱・粉砕してから浮遊選鉱に供することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−149320(P2012−149320A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10161(P2011−10161)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】
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