説明

銅系部材の孔食停止方法及び孔食停止剤

【課題】冷却水系などの水系に接する銅管等の銅系部材に対し、機器の運転を停止することなく孔食の進行を抑制する。
【解決手段】(A)銅に対しキレート作用を有する化合物、(B)下記式(1)で表される化合物及び/又は(C)下記式(2)で表される化合物とを添加する銅系部材の孔食停止剤。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水系などの水系に接する銅管等の銅系部材に対し、薬剤を用いて進行中の孔食を停止する方法及びそのための孔食停止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
銅は熱伝導性に優れる特性を有し、空調機器や熱交換器などの伝熱管などに広く使用されているが、これらの水系に接する銅系部材には腐食の問題がある。特に、最近の機器は高効率化が進んでおり、熱交換器に用いられる銅管の肉厚が非常に薄くなっていることから、腐食の発生は銅管の貫通漏洩につながる危険性が高い。よって、銅系部材に腐食を発生させないこと、発生した腐食を進行させないことが、機器の安定稼動、長寿命化に不可欠である。
【0003】
一般に、腐食反応は金属の溶出反応(アノード反応)と酸化剤の還元反応(カソード反応)が対になって進行する。例えば、冷却水のようなpH中性から弱アルカリ性の環境では、水中の溶存酸素が酸化剤としてカソード反応の担い手になる。
【0004】
従来、水系に接する銅系部材の腐食を抑制するために、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾールといったアゾール系の銅用防食剤を水系に添加する水処理が行われている(例えば、特許文献1,2)。冷却水系などの水系に、これらのアゾール系銅用防食剤を添加することにより、水系に接する銅系部材に対して優れた腐食抑制効果を発揮することが知られており、広く適用されている。
即ち、アゾール系の銅用防食剤は、腐食反応における金属の溶出反応(アノード反応)を抑制する効果に優れており、良好な腐食抑制効果を示す。
【0005】
しかしながら、アゾール系銅用防食剤を添加した場合においても、腐食の発生及び進行を十分に抑制できない場合もある。例えば、酸化剤の過剰添加など、何らかの原因によりアゾール系防食剤よりなる防食皮膜が局部的に破壊され、皮膜の破壊された部分からの銅の溶出をアゾール系防食剤が抑えきれない結果、皮膜破壊部が局部的なアノードとなり、腐食が進行する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−222555号公報
【特許文献2】特開平6−212459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題を解決し、冷却水系などの水系に接する銅管等の銅系部材に発生した孔食に対し、薬剤を用いてその進行を停止し、腐食の再発を効果的に抑制すること、特に、運転中の機器の銅系部材に生じた孔食に対し、機器の運転を停止することなく孔食の進行を確実に停止させることができる銅系部材の孔食停止方法及び孔食停止剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、孔食が発生し、これが進行中の銅系部材が接する水系に対し、銅に対してキレート作用を有する化合物と、水系に接した銅系部材の腐食抑制効果、特にカソード反応抑制効果に優れる化合物を添加することにより、短期間に孔食の進行を停止させ、再発を防止することが可能となることを見出した。
【0009】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
[1] 銅系部材と接する水系に対し、(A)銅に対しキレート作用を有する化合物(以下、「(A)成分」という。)と、(B)下記式(1)で表される化合物(以下、「(B)成分」という。)及び/又は(C)下記式(2)で表される化合物(以下、「(C)成分」という。)とを添加することを特徴とする銅系部材の孔食停止方法。
【0011】
【化1】

【0012】
(上記(1)式中、環Aは1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であり、Rはアルキル基又はアルケニル基を表す。ただし、含窒素不飽和5員環Aの窒素原子及び炭素原子は、R以外の任意の置換基を有していてもよい。)
【0013】
【化2】

【0014】
(上記(2)式中、Rはアルキル基又はアルケニル基を表し、X,Y,Zはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ベンジル基、ヒドロキシアルキル基、又はカルボキシアルキル基を表し、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基は塩を形成していてもよい。)
【0015】
[2] 前記(A)成分が、クエン酸及びその塩、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、並びにメチルグリシン二酢酸及びその塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする[1]に記載の銅系部材の孔食停止方法。
【0016】
[3] 前記(B)成分が、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、イミダゾリニウム塩系化合物及びイミダゾリウム塩系化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の銅系部材の孔食停止方法。
【0017】
[4] 前記(B)成分が、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインである[3]に記載の銅系部材の孔食停止方法。
【0018】
[5] 前記(C)成分が、前記(2)式中のXが水素原子で、Yがヒドロキシエチル基で、Zがカルボキシメチル基又は塩を形成したカルボキシメチル基である[1]ないし[4]のいずれかに記載の銅系部材の孔食停止方法。
【0019】
[6] 前記(1)式中のRのアルキル基又はアルケニルキル基の炭素数が6〜18であり、前記(2)式中のRのアルキル基又はアルケニル基の炭素数が6〜18であることを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載の銅系部材の孔食停止方法。
【0020】
[7] 運転中の機器の銅系部材と接する水系に、前記(A)成分と、(B)成分及び/又は(C)成分を添加することを特徴とする[1]ないし[6]のいずれかに記載の銅系部材の孔食停止方法。
【0021】
[8] 銅系部材と接する水系に対して添加することにより、該銅系部材の孔食を停止させる銅系部材の孔食停止剤であって、(A)銅に対しキレート作用を有する化合物(以下、「(A)成分」という。)と、(B)下記式(1)で表される化合物(以下、「(B)成分」という。)及び/又は(C)下記式(2)で表される化合物(以下、「(C)成分」という。)とを含むことを特徴とする銅系部材の孔食停止剤。
【0022】
【化3】

【0023】
(上記(1)式中、環Aは1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であり、Rはアルキル基又はアルケニル基を表す。ただし、含窒素不飽和5員環Aの窒素原子及び炭素原子は、R以外の任意の置換基を有していてもよい。)
【0024】
【化4】

【0025】
(上記(2)式中、Rはアルキル基又はアルケニル基を表し、X,Y,Zはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ベンジル基、ヒドロキシアルキル基、又はカルボキシアルキル基を表し、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基は塩を形成していてもよい。)
【0026】
[9] 前記(A)成分が、クエン酸及びその塩、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、並びにメチルグリシン二酢酸及びその塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする[8]に記載の銅系部材の孔食停止剤。
【0027】
[10] 前記(B)成分が、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、イミダゾリニウム塩系化合物及びイミダゾリウム塩系化合物より群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする[8]又は[9]に記載の銅系部材の孔食停止剤。
【0028】
[11] 前記(B)成分が、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインである[10]に記載の銅系部材の孔食停止剤。
【0029】
[12] 前記(C)成分が、前記(2)式中のXが水素原子で、Yがヒドロキシエチル基で、Zがカルボキシメチル基又は塩を形成したカルボキシメチル基である[8]ないし[11]のいずれかに記載の銅系部材の孔食停止剤。
【0030】
[13] 前記(1)式中のRのアルキル基又はアルケニルキル基の炭素数が6〜18であり、前記(2)式中のRのアルキル基又はアルケニル基の炭素数が6〜18であることを特徴とする[8]ないし[12]のいずれかに記載の銅系部材の孔食停止剤。
【発明の効果】
【0031】
本発明では、(A)成分の作用により、進行中の孔食に生じている腐食生成物(緑青)を溶解除去することが可能であり、孔食部の腐食性物質を除去するとともに、防食皮膜を形成可能な表面状態とすることができる。一方、(B)及び/又は(C)成分の作用により、銅表面にカソード反応抑制効果に優れる防食皮膜を形成することが可能であり、(A)成分による銅母材の腐食抑制効果と相俟って、形成された防食皮膜の効果により孔食の再発を有効に抑制することが可能となる。
【0032】
従って、本発明によれば、冷却水系などの水系に接する銅管等の銅系部材に発生した孔食に対し、薬剤を用いてその進行を効果的に停止し、腐食の再発を確実に抑制して、機器の安定稼動を維持すると共に、寿命を延長することができる。特に、本発明によれば、運転中の機器の銅系部材に生じた孔食に対し、機器の運転を停止することなく孔食の進行停止措置を図ることができ、工業的に極めて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例において、孔食の進行状況の評価に用いた評価電極を示す図であり、(a)図は正面図、(b)図は(a)図のb−b線に沿う断面図である。
【図2】実施例8,9と比較例6,7における孔食電流の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明の銅系部材の孔食停止方法及び孔食停止剤の実施の形態を詳細に説明する。
【0035】
本発明においては、以下の(A)成分と(B)成分及び/又は(C)成分とを銅系部材に接する水系に添加することを特徴とする。
【0036】
<(A)成分>
本発明に係る(A)成分は、銅に対しキレート作用を有し、銅の孔食に伴い発生した腐食生成物(緑青)を溶解除去できる物質であれば制限はなく、例えば、クエン酸及びその塩(例えばアルカリ金属塩)、エチレンジアミン四酢酸及びその塩(例えばアルカリ金属塩)、メチルグリシン二酢酸及びその塩(例えばアルカリ金属塩)が好適であり、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、特にメチルグリシン二酢酸三ナトリウムが銅に対するキレート作用に優れることから好ましい。
【0037】
<(B)成分>
本発明に係る(B)成分は、下記式(1)で表される化合物である。
【0038】
【化5】

【0039】
(上記(1)式中、環Aは1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であり、Rはアルキル基又はアルケニル基を表す。ただし、含窒素不飽和5員環Aの窒素原子及び炭素原子は、R以外の任意の置換基を有していてもよい。)
【0040】
(B)成分としては、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、イミダゾリニウム塩系化合物及びイミダゾリウム塩系化合物が挙げられ、特に、上記式(1)中のRが、疎水性の炭素数6〜18のアルキル基又はアルケニル基であるもの、とりわけRが炭素数6〜18のアルキル基であるものが好ましい。
【0041】
このような化合物としては、含窒素不飽和5員環Aに各種官能基が導入されたものを用いることも可能であり、例えば含窒素不飽和5員環Aの置換基Rが結合した炭素原子に隣接する窒素原子に、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシルアルキル基(ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基は、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等の塩を形成していてもよい。)などから選択される1種以上が導入された化合物を好適に用いることができる。
【0042】
このような化合物として、例えば2−ヘキシルイミダゾール、2−ヘプチルイミダゾール、2−オクチルイミダゾール、2−ノニルイミダゾール、2−デシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ドデシルイミダゾール、2−トリデシルイミダゾール、2−テトラデシルイミダゾール、2−ペンタデシルイミダゾール、2−ヘキサデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−オクタデシルイミダゾール、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン(アルキル基の炭素数は6〜18)、2−アルキル−N−ヒドロキシエチル−N−カルボキシラートメチルイミダゾリニウム塩(アルキル基の炭素数は6〜18)、2−アルキル−N,N−ビスヒドロキシエチルイミダゾリニウム塩(アルキル基の炭素数は6〜18)、1−メチル−1−ヒドロキシエチル−2−牛脂アルキル−イミダゾリニウム塩などが例示され、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン(アルキル基の炭素数は6〜18)が好適であり、2−ウンデシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインが特に好適である。
【0043】
これらの(B)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
<(C)成分>
本発明に係る(C)成分は、下記式(2)で表される化合物である。
【0045】
【化6】

【0046】
(上記(2)式中、Rはアルキル基又はアルケニル基を表し、X,Y,Zはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ベンジル基、ヒドロキシアルキル基、又はカルボキシアルキル基を表し、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基は塩を形成していてもよい。)
【0047】
上記式(2)中のRのアルキル基又はアルケニル基の炭素数は6〜18、特に11であることが好ましい。
【0048】
また、X,Y,Zとしては、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシエチル基、カルボキシメチル基(ヒドロキシエチル基、カルボキシメチル基はナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等の塩を形成していてもよい。)であることが好ましい。
【0049】
(C)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
また、(B)成分の1種又は2種以上と(C)成分の1種又は2種以上を(A)成分の1種又は2種以上と併用してもよい。
【0051】
<水系への添加量>
本発明に用いる(A)成分の水系への添加量は、孔食部に生じた銅の腐食生成物(緑青)を溶解除去できる濃度であれば特に制限はなく、孔食の状態、処理対象の水質などにより最適な効果を得られる濃度に調整して用いることができる。(A)成分の水系への添加濃度は、通常50〜5000mg/Lの範囲であり、好ましくは100〜4000mg/Lの範囲で使用することができる。
【0052】
(B)及び/又は(C)成分の水系への添加量は、(A)成分による銅母材の腐食を抑制可能で、銅系部材表面に防食皮膜を形成できる量であれば特に制限はなく、処理対象の水質、銅系部材の表面積などにより、最適な効果が得られる濃度に調整して用いることができる。(B)及び/又は(C)成分の水系への添加濃度は、通常0.5〜100mg/Lの範囲であり、好ましくは1〜50mg/Lの範囲で使用することができる。なお、(B)成分と(C)成分を併用する場合は、これらの合計の添加濃度が上記範囲となるようにする。
【0053】
(A)成分と(B)成分及び/又は(C)成分との添加重量比については特に制限はないが、通常、(A)成分に対して、(B)成分及び/又は(C)成分の割合が0.5〜50重量%、特に1〜20重量%程度となるように添加することが好ましい。
【0054】
<処理対象水系の条件>
本発明による処理時(即ち、(A)成分と(B)成分及び/又は(C)成分の添加時)の水系の温度(水温)としては、本発明の効果を得ることができる条件であれば特に制限はないが、5〜60℃の範囲が好ましい。また、処理時の水系のpHとしては、通常4〜11の範囲で処理が行われる。
【0055】
本発明による処理時の水系の流速についても、本発明の効果を得ることができる条件であれば特に制限はないが、通常0.1〜2m/sの範囲で処理を行う。静止条件においても処理を行うことが可能であるが、この場合には、添加した薬剤の銅系部材表面への拡散が律速となるため、添加濃度を高めるなどの措置が必要となる。
【0056】
(A)成分と(B)及び/又は(C)成分の水系への添加方法には特に制限はなく、各成分を別々に添加することも可能であり、あらかじめ(A)成分と(B)及び/又は(C)成分とを一剤に配合した水処理剤として水系へ添加することも可能である。
【0057】
本発明においては、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記(A)〜(C)成分以外の他の水処理剤、例えば防食剤、スケール防止剤、分散剤、スライムコントロール剤、剥離剤、消泡剤などを併用することが可能である。
【0058】
本発明の銅系部材の孔食停止方法は、特に運転中の機器の銅系部材と接する水系に(A)成分と(B)成分及び/又は(C)成分を添加して実施することもでき、工業的に極めて有利である。ただし、本発明の銅系部材の孔食停止方法は運転を停止した状態で行ってもよいことは言うまでもない。
【0059】
<銅系部材の孔食停止剤>
本発明の銅系部材の孔食停止剤は、前述の(A)成分と(B)成分及び/又は(C)成分とを含有するものであり、これらが一剤化されたものであってもよく、各成分が別々に提供されるものであってもよい。
【0060】
本発明の銅系部材の孔食停止剤中の各成分の含有割合には特に制限はなく、また、本発明の銅系部材の孔食停止剤は、(A)〜(C)成分以外の防食剤、スケール防止剤、分散剤、スライムコントロール剤、剥離剤、消泡剤等の他の薬剤を含むものであってもよいが、(A)成分と(B)成分及び/又は(C)成分の併用による優れた効果を十分に得るために、本発明の孔食停止剤は、(A)成分に対して、(B)成分及び/又は(C)成分の割合が0.5〜50重量%、特に1〜20重量%程度となるようにこれらを含有することが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0062】
なお、以下において用いた(A)〜(C)成分の各薬剤は以下の略号で示す。
【0063】
<(A)成分>
MG:メチルグリシン二酢酸三ナトリウム
ED:エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム
CA:クエン酸
<(B)成分>
AC:2−ウンデシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン
<(C)成分>
AA:(2)式中、Rがウンデシル基、Xが水素原子、Yがヒドロキシエチル基、Zがカルボキシメチル基の化合物
【0064】
〔実施例1〜7、比較例1〜5:緑青の溶解除去効果と腐食への影響〕
表1に示す試験水に表2に示す濃度で各薬剤を添加した調整水(ただし、比較例1では薬剤添加せず。)を1Lのビーカーに入れ、この調整水中に、以下の試験片I,IIを浸漬し、スターラーで攪拌し、水温30℃の条件で緑青の溶解除去効果と腐食への影響を調べる実験を行った。
【0065】
【表1】

【0066】
試験片I:銅の孔食が生じ、腐食生成物である緑青が発生した銅管を半割りし、
長手方向に2cmの長さとなるよう切断したもの。
試験片II:表面を#400番研磨した銅片(W30mm×L50mm×t1mm)
【0067】
試験片Iを調整水に浸漬し、試験片I表面の緑青の状態変化(緑青が除去されるか否か)を確認した。
また、試験片IIを調整水に浸漬し、浸漬前後の試験片IIの重量変化から腐食速度を求め、腐食抑制効果を評価した。
これらの結果を総合判定結果と共に、表2に示した。
【0068】
【表2】

【0069】
(A)成分と(B)及び/又は(C)成分を添加した実施例1〜7では、試験片Iの緑青が溶解除去され、試験片IIの腐食速度も低い値に抑制することができたのに対し、(A)成分のみを添加した比較例2では腐食速度が大きくなり、一方、(B)成分や(C)成分のみを添加した比較例3〜5では、試験片Iの緑青が溶解除去されない結果となった。
以上の通り、本発明により、緑青の溶解除去により防食皮膜の形成可能な表面状態を実現するとともに、防食皮膜の形成により母材が腐食しない状態を実現することができることが確認された。
【0070】
〔実施例8,9、比較例6,7:孔食停止効果〕
図1に示す構造の評価電極1を用い、孔食の進行状況を評価した。ここでは、人工的アノード2としてφ0.45mmのリン脱酸銅ワイヤーを、人工的カソード3として中心部にφ1mmの孔をあけたφ3cmのリン脱酸銅試片を用い、これらを樹脂4で絶縁して評価電極1とした。5は被覆導線である。
評価電極1の人工的アノード2の表面及び人工的カソード3の表面は#400番の研磨紙にて湿式研磨を行った。
この評価電極1を、表3に示す水質の試験水に浸漬した。
【0071】
【表3】

【0072】
ポテンショガルバノスタット(北斗電工製ポテンショスタット/ガルバノスタットHA−151A型)を用い、人工的アノード2部に所定の電流を一定時間通電する方法により、人工的アノード2部が腐食生成物で覆われた状態とする措置を行った。対極として炭素棒、照合極として飽和KCl銀塩化銀電極を用い、評価電極1の人工的アノード2部を試料極とし、人工的アノード2部に腐食生成物を発生させた。ここでは、10μAの電流を2時間通電し、人工的アノード2部が腐食生成物で覆われた状態とした。
【0073】
人工的アノード2部が腐食生成物で覆われた状態とする措置を行ったアノードは、直ちに人工的カソード3と無抵抗電流計(東方技研製ポータブル無抵抗電流計MODEL AM−03)を介して接続し、孔食進行にともなう電流を測定した。
【0074】
試験水に定期的に次亜塩素酸ナトリウムを添加し、人工的アノード2−人工的カソード3間を流れる孔食進行に伴う電流(以下「孔食電流」と表記する。)が継続して約110nA(孔食進行速度約0.8mm/yに相当)を推移する状態(孔食が進行している状態)を再現し、評価を実施した。
【0075】
このような評価において、試験水に表4に示す薬剤を表4に示す濃度で添加して(ただし、比較例6では薬剤添加せず。)、孔食電流の推移を確認した。
【0076】
【表4】

【0077】
孔食電流の推移を図2に示す。
本発明の方法による実施例8及び9では、(A)成分と(B)成分及び/又は(C)成分添加直後に孔食電流の急激な低下が認められ、その後の腐食の再発に伴う電流上昇は確認されなかった。一方、各種薬剤を添加しない比較例6では、孔食電流の低下が認められなかった。また、(C)成分のみを添加した比較例7では、緩やかな孔食電流の低下が認められたものの、短期間の孔食停止を示す電流挙動は認められなかった。
以上の通り、本発明の方法により、進行中の孔食を速やかに停止させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0078】
1 評価電極
2 人工的アノード
3 人工的カソード
4 樹脂
5 被覆導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅系部材と接する水系に対し、(A)銅に対しキレート作用を有する化合物(以下、「(A)成分」という。)と、(B)下記式(1)で表される化合物(以下、「(B)成分」という。)及び/又は(C)下記式(2)で表される化合物(以下、「(C)成分」という。)とを添加することを特徴とする銅系部材の孔食停止方法。
【化1】

(上記(1)式中、環Aは1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であり、Rはアルキル基又はアルケニル基を表す。ただし、含窒素不飽和5員環Aの窒素原子及び炭素原子は、R以外の任意の置換基を有していてもよい。)
【化2】

(上記(2)式中、Rはアルキル基又はアルケニル基を表し、X,Y,Zはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ベンジル基、ヒドロキシアルキル基、又はカルボキシアルキル基を表し、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基は塩を形成していてもよい。)
【請求項2】
前記(A)成分が、クエン酸及びその塩、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、並びにメチルグリシン二酢酸及びその塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の銅系部材の孔食停止方法。
【請求項3】
前記(B)成分が、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、イミダゾリニウム塩系化合物及びイミダゾリウム塩系化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の銅系部材の孔食停止方法。
【請求項4】
前記(B)成分が、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインである請求項3に記載の銅系部材の孔食停止方法。
【請求項5】
前記(C)成分が、前記(2)式中のXが水素原子で、Yがヒドロキシエチル基で、Zがカルボキシメチル基又は塩を形成したカルボキシメチル基である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の銅系部材の孔食停止方法。
【請求項6】
前記(1)式中のRのアルキル基又はアルケニルキル基の炭素数が6〜18であり、前記(2)式中のRのアルキル基又はアルケニル基の炭素数が6〜18であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の銅系部材の孔食停止方法。
【請求項7】
運転中の機器の銅系部材と接する水系に、前記(A)成分と、(B)成分及び/又は(C)成分を添加することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の銅系部材の孔食停止方法。
【請求項8】
銅系部材と接する水系に対して添加することにより、該銅系部材の孔食を停止させる銅系部材の孔食停止剤であって、(A)銅に対しキレート作用を有する化合物(以下、「(A)成分」という。)と、(B)下記式(1)で表される化合物(以下、「(B)成分」という。)及び/又は(C)下記式(2)で表される化合物(以下、「(C)成分」という。)とを含むことを特徴とする銅系部材の孔食停止剤。
【化3】

(上記(1)式中、環Aは1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であり、Rはアルキル基又はアルケニル基を表す。ただし、含窒素不飽和5員環Aの窒素原子及び炭素原子は、R以外の任意の置換基を有していてもよい。)
【化4】

(上記(2)式中、Rはアルキル基又はアルケニル基を表し、X,Y,Zはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ベンジル基、ヒドロキシアルキル基、又はカルボキシアルキル基を表し、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基は塩を形成していてもよい。)
【請求項9】
前記(A)成分が、クエン酸及びその塩、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、並びにメチルグリシン二酢酸及びその塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項8に記載の銅系部材の孔食停止剤。
【請求項10】
前記(B)成分が、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、イミダゾリニウム塩系化合物及びイミダゾリウム塩系化合物より群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項8又は9に記載の銅系部材の孔食停止剤。
【請求項11】
前記(B)成分が、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインである請求項10に記載の銅系部材の孔食停止剤。
【請求項12】
前記(C)成分が、前記(2)式中のXが水素原子で、Yがヒドロキシエチル基で、Zがカルボキシメチル基又は塩を形成したカルボキシメチル基である請求項8ないし11のいずれか1項に記載の銅系部材の孔食停止剤。
【請求項13】
前記(1)式中のRのアルキル基又はアルケニルキル基の炭素数が6〜18であり、前記(2)式中のRのアルキル基又はアルケニル基の炭素数が6〜18であることを特徴とする請求項8ないし12のいずれか1項に記載の銅系部材の孔食停止剤。

【図1】
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【図2】
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