説明

銅線材及びその製造方法

【課題】純銅からなり、高強度で高靭性な銅線材、この銅線材を導体とする被覆電線、及び銅線材の製造方法を提供する。
【解決手段】99.9質量%以上のCuからなる素材に冷間加工を施した後、中間熱処理を施し、得られた中間熱処理材に最終冷間加工を施して最終線径が0.1mm以上2.0mm以下の伸線材を作製し、この伸線材に最終熱処理を施す。上記中間熱処理は、この中間熱処理の直後に行う上記最終冷間加工の加工度が85%以上95%以下を満たすときに行う。最終冷間加工の加工度が特定の範囲となるように中間熱処理を施すと共に、最終冷間加工後に最終熱処理を行うことで、平均結晶粒径が20μm以下の微細な組織を有する銅線材が得られる。この銅線材は、高強度及び高靭性であり、引張強さが240MPa以上、伸びが20%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体に利用される銅線材、この銅線材の製造方法、及びこの銅線材を導体に具える被覆電線に関する。特に、純銅からなり、高強度及び高靭性な銅線材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の電気機器の電力供給線などの導体用線材には、導電性に優れる純銅からなる銅線材が利用されている。
【0003】
純銅は、導電率が高く、靭性に優れるものの、一般に強度が低い。これに対し、特許文献1は、タフピッチ銅といった酸素含有銅に微量の添加元素を含有することで、強度に優れる銅線材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-202104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように添加元素を含有することで、導体用線材の強度を高められる。しかし、添加元素の含有により、導電率や伸びといった靭性などの特性の低下を招く。従って、導電率が高いと共に、高い強度と高い靭性とを両立できる銅線材の開発が望まれる。
【0006】
そこで、本発明の目的の一つは、純銅からなり、高強度、高靭性である銅線材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、この銅線材の製造方法を提供することにある。更に、本発明の他の目的は、上記銅線材を導体とする被覆電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々の製造方法により純銅からなる銅線材を作製し、得られた銅線材において引張強さが高く、かつ伸びも高いものを調べたところ、高強度、高靭性な銅線材は、微細な結晶粒からなる微細組織を有する、との知見を得た。そして、この微細組織を有する銅線材を得るには、素材の準備→冷間加工(代表的には伸線加工)→最終熱処理と言う製造工程において、冷間加工の途中の特定の時期に中間熱処理を施すことが好ましい、との知見を得た。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0008】
本発明の銅線材の製造方法は、99.9質量%以上のCuからなる銅線材を製造する方法であって、以下の工程を具える。
99.9質量%以上のCuからなる素材に冷間加工を施す工程。
上記冷間加工が施された冷間加工材に中間熱処理を施す工程。
上記中間熱処理が施された中間熱処理材に最終冷間加工を施して、最終線径が0.1mm以上2.0mm以下の伸線材を形成する工程。
上記伸線材に最終熱処理を施して、平均結晶粒径が20μm以下、引張強さが240MPa以上、伸びが20%以上である銅線材を製造する工程。
そして、上記中間熱処理は、この中間熱処理の直後に行う上記最終冷間加工の加工度が85%以上95%以下を満たすときに行う。
【0009】
上記本発明製造方法により、以下の本発明銅線材が得られる。本発明の銅線材は、99.9質量%以上がCuからなり、線径が0.1mm以上2.0mm以下、平均結晶粒径が20μm以下、引張強さが240MPa以上、伸びが20%以上である。
【0010】
純銅からなり、最終線径が0.1mm未満といった極細の銅線材を製造する場合、従来より、冷間加工(伸線加工)途中に中間熱処理を施すことが行われている。上記中間熱処理により当該中間熱処理前の伸線加工に伴う加工歪みを除去することで、当該中間熱処理後の中間熱処理材の伸線加工性を高められ、上記のような極細の銅線材を製造することができる。特に、超極細の線材を製造する場合、銅では強度が不足するため、一般に、銅合金を利用する。銅合金では、強度が高過ぎることから伸線加工途中に中間熱処理を施さないと断線が多発して生産性の低下を招くため、伸線加工途中に中間熱処理を施すことが多い。一方、最終線径が0.1mm以上といった上記極細の銅線材よりも太い径の銅線材を製造する場合、上述のように伸線加工途中に中間熱処理を施さなくても、銅自体の延性により伸線加工が可能である。伸線加工途中に中間熱処理を施さないことで、例えば、生産性を向上できることから、このような理由により、中間熱処理を施さないことが多い。
【0011】
上述のような背景から、従来、最終線径が0.1mm〜2.0mmといった銅線材を製造するにあたり、伸線加工途中に中間熱処理を施す時期について十分に検討されていなかった。
【0012】
これに対し、本発明製造方法は、上述のように特定の時期に中間熱処理を施すことで、従来の製造方法により製造した最終線径が同じ銅線材と比較した場合、高強度で高靭性な銅線材を製造できる。また、本発明製造方法によれば、上述のように中間熱処理の時期を特定の範囲で選択することで、引張強さや伸びが異なる銅線材を製造できる。例えば、最終線径が同じ銅線材を製造する場合、上記冷間加工材の径が太いときよりも細いときに中間熱処理を施すと、引張強さ及び伸びがより高い銅線材を製造できる。このように最終線径が同じ銅線材でも、中間熱処理を施す時期によって引張強さ及び伸びが異なる銅線材を製造できるため、本発明製造方法は、多様な要望に応じた特性を有する銅線材を製造でき、工業的に有用であると期待される。
【0013】
本発明銅線材は、純銅からなることで導電率が高い上に、上述のように強度及び靭性の双方に優れることから、電線や電極線、溶接ワイヤなどの導体用線材に好適に利用することができる。以下、本発明をより詳細に説明する。
【0014】
[銅線材]
《組成》
〈母相〉
本発明銅線材を構成する純銅とは、Cuを99.9質量%以上含有するものとし、Cu以外の元素が合計で0.1質量%以下の範囲で含有することを許容する。このような純銅として、例えば、JIS H 3100(2006)に規定される無酸素銅(合金番号:C1020)、タフピッチ銅(合金番号:C1100)、りん脱酸銅(合金番号:C1201,C1220)などが挙げられる。Cu以外の元素が合計で0.1質量%超含有されると、強度が高まるものの、導電率の低下や靭性の低下を招くため、本発明では除外する。Cuの含有量が99.92質量%〜99.98質量%程度であると、電線用導体に好適に利用することができる。
【0015】
〈その他の元素:金属元素〉
Cu以外の元素として、Sn,Pb,Fe,Ag,Ni,及びZnの少なくとも1種の元素を質量割合で合計0ppm超100ppm以下(0.01質量%以下)含有すると、強度を更に高められる。所望の特性に応じて、上記元素を上記範囲で添加することができる。但し、上記元素の含有量が質量割合で合計100ppm超となると、上述のように導電率や靭性の低下を招く。特に、Sn,Pb,Fe,Niは導電率を低下させ易いため、それぞれ質量割合でSn:50ppm以下、Pb:20ppm以下、Fe:30ppm以下、Ni:20ppm以下が好ましい。これらの金属元素は、含有しなくてもよいため、含有量の下限は設けない。
【0016】
〈その他の元素:酸素〉
上記金属元素以外の元素として、酸素を質量割合で0ppm超650ppm以下(0.065質量%以下)含有していてもよい。酸素を上記範囲で含有することで、不純物元素を酸化物として析出させ、導電率の低下を抑制することができる。この効果を得る場合、酸素は、質量割合で200ppm〜400ppm程度含有することがより好ましい。一方、酸素の含有量が少ない場合、例えば、無酸素銅レベル(質量割合で10ppm程度)では、耐水素脆性に優れる銅線材とすることができる。酸素は、銅中に主として酸化銅として存在し、その含有量が多いと酸化銅が粗大となり、この粗大な酸化銅を起点として冷間加工時などで断線が生じ易いため、質量割合で650ppm以下とする。所望の特性に応じて、酸素の含有量を選択するとよい。
【0017】
〈その他の元素:不可避不純物〉
上述の金属元素及び酸素以外の元素は、不可避不純物とする。不可避不純物は、As,Bi,Sbなどが挙げられ、その含有量は質量割合で合計30ppm以下が望ましく、含有されないことが望ましいため、下限は設けない。
【0018】
《平均結晶粒径》
本発明銅線材は、平均結晶粒径が小さいことが特徴の一つであり、平均結晶粒径が20μm以下である。このような微細組織から構成されることで、本発明銅線材は、高強度でありながら、靭性にも優れる。平均結晶粒径は、最終冷間加工の加工度や最終熱処理の処理条件により調整することができ、例えば、平均結晶粒径が10μm以下といった更に微細な組織を有する銅線材とすることができる。
【0019】
《形状》
本発明銅線材は、線径(直径)を0.1mm以上2.0mm以下とする。線径がこの範囲を満たす線材であることで、冷間加工途中の特定の時期に中間熱処理を施したことによる強度及び靭性の向上の効果を十分に得ることができる。線径は、用途に応じて適宜選択するとよく、例えば、被覆電線の導体に利用する場合、線径が0.3mm以上1.0mm以下程度の銅線材が好適に利用することができる。なお、この線径は、製造工程における最終線径に実質的に等しい。
【0020】
《引張強さ及び伸び》
本発明銅線材は、引張強さが240MPa以上と高い上に、20%以上という高い伸びを有する。本発明銅線材は、このように靭性に優れることで、例えば、コイル状に曲げられる場合でも、割れなどを生じることなく容易に曲げられる。
【0021】
引張強さや伸びは、例えば、最終冷間加工時の加工度により調整することができ、当該加工度が高いほど、引張強さが大きくなる傾向にあり、当該加工度が低いほど、伸びが大きくなる傾向にある。特に、本発明では、上述のように中間熱処理を施す時期を特定の範囲で選択することで、同じ最終線径の従来の銅線材と比較した場合、本発明銅線材は、引張強さ及び伸びが大きい。所望の特性を満たすように、最終冷間加工の加工度や中間熱処理を施す時期を選択するとよい。例えば、引張強さが250MPa以上、伸びが30%以上といった更に高強度、高靭性な銅線材とすることができる。
【0022】
《導電率》
本発明銅線材は、上述のように純銅から構成されるため、導電率が高く、98%IACS以上を満たす。特に、組成によっては、99%IACS以上、更に100%IACS以上を満たす銅線材とすることができる。
【0023】
《使用形態》
本発明銅線材は、導体用線材に好適に利用することができる。上記導体は、単線、複数の本発明銅線材を撚り合せた撚り線、及びこの撚り線を更に圧縮加工した圧縮線材のいずれかの形態を適宜選択することができる。また、上記導体は、そのまま利用してもよいし、当該導体の外周に絶縁材料からなる絶縁被覆層を具える被覆電線としてもよい。
【0024】
[製造方法]
《素材の準備》
本発明製造方法では、まず、上述した組成を満たす純銅からなる素材を準備する。代表的には、原料に、高純度の電気銅を利用し、この原料を適宜な雰囲気で溶解し、得られた純銅の溶湯を鋳造して鋳造材を作製し、この鋳造材に更に熱間圧延を施したものが挙げられる。溶解雰囲気中の酸素濃度を調整したり、大気雰囲気で原料を溶解した後、酸化還元処理を適宜行ったりすることで、最終的に製造される銅線材中の酸素濃度を調整することができる。鋳造には、ツインベルト法やベルトアンドホイール法といった連続鋳造法を利用すると、鋳造材の生産性に優れる。また、連続鋳造に連続して熱間圧延を行って、素材を連続鋳造圧延材としてもよい。素材は、線径8mm〜12mm程度のものが好適に利用できる。
【0025】
《冷間加工》
次に、上記素材に冷間加工、代表的には伸線加工を施した冷間加工材を準備する。後述する中間熱処理前に行うこの冷間加工は、その総加工度を最終線径に応じて適宜選択することができる。なお、当該冷間加工材を作製するにあたり、冷間加工途中に適宜熱処理を施して、この熱処理前の冷間加工による歪を除去して、素材の冷間加工性を高めてもよい。
【0026】
《中間熱処理》
上記冷間加工材に中間熱処理を施す。この中間熱処理は、当該中間熱処理前の冷間加工による歪みを除去すると共に軟化して靭性を高めて、当該中間熱処理後に行う、特定の加工度の最終冷間加工を施し易くする。本発明製造方法は、予め最終線径を設定しておき、この最終線径から遡って、上記中間熱処理の直後に施す最終冷間加工の加工度が85%〜95%となるときに当該中間熱処理を施すことを特徴の一つとする。このように特定の時期に中間熱処理を施すことで、平均結晶粒径が小さい微細組織を有し、高強度で高靭性な本発明銅線材を製造することができる。
【0027】
上記中間熱処理、及び後述する最終熱処理には、以下のバッチ処理及び連続処理のいずれも利用できる。
【0028】
<バッチ処理>
バッチ処理とは、軟化機(雰囲気炉、例えば、箱型炉)内に予め加熱対象を入れた状態で加熱する処理方法であり、一度の処理量が限られるものの、加熱対象全体の加熱状態を管理し易いため、特に伸びの高い線材を得易い処理方法である。上記中間熱処理や最終熱処理をバッチ処理により行う場合の条件、加熱温度(容器内の雰囲気温度):200℃以上600℃以下、保持時間:30分以上が挙げられる。加熱温度が200℃未満又は保持時間が30分未満では、中間熱処理の場合、歪み除去が十分に行えず、最終熱処理の場合、強度や靭性の向上効果が十分に得られない。600℃超では、結晶粒が粗大化して、靭性が損なわれる。より好ましい条件は、加熱温度:200℃以上400℃以下、保持時間:1時間以上5時間以下である。
【0029】
<連続処理>
連続処理とは、軟化機内に連続的に加熱対象を供給して、加熱対象を連続的に加熱する処理方法であり、連続的に加熱できる点で作業性に優れる処理方法である。連続処理には、加熱対象に直接通電して加熱する直接通電方式、電磁誘導などを利用して加熱対象に間接的に通電して加熱する間接通電方式、加熱雰囲気とした加熱用容器(パイプ軟化炉)内に加熱対象を導入して熱伝導により加熱する炉式が挙げられる。特に、直接通電方式及び間接通電方式は、冷間加工工程に連続して熱処理を実施する場合でも、生産速度を高速に維持することができるため、高い生産性を実現できる。
【0030】
連続処理の場合、所望の特性(ここでは、強度及び伸び)に関与し得る制御パラメータを適宜変化させ、そのときの特性を測定し、このような測定データを予め作成しておく。そして、このデータに基づいて、所望の特性値(最終的に引張強さ:240MPa以上、かつ伸び:20%以上)が得られるようにパラメータを調整するとよい。通電方式の場合、制御パラメータは、軟化機内への供給速度(線速)、加熱対象の大きさ(線径)、電流値などが挙げられる。炉式の場合、制御パラメータは、炉内への供給速度(線速)、加熱対象の大きさ(線径)、炉の大きさ(パイプ型炉の長さ)、加熱雰囲気の温度(400〜600℃が好ましい)などが挙げられる。伸線機の伸線材の排出側に例えば、通電方式の軟化機を配置させる場合、線速は数百m/min以上、特に600m/min以上とすることで、上述の微細組織を得易い。
【0031】
《最終冷間加工》
上記中間熱処理が施された中間熱処理材に最終冷間加工を施して、最終線径:0.1mm〜2.0mmの伸線材を形成する。この最終冷間加工の加工度(断面減少率)は、85%〜95%とする。加工度が85%未満でも95%超でも、最終熱処理後の銅線材において、高い強度と高い靭性との両立を十分に望めない。
【0032】
《最終熱処理(軟化処理)》
上記最終冷間加工が施された伸線材に最終熱処理を施す。最終熱処理は、上述した中間熱処理と同様の条件を利用することができる。特定の加工度の上記最終冷間加工とこの最終熱処理とにより、微細組織を有し、高強度、高靭性な本発明銅線材が得られる。
【発明の効果】
【0033】
本発明銅線材は、導電率が高く、高強度かつ高靭性である。本発明銅線材の製造方法は、上記本発明銅線材を生産性よく製造できる。本発明被覆電線は、導電率が高く、かつ高強度及び高靭性が望まれる種々の分野の電力供給線に好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
異なる製造条件で純銅からなる銅線材を作製し、機械的特性及び組織を調べた。各試料は、素材の用意→冷間加工→(中間熱処理→最終冷間加工→)最終熱処理という手順で作製した。
【0035】
原料として電気銅地金(Cuを99.95質量%以上含有し、残部不可避不純物からなる純銅)を用意して純銅の溶湯を作製し、この溶湯を連続鋳造圧延して、直径φ8.0mmの銅荒引線(素材)を得た。溶湯は、連続溶解炉(シャフト炉)にて作製し、当該炉のバーナーの空燃比などを調整することで酸素濃度の調整を行った。連続鋳造には、ツインベルト法を利用した。
【0036】
上記銅荒引線に冷間加工(冷間伸線加工)を施した。試料No.1〜5,100,110は、冷間加工途中、表1に示す線径(mm)となったときの冷間加工材に中間熱処理を施し、その後、中間熱処理材に表1に示す最終線径(mm)まで最終冷間加工(冷間伸線加工)を施した。試料No.1,2は、中間熱処理をバッチ処理とし(加熱温度:300℃、保持時間:3時間)、試料No.1〜5は、中間熱処理を連続処理とした。一方、試料No.200,210は、上記銅荒引線に表1に示す最終線径(mm)まで冷間加工(冷間伸線加工)を施し、冷間加工途中に中間熱処理を施さなかった。
【0037】
上記最終冷間加工が施された伸線材に最終熱処理を施して、各試料とした。試料No.1〜5の中間熱処理及び最終熱処理は、通電方式の連続処理とし、上述した制御パラメータ値と測定データとの相関データを予め作成しておき、この相関データに基づいて所望の特性(伸びや引張強さなど)が得られるように制御パラメータ(線速や電流値など)を調整して施した。中間熱処理も最終熱処理も線速は、600m/min以上とした。
【0038】
最終熱処理を施して得られた各試料について、引張強さ(MPa)、伸び(%)、平均結晶粒径を測定した。その結果を表1に示す。
【0039】
引張強さ及び伸びは、JIS Z 2201(1998)の記載に準じて試験片を作製して引張試験を行って測定した。試験条件は、標点間距離GL:250mm、引張速度:50mm/min、室温とした。平均結晶粒径は、各試料について任意の断面をとり、この断面をラッピングして、市販のEBSD(Electron Back-Scatter Diffraction Patterns(電子線後方散乱回折))装置により結晶解析を行い(倍率:260倍)、この解析画像において300μm×300μmの領域の結晶粒について求めた。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、最終冷間加工の加工度が85%以上95%以下を満たすときに中間熱処理を施した試料No.1〜5は、上記加工度が上記範囲を満たさないときに中間熱処理を施した試料No.100,110と比較して、同じ線径である場合、引張強さ及び伸びが高く、平均結晶粒径が微細であることが分かる。また、これらの試料No.1〜5は、中間熱処理を施していない試料No.200,210と比較して、同じ線径である場合、引張強さ及び伸びが高く、平均結晶粒径が微細であることが分かる。更に、これらの試料No.1〜5について4端子法により導電率を測定したところ、いずれの試料も99%IACS以上であった。
【0042】
従って、最終冷間加工の加工度が特定の範囲を満たすときに中間熱処理を施し、この最終冷間加工後、最終熱処理を施すことで、導電率が高く、かつ高強度で高靭性な銅線材が得られることが分かる。そして、得られた銅線材や、この銅線材を複数撚り合せた撚り線、この撚り線を圧縮した圧縮線材は、被覆電線の導体などの導体用線材に好適に利用できると期待される。
【0043】
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。純銅の組成、中間熱処理を施す時期(素材の線径)、中間熱処理条件、最終熱処理条件、最終線径などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明銅線材は、各種の電線の導体、放電加工などに用いられる電極線、溶接材料に用いられる溶接ワイヤといった導体用線材に好適に利用することができる。本発明被覆電線は、種々の分野の電力供給線に好適に利用することができる。本発明製造方法は、上記本発明銅線材の製造に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
99.9質量%以上のCuからなる銅線材であって、
線径が0.1mm以上2.0mm以下、
平均結晶粒径が20μm以下、
引張強さが240MPa以上、
伸びが20%以上であることを特徴とする銅線材。
【請求項2】
前記銅線材は、Sn,Pb,Fe,Ag,Ni,及びZnの少なくとも1種の元素を質量割合で合計100ppm以下含有することを特徴とする請求項1に記載の銅線材。
【請求項3】
前記銅線材は、酸素を質量割合で650ppm以下含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の銅線材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅線材、或いは複数の前記銅線材を撚り合せてなる撚り線、或いは前記撚り線を圧縮してなる圧縮線材を導体とし、この導体の外周に絶縁被覆層を具えることを特徴とする被覆電線。
【請求項5】
99.9質量%以上のCuからなる銅線材を製造する銅線材の製造方法であって、
99.9質量%以上のCuからなる素材に冷間加工を施す工程と、
前記冷間加工が施された冷間加工材に中間熱処理を施す工程と、
前記中間熱処理が施された中間熱処理材に最終冷間加工を施して、最終線径が0.1mm以上2.0mm以下の伸線材を形成する工程と、
前記伸線材に最終熱処理を施して、平均結晶粒径が20μm以下、引張強さが240MPa以上、伸びが20%以上である銅線材を製造する工程とを具え、
前記中間熱処理は、この中間熱処理の直後に行う前記最終冷間加工の加工度が85%以上95%以下を満たすときに行うことを特徴とする銅線材の製造方法。
【請求項6】
前記中間熱処理及び前記最終熱処理の少なくとも一方は、通電方式の連続処理であり、線速を600m/min以上とすることを特徴とする請求項5に記載の銅線材の製造方法。

【公開番号】特開2011−111634(P2011−111634A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266656(P2009−266656)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】