説明

銅製錬炉の操業方法及び銅製錬炉

【課題】熔体中のスラグとマットとの分離を効率良く行うことができるとともに、マグネタイトが炉壁部に析出して厚く堆積することを未然に防止することができ、かつ、後工程においてマグネタイトの析出に起因するトラブルを防止することが可能な銅製錬炉の操業方法及び銅製錬炉を提供する。
【解決手段】銅精鉱やスクラップ屑等を酸化製錬して粗銅を製出する際に用いられる銅製錬炉10の操業方法であって、銅製錬炉10内には、スラグ及びマットを含む熔体が貯留されており、この熔体に対して金属還元剤を投入し、前記熔体内に前記金属還元剤を混在させることにより、前記熔体中のマグネタイト量を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅精鉱やスクラップ屑等を酸化製錬して粗銅を製出する際に用いられる銅製錬炉の操業方法及び銅製錬炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅精鉱やスクラップ屑等を製錬して粗銅を得る方法としては、例えば特許文献1に示すような自溶炉法や、特許文献2に示すような連続製銅法等が挙げられる。
特許文献1に記載された自溶炉法では、シャフト部にて酸素富化空気内で銅精鉱を酸化溶融し、得られた熔体を下部のセットラーに保持し、このセットラーにてスラグとマットとを分離する。分離されたマットは、転炉へと移送され、この転炉にて、さらに製錬処理されて粗銅が製出されることになる。
【0003】
また、特許文献2に記載された連続製銅法においては、銅精鉱を溶錬してスラグとマットとを含む熔体を生成する溶錬炉と、溶錬炉から移送された熔体を保持してスラグとマットとを分離する分離炉と、分離炉で分離されたマットを製錬して粗銅を得る製銅炉と、を備えており、これら溶錬炉、分離炉、製銅炉が樋で連結されていて、製錬処理を連続的に行う構成とされている。
【0004】
ここで、自溶炉のシャフト部や連続製銅設備の溶錬炉においては、銅精鉱の中に含まれるFe成分を酸化させるとともにフラックス中のSiOと反応させて、FeO―SiOを主成分とするスラグを発生させる。また、銅精鉱に含まれるCu成分は硫化銅の融体であるマットとして凝縮する。
このとき、銅精鉱の中に含まれるFe成分が過剰に酸化されることによって、マグネタイト(Fe)が生成されることが知られている。このマグネタイトは、スラグやマットからなる熔体に比べて融点が高いものである。
【0005】
前述の自溶炉のセットラーや分離炉においては、熔体を静置させることによって、スラグとマットとをその比重差を利用して分離する構成とされている。よって、セットラーや分離炉では、熔体の流動が抑制されており、熔体の温度が低下しやすい傾向にある。熔体の温度が低下した場合、熔体中のマグネタイトが固相として析出して炉壁部や炉底部に堆積することになる。炉壁部や炉底部にマグネタイトが厚く堆積した場合には、スラグとマットとの分離を安定して行うことができなくなってしまう。
【0006】
そこで、従来、炉壁部や炉底部にマグネタイトの堆積物が厚く形成された場合には、酸素を流通した鋼管にてランシングを行うことで、鋼管と酸素との反応熱によってマグネタイトの堆積物を溶融して除去していた。
あるいは、ランシングの際に、鉄屑やフェロシリコン(Fe−Si)を投入し、マグネタイトの堆積物に接触させることで、マグネタイトを還元して除去していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−002916号公報
【特許文献2】特開平04−183827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ランシングによってマグネタイトの堆積物を除去する場合、ランシングが過剰となって炉壁部や炉底部の耐火物を損耗させてしまうおそれがあった。炉壁部や炉底部の耐火物が著しく損耗した場合には、操業を停止して炉修を行う必要があった。
また、炉壁部や炉底部の損耗を防止するために、ランシングの頻度を少なくした場合には、マグネタイトの堆積物を十分に除去することができず、やはり、操業を安定して行うことができなくなってしまう。
【0009】
また、熔体中に溶融状態で存在するマグネタイトについては、ランシング等によって除去することはできないため、熔体中のマグネタイト量を減少させることはできなかった。
ここで、高融点のマグネタイトが熔体中に多く含まれている場合には、スラグの粘性が上昇してしまい、スラグとマットとを効率良く分離することができなくなる。この場合、マットがスラグとともに排出される「スラグロス」が発生することになり、銅製錬の効率が低下してしまう。
【0010】
さらに、セットラーや分離炉にて分離されたマットを後工程に移送した場合に、マットの温度が低下すると、マット中のマグネタイトが析出してしまい、後工程でトラブルが発生するおそれがあった。
特に、特許文献2に記載した連続製銅法では、分離炉で分離されたマットが樋を介して製銅炉へと移送されるため、この樋の部分でマット(熔体)の温度が低下してマグネタイトが析出し、マットを安定して移送することができなくなってしまうという問題があった。これに対応するために、従来は、樋をバーナー等で加熱してマグネタイトの析出を抑制したり、析出したマグネタイトをジェットランス等を用いて溶解・除去したりしていた。これらの作業は非常に煩雑であって、銅製錬の操業を効率良く行うことができなかった。
【0011】
本発明は、上述した状況に鑑みてなされたものであって、熔体中のスラグとマットとの分離を効率良く行うことができるとともに、マグネタイトが炉壁部に析出して厚く堆積することを未然に防止することができ、かつ、後工程においてマグネタイトの析出に起因するトラブルを防止することが可能な銅製錬炉の操業方法及び銅製錬炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る銅製錬炉の操業方法は、銅精鉱やスクラップ屑等を酸化製錬して粗銅を製出する際に用いられる銅製錬炉の操業方法であって、前記銅製錬炉内には、前記スラグ及び前記マットを含む熔体が貯留されており、この熔体に対して金属還元剤を投入し、前記熔体内に前記金属還元剤を混在させることにより、前記熔体中のマグネタイト量を制御することを特徴としている。
【0013】
このような構成とされた銅製錬炉の操業方法においては、銅製錬炉内に貯留された熔体に対して金属還元剤を投入し、この金属還元剤を熔体中に混在させていることから、熔体中に存在するマグネタイト(Fe)は、金属還元剤によって還元されてFeOとなり、スラグ中に排出されることになる。
よって、熔体中のマグネタイト量が減少することになり、スラグの粘性上昇が抑えられ、スラグとマットとを比重差によって効率良く分離することが可能となる。さらに、マットがスラグとともに排出される「スラグロス」を抑えることができる。
また、炉壁部や炉底部にマグネタイトが厚く堆積されることを未然に防止することができ、安定してマットとスラグとを分離できる。さらに、マット内のマグネタイト量の減少することから、マットが移送される後工程においても、マグネタイトの析出が抑制されることになり、マグネタイトの析出に起因するトラブルの発生を未然に防止することができる。
【0014】
ここで、前記銅製錬炉には、前記熔体が供給される熔体供給部が設けられており、前記熔体が供給される際に、前記熔体供給部の近傍に発生する乱流領域に対して、前記金属還元剤を投入する構成とされていることが好ましい。
分離炉やセットラーでは、上方にスラグ層が形成され、下方にマット層が形成されることになるため、単に上方から金属還元剤を投入した場合、金属還元剤の比重が軽いとスラグ層のみに添加され、金属還元剤の比重が重いとマット層のみに添加されることになり、熔体全体に金属還元剤を分散させることは困難であった。そこで、熔体が供給されることによって生じる乱流領域に向けて金属還元剤を投入することにより、投入された金属還元剤は、熔体内部において広く分散することになり、熔体内のマグネタイトを効率良く還元することが可能となる。
【0015】
また、前記金属還元剤が、廃棄物を処理して得られた回収金属であることが好ましい。
市中の廃棄ごみや産業廃棄物等は、例えばロータリーキルン炉等によって燃焼・溶融処理される。このとき、廃棄物に含まれる有価金属等が回収されることになる。この回収金属の成分は、廃棄物の種類によって異なるものの、Feを含有していることが多い。そこで、この回収金属を熔体中に投入すると、回収金属中のFe成分によってマグネタイトを還元することが可能となる。また、回収金属に含まれるAu、Ag及びCu等の有価金属についても、銅製錬工程によって回収されることになる。
【0016】
さらに、前記金属還元剤の投入量が、熔体の単位重量に対して0.15kg/t以上0.80kg/t以下であることが好ましい。
この場合、金属還元剤の投入量が、熔体の単位重量(1t)に対して0.15kg/t以上とされているので、熔体中のマグネタイト量を確実に減少させることができる。また、金属還元剤の投入量が、熔体の単位重量(1t)に対して0.80kg/t以下とされているので、炉内に投入された金属還元剤が、炉壁部や炉底部の耐火物を損耗させるおそれがなく、銅製錬炉の寿命延長を図ることができる。このように、マグネタイトが厚く堆積されることが抑制され、かつ、炉壁部や炉底部の耐火物の損耗が防止されることから、操業を安定して行うことが可能となる。
【0017】
本発明に係る銅製錬炉は、銅精鉱やスクラップ屑等を酸化製錬して粗銅を製出する際に用いられる銅製錬炉であって、前記スラグ及び前記マットを含む熔体が貯留される炉本体と、この炉本体内部に対して金属還元剤を投入する還元剤投入部と、を備えていることを特徴としている。
【0018】
このような構成とされた銅製錬炉によれば、前記スラグ及び前記マットを含む熔体が貯留される炉本体と、この炉本体内部に対して金属還元剤を投入する還元剤投入部と、を備えているので、熔体内に金属還元剤を投入することで、熔体中のマグネタイトを還元することができる。よって、熔体中のマグネタイト量が減少することになり、マグネタイトに起因するトラブルを未然に防止することができる。
【0019】
ここで、前記炉本体には、前記熔体が供給される熔体供給部が設けられており、前記還元剤投入部は、前記熔体が供給される際に前記熔体供給部の近傍に発生する乱流領域に対して、金属還元剤を投入するように構成されていることが好ましい。
この場合、熔体が供給されることによって生じる乱流領域に向けて金属還元剤を投入することができ、投入された金属還元剤を熔体内部において広く分散させて、熔体内のマグネタイトを効率良く還元することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
このように、本発明によれば、熔体中のスラグとマットとの分離を効率良く行うことができるとともに、マグネタイトが炉壁部に析出して厚く堆積することを未然に防止することができ、かつ、後工程においてマグネタイトの析出に起因するトラブルを防止することが可能な銅製錬炉の操業方法及び銅製錬炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態である銅製錬炉の操業方法の対象となる分離炉を備えた連続製銅設備の概略説明図である。
【図2】図1に示す連続製銅設備に備えられた分離炉及び製銅炉の概略説明図である。
【図3】図1に示す連続製銅設備に備えられた分離炉の側面説明図である。
【図4】図4に示す分離炉の部分拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の一実施形態である銅製錬炉の操業方法及び銅製錬炉について、添付した図面を参照して説明する。
本実施形態である銅製錬炉の操業方法の対象となる銅製錬炉は、例えば図1に示すような連続製銅設備において使用される分離炉である。
【0023】
この連続製銅設備1は、原料である銅精鉱を酸化溶融してマットMとスラグSとを有する熔体を生成する溶錬炉2と、この溶錬炉2で生成されたマットMとスラグSとを分離する分離炉10と、この分離炉10で分離されたマットMをさらに酸化して粗銅CとスラグSとを生成する製銅炉4と、この製銅炉4で生成された粗銅Cを精製して、より品位の高い銅を生成する精製炉5とを有する。これら溶錬炉2、分離炉10、製銅炉4、精製炉5は、樋6A、6B、6Cでそれぞれ連結されており、熔体が重力の作用によって溶錬炉2、分離炉10、製銅炉4、精製炉5の順に移動させられるように、この順に高低差をつけて設けられている。
【0024】
溶錬炉2は、銅精鉱を、酸素富化空気等の酸化ガス及びフラックス等とともに炉内に供給するためランス7を複数備えている。このランス7は、溶錬炉2の天井部を挿通して昇降自在に設けられている。また、溶錬炉2には、炉内から発生するガスを排出するための排出口が炉の天井部に設けられており、この排出口に、排ガスの廃熱を回収する廃熱ボイラー9が接続されている。
【0025】
分離炉10は、溶錬炉2から送り込まれた熔体中のマットMとスラグSとを比重差を利用して分離するものであって、比重の大きいマットMの層の上に比重の小さいスラグSの層が形成されるようになっている。この分離炉10には、複数の電極11が下端をスラグ中に浸漬させた状態にして挿通されている。分離炉10では、これら電極11にトランスから三相交流を入力してジュール熱を発生させることで熔体の保温を行っている。
【0026】
製銅炉4は、冷材や石灰石を、酸素富化空気等の酸化ガス等とともに炉内に供給するためのランス8を複数備えている。このランス8は、製銅炉4の天井部を挿通して昇降自在に設けられている。また、製銅炉4には、炉内から発生するガスを排出するための排出口が炉の天井部に設けられており、この排出口に、排ガスの廃熱を回収する廃熱ボイラー9が接続されている。
【0027】
この連続製銅設備1で銅を製錬するには、乾燥した銅精鉱とフラックス(硅砂、石灰等)とを酸素富化空気と共に溶錬炉2の熔体中にランス7で吹き込む。溶錬炉2では、原料の溶解と酸化反応が進行し、主成分が硫化銅及び硫化鉄の混合物からなるマットMと、銅精鉱中の脈石、溶剤、酸化鉄等からなるスラグSが生成される。
【0028】
ここで、溶錬炉2では、銅精鉱の中に含まれるFe成分を酸化させるとともにフラックス中のSiOと反応させて、FeO―SiOを主成分とするスラグSを発生させている。このとき、銅精鉱の中に含まれるFe成分が過剰に酸化されることによって、マグネタイト(Fe)が生成する。このように、溶錬炉2で生成される熔体(スラグS及びマットM)には、マグネタイトが含有されることになる。このマグネタイトは、スラグSやマットMからなる熔体に比べて融点が高いため、熔体の温度が低下した場合には、固相として析出する。
【0029】
このマットMとスラグSとを有する熔体は、樋6Aにより分離炉10に送られ、ここで比重差により下層のマットMと上層のスラグSとに分離される。
分離炉10において分離されたスラグSは、別途回収されることになる。また、溶錬炉2等で生成したSOガス等の含硫ガスは、図示しない硫酸工場へと移送され、硫酸又は石膏(CaS0)として回収される。
【0030】
一方、分離炉10で分離されたマットMは、樋6Bを介して製銅炉4に送られる。製銅炉4では、ランス8を用いてさらに空気とともにフラックスを吹き込んでマットM中の硫黄と鉄分を酸化し、純度98.5%以上の粗銅Cを得る。製銅炉4において連続的に生成された粗銅Cは、樋6Cを介して精製炉5に移送される。そして、精製炉5において粗銅Cを精製して、より品位の高い銅を生成する。
【0031】
なお、このプロセスにおいて、製銅炉4における酸化の工程では、銅の一部も酸化してスラグSaの中に取り込まれてしまう。つまり、製銅炉スラグSaには酸化鉄とともにかなりの量の酸化銅(14〜16%)が含まれる。このため、通常のプロセスでは、製銅炉スラグSaを水砕により固体粉末化し、乾燥後、溶錬炉2に回送して、原料鉱石と共に再び溶解させて銅の回収を図っている。
【0032】
次に、分離炉10について、図2から図4を参照して説明する。この分離炉10は、図2に示すように、熔体を貯留する炉本体12と、溶錬炉2と分離炉10との間に設けられた樋6Aの一端が接続されて溶錬炉10で生成された熔体が供給される熔体供給部15と、炉本体12の下方に位置するマットMを溢流させるサイフォン16と、マットMの上層に位置するスラグSを排出するスラグ排出口17と、を備えている。サイフォン16には、樋6Bの一端が接続されており、この樋6Bの他端が製銅炉4に接続されている。
【0033】
また、この分離炉10には、図3に示すように、炉本体12の上方に配置され、炉本体12に向けて金属還元剤を投入する還元剤投入装置20が設けられている。
この還元材投入装置20は、炉本体12内部に挿通された投入管24と、金属還元剤が貯留されるホッパー部21と、このホッパー部21から投入管24へと金属還元剤を移送するベルトフィーダ22と、を備えている。
投入管24は、図3及び図4に示すように、炉本体12において熔体供給部15の近傍に配設されており、熔体供給部15から熔体が供給されることによって生じる乱流領域Dに対して、金属還元剤を投入するように構成されている。
【0034】
この分離炉10では、溶錬炉2から供給される熔体を炉本体12に貯留し、比重差を利用してスラグSとマットMとに分離する。このとき、分離炉10では、電極11に三相交流を入力してジュール熱を発生させることで熔体の保温を行っていることから、熔体が流動することなく、スラグSとマットMとの分離が促進されるように構成されている。
【0035】
そして、分離炉10には、還元材投入装置20を用いて金属還元剤が連続的に投入される。ここで、本実施形態では、金属還元剤として、廃棄物を処理して得られた回収金属の砕塊を用いている。また、金属還元剤である回収金属の砕塊の投入量は、熔体の単位重量(1t)に対して、0.15kg/t以上0.80kg/t以下となるように調整されている。
【0036】
なお、金属還元剤として使用される回収金属の砕塊は、市中の廃棄ごみ、産業廃棄物である自動車のシュレッダーダストや、廃家電品、プリント基板等を、例えばロータリーキルン炉等によって燃焼・溶融処理することによって得られるものである。ロータリーキルン炉に投入された廃棄物は、可燃物が燃焼されてガス化されるとともに、金属成分を含む不燃物が溶融されて溶融スラグとなる。この溶融スラグを水砕し、篩い分けなどの選別を行うことで、金属の砕塊が回収されるのである。このようにして得られた回収金属の砕塊には、Fe、Au、Ag及びCuといった有価金属が含まれることになる。
【0037】
この回収金属の成分は、処理される廃棄物の種類によって異なるものの、Feを多く含むことになるので、回収金属の砕塊をマグネタイトの還元剤として用いることが可能である。なお、本実施形態において使用する回収金属は、Fe:50〜90wt%を含むものとされている。また、回収金属の砕塊は、粒径を3mm未満となるように細かく篩分けしてから分離炉10に投入している。
【0038】
このような構成とされた本実施形態である銅製錬炉(分離炉10)の操業方法及び銅製錬炉(分離炉10)においては、分離炉10の炉本体12内に貯留された熔体に対して、金属還元剤である回収金属の砕塊を投入し、この回収金属を熔体中に混在させているので、熔体中に存在するマグネタイト(Fe)を回収金属によって還元してFeOとし、スラグ中に排出させることが可能となる。
【0039】
このように熔体中のマグネタイト量が減少することから、スラグSの粘性上昇が抑えられ、スラグSとマットMとを比重差によって効率良く分離することが可能となる。さらに、マットMがスラグSとともに流出するスラグロスを抑えることができ、銅製錬を効率良く行うことができる。
また、熔体中のマグネタイト量が少ないことから、炉本体12内で熔体を静置させることで熔体の温度が低下したとしても、炉本体12の炉壁部12Aや炉底部12Bにマグネタイトが厚く堆積されることがない。よって、ランシングによってマグネタイトの堆積物を除去する頻度を大幅に削減することができ、炉本体12の耐火物を損耗させてしまうおそれがなく、炉本体12の寿命延長を図ることができる。
【0040】
さらに、分離炉10において分離されたマットM中のマグネタイト量も減少することになり、分離炉10の後工程である樋6Bや製銅炉4においても、マグネタイトの析出が抑制されることになる。よって、樋6Bをバーナーで加熱しておく必要がなく、かつ、析出したマグネタイトを除去するためにジェットランス等を使用する必要がない。これにより、安定した操業を行うことができる。
【0041】
また、金属還元剤である回収金属は、熔体供給部15を介して熔体が供給されることによって生じる乱流領域Dに対して投入されるので、投入された回収金属は、熔体内部において広く分散することになり、熔体内のマグネタイトを効率良く還元することが可能となる。すなわち、溶錬炉2から移送されてくる熔体の流れを利用して、回収金属を炉本体12の全体にわたって分散させているのである。
【0042】
さらに、本実施形態では、金属還元剤として使用される回収金属の砕塊を、市中の廃棄ごみ、産業廃棄物である自動車のシュレッダーダストや、廃家電品、プリント基板等を、例えばロータリーキルン炉等によって燃焼・溶融処理することによって得られたものとしている。この回収金属の砕塊には、Fe、Au、Ag及びCuといった有価金属が含まれていることから、連続製銅設備を利用することによって、廃棄物から有価金属を回収することが可能となる。
また、本実施形態において使用する回収金属は、Fe:50〜90wt%を含むものとされているので、このFe成分によって熔体中のマグネタイトを還元することができる。
【0043】
また、金属還元剤である回収金属の投入量が、熔体の単位重量(1t)に対して0.15kg/t以上とされているので、熔体中のマグネタイトを確実に還元でき、マグネタイト量を減少させることができる。また、回収金属の投入量が熔体の単位重量(1t)に対して0.80kg/t以下とされているので、炉内に投入された回収金属が、炉本体12の炉壁部12Aや炉底部12Bの耐火物を損耗させるおそれがなく、炉本体12の寿命延長を図ることができる。このように、マグネタイトが厚く堆積されることが抑制され、かつ、炉壁部12Aや炉底部12Bの耐火物の損耗が防止されることから、操業を安定して行うことが可能となる。
【0044】
さらに、回収金属の砕塊は、粒径を3mm未満となるように細かく篩分けしてから分離炉10に投入する構成としているので、回収金属が炉底部12Bの耐火物に直接接触することが抑制され、熔体中に広く分散することになり、熔体中のマグネタイト量を効率的に減少させることができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態である銅製錬炉の操業方法及び銅製錬炉について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、連続製銅設備の分離炉を対象とするものとして説明したが、これに限定されることはなく、自溶炉等の他の銅製錬炉に適用してもよい。
【0046】
また、本実施形態では、金属還元剤として、廃棄物を処理して得られた回収金属の砕塊を使用するものとして説明したが、これに限定されることはなく、フェロシリコン(Fe−Si)等、マグネタイトを還元できるものであればよい。
さらに、回収金属がFe:50〜90wt%を含むものとして説明したが、これに限定されることはなく、回収金属の成分は、マグネタイトを還元するものであれば特に制限はない。
【符号の説明】
【0047】
10 分離炉(銅製錬炉)
12 炉本体
15 熔体供給部
20 還元剤投入装置(還元剤投入部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅精鉱やスクラップ屑等を酸化製錬して粗銅を製出する際に用いられる銅製錬炉の操業方法であって、
前記銅製錬炉内には、前記スラグ及び前記マットを含む熔体が貯留されており、この熔体に対して金属還元剤を投入し、前記熔体内に前記金属還元剤を混在させることにより、前記熔体中のマグネタイト量を制御することを特徴とする銅製錬炉の操業方法。
【請求項2】
前記銅製錬炉には、前記熔体が供給される熔体供給部が設けられており、前記熔体が供給される際に、前記熔体供給部の近傍に発生する乱流領域に対して、前記金属還元剤を投入することを特徴とする請求項1に記載の銅製錬炉の操業方法。
【請求項3】
前記金属還元剤が、廃棄物を処理して得られた回収金属であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の銅製錬炉の操業方法。
【請求項4】
前記金属還元剤の投入量が、熔体の単位重量に対して、0.15kg/t以上0.80kg/t以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の銅製錬炉の操業方法。
【請求項5】
銅精鉱やスクラップ屑等を酸化製錬して粗銅を製出する際に用いられる銅製錬炉であって、
前記スラグ及び前記マットを含む熔体が貯留される炉本体と、この炉本体内部に対して金属還元剤を投入する還元剤投入部と、を備えていることを特徴とする銅製錬炉。
【請求項6】
前記炉本体には、前記熔体が供給される熔体供給部が設けられており、前記還元剤投入部は、前記熔体が供給される際に前記熔体供給部の近傍に発生する乱流領域に対して、金属還元剤を投入するように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の銅製錬炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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