説明

銅複合粒子、複合金属銅粒子、銅複合粒子の製造方法、金属ペースト、金属導体を有する物品および金属導体を有する物品の製造方法

【課題】体積抵抗率が低く抑えられたカーボンナノファイバー、カーボンナノチューブまたはカーボンナノコイルの少なくとも一種を表面もしくは内部に分散させた金属銅導体を形成できる、銅複合粒子複合金属銅粒子、該銅複合粒子または該複合金属銅粒子を含む銅ペーストおよび該銅ペーストを用いた金属銅導体を提供する。
【解決手段】カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブおよびカーボンナノコイルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する水素化銅微粒子を表面に有する銅複合粒子を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅複合粒子、複合金属銅粒子、銅複合粒子の製造方法、金属ペースト、金属導体を有する物品および金属導体を有する物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀の粉末を含む銀ペーストを基材上に所望の配線パターン状に塗布後、目的に応じて加熱乾燥、加熱硬化あるいは焼成することにより、所望の配線パターンの金属銀導体を有する様々な配線基板等を製造する方法が知られている。しかし、銀の金属導体は、イオンマイグレーションを起こしやすい。
そのため、電子機器の信頼性を考慮して、銀ペーストの代わりに銅ペーストを用いることが検討されている。銅ペーストとしては、例えば、平均粒子径1〜100nmの範囲にある銅微粒子や酸化銅微粒子と、平均粒子径0.5〜10μmの範囲にある混合銅粉と、バインダ樹脂、そして有機溶剤を添加してなる銅ペーストが提案されている(特許文献1)
【0003】
銅は酸化されやすい金属であるため、銅ペーストに使用される銅粒子の表面には容易に酸化皮膜が形成される。酸化銅は電気伝導性が低いため、銅ペーストから形成された金属銅導体は、体積抵抗率が高くなりやすいという問題があった。また、表面に酸化皮膜を有する銅粒子は銅ペーストを焼成する際に焼成が進みにくく、銅粒子同士の焼結が不充分となりやすい。これらの理由によっても、銅ペーストを加熱乾燥、加熱硬化して得られる導電体あるいは焼成してなる金属銅導体の体積抵抗率は高くなりやすい。
【0004】
前記特許文献1に記載された銅ペーストは、0.5〜10μmの混合銅粉と1〜100nmの銅微粒子や酸化銅微粒子とをバインダ樹脂等とともに混合して製造されている。銅微粒子や酸化銅微粒子の作用効果は、銅ペーストの粘度を調整すること、および、基板へ反応接着して混合銅粉を焼き締めること、にあるとされている。しかし、銅ペーストを焼成して得られる金属銅導体の電気伝導性については充分検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−021744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来のものより体積抵抗率が低く抑えられたカーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)またはカーボンナノコイル(CNC)の少なくとも一種を表面もしくは内部に分散させた金属銅導体を形成できる、銅複合粒子、複合金属銅粒子、該銅複合粒子または該複合金属銅粒子を含む銅ペーストおよび該銅ペーストを用いた金属銅導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討したところ、特定の水素化銅微粒子を銅複合粒子表面に存在させることにより前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、カーボンナノファイバー(a1)、カーボンナノチューブ(a2)およびカーボンナノコイル(a3)からなる群より選ばれる少なくとも1種(A)を含有する水素化銅微粒子(B)を表面に有する銅複合粒子;当該銅複合粒子を加熱することにより得られる複合金属銅粒子;カーボンナノファイバー(a1)、カーボンナノチューブ(a2)およびカーボンナノコイル(a3)からなる群より選ばれる少なくとも1種(A)、水溶性銅化合物(C)ならびに還元剤(D)を用いて形成される水素化銅微粒子(B)を用い、金属銅粒子(E)表面を被覆または金属銅粒子(E)表面に融着させることを特徴とする当該銅複合粒子の製造方法;当該銅複合粒子および/または当該複合金属銅粒子ならびにバインダ樹脂を含有する銅ペースト;当該銅ペーストを用いて形成された金属銅導体を有する物品;基材上に当該銅ペーストを塗布し、乾燥、硬化または焼成して形成される金属銅導体を有する物品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、体積抵抗率が低く抑えられた銅複合粒子、複合金属銅粒子および銅ペーストが得られる。本発明の銅ペーストを用いることで、体積抵抗率を低く抑えられた金属銅の導体を形成することができる。本発明により得られる銅ペーストを用いて形成した金属銅の導体が上記効果を奏する理由については、必ずしも明らかではないが、次のように推定される。すなわち、金属銅粒子粉末を含む銅ペーストを調製する直前に、金属銅粒子表面に付着する水素化銅微粒子を金属銅の微粒子に変換して、酸素との接触時間を短くすることで、金属銅粒子の酸化を防ぐことができる。さらに、金属銅粒子の表面にCNF、CNT、CNCの少なくとも1種を分散した金属銅の微粒子を付着させることで、一次粒子、二次粒子の金属銅が酸化されても、CNF、CNT、CNCの少なくとも1種が有する導電性により体積抵抗率を低く抑えられる。当該複合金属銅微粒子を銅ペーストにして、基材に塗布し、焼成して金属銅の導体を形成する際、複合金属銅粒子同士の焼結が促進されるため、CNF、CNT、CNCの少なくとも1種が有する導電性が寄与し、得られる金属銅の導体の体積抵抗率が低くなり、優れた効果を奏すると考えられる。また、粒子表面に付着させた粒子が極めて粒子径の小さい微粒子であるために、水素化銅から金属銅に低い温度で変換でき、かつ体積抵抗率が低い金属銅導体を低い温度で形成することができると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の銅複合粒子は、カーボンナノファイバー(a1)(以下、(a1)成分という)、カーボンナノチューブ(a2)(以下、(a2)成分という)およびカーボンナノコイル(a3)(以下、(a3)成分という)からなる群より選ばれる少なくとも1種(A)(以下、(A)成分という)を含有する水素化銅微粒子(B)(以下、(B)成分という)を表面に有することを特徴とする。
【0011】
当該銅複合粒子は、(A)成分、水溶性銅化合物(C)(以下、(C)成分という)ならびに還元剤(D)(以下、(D)成分という)を用いて形成される(B)成分を用い、金属銅粒子(E)(以下、(E)成分という)表面を被覆または(E)成分表面に融着させることにより得られる。
【0012】
(水素化銅微粒子)
本発明の銅複合粒子を調製する際に用いる(B)成分は、(A)成分、(C)成分、(D)成分を用いて形成される。
【0013】
(B)成分を調製する際に用いられる(A)成分としては、公知のものを用いることができる。(A)成分としては、通常、直径が1nm〜5μm程度、長さが0.1μm〜300μm程度のものを用いるが、銅複合粒子あるいは複合金属銅粒子の導電性をより高くするためには、直径が10nm〜5μm、長さが1μm〜200μmのものを用いることが好ましい。
【0014】
(B)成分を調製する際に用いられる(C)成分としては、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、水酸化第二銅等の無機酸の銅塩や、ギ酸銅、酢酸銅、長鎖脂肪酸、長鎖不飽和脂肪酸等の有機酸の銅塩等が挙げられる。
【0015】
(B)成分を調製する際に用いられる(D)成分としては、特に限定されず公知のものを用いることができる。具体的には、たとえば、金属水素化物、次亜リン酸、アミンボラン、グリオキシル酸、アスコルビン酸、システイン、チオグリコール酸等が挙げられる。金属水素化物としては、具体的には水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウム、水素化カリウム、水素化カルシウム等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中では、反応性の観点から次亜リン酸、アミンボランかが好ましい。また、高圧反応容器を使用した高圧下であれば、水素ガスも(D)成分として用いることができる。この場合には、不純物の量を抑制できるうえに、反応時間を短縮することができる。
【0016】
(B)成分は、たとえば、(A)成分を溶媒中に均一に分散させた溶液に、(C)成分および(D)成分を加え反応させることにより得られる。
【0017】
使用される溶媒としては、(C)成分が溶解し、かつ(A)成分を均一に分散できるものであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、たとえば、アミン系の有機化合物、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、メタノール等の水と混合する有機溶媒、炭化水素系溶媒、水などが挙げられる。炭化水素系溶媒を用いる場合には、2相系で使用することとなる。溶媒としては、水を単独で用いることが好ましい。
【0018】
なお、(A)成分、(C)成分、(D)成分を添加した溶液のpHは3以下であることが好ましい。水溶液のpHを3以下に調整することにより、溶液中の銅イオンと水素イオンが(D)成分により同時に還元されやすくなり、水素化銅微粒子が生成しやすくなる傾向がある。特に水溶液のpHは、水素化銅微粒子を優先的に生成できるため、0.5〜3.0がより好ましい。なお、溶液のpHを調整する酸としては、ギ酸、クエン酸、マレイン酸、マロン酸、酢酸、プロピオン酸、硫酸、硝酸、塩酸等を用いることができる。これらの中では、ギ酸が好ましい。ギ酸を用いることにより、本発明の銅ペーストは、導電性がより高い金属銅導体を形成できる。
【0019】
(C)成分から発生する銅イオンは、酸性下で(D)成分により還元され、微粒子が成長して、(B)成分が生成する。
【0020】
(A)成分を溶媒中に均一に分散させるには遊星ミルや超音波分散機などを用いて機械的に分散しても良く、γ−ブチロラクトン、ポリアクリル酸、ノルボルネン骨格を有するカルボン酸誘導体の重合物、マレイン酸系重合物、フマル酸系重合物、ヒドロキシスチレン系重合物、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンとビニルカプロラクタムのコポリマー、ポリエチレンイミンなどのアミン系有機化合物、さらには両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などの分散剤を用いて分散してもよい。これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。両性界面活性剤としては、例えばアルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド、などが挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の塩、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、アルケニルコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステル及びその塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステル及びその塩、等が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、例えばアルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。非イオン界面活性剤としては例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシアルキルアルキレンアミン、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。分散剤の使用量は特に限定されないが、通常、(A)成分100質量部に対し、0.01〜50質量部程度である。
【0021】
(C)成分の使用量は特に限定されないが、溶媒に溶解した(C)成分の濃度が、溶液100質量%中、0.1〜30質量%程度となるように調整することが好ましい。溶媒に溶解した(C)成分の濃度が0.1質量%以上とすることで、(B)成分の生産効率が良好となる。溶媒に溶解した(C)成分の濃度が30質量%以下であれば、水素化銅微粒子の収率が高くなる傾向が見られる。
【0022】
(D)成分の使用量は、(C)成分から発生する銅イオンの1.2〜10倍当量数が好ましい。(D)成分の使用量を銅イオンに対して1.2倍当量数以上とすることで、還元作用が充分となる。(D)成分の使用量を銅イオンに対して10倍当量数以下とすることで、(B)成分に含まれる不純物(ナトリウム、ホウ素、リン等。)の量を抑制できるため好ましい。なお、(D)成分は、水などの溶媒に溶解させて溶液とし、この還元剤溶液を(A)成分が分散された(C)溶液と混合してもよく、粉末などの固体状態の(D)成分を(A)成分が分散された(C)溶液に添加してもよい。
【0023】
(C)成分から発生する銅イオンを、酸性下で(D)成分により還元され、微粒子が成長させる際の条件は特に限定されないが、通常は、60℃以下が好ましく、5〜60℃がより好ましく、20〜50℃が特に好ましい。60℃以下とすることで、(B)成分の分解が抑えられる傾向がある。
得られる(B)成分の形状は球状であっても、板状であっても良い。また、(B)成分の平均粒子径は特に限定されないが、通常は、20〜350nm程度であり、30〜300nmが好ましく、50〜200nmがより好ましく、80〜150nmが特に好ましい。該水素化銅微粒子の平均粒子径を20nm以上とすることで、(B)成分の融着・成長に伴う体積収縮により金属導体に生じるクラックが発生しにくくなるため好ましい。(B)成分の平均粒子径が350nm以下とすることで、表面積が充分に増加するため、表面融解が起こりやすくなり、また、緻密な金属膜を形成できることから導電性の向上が期待できる。
【0024】
(銅複合粒子)
本発明の銅複合粒子は、(B)成分を用い、金属銅粒子(E)(以下、(E)成分という)表面を被覆または(E)成分表面に融着させることにより得られる。
【0025】
本発明の銅複合粒子を調製する際に用いる(E)成分としては、銅ペーストとして一般的に用いられる公知の銅粒子が挙げられる。本発明において、(E)成分は、特に記載がない限り、一次粒子であり、また粒子形状は、球状であっても、板状であっても良い。
【0026】
(E)成分の平均粒子径は、特に限定されないが、通常、0.1〜20μm程度であり、1〜10μmが好ましい。(E)成分の平均粒子径が0.1μm以上であれば、銅ペーストの流動特性が良好となる。(E)成分の平均粒子径が20μm以下であれば、微細配線が作製しやすくなる。なお、(E)成分の平均粒子径が10nm〜100nmを使用すれば、インクジェット、レーザープリント、レーザーエッチング、フォトエッチングなど各種印刷方式で印刷する導電性ナノインクあるいはペーストにも利用することができる。
【0027】
(E)成分の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡によって無作為に選ばれた100個の金属銅粒子を測定し平均することにより算出して決定したものである。
【0028】
本発明の銅複合粒子は、(E)成分に対して通常5〜50質量%、好ましくは10〜35質量%の(B)成分を用いて得られる。(B)成分の使用量を5質量%以上とすることで、金属銅粒子間の導電パスを増やすことができ、金属導体の体積抵抗率が低く抑えられる。(B)成分の使用量を50質量%以下とすることで、微粒子の添加に伴う銅ペーストの流動性を向上させることができる。
【0029】
本発明の銅複合粒子は、(B)成分を調製後、(E)成分表面を(B)成分を用いて被覆しても、(B)成分を調製後、(E)成分表面に(B)成分を融着させることによっても得られるが、(B)成分を調製する際に、(E)成分を存在させておいてもよい。なお、(E)成分の添加は水溶性銅化合物溶液中に銅イオンが存在している段階で行うことが好ましい。銅イオンが存在していることは銅イオン電極や原子発光スペクトルによって銅イオン濃度を直接測定するだけでなく、水溶液の酸化還元電位を測定することによっても把握することができる。金属銅粒子の添加は反応系の酸化還元電位が100〜300mVSHEの範囲のときに行うことが好ましい。なおSHEとは標準水素電極を意味し、測定された酸化還元電位が標準水素電極を基準にして測定したことを表す。なお、本発明において酸化還元電位は全て標準水素電極を基準にして測定した値である。
【0030】
(B)成分を用い、(E)成分表面を被覆または(E)成分表面に融着させる際の温度は、60℃以下が好ましく、5〜60℃程度がより好ましく、20〜50℃が特に好ましい。反応系の温度を60℃以下とすることで、(B)成分の分解が抑制される傾向がある。
【0031】
(E)成分を加えるときの反応系に含まれる銅イオンの存在量は、還元剤を加える前の水溶性銅化合物溶液中のおける銅イオンの存在量(水溶性銅化合物は全てイオン化しているものとする)に対して、1〜100質量%が好ましく、5〜100質量%がより好ましい。
【0032】
反応系に銅イオンが存在している状態で(E)成分を加えることによって(E)成分と(B)成分とが共存した状態で銅イオンを還元することができ、(E)成分と(B)成分とが強固に結合するため好ましい。
【0033】
当該反応液から遠心分離、ろ過等の操作を行うことで、銅複合粒子を粉末状態で得られる。分離された銅複合粒子の粉末は、必要により、洗浄等を行って精製することができる。また、分離に先立ち、溶媒置換などで反応系の溶媒やその溶媒に溶解している不純物(水溶性銅化合物の陰イオンや還元剤の分解物など)を除去することもできる。特に、反応系から分離した後の銅複合粒子の粉末を水などの洗浄し、銅複合粒子に付着している溶解性不純物を除去することが望ましい。
【0034】
得られた銅複合粒子は、(B)成分が(E)成分の表面に付着したものである。
(E)成分の表面に(B)成分が付着していることは、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと記す。)像を観察し、金属銅粒子の表面の少なくとも一部に複数の(B)成分が付着していることから確認できる。
なお、本発明において、(E)成分の表面に付着した(B)成分の同定は、X線回折装置にて行うことができる。
【0035】
(複合金属銅粒子)
複合金属銅粒子は、上記のようにして得られた銅複合粒子を加熱して銅複合粒子に含まれる(B)成分を金属銅に変換することにより得られる。なお、(B)成分の大きさと生成する金属銅微粒子の大きさは実質的に変わらないため、生じる金属銅微粒子の平均粒子径は、(B)成分の平均粒子径とほぼ一致し、複合金属銅粒子の粒子径は銅複合粒子の粒子径とほぼ同じである。
【0036】
銅複合粒子の加熱は、−101〜−50kPaの減圧下で行うことが好ましい。
該圧力が−101kPa以上であれば、大規模な装置を必要とせずに余分な溶媒(通常は水)を除去して乾燥させることができ、該圧力が−50kPa以下であれば、乾燥させるのに要する時間が短く、製造コストを抑えることができる。
なお、加熱温度は60〜120℃である。該温度が60℃以上であれば、時間を短くできるため製造コストを抑えることができる。また該温度が120℃以下であれば、金属銅微粒子同士の融着を抑制でき、金属銅導体を形成させた際に、体積抵抗率の増加を抑えることができる。なかでも、加熱温度は60〜100℃が好ましく、60〜90℃がより好ましい。
【0037】
加熱後の残存水分量は3質量%以下とすることが好ましく、1.5質量%以下とすることがより好ましい。
【0038】
(銅ペースト)
本発明の銅ペーストは、銅複合粒子および/または複合金属銅粒子と、バインダ樹脂を含有する。バインダ樹脂としては、金属ペーストに用いられる公知のバインダ樹脂等が挙げられる。なお、銅ペーストの製造の際に通常は銅複合粒子や複合金属銅粒子が120℃を超える温度に加熱されることはないが、加熱温度は120℃以下とすることが金属銅微粒子同士の融着の抑制のために好ましい。
金属ペーストを調製する際に用いられるバインダ樹脂としては、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0039】
光硬化性樹脂としては、公知のものを使用することができる。具体的には、ラジカル重合性モノマーやラジカル重合性オリゴマーなどのアクリル系のものやエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0040】
熱硬化性樹脂としては、公知のものを使用することができる。具体的には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、オリゴエステルアクリレート樹脂、キシレン樹脂、ビスマレイドトリアジン樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂、オキサジン樹脂等が挙げられ、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、オキサジン樹脂が好ましい。
【0041】
熱可塑性樹脂としては、公知のものを使用することができる。具体的には、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ケトン樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0042】
銅ペースト中のバインダ樹脂の量は、銅複合粒子や複合金属銅粒子の体積とそれら粒子間に存在する空隙との比率に応じて適宜選択すればよく、通常、銅複合粒子や複合金属銅粒子に対して、5〜50質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。バインダ樹脂の量が5質量%以上であれば、ペーストの流動特性が良好となる。バインダ樹脂の量が50質量%以下であれば、金属導体の体積抵抗率が低く抑えられる。
【0043】
銅複合粒子とバインダ樹脂とを混合して銅ペーストを製造する場合には、銅複合粒子を60℃以上に加熱することにより銅複合粒子を複合金属銅粒子とすることができ、複合金属銅粒子を含む銅ペーストが得られる。なお、銅複合粒子とバインダ樹脂とを混合する際に銅複合粒子が複合金属銅粒子に変換されなかったとしても、その混合時点以降に銅複合粒子を60℃以上に加熱することにより複合金属銅粒子を有する銅ペーストを得ることができる。これら銅ペーストの製造の際の加熱温度やその後の加熱温度は60〜120℃が好ましく、60〜90℃がより好ましい。
【0044】
本発明の銅ペーストは、必要に応じて、溶媒、公知の添加剤(レベリング剤、カップリング剤、粘度調整剤、酸化防止剤等。)を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでもよい。
【0045】
(金属銅導体)
本発明の金属銅導体は、基材と、該基材上に、本発明の銅ペーストを塗布、焼成して形成される金属銅からなる導体をいう。
【0046】
基材としては、ガラス基板、プラスチック基材(ポリイミド樹脂基板、熱可塑性ポリエステル樹脂基板等。)、繊維強化複合材料(ガラス繊維強化樹脂基板等。)等が挙げられる。
【0047】
塗布方法としては、スクリーン印刷、ロールコート法、エアナイフコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、スライドコート法等の公知の方法が挙げられる。乾燥、硬化あるいは焼成方法としては、温風加熱、熱輻射等の方法が挙げられる。
【0048】
乾燥、硬化あるいは焼成する温度および時間は、バインダ樹脂の物性や金属導体に求められる特性に応じて適宜決定すればよい。なかでも焼成温度は、100〜300℃が好ましい。焼成温度が100℃以上であれば、複合金属銅粒子の焼結が進行しやすくなる。焼成温度が300℃以下であれば、金属導体を形成する基材としてプラスチックフィルムを用いることができる。
【0049】
金属銅導体の体積抵抗率は、100μΩcm以下が好ましい。体積抵抗率が100μΩcmを超えると、電子機器用の導電体としての使用が困難となる場合がある。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0051】
実施例1
ガラス容器内にて、蒸留水1000gにカーボンナノファイバー10g(R−A301、帝人化成(株)製)とポリアクリル酸0.13g(重量平均分子量5000)を加え均一に攪拌しながら分散し、蒸留水400gに酢酸銅(II)水和物の115gを溶解した酢酸銅水溶液と、蒸留水100gのギ酸30gを溶解した水溶液を滴下した。該水溶液のpHは2.7であった。
該水溶液を撹拌しながら、該水溶液を40℃に加熱し、50質量%の次亜リン酸水溶液の180gを添加した。添加後5分で水溶液の色が青色から緑色、褐色へと変化した。そのまま40℃で30分間攪拌した後、金属銅粉末(日本アトマイズ加工社製、HCX−Cu、平均粒子径:5μm)100gを添加し、さらに40℃で30分間攪拌した。金属銅粉末を添加する直前の水溶液の酸化還元電位は280mVSHEであった。
攪拌後にろ過によって粉末を回収して、蒸留水で3回洗浄を行った。洗浄後の粒子をX線回折で同定したところ、金属銅とカーボンナノファイバーが表面もしくは内部に分散された水素化銅を含む粒子(銅複合粒子)であることを確認した。得られた銅複合粒子における該水素化銅微粒子の量は、金属銅粒子に対して25質量%であった。洗浄後の銅複合粒子の粉末をナスフラスコに移して、−98kPa、80℃で60分間加熱してカーボンナノファイバーが表面もしくは内部に分散した金属銅の微粒子が付着した金属銅粒子を得た。
非晶質ポリエステル樹脂(東洋紡績(株)製、バイロン103)0.135gをシクロヘキサノン(純正化学社製、特級)0.315gに溶解して樹脂バインダ溶液0.45gを得た。このバインダ溶液樹脂0.45gに、カーボンナノファイバーが表面もしくは内部に分散した複合金属銅粒子粉末1.2gを加えて、混ぜ合わせて銅ペーストを得た。非晶質ポリエステル樹脂の添加量は複合金属銅粒子の粉末に対して、11.3質量%であった。
銅ペーストをガラス基板に塗布し、窒素ガス雰囲気下、150℃で1時間焼成し、厚さ30μmの金属銅膜を形成し、金属銅膜の体積抵抗率を測定した。
【0052】
実施例2
50質量%次亜リン酸水溶液を添加する前に酢酸銅(II)水和物の水溶液に金属銅粒子を添加した以外は、例1と同様にして複合金属銅粒子を得た。金属銅粒子を添加する直前の酢酸銅(II)水和物の水溶液の酸化還元電位は290mVSHEであった。洗浄後の金属銅粒子の表面にはカーボンナノファイバーが表面もしくは内部に分散した水素化銅微粒子が付着していた。また得られた銅複合粒子における水素化銅微粒子の量は、金属銅粒子に対して23質量%であった。複合金属銅粒子表面の金属銅微粒子の平均粒子径は50nmであり、複合金属銅粒子の平均粒子径は5μmであった。
該複合金属銅粒子を用いた以外は、例1と同様にして銅ペーストを調製し、カーボンナノファイバーを含有する金属銅膜を形成し、体積低効率を測定した。
【0053】
実施例3
50質量%の次亜リン酸水溶液を添加した後、15分後に金属銅粒子を添加した以外は、例1と同様にして複合金属銅粒子の粉末を得た。金属銅粒子を添加する直前の酸化還元電位は285mVSHEであった。洗浄後の金属銅粒子の表面にはカーボンナノファイバーが表面もしくは内部に分散した水素化銅微粒子が付着していた。また得られた銅複合粒子における水素化銅微粒子の量は、金属銅粒子に対して25質量%であった。複合金属銅粒子表面の金属銅微粒子の平均粒子径は70nmであり、複合金属銅粒子の平均粒子径は5μmであった。
該複合金属銅粒子を用いた以外は、例1と同様にして銅ペーストを調製し、カーボンナノファイバーを含有した金属銅膜を形成し、体積抵抗率を測定した。
【0054】
比較例1
カーボンナノファイバーを添加しないこと以外は実施例1〜3と同様な操作を行い、銅ペーストを調整し、金属銅膜を形成し、体積抵抗率を測定した。
【0055】
以上の実施例1〜3で得られたカーボンナノファイバーを含有した金属銅膜と比較例1で得られた金属銅膜の体積抵抗率を比較したところ、実施例1〜3で得られたカーボンナノファイバーを含有する金属銅膜の方が体積抵抗率は低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノファイバー(a1)、カーボンナノチューブ(a2)およびカーボンナノコイル(a3)からなる群より選ばれる少なくとも1種(A)を含有する水素化銅微粒子(B)を表面に有する銅複合粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の銅複合粒子を加熱することにより得られる複合金属銅粒子。
【請求項3】
カーボンナノファイバー(a1)、カーボンナノチューブ(a2)およびカーボンナノコイル(a3)からなる群より選ばれる少なくとも1種(A)、水溶性銅化合物(C)ならびに還元剤(D)を用いて形成される水素化銅微粒子(B)を用い、金属銅粒子(E)表面を被覆または金属銅粒子(E)表面に融着させることを特徴とする請求項1に記載の銅複合粒子の製造方法。
【請求項4】
金属銅粒子(E)の一次平均粒子径が、0.1〜20μmである請求項3に記載の銅複合粒子の製造方法。
【請求項5】
水素化銅微粒子(B)の平均粒子径が20〜350nmである請求項3または4に記載の銅複合粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の銅複合粒子および/または請求項2に記載の複合金属銅粒子ならびにバインダ樹脂を含有する銅ペースト。
【請求項7】
請求項6に記載の銅ペーストを用いて形成された金属銅導体を有する物品。
【請求項8】
基材上に請求項6に記載の銅ペーストを塗布し、乾燥、硬化または焼成して形成される金属銅導体を有する物品の製造方法。

【公開番号】特開2013−67854(P2013−67854A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223378(P2011−223378)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(591153983)ペルノックス株式会社 (5)
【Fターム(参考)】