説明

銅赤ガラス

【課題】再加熱処理を行うことなく良好な赤色に安定して発色する赤色ガラスを開発する。
【解決手段】CuをCu2O換算で0.025〜0.085mol%、SをSO3換算で0.023〜0.078mol%、鉄をFe2O3換算で0.01〜0.13mol%含み、かつ、CuとSの量の比がCu2O換算モル値/SO3換算モル値で0.70〜1.50、FeとSの量の比がFe2O3換算モル値/SO3換算モル値で0.2以上含む銅赤ガラスである。ガラス中の銅、硫黄、鉄の量をこのように構成することで、主波長(λd)が593〜625nmの良好な赤色を呈する銅赤ガラスを、再加熱処理を行うことなく、優れた再現性をもって製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスびん、食器、花器、板ガラスなどとして広く使用することができる赤色に発色させたソーダ石灰ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、清澄剤である芒硝を0〜0.3kg/砂100kgに制限し、ガラス中の硫黄成分を極力少なくすることで、還元状態におけるアンバー色を抑え、再加熱処理を行うことなく、赤色に発色させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−44280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に開示されている技術は、再加熱処理を行うことなく赤色ガラスを得ることは可能であるが、赤色の発色が不安定で、ときとして赤色が薄くなったり、茶色がかったりする場合があった。
本発明は、再加熱処理を行うことなく良好な赤色(いわゆる銅赤、レッドネスレシオで5.0〜24.0)に安定して発色する赤色ガラスを開発することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔請求項1〕
本発明は、CuをCuO換算で0.025〜0.085mol%、SをSO換算で0.023〜0.078mol%、鉄をFe換算で0.01〜0.13mol%含み、かつ、CuとSの量の比がCuO換算モル値/SO換算モル値で0.70〜1.50、FeとSの量の比がFe換算モル値/SO換算モル値で0.2以上であることを特徴とする銅赤ガラスである。
ガラス中の銅、硫黄、鉄の量をこのように構成することで、主波長(λd)が593〜625nmの良好な赤色を呈する銅赤ガラスを、再加熱処理を行うことなく、優れた再現性をもって製造できる。
【0006】
〔請求項2〕
また本発明は、CuをCuO換算で0.034〜0.065mol%、SをSO換算で0.029〜0.06mol%、鉄をFe換算で0.01〜0.13mol%含み、かつ、CuとSの量の比がCuO換算モル値/SO換算モル値で0.78〜1.45、FeとSの量の比がFe換算モル値/SO換算モル値で0.2以上であることを特徴とする銅赤ガラスである。
ガラス中の銅、硫黄、鉄の量をこのように構成することで、主波長(λd)が600〜625nmのさらに良好な赤色を呈する銅赤ガラスを、再加熱処理を行うことなく、優れた再現性をもって製造できる。
【0007】
〔請求項3〕
また本発明は、2mm厚さにおける波長700nmの透過率を波長600nmの透過率で除した値であるレッドネスレシオが5.0〜24.0である請求項1又は2に記載の銅赤ガラスである。
本発明によれば、レッドネスレシオが5.0〜24.0の良好な銅赤色を呈するガラスを安定して製造することができる。
【0008】
本発明において、ガラス中のCuOの量はCuO換算で0.025〜0.085mol%が好ましく、さらに好ましくはCuO換算で0.034〜0.065mol%である。CuOの量が少なすぎると、着色成分である銅コロイドが減り発色に至らない。多すぎるとコスト高になる。
本発明において、銅赤ガラスに使用する量は従来よりもきわめて少量でよい。例えば、前記特許文献1における銅の量(CuO換算)は0.5〜0.9mass%(mol換算すると0.35〜0.63mol%)程度である。
【0009】
ガラス中のSの量(SO換算値)は0.023〜0.078mol%が好ましく、さらに好ましくは0.029〜0.06mol%である。S成分の原料は芒硝の他、硫化亜鉛、硫化鉄等の硫化物の形で添加してもよい。ガラス中のS(SO換算値)の量が少なすぎると、核である硫化物の生成量が減り、銅コロイドが析出しなくなり、再加熱処理が必要になる。多すぎると、CuSやFeSなどの硫化物の生成量が多くなりアンバー発色してしまう。
【0010】
ガラス中のFeの量(Fe換算)は0.01〜0.13mol%、FeとSの量の比はFe換算モル値/SO換算モル値で0.2以上が好ましい。Feが0.01mol%よりも少なく、Fe換算モル値/SO換算モル値で0.2よりも少ないと、Sの量が十分であっても赤色の発色がきわめて薄いものとなり、Sの量が不十分であれば全く赤色に発色しない。Feの量を0.13mol%よりも多くすることは無駄であり、また赤色部分の透過率が低くなって暗い色になる。
茶色(アンバー色)に発色する。
【0011】
本発明は、ガラス中のCuとSの量の比がCuO換算モル値/SO換算モル値で0.70〜1.50であることを特徴とする。さらに好ましくは0.78〜1.45である。本発明において、再加熱処理を行うことなく良好な赤色を安定して得るためには、CuとSの量の比が重要であることが発見された。
【0012】
Cu、S、Fe以外のガラス組成は、通常のソーダ石灰ガラスと同じでよい。例えば、SiOは69〜75wt%、Alは0.5〜3.1wt%、NaO、KOなどのアルカリ金属酸化物は合計13〜17wt%、CaO、MgOなどのアルカリ土類金属は合計5〜14wt%とすることができる。また、必要に応じてSnO、ZnOなどの金属酸化物を添加してもよい。
【0013】
表1は、ガラス中のCu、Feの量を固定し、Sの量の比を変化させた場合の色の変化を調べた結果である。CuとSの量は、それぞれCuO換算モル%、SO換算モル%で表している。
また、図1は表1をグラフにしたものである。
【0014】
【表1】

【0015】
表1及び図1から明らかなように、Cuに対してSが少なすぎるとガラスの色は青色になり、多すぎると茶色になる。
図1において、主波長(λd)593〜625nmの良好な赤色(銅赤)となるとためのCuO換算mol値/SO換算モル値は1.50〜0.70である。また、主波長(λd)600〜625nmのさらに良好な赤色(銅赤)となるためのCuO換算mol値/SO換算モル値は1.45〜0.78である。
したがって、CuとSの量の比をこの範囲とすることで、良好な銅赤ガラスを安定して得ることができる。
【0016】
その理由として、ガラスが赤色に発色する原因となる銅コロイドは、核となる物質の周りに金属銅が析出して成長すると考えられ、ガラス中のCuとSの量の比が適度であれば、核となるCuSやFeSの量が適度となり、銅コロイドが順調に生成されて良好な赤色に発色するが、Cuに対してSの量が少なすぎると、核になる物質が少なくなって銅コロイドの生成が不十分となり、赤色が薄くなったり赤色に発色せずに青色となったりし、Cuに対してSの量が多すぎるとガラス中のCuSの量が多くなりすぎ、茶色系の色となってしまうと考えられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の銅赤ガラスは、再加熱処理を行うことなく安定して銅赤色に発色するので、歩留まりよく製造することができる。また、使用する銅の量が少なくてよいので、従来よりも低コストとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】CuO/SO換算モル比とガラスの色の関係の説明図である。
【図2】比較例のガラスの光透過率曲線である。
【図3】実施例1のガラスの光透過率曲線である。
【図4】実施例2のガラスの光透過率曲線である。
【図5】実施例6,10,11及び比較例2の透過率曲線である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0019】
表2のガラス組成となるように原料を調合し、1450℃の電気炉で1時間溶融し、攪拌を行った後に、さらに1時間溶融した。できたガラスは600℃の徐冷炉に投入後、常温になるまで自然放冷を行って比較例及び、硫黄成分を芒硝で添加した実施例1、硫黄成分を硫化亜鉛で添加した実施例2のガラスを作成した。
【0020】
【表2】

【0021】
比較例の光透過率曲線を図2に示す。
比較例は、CuO/SO換算モル比が所定の範囲より大きく、ガラス中のSの量がCuの量に対して不足しているため、核になる物質が少なくなって銅コロイドの生成が不十分となり赤色に発色しなかった。
【0022】
実施例1の光透過率曲線を図3に、実施例2の透過率曲線を図4に示す。
実施例1、2は、共に、CuO/SO換算モル比が所定の範囲であるので、良好な銅赤ガラスとなっている。
【0023】
次に、CuとSの量、及びCuO換算モル値/SO換算モル値をほぼ一定にし、Feの量を種々に変化させ、表3の実施例3〜11及び表4の比較例2,3を作成した。なお、表3,4において、透過率、主波長及び刺激純度の換算厚みは2mmである。
また、赤色の鮮やかさを表す指標としてレッドネスレシオを記載した。これは、2mm厚さにおける波長700nmの透過率と波長600nmの透過率の比(波長700nmの透過率/波長600nmの透過率)で、数値が大きいほど鮮やかな赤となり、良好な赤色は概ね5.0以上である。
【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
実施例3〜11は、いずれもFeの量、及びFe換算モル値/SO換算モル値が適正であるため、好ましい赤色に発色した。
比較例2,3は、いずれもFeの量、及びFe換算モル値/SO換算モル値が少なすぎるため、きわめて薄い赤色となった。
【0027】
図5は、実施例6,10,11及び比較例2の透過率曲線である。符号1が実施例6(Fe=0.017mol%)、符号2が実施例10(Fe=0.0864mol%)、符号3が実施例11(Fe=0.1274mol%)、符号4が比較例2(Fe=0.0065mol%)
Feの量が多くなってもガラスは赤色を呈するが、多くなるにしたがって赤色領域の透過率が低くなり、暗い赤色になる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuをCuO換算で0.025〜0.085mol%、SをSO換算で0.023〜0.078mol%、鉄をFe換算で0.01〜0.13mol%含み、かつ、CuとSの量の比がCuO換算モル値/SO換算モル値で0.70〜1.50、FeとSの量の比がFe換算モル値/SO換算モル値で0.2以上であることを特徴とする銅赤ガラス。
【請求項2】
CuをCuO換算で0.034〜0.065mol%、SをSO換算で0.029〜0.06mol%、鉄をFe換算で0.01〜0.13mol%含み、かつ、CuとSの量の比がCuO換算モル値/SO換算モル値で0.78〜1.45、FeとSの量の比がFe換算モル値/SO換算モル値で0.2以上であることを特徴とする銅赤ガラス。
【請求項3】
2mm厚さにおける波長700nmの透過率を波長600nmの透過率で除した値であるレッドネスレシオが5.0〜24.0である請求項1又は2に記載の銅赤ガラス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−241118(P2011−241118A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115017(P2010−115017)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000222222)東洋ガラス株式会社 (102)
【Fターム(参考)】