説明

銅転炉ダストの処理方法

【課題】銅転炉ダストの処理において、鉛の分離処理後の残渣中における銅の含有量を低減し、銅の回収コストを下げることを目的とする。
【解決手段】銅転炉ダストの処理方法は、硫酸を加え、エアーおよび、または蒸気を吹き込むことにより、銅転炉ダスト中の酸不溶解の金属を除去する酸化、酸浸出処理と、浸出処理後の浸出液を硫化し、銅、及び砒素を回収する硫化処理と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅製錬で排出される転炉ダストの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬の操業では、熔錬炉において溶解したマットを転炉へ移し、転炉で粗銅を製錬する。この粗銅の製錬処理において転炉ダストが排出される。この転炉ダストには、銅が5〜20mass%程度、砒素が2〜4mass%程度、カドミウムが2〜10mass%程度含まれており、希硫酸で浸出した後、溶け残る鉛などと分離される。この浸出後の液中には、銅、砒素、カドミウム、亜鉛、鉄などが溶解している。この溶液から中和処理と硫化処理とを行い、各金属を分離回収する処理方法が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−25763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1の処理において、銅、砒素、カドミウムなどの酸溶性金属は浸出液中に溶け出すが、溶け残る浸出滓中にも銅が残存してしまう。このような浸出滓中から銅の分離回収を行うにはコストがかかるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、酸不溶解の金属を分離する処理における浸出残渣中の銅の含有量を低減し、銅の回収コストを低下することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決する本発明の銅転炉ダストの処理方法は、硫酸を加え、エアーまたは蒸気を吹き込むことにより、銅転炉ダスト中の酸不溶解の金属を除去する酸化、酸浸出処理と、前記浸出処理後の浸出液を硫化し、銅、及び砒素を回収する硫化処理と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
このような処理を行うことにより、酸化、酸浸出処理時の処理溶液に振動を与え、銅、及び砒素の溶解を促し、浸出後液への銅の含有量を増加することができる。このため、浸出残渣から銅を回収するコストを低減できる。また、その後に行われる硫化処理において銅の回収量を増加することができる。なお、酸不溶解の金属は、例えば、鉛、ビスマス、アンチモン等の銅鉱石中に含まれるものである。
【0008】
また、銅転炉ダストの処理方法は、前記酸化、酸浸出処理において、処理溶液にエアーおよび、または蒸気を吹き込み、当該処理溶液の温度を60℃以上とすることができる。さらに、この銅転炉ダストの処理方法は、前記酸化、酸浸出処理において、処理溶液1Lに対し、エアーを0.5L/min以上で10時間以上吹き込むことができる。吹き込むエアーまたは蒸気の温度が60℃以上である場合、またはエアー供給量が0.5L/min以上で10時間以上吹き込む場合、処理溶液における酸不溶解の金属と酸溶解の金属の分離が促進される。
【0009】
また、銅転炉ダストの処理方法では、前記硫化処理は下記(1)式を満たすように、硫化水素ナトリウム及び/又は硫酸を添加することができる。
(銅のモル数) + 3/2(砒素のモル数) ≦ (硫黄のモル数)(1)
【0010】
上記(1)式を満たすことにより、硫化処理において処理溶液中の銅イオン、及び砒素イオンのいずれもが硫化物イオンと結合するため、硫化処理後の溶液中から銅、砒素を漏れなく回収することができる。これにより、銅の回収量を増加できる。また、硫化後液中に銅、砒素が含まれていないため後処理が容易になる。
【0011】
また、銅転炉ダストの処理方法では、pHが2.0を超えてしまうと十分に硫化処理が行われず、処理後液に銅、砒素が残存してしまうことがある。このため、前記硫化処理は溶液のpHを2.0以下とすることができる。
【0012】
上記、銅転炉ダストの処理方法では、前記硫化処理は溶液のpHを0.2以上とすることができる。このようなpHを選択することにより、硫化処理後に行われる中和工程での中和剤の使用量を抑制することができる。
【0013】
また、前記硫化工程後の処理液のORPは、90mV以上150mVの範囲になるように処理することができる。硫化工程で銅、砒素、中和工程でカドミウム、亜鉛がうまく分離できるのが好ましい。これらの金属は、銅、砒素、カドミウム、亜鉛の順に硫化しやすいが、150mV以上だと液中に砒素が残り、中和物へ混入してしまい、90mV以下だとカドミウムが硫化物に混入してしまう。このため、ORP電位を90mV以上150mV以下として、分離効率を良好とする。
【0014】
さらに、上記の銅転炉ダストの処理方法は、前記第2処理により得られた溶液を中和し、カドミウム、及び亜鉛を分離する第3処理と、前記第3処理で分離されたカドミウムと亜鉛とを有機溶媒で分離する第4処理と、を備えることができる。このような処理を行うことにより、硫化に用いる薬剤を減らしコストを低減できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、酸化・酸浸出処理を行うことにより、酸不溶性の金属の分離処理における浸出残渣中の銅の含有量を低減し、銅の回収コストを低下することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例の転炉ダストの処理フローを示した説明図である。
【図2】比較例の転炉ダストの処理フローを示した説明図である。
【図3】実施例の各工程の処理後、分離された残渣と後液とに含まれる各金属の含有量を示した説明図である。
【図4】比較例の各工程の処理後、分離された残渣と後液とに含まれる各金属の含有量を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
本実施例で処理する銅転炉ダストは、銅、砒素、カドミウム、亜鉛、鉛、ビスマス、アンチモン等の金属を含有している。図1は本実施例における転炉ダストの処理フローを示している。
【0019】
転炉ダストの処理の第1工程では、酸化・酸浸出処理を行う(ステップS11)。この酸化・酸浸出処理は、硫酸濃度10g/L以上の硫酸溶液へ転炉ダストを溶解させた後、溶液中にエアーおよび、または、蒸気を導入して溶液を攪拌しつつ、溶液の温度を60℃以上に保ち、10時間以上25時間以内で維持する。このエアーおよび、または、蒸気は処理溶液1Lに対して0.5L/min以上1.25L/min以下で吹き込んでいる。この処理により、銅、砒素、カドミウム、亜鉛が硫酸中に浸出し、主に、鉛、ビスマス、アンチモンなどが残渣として分離する。
【0020】
第2工程では、酸化・酸浸出後液のpHが0.2〜2.0となるように調整し、硫化処理を行う(ステップS12)。ここでは、硫化後液の酸化還元電位を約100(90〜150)mVとなるように調整する。この第2工程において、銅と砒素が硫化物として分離される。ここで、分離された硫化物は、銅の製錬工程へ戻されて熔錬炉へ投入される。一方、硫化脱銅後液には、カドミウム、亜鉛が溶解している。なお、この工程では、硫酸に代えて、硫化水素ナトリウムを加えても良いし、硫酸、及び硫化水素ナトリウムを加えてもよい。また、このとき加える溶液は、上記(1)式を満たすものであれば良い。硫化処理時に加える硫化物イオンの量は処理する液中の銅、砒素の量に依存するが、上記(1)式を満たすならば、溶液中の銅、砒素を漏れなく硫化物として分離できるからである。例えば、硫酸濃度5g/L(pH0.99)としても良い。但し、後述する中和処理における中和剤の使用量を抑制するため、pHの上限は2.0とすることが望ましい。
【0021】
第3工程では、硫化脱銅後液の中和処理を行う(ステップ13)。中和処理は、硫化脱銅後液へ炭酸カルシウム、酸化カルシウム、または水酸化ナトリウムの溶液を加え、pHを8.5〜11.0とする。この処理により、カドミウム、亜鉛が水酸化物として沈殿し、溶液から分離する。中和後液は製錬総合排水処理の工程へ送られる。
【0022】
一方、中和後のカドミウム、亜鉛の水酸化物は、カドミウム/亜鉛分離処理の工程へ送られる。カドミウム/亜鉛分離処理では、カドミウム、亜鉛の水酸化物へ硫酸等の酸化剤を加え浸出させた後、亜鉛の抽出剤を混合し、亜鉛の溶媒抽出を行う(ステップS14)。亜鉛の抽出剤として有機リン酸エステル、例えば商品名PC−88A(大八化学工業社製)が用いられる。この抽出剤を炭化水素系の希釈剤で希釈して調整して用いる。亜鉛抽出時の溶液のpHは2〜2.5程度が好ましい。これよりpHが高いと亜鉛と同時に溶液中のカドミウムが有機相中へ抽出されてしまうためである。また、これよりpHが低いと亜鉛の抽出量が低下してしまう。亜鉛抽出時は抽出剤からプロトンが放出されるため、溶液のpHを維持するため水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ剤を添加しながら行われる。
【0023】
次に、比較例を説明する。図3は比較例の処理フローを示した説明図である。まず、転炉ダストを希硫酸(硫酸濃度20g/L)に溶解した後、室温で3.5時間維持し、希硫酸浸出する(S1)。この希硫酸浸出では、残渣として鉛、ビスマス、アンチモン等が分離される。一方、希硫酸浸出後液には、銅、砒素、カドミウム、鉄、亜鉛が溶解している。次に、この希硫酸浸出後液へ炭酸カルシウム、または酸化カルシウムを添加し、水溶液のpHを5.2程度に調整する1次中和処理を行う(S2)。この1次中和処理では、主に砒素及び銅が中和泥として分離される。次に、一次中和後液へ希硫酸(硫酸濃度10g/L)、硫化水素ナトリウムを加え、硫化処理を行う(S3)。硫化処理により、硫化カドミウムが沈殿する。一方、硫化後液に水酸化ナトリウムを加え、pH9.5程度に調整し2次中和処理を行い、中和泥として亜鉛を分離する(S4)。中和後液は、製錬総合排水処理へ送られる。
【0024】
次に、実施例の効果を比較例と比べつつ説明する。図3、図4は、各工程の処理後、分離された残渣と後液とに含まれる各金属の含有量を示した説明図である。図3は本実施例の処理について示し、図4は比較例の処理について示した説明図である。
【0025】
転炉ダスト処理の最初の工程である酸不溶性の金属である鉛、ビスマス、アンチモンの分離処理について説明する。実施例では、酸化・酸浸出を行う。すなわち、濃度30g/Lの硫酸へ転炉ダストを溶解させた後、溶液中にエアーおよび、または蒸気を導入して溶液を攪拌しつつ、溶液を85℃に保ち、25時間維持する。一方、比較例では、希硫酸浸出を行う。すなわち、転炉ダストを濃度20g/Lの希硫酸に溶解させ、室温で3.5時間維持する。
【0026】
本実施例のように、酸化・酸浸出により、鉛、ビスマス、アンチモン等を残渣として分離する処理を行うことにより、比較例と比べて多くの銅が硫酸中に浸出する。比較例の希硫酸浸出の場合、処理後の残渣の銅品位が6.6%である(図4中A)。一方、転炉ダストを酸化・酸浸出した場合の残渣の銅品位は0.8%である(図3中B)。したがって、本実施例は比較例よりも鉛滓残渣の銅品位を低減することができる。鉛、ビスマス、アンチモンを含むこの工程の浸出後の残渣は残渣処理工程へ送られ、さらに各金属の分離処理が行われる。酸化・酸浸出処理を行った本実施例は、残渣の銅品位を低減できたことにより、鉛滓の処理工程における鉛と銅の分離回収する際の硫酸等の薬剤費を低減でき、コスト低減に寄与する。
【0027】
また、本実施例は酸化・酸浸出を行うことにより、希硫酸浸出を行う比較例より多くの銅が硫酸中に浸出する。これにより、浸出後液中の銅が増加するため、その後の処理において分離、回収される銅が増加する。さらに、本実施例では、酸化、酸浸出処理後に硫化処理を行うことにより、処理溶液中のほとんどの銅を硫化泥として回収する。比較例の場合、銅の分離を行う一次中和処理後に回収される銅の重量は年間542tである(図4中C)。一方、本実施例の場合、銅の分離を行う硫化処理後に回収される銅の重量は年間634tである(図3中D)。ここでの値は、いずれも化合物の重量ではなく、銅単体での重量を示している。従って、年間92tもの銅の増産を図ることができる。これと同量の銅を購入する場合と比較して、銅価、為替の変動にもよるが、3000万円から4500万円ほどのコスト削減ができる。
【0028】
また、本実施例、比較例のいずれの場合においても、この工程で分離した銅成分を含む処理残渣(硫化泥、中和泥)は、残渣中の銅を回収する目的で、銅製錬工程の熔錬炉へ戻される。比較例の場合、中和物として得られる銅は年間4380t(図4中E)と多量であり、その分、熔錬炉へ投入される銅鉱石の投入量を減少させてしまう。本実施例の場合、このような残渣(硫化泥)が年間876t(図4中F)と、比較例の残渣(中和泥)の1/5程度まで減少できるため、銅鉱石の投入量の減少を抑制することができる。
【0029】
一方、硫化処理後の後液中に銅、砒素がほとんど含まれないため、後続の処理において銅、砒素を除去する作業が不要となり、作業負担が軽減する。
【0030】
また、本実施例では、硫化工程の処理において硫化水素ナトリウムを用いる分、薬剤費が比較例よりも増加するが、その分、残渣処理工程における銅の処理コストの削減、及び硫化処理における銅の回収量増加による有利な効果が上回る。
【0031】
また、転炉ダストの処理方法の他の例として、銅、砒素を分離する1次硫化処理をした後、カドミウムと亜鉛とが溶解する1次硫化後液へ2次硫化を行うことにより、カドミウムを分離する転炉ダスト処理方法が提案されている(特開2007-92124)。本実施例では、硫化後液に溶解するカドミウムと亜鉛とを有機リン酸エステルを用いて分離するため、上記2次硫化を行う処理と比較して、硫化に使用する薬剤費を低減することができる。
【0032】
以上より、本実施例によると、酸浸出後の残渣中の銅の含有量を低減し、回収コストを下げることができる。
【0033】
上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、さらに本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは自明である。
【符号の説明】
【0034】
A、B 銅の品位
C、D 銅の重量
E 中和泥の重量
F 硫化泥の重量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸を加え、エアーおよび、または蒸気を吹き込むことにより、銅転炉ダスト中の酸不溶解の金属を除去する酸化、酸浸出処理と、
前記浸出処理後の浸出液を硫化し、銅、及び砒素を回収する硫化処理と、
を備えたことを特徴とする銅転炉ダストの処理方法。
【請求項2】
前記酸化、酸浸出処理において、処理溶液にエアーおよび、または蒸気を吹き込み、当該処理溶液の温度を60℃以上としたことを特徴とした請求項1記載の銅転炉ダストの処理方法。
【請求項3】
前記酸化、酸浸出処理において、処理溶液1Lに対し、エアーを0.5L/min以上、10時間以上吹き込むことを特徴とした請求項1乃至2記載の銅転炉ダストの処理方法。
【請求項4】
前記硫化処理は
(銅のモル数) + 3/2(砒素のモル数) ≦ (硫黄のモル数)
となるように、硫化水素ナトリウム及び/又は硫酸を添加することを特徴とした請求項1乃至3のいずれか一項記載の銅転炉ダストの処理方法。
【請求項5】
前記硫化処理は溶液のpHを2.0以下としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の銅転炉ダストの処理方法。
【請求項6】
前記硫化処理は溶液のpHを0.2以上としたことを特徴とする請求項4または5記載の銅転炉ダストの処理方法。
【請求項7】
前記硫化工程後の溶液のORPは90mV以上150mV以下の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の銅転炉ダストの処理方法。
【請求項8】
前記硫化処理により得られた溶液を中和し、カドミウム、及び亜鉛を分離する中和処理と、
前記中和処理で分離されたカドミウムと亜鉛とを有機溶媒で分離する分離処理と、
を備えたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項記載の銅転炉ダストの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−32516(P2011−32516A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178637(P2009−178637)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(500483219)パンパシフィック・カッパー株式会社 (109)
【Fターム(参考)】