説明

銅配線半導体用洗浄剤

【課題】
本発明は、有機残渣がベンゾトリアゾールが防錆剤の場合はもちろんのこと、カルボキシル基や水酸基などの官能基を有するHLBの高い防錆剤の場合においても、銅配線を腐食させることなく、有機残渣除去性に優れ、かつ金属残渣の除去性に優れる銅および銅合金配線半導体用の洗浄剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
水酸基を1個以上有するアミン(A1)、および特定の化学構造を有する脂肪族ポリアミン(A2)からなる群より選ばれる1種以上のアミン(A)、2〜5個の水酸基を有し、それらの水酸基のうちの少なくとも2個が芳香環のオルト位もしくはパラ位に結合し、かつHLBが15〜40であるポリフェノール化合物(B)、塩基性化合物(C)、並びに水を必須成分とし、使用時のpHが8.0〜13.0であることを特徴とする銅配線半導体用洗浄剤を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製造工程における化学的機械的研磨(以下、「化学的機械的研磨」をCMPと略称する。)工程の後の洗浄工程に用いられる洗浄剤(以下、CMP後洗浄剤と略記する。)に関するものであって、特に表面に銅または銅合金の配線が施された半導体のCMP後洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン半導体に代表される半導体素子は、高性能化、小型化等の市場ニーズに対応して微細化、高集積化が進んでいる。これに伴い微細な配線パターンを作成するための高度な平坦化技術が必須となり、半導体の製造工程において、ウエハ表面をアルミナやシリカの微粒子を含む研磨スラリー(以下、CMPスラリーと略称する。)を用いて研磨するCMP工程が導入されている。
【0003】
しかしながらこのCMP工程では、CMPスラリー中のアルミナやシリカなどの研磨微粒子(以下、「研磨微粒子」を砥粒と略記する。)、研磨を促進するために添加された硝酸鉄水溶液、金属腐食抑制目的で添加されている防食剤、研磨された金属研磨カスなどが、研磨後のウエハ上に残留しやすい。これら残留物は配線間の短絡など半導体の電気的な特性に悪影響を及ぼすため、これら残留物を除去し、ウエハ表面を清浄化する必要がある。
【0004】
このCMP工程後の洗浄工程に用いる洗浄剤として、特定の化学構造を有する環状アミンと水酸基を2〜5個含むポリフェノール化合物を含む洗浄剤(特許文献1)、および特定の洗浄剤、キレート剤、腐食阻止剤で構成される洗浄用組成物(特許文献2)が知られている。
【0005】
しかし、特許文献1、2では、ウエハ上の残留物のうち、金属残渣の除去、防錆剤としてのベンゾトリアゾール由来の有機残渣(ベンゾトリアゾールと銅イオンから生成する不溶性錯体など)の除去には効果があるものの、カルボキシル基を有するキナルジン酸や水酸基を有するヒドロキシベンゾトリアゾールなどのようにHLBが高い防錆剤に由来する有機残渣に関しては、金属残渣除去との両立が不十分な場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−235725号公報
【特許文献2】特表2007−525836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、有機残渣がベンゾトリアゾールが防錆剤の場合はもちろんのこと、カルボキシル基や水酸基などの官能基を有するHLBの高い防錆剤と銅イオンとの錯体の場合においても、銅配線を腐食させることなく、金属残渣の除去性に優れ、かつ有機残渣除去性に優れる銅および銅合金配線半導体用の洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、水酸基を1個以上有するアミン(A1)および特定の化学構造を有する下記一般式で表される脂肪族ポリアミン(A2)からなる群より選ばれる1種以上のアミン(A)、2〜5個の水酸基を有し、それらの水酸基のうちの少なくとも2個が芳香環のオルト位もしくはパラ位に結合し、かつHLBが15〜40であるポリフェノール化合物(B)、塩基性化合物(C)、および水を必須成分とし、使用時のpHが8.0〜13.0であることを特徴とする銅配線半導体用洗浄剤;並びに銅または銅合金配線を形成する半導体製造工程中の化学的機械的研磨の後に続く工程においてこの洗浄剤を使用して製造された半導体基板または半導体素子である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、ベンゾトリアゾール由来の有機残渣だけでなく、カルボキシル基やヒドロキシル基を有するHLBの高い防錆剤由来の有機残渣の除去性に優れ、かつ金属残渣除去性に優れる。
また、半導体製造工程におけるCMP工程の後の工程において本発明の洗浄剤を用いることにより、接触抵抗に優れ、かつ配線の短絡がない半導体基板又は半導体素子が容易に得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、特定の化学構造を有するアミン(A)と、2〜5個の水酸基を有し、それらの水酸基のうちの少なくとも2個が芳香環のオルト位もしくはパラ位に結合するポリフェノール化合物(B)、塩基性化合物(C)、および水を必須成分とし、使用時のpHが8.0〜13.0であることを特徴とする。
さらに、本発明のアミン(A)は水酸基を1個以上有するアミン(A1)および/または特定の一般式で表される脂肪族ポリアミン(A2)であり、本発明のポリフェノール化合物(B)のHLBは15〜40であることも要件である。
【0011】
本発明の第1必須成分のアミン(A)において、水酸基を1個以上有するアミン(A1)としては、水酸基を1個以上有する脂肪族アミン(A11)、水酸基を1個以上有する脂環式アミン(A12)、水酸基を1個以上有するアラルキルアミン(A13)、水酸基を1個以上有する複素環式アミン(A14)などが挙げられる。
【0012】
水酸基を1個以上有する脂肪族アミン(A11)としては、水酸基を1個以上有し3級アミノ基を有しない脂肪族アミン(A111)、水酸基を1個以上有し3級アミノ基を有する脂肪族アミン(A112)が挙げられる。
【0013】
水酸基を1個以上有し3級アミノ基を有しない脂肪族アミン(A111)としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−(アミノエチル)エタノールアミン等が挙げられる。
水酸基を1個以上有し3級アミノ基を有する脂肪族アミン(A112)としては、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、N,N−ジメチル−2−アミノエタノール、トリエチレンテトラミンのヒドロキシアルキル置換体等が挙げられる。
水酸基を1個以上含有していればモノアミンでもポリアミンでもよい。
【0014】
水酸基を1個以上有する脂環式アミン(A12)としては、1,3−および1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、4,4’−メチレンジシクロヘキサンジアミン(水添メチレンジアニリン)等のヒドロキシアルキル置換体等が挙げられる。
【0015】
水酸基を1個以上有するアラルキルアミン(A13)としては、メタキシリレンジアミン、アミノエチルベンゼン等のヒドロキシアルキル置換体等などの芳香脂肪族アミンが挙げられる。
【0016】
水酸基を1個以上有する複素環式アミン(A14)としては、ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、1,4−ジアミノエチルピペラジン等のヒドロキシアルキル置換体等が挙げられる。
【0017】
水酸基を1個以上有するアミン(A1)として好ましいのは、水酸基を1個以上有する脂肪族アミン(A11)、さらに好ましくは、トリエタノールアミン、トリエチレンテトラミンのヒドロキシアルキル置換体である。
【0018】
本発明の第1必須成分のアミン(A)において使用できるもう1つのアミンは、下記一般式(1)で表され、水酸基を含有しない脂肪族ポリアミン(A2)である。
【0019】
【化1】

【0020】
[式(1)中、mは0〜10の整数、nは1〜10の整数である。R〜Rはそれぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表すが、(m+2)個の窒素原子のうち、少なくとも1個は3級アミノ基である。]
【0021】
上記の一般式(1)で表される脂肪族ポリアミン(A2)の具体例としては、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1−ジメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン等が挙げられる。
【0022】
この脂肪族ポリアミン(A2)のうち、CMP工程後のウエハ上に残留する砥粒の除去性の観点から、上記一般式(1)で表されるアミンであって、窒素原子がすべて3級アミノ基である脂肪族ポリアミン(A21)が好ましい。さらに好ましくは、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチルトリエチレンテトラミンである。
【0023】
これらのアミン(A)のうち、銅配線耐腐食性とCMP工程後のウエハ上に残留する有機残渣の除去性の観点から好ましいのは、水酸基を1個以上有する脂肪族アミン(A11)、上記一般式で表される脂肪族ポリアミン(A2)である。
【0024】
本発明の洗浄剤には、必須成分の水酸基を1個以上有するアミン(A1)および/または一般式(1)で表される脂肪族ポリアミン(A2)以外に、他のアミンを含有させてもよい。
例えば、複素環式ポリアミンを併用することによってキナルジン酸除去性を向上させることができる。
【0025】
アミン(A)の含有量は、銅配線耐腐食性および有機残渣除去性の観点から、アミン(A)、ポリフェノール化合物(B)、塩基性化合物(C)、および水の使用時の合計重量に基づいて、通常0.001〜10重量%であり、好ましくは0.005〜5重量%、さらに好ましくは0.01〜2重量%、特に好ましくは0.01〜1重量%である。
【0026】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤の第2の必須成分であるポリフェノール化合物(B)としては、芳香環などに2〜5個の水酸基が結合し、それらの水酸基のうちの少なくとも2個が芳香環のオルト位もしくはパラ位に結合したフェノール骨格を含む化合物のうち、HLBが15〜40のものである。なお、芳香環には炭化水素基やカルボキシル基などの他の官能基が結合していても差しつかえない。
【0027】
具体的には、水酸基を2個含むポリフェノール化合物(B1)としては、カテコール(HLB=17.9)、コーヒー酸(HLB=20.5)、ヒドロキノン(HLB=17.9)等が挙げられる。
水酸基を3個含むポリフェノール化合物(B2)としては、ピロガロール(HLB=26.3)、没食子酸(HLB=33.2)、没食子酸アミド(HLB=36.8)、没食子酸プロピル(HLB=18.8)等が挙げられる。
水酸基を4個または5個含むポリフェノール化合物(B3)としては、ケルセチン(HLB=23.7)、カテキン(HLB=21.2)等が挙げられる。
【0028】
ここでの「HLB」とは、親水性と親油性のバランスを示す指標であって、例えば「界面活性剤入門」〔2007年三洋化成工業株式会社発行、藤本武彦著〕212頁に記載されている小田法による計算値として知られているものであり、グリフィン法による計算値ではない。
HLB値は有機化合物の有機性の値と無機性の値との比率から計算することができる。
HLB≒10×無機性/有機性
HLBを導き出すための有機性の値及び無機性の値については前記「界面活性剤入門」213頁に記載の表の値を用いて算出できる。
【0029】
これらのポリフェノール化合物(B)のうち、銅配線耐腐食性の観点から、好ましくは水酸基を3個含むポリフェノール化合物(B2)、水酸基を4個または5個含むポリフェノール化合物(B3)である。また、洗浄剤中における経時化学安定性の観点からより好ましくはHLBが17〜38の水酸基を3個含むポリフェノール化合物(B2)である。また、金属残渣除去性の観点から、カルボキシル基を有する没食子酸が特に好ましい。
【0030】
本発明におけるポリフェノール化合物(B)の含有量は、銅配線耐腐食性と金属残渣除去性の観点から、アミン(A)、ポリフェノール化合物(B)、塩基性化合物(C)、および水の使用時の合計重量に基づいて、通常0.001〜5重量%であり、好ましくは0.001〜2重量%、さらに好ましくは0.005〜1重量%、特に好ましくは0.01〜0.3重量%である。
【0031】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤の第3の必須成分である塩基性化合物(C)としては、第4級アンモニウムヒドロキシド(C1)、アンモニア(C2)が挙げられる。
第4級アンモニウムヒドロキシド(C1)としては、アルキル基、アルケニル基、アリル基、アラルキル基、またはこれらの1部がヒドロキシ基で置換された炭化水素基が4級窒素原子に結合したカチオンとヒドロキシアニオンで構成された塩が挙げられる。
【0032】
第4級アンモニウムヒドロキシド(C1)のうち、好ましくは、下記一般式(2)で表される第4級アンモニウムヒドロキシド(C11)が挙げられる。
【0033】
【化2】

【0034】
[式(2)中のR〜Rはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基またはヒドロキシアルキル基を表す。]
【0035】
具体的には、炭素数1〜4のアルキル基またはヒドロキシアルキル基を有するテトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキル−ヒドロキシアルキルアンモニウム塩、ジアルキル−ビス(ヒドロキシアルキル)アンモニウム塩及びトリス(ヒドロキシアルキル)アルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0036】
これらの第4級アンモニウムヒドロキシド(C1)のうち、有機残渣除去性の観点から、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド、(ヒドロキシアルキル)トリアルキルアンモニウムヒドロキシド、ビス(ヒドロキシアルキル)ジアルキルアンモニウムヒドロキシド及びトリス(ヒドロキシアルキル)アルキルアンモニウムヒドロキシドが好ましい。
また、銅配線耐腐食性の観点からテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド及び(ヒドロキシアルキル)トリアルキルアンモニウムヒドロキシドが好ましい。
より好ましくは、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、(ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムヒドロキシド(コリン)が好ましく、特に好ましくは、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドである。
【0037】
塩基性化合物(C)の含有量は、有機残渣除去性および銅配線耐腐食性の観点から、使用時のアミン(A)、ポリフェノール化合物(B)、塩基性化合物(C)、および水の合計重量に基づいて、通常0.01〜10重量%であり、好ましくは0.02〜5重量%、さらに好ましくは0.03〜2重量%である。
【0038】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、水が必須成分であり、具体的には、電気伝導率(μS/cm;25℃)が小さいものが挙げられる。具体的には、電気伝導率は、有機残渣および金属残渣の除去性、入手のしやすさ、及び銅配線の再汚染(水中の金属イオンの銅配線への再付着)防止の観点から、通常0.055〜0.2μS/cm、好ましくは0.056〜0.1μS/cm、さらに好ましくは0.057〜0.08μS/cmである。このような電気伝導率が小さい水としては、超純水が好ましい。
なお、電気伝導率は、JIS K0400−13−10:1999に準拠して測定される。
【0039】
銅配線半導体用洗浄剤は、ポリフェノール化合物(B)に対する酸化抑制機能および金属残渣除去性を向上させる目的で、必須成分であるアミン(A)、ポリフェノール化合物(B)、塩基性化合物(C)、水以外に、アスコルビン酸(D)の併用することにより、銅配線耐腐食性と金属残渣除去性の両性能も満足することができる。
アスコルビン酸(D)として、具体的には、L−アスコルビン酸、イソアスコルビン酸(エリソルビン酸)が挙げられる。
【0040】
アスコルビン酸(D)の含有量については、金属残渣除去性の観点から、下記関係式(1)を満たすことが好ましく、さらに関係式(2)を満たすことが好ましい。
【0041】
0.7≦{[B]+[D]}/[C]≦1.3 (1)
【0042】
0.9≦{[B]+[D]}/[C]≦1.2 (2)
【0043】
なお、式(1)、(2)において、[B]、[C]、および[D]は、それぞれポリフェノール化合物(B)、塩基性化合物(C)、およびアスコルビン酸(D)の成分のモル濃度(モル/L)を表す。
【0044】
アスコルビン酸(D)の含有量は、金属残渣除去性の観点から、アミン(A)、ポリフェノール化合物(B)、塩基性化合物(C)、アスコルビン酸(D)および水の使用時の合計重量に基づいて、通常0.01〜5重量%であり、好ましくは0.05〜3重量%、さらに好ましくは0.1〜2重量%、特に好ましくは0.1〜1重量%である。
【0045】
本発明の洗浄剤は、銅配線耐腐食性および金属残渣除去性の観点から、使用時のpHが、通常8.0〜13.0であり、好ましくは9.0〜13.0であり、さらに好ましくは9.5〜12.0である。洗浄剤の使用時のpHが8.0未満、もしくはpHが13.0を超えると、銅がイオン化しやすく、銅配線耐腐食性が悪化する。
【0046】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、必須成分であるアミン(A)、ポリフェノール化合物(B)、塩基性化合物(C)、水、および必要に応じて添加するアスコルビン酸(D)を含有するが、さらに、本発明の半導体用洗浄剤の性能を損なわない範囲で界面活性剤(E1)、水酸基を2〜5個含むポリフェノール化合物(B)以外の還元剤(E2)、錯化剤(E3)、腐食防止剤(E4)などを添加してもよい。
【0047】
界面活性剤(E1)は、有機残渣除去性および金属不純物除去性向上の観点から添加することができる。
このような界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられる。
界面活性剤を添加する場合、界面活性剤の含有量は、洗浄剤の表面張力を低下させるのに必要な量でよく、本発明の銅配線半導体用洗浄剤の重量に基づいて、通常0.001〜1重量%、好ましくは0.005〜0.3重量%、特に好ましくは0.01〜0.1重量%である。
【0048】
ポリフェノール化合物(B)以外の還元剤(E2)としては、有機還元剤及び無機還元剤が挙げられる。
有機還元剤としては、シュウ酸またはその塩、炭素数6〜9のアルデヒド等、水酸基を1個含むフェノール化合物やベンズアルデヒド等が挙げられ、無機還元剤としては、亜硫酸またはその塩、チオ硫酸またはその塩等が挙げられる。
【0049】
これらの還元剤(E2)のうち、水溶性及び銅配線耐腐食性の観点から、有機還元剤が好ましく、さらに好ましくは脂肪族有機還元剤、特に好ましくはシュウ酸またはその塩である。さらに、錯化作用の観点等から、シュウ酸塩が好ましく、さらに好ましくはシュウ酸アンモニウムである。
【0050】
これらの還元剤を添加する場合、還元剤(E2)の含有量は、銅配線の腐食抑制性向上の観点から、本発明の銅配線半導体用洗浄剤の重量に基づいて、通常0.001〜1.0重量%、さらに好ましくは0.01〜0.5重量%、特に好ましくは0.05〜0.1重量%である。これらの還元剤、すなわち水酸基を2〜5個含むポリフェノール系以外の還元剤の含有量が1.0重量%より多くなると銅配線耐腐食性が逆に低下してしまう。
【0051】
錯化剤(E3)としては、芳香族又は脂肪族ヒドロキシカルボン酸(またはその塩)、ヒドロキシル基かカルボキシル基の少なくとも一方を有する複素環式化合物、ホスホン酸(またはその塩)等が挙げられる。
【0052】
これらの錯化剤(E3)のうち、銅配線腐食性向上の観点から、脂肪族ヒドロキシカルボン酸(またはその塩)及びポリカルボン酸(またはその塩)が好ましく、脂肪族ヒドロキシカルボン酸(またはその塩)が特に好ましい。
【0053】
錯化剤を添加する場合、錯化剤(E3)の含有量は、銅配線耐腐食性向上の観点から、本発明の銅配線半導体用洗浄剤の重量に基づいて、通常0.001〜0.5重量%であり、好ましくは0.01〜0.3重量%、特に好ましくは0.05〜0.1重量%である。錯化剤(E3)の含有量が0.5重量%より多くなると銅配線耐腐食効果が低下する。
【0054】
腐食防止剤(E4)としては、窒素原子含有複素環含有化合物(プリン誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾール誘導体、チアゾール誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体など)等が挙げられる。
【0055】
これらの腐食防止剤(E4)のうち、銅配線腐食性向上の観点から、プリン誘導体が好ましく、アデニン、アデノシンが特に好ましい。
【0056】
腐食防止剤を添加する場合、腐食防止剤(E4)の含有量は、銅配線耐腐食性向上の観点から、本発明の銅配線半導体用洗浄剤の重量に基づいて、通常0.00001〜1重量%であり、好ましくは0.00003〜0.5重量%、さらに好ましくは0.00005〜0.1重量%、特に好ましくは0.0001〜0.01重量%である。腐食防止剤(E4)の含有量が0.5重量%より多くなると銅配線耐腐食効果が低下する。
【0057】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、アミン(A)、ポリフェノール化合物(B)、塩基性化合物(C)、アスコルビン酸(D)、および必要によりその他の成分を水と混合することによって製造することができる。
混合する方法としては、特に限定されないが、容易かつ短時間で均一に混合できるという観点等から、水とアミン(A)と塩基性化合物(C)を混合し、続いてポリフェノール化合物(B)、必要によりその他の成分を混合する方法が好ましい。
均一混合する際の温度及び時間には制限はなく、製造する規模や設備等に応じて適宜決めることができる。
混合装置としては、撹拌機又は分散機等が使用できる。撹拌機としては、メカニカルスターラー及びマグネチックスターラー等が挙げられる。分散機としては、ホモジナイザー、超音波分散機、ボールミル及びビーズミル等が挙げられる。
【0058】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、銅配線を有する半導体基板、半導体素子、半導体洗浄性評価用の銅メッキ基板などを洗浄する洗浄方法に使用することができる。
【0059】
銅配線を有する半導体基板又は半導体素子などを洗浄する洗浄方法としては、枚葉方式とバッチ方式が挙げられる。枚葉方式は、一枚ずつ半導体基板又は半導体素子を回転させ、銅配線半導体用洗浄剤を注入しながら、ブラシを用いて洗浄する方法であり、バッチ方式とは複数枚の半導体基板又は半導体素子を銅配線半導体用洗浄剤に漬けて洗浄する方法である。
【0060】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、銅配線を有する半導体基板又は半導体素子を製造する過程において、レジスト現像後、ドライエッチング後、ウェットエッチング後、ドライアッシング後、レジスト剥離後、CMP処理前後及びCVD処理前後等の洗浄工程に使用できる。特に、有機残渣除去性と金属不純物除去性の観点から、CMP処理後の洗浄工程に用いることが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0062】
実施例1〜8、および比較例1〜7
ポリエチレン製容器内で表1に記載の配合を行い、本発明の銅配線半導体用洗浄剤および比較のための洗浄剤を得た。
【0063】
【表1】

【0064】
本発明の銅配線用半導体用洗浄剤および比較のための銅配線半導体用洗浄剤について、有機残渣の除去性としてベンゾトリアゾール残渣除去性、キナルジン酸残渣除去性、ならびに金属残渣除去性を以下の方法で測定し、評価した。
評価結果を表1に示す。
【0065】
<ベンゾトリアゾール残渣除去性の評価方法>
ベンゾトリアゾールの残渣除去性の評価は、以下に示す手順により行った。
(1)銅メッキされたシリコンウエハの洗浄
シリコンウエハに銅メッキが施されたウエハ(アドバンスマテリアルテクノロジー社製、「Cuメッキ10000A Wafer」、銅メッキの膜厚=1.0μm)を、縦1.5cm×横1.5cmに切断し、10%酢酸水溶液中に1分間浸漬した後、超純水で洗浄した。
【0066】
(2)ベンゾトリアゾール残渣液の調製
ベンゾトリアゾール0.4g、濃度30%の過酸化水素水0.6g、超純水200gを混合し、塩酸でpHが3.0になるように調整し、ベンゾトリアゾール残渣液を作成した。
【0067】
(3)ベンゾトリアゾール残渣を付着させた銅メッキウエハの作成
銅メッキウエハを(2)で調整したベンゾトリアゾール残渣液に60秒間浸漬した後、超純水に60秒間浸漬し、ベンゾトリアゾール残渣を付着させた銅メッキウエハを作成した。
【0068】
(4)銅メッキウエハに付着させたベンゾトリアゾール残渣量の測定
ベンゾトリアゾール残渣物であるベンゾトリアゾールに由来する窒素の量を、X線光電子分光(XPS)装置(アルバックファイ社製、ESCA−5400型)を用いて測定することによって、銅メッキウエハに付着したベンゾトリアゾール残渣量を測定した。
具体的には、XPSを用いて、結合エネルギー397eV〜399eVの範囲で光電子数の測定を行い、窒素に由来する397.5〜398.4eVの範囲におけるピーク面積値を求めた。軟X線は、MgKα線(1253.6eV)を使用した。
【0069】
(5)銅メッキウエハに付着させたベンゾトリアゾール残渣の除去
本発明及び比較用の銅配線半導体用洗浄剤各50gに、(3)で作成したベンゾトリアゾール残渣を付着させた銅メッキウエハを3分間浸漬し、銅メッキウエハからベンゾトリアゾール残渣を除去した。その後、超純水1Lに60秒間浸漬し、窒素気流でウエハ表面を乾燥させた。
【0070】
(6)銅メッキウエハに残留したベンゾトリアゾール残渣量の測定
有機残渣物であるベンゾトリアゾールに由来する窒素の量を、(4)と同様に、XPSを用いて測定することによって銅メッキウエハに残留したベンゾトリアゾール残渣量を測定した。
【0071】
(7)ベンゾトリアゾール残渣除去性の評価判定
(4)と(6)のXPSで測定したそれぞれのピーク面積値を下記数式(1)に代入し、ベンゾトリアゾール残渣除去率を算出した。
【0072】
【数1】

【0073】
Xa:ベンゾトリアゾール残渣除去前のベンゾトリアゾール由来の窒素のピーク面積値
Xb:ベンゾトリアゾール残渣除去後のベンゾトリアゾール由来の窒素のピーク面積値
【0074】
算出したベンゾトリアゾール残渣除去率から、以下の判定基準でベンゾトリアゾール残渣除去性を判定した。
◎:ベンゾトリアゾール残渣除去率が95%以上
○:ベンゾトリアゾール残渣除去率が85〜95%
△:ベンゾトリアゾール残渣除去率が75〜85%
×:ベンゾトリアゾール残渣除去率が75%未満
【0075】
<キナルジン酸残渣除去性の評価方法>
キナルジン酸残渣除去性の評価は、以下に示す手順によりおこなった。
(1)銅メッキされたシリコンウエハの洗浄
シリコンウエハに銅メッキが施されたウエハ(アドバンスマテリアルテクノロジー社製、「Cuメッキ10000A Wafer」、銅メッキの膜厚=1.0μm)を、縦1.5cm×横1.5cmに切断し、10%酢酸水溶液中に1分間浸漬した後、超純水で洗浄した。
【0076】
(2)キナルジン酸残渣液の調製
キナルジン酸0.4g、濃度30%の過酸化水素水0.6g、超純水200gを混合し、塩酸でpHが3.0になるように調整し、キナルジン酸残渣液を作成した。
【0077】
(3)キナルジン酸残渣を付着させた銅メッキウエハの作成
銅メッキウエハを(2)で調整したキナルジン酸残渣液に60秒間浸漬した後、超純水に60秒間浸漬し、キナルジン酸残渣を付着させた銅メッキウエハを作成した。
【0078】
(4)銅メッキウエハに付着させたキナルジン酸残渣量の測定
キナルジン酸残渣物であるキナルジン酸に由来する窒素の量を、上記のX線光電子分光を用いて結合エネルギー397eV〜399eVの範囲で光電子数を測定することによって、銅メッキウエハに付着したキナルジン酸残渣量を測定した。
【0079】
(5)銅メッキウエハに付着させたキナルジン酸残渣の除去
本発明及び比較用の銅配線半導体用洗浄剤各50gに、(3)で作成したキナルジン酸残渣を付着させた銅メッキウエハを3分間浸漬し、銅メッキウエハからキナルジン酸残渣を除去した。その後、超純水1Lに60秒間浸漬し、窒素気流でウエハ表面を乾燥させた。
【0080】
(6)銅メッキウエハに残留したキナルジン酸残渣量の測定
有機残渣物であるキナルジン酸に由来する窒素の量を、(4)と同様に、XPSを用いて測定することによって銅メッキウエハに残留したキナルジン酸残渣量を測定した。
【0081】
(7)キナルジン酸残渣除去性の評価判定
(4)と(6)のXPSで測定したそれぞれのピーク面積値を下記数式(2)に代入し、キナルジン酸残渣除去率を算出した。
【0082】
【数2】

【0083】
Ya:キナルジン酸残渣除去前のキナルジン酸由来の窒素のピーク面積値
Yb:キナルジン酸残渣除去後のキナルジン酸由来の窒素のピーク面積値
【0084】
算出したキナルジン酸残渣除去率から、以下の判定基準でキナルジン酸残渣除去性を判定した。
◎:キナルジン酸残渣除去率が95%以上
○:キナルジン酸残渣除去率が85〜95%
△:キナルジン酸残渣除去率が75〜85%
×:キナルジン酸残渣除去率が75%未満
【0085】
<金属残渣除去性の評価方法>
金属残渣除去性の評価は、以下に示す手順によりおこなった。
(1)酸化シリコン単層膜を有するウエハの前処理
酸化シリコン単層膜を有するシリコンウエハ(アドバンテック社製、「P−TEOS1.5μ」、酸化シリコンの膜厚=1.5μm)を、縦1.0cm×横2.0cmの切片に切断し、10%酢酸水溶液に1分間浸漬した後、超純水で洗浄した。
【0086】
(2)金属イオンを含有する水溶液の調製
硝酸亜鉛0.1部、硝酸鉄0.1部および硝酸マグネシウム0.1部に、全量が100gになるように水を加え、亜鉛、鉄、マグネシウムの金属イオンをそれぞれ0.1重量%含有する水溶液を調製した。
【0087】
(3)金属イオン水溶液によるウエハの汚染処理
前処理したウエハの切片を、金属イオンを含有する水溶液10gに1分間浸漬した後、窒素ブローで乾燥させることにより、ウエハの表面に金属イオンを付着させた。
【0088】
(4)ウエハの洗浄
汚染処理したウエハの切片を、銅配線半導体用洗浄剤各10gに浸漬した。25℃で3分間静置した後、洗浄剤から取り出した。
【0089】
(5)ウエハの表面から洗浄剤中に溶出した金属イオン濃度の測定
浸漬させた後の銅配線半導体用洗浄剤を5g取り出し、硝酸水溶液でpHを3.0に調整した。
その後、全量が10gになるまで超純水を加えて測定液とした。測定液中に含有する亜鉛、鉄、およびマグネシウム金属イオンの濃度を、ICP−MS分析装置(誘導結合プラズマ質量分析装置)(アジレントテクノロジー社製、Agilent7500cs型)を用いて測定した。
【0090】
(6)ウエハの表面から洗浄剤中に溶出した金属イオンの溶出量の計算
下記数式(3)を用いて各金属イオンの溶出量を計算した。
【0091】
【数3】

【0092】
Metalcon:ICP−MS分析で定量した測定液中の各金属イオン濃度(ppb(ng/g))
G1:試験片を浸漬させた銅配線半導体用洗浄剤の液量(g)
G2:pH調整前に取り出した銅配線半導体用洗浄剤の液量(g)
G3:測定液の液量(g)
SSiO2:酸化シリコンの単層膜を有するウエハにおける酸化シリコン膜の面積(cm2)
【0093】
(7)金属残渣除去性の評価判定
算出した各金属イオンの溶出量の合計量から、金属残渣除去性を評価し、ウエハ単位面積あたりの金属イオンの溶出量が多いほど、金属残渣除去性が優れていると判定した。
具体的には、以下の判定基準で金属残渣除去性を判定した。
◎:15ng/cm以上
○:10〜15ng/cm
△:5ng〜10ng/cm
×:5ng/cm未満
【0094】
表1に示すように、実施例1〜8の本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、ベンゾトリアゾール残渣およびキナルジン酸残渣の除去性および絶縁膜上の金属残渣除去性で良好な結果が得られた。
一方、水酸基を有しないアミンを使用した比較例1や3級アミノ基を有しない脂肪族ポリアミンを使用した比較例2、ポリフェノール化合物を使用しない比較例3、OH位置がメタ位であるポリフェノール化合物を使用した比較例4、モノフェノール化合物を使用した比較例5、および本発明に該当しないHLBを有するポリフェノール化合物を使用した比較例6は、いずれもキナルジン酸残渣除去性が不良であった。また、pH7.0の比較例7は、ベンゾトリアゾール残渣、キナルジン酸残渣、および金属残渣がいずれも不十分であり、多量の塩基性化合物を使用してpHが13.5の比較例8は、金属残渣除去性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の銅配線半導体用洗浄剤は、ベンゾトリアゾールが防錆剤の場合はもちろんのこと、カルボキシル基や水酸基などの官能基を有するHLBの高い防錆剤の場合においても、有機残渣除去性に優れ、かつ金属残渣の除去性に優れることから、銅または銅合金配線を形成する半導体製造工程中のCMP工程の後に続く工程において使用される洗浄剤として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を1個以上有するアミン(A1)および下記一般式(1)で表され水酸基を含有しない脂肪族ポリアミン(A2)からなる群より選ばれる1種以上のアミン(A)、2〜5個の水酸基を有し、それらの水酸基のうちの少なくとも2個が芳香環のオルト位もしくはパラ位に結合し、かつHLBが15〜40であるポリフェノール化合物(B)、塩基性化合物(C)、並びに水を必須成分とし、使用時のpHが8.0〜13.0であることを特徴とする銅配線半導体用洗浄剤。
【化1】

[式(1)中、mは0〜10の整数、nは1〜10の整数である。R〜Rはそれぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表すが、(m+2)個の窒素原子のうち、少なくとも1個は3級アミノ基である。]
【請求項2】
該脂肪族ポリアミン(A2)を表す式(1)中のR〜Rのすべてがそれぞれ独立にアルキル基である請求項1記載の銅配線半導体用洗浄剤。
【請求項3】
該塩基性化合物(C)が、4級アンモニウム化合物(C1)である請求項1または2記載の銅配線半導体用洗浄剤。
【請求項4】
さらに、アスコルビン酸(D)を含有し、下記関係式(1)を満たす請求項1〜3いずれか記載の銅配線半導体用洗浄剤。
0.7≦{[B]+[D]}/[C]≦1.3 (1)
[式(1)において、[B]、[C]、および[D]は、それぞれポリフェノール化合物(B)、塩基性化合物(C)、およびアスコルビン酸(D)の成分のモル濃度(モル/L)を表す。]
【請求項5】
銅または銅合金配線を形成する半導体製造工程中の化学的機械的研磨の後に続く工程において請求項1〜4いずれか記載の洗浄剤を使用して製造された半導体基板または半導体素子。

【公開番号】特開2012−186470(P2012−186470A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−32310(P2012−32310)
【出願日】平成24年2月17日(2012.2.17)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】