説明

銅錯体化合物及びこれを用いた有機発光素子

【課題】極めて高効率で、高輝度な光出力を有する有機発光素子を提供する。
【解決手段】例えば下記一般式で示される銅錯体化合物が少なくとも1種類含まれることを特徴とする、有機発光素子。


[式中、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又は複素環基等を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅錯体化合物及びこれを用いた有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陽極と陰極との間に蛍光性有機化合物又は燐光性有機化合物を含む薄膜を挟持する電子素子である。また、各電極から電子及びホール(正孔)を注入し蛍光性化合物又は燐光性化合物の励起子を生成させることにより、この励起子が基底状態に戻る際に、有機発光素子は光を放射する。
【0003】
有機発光素子における最近の進歩は著しく、その特徴は、低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、発光デバイスの薄型・軽量化が可能であることが挙げられる。このことから、有機発光素子は広汎な用途への可能性が示唆されている。
【0004】
しかしながら、現状では更なる高輝度の光出力あるいは高変換効率が必要である。また、長時間の使用による経時変化や酸素を含む雰囲気気体や湿気等による劣化等の耐久性の面で未だ多くの問題がある。さらにフルカラーディスプレイ等への応用を考えた場合には色純度のよい青、緑、赤の発光が必要となるが、これらの問題に関してもまだ十分解決されたとは言えない。
【0005】
近年、燐光性化合物を発光材料として用い、三重項状態のエネルギーをEL発光に用いる検討が多くなされている。プリンストン大学のグループにより、イリジウム錯体を発光材料として用いた有機発光素子が、高い発光効率を示すことが報告されている(非特許文献1)。また三重項状態のエネルギーを一重項に変換し、EL発光に用いる検討もなされている(特許文献1及び特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−241374号公報
【特許文献2】特開2006−024830号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature,395,151(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、極めて高効率で、高輝度な光出力を有する有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の銅錯体化合物は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする。
【0010】
【化1】

(式(1)において、R1は、アルキル基、アリール基又は複素環基を表す。各R1は、それぞれ同じであってもよいし異なっていてもよい。R2は、水素原子、アルキル基、アリール基又は複素環基を表す。各R2は、それぞれ同じであってもよいし異なっていてもよい。R3は、水素原子、フッ素原子、アルキル基、アリール基又は複素環基を表す。各R3は、それぞれ同じであってもよいし異なっていてもよい。またR1乃至R3は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。Aは、アリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Cuは、1価の銅イオンを表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、極めて高効率で、高輝度の光出力が可能な有機発光素子を提供することができる。また本発明の有機発光素子は、真空蒸着、キャステイング法等を用いて作製が可能であり、比較的安価で大面積のものを容易に作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の有機発光素子における実施形態の例を示す断面模式図である。
【図2】実施例1で合成した例示化合物Cu−42の結晶状態における発光スペクトル(PLスペクトル)を示す図である。
【図3】実施例4で作製した有機発光素子の発光スペクトル(ELスペクトル)を示す図である。
【図4】実施例5で作製した有機発光素子の発光スペクトル(ELスペクトル)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の銅錯体化合物は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする。
【0014】
【化2】

(式(1)において、R1は、アルキル基、アリール基又は複素環基を表す。各R1は、それぞれ同じであってもよいし異なっていてもよい。R2は、水素原子、アルキル基、アリール基又は複素環基を表す。各R2は、それぞれ同じであってもよいし異なっていてもよい。R3は、水素原子、フッ素原子、アルキル基、アリール基又は複素環基を表す。各R3は、それぞれ同じであってもよいし異なっていてもよい。またR1乃至R3は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。Aは、アリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Cuは、1価の銅イオンを表す。)
【0015】
次に、式(1)の銅錯体化合物で示されている置換基について詳細に説明する。
【0016】
1で表されるアルキル基として、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、オクチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0017】
1で表されるアリール基として、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、フルオランテニル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、トリフェニレニル基、ペリレニル基等が挙げられる。
【0018】
1で表される複素環基として、ピラゾリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基等が挙げられる。
【0019】
尚、上記アルキル基、アリール基及び複素環基は、さらに置換基を有してもよい。具体的には、上記アルキル基、アリール基及び複素環基に、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基、ビフェニル基等のアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基等の複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等のアミノ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等がさらに置換されてもよい。
【0020】
2で表されるアルキル基、アリール基及び複素環基の具体例は、R1で表されるアルキル基、アリール基及び複素環基の具体例と同様である。またR2で表されるアルキル基、アリール基及び複素環基はさらに置換基を有してもよく、その置換基の具体例は、R1の場合と同様である。
【0021】
3で表されるアルキル基、アリール基及び複素環基の具体例は、R1で表されるアルキル基、アリール基及び複素環基の具体例と同様である。またR3で表されるアルキル基、アリール基及び複素環基はさらに置換基を有してもよく、その置換基の具体例は、R1の場合と同様である。
【0022】
Aで表されるアリーレン基として、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。
【0023】
Aで表されるヘテロアリーレン基として、ピリジレン基、キノリレン基、イソキノリレン基、キノキサリレン基等が挙げられる。
【0024】
尚、上記アリーレン基及びヘテロアリーレン基は、さらに置換基を有してもよい。具体的には、上記アルキレン基及びアリーレン基に、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基、ビフェニル基等のアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基等の複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等のアミノ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等がさらに置換されてもよい。
【0025】
本発明の銅錯体化合物は、好ましくは、下記一般式(2)で示される化合物である。
【0026】
【化3】

(式(2)において、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又は複素環基を表す。各Rは、それぞれ同じであってもよいし異なっていてもよい。Cuは1価の銅イオンを表す。)
【0027】
次に、式(2)の銅錯体化合物で示されている置換基について詳細に説明する。
【0028】
Rで表わされるアルキル基として、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルプロピル基、ターシャリーブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0029】
Rで表わされるアリール基として、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、フルオランテニル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、トリフェニレニル基、ペリレニル基等が挙げられる。
【0030】
Rで表わされる複素環基として、ピラゾリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基等が挙げられる。
【0031】
尚、上記アルキル基、アリール基及び複素環基は、さらに置換基を有してもよい。具体的には、上記アルキル基、アリール基及び複素環基に、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基、ビフェニル基等のアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基等の複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等のアミノ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等がさらに置換されてもよい。
【0032】
また、本発明の銅錯体化合物は遅延蛍光発光することが好ましい。
【0033】
有機発光素子において、電子とホールが再結合することで生成される励起子(一重項励起子、三重項励起子)の生成比率は、スピンの多重度から、一重項励起子:三重項励起子=25%:75%と言われている。ここで一重項のエネルギーのみをEL発光に用いる蛍光性化合物を発光材料として用いた場合、外部量子効率の理論限界値は大きくても5%程度である。
【0034】
そこで遅延蛍光発光をする本発明の銅錯体化合物を有機発光素子の構成材料として使用すると、三重項励起子が生成した際に、この三重項励起子が室温の熱エネルギーを吸収し、項間交差が起こることで一重項励起子が生成される。そしてこの一重項励起子から蛍光を放射させることができる。よって、理論上75%生成する三重項励起子を蛍光発光に利用することができる。即ち、室温のエネルギーによって三重項励起子を一重項励起子に変換し、全ての励起子から蛍光を放射させることができる。尚、このときの外部量子効率の理論限界値は20%に達すると考えられる。また、駆動電圧も、遅延蛍光化合物を用いた発光素子は、一重項からの発光なので、通常の蛍光性化合物を用いた発光素子と同等になることが期待できる。
【0035】
本発明の銅錯体化合物の特性である遅延蛍光発光に関しては、以下に示す特徴がある。
(1)室温(298K)の発光寿命が、マイクロ秒レベルである
(2)室温(298K)の発光波長が、低温(77K)の発光波長よりも短い
(3)室温(298K)の発光寿命が、低温(77K)の発光寿命より大幅に短い
(4)温度の上昇により、発光強度が向上する
【0036】
室温における蛍光発光及び燐光発光の発光波長と、低温における蛍光発光及び燐光発光の発光波長とを比較すると、通常、同じ波長か若しくは低温の方が短波長である。これに対して、遅延蛍光発光する本発明の銅錯体化合物では、低温の方が長波長である。これは、室温では一重項からの発光が観測されるが、低温では一重項よりも低い三重項のエネルギーレベルから発光する為である。ここでいう発光波長とは、最大発光波長若しくは発光開始波長を意味する。
【0037】
また蛍光発光は、一重項からの発光なのでその発光寿命は、通常、ナノ秒レベルである。これに対して、三重項が発光に関与する燐光発光は、発光寿命がマイクロ秒レベル以上である。同様に、遅延蛍光発光も、三重項が発光に関与するので、発光寿命はマイクロ秒レベル以上になる。ただし、発光寿命が長過ぎると、発光素子中での励起子飽和によって発光効率の低下を引き起こす可能性があるので、本発明の銅錯体化合物の発光寿命は、固体状態又は希薄溶液状態において、0.1マイクロ秒以上、1ミリ秒未満が好ましい。
【0038】
上述したように、遅延蛍光発光と燐光発光の発光寿命はマイクロ秒レベル以上であるが、遅延蛍光発光特有の特徴として、室温の発光寿命が、低温の発光寿命より大幅に短くなるという特徴がある。例えば、室温での量子収率が0.1の燐光発光化合物であって低温での無輻射失活が完全に抑制されると仮定した場合、低温における発光寿命は、室温の発光寿命の10倍である。一方、遅延蛍光発光の場合は、室温では一重項から発光するが、低温では三重項から発光するので、低温の発光寿命は、室温の発光寿命の10倍以上になり、化合物によっては二桁以上大きくなる場合もある。本発明の銅錯体化合物において、その発光寿命は、固体状態又は希薄溶液状態において、低温の発光寿命が室温の発光寿命の10倍以上であるのが好ましく、50倍以上であるのがより好ましく、100倍以上であるのが特に好ましい。
【0039】
さらに、燐光発光においては、通常、温度の上昇と共に無輻射失活速度が大きくなるので、温度の上昇と共に発光強度は低下する。これに対して、遅延蛍光発光の場合は、温度の上昇と共に発光強度が向上する。これは、ボルツマン分布による三重項と一重項との項間交差確率が外部の温度エネルギーの上昇によって高くなることで、三重項励起子が一重項励起子へと項間交差しやすくなるためである。
【0040】
一方、遅延蛍光発光を得るためには、最低三重項励起エネルギーと最低一重項励起エネルギーとのエネルギー差を小さくして、三重項励起子を一重項励起子への項間交差を容易にする必要がある。この項間交差は、本来、スピン禁制遷移である。ここでスピン禁制を弱める方法として、重原子効果を用いる方法が知られている。ここで原子番号の大きい分子を用いると、重原子効果により、最低三重項励起状態から基底状態へのスピン禁制が解かれることで燐光発光が発生するが、遅延蛍光は得られ難いと考えられる。また原子番号の小さい分子を用いると、重原子効果が弱いためスピン禁制が解かれず、三重項エネルギーは熱エネルギーとして無輻射失活されることで、遅延蛍光は得られ難いと考えられる。そこで本発明においては、重電子効果を利用するために程良い原子量を有する銅原子を化合物の中心金属として採用するものである。これにより、三重項励起子から一重項励起子への項間交差を阻害するするスピン禁制が解かれると共に、三重項励起状態から基底状態への無輻射失活が抑制され、室温で強い遅延蛍光を得ることができる。
【0041】
ここで本発明の銅錯体化合物の発光メカニズムについては幾つかの可能性が考えられる。
(1)LMCT(ligand−to−metal−charge−transfer)励起状態
(2)MLCT(metal−to−ligand−charge−transfer)励起状態
(3)LLCT(ligand−to−ligand−charge−transfer)励起状態
(4)金属中心励起状態
(5)配位子中心(π−π*)励起状態
(6)配位子中心(n−π*)励起状態
【0042】
上述したように、遅延蛍光を達成させるためには、最低三重項励起エネルギーと最低一重項励起エネルギーとを近づける必要がある。ところで配位子中心励起状態よりも、LMCT励起状態、MLCT励起状態、LLCT励起状態の様なCT性の励起状態の方が、最低三重項励起エネルギーと最低一重項励起エネルギーが近づく事が知られている。このため本発明の銅錯体化合物は、CT性の励起状態をとることができる化合物が好ましい。さらに、本発明の銅錯体化合物は、より強い発光が期待できるMLCT励起状態からの発光であることがより好ましい。
【0043】
また、発光に関わる配位子の最低三重項励起エネルギーと最低一重項励起エネルギーとが近いことが、遅延蛍光発光を達成するために重要な要素の一つである。ここで本発明の銅錯体化合物は、最低三重項励起エネルギーと最低一重項励起エネルギーが近く遅延蛍光発光の錯体を得るために重要な配位子であるダイホスフィン部位を有している。
【0044】
さらに、本発明の銅錯体化合物は、中心金属である1価の銅イオン(Cu+)から、配位子のダイホスフィン部位へのMLCT励起状態からの発光が期待できる。ここで中心金属である1価の銅イオン(Cu+)から、配位子のダイホスフィン部位へのMLCT励起状態を促進するためには、ダイホスフィン部位が、π電子を有することが好ましい。そのため、一般式(1)のA又はR1が、π電子を有する置換基が含まれることが好ましい。具体的には、Aがアリーレン基又はヘテロアリーレン基であることが好ましい。同様に、R1がアリール基又は複素環基であることが好ましい。ただしπ電子が大きすぎると配位子中心(π−π*)励起状態からの発光も促進されてしまう為、一般式(1)のA及びR1は、ベンゼン環やピリジン環に代表される単環の芳香族基あるいは複素環基であることが好ましい。一方、複素環は、配位子中心(n−π*)励起状態を促進する場合があるので、Aがフェニレン基であることが特に好ましい。同様に、R1がフェニル基であることが特に好ましい。
【0045】
また本発明の銅錯体化合物は、発光素子を作製する際の蒸着性の観点や分子の安定性の観点から、中性の銅錯体であることが望ましい。このため本発明の銅錯体化合物は、化合物の中性化のためにピラゾリルボレートを配位子として用いるのが望ましい。こうすることで得られる銅錯体化合物は蒸着可能であり化学的に安定な化合物になる。また、合成の容易性や分子の安定性の観点から、一般式(1)において、R3は、水素原子であることが特に好ましい。さらに、分子の対称性を向上させ、安定性を向上させる観点から、一般式(1)において、R2は、同一の置換基であることが特に好ましい。
【0046】
以下、本発明に用いられる上記一般式(1)で示される銅錯体の具体的な構造式を下記に示す。但し、これらは代表例を例示しただけで、本発明は、これに限定されるものではない。表中のMeはメチル基、Etはエチル基、iPrはイソプロピル基、nPrはノルマルプロピル基、tBuはターシャリーブチル基、Cyはシクロヘキシル基、Phはフェニル基を表す。
【0047】
【化4】

【0048】
【化5】

【0049】
【化6】

【0050】
【化7】

【0051】
【化8】

【0052】
次に、本発明の有機発光素子について詳細に説明する。
【0053】
本発明の有機発光素子は、陽極と陰極と、該陽極と該陰極との間に挟持される有機化合物層と、から構成される。本発明の有機発光素子は、有機化合物層に本発明の銅錯体化合物が少なくとも1種類含まれる。本発明の有機発光素子は、好ましくは、該陽極と該陰極との間に電圧を印加することにより発光することを特徴とする。
【0054】
以下、図面を参照しながら、本発明の有機発光素子について詳細に説明する。図1は、本発明の有機発光素子における実施形態の例を示す断面模式図である。図1において、(a)乃至(f)は、それぞれ本発明の有機発光素子における第一乃至第六の実施形態を示す。以下、各実施形態について説明する。
【0055】
図1(a)の有機発光素子10は、基板1上に陽極2、発光層3及び陰極4が順次設けられている。この有機発光素子10は、発光層3が、正孔輸送能、電子輸送能及び発光性の性能を全て有する有機化合物で構成されている場合に有用である。また発光層3が、正孔輸送能、電子輸送能及び発光性の性能のいずれかの特性を有する有機化合物を混合して構成される場合にも有用である。
【0056】
図1(b)の有機発光素子20は、基板1上に陽極2、正孔輸送層5、電子輸送層6及び陰極4が順次設けられている。この有機発光素子20は、正孔輸送性及び電子輸送性のいずれかを備える発光性の有機化合物と電子輸送性のみ又は正孔輸送性のみを備える有機化合物とを組み合わせて用いる場合に有用である。また、有機発光素子20は、正孔輸送層5又は電子輸送層6が発光層を兼ねている。
【0057】
図1(c)の有機発光素子30は、図1(b)の有機発光素子20において、正孔輸送層5と電子輸送層6との間に発光層3を挿入したものである。この有機発光素子30は、キャリア輸送と発光の機能を分離したものでああり、正孔輸送性、電子輸送性、発光性の各特性を有した有機化合物を適宜組み合わせて用いることができる。このため、極めて材料選択の自由度が増すとともに、発光波長を異にする種々の化合物が使用することができるので、発光色相の多様化が可能になる。さらに、中央の発光層3に各キャリアあるいは励起子を有効に閉じこめて有機発光素子30の発光効率の向上を図ることも可能になる。
【0058】
図1(d)の有機発光素子40は、図1(c)の有機発光素子30において、陽極2と正孔輸送層5との間に正孔注入層7を設けたものである。この有機発光素子40は、正孔注入層7を設けたことにより、陽極2と正孔輸送層5との間の密着性又は正孔の注入性が改善されるので、低電圧化に効果的である。
【0059】
図1(e)の有機発光素子50は、図1(c)の有機発光素子30において、正孔あるいは励起子(エキシトン)を陰極4側に抜けることを阻害する層(正孔/エキシトンブロッキング層8)を、発光層3と電子輸送層6との間に挿入したものである。イオン化ポテンシャルの非常に高い有機化合物を正孔/エキシトンブロッキング層8として用いることにより、有機発光素子50の発光効率が向上する。
【0060】
図1(f)の有機発光素子60は、図1(d)の有機発光素子40において、正孔/エキシトンブロッキング層8を、発光層3と電子輸送層6との間に挿入したものである。イオン化ポテンシャルの非常に高い化合物を正孔ブロッキング層8として用いることにより、有機発光素子60の発光効率が向上する。
【0061】
ただし、図1(a)乃至(f)はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明の銅錯体化合物を用いた有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機層界面に絶縁性層、接着層又は干渉層を設ける、正孔輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる2層から構成される、等の多様な層構成をとることができる。
【0062】
本発明の銅錯体化合物は、高い発光効率を示し発光材料に適している。また、特に固体粉末状態において他の化合物と比べ強い発光を示すことを特徴とする。
【0063】
一般的には、希薄溶液状態において強く発光する化合物であっても固体粉末状態においては、発光が極端に弱くなるのが多い。これらは基底状態又は励起状態において、発光材料分子間の相互作用によって会合体を形成することで、本来の発光特性が得られなくなる現象(濃度消光現象)が発生するためである。一方、本発明の銅錯体化合物は、濃度消光に強い発光材料である。このように本発明の有機発光素子に用いられる材料は、濃度消光の制約が少ないため、発光層内の濃度を濃くしたり、その材料100%の発光層を形成したりすることができる。このため高い発光効率を有し、かつ生産性のよい発光素子を製造することができる。本発明の銅錯体化合物を発光層3の発光材料として用いる場合、その含有量は、好ましくは、発光層を構成する材料全体の重量に対して0.1重量%以上100重量%以下である。
【0064】
本発明の銅錯体化合物は、有機化合物層を構成する発光層の構成材料(発光材料)として含まれていてもよいが、有機化合物層を構成する発光層以外の層、例えば正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、電子障壁層等にも含まれていてもよい。
【0065】
一方、発光層3は、本発明の銅錯体化合物のみで構成されていてもよいが、ホストとゲストとから構成されていてもよい。発光層3がホストとゲストとから構成される場合、本発明の銅錯体化合物は、ホストとして使用されていてもよいし、ゲストとして使用されていてもよい。
【0066】
本発明の有機発光素子は、好ましくは、発光層の発光材料として遅延蛍光発光する銅錯体化合物を用いるものであるが、これまで知られているホール輸送性化合物、発光性化合物あるいは電子輸送性化合物等を必要に応じて一緒に使用することもできる。以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0067】
【化9】

【0068】
【化10】

【0069】
【化11】

【0070】
【化12】

【0071】
陽極2の構成材料は、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニレンスルフィド等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は1種類を単独で用いてもよく、複数種類を併用して用いてもよい。
【0072】
一方、陰極4の構成材料は、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、銀、鉛、錫、クロム等の金属単体又はこれらの合金が使用できる。また、酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物も使用可能である。また、陰極は一層で構成されてもよく、複数の層で構成されていてもよい。
【0073】
本発明で用いる基板1としては、特に限定するものではないが、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明性基板、ガラス、石英、プラスチックシート等の透明性基板が用いられる。また、基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜等を用いて発色光をコントロールすることも可能である。
【0074】
尚、作製した素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層あるいは封止層を設けることもできる。保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッソ樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜さらには、光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属等をカバーし、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。
【0075】
本発明の有機発光素子において、発光層3等の有機化合物層は、一般には真空蒸着法又は適当な溶媒に溶解させて塗布法により薄膜を形成することで形成される。不純物のコンタミの可能性による発光素子の発光効率及び寿命の低下の可能性を鑑み、真空蒸着法で有機発光素子を作製することが特に好ましい。また、塗布法で成膜する場合は、適当な結着樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0076】
上記結着樹脂としては広範囲な結着性樹脂より選択でき、例えばポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリスルホン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独又は共重合体ポリマーとして1種又は2種以上混合してもよい。
【0077】
本発明の有機発光素子において、本発明の縮合環芳香族化合物を含む層の膜厚は10μmより薄く、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.01μm以上0.5μm以下にする。
【0078】
また本発明の有機発光素子は、スイッチング素子と組み合わせて表示装置として用いることが好ましい。ここで本発明の有機発光素子は、省エネルギーや高輝度が必要な製品に応用が可能である。応用例としては、本発明の有機発光素子と、スイッチング素子とを備えた表示装置・照明装置やプリンターの光源、液晶表示装置のバックライト等が考えられる。表示装置としては、省エネルギーや高視認性・軽量なフラットパネルディスプレイが可能となる。また、プリンターの光源としては、現在広く用いられているレーザビームプリンタのレーザー光源部を、本発明の有機発光素子に置き換えることができる。独立にアドレスできる素子をアレイ上に配置し、感光ドラムに所望の露光を行うことで、画像形成する。本発明の有機発光素子を用いることで、装置体積を大幅に減少することができる。照明装置やバックライトに関しては、本発明の有機発光素子によってもたらされる省エネルギー効果が期待できる。
【0079】
ディスプレイへの応用では、スイッチング素子としてはTFT(Thin Film Transistor)素子等を用いて駆動する方式が考えられる。
【0080】
本発明の表示装置に備わっているスイッチング素子は、特に限定はなく、単結晶シリコン基板やMIM素子、a−Si型等を容易に利用することができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
[実施例1]例示化合物Cu−42の合成
【0083】
【化13】

【0084】
(1)合成中間体1の合成
アルゴン気流下、以下に示す試薬、溶媒を反応容器に仕込んだ。
1,2−ビスジフェニルホスフィノベンゼン:2g(4.48mmol)
塩化メチレン:210ml
【0085】
次に、反応溶液中に、臭化銅(I)643mg(4.48mmol)を加えた。次に、反応溶液を室温で12時間撹拌した。次に、析出した不溶物を濾別することで得られたろ液を、溶媒が少量になるまで減圧濃縮した。次に、濃縮したろ液にジエチルエーテルをゆっくり加えることで黄色の結晶が得られた。次に、この黄色の結晶をろ取し、真空乾燥することにより、合成中間体1を2.6g得た(収率99%)。
【0086】
(2)例示化合物Cu−42の合成
アルゴン気流下、以下に示す試薬、溶媒を反応容器に仕込んだ。
合成中間体1:590mg(0.5mmol)
テトラヒドロフラン:50ml
【0087】
次に、反応溶液中に、テトラキス(1−ピラゾリル)ホウ酸カリウム350mg(1.1mmol)を加えた。次に、反応溶液を室温で12時間撹拌した。次に、析出した不溶物を濾別することで得られたろ液を、溶媒が少量になるまで減圧濃縮を行った。次に、濃縮したろ液にヘキサンをゆっくり加えることで黄色の結晶が得られた。次に、この黄色の結晶をろ取し、真空乾燥することにより、例示化合物Cu−42を752mg(収率95%)得た。
【0088】
NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
【0089】
1H−NMR(500MHz,CDCl3):δ=7.48(m,6H),7.32(m,6H),7.24(m,12H),7.09(m,12H).
次に、得られた結晶を、塩化メチレン/ヘキサン中で再結晶して得られた結晶について単結晶解析を行い、この化合物の結晶構造を確認した。
【0090】
a single crystal X−ray diffraction study:a=11.9426(11)Å,b=18.5901(16)Å,c=17.7346(17)Å,β=105.425(2)deg,V=3795.5(6)Å3,monoclinic P21/c,Z=4,θmin/max=1.6/32.6deg,11036 unique observed reflections were used to refine 524 atomic parameters and gave a final R factor of 0.0466.
【0091】
得られた化合物について結晶状態での発光特性を測定した。ここで遅延蛍光発光の判定については、量子収率と発光寿命との測定結果で判定した。具体的には、まず粉末、溶液又は分散膜状態にしたサンプルの発光量子収率、及び絶対PL量子収率の測定を室温(298K)行った。次に、サンプルの発光寿命を室温(298K)と低温(77K)とにおいて行った。ここで、室温における発光寿命が、マイクロ秒レベルであれば、発光に三重項が関与していると考えられ、得られた化合物が燐光又は遅延蛍光発光することが判明する。次に、室温(298K)の発光寿命を低温(77K)の発光寿命で割った値を評価する。具体的には、この値が、室温(298K)における絶対PL量子収率の1/10以下であれば、発光が遅延蛍光発光であると判明する。
【0092】
測定・評価にあたっては、絶対PL量子収率の測定については、絶対PL量子収率測定装置C9920−02(浜松ホトニクス社製)を用いた。発光寿命は、ストリークカメラC4334(浜松ホトニクス社製)を用いて、サンプルをレーザー光で励起させながら測定した。
【0093】
一方、発光強度の温度特性も、遅延蛍光発光の判断材料となる。遅延蛍光発光の化合物の場合、温度の上昇に対して、発光強度が強くなる。従って、以上に示された、発光寿命、発光寿命と量子収率の関係、発光強度の温度特性から、得られた化合物が遅延蛍光発光するのかどうかが総合的に判断できる。
【0094】
各種測定の結果、室温での最大発光波長は545nmであり、77Kでの最大発光波長は569nmであり、室温の発光波長のほうが短波長化することが分かった。図2は、本実施例で合成した例示化合物Cu−42の結晶状態における発光スペクトル(PLスペクトル)を示す図である。一方、例示化合物Cu−42の量子収率は、室温で0.49であり、発光寿命は、室温で4.9マイクロ秒、77Kで930マイクロ秒であった。このため、77Kの発光寿命は室温の発光寿命の190倍であることが分かった。さらに、0℃及び室温における例示化合物Cu−42の発光強度を比較すると、室温にした時に発光強度の向上が認められた。
【0095】
以上の発光特性から、例示化合物Cu−42は、遅延蛍光発光物質であることが分かった。
【0096】
他方で、例示化合物Cu−42について昇華精製の検討を行ったところ、例示化合物Cu−42が昇華可能な化合物であることが分かった。
【0097】
[実施例2]例示化合物Cu−37の合成
【0098】
【化14】

【0099】
アルゴン気流下、以下に示す試薬、溶媒を反応容器に仕込んだ。
合成中間体1:236mg(0.2mmol)
テトラヒドロフラン:15ml
【0100】
次に、反応溶液中に、ジヒドロビス(1−ピラゾリル)ホウ酸カリウム82mg(0.44mmol)を加えた。次に、反応溶液を室温で12時間撹拌した。次に、析出した不溶物を濾別することで得られたろ液を、溶媒が少量になるまで減圧濃縮を行った。次に、濃縮したろ液にヘキサンをゆっくり加えることで黄色の結晶が得られた。次に、この黄色の結晶をろ取し、真空乾燥することにより、例示化合物Cu−37を200mg(収率75%)得た。
【0101】
NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
【0102】
1H−NMR(500MHz,CDCl3):δ=7.57(d,2H),7.54(m,2H),7.46(m,2H),7.29(m,12H),7.24(m,8H),6.90(d,2H),5.99(t,2H).
【0103】
次に、得られた結晶を、ジエチルエーテル/ヘキサン中で再結晶して得られた結晶について単結晶解析を行い、この化合物の結晶構造を確認した。
【0104】
a single crystal X−ray diffraction study:a=18.5284(11)Å,b=14.0004(9)Å,c=24.6771(16)Å,V=6401.4(7)Å3,orthorhombic P b c a,Z=8,θmin/max=1.7/32.5deg,10191 unique observed reflections were used to refine 431 atomic parameters and gave a final R factor of 0.0508
【0105】
実施例1と同様の方法により結晶状態での発光特性を測定した。その結果、室温での最大発光波長は565nmであり、77Kでの最大発光波長は565nmであった。また例示化合物Cu−37の量子収率は、室温で0.30であった。一方、例示化合物Cu−37の発光寿命は、室温で2.2μ秒、77Kで350μ秒であったため、77Kの発光寿命が室温の発光寿命の159倍であることが分かった。さらに、0℃及び室温における例示化合物Cu−37の発光強度を比較すると、室温にした時に発光強度の向上が認められた。
【0106】
以上の発光特性から、例示化合物Cu−37は、遅延蛍光発光物質であることが分かった。
【0107】
他方で、例示化合物Cu−37について昇華精製の検討を行ったところ、例示化合物Cu−37が昇華可能な化合物であることが分かった。
【0108】
[実施例3]例示化合物Cu−43合成
【0109】
【化15】

【0110】
アルゴン気流下、以下に示す試薬、溶媒を反応容器に仕込んだ。
合成中間体1:236mg(0.2mmol)
テトラヒドロフラン:15ml
【0111】
次に、反応溶液中に、ジフェニルビス(1−ピラゾリル)ホウ酸カリウム149mg(0.44mmol)を加えた。次に、反応溶液を室温で12時間撹拌した。次に、析出した不溶物を濾別することで得られたろ液を、溶媒が少量になるまで減圧濃縮を行った。次に、濃縮したろ液にヘキサンをゆっくり加えることで黄色の結晶が得られた。次に、この黄色の結晶をろ取し、真空乾燥することにより、例示化合物Cu−43を268mg(収率83%)得た。
【0112】
NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
【0113】
1H−NMR(500MHz,CDCl3):δ=7.41(m,4H),7.28(m,6H),7.21(m,8H),7.03(m,8H),6.82(m,8H),6.76(m,4H),6.00(m,2H).
次に、得られた結晶を、塩化メチレン/ヘキサン中で再結晶して得られた結晶について単結晶解析を行い、この化合物の結晶構造を確認した。
【0114】
a single crystal X−ray diffraction study:a=9.6512(8)Å,b=22.813(2)Å,c=19.5335(17)Å,β=93.960(2)deg,V=4290.4(6)Å3,monoclinic P21/c,Z=4,θmin/max=1.3/32.8deg,13634 unique observed reflections were used to refine 574 atomic parameters and gave a final R factor of 0.0677.
【0115】
実施例1と同様の方法により結晶状態での発光特性を測定した。その結果、室温での最大発光波長は560nmであり、77Kでの最大発光波長は560nmであった。また例示化合物Cu−43の量子収率は、室温で0.32であった。また、発光寿命は、室温で2.3μ秒、77Kで272μ秒であり、77Kの発光寿命が室温の発光寿命の118倍であることが分かった。さらに、0℃と室温の発光強度を比較すると、室温にした時に発光強度の向上が認められた。
【0116】
以上の発光特性から、例示化合物Cu−43は、遅延蛍光発光物質であることが分かった。
【0117】
他方で、例示化合物Cu−43について昇華精製の検討を行ったところ、例示化合物Cu−43が昇華可能な化合物であることが分かった。
【0118】
[実施例4]有機発光素子の作製
図1(c)に示される有機発光素子を以下に示す方法で作製した。まずスパッタ法により、ガラス基板(基板1)上に、酸化錫インジウム(ITO)を成膜して陽極2を形成した。このとき陽極2の膜厚を120nmとした。次に、陽極2が形成されている基板1を、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄した。以上の処理を施したガラス基板を透明導電性支持基板として後述する工程で使用した。
【0119】
次に、下記に示されるTCTAとクロロホルムとを混合してクロロホルム溶液を調製した。
【0120】
【化16】

【0121】
次に、陽極2上に、上記クロロホルム溶液を滴下し、スピンコート法により成膜して成功輸送層5を形成した。このとき正孔輸送層5の膜厚は30nmであった。
【0122】
次に、10-5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着を行うことで、他の有機化合物層及び電極層を連続成膜した。
【0123】
具体的には、まず正孔輸送層5上に、下記に示される化合物H1(ホスト)と例示化合物Cu−42(ゲスト)とを、化合物H1と例示化合物Cu−42との重量濃度比が90:10となるように共蒸着して発光層3を形成した。このとき発光層3の膜厚を30nmとした。
【0124】
【化17】

【0125】
次に、発光層3上に、下記に示される化合物E1を成膜し電子輸送層6を形成した。このとき電子輸送層6の膜厚を30nmとした。
【0126】
【化18】

【0127】
次に、電子輸送層6上に、LiFを成膜して第一の金属電極層として、膜厚0.5nmで成膜した。最後に、第二の金属電極層として、Alを膜厚70nmで成膜した。上記の第一の金属電極層(LiF膜)及び第二の金属電極層(Al膜)は陰極として機能する。以上のようにして、有機発光素子を得た。
【0128】
作製した有機発光素子についてその特性を調べた。ここで遅延蛍光発光の判定については、量子収率と発光寿命との測定結果で判定した。具体的には、まず発光層となる薄膜(サンプル)を作製し、このサンプルの発光量子収率、及び絶対PL量子収率の測定を室温(298K)行った。次に、サンプルの発光寿命を室温(298K)と低温(77K)とにおいて行った。ここで、室温における発光寿命が、マイクロ秒レベルであれば、発光に三重項が関与していると考えられ、得られた化合物が燐光又は遅延蛍光発光することが判明する。次に、室温(298K)の発光寿命を低温(77K)の発光寿命で割った値を評価する。具体的には、この値が、室温(298K)における絶対PL量子収率の1/10以下であれば、発光が遅延蛍光発光であると判明する。
【0129】
測定・評価にあたっては、絶対PL量子収率の測定については、絶対PL量子収率測定装置C9920−02(浜松ホトニクス社製)を用いた。発光寿命は、ストリークカメラC4334(浜松ホトニクス社製)を用いて、サンプルをレーザー光で励起させながら測定した。
【0130】
一方、発光強度の温度特性も、遅延蛍光発光の判断材料となる。遅延蛍光発光の化合物の場合、温度の上昇に対して、発光強度が強くなる。従って、以上に示された、発光寿命、発光寿命と量子収率の関係、発光強度の温度特性から、得られた化合物が遅延蛍光発光するのかどうかが総合的に判断できる。
【0131】
また素子の電流電圧特性については、ヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bで測定し、素子の発光輝度をトプコン社製BM7で測定した。本実施例の有機発光素子においては、6.0Vの印加電圧で、発光輝度2250cd/m2の発光が観測された。図3は、本実施例で作製された有機発光素子の発光スペクトル(ELスペクトル)を示す図である。また、最大電流効率は、25.5cd/Aと高効率であった。さらに、この素子に窒素雰囲気下で連続通電を行ったところ、100時間連続して通電しても安定した発光が得られた。
【0132】
一方、本実施例の有機発光素子の発光寿命をレーザー光励起によって測定すると、3.6マイクロ秒の寿命が観測された。さらに、電流密度を一定にして、発光強度を測定すると、温度の上昇に対して、発光強度の上昇が観測された。
【0133】
[実施例5]有機発光素子の作製
実施例4において、正孔輸送層5上に、例示化合物Cu−43を成膜して発光層3を形成すること以外は、実施例4と同様の方法により有機発光素子を作製した。
【0134】
本実施例の有機発光素子は、6.0Vの印加電圧で、発光輝度410cd/m2の発光が観測された。図4は、本実施例で作成された有機発光素子の発光スペクトル(ELスペクトル)を示す図である。また、最大電流効率は、4.5cd/Aと高効率であった。さらに、この素子に窒素雰囲気下で連続通電を行ったところ、100時間連続して通電しても安定した発光が得られた。
【0135】
一方、本実施例の有機発光素子の発光寿命をレーザー光励起によって測定すると、1.3マイクロ秒の寿命が観測された。さらに、電流密度を一定にして、発光強度を測定すると、温度の上昇に対して、発光強度の上昇が観測された。
【0136】
以上の結果より、本発明の有機発光素子は、遅延蛍光発光の発光素子であり、高効率を実現できる発光素子であるといえる。
【符号の説明】
【0137】
1:基板、2:陽極、3:発光層、4:陰極、5:正孔輸送層、6:電子輸送層、7:正孔注入層、8:正孔/エキシトンブロッキング層、10(20,30,40,50,60):有機発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とする、銅錯体化合物。
【化1】

(式(1)において、R1は、アルキル基、アリール基又は複素環基を表す。各R1は、それぞれ同じであってもよいし異なっていてもよい。R2は、水素原子、アルキル基、アリール基又は複素環基を表す。各R2は、それぞれ同じであってもよいし異なっていてもよい。R3は、水素原子、フッ素原子、アルキル基、アリール基又は複素環基を表す。各R3は、それぞれ同じであってもよいし異なっていてもよい。またR1乃至R3は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。Aは、アリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Cuは、1価の銅イオンを表す。)
【請求項2】
下記一般式(2)で示されることを特徴とする、請求項1記載の銅錯体化合物。
【化2】

(式(2)において、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基又は複素環基を表す。各Rは、それぞれ同じであってもよいし異なっていてもよい。Cuは1価の銅イオンを表す。)
【請求項3】
遅延蛍光発光することを特徴とする、請求項1又は2記載の銅錯体化合物。
【請求項4】
陽極と陰極と、
該陽極と該陰極との間に挟持される有機化合物層と、から構成され、
該有機化合物層に、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の銅錯体化合物が少なくとも1種類含まれることを特徴とする、有機発光素子。
【請求項5】
前記銅錯体化合物が発光層に含まれることを特徴とする、請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記銅錯体化合物が遅延蛍光発光することを特徴とする、請求項4又は5記載の有機発光素子。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか一項に記載の発光素子と、スイッチング素子とを備えることを特徴とする、表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−213643(P2011−213643A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82547(P2010−82547)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】