説明

銅陽極精錬システム及び方法

融解火炎を用いて融解した粗銅を加熱及び/又は銅屑の装入物を融解し、融解した粗銅中の硫黄を酸化させ、且つ、1つ又は複数の多機能なコヒーレント・ジェット・ランス組立品からの上吹きのコヒーレント・ジェット・ガス流を用いて融解した粗銅中の酸素を還元するコヒーレント・ジェット技術が採用された銅陽極精錬の方法及びシステムが提供される。本システム及び方法は、コヒーレント・ジェット・ランスへの酸素含有ガス、不活性ガス、還元剤、及び、燃料の流れを操作可能に制御する、マイクロプロセッサに基づく制御装置を用いる。本銅陽極精錬システム及び方法は、銅の生産量を大幅に向上させつつ、酸化/還元のサイクル時間を短縮し、NOの排出を最小限に抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化処理ガス及び還元処理ガスなどの処理ガスを用いて銅含有材料をより価値の高い銅含有材料へ転換する乾式冶金処理に関するものである。より具体的に言えば、本発明は、酸化処理ガス及び還元処理ガスのコヒーレント・ガス流を用いて融解した粗銅の選択的な処置によって硫黄、酸素、及び他の不純物を除去する、融解した粗銅の陽極精錬に係るものである。
【背景技術】
【0002】
銅の生産は、一般的に、選鉱、製錬、転換、精錬、陽極鋳造、及び電解精錬の手順を含む複数回のステップの手順を伴う。一般的に、輝銅鉱、黄銅鉱、及び斑銅鉱などの硫化銅又は銅硫化鉄の鉱物を1つ又は複数含む鉱石から、通常25〜35重量パーセント(wt%)の銅を含む精鉱へと転換される。精鉱は次に、熱及び酸素によってまずマットに転換され、その後に粗銅へと転換される。なお、追加の固体の銅屑が粗銅に加えられることもある。粗銅をさらに精錬することで、粗銅中の酸素不純物及び硫黄不純物を、それぞれ、0.80%から0.05%の程度まで及び1.0%から0.002%の程度まで一般的に減らせる。その精錬は、約1090℃(2000°F)〜1300℃(2400°F)の温度範囲で通常行われ、硫黄を酸化させることで、不溶化して浴外に出て行く二酸化硫黄とさせる酸化処理とともに、酸化ステップ後に存在する溶解した酸素を除去する還元処理を含んでいる。
【0003】
粗銅を精錬して陽極銅にするのは、バッチ処理又は半連続処理により行うことができる。いずれの場合でも、一般的に高速の底吹き羽口が、酸化剤ガス流及び還元剤ガス流を融解銅内へ噴射するために使用される。しかしながら、従来の銅陽極乾式精錬処理並びに底吹き羽口を介した酸化剤ガス流及び還元剤ガス流の噴射には、多くの運転上の障害及び多大なコストが伴う。このような障害には、羽口の保守や信頼性への懸念、酸化剤ガス及び還元剤ガスの腐食作用による高温炉の耐火性材料の摩耗、過度のNO形成、及び精錬処理の変動が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,210,463号明細書
【特許文献2】米国再発行特許第36,598号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
底吹き羽口を必要とせず、高い精錬効率および大きな処理量が得られ、運転コストは同じように低く、且つ、銅陽極精錬処理に伴うNOの程度を低減する改善された銅陽極精錬方法が必要とされている。
【0006】
ここに開示されるコヒーレント・ガス流を用いた銅精錬のシステム及び方法は、生産性及び環境的見地から銅精錬処理を単独及び共同で向上させる複数の構成及び観点を含んでいる。これらの発明の観点及び構成は、以下のセクションにおいてより詳しく提示される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの観点によれば、本発明は、陽極銅を精錬する方法として、(i)融解した粗銅を炉に供給するステップと、(ii)銅屑を炉内の融解した粗銅に装入するステップと、(iii)上吹きの多機能なコヒーレント・ジェット・ランスから生成される融解火炎を用いて銅屑を融解するか又は融解した粗銅を加熱するステップと、(iv)酸素含有ガスの供給源及び燃料の供給源に連結されたコヒーレント・ジェット・ランスから放出される上吹きのコヒーレント酸素含有ガス流を用いて炉内の融解した粗銅中の硫黄不純物を酸化するステップと、(v)コヒーレント・ジェット・ランスから放出される、還元剤及び不活性ガスを含む上吹きのコヒーレント還元ガス流を用いて炉内の融解した粗銅中の酸素を還元するステップとを含むことを特徴とできる。
【0008】
別の観点によれば、本発明は、銅陽極精錬システムとして、耐火壁を備え、上面を有する融解した銅の浴を含むように適合され、且つ、銅浴の上面の上方に上部空間を有する銅冶金炉と、酸素含有ガスの供給源、不活性ガスの供給源、還元剤の供給源、及び燃料の供給源に連結され、銅浴の上面の上方の位置で炉の耐火壁に備えられた少なくとも1つの多機能なコヒーレント・ジェット・ランスと、酸素含有ガス、不活性ガス、還元剤、及び燃料の少なくとも1つのコヒーレント・ジェット・ランスへの流れを操作可能に制御する制御装置とを有することを特徴とできる。 多機能なコヒーレント・ジェット・ランスは、融解用火炎により炉に提供された融解した銅の装入物を加熱するか又は何らかの銅屑の装入物を融解させ、コヒーレント酸素含有ガス流を供給して銅浴中の硫黄を酸化させ、還元剤及び不活性ガスを含むコヒーレント還元ガス流を供給して銅浴中の酸素を還元するように適合されている。
【0009】
別の観点によれば、本発明は、陽極炉において銅を連続的に精錬する方法への改善を特徴とできる。その改善は、(i)融解した粗銅を陽極炉に供給し、銅屑を陽極炉内の融解した粗銅に任意選択で装入するステップと、(ii)陽極炉の融解した粗銅中の硫黄不純物を、融解した粗銅の上面の上方の位置で陽極炉の耐火壁に備えつけられたコヒーレント・ジェット・ランスから放出される上吹きのコヒーラント酸素含有ガス流を用いて酸化するステップと、(iii)コヒーレント・ジェット・ランスから放出される、還元剤及び不活性ガスを含む上吹きのコヒーレント還元ガス流を用いて陽極炉内の融解した粗銅中の酸素を還元するステップとを含む。
【0010】
本発明の上記及び他の観点、構成、及び効果は、次の図面と併せて提示される以下のより詳細な記載から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ケネコット・ユタ・カッパ社の施設(Kennecott Utah Copper facility)で用いられる、陽極炉を含む銅陽極精錬処理の一部の概略図。
【図2A】水冷却の筺体内に配置された従来技術のコヒーレント・ジェット・ランス組立品の等角図。
【図2B】より簡単、小型、軽量な本発明によるコヒーレント・ジェット・ランス組立品の図。
【図2C】より簡単、小型、軽量な本発明によるコヒーレント・ジェット・ランス組立品の図。
【図3】本発明の実施例によるコヒーレント・ジェット・ランス組立品の切断端面図。
【図4】図3のコヒーレント・ジェット・ランス組立品の長手方向断面図。
【図5】コヒーレント・ジェット・ランス組立品の代替実施例の切断端面図。
【図6】図5のコヒーレント・ジェット・ランス組立品の代替実施例の長手方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書で使用される「コヒーレント・ガス流」又は「コヒーレント・ジェット」の用語は、径方向においてほとんど又はまったく拡がらないガス流であり、ジェット・ノズルの面から測定してノズル径の少なくとも20倍の距離に渡って軸流速度を保持するガス流を意味する。このようなジェットは、ガス・ジェットを先細/末広ノズルを通じて放出し、少なくともジェットの長さの一部、好ましくはジェット全体の長さに渡って延びる火炎包囲部でそのガス・ジェットを囲うことによって形成される。同様に、「火炎包囲部」の用語は、1つ又は複数のガス流に沿って延びる、燃料及び酸化剤の燃焼によって形成される燃焼流を意味する。
【0013】
広い意味では、ここで開示された精錬システム及び方法は、一般的に、非鉄金属の乾式冶金精錬にコヒーレント・ジェット技術を適用することに概して関連する。好ましい実施例における発明は、融解した銅の陽極精錬に具体的には関連する一方で、本システム及び方法の特定の態様及び構成は、ニッケル、鉛、亜鉛、及び錫などの他の非鉄金属の精錬に同様に適用可能である。ここに開示された技術を用いて精錬された非鉄金属の融解物には様々な量の鉄類が含まれ得ることは理解されよう。また一方、開示されたシステム及び方法は、銅の陽極精錬、具体的には、銅の装入物が、加熱及び/又は融解され、次いで、それに含まれる硫黄不純物及び酸素不純物の量を減らすために、同じランス組立品からの酸化処理ガス及び還元処理ガスに順次接触させられる方式の銅の陽極精錬の手順に対して特に有益である。
【0014】
コヒーレント・ジェットの技術は、超音速のコヒーレント・ガス・ジェットの形態でガスを融解した金属浴中に噴射し、従来の噴射技術に比べて優れた処理利得を得られる。特別に構成されたガス噴射ノズルによって、ガス流をジェット・コヒーレントに保てる。コヒーレントとは、ジェットの直径及び速度を保持することを意味する。コヒーレント・ジェットは、従来の超音速ガス・ジェット噴射と比較した場合に、運動量がより大きく、衝突性により優れ、発散や減衰が小さく、炉内の周囲のガスが混入し難く、空所の発生や飛沫の少ない状態で、正確な量のガス流を融解した金属浴に送れる。コヒーレント・ジェット装置を用いて送られたガスは、炉の壁から離れて融解した銅浴に衝突するため、炉壁を通じてガスを噴射する底吹き羽口のガス噴射と比較して炉の内壁の耐用期間を向上させることができる。
【0015】
ここで開示された銅精錬システム及び方法によれば、酸素含有ガス、不活性又は窒素ガス、還元剤、及び天然ガスなどの炭化水素燃料を陽極炉及び/又はその陽極炉内にある粗銅融解物に送る1つ又は複数の多機能な上吹きコヒーレント・ジェット装置を利用することで、羽口のない銅陽極精錬処理が十分に可能となる。底吹き羽口を必要としないため、羽口に伴う保守、信頼性への懸念、及びコストが取り除かれ、炉の容器を使用できる耐用期間を大幅に延ばせる。また、コヒーレント・ジェット装置を用いて融解火炎を提供することで、炉は、所望の温度で融解を維持することに適しており、また、追加の銅屑の融解にも適しているため、屑を融解する別の炉に伴う必要性やコストを削減することができる。ケネコット・ユタ・カッパ社の連続的な銅精錬処理を含む現在の銅精錬処理の包括的な解釈は、例えば、米国特許第6,210,463号及び米国再発行特許発明第36,598号に開示されている。
【0016】
陽極炉に送られるガスは、前もってプログラムされた設定点に従って送られる酸素、天然ガス、窒素、及びそれらの混合物を含んでいることが好ましい。より具体的には、コヒーレント・ジェット制御システムは、ガス流制御システム(ガス・スキッド又は弁機構とも言う)、及び、好ましくは1つ又は2つのコヒーレント・ジェット・ランス組立品から構成される。一般的に、流れの所望の組み合わせは、ガス流制御システムに前もってプログラムすることができる。各ポートを通る最小ガス流、即ち「パージ流」とは、ノズルの詰まりを防ぐために必要とされることがあり、コヒーレント・ジェット・ランスが熱い炉において運転する際には常に制御装置によって設定及び維持されるような最小ガス流である。
【0017】
精錬されることになる銅は、一般的に、反応可能な量の硫黄不純物及び酸素不純物を含み、ここで目論まれる脱硫反応及び脱酸素反応に曝すことができる何らかの適切な自然の銅原料を含んでいる。銅の精錬技術において周知のように、一般的に銅は、硫黄及び酸素を、溶解するガス状の形態、並びに、例えば硫化銅及び酸化銅の形態など、銅原子と化学的に結合する形態の両方で含んでいる。通常、連続的な転換からの粗銅は、酸化ステップの前において硫黄が約800〜6000ppm以上の範囲にある硫黄不純物を含み、酸素が約2000ppm以上の酸素不純物を含んでいる。当業者においては周知のように、粗銅は、銅精錬の製錬ステップ及び転換ステップの後に得られる生成物である。本システム及び方法は、このような粗銅を陽極銅に直接転換することを目論んでいる。生成される陽極銅は通常、約50ppm未満の硫黄及び約2000ppm未満の酸素を含んでいる。
【0018】
通常、陽極炉は、転炉の端壁に備えつけられて炉を加熱するための従来からの少なくとも1つの空気燃料又は酸素燃料バーナが任意選択で備えられた耐火性の内壁を有する陽極炉などの回転式の筒状炉を有するものであり、その筒状炉は、少なくとも1つの上吹きの多機能なコヒーレント・ジェット・ランスを含むように変更されている。銅の融解物は炉の底に収められる。炉の容器は、その融解物の上面を覆う上部空間を有する。コヒーレント・ジェット・ランス組立品は、銅融解物の表面の上方の位置で炉の耐火壁に備えつけられることが好ましく、融解火炎又はコヒーレント・ガス流のいずれかを融解物に上から吹き付ける。
【0019】
開示された実施例では、コヒーレント・ジェット・ランスは、耐火壁への飛沫を最小源に抑えるように、銅融解物の表面に対して好ましくは所定の角度とされて炉の最上部に備えつけられる。任意選択で、炉は、窒素、アルゴン、二酸化炭素、酸素、又はそれらの混合物などの撹拌ガスを噴射するために、炉の底に配置され、複数の小さな孔が設けられた少なくとも1つの多孔質の栓を含む、底が撹拌される構成のものであってもよい。また、炉は、コヒーレント・ジェット・ランス組立品が運転できない場合に酸化ガス及び/又は還元ガスを融解物中に噴射するための予備的な又は補助的な羽口を少なくとも1つ備えていてもよい。しかしながら、好ましい実施例においては、先に列記した羽口に伴う不利益のため、羽口を使用することは好ましくない。
【0020】
ここで図を参照すると、図1は、現在の銅精錬のシステム及び方法の実施例を示すケネコット・ユタ・カッパ社の施設にある陽極炉の概略図である。第1の陽極炉22は単一のコヒーレント・ジェット・ランス・ポート25を有していることが示されている一方、第2の陽極炉24は2つのコヒーレント・ジェット・ランス・ポート25を有していることが示されている。図には示されていないが、コヒーレント・ジェット・ランス組立品を備えつける場所は、コヒーレント・ジェット・ランス組立品まで行くのに昇り降りを必要としないように、既存の土台又は通路に隣接していることが好ましい。図示される炉は、従来の酸化及び還元を実施する最中に、ガスを噴射するのに使用される羽口26を有している。スラグ34を除去した後、フラッシュ転炉30からの粗銅32が供給ポート28を介して銅陽極炉へと供給され、追加の銅屑は炉口29を通じて供給される。銅陽極炉では、銅は、装入物の融解、酸化、排滓、及び還元のステップを含む乾式精錬処理の多くを受ける。各陽極炉内での乾式精錬処理が完了すると、より小型で軽量とされたコヒーレント・ジェット・ランス組立品は、以下においてより詳しく記載されるように、取り外すことができ、また、炉は回転させられ、融解した銅40を陽極炉から出銑口(図示せず)を通じて鋳造の処理に向けて注ぎ出すことができる。
【0021】
より小型で軽量なコヒーレント・ジェット・ランス組立品は、図1のコヒーレント・ジェット・ランス・ポート25内に配置される。下記でより詳しく検討されるように、コヒーレント・ジェット・ランス組立品は、融解した装入物に追加される何らかの銅屑の融解の最中に融解火炎を提供するとともに、酸化処理ステップ及び還元処理ステップの最中にコヒーレント・ガス流を提供するために使用され、それにより、酸化サイクル時間及び還元サイクル時間を短くするとともに、不要なNOの排出を最小限に抑えつつ、陽極炉の生産性を増加させる。
【0022】
比較すると、コヒーレント・ジェット・ランス組立品及び技術を用いない場合、陽極精錬処理は、供給ポート28から離れた銅陽極炉22、24の各々の一方の端20に配置された、従来からのJL酸素燃料バーナを採用し、適切な融解ステップ又は加熱ステップの最中に必要なエネルギーを炉に提供することができる。また、コヒーレント・ジェット・ランス組立品を用いない場合は、酸化処理ステップ及び還元処理ステップが底吹き羽口26を用いる陽極炉内の銅に適用され、適切なガスが銅融解物に導入される。
【0023】
図2Aは、水冷却の筺体内に配置された従来技術のコヒーレント・ジェット・ランス組立品の等角図である。先行技術のコヒーレント・ジェット・ランス組立品は、最大長さ又は最大直径が約40.64cm(16インチ)あり、設置面積が大きい。先行技術のコヒーレント・ジェット噴射器は、水冷却の筺体内に配置されることが好ましい。水冷却の筺体を備えたコヒーレント・ジェット・システム全体は、通常181.6kg(400ポンド)近い重さである。
【0024】
一方、本銅陽極精錬システム及び方法に用いられるより小型で軽量なコヒーレント・ジェット・ランス組立品50が図2B及び図2Cに示されている。より小型で軽量なコヒーレント・ジェット・ランス組立品50、150も水冷却の筺体内に配置される。その設置面積は、長さが約93.98〜121.92cm(約37〜48インチ)であるが、最大直径はたったの約17.78cm(約7インチ)しかない。より細身のコヒーレント・ジェット噴射器は、約8.89cm(約3.5インチ)の直径しかなく、コヒーレント・ジェット・システム全体の重量は、図2Aに示した従来技術の約半分である。このより軽量で細身のコヒーレント・ジェット・ランス組立品50、150によって、炉の容器の上部にある点検口をより小さくして、より簡単且つ安全にランス組立品を挿し入れ及び取り出すことができるとともに、点検口を塞ぐことができる。
【0025】
上記の備え付け場所とともに本コヒーレント・ジェット・ランス組立品がより軽量であることで、陽極炉内でのコヒーレント・ジェット・ランス組立品の取出及び据付は極めて簡単になる。点検口の直径がより小さいことで、開閉がより簡単になるため、炉に伴う安全面の危険性が最小限に抑えられる。
【0026】
炉においてコヒーレント・ジェット・ランス組立品を使用することを考える場合は常に、炉の構造の完全性、特には炉内部の表面における耐火性の完全性を考慮する必要がある。より小型のコヒーレント・ジェット・ランス及び組立品をより小さなランス口とともに用いることで、先行技術の組立品と比較して、コヒーレント・ジェット技術に伴う構造的な問題及び耐火性の問題を最小限に抑えることができる。
【0027】
コヒーレント・ジェット・ランス組立品は、燃料の供給源、酸素含有ガスの供給源、還元ガスの供給源、及び任意選択で不活性ガスの供給源にガス制御スキッド又はシステム(図示せず)を介して連結されている。ガス制御スキッド又はシステムは、銅屑の融解とともに銅融解物の酸化及び還元を含む異なる精錬ステップを実行する目的のため、炉の中に噴射される異なるガス流を選択的に発生させるように、コヒーレント・ジェット・ランス組立品へのガスの流れを操作可能に制御する。
【0028】
コヒーレント・ジェット・ランスは、高速の定められたコヒーレント・ガス流の生成に適しており、そのコヒーレント・ガス流では、少なくとも1つの主ガス流が、先細末広ノズルから放出され、また、ランス組立品又はランス面の先端から主ガス流の長さの少なくとも一部の長さ分、好ましくは主ガス流の実質的に全体の長さ分、すなわち、ランス面から銅融解物の表面まで延びる火炎包囲部によって囲われている。火炎包囲部は、周囲(炉)のガスが主ガス流に混入することを防止し、それにより主ガス流の速度が低下することを抑制するように機能し、また、主ガス流を、ノズル径の約20倍以上の距離にある銅融解物の表面にジェット軸流速度を実質的に保持させたまま衝突させることができるように機能する。ガス流の軸流速度を保つことにより、ガス流は、断面における運動量のすべてを実質的に保持することができ、その運動量は、上記の距離に渡って、ノズル出口での断面における運動量と実質的に等しい。そのため、主ガス流と銅融解物との接触を向上させ、従って、コヒーレント・ガス流と、銅融解物中にある硫黄不純物及び酸素不純物との反応を向上させ、それによりサイクル時間を短縮し、銅精錬処理の効率を向上させる。
【0029】
コヒーレント・ジェット・ランス組立品は、火炎包囲部を採用していない炉で用いられる従来からの非コヒーラントな上吹きガス噴射装置とは大きく異なる。このような従来からの上吹きガス噴射装置を用いると、火炎が包囲されていないガス流が炉内の雰囲気を通過する際に、ガス流に炉のガスが混入することで、ガス流が、軸流速度及び運動量を急速に失うとともに径方向に急速に拡大し、特徴的な円錐形になる。
【0030】
実際、従来からの上吹きランス又は装置では、軸流速度のこの損失は相当のものであるため、超音速のガス流はランス面から短い距離の間でその超音速という特徴を失うことになる。一方、コヒーレント・ジェット技術では、コヒーレント・ガス流は、ノズル径の20倍超、一般的にはノズル径の30〜150倍の距離に渡って、その軸流速度を実質的に保持する。このような長い距離によって、コヒーレント・ジェット・ランス組立品を、処理効率を損なうことなく、例えば炉の耐火壁と同一面など、銅融解物からさらに離して備えつけることができる。さらに、コヒーレント・ガス流が大幅に高速であるため、従来の上吹きの火炎が囲われていない(即ち、コヒーレントでない)ガス流によって得られるガスの銅融解物への侵入よりも、さらに深くまでガスを侵入させることができる。実際、多くの場合において、浮力によって、噴射されたガスが上に戻ってくる前に、コヒーレント・ガス流は銅融解物のより深くまで侵入すると考えられており、また融解物内でのガスの作用が、表面下で噴射されたガスの作用に似ているため、底吹き羽口の必要性はないと考えられている。
【0031】
ここで図3及び図4を参照すると、同心円上の輪となって配置された燃料ポート56及び酸化剤ポート58によって囲われて中心に配置された主ノズル54を備えたランス面52を有する好ましいコヒーレント・ジェット・ランス噴射器が図示されている。図3及び図4には示されていないが、コヒーレント・ジェット・ランス噴射器は、水ジャケットから水接続部までに自在ホースを用いて水冷却される水冷ジャケット筺体内に収められている。冷却水ジャケットは、通常、相当の冷却水の流れを受け、冷却水の一部は冷却水ジャケット・ヘッダからコヒーレント・ジェット・ランス組立品へと分岐される。
【0032】
好ましい実施例においては、燃料は、燃料ポート56に通路65を介して接続される天然ガス64であることが好ましい。同じように、酸化剤は、酸化剤ポート58に通路63を介して接続される工業用純酸素62などの酸素含有ガスであることが好ましい。燃料ポート56及び酸化剤ポート58の各々は、ポートが詰まることを最小限に抑えるために、水冷却される筺体内で環状とされた凹部に配置されることが好ましい。主ガス・ノズル54は、コヒーレント・ジェット・ランス組立品50で送られることになるガス及びガス流に鑑みて適切な大きさとされた高速先細末広ノズルである。ノズル54は、上流側の端部において1つ又は複数のガス供給源60に第1の通路61を介して連結されることが好ましい。図3及び図4は簡単で好ましい噴射器の構成を示しているが、必要に応じて別の噴射器の構成及びノズルの構成を採用してもよい。例えば、中心に配置された単一のノズルに代えて、2つ主ガス・ノズルを採用してもよい。
【0033】
ここで図5及び図6を参照すると、単一の同心円の輪となって配置されたガス・ポート155によって囲われ、径方向における中点に対して中心に配置された主ノズル154を備えたランス面152を有するコヒーレント・ジェット・ランス噴射器の別の好ましい実施例が図示されている。図5及び図6には示されていないが、コヒーレント・ジェット・ランス噴射器は、水冷ジャケット筺体内に同じく収められており、融解物の温度を検出する高温計を内蔵していてもよい。
【0034】
この代替の好ましい実施例においては、燃料は、ガス・ポート155の一部に通路165を介して接続される天然ガス164であることが好ましい。同じように、酸化剤は、他のガス・ポート155に通路163を介して接続される工業用純酸素162などの酸素含有ガスであることが好ましい。同心円の輪となっているガス・ポート155は、燃料に連結されたガス・ポート155と酸素に連結されたガス・ポート155とが交互に隣接して配置されることが好ましい。すべてのガス・ポート155は、融解物の飛沫によってポートが詰まることを最小限に抑えるために、水冷却される筺体内で環状にされた凹部に配置されることが好ましい。主ガス・ノズル154は、コヒーレント・ジェット・ランス噴射器で送られることになるガス及びガス流に鑑みて適切な大きさとされた高速先細末広ノズルである。主ガス・ノズル154は、通路161を介して1つ又は複数のガス供給源に連結されることが好ましく、連結器172を介して主酸素供給源160に連結されること、連結器171を介して窒素170などの不活性ガスの供給源に連結されることを含むことが好ましい。
【0035】
本コヒーレント・ジェット・ランス組立品は、従来の融解火炎(弱吹き)及び火炎包囲部によって囲まれたコヒーレント・ガス流(強吹き)の両方を発生させることができる。ここで使用されるように、「融解火炎」は、弱吹きの、広範囲の表面に及ぶランスのない火炎(酸素燃料バーナ技術において「ブッシュ火炎」と言う場合がある)を引用している。このような火炎は、径方向に拡がるとともにノズル又はランス面の先端からノズル径の約20倍の距離内において超音速の特徴を失う火炎が生成されるように、燃料及び酸化剤の流れを調整することによって生成される。その名前が暗示するように、このような火炎は、装入材料を融解するために広範囲な面積に大量の熱を提供できるため、固体の銅や銅屑などの他の装入材料を融解するのに好適に用いられている。本実施例では、このような融解の最中に使用されるガス流は、実質的に窒素を含まないため、NOの形成が最小限に抑えられる。融解火炎はまた、「保持/待機」及び「燃焼」のいずれの運転モードの最中に、銅融解物の温度を所定の範囲内で維持するために使用できる。
【0036】
融解火炎の発生においては、ガスの主ガス・ノズルへの流れは、超音速状態での大流量から、ノズルの詰まりを防止するためには少なくとも十分とされる小流量(ここでは「パージ流れ」と言う場合がある)まで調整されることが好ましい。ただし必要に応じ、ノズルを通して高速のガス流を連続させることもできるが、火炎包囲部がないと、融解/ランスの混合した火炎を生成することになる。本システム及び方法は、ブッシュ火炎及び混合火炎のいずれも使用することを考慮しており、ブッシュ火炎及び混合火炎は、一般的な用語である「融解火炎」に包摂されている。
【0037】
本システム及び方法の使用に適した燃料には、天然ガス、水素ガス、及び液体燃料などのほとんどの炭化水素燃料が含まれるが、最も好ましいのは天然ガスである。有効な酸化剤は、酸素含有ガス流及び好ましくは工業グレードの高純度酸素ガスを含む。天然ガス及び酸素含有ガス流の流れは、コヒーレント・ジェット・ランス組立品が「燃焼モード」(例えば、融解火炎モード)で運転されるときに、それらガスの総流れが主ノズル及び補助ポートの間でそれぞれに均等に分割されるように調整されることが好ましい。
【0038】
マイクロプロセッサに基づくPLC制御装置は、コヒーレント・ジェット装置に任意選択で接続され、複数の異なる運転モード(例えば、保持/待機モード、燃焼モード、又は精錬モード)において、並びに、使用者の命令及び炉の運転状態に応じて、コヒーレント・ジェット・ランスへのガスの供給を正確に制御する。実際のガス流は、通常、運転モード、及び実行される特定の精錬処理ステップ(例えば、冷えた粗銅の加熱又は屑の融解、酸化、還元、スラグ排滓など)によって決定される。本コヒーレント・ジェット・システムによって用いられる運転モードの選択及び詳細な処理ステップは、制御室又は制御局にあるタッチ・スクリーンのヒューマン・マシン・インターフェースを介して陽極炉の操作員によって行われることが好ましい。
【0039】
本銅陽極精錬システム及び方法の処理の主たる目的は、銅屑の融解を拡大又は増加させるために、陽極炉にエネルギーを提供しつつ製錬所のNOを限界未満に保ち、全体の酸化及び還元サイクル時間を短縮することである。換言すれば、このシステム及び方法の目的は、運転コスト、エネルギー効率、サイクル時間、及び達成可能な最も少ないNOの形成の間での最適なバランスを達成することである。通常の銅炉の運転は、(i)装入、(ii)融解、(iii)酸化、(iv)還元、(v)スラグ排滓、及び(vi)鋳造のステップを含む。本コヒーレント・ジェット処理を用いた上記の精錬処理における詳細な処理ステップを、以下においてより詳細に検討する。
【0040】
装入及びNO制御
上記で検討したように、本システム及び方法は、コヒーレント・ジェット・ランス組立品を用いて、融解した粗銅及び装入屑を受け入れること、銅の装入物を融解すること、融解物を脱硫すること、任意選択で融解物のスラグを排滓すること、融解物を脱酸素化すること、並びに、任意選択で融解物に熱を提供して鋳造処理を支援することを順次行う、改良された低NOの銅陽極精錬処理を提供する。この処理の最初ステップでは、銅の融解物が炉内に提供される。一般的に、この銅の融解物は、その前の精錬処理から残る融解した銅の残存物(heel)の形態をとることになり、バーナ又は代わりにコヒーレント・ジェット・ランス組立品から提供される熱によって融解した形態に保持される。この残存物に対し、固体の銅が約7〜10時間かけて炉に装入される。必要に応じ、冷えた銅屑が、重量ベースで装入物全体のごく一部の量だけ炉に装入されてもよい。固体の屑は、1回又は好ましくは複数回、いくつかのステップに分けて炉に装入されてもよい。
【0041】
係員が炉の扉を開けた状態で炉に装入する最中、内容物は周囲の雰囲気に曝され、大量のNOが形成されることになる。実際、装入ステップの最中におけるNOの発生は、陽極精錬処理全体の中で最も大きな単一のNO形成源であることが分かっている。処理全体におけるNO形成量の著しい減少は、「保持/待機モード」で運転する本ランス組立品を使用する装入ステップの最中に、NOの形成を抑制することによって達成できる。
【0042】
意外なことに、NOの形成は、コヒーレント・ジェット・ランス組立品を介して炉の上部空間に窒素ガスを噴射することで著しく且つ予想外に減少させることができることが分かった。実施例の1つでは、窒素ガス、酸素ガス、及び天然ガス流が、ノズルを介して炉の上部空間に放出される。何らかの特定の運転の理論又はモードによって束縛されたくはないが、この窒素ガスの流れは、NO形成を促進させる上部空間に存在する高温領域を急冷し、NO形成レベルの低減につながると考えられる。ある意味では、この結果は経験にそぐわないが、それは、窒素ガスを上部空間に放出して高温に曝すことは、代わりにNOの形成量を増加させると考えられるためである。
【0043】
装入及びNO抑制ステップの最中、ガス流は、少なくとも、ランス通路から閉塞物を取り除き、融解した銅の飛沫によってランスが詰まることを防ぐに十分な低流量状態に維持される。すべてのNO抑制ステップの最中において、主ノズルは、NOを抑制するため、若干多めの流量で窒素ガス流を提供するように用いられることが好ましい。窒素ガスの流量は通常約283.2m/h(約10,000scfh)未満であり、好ましくは約254.9m/h(約9,000scfh)の流量で主ノズルから放出される一方、酸化剤及び燃料の流量は、酸化及び還元のステップの最中における流量よりも低い流量で補助ポートから放出される。この運転モードは「保持/待機モード」と表現される。
【0044】
NO抑制ステップは、炉に銅材料を装入することを考慮して記載されている一方で、NOを抑制するために窒素又は他の急冷ガス流を使用することは、精錬処理の最中にNOの程度が高くなるときは常に精錬処理以外の局面の最中でも同様に適用可能であることが分かった。例えば、ここに開示されるNO抑制の技術は、精錬処理以外の局面の最中に精錬処理が望ましくない量のNOを生成する際にはいつでも、コヒーレント・ジェット・ランスを他の運転モードから上記の「保持/待機モード」に定期的に又は一時的に切り換えて、炉のNOの程度が低くなるまで窒素又は他の急冷ガス流を少なめの流量で炉の上部空間に噴射することによって使用されてもよい。このようなNO制御の方策は、マイクロプロセッサに基づくPLC制御装置にプログラムされた自動機能であることが望ましい。
【0045】
融解
装入の後、装入物の融解は、コヒーレント・ジェット・ランス組立品が発生する熱によって、約1200℃〜1250℃の融解温度を生成して維持するのに十分な温度および時間で実施されることが好ましい。そのため、コヒーレント・ジェット・ランス組立品へのガス流は、酸素含有ガス流及び燃料であり、窒素ガスを実質的に含まないことが好ましい。ガス流は周知の方法で調整され、コヒーレント・ジェット・ランス組立品から、炉の上部空間へと放出されるか、任意選択で銅の装入物に接触するように放出される融解火炎を提供する。
【0046】
融解火炎は、固体の装入物を素早く融解して融解した銅の融解物を形成する。通常、装入物は、装入物の融解に必要な時間の少なくとも一部において、好ましくは、装入物を融解するのに必要な時間全体において融解火炎と接触する。この処理ステップの最中、本コヒーレント・ジェット・システム及び方法は、「燃焼モード」と表現される状態で運転する。この「燃焼モード」は、ランス組立品からの低流速のガス流を特徴とし、通常、融解処理及び鋳造処理の最中に有効となる。
【0047】
装入物を融解した後、本コヒーレント・ジェット・システム及び方法は、「精錬モード」と表現される状態で一般的に運転する。「精錬モード」は、ランス組立品からの高速の遮蔽されたガス流を特徴とする。精錬モードは、酸化処理、還元処理、及びスラグ排滓処理のほとんどの最中で選択される。主ノズル・ガス流のガスの構成は、有効となっている処理ステップ(例えば、酸化、スラグ排滓、又は還元)に依存する。
【0048】
酸化
装入物を融解した後、生じた銅融解物には次に、コヒーレント酸素含有ガス流が上から吹き付けられ、融解物を脱硫し、その中にある硫黄を酸化させてSOとする。コヒーレント酸素含有ガス流は、他のガスを微量だけ含む100体積%までの酸素から構成され得る。実際には、ノズルから放出されるコヒーレント酸素含有ガス流は、少なくとも21体積%、より好ましくは少なくとも36体積%の酸素を含む、酸素及び窒素の混合物から構成され得る。コヒーレント酸素含有ガス流は、通常、約マッハ1.0〜2.5、好ましくは約マッハ1.5〜2.25、さらに好ましくは約マッハ1.8〜2.0の軸流(つまり、流れ方向における)速度を有しており、火炎包囲部が少なくとも主酸素ガス流の長さの一部、好ましくは主酸素ガス流全体の長さだけ主酸素流れの周りに生成されるように、補助酸素ポートからの酸素の流れ、補助燃料ポートからの燃料(例えば、天然ガス)の流れ、及び主ノズルからの酸素の流れを周知の方法で調整することによって生成される。
【0049】
酸化ステップの最中における一般的な流れの状態は、約141.6m/h(5,000scfh)〜198.24m/h(7,000scfh)の燃料の流れ、約113.28m/h(4,000scfh)〜141.6m/h(5,000scfh)の補助酸素の流れ、及び約1274.4m/h(45,000scfh)〜1699.2m/h(60,000scfh)の全体の流れとなる主酸素含有ガスの流れを含む。コヒーレント酸素含有ガス流による銅融解物への上からの吹き付けは、約1200℃〜約1250℃の融解温度で行われ、また、融解物中にある硫黄の量を、例えば、約800〜3,000ppm(重量ベース)を約40〜約100ppmの硫黄へと減少させるのに十分な時間長さだけ続けられる。
【0050】
脱硫のステップは、上記のように1回のステップの手順で実施されてもよいし、或いは任意選択で、最初のステップにおいて、より高酸素濃度のコヒーレント酸素含有ガス流を銅融解物に上から吹き付け、続く第2のステップにおいて、より低酸素濃度のコヒーレント酸素含有ガス流を銅融解物に上から吹き付ける複数回のステップの手順で実施されてもよい。この複数回のステップによる運転は、銅融解物が過剰に酸化することを回避できるという利点がある。検討された複数回のステップの手順では、まず、体積比で約30〜60%の酸素濃度を有して残りが不活性ガス(窒素が好ましい)を含むコヒーレント酸素含有ガス流を銅融解物に上から吹き付ける。その後、酸素含有ガスに含まれる酸素の量が、体積比で約21%から約36%(残りは不活性ガス(窒素が好ましい)を含む)まで減らされ、硫黄濃度が例えば約40ppm〜約100ppmの硫黄などの所望の程度に低減するまで、そのより低酸素濃度のコヒーレント酸素含有ガス流を銅融解物に上から吹き付ける。精錬処理における脱硫局面を完了するのに必要な全体時間が増加する可能性はあるが、融解物が過剰に酸化する可能性を低減させるために、必要に応じ、より高酸素濃度のコヒーレント酸素含有ガス流をより低い位置から吹き付けたり、より低酸素濃度のコヒーレント酸素含有ガス流をより高い位置から吹き付けたりする後続のステップが採用されてももちろんよい。
【0051】
複数回のステップによる酸化処理における流れの状態は、1回のステップによる手順の状態に通常対応しており、約141.6m/h(5,000scfh)〜198.24m/h(7,000scfh)の燃料の流れ、約113.28m/h(4,000scfh)〜141.6m/h(5,000scfh)の補助酸素の流れ、及び約1274.4m/h(45,000scfh)〜1699.2m/h(60,000scfh)の全体の流れとなるノズルからの主酸素含有ガスの流れを含む。
【0052】
スラグ排滓
コヒーレント酸素含有ガスによる銅融解物の酸化に続き、任意選択でスラグ排滓のステップが融解物に行われてもよい。スラグ排滓は、開示する本システム及び方法では必須の実施事項ではないが、銅陽極炉の連続又は半連続の運転の最中に炉内にスラグが蓄積するのを防ぐために、定期的に行われることが望ましい。このステップでは、炉が水平軸線周りに回転させられ、スラグは炉口から除去することができる。スラグに動くための力を提供するためには、コヒーレント・ジェット・ランス組立品を用いて銅融解物に上から吹き付け、銅融解物の表面にスラグを浮き上がらせて炉口の方へと仕向ければよい。この目的のためには何らかの適切な主ガス流を用いられればよいが、窒素ガス又は酸素/窒素ガスの混合物などの不活性ガスを上吹きのガス流として用いることが望ましい。前記のように、上吹きのガス流は、ノズルから超音速の主ガス流を放出し、そのポートを通じた酸素及び燃料の燃焼によって形成される火炎包囲部で囲むことによって形成される。
【0053】
還元
酸化及び任意のスラグ排滓の後、銅融解物は重量で約3,000〜7,000ppmの酸素、例えば、約4,000ppmの酸素を一般的に含むことになる。それに比べて、装入された粗銅の酸素の程度は、約2,000ppmの酸素を一般的に含んでいる。従って、銅融解物の酸素の程度は、酸化のステップによって初期の値よりも相当に増加している。融解物中にある酸素を許容できる程度にまで低減させるために、銅融解物を脱酸素化して銅融解物中にある酸素の量を所望の値まで減少させる目的で、コヒーレント・ジェット・ランス組立品によって、水素、天然ガス、炭化水素、一酸化炭素、及びアンモニアのような還元ガスを融解物に上から吹き付ける。銅融解物中の酸素の程度は、脱硫後における重量で約4,000ppmから、約1,500〜約1,900ppmの酸素まで減少され、好ましくは、約1,500ppmの酸素まで減少されることが好ましい。還元ステップの最中の一般的な融解(反応)温度は約1170℃〜約1180℃の範囲であり、酸化処理の場合と同様に、還元処理は1回、或いは、異なるガス濃度のコヒーレント還元ガス流を用いた複数回のステップ又は分割された処理で実施できる。
【0054】
コヒーレント還元ガス流は、ノズルから超音速の主還元ガス流を放出し、それをランス面の補助ポートを通じた補助酸素及び補助燃料の燃焼によって形成される火炎包囲部で囲むことによって形成される。コヒーレント還元ガス流は、100%までの還元剤(例えば、天然ガス)を含み得る。コヒーレント・ガス流は、約5体積%〜約25体積%の還元剤を含むアルゴン、蒸気、窒素、ヘリウム、及びCO(これらの中では窒素が最も好ましい)など、還元剤と不活性ガスとの混合物を含むことが好ましく、また、約10体積%〜約20体積%の還元剤を含み、残りが窒素などの不活性ガスを含むことが、より好ましい。このような還元剤/不活性ガスの混合物は、コヒーレント・ジェット・ランス組立品への天然ガス及び窒素の流れをガス制御スキッド又はシステムによって調整し、天然ガスと窒素との混合物を主ノズルから放出することで形成されることが好ましい。
【0055】
還元の最中に、コヒーレント還元ガス流に対し混合した還元剤/不活性ガスの流れを使用することで、いくつかの運転上の利点を得られることが分かった。具体的には、分子重量(つまり質量)が小さいために、還元剤だけで又は還元剤を主として構成されたガス流は、限られた長さ及び噴射力だけのコヒーレント・ガス流を形成することが分かった。実際、それらの質量が小さいため、還元剤だけのコヒーレント・ガス流は、銅融解物を貫いたり、還元剤と銅融解物とのガス/液体混合を適切に促進させたりするには十分な噴射力を有していない可能性がある。この問題を解決するため、還元剤を融解物中に導入する従来からの手段の多くは、複数の小さな孔が設けられた栓及び底吹き羽口を用いて上吹きの還元剤を補うか、底吹き羽口を用いて還元剤を正確に導入するかによって得られてきた。
【0056】
不活性ガス流は、質量がより大きいため、有益な長さ及び噴射力の優れたコヒーレント・ガス流を形成するのに都合がよい。混合した還元剤/不活性ガス流を用いることによって、還元剤を上から吹き付けるだけの場合に伴う運転上の問題を克服できる。還元剤(例えば天然ガス)を窒素ガス流又は他の不活性ガス流と混合することで、その窒素ガス又は他の不活性ガスは、搬送ガスとして、すなわち、効果的なガス/液体混合を可能とし、複数の小さな孔が設けられた栓又は底吹き羽口を用いて還元剤の噴射を補う必要性をなくすに十分な大きさの噴射力で還元剤を銅融解物へと運ぶ推進物としての働きをする。
【0057】
鋳造
還元ステップが完了すると、生じた陽極銅は通常、約15ppm以下の硫黄、1,900ppm以下の酸素を含み、約1200℃の範囲における融解温度となる。この時点において、陽極銅は続く電解精錬において陽極に鋳造される準備が整う。鋳造処理の最中に融解温度を維持するように熱を提供するために、好ましい実施例においては、銅装入物の融解のステップに関連して先に記載したのと同じような方法で、主酸素含有ガス、補助酸素、及び、例えば約3〜約5体積パーセントの分だけ正規組成よりも若干多めとなるように調整された燃料の流れで、コヒーレント・ジェット・ランスから融解火炎を銅融解物に上から吹き付けてもよい。このような燃料が多めの融解火炎を用いることで、融解物の再酸化が最小限に抑えられる。この鋳造ステップの最中、本コヒーレント・ジェット・システム及び方法は、あるとすれば、「燃焼モード」で運転する。
【0058】
実例
表1は、商業規模の運転に対する本銅陽極精錬システム及び方法の使用で考えられるガス流の範囲を示す。
【0059】
【表1】

【0060】
開示する本銅陽極精錬システム及び方法は、ケネコット・ユタ・カッパ社の陽極炉である商業規模の陽極炉で評価されたものである。酸素燃料のエンド・バーナ(つまり、JLバーナ)及び底吹き羽口を採用する従来の銅陽極精錬処理を用いた陽極炉の能力に対する、コヒーレント・ジェット技術を採用する本銅陽極精錬システム及び方法を用いた陽極炉の能力を示す比較結果が、表2に示されている。
【0061】
【表2】

【0062】
予想された通り、コヒーレント・ジェット技術を採用する本銅陽極精錬システム及び方法を用いた場合には、燃料消費量及び酸素消費量全体が増加した。具体的に言えば、燃料消費量は、基準となる天然ガス224.6m/h(7930NCFH)から天然ガス240.2m/h(8480NCFH)まで上昇し、約7%の増加であった。酸素消費量は、348.1m/h(12290NCFH)から400.4m/h(14140NCFH)まで増加し、約15%の増加であった。しかしながら、天然ガス及び酸素のコスト増加は、銅の生産量の大幅な増加によって相殺される。具体的には、銅屑の融解は、従来の銅陽極精錬処理で用いられる1装入あたり10トンから、コヒーレント・ジェット技術を採用する新規の銅陽極精錬システム及び方法で用いられる1装入あたり34トンへと増加し、約240%の増加であった。また、酸化及び還元ステップに伴うサイクル時間は、従来処理における全165分間からコヒーレント・ジェットに基づく処理を用いた場合に120分間へと短縮され、27%超の短縮であった。
【0063】
また、同一のコヒーレント・ジェット・ランス組立から、パージを挟んで酸化処理ガス及び還元処理ガスを順次送り出せる新規の銅陽極精錬システム及び方法を用いることで、2つの選択された時点における融解した粗銅の硫黄含有量は、従来の処理の融解した粗銅中の相当する硫黄含有量と比較して、著しく減少している。予想された通り、コヒーレント・ジェットに基づく処理における酸素含有量は、本銅陽極精錬システム及び方法において炉に供給される酸素が増加するために、若干増加している。この過剰な酸素はまた、その過剰及び不必要な酸素を除去するのに必要とされる還元の時間を若干増加させる原因となっている。
【0064】
同様に重要なことは、本コヒーレント・ジェットに基づくシステム及び方法は、商業規模の銅陽極炉で実演されたように、処理全体を通じて、NOのレベルを所定のレベル未満に効果的に制御したことである。
【0065】
前述のことから、開示する実施例及び実例は、銅陽極精錬の様々な方法及びシステムを提供することが認識されよう。本発明は、特定の好ましい実施例を参照しつつ詳細に記載されたが、当業者の思いつくように、他の多くの修正、変更、派生、追加、及び省略を、本特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅の陽極精錬方法において、
(i)融解した粗銅を炉に装入するステップと、
(ii)銅屑を前記炉内の前記融解した粗銅に装入するステップと、
(iii)酸素含有ガスの供給源に連結されている上吹きの多機能なコヒーレント・ジェット・ランスから生成される融解火炎、及び燃料の供給源を用いて前記銅屑を融解させるか、又は前記融解した粗銅を加熱するステップと、
(iv)前記酸素含有ガスの供給源及び前記燃料の供給源に連結された前記コヒーレント・ジェット・ランスから放出される上吹きのコヒーレント酸素含有ガス流を用いて前記炉内の前記融解した粗銅中の硫黄不純物を酸化させるステップと、
(v)前記酸素含有ガスの供給源、前記燃料の供給源、前記還元剤の供給源、及び前記不活性ガスの供給源に連結された前記コヒーレント・ジェット・ランスから放出される、還元剤及び不活性ガスを含む上吹きのコヒーレント還元ガス流を用いて前記炉内の前記融解した粗銅中の酸素を還元するステップと
を含む陽極精錬方法。
【請求項2】
前記銅の陽極精錬方法が、連続的な乾式精錬処理であり、前記炉に導入される銅屑又は融解した粗銅の追加的な装入毎にステップ(iii)からステップ(v)までを繰り返すステップをさらに含む、請求項1に記載された陽極精錬方法。
【請求項3】
耐火壁を備え、上面を有する融解した銅の浴を含むように適合され、且つ、前記銅浴の前記上面の上方に上部空間を有する銅冶金炉と、
酸素含有ガスの供給源、不活性ガスの供給源、還元剤の供給源、及び燃料の供給源に連結され、前記銅浴の前記上面の上方の位置で前記炉の耐火壁に備えつけられた少なくとも1つの多機能なコヒーレント・ジェット・ランスと、
酸素含有ガス、不活性ガス、還元剤、及び燃料の前記少なくとも1つのコヒーレント・ジェット・ランスへの流れを操作可能に制御する制御装置と
を有し、
前記燃料及び前記酸素含有ガスを含む融解のための火炎が、前記少なくとも1つのコヒーレント・ジェット・ランスから生成されて、前記炉に提供された前記融解した銅の装入物を加熱又は何らかの銅屑の装入物を溶解させ、
コヒーレント酸素含有ガス流が、前記コヒーレント・ジェット・ランスから生成されて前記銅浴中の硫黄を酸化させ、
前記還元剤及び前記不活性ガスを含むコヒーレント還元ガス流が、前記コヒーレント・ジェット・ランスから生成されて前記銅浴中の酸素を還元するようになっている、銅陽極精錬システム。
【請求項4】
陽極炉で銅を連続的に精錬する方法の改善であり、前記改善が、
融解した粗銅を前記陽極炉に装入し、前記陽極炉の前記融解した粗銅に銅屑を任意選択で装入するステップと、
前記陽極炉の前記融解した粗銅中の硫黄不純物を、前記酸素含有ガスの供給源及び前記燃料の供給源に連結され、前記融解した粗銅の前記上面の上方の位置で前記陽極炉の耐火壁に備えつけられたコヒーレント・ジェット・ランスから放出される上吹きのコヒーレント酸素含有ガス流を用いて酸化させるステップと、
(v)前記酸素含有ガスの供給源、前記燃料の供給源、前記還元剤の供給源、及び前記不活性ガスの供給源に連結された前記コヒーレント・ジェット・ランスから放出される、還元剤及び不活性ガスを含む上吹きのコヒーレント還元ガス流を用いて前記陽極炉内の前記融解した粗銅中の酸素を還元するステップと
を含む、陽極精錬方法の改善。
【請求項5】
前記酸化するステップの後且つ前記還元するステップの前か、前記融解又は加熱するステップの後且つ前記酸化するステップの前か、前記装入するステップの最中か、前記融解するステップの最中か、又は前記還元するステップの後に、前記多機能なコヒーレント・ジェット・ランスを通じて1つ又は複数のパージ流を送るステップをさらに含む、請求項1又は請求項4に記載のされた陽極精錬方法。
【請求項6】
前記酸化ステップは、第1段階で前記融解した銅が少なくとも30体積パーセントの酸素濃度の酸素を含む第1のコヒーレント酸素含有ガス流と接触させられ、続いて、融解した銅が前記第1のコヒーレント酸素含有ガス流よりも濃度の低い酸素を含む第2のコヒーレント酸素含有ガス流と接触させられる2つ以上の分割したステップで実施される、請求項1又は請求項4に記載された陽極精錬方法。
【請求項7】
前記融解した銅を前記コヒーレント・ジェット・ランスによって生成された融解用の火炎に接触させることで、前記銅を陽極に鋳造する最中に前記融解した銅を加熱するステップをさらに含む、請求項1又は請求項4に記載された陽極精錬方法。
【請求項8】
前記コヒーレント・ジェット・ランスから放出されるガス流を用いて、前記融解した銅からスラグを炉口の方向へと向けるように排滓するステップをさらに含む、請求項1又は請求項4に記載された陽極精錬方法。
【請求項9】
前記酸素含有ガスが工業グレードの純度の酸素であり、前記還元剤及び燃料が天然ガスであり、前記不活性ガスが窒素である、請求項1若しくは請求項4に記載された陽極精錬方法又は請求項3に記載された銅陽極精錬システム。
【請求項10】
前記融解用の火炎が実質的に窒素ガスを含んでいない、請求項1若しくは請求項4に記載された陽極精錬方法又は請求項3に記載された銅陽極精錬システム。
【請求項11】
上吹きの窒素ガス流が、銅屑又は融解した銅を前記炉内に装入する最中に、前記コヒーレント・ジェット・ランスから前記炉の上部空間に導入されて前記炉内でのNOの形成を抑制する、請求項1若しくは請求項4に記載された陽極精錬方法又は請求項3に記載された銅陽極精錬システム。
【請求項12】
前記コヒーレント・ジェット・ランスは、融解、酸化、及び還元する以外の銅精錬のステップの最中に炉から取り外すことがきる軽量で取り外し可能なコヒーレント・ジェット・ランスである、請求項1若しくは請求項4に記載された陽極精錬方法又は請求項3に記載された銅陽極精錬システム。
【請求項13】
金属を精錬する最中にNOの形成を抑制する方法であって、
少なくとも1つの上吹きのランス組立品を備え、酸素含有ガスの供給源、燃料の供給源、及び窒素ガスの供給源に連結された炉内の融解した金属浴に金属屑の装入物を提供するステップと、
前記金属屑の装入物を前記燃料及び前記酸素含有ガスを用いる融解火炎を用いて融解するステップと、
前記酸素含有ガス又は還元剤を用いて前記融解物中の不純物を酸化又は還元するステップと、
前記精錬処理の最中におけるNOの形成を抑制するため、金属屑の装入物を提供する前記ステップの最中又は後に、前記上吹きのランス組立品を用いて所定量の窒素ガスを前記炉の上部空間に間欠的に噴射するステップと
を含む方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−519796(P2013−519796A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553981(P2012−553981)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【国際出願番号】PCT/US2011/025002
【国際公開番号】WO2011/103132
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(392032409)プラクスエア・テクノロジー・インコーポレイテッド (119)
【出願人】(512316921)ケネコット ユタ コッパー コーポレイション エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】