説明

銅電解スライムからのセレンの回収方法

【課題】 ヒ素濃度の高い銅電解スライムを塩素浸出した浸出液から有価金属を回収する場合に、金を抽出分離した後の抽出残液を陰イオン交換樹脂で処理した後、その吸着後残液から高純度のセレンを回収する方法を提供する。
【解決手段】 銅電解スライムの浸出液から金を抽出し、陰イオン交換樹脂で白金族元素を吸着させた後、その吸着後残液に亜硫酸水素ナトリウムを添加してパラジウムを含む沈殿物を濾過して分離し、得られた濾液に二酸化硫黄を吹き込んでセレンを還元して回収する。吸着後残液の塩化物濃度を2.0〜2.5モル/lに及び温度を30〜50℃に調整することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅電解スライムからの白金族元素の回収、特にパラジウム品位の低い高純度なセレンを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅電解スライムから有価金族を回収する処理については、乾式法及び湿式法のいずれも実用化されている。特に湿式法については様々な方法があるが、そのひとつの例として特開2001−207223号公報(特許文献1)に記載された方法がある。
【0003】
この方法では、銅電解スライムに水を加えてスラリー状とし、塩素ガスを吹き込むことにより、金、白金族元素、セレン、テルル等の有価金属を浸出する。得られた浸出液をビス(2−ブトキシエチル)エーテルと接触させて金を有機相に抽出分離した後、抽出残液を塩化トリオクチルメチルアンモニウム及びリン酸トリブチルと接触させて白金族元素を抽出する。この抽出残液に二硫化硫黄を吹き込み、酸化還元電位(参照電極:Ag/AgCl)を400〜500mVに維持してセレンを選択的に還元し、次いで酸化還元電位を290〜380mVに維持することによりテルルを還元して回収する。
【0004】
また、上記のごとく金を分離した抽出残液から白金族元素を回収する別の方法として、特開2004−131745号公報(特許文献2)には、金を分離した抽出残液をポリアミン型アニオン交換樹脂と接触することにより、白金族元素を吸着して分離する方法が提案されている。尚、このポリアミン型アニオン交換樹脂のような陰イオン交換樹脂により白金族元素を吸着した後の残液中に残るセレンやテルルは、上記特許文献1記載の方法と同様に二硫化硫黄の吹き込みにより還元して回収すればよい。
【0005】
しかしながら、銅電解スライムには、例えば、Ba、Pb、Bi、Fe、Cu、As、Se、Sn、Sb、Te、Au、Ag、白金族元素など、種々の元素が含まれている。これらの元素を含む銅電解スライムを塩素ガスで浸出した場合、回収目的である金や白金族元素などの有価元素のほかにも、Cu、Se、As、Te、Sb、Biなどの様々な元素も同時に浸出されるので、それらの元素を不純物として処理しなければならない。
【0006】
一方、銅製錬における不純物は、原料となる鉱石の品位により変化する。近年では、とりわけヒ素(As)品位の上昇が著しくなり、それに伴って銅電解スライム中に含まれるAs量も増加傾向となっている。しかし、原料鉱石中に含まれるヒ素を単独で分離することは容易ではないため、銅電解スライムを塩素ガスで浸出した浸出液中のAs濃度も高くなる傾向にある。
【0007】
このようなAs濃度の高い浸出液については、上述のごとく金を抽出分離した後、その抽出残液からポリアミン型アニオン交換樹脂のような陰イオン交換樹脂で白金族元素を吸着分離する場合、樹脂に吸着されて除去されるパラジウム(Pd)が減少してしまうという問題が生じている。即ち、浸出液中のAs濃度がほぼ5.5g/lを超えると、Asに妨害されてPdの吸着率が低下することが分かった。その結果、吸着後残液から回収されるSe中のPd品位が上昇してしまい、セレンの品質が低下することが避けられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−207223号公報
【特許文献2】特開2004−131745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、ヒ素濃度の高い銅電解スライムを塩素浸出した浸出液から有価金属を回収する場合に、金を抽出分離した後の抽出残液を陰イオン交換樹脂で処理した後、その吸着後残液から高純度のセレンを回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者らは、銅電解スライムを塩素浸出した浸出液中のセレンと白金族元素、特にセレンとパラジウムの還元挙動について鋭意研究を重ねた結果、陰イオン交換樹脂で白金族元素を吸着分離した後、その吸着後残液に還元剤として亜硫酸水素ナトリウムを添加することによって、パラジウムをセレンよりも優先的に還元して沈殿分離できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
即ち、本発明が提供する銅電解スライムからのセレンの回収方法は、銅電解スライムのスラリーを塩素浸出し、その浸出液に有機溶媒を接触させて金を抽出し、その抽出残液を陰イオン交換樹脂と接触させて白金族元素を吸着させた後、吸着後残液に二酸化硫黄を吹き込んでセレンを還元して回収する方法において、吸着後残液に二酸化硫黄を吹き込む前に亜硫酸水素ナトリウムを添加し、生成した主にパラジウムを含む沈殿物を濾過して分離した後、得られた濾液に二酸化硫黄を吹き込むことを特徴とするものである。
【0012】
上記本発明による銅電解スライムからのセレンの回収方法においては、亜硫酸水素ナトリウムを添加する前に、吸着後残液中の塩化物濃度を2.0〜2.5モル/lの範囲に調整することが好ましい。また、亜硫酸水素ナトリウムを添加する際に、吸着後残液の温度を30〜50℃の範囲に調整することが好ましい。
【0013】
更に、上記本発明による銅電解スライムからのセレンの回収方法において、亜硫酸水素ナトリウムの添加量は、NaHSO換算で濃度35〜36重量%の溶液として、吸着後残液の液量に対し1〜3体積%であることが好ましい。また、亜硫酸水素ナトリウムの添加量については酸化還元電位で管理することもでき、その場合は前記吸着後残液の酸化還元電位が1050〜800mVの範囲となるように亜硫酸水素ナトリウムを添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、近年のヒ素品位の高い銅電解スライムを塩素浸出した浸出液であっても、金の抽出分離と白金族元素の吸着分離に続いて、パラジウムを還元して回収すると共に、パラジウム品位が低く高純度のセレンを回収することができる。その結果、白金族元素、特にパラジウムについても、回収ロスを減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1において亜硫酸水素ナトリウムを添加した際の吸着後残液の酸化還元電位とセレン濃度及びパラジウムの濃度との関係を示すグラフである。
【図2】実施例3において亜硫酸水素ナトリウムを添加した際の吸着後残液中の塩化物濃度とパラジウム濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明においては、銅電解スライムのスラリーを塩素浸出した浸出液から有価金属、特にセレンを回収する場合に、有機溶媒で金を抽出した抽出残液を陰イオン交換樹脂と接触させて白金族元素を吸着させた後、吸着後残液に残っているパラジウムを亜硫酸水素ナトリウムで還元し、主にパラジウムを含む殿物を濾過して分離する。次に、得られた濾液に二酸化硫黄を吹き込んでセレンを還元することにより、パラジウム品位の低い高純度なセレンを沈殿させて回収する。
【0017】
尚、上記金の抽出に用いる有機溶媒や白金族元素の吸着に用いる陰イオン交換樹脂は従来から使用されているものでよい。例えば、金の抽出に用いる有機溶媒としてはビス(2−ブトキシエチル)エーテルが好ましく、また白金族元素の吸着に用いる陰イオン交換樹脂としてはポリアミン型の陰イオン交換樹脂の使用が好ましい。
【0018】
上記したパラジウムの還元分離工程では、還元剤として亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO;重亜硫酸ソーダとも称する)を使用する。陰イオン交換樹脂での吸着後残液に含まれるパラジウムなどの白金族元素は微量であるため、液の酸化還元電位だけを監視しながら二酸化硫黄ガスなどの還元剤の添加量を精度よくコントロールすることは容易でない。これに対して亜硫酸水素ナトリウムは溶液で用いると、例えば定量ポンプを使うなどの方法によって添加時間、即ち添加量を管理することができ、また酸化還元電位の管理も容易であるから、微量含有されるパラジウムなどの白金族元素の還元を容易に且つ精度よくコントロールすることができる利点がある。
【0019】
亜硫酸水素ナトリウムの添加量が多いほど、パラジウムの還元量を増加させることができるが、同時にセレンの共沈量も増加するため回収ロスが生じやすい。逆に亜硫酸水素ナトリウムの添加量が少ないと、パラジウムの還元量が減少し、次工程でセレンを回収する際にセレンに分配するパラジウム量が増え、セレンの品質が悪化する。これらの不都合を避けるため、亜硫酸水素ナトリウムの添加量は、NaHSO換算で濃度35〜36重量%の溶液として、陰イオン交換樹脂での吸着後残液の液量に対して1〜3体積%添加することが好ましい。
【0020】
また、上記亜硫酸水素ナトリウムの添加量は、酸化還元電位(参照電極:Ag/AgCl)で管理することも可能である。還元剤である亜硫酸水素ナトリウムを添加すると、還元の初期段階ではセレンよりも優先してパラジウムが還元されるためである。具体的には、吸着後残液の酸化還元電位が1050〜800mVの範囲となるように亜硫酸水素ナトリウムを添加することによって、セレンよりもパラジウムが選択的に還元されるので、セレンを含まず主にパラジウムからなる沈殿物のみを分離することができる。
【0021】
上記亜硫酸水素ナトリウムの添加によるパラジウムの還元分離工程では、亜硫酸水素ナトリウムを添加する前に、吸着後残液中の塩化物イオン濃度を2.0〜2.5モル/lの範囲に調整することが好ましい。一般に塩化物溶液中のパラジウムイオンはPdCl2−で示される形態で存在するが、この形で態は塩化物イオン濃度が高くなると塩化物錯体の安定度が増して還元し難くなるため、セレンとの選択性が低下して分離し難くなる。そのため、吸着後残液中の塩化物イオン濃度を2.5モル/l以下に調整することにより、セレンとの選択性が確保され、パラジウムを選択的に還元して沈殿させることが容易になる
【0022】
一方、塩化物イオン濃度が低いほどセレンとの選択性は向上するが、塩化物イオン濃度が2.0モル/l未満になると、次工程でセレンを還元分離する際にアンチモンやビスマスなどの不純物も加水分解されて沈殿しやすくなるため、回収されるセレンの品質が低下する恐れがある。このような理由により、吸着後残液中の塩化物イオン濃度は、上記2.0〜2.5モル/lの範囲に調整管理することが好ましい。
【0023】
尚、上記パラジウムの還元分離工程において、亜硫酸水素ナトリウムを添加する前の吸着後残液中の塩化物イオン濃度が上記基範囲よりも低い場合には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩酸などの形で塩化物イオンを補充するか、あるいは吸着後残液を加熱して濃縮するなどの方法により、塩化物イオン濃度を調整することができる。反対に塩化物イオン濃度が高い場合には、吸着後残液に水を加えて希釈すればよい。
【0024】
また、還元時における吸着後残液の温度は、30〜50℃の範囲に調整することが望ましい。吸着後残液の温度が30℃未満でもセレンとパラジウムを選択還元することはできるが、パラジウムの還元速度が遅くなる。そのため、工業的な規模で実施する場合には、操作に手間と時間がかかるうえ、遅い還元速度と必要な処理量に見合った規模の反応槽が必要となるなどの不利益がある。
【0025】
一方、吸着後残液の温度が50℃を超えると、生成するセレンが取り扱い難くい性状となるため好ましくない。即ち、セレンの形態は、還元温度が50℃以下では不定型の赤色セレン、50〜60℃ではガラス状のアモルファスセレン、70℃以上では結晶型のセレンへと変化する。ガラス状のアモルファスセレンは、団子状となって反応槽の内側や撹拌羽根に付着しやすいため、生成を避けることが望ましい。また、温度が50℃を超えて高い場合には、パラジウムの再溶解が生じるため、パラジウムの還元も進みに難くなる。これらの理由から、反応温度は50℃を上限とすることが好ましい。
【0026】
上記パラジウムの還元分離工程により吸着後残液からパラジウムを濾過して分離した後の濾液は、従来と同様の処理により、セレン及びテルルを順次還元して回収することができる。即ち、セレンの還元工程では二硫化硫黄を吹き込んで酸化還元電位(参照電極:Ag/AgCl)を400〜500mVに維持することによりセレンを選択的に還元し、次のテルルの還元工程では酸化還元電位を290〜380mVに維持することによりテルルを還元して回収する。セレン及びテルルの還元に用いる還元剤としては、安価で取り扱いの容易な二酸化硫黄ガスが好ましい。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
銅電解精製で生成した銅電解スライムに水を加え、スラリー濃度を200g/lに調整した。このスラリーにボンベから塩素ガスを吹込み、下記表1に示す組成の浸出液を得た。この浸出液1.5リットルに対し、有機抽出剤として1.5リットルのビス(2−ブトキシエチル)エーテルを混合し、5分間振盪した後静置して、浸出液中に含まれる金を有機相中に抽出して分離した。
【0028】
次に、金を分離した後の抽出残液をポリアミン型陰イオン交換樹脂(ピュロライト社製、商品名A830W型)100mlを充填したガラス製カラムに、流量がSV=2(200ml/hr)、液量がBV=15(1500ml)となる条件で通液し、抽出残液中に含まれている白金族元素を吸着させた。樹脂通過後の吸着後残液をひとつにまとめ、ICP分析装置を用いて分析した(但し、Cu、As、Sb、Biは除く)。得られた吸着後残液の組成を、上記浸出液の組成と共に、下記表1に示した。
【0029】
【表1】

【0030】
次に、上記イオン交換樹脂を通過した後の吸着後残液について、セレンとパラジウムの還元挙動を調査した。即ち、1.5リットルの吸着後残液を容量3リットルの耐熱ガラス製ビーカーに入れ、加温して温度を50℃に調整し、スリーワンモーターで撹拌しながら亜硫酸水素ナトリウム溶液(NaHSO換算で濃度35〜36重量%)を順次添加した。その際10分毎にサンプリングして、液中に残留するセレンとパラジウムの濃度を分析すると共に、液の酸化還元電位(参照電極:Ag/AgCl)を測定してた。得られた結果を図1に示した。
【0031】
図1の結果から、パラジウムは還元の初期段階でセレンよりも優先して還元されて分離できることが分かる。具体的には、亜硫酸水素ナトリウム溶液を添加しながら酸化還元電位を1050〜800mVの範囲に管理することによって、パラジウムが選択的に還元され、セレンよりも主にパラジウムからなる沈殿を得ることができる。尚、上記吸着後残液の塩化物濃度は、滴定法により測定したところ2.3モル/lであった。
【0032】
[実施例2]
上記実施例1において金をイオン交換樹脂で吸着した後の溶液、即ち上記表1に示す組成の吸着後残液を約2リットル用意し、これを200mlづつ9等分し、それぞれを容量0.5リットルの耐熱ガラス製ビーカーに入れた。
【0033】
上記の各吸着後残液について、液温をそれぞれ下記表2に示す20℃から80℃の各温度に維持し、スラーワンモーターで撹拌しながら、亜硫酸水素ナトリウム溶液(濃度35〜36重量%)を各液量に対して1〜4体積%(2〜8ml)の範囲で添加して1時間撹拌した。
【0034】
所定の時間経過後、固液分離して得た濾液のセレン及びパラジウムの濃度をICPにより分析して、得られた濾液中のセレン及びパラジウムの濃度を下記表2に示した。また、回収した沈殿物の外観を目視観察し、その結果を下記表2に併せて示した。
【0035】
【表2】

【0036】
上記表2に示すように、液温が20℃の場合には還元反応が遅いため、亜硫酸水素ナトリウム溶液を1〜2体積%添加しても1時間の撹拌では顕著な還元が生じず、4体積%までの添加が必要であった。また、液温が60℃以上では、塊状の還元物や塊状が崩壊した粗い黒色の粉状物が得られ、これらの沈殿物は工業的な取り扱い考えると好ましくないものであった。
【0037】
[実施例3]
上記実施例1において金をイオン交換樹脂で吸着した後の溶液、即ち吸着後残液を用意し、これを100mlづつに分け、液温を40〜43℃の範囲内に維持した。これらの吸着後残液に塩酸を添加して塩化物濃度を調整し、次いで上記実施例1と同様に亜硫酸水素ナトリウム溶液を液量に対して1.5〜2.0体積%(1.5〜2ml)添加した。その後、沈殿物を濾過して分離し、還元後の濾液の塩化物濃度とパラジウム濃度を分析し、得られた結果を図2に示した。
【0038】
図2に示すように、塩化物濃度が少ないほどパラジウムが還元除去されやすくなることが分かる。即ち、次の二硫化硫黄の吹き込みによってパラジウム品位の低い高純度なセレンを確実に得るためには、亜硫酸水素ナトリウムを添加する前に吸着後残液の塩化物濃度を2.0〜2.5モル/lの範囲に調整しておくことが好ましい。
【0039】
[実施例4]
上記実施例1において金をイオン交換樹脂で吸着した後の溶液、即ち吸着後残液を用意し、これを1.5リットルづつ3等分して、それぞれオーバーフロー管の付いたガラス製ビーカー(容量1リットル)に入れた。スリーワンモーターで撹拌しながら加温して温度を45〜50℃に維持し、次ぎに亜硫酸水素ナトリウム溶液(NaHSO換算で濃度35〜36重量%)を吸着後残液の液量に対してそれぞれ1、2、3体積%添加した。
【0040】
亜硫酸水素ナトリウム溶液を添加して30分間反応させた後、生成した沈殿物を濾別して、濾液中のパラジウム濃度とセレン濃度を分析した。また、回収されるセレンの品質を確認するため、濾別して得た濾液に酸化還元電位が500mV(参照電極:Ag/AgCl)になるまで二酸化硫黄を吹き込み、セレンを沈殿させて回収した。回収したセレンの沈殿物は乾燥した後、パラジウム品位を分析した。
【0041】
下記表3に、吸着後残液とパラジウ還元後の濾液におけるセレンとパラジウムの濃度、及び沈殿物として回収したセレン粉のパラジウム品位を、亜硫酸水素ナトリウム溶液の添加量ごとに示した。この結果から、回収セレン粉のパラジウム品位は、亜硫酸水素ナトリウムの添加量が1〜3体積%の範囲で増加するのに伴って低下することが分かる。
【0042】
【表3】

【0043】
尚、亜硫酸水素ナトリウムの添加量が1体積%未満では、セレン中のパラジウム品位が高くなりすぎるので、セレンの品質を維持する観点から好ましくない。一方、亜硫酸水素ナトリウムの添加量が3体積%を超えると、パラジウムと共にセレンの還元量が多くなり、セレンの回収ロスが増加してしまう。また、還元剤である亜硫酸水素ナトリウムの使用量も増加し、コスト上昇をもたらすため好ましくない。
【0044】
[比較例1]
上記実施例1において金をイオン交換樹脂で吸着した後の溶液、即ち吸着後残液を用意し、この吸着後残液1.5リットルを容量3リットルの耐熱ガラス製ビーカーに入れ、温度を80℃に維持し、スリーワンモーターで撹拌しながら亜硫酸水素ナトリウム溶液(濃度35〜36重量%)を酸化還元電位(参照電極:Ag/AgCl)が500mVに低下するまで添加した。
【0045】
その後、濾過して固液分離し、得られ濾液に二酸化硫黄ガスを吹き込んでセレンを析出させた。回収したセレン粉を乾燥した後、パラジウム品位を分析したところ、セレン粉中のパラジウム品位は1300ppmとなり、上記実施例4に比較して品質が大幅に低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅電解スライムのスラリーを塩素浸出し、その浸出液に有機溶媒を接触させて金を抽出し、その抽出残液を陰イオン交換樹脂と接触させて白金族元素を吸着させた後、吸着後残液に二酸化硫黄を吹き込んでセレンを還元して回収する方法において、前記吸着後残液に二酸化硫黄を吹き込む前に亜硫酸水素ナトリウムを添加し、生成した主にパラジウムを含む沈殿物を濾過して分離した後、得られた濾液に二酸化硫黄を吹き込むことを特徴とする銅電解スライムからのセレンの回収方法。
【請求項2】
前記亜硫酸水素ナトリウムを添加する前に、前記吸着後残液中の塩化物濃度を2.0〜2.5モル/lの範囲に調整することを特徴とする、請求項1に記載の銅電解スライムからのセレンの回収方法。
【請求項3】
前記亜硫酸水素ナトリウムを添加する際に、前記吸着後残液の温度を30〜50℃の範囲に調整することを特徴とする、請求項1又は2に記載の銅電解スライムからのセレンの回収方法。
【請求項4】
前記亜硫酸水素ナトリウムの添加量は、NaHSO換算で濃度35〜36重量%の溶液として、吸着後残液の液量に対し1〜3体積%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の銅電解スライムからのセレンの回収方法。
【請求項5】
前記吸着後残液の酸化還元電位が1050〜800mVの範囲となるように亜硫酸水素ナトリウムを添加することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の銅電解スライムからのセレンの回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−126611(P2012−126611A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280238(P2010−280238)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】