説明

銅電解液またはめっき液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量方法

【課題】再現性がよく、かつ、誤差が少ない銅電解液またはめっき液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量方法を提供する。
【解決手段】25〜250mlの銅電解液またはめっき液に、錯化剤としてアンモニアを作用させて処理液のpHを8〜13とし、かつ、反応時の液温を30℃以下、好ましくは10〜30℃に維持することにより、銅電解液またはめっき液に含まれる重金属イオンをアンミン錯体に調整して処理液を得る。これにより、銅電解液またはめっき液に含まれる重金属イオンが、メチレンブルー錯体に誘導する時の妨害にならないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅電解精製やめっきにおいて表面改質用添加剤として用いられるスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の分析方法に関し、特に、銅電解液やめっき液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅電解精製法では、硫酸酸性の硫酸銅溶液を電解液とし、例えば、所定の形状に鋳込んだ精製粗銅をアノードとし、電解精製で得られた厚さ1mm程度の銅板をカソードとし、電解液を循環しつつ、アノードとカソードとに通電し、銅をカソードに電着させ、製品としての電気銅を得ている。
【0003】
この時、硫酸酸性の硫酸銅溶液のみで電解精製を行うと、電解ムラが起きたり、平滑な表面の電気銅が得られにくいため、通常では、微量のにかわ、チオ尿素、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤などの有機系添加剤を添加する。これらの有機系添加剤には、適正濃度範囲があり、適正濃度範囲を超えて添加すると、無添加時と同様に、良好な表面の電気銅が得られない。従って、電解液中の有機系添加剤の濃度管理は、良好な製品となる電気銅を得るためには不可欠である。かかる濃度管理を適切になすためには、操業現場において、有機系添加剤の定量分析を行うことができるようにする必要がある。
【0004】
有機系添加剤の定量方法については、一部、確立されている。例えば、分子量が異なる種々の類似化合物の集合であるにかわに関する、本出願人に係る特許文献1に記載された定量方法は、以下の通りである。
【0005】
平均分子量Mwが相異なる平均分子量既知のにかわを、一定量、含んだ銅電解精製電解液の電極反応速度定数k(cm/sec)を求め、前記相異なる平均分子量Mwと、これに対応する電極反応速度定数k(cm/sec)との関係から得られた関係式k=A(logMw)+Bを用いて、平均分子量未知のにかわの平均分子量Mwを推定し、平均分子量既知の一つのにかわ平均分子量の対数Cを基準として、平均分子量未知のにかわのlogMwをa=(logMw)/Cに代入することにより、平均分子量未知のにかわの相対活量aを決定する。
【0006】
また、特許文献2には、チオ尿素が共存する試料液を硫酸酸性に調整した後に、パラジウムを添加してチオ尿素−パラジウム錯体を形成させて、その濁度によってチオ尿素を定量する方法が、開示されている。
【0007】
しかし、銅電解中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤については、操業現場での浴管理用として行うことができる定量方法が、十分に確立されているとは言えない。
【0008】
これに関して、本出願人に係る特許文献3には、次の各工程からなる銅電解液またはめっき液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量方法が記載されている。
【0009】
1)銅電解液またはめっき液に含まれる重金属イオンを錯形成剤で処理して処理液を生成する工程、
2)前記銅電解液またはめっき液中に含まれる水溶性スルフォン酸型陰イオン界面活性剤を有機溶剤に可溶な化合物に誘導体化するために、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤のイオン対であるメチレンブルーを水溶液中に一定量添加して、メチレンブルー水溶液を生成する工程、
3)前記処理液と前記メチレンブルー水溶液とを接触させて、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤のメチレンブルーコンプレックスが溶解した水溶液にする工程、
4)前記メチレンブルーコンプレックスが溶解した水溶液を有機溶剤に接触させて、前記メチレンブルーコンプレックスを有機溶剤に選択的に抽出して抽出液を生成する工程、
5)前記抽出液について吸光度を測定する工程、
6)測定された吸光度をスルフォン酸型陰イオン界面活性剤と吸光度との相関関係に挿入して、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤の量を求める工程。
【0010】
特許文献3に記載された銅電解液またはめっき液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量方法では、前記錯形成剤としてアンモニアまたはエチレンジアミン四酢酸を用い、pHを8〜12として前記抽出液を得る。そして、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤のメチレンブルーコンプレックス以外の妨害成分をあらかじめ紫外線分光光度計により波長スキャンし、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤のメチレンブルーコンプレックスの測定波長に妨害を与えない最適定量波長を選択して、紫外線分光光度計による吸光度測定を行う。これにより、銅電解液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量分析の精度が高くなる。
【0011】
しかしながら、特許文献3に記載された銅電解液またはめっき液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量方法について、実用化を図っていく過程で、再現性が悪く、かつ、定量値に大きな誤差を生じる場合のあることが明らかになってきた。
【特許文献1】特開平08−304338号公報
【特許文献2】特開2001−147197号公報
【特許文献3】特開2002−055097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、再現性がよく、かつ、誤差が少ない銅電解液またはめっき液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、種々の検討を重ねた結果、中和操作時に発生する熱量が大きく、試料溶液温度が高温となることにより、理由は不明であるが、メチレンブルー錯体の生成率にばらつきが生じることにより分析結果の再現性が低下すること、および、定量に用いる試料液量が10mlでは、試料中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の濃度によっては、得られるメチレンブルー錯体の吸光度が低すぎ、そのような場合に定量値に大きな誤差を生じることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の銅電解液またはめっき液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量方法は、銅電解液またはめっき液中に含まれるスルフォン酸型陰イオン界面活性剤をメチレンブルー錯体に誘導し、有機溶剤を用いて抽出した後、吸光度測定により選択的に定量する方法であり、25〜250mlの銅電解液またはめっき液に、錯化剤としてアンモニアを作用させて処理液のpHを8〜13とし、かつ、反応時の液温を30℃以下、好ましくは10〜30℃に維持することにより、銅電解液またはめっき液に含まれる重金属イオンをアンミン錯体に調整する工程を有することを特徴とする。これにより、銅電解液またはめっき液に含まれる重金属イオンが、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤をメチレンブルー錯体に誘導する時の妨害にならないようにする。
【0015】
あるいは、次の各工程からなり、銅電解液またはめっき液中に含まれるスルフォン酸型陰イオン界面活性剤をメチレンブルー錯体に誘導し、有機溶剤を用いて抽出した後、吸光度測定により選択的に定量する。
【0016】
1)不純物が含まれないメチレンブルー水溶液を得るメチレンブルー精製工程。
【0017】
2)25〜250mlの銅電解液またはめっき液に、錯化剤としてアンモニアを作用させて処理液のpHを8〜13とし、かつ、反応時の液温を30℃以下、好ましくは10〜30℃に維持することにより、銅電解液またはめっき液に含まれる重金属イオンをアンミン錯体に調整して処理液を得る処理液調整工程。
【0018】
3)前記メチレンブルー精製工程より得られたメチレンブルー水溶液と、前記処理液調整工程で得られた処理液とを、混合することにより、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤のメチレンブルーコンプレックスを形成するメチレンブルーコンプレックス形成工程。
【0019】
4)得られたメチレンブルーコンプレックスを含む溶液と、有機溶剤とを、接触させることにより、メチレンブルーコンプレックスを含む有機相を得るメチレンブルーコンプレックス抽出工程。
【0020】
5)前記メチレンブルー精製工程で得られたメチレンブルー水溶液と、前記メチレンブルーコンプレックス抽出工程で得られた有機相とを、接触させることにより、メチレンブルーコンプレックスを含む有機相を精製する有機相精製工程。
【0021】
6)該有機相精製工程で得られたメチレンブルーコンプレックスを含む有機相の量を一定とし、該有機相の吸光度を測定する吸光度測定工程。
【0022】
7)該吸光度測定工程で得られた値を、予め求められたスルフォン酸型陰イオン界面活性剤と吸光度との相関関係に挿入することにより、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤の量を求める算出工程。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、金属イオンを数〜数十g/l程度含み、微量のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤が含まれているような溶液(例えば、電解液、またはめっき液)であっても、それらの溶液から、1μg/l程度のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤を選択的に定量できる。
【0024】
また、銅電解液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤を、高感度、かつ、高精度に定量することが可能となり、銅電解浴の浴管理に有効な分析方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図面を用いて、本発明を説明する。図1は、本発明の一実施例を示したフローシートである。
【0026】
本発明の銅電解液またはめっき液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量方法は、次の各工程からなり、銅電解液またはめっき液中に含まれるスルフォン酸型陰イオン界面活性剤をメチレンブルー錯体に誘導し、有機溶剤を用いて抽出した後、吸光度測定により選択的に定量する。
【0027】
1)不純物が含まれないメチレンブルー水溶液を得るメチレンブルー精製工程。
【0028】
2)25〜250mlの銅電解液またはめっき液に、錯化剤としてアンモニアを作用させて処理液のpHを8〜13とし、かつ、反応時の液温を30℃以下、好ましくは10〜30℃に維持することにより、銅電解液またはめっき液に含まれる重金属イオンをアンミン錯体に調整して処理液を得る処理液調整工程。
【0029】
3)前記メチレンブルー精製工程より得られたメチレンブルー水溶液と、前記処理液調整工程で得られた処理液とを、混合することにより、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤のメチレンブルーコンプレックスを形成するメチレンブルーコンプレックス形成工程。
【0030】
4)得られたメチレンブルーコンプレックスを含む溶液と、有機溶剤とを、接触させることにより、メチレンブルーコンプレックスを含む有機相を得るメチレンブルーコンプレックス抽出工程。
【0031】
5)前記メチレンブルー精製工程で得られたメチレンブルー水溶液と、前記メチレンブルーコンプレックス抽出工程で得られた有機相とを、接触させることにより、メチレンブルーコンプレックスを含む有機相を精製する有機相精製工程。
【0032】
6)該有機相精製工程で得られたメチレンブルーコンプレックスを含む有機相の量を一定とし、得られた有機相の吸光度を測定する吸光度測定工程。
【0033】
7)該吸光度測定工程で得られた値を、予め求められたスルフォン酸型陰イオン界面活性剤と吸光度との相関関係に挿入することにより、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤の量を求める算出工程。
【0034】
処理液精製工程において、25〜250mlの銅電解液またはめっき液を用いることにより、吸光度測定工程で、一定量に調整された際に、有機相中のメチレンブルーコンプレックス濃度を高くすることができ、これにより、有機相の吸光度がブランク試料の10〜100倍程度まで上昇し、定量下限を低くするとともに、定量精度を向上させることができる。
【0035】
これに対して、例えば、銅電解液またはめっき液中に含まれるスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量に用いる銅電解液の処理量を、従来法と同様の10mlとして、本発明の銅電解液またはめっき液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量方法を行うと、得られるメチレンブルーコンプレックスの吸光度が、ブランク試料の吸光度の2倍〜数倍程度にしかならず、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤の濃度が低い場合には、定量値のバラツキが大きくなり、銅電解浴を管理できるような分析精度が得られない場合がある。
【0036】
また、錯化剤としてアンモニアを作用させて処理液のpHを8〜13として、銅電解液またはめっき液中の重金属群を、水溶性のアンミン錯体とすることにより、水酸化物として沈殿することを防止し、さらに、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤や、生成するメチレンブルーコンプレックスが、水酸化物へ吸着されたり、または吸蔵されたりすること等により、測定誤差が発生することを防止する。
【0037】
これにより、処理液中に存在するスルフォン酸型陰イオン界面活性剤が、効率よく、かつ、ロス無く、メチレンブルーコンプレックスとなる。
【0038】
さらに、反応時の液温を30℃以下、好ましくは10〜30℃に維持する。前述のように理由は分からないが、この範囲を超えた場合に、メチレンブルーコンプレックスが定量的に生成しない。
【0039】
この点に関しては、温度調整をせずにアンミン錯体を形成し、液温が室温まで下がらない状態でメチレンブルーと反応させて、本発明の銅電解液またはめっき液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量方法を行うと、反応温度を30℃以下とした場合には、安定した定量値が得られるが、30℃を超える温度では、反応率が低下し、定量値へ負の誤差を与える。また、反応温度を10℃未満とするためには、水冷以外の冷却装置が必要となるため、好ましくない。
【0040】
以下に、各工程ごとに説明を行う。
【0041】
1)メチレンブルー精製工程
図に、分液漏斗1および分液漏斗2の2系列で示され、有機溶媒に抽出される有機溶媒抽出物が含まれないメチレンブルー水溶液が得られる。
【0042】
分液漏斗1では、純水(オルガノ精製水)25ml、緩衝剤としてアルカリ性ホウ酸ナトリウム5ml、およびメチレンブルー5mlを、分液漏斗に入れ、浸とうして混合し、次いで、クロロホルム5mlを加えて浸とうする。その後、分液漏斗を静置してクロロホルム相と水相とを分離し、クロロホルム相が着色しているか否かを観察する。
【0043】
クロロホルム相が着色していた場合、得られた水相にクロロホルム5mlを加えて浸とうし、分液漏斗を静置してクロロホルム相と水相とを分離する操作を、クロロホルム相が着色しなくなるまで繰り返し、着色しなくなった後の水相を、次工程に移す。これにより、メチレンブルー中の不純物を繰り返し抽出して除去することができる。
【0044】
分液漏斗2では、純水(オルガノ精製水)の量を50mlとする以外は、分液漏斗1と同様に行う。
【0045】
以上により、有機溶媒抽出物が含まれないメチレンブルー水溶液を得る。
【0046】
2)処理液調整工程
25〜250mlの銅電解液またはめっき液を、例えば、ビーカーに採取し、攪拌しつつ、錯化剤としてアンモニアを滴下させて処理液のpHを8〜13とする。その際、反応時の液温を30℃以下、好ましくは10〜30℃に維持する。
【0047】
pHが8未満では、アンモニアを用いても、水酸化物の沈殿が大量に析出するので、pHを8以上にして、水酸化物の沈殿を、水溶性のアンミン錯体に完全に変化させる。これにより、銅電解液またはめっき液に含まれる銅、ニッケル、またはコバルトなどの重金属が、アンミン錯イオンとして安定的に溶解する。
【0048】
なお、アンモニアを滴下する代わりに、アンモニアガスを吹き込んでも、同様の効果を得られる。
【0049】
このようにして得られた処理液中に沈殿がある場合には、濾過することにより除去する。
【0050】
3)メチレンブルーコンプレックス形成工程。
【0051】
分液漏斗1内に得られ、有機溶媒抽出物が含まれないメチレンブルー水溶液と、処理液生成工程で得られた処理液とを混合することにより、処理液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤のメチレンブルーコンプレックスが形成される。
【0052】
4)メチレンブルーコンプレックス抽出工程
分液漏斗1内に、クロロホルム5mlを加え、浸とうし、その後、静置して、水相とクロロホルム相とを分離し、水相を棄却して、クロロホルム相を次工程に移す。
【0053】
5)有機相精製工程
メチレンブルーコンプレックス抽出工程で得られたクロロホルム相と、分液漏斗2内に得られ、有機溶媒抽出物が含まれないメチレンブルー水溶液と、硫酸1部に対して35部の水を加えて得た希硫酸溶液とを混合し、分液漏斗内で浸とうし、その後、静置して、クロロホルム相を得る。以上により、メチレンブルーコンプレックス抽出工程でクロロホルム相に取り込まれた不純物を水相に洗い出して、精製されたクロロホルム相を得ることが可能となる。
【0054】
6)吸光度測定工程
有機相精製工程で得られたメチレンブルーコンプレックスを含むクロロホルム相の量を一定とし、得られた有機相の吸光度を測定する。
【0055】
測定は、紫外線分光光度計の波長スキャン測定をモニターすることにより行うが、紫外線分光光度計の波長スキャン測定では、妨害成分影響を受けない波長を選択することが可能である。選択する波長は、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤のメチレンブルー錯体による光の吸収が、該メチレンブルー錯体以外の成分で妨害されないように、メチレンブルーコンプレックスの最適定量波長を選択する。具体的には、波長スキャン測定を行い、極大吸収波長を確認することにより、波長の選択を行う。以上により、定量値の精度を高くすることができる。
【0056】
7)算出工程
吸光度測定工程で得られた値を、予め求められたスルフォン酸型陰イオン界面活性剤と吸光度との相関関係に挿入することにより、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤の量を求める。得られたスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の量から、
試料溶液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量値を求める。
【0057】
以下に、銅電解液に含まれるにかわが定量値へ与える影響、処理液作成時の液温の効果、および、試料溶液量の影響について、検証した結果について説明する。
【0058】
1)銅電解液に含まれるにかわが定量値へ与える影響
前述したように、実際の銅電解液には、にかわが添加され、銅電解液の液性が硫酸性であり加熱されていることから、硫酸が触媒となってにかわが分解することにより発生する分解生成物が、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤と同様にメチレンブルーコンプレックスを形成することも考えられる。従って、本発明の方法に対するにかわの影響を、以下に検討する。
【0059】
表1に示すように、にかわを添加していない銅電解液(ブランク)、通常の10倍量のにかわを添加した銅電解液、通常の100倍量のにかわを添加した銅電解液、および、通常の量のにかわを添加した銅電解液を得て、80℃で3時間、保持した。
【0060】
それぞれの100mlについて、紫外線分光光度計(株式会社日立製作所製、U−2000)を用いて、波長650nmの吸光度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1より、通常の100倍量のにかわを添加した場合には、にかわの影響が大きくなるが、通常の10倍量のにかわを添加した場合であれば、測定される吸光度は、ブランクと同程度の吸光度であり、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量分析に影響を与えることはない。
【0063】
2)処理液作成時の液温の効果
実操業で使用されている同一の銅電解液を用い、処理液生成工程の反応温度を、10℃、20℃、30℃、40℃、および60℃としたこと以外は、図1に示したフローシートに従って、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量分析を行った。測定結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
表2より、反応温度が30℃を超えると、定量値が低下することがわかる。理由は定かではないものの、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤の分解により、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤のメチレンブルーコンプレックスの形成量が減少するものと推定される。
【0066】
3)試料溶液量の影響
同一の実銅電解液を用い、処理液生成工程に供する試料溶液量を0ml、10ml、25ml、100ml、250ml、300ml、または500mlとしたことと、反応温度を20℃としたこと以外は、図1に示したフローシートに従って、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量分析を行った。測定結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
表3より、処理液生成工程に供する試料溶液量を25〜250mlの範囲とすることにより、正確な定量値を得られることがわかる。試料溶液量が、25ml未満の場合、ブランクの吸光度値の影響を大きく受け、250mlを超えた場合、電解液中のにかわ以外の他の不純物の影響を大きく受けるものと推定される。
【実施例】
【0069】
(実施例1〜3、比較例1、2)
25mlの実銅電解液を試料溶液として用い、処理液生成工程でのpHを、3.0(比較例1)、6.2(比較例2)、8.0(実施例1)、11.1(実施例2)、または13.0(実施例3)とし、反応温度を20℃で維持したこと以外は、図1に示したフローシートに従い、スルフォン酸系陰イオン界面活性剤の定量分析を行った。吸光度の測定には、紫外分光光度計(株式会社日立製作所製、U−2000)を用いた。測定結果を表4に示す。
【0070】
表4より、pHが8.0未満の場合、正確な定量値が測定されていない。スルフォン酸系陰イオン界面活性剤と他の化合物や金属とのコンプレックスの分解が不十分であり、かつ、中和で発生する澱物への吸着や吸蔵により、スルフォン酸系陰イオン界面活性剤のメチレンブルーコンプレックスの形成が不十分であったものと推定される。
【0071】
(比較例3)
10mlの実銅電解液を試料溶液として用い、処理液生成工程でのpHを、12.5としたことと、反応温度を20℃で維持したことこと以外は、図1に示したフローシートに従い、スルフォン酸系陰イオン界面活性剤の定量分析を行った。測定結果を表4に示す。
【0072】
(比較例4〜6)
10mlの実銅電解液を試料溶液として用い、処理液生成工程でのpHを、12.5(比較例4)、12.2(比較例5)、または12.3(比較例4)としたことと、反応温度を制御しなかったこと以外は、図1に示したフローシートに従い、スルフォン酸系陰イオン界面活性剤の定量分析を行った。測定結果を表4に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
実施例1〜3、比較例1〜6に示されているように、本発明の方法により、安定してスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量値が得られる。定量精度は、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤のメチレンブルー錯体への誘導体化が、安定した反応率で生成したために、高かったものと考えられる。
【0075】
また、銅電解液の使用量は、25〜250mlで好適であり、銅電解液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量値が安定しているため、銅電解浴の浴管理を充分に実施することができるレベルであることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施例を示したフローシートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅電解液またはめっき液中に含まれるスルフォン酸型陰イオン界面活性剤をメチレンブルー錯体に誘導し、有機溶剤を用いて抽出した後、吸光度測定により選択的に定量する銅電解液またはめっき液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量方法であり、25〜250mlの銅電解液またはめっき液に、錯化剤としてアンモニアを作用させて処理液のpHを8〜13とし、かつ、反応時の液温を30℃以下に維持することにより、銅電解液またはめっき液に含まれる重金属イオンをアンミン錯体に調整する工程を有することを特徴とする銅電解液またはめっき液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量方法。
【請求項2】
次の各工程からなり、銅電解液またはめっき液中に含まれるスルフォン酸型陰イオン界面活性剤をメチレンブルー錯体に誘導し、有機溶剤を用いて抽出した後、吸光度測定により選択的に定量する銅電解液またはめっき液中のスルフォン酸型陰イオン界面活性剤の定量方法:
1)不純物が含まれないメチレンブルー水溶液を得るメチレンブルー精製工程、
2)25〜250mlの銅電解液またはめっき液に、錯化剤としてアンモニアを作用させて処理液のpHを8〜13とし、かつ、反応時の液温を30℃以下に維持することにより、銅電解液またはめっき液に含まれる重金属イオンをアンミン錯体に調整して処理液を得る処理液調整工程、
3)前記メチレンブルー精製工程より得られたメチレンブルー水溶液と、前記処理液調整工程で得られた処理液とを、混合することにより、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤のメチレンブルーコンプレックスを形成するメチレンブルーコンプレックス形成工程、
4)得られたメチレンブルーコンプレックスを含む溶液と有機溶剤とを接触させることにより、メチレンブルーコンプレックスを含む有機相を得るメチレンブルーコンプレックス抽出工程、
5)前記メチレンブルー精製工程で得られたメチレンブルー水溶液と、前記メチレンブルーコンプレックス抽出工程で得られた有機相とを接触させることにより、メチレンブルーコンプレックスを含む有機相を精製する有機相精製工程、
6)該有機相精製工程で得られたメチレンブルーコンプレックスを含む有機相の量を一定とし、該有機相の吸光度を測定する吸光度測定工程、
7)該吸光度測定工程で得られた値を、予め求められたスルフォン酸型陰イオン界面活性剤と吸光度との相関関係に挿入することにより、スルフォン酸型陰イオン界面活性剤の量を求める算出工程。

【図1】
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【公開番号】特開2008−157627(P2008−157627A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343079(P2006−343079)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】