説明

鋏の枢軸構造

【課題】鋏を閉じる方向に動かすと、刃の接触圧が増加して頭髪を確実に切断することができる鋏の枢軸構造を提供する。
【解決手段】枢軸21は、頭部21aと、矩形部21bと、頭部21aと矩形部21bとの間に形成される大径のネジ部21cを備え、第1の刃体22は、基部に矩形孔22aを有し、前記枢軸21の矩形部21bが嵌挿されることによって枢軸21と第1の刃体22とが回転不可で一体となって回転する。第2の刃体24は、基部にフランジ25aを備えたブッシュ25が捩じ込んで固着され、ブッシュ25には前記枢軸21のネジ部21cが捩じ込んで回転自在に螺着される。第2の刃体24を回動すると、ネジ部21cに捩じ込まれて第2の刃体24が第1の刃体22に押し込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理容院や美容院で用いられる理髪用鋏、洋裁用の鋏その他一般の鋏において、刃体を開閉可能に軸着する枢軸構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、鋏のうち、理髪用鋏について示すもので、指環部1、2を備えた刃体3、4を基部において枢軸5により回動自在に軸着して枢軸端に捩じ込んだナット6により止着した構成を有しており、両刃体3、4の刃が互いに接触した状態で基部間には隙間を存している。そして枢軸5は図2に示すように矩形部5aを備えた段付状をなし、矩形部5aが嵌合する刃体4と回転不可で、一体となって回転し、円形断面の大径部5bが嵌合する刃体3とは回動自在で、刃体3は枢軸5に対し、自由に回動できるようになっている。こうした構造の理髪用鋏の一例が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−325690
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鋏の技術的課題の一つに切れ味を向上させることがある。
本発明は、かかる技術的課題を解決することができる鋏の枢軸構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係わる発明は、第1及び第2の刃体を基部において枢軸により回動自在に軸着した鋏の上記枢軸を含む枢軸構造であって、枢軸は前記第1の刃体とは回転不可に連結される一方、第2の刃体とは回動自在に螺着され、鋏を閉じる方向に第2の刃体を回動させると、該第2の刃体が枢軸に捩じ込まれ、該第2の刃体が第1の刃体側に寄せられることを特徴とし、
請求項2に係わる発明は、請求項1に係わる発明において、前記枢軸は、軸方向の一部にネジ部と矩形部を備え、前記第1の刃体は、前記矩形部に嵌挿されて回転不可に連結される一方、前記第2の刃体とはネジ部において回動自在に螺着されることを特徴とする。
【0006】
請求項3に係わる発明は、請求項2に係わる発明において、第1の刃体は枢軸の周りの第2の刃体との対向面に座ぐりによる凹溝が形成される一方、第2の刃体にはブッシュが固着され、該ブッシュは第2の刃体より突出して第1の刃体の凹溝内に納まると共に、内周にネジが刻設されて枢軸のネジ部に回転自在に螺着されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係わる発明によると、鋏を閉じる方向に第2の刃体を回動すると、ネジ部に捩じ込まれて第2の刃体が第1の刃体側に寄り、両刃体の刃同士が接触する接触圧が高まって切れ味が向上する。
【0008】
請求項2に係わる発明によると、第1の刃体は枢軸の矩形部に嵌挿するだけで、回転不可に連結することができ、組付けを容易に行うことができる。
【0009】
請求項3に係わる発明によると、第2の刃体より肉厚の大きなブッシュによって枢軸のネジ部との螺着面積(軸方向の螺着長さ)が増加し、鋏開閉時の基部間の離接が安定して確実に行えるようになると共に、ブッシュを摩擦係数の小さな材質としたり、オイルレスな材質として摺動性を向上させることにより鋏のスムースな開閉が行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】理髪用鋏の正面図。
【図2】従来の枢軸構造の断面図。
【図3】本発明に係わる枢軸構造の断面図。
【図4】鋏を閉じたときの図3に示す枢軸構造の断面図。
【図5】別の実施形態の枢軸構造の断面図。
【図6】更に別の実施形態の枢軸構造の断面図。
【図7】更に別の実施形態の枢軸構造の断面図。
【図8】更に別の実施形態の枢軸構造の断面図。
【図9】他の実施形態の枢軸構造の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の枢軸構造について図面により説明する。
図3は、図1に示すような理髪用鋏の枢軸構造を示すもので、枢軸11が頭部11aと、横断面正方形の矩形部11bと、頭部11aと矩形部11bとの間に形成される大径のネジ部11cと、矩形部11bより突出する先端側の小径のネジ部11dとよりなっている。
【0012】
理髪用鋏を構成する第1の刃体12は、基部に前記矩形部11bと同形同大の矩形孔12aを有し、該孔12aに前記枢軸11の矩形部11bが嵌挿されることによって枢軸11と第1の刃体12とが回転不可で一体となって回転するようになっている。
【0013】
第1の刃体12と共に理髪用鋏を構成する第2の刃体13は、基部に形成されるネジ孔13aに前記枢軸11のネジ部11cが捩じ込まれて回動自在に螺着されている。図中、14は第1の刃体12より突出する枢軸11のネジ部11dに捩じ込まれるナットである。
【0014】
本実施形態の理髪用鋏の枢軸構造は以上のように構成され、枢軸11による第1及び第2の刃体12及び13の組付けは、第2の刃体13のネジ孔13aに枢軸11を先端のネジ部11dより挿入し、ネジ部11cを第2の刃体13のネジ孔13aに捩じ込んで螺着し、回転自在とする。ついで第1の刃体12の矩形孔12aを枢軸11の矩形部11bに嵌挿して第1の刃体12と枢軸11を回転方向に一体化したのち、第1の刃体12より突出する枢軸端のネジ部11dにナット14を捩じ込み止着する。
【0015】
鋏を開いた図3の状態より、鋏を閉じる方向に第2の刃体13を回動すると、第2の刃体13は枢軸11のネジ部11cに捩じ込まれ、これにより第2の刃体13が第1の刃体側に寄せられて両刃体12及び13の基部同士が接近し(図4)、互いに接触する両刃体12及び13の刃の接触圧が増加する。つまり頭髪を切る方向に鋏を閉じると、刃の接触圧が増加し、髪切断時の切れ味が向上するようになる。
【0016】
図5に示す枢軸構造においては、枢軸16が頭部16aとネジ部16bを有し、第2の刃体18が前記ネジ部16bに捩じ込んで回動自在に螺着されると共に、第1の刃体17が捩じ込んで枢軸先端部に回転不可に固着されている。第1の刃体17とネジ部16bを回転不可に固着するために第1の刃体17をネジ部16bに直接、或いは該ネジ部16bにテープを巻き付けたのち、きつく捩じ込むようにしてもよいし、ネジ部に接着剤を塗布し、或いはネジ部16bを設けないでネジ部のない枢軸16先端部と第1の刃体17を接着剤で接着して固着してもよい。
【0017】
本実施形態においても鋏を閉じる方向に第2の刃体18を回動すると、第1の刃体17が第2の刃体側に寄せられて両刃体17及び18の基部同士が接近し、両刃体17及び18の刃の接触圧が増加する。
【0018】
図6に示す枢軸構造においては、枢軸21が前記実施形態の枢軸11と同様、頭部21aと、横断面正方形の矩形部21bと、頭部21aと矩形部21bとの間に形成され、軸方向の長さが第2の刃体24の厚みより長い大径のネジ部21cと、矩形部21bより突出する先端側の小径のネジ部21dとよりなっている。
【0019】
第1の刃体22は、基部に前記矩形部21bと同形同大の矩形孔22aを有し、該孔22aに前記枢軸21の矩形部21bが嵌挿されることによって枢軸21と第1の刃体22とが回転不可で一体となって回転するようになっている。そして枢軸21の周りの第2の刃体24との対向面には座ぐりにより、円形の凹溝23が形成されている。
【0020】
第2の刃体24は、基部に形成されるネジ孔に軸方向の長さが第2の刃体24の厚みより長く、かつフランジ25aを備えたブッシュ25が捩じ込んで固着され、第2の刃体24より突出するブッシュ先端がネジ部21cと共に前記凹溝23内に収まるようにしてある。そして上記ブッシュ25には内周にネジが刻設され、前記枢軸21のネジ部21cが捩じ込んで回動自在に螺着されている。
【0021】
上記ブッシュ25の固着は、第2の刃体24に直接、或いはブッシュ25の外周にテープを巻き付けた状態で、きつく捩じ込んで第2の刃体24がブッシュ25に対し、固定状態となるようにされるが、ネジ部に接着剤を塗布し、或いはネジ部を設けないでブッシュ外周面と第2の刃体24を接着剤で接着して固着してもよい。なお、ブッシュ25を第2の刃体に捩じ込んで固着する場合には、図7に示すように、第2の刃体27より突出するブッシュ28にナット29を捩じ込んでブッシュ28の緩み止めをするのが望ましい。
【0022】
前記ブッシュ25は摩擦係数が小さく、給油を必要としない材質、例えばオイルレスベアリングに用いられる材質と同様の材質、例えば含油ポリアセタール、含油ポリオレフィン、含油ポリアミド、含油ポリエステル系樹脂、PBT、四フッ化エチレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリウレタン、フェノール樹脂等の樹脂または黄銅系、特殊鋼合金系、アルミ青銅系、鋳鉄系等の金属で形成されるか、或いは前記ネジ部21cと螺合するネジ部の表層ないしネジ部が前記樹脂または金属で形成される。
【0023】
図6に示す実施形態の枢軸構造は以上のように構成され、第2の刃体24のネジ孔にブッシュ25をフランジ25aが第2の刃体24に当る限度まで捩じ込んで固着した状態において(この状態では、図示するようにブッシュ先端がネジ部21cと共に第2の刃体24より突出し、第1の刃体22の凹溝23内に収まるようになっている)、前述の実施形態と同様、枢軸21を先端のネジ部21dより挿入し、ネジ部21cをブッシュ25のネジ孔に捩じ込み回動自在とする。ついで第1の刃体22の矩形孔22aを枢軸21の矩形部21bに嵌挿したのち、第1の刃体22より突出する枢軸端のネジ部21dにナット26を捩じ込み螺着する。
【0024】
本実施形態においても鋏を閉じる方向に第2の刃体24を回動すると、第2の刃体24が第1の刃体側に寄せられて両刃体22及び24の基部同士が接近し、両刃体22及び24の刃の接触圧が増加する。
【0025】
前記各実施形態の枢軸構造はいずれも、枢軸11、16、21が頭部11a、16a、21aを有し、枢軸11、16、21は第2の刃体13、18、24に外側(図の下側)から捩じ込んで挿入されるようになっているが、図7に示す実施形態の枢軸構造では、枢軸31は頭部を有しないため、大径のネジ部31cを外側からはもちろんのこと、第2の刃体27の内側(図7に示す刃体27の上側)からでもブッシュ28に捩じ込むことができる。
【0026】
図7に示す実施形態と同様、枢軸を第2の刃体の内外いずれの側からでも捩じ込むことができるようにするため、図8に示す実施形態では、枢軸として図6に示す実施形態の枢軸21の頭部21aを有しない枢軸33が用いられ、該枢軸33の大径のネジ部33cが第2の刃体24の内外いずれかの側からブッシュ25に捩じ込んで挿入され、枢軸33の上記大径のネジ部端に頭部34aがブッシュ端面に当たるまで小ネジ34が捩じ込まれて第2の刃体24が抜け止めされる。
【0027】
図9に示す実施形態の枢軸構造では、枢軸に図7に示す実施形態の枢軸31が用いられ、ブッシュ37端が第2の刃体27と面一をなして、ブッシュ37より突出するネジ部31cにナット38が捩じ込まれ、第2の刃体27の抜け止めが行われる。
【0028】
前記実施形態の枢軸構造は、図1に示すような理容院や美容院で用いられる理髪用鋏の枢軸構造に用いた例を示すものであるが、洋裁用の鋏その他一般の鋏の枢軸構造に用いることもできる。
【符号の説明】
【0029】
11、16、21、31、33・・枢軸
11b、21b・・矩形部
11c、11d、16b、21c、21d・・ネジ部
12、17、22・・第1の刃体
13、18、29、38・・ナット
25、28、37・・ブッシュ
34・・小ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の刃体を基部において枢軸により回動自在に軸着した鋏の上記枢軸を含む枢軸構造であって、上記枢軸は前記第1の刃体とは回転不可に連結される一方、第2の刃体とは回動自在に螺着され、鋏を閉じる方向に第2の刃体を回動させると、該第2の刃体が枢軸に捩じ込まれ、該第2の刃体が第1の刃体側に寄せられることを特徴とする鋏の枢軸構造。
【請求項2】
前記枢軸は、軸方向の一部にネジ部と矩形部を備え、前記第1の刃体は、前記矩形部に嵌挿されて回転不可に連結される一方、前記第2の刃体とはネジ部において回動自在に螺着されることを特徴とする請求項1記載の鋏の枢軸構造。
【請求項3】
前記第1の刃体は枢軸の周りの第2の刃体との対向面に座ぐりによる凹溝が形成される一方、第2の刃体にはブッシュが固着され、該ブッシュは第2の刃体より突出して第1の刃体の凹溝内に納まると共に、内周にネジが刻設されて枢軸のネジ部に回転自在に螺着されることを特徴とする請求項2記載の鋏の枢軸構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−152488(P2012−152488A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16090(P2011−16090)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(502369562)株式会社柳生 (7)
【Fターム(参考)】