説明

鋏の緩衝構造

【課題】園芸用などの鋏において、強く閉じた場合などでも衝撃が少なく、手に優しい鋏の緩衝装置を実現する。
【解決手段】把持柄4の内側面に他方の把持柄に向けて緩衝部材6を突出させておき、刃体を閉じたときに緩衝部材6が他方の把持柄に当接して緩衝効果を発揮する。緩衝部材6は、弾性変形が可能なポリウレタン樹脂や合成ゴムなどの柔軟な材質で形成し、把持柄4の内側面に突出させた突起7に嵌合する帽状とし、緩衝部材の嵌合孔8は突起7の長さよりも長く軸方向に延長して突起の前方に空気溜り9を形成する。刃体を強く閉じて緩衝部材6が他方の把持柄の一部に当接したときに緩衝部材が軸方向に押圧され、緩衝部材自体の変形と空気溜り9の圧縮変形によって衝撃を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、園芸用の剪定鋏のように、一対の刃体を軸支し刃体の基方に装着した把持柄の開閉動作によって被切断物を切断し、把持柄の内側面に他方の把持柄に向けて緩衝部材を突出させておき、刃体を閉じたときに緩衝部材が他方の把持柄の内側面の一部に当接して緩衝効果を発揮する鋏の緩衝構造に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
園芸用の剪定鋏などにおいては、刃体開閉時の衝撃を和らげる目的で、把持柄の内側面に他方の把持柄に向けて緩衝部材を突出させておくことが広く行われている。
特許文献1には、把持柄の内側面対向位置に、突出寸法を調節可能な状態で当りを配置し、把持柄を軟質プラスチックやゴムとすることによって衝撃が吸収される思想が開示されている。
特許文献2には、把持柄の対向内側面にストッパーとして作用する箇所に弾性部を配置し、しかも弾性が異なる二段階の当接弾性部を形成することによって衝撃を和らげる思想が開示されている。
特許文献3には、把持柄の基端部対向位置にゴム、シリコン樹脂などの軟質弾性材料による緩衝部材を配置する思想が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平07−45166号公報
【特許文献2】実用新案登録第3123343号公報
【特許文献3】特開2008−43578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された発明は、当たり4、4が衝突する衝撃を把持柄で吸収する思想であり把持柄の強度に問題を生じるとともに、当たりに緩衝作用を行わせるものではない。
特許文献2や3に記載された発明は、刃体の開閉に伴う衝撃を緩衝体(当接弾性部)で吸収するものであるが、緩衝体自体の変形によって衝撃を吸収するものであり、衝撃の大きさの違いや緩衝体の材質の違いによって、種々の使用態様における衝撃に対して十分な緩衝効果を発揮するものではない。
【0005】
上記、従来技術の欠点に鑑み、本発明は緩衝部材自体の変形による衝撃吸収に頼るのではなく、エアークッションの原理を利用し、より緩衝効果が大きく、手に優しく疲れにくい鋏の緩衝構造を実現したものである。
被切断物の状況によって切断するための力が異なり、手に伝わる衝撃も異なる。本発明は、どのような衝撃に対しても優れた緩衝効果を発揮し、疲れにくい鋏を実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一対の刃体1、2を軸3で軸支し、刃体1、2の基方に形成した把持柄4、5の開閉動作によって被切断物を切断し、把持柄4、5の内側面に他方の把持柄に向けて緩衝部材6を突出させておき、刃体4、5を閉じたときに前記緩衝部材6が他方の把持柄の内側面の一部に当接して緩衝効果を発揮する鋏に関する。
【0007】
前記目的を達成するための請求項1記載の発明は、緩衝部材6を弾性変形が可能なポリウレタン樹脂や合成ゴムなどの柔軟な材質で形成し、把持柄4、5の内側面に他方の把持柄5、4の内側面に向けて突出させた突起7に嵌合する帽状とする。突起7に嵌合する緩衝部材6の嵌合孔8は、突起7の長さよりも長く軸方向に延長することにより装着状態において突起7の前方に空気溜り9が形成される。これにより、刃体1、2を強く閉じて緩衝部材6が他方の把持柄の一部に当接したときに、緩衝部材6が軸方向に押圧され、空気溜り9の圧縮変形によって衝撃を吸収するようにしたものである。
【0008】
緩衝部材6は、把持柄4、5のいずれか一方に形成されていると緩衝効果を発揮するものであるが、請求項2記載の発明は、一対の刃体1、2の基方に形成した把持柄4、5の両方に、軸3による刃体の軸支位置から一定寸法離れた同一回動軌跡上にそれぞれ緩衝部材6、6を配置し、緩衝部材どうしが当接するようにしたものである。
【0009】
請求項3記載の発明は、一対の把持柄4、5の対向内側面に、刃体1、2の軸支位置から一定寸法離れた同一回動軌跡上にそれぞれ緩衝部材17、17を配置し、この緩衝部材17、17は刃体1、2を開放方向に付勢するコイルバネ10の内径内に位置させることである。
【発明の効果】
【0010】
把持柄4、5を強く握って被切断物を切断した場合、被切断物が切断された瞬間、把持柄4と5は勢い良く衝突する。このとき、請求項1記載の発明によれば、緩衝部材6の先端部分が対向する把持柄の内側面に衝突する。このときの衝撃は、緩衝部材6自体の弾性変形による緩衝効果に加え、図4に示すような空気溜り9の圧縮変形によって衝撃が吸収される。すなわち、空気溜り9がエアークッションあるいはエアーダンパーとして機能して衝撃力を効果的に吸収する。
空気溜り9の変形に必用な力は、空気溜りの容積が小さくなるほど急激に大きくなるため、比較的小さな力による衝撃であっても、大きな力による衝撃であっても有効な緩衝効果を発揮する。
【0011】
把持柄4や5に突出形成する突起7と緩衝部材6の嵌合は、緩衝部材が脱落することがない程度に強く嵌合させておくのが好ましい。しかしながら、突起7と緩衝部材6の嵌合孔8は、完全な密接状態である必要はなく、緩衝部材6先端の押圧によって、気溜り9の内圧が上昇し、内圧が上昇するにしたがってある程度空気が漏れ出し、押圧が解除されると漏れ出した空気量が空気溜り9に流入する程度とするのが好ましい。
空気溜り9を完全な密閉状態とするものであっても良いが、完全な密閉状態とした場合は、空気溜り9の体積が小さくなると反発力が急激に大きくなり、場合によっては衝撃的と感じるが、ある程度空気が漏れ出すようにしておくと、空気溜り9をより大きく変形させることができ、緩衝効果を向上させることができる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、一対の刃体を閉じた場合に、刃体の基方に形成した両方の把持柄において緩衝部材どうしが当接する。そのため、二つの緩衝部材による相乗効果として緩衝効果が向上する。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、刃体を開放方向に付勢するコイルバネ10の内部に緩衝部材6が位置するため外観上目立つことがないとともに、緩衝部材6が邪魔になることがない。また、刃体を閉じたときに発生するコイルバネ10による反発力が衝撃力を弱め、緩衝効果を高める。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、刃体を開いた状態の鋏全体の正面図、
【図2】図2は、刃体を閉じた状態の鋏全体の正面図、
【図3】図3は、図1のIII‐III線断面図、
【図4】図4は、刃体を閉じることによって緩衝部材が変形した状態を示図1のIII‐III線断面図、
【図5】図5は、別の実施形態を示す刃体を開いた状態を示す鋏全体の正面図、
【図6】図6は、図5のVI‐VI線断面図、
【図7】図7は、図6に示す状態から刃体を閉じた状態を示す断面図、
【図8】図8は、緩衝部材を分離させた状態を示す把持柄の嵌合孔部分の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る鋏の緩衝構造の実施形態を添付の図面に基づいて説明する。
図1は、第一実施形態を示す刃体を開いた状態の鋏全体の正面図、図2は図1に示す状態から刃体を閉じた状態を示す鋏全体の正面図である。
【0016】
図1、図2に示す鋏は、主として園芸用として汎用される鋏であって、一対の刃体1、2を軸3によって軸支し、軸支位置よりも先方に鋭利な切り刃1a、2aを形成し、軸支位置よりも基方に装着した把持柄4、5の開閉動作によって被切断物を切断するものである。
刃体1、2の基方に装着する把持柄4、5は、内側の握り部分4a、5aと外側のガード部分4b、5bを連続させて環状に形成し、手指が当たる把持柄握り部分4a、5aの外側面にゴムなどのクッション材11を配置している。
【0017】
刃体1、2の軸支位置よりも基方に装着した把持柄4、5の基端部内側面には、他方の把持柄5、4に向けて突出する緩衝部材6、6を配置している。より具体的には、緩衝部材6、6は、刃体1、2の軸支位置から一定寸法離れた同一回動軌跡上にそれぞれ配置し、刃体1、2を閉じたときに緩衝部材6、6どうしが当接するようにしてある。
緩衝部材6は、把持柄4、5の一方にのみ設けるものであってもよいが、図示実施形態のように、把持柄4、5の双方の同一回動軌跡上に配置すれば、図2に示すように刃体1、2を閉じたときに、緩衝部材6、6どうしが当接することになる。
【0018】
本発明に係るエアークッションの緩衝部材6を、把持柄4、5の一方にのみ設ける場合であっても、他方の把持柄に緩衝部材が確実に当接するように構成するのが好ましく、例えば緩衝部材6と外形が同一形状の突起や、空気溜りのない中実の緩衝部材を装着しておくことができる。
【0019】
緩衝部材6は、例えばウレタン樹脂やゴム、軟質の塩化ビニール樹脂といった柔軟で緩衝効果がある材質で製する。図示実施形態の緩衝部材6は、円柱状であって、先方の略二分の一をテーパ状に形成し、太径部から先方に向けて中心部に貫通しない嵌合孔8を穿設している。嵌合孔8の先端部はドーム状に形成している。
【0020】
把持柄4、5に緩衝部材6を装着するには、図3に示すように把持柄の内側面に緩衝部材6が嵌まり込む取付孔12を設けるとともに、取付孔12内に突起7を形成する。取付孔12の内径は、緩衝部材6の外形が自由に嵌合する寸法、突起7の外径は緩衝部材6の嵌合孔8に嵌合する寸法である。嵌合孔8の長さ寸法は、突起7よりも長く軸方向に延長し、嵌合状態において突起7の前方に空気溜り9が形成されるようにする。図3においては、略半球状の空気溜り9が形成される。
【0021】
把持柄4、5のそれぞれ内側面に緩衝部材6、6を装着した鋏によって切断作業を行うと、把持柄4、5が閉じられて切断が完了した時点で緩衝部材6と6が当接する。切断が完了すると、把持柄は切断に際して力を込めた余勢によって衝撃的に強く閉じられ、この力によって緩衝部材6は軸方向に押圧される。緩衝部材6が軸方向に押圧されると、図4に示すように空気溜り9が押し潰されるように変形して圧縮され、その変形によって衝撃力が吸収される。図4に示す圧縮変形は、緩衝部材6自体の弾性変形と空気溜り9の圧縮変形の両方が相乗的に作用し優れた緩衝効果を発揮する。
【0022】
空気溜り9は、完全な密閉空間であっても押圧力によって圧縮されて緩衝効果を発揮するものであるが、圧縮に必要な押圧力が急激に増大して衝撃と認識され、十分な緩衝効果を発揮できない可能性がある。これに対して、空気溜りの空気が多少漏れ出す程度の嵌合状態としておくと、より強い衝撃や押圧力に対しても空気の一部が漏れ出すことによって優れた緩衝効果を発揮する。すなわち、図4に示すように空気溜り9が圧縮されると、空気溜り9の内圧上昇及び緩衝部材6の圧縮変形によって突起7と嵌合孔8の間から空気が漏れ出す。圧縮力が解除されると緩衝部材6の復元力によって空気溜り9に空気が流入するものである。
【0023】
上記、完全な密接状態が維持されるものではない状態は、弾性部材で作られる緩衝部材6の内径と突起7の外径の設定によって実現することができる。また、突起7の外表面もしくは緩衝部材6の内表面に、図4において二点鎖線で示す器外に連通する軸方向の通気溝12もしくは13刻設することによっても実現することができる。さらには、図3において二点鎖線で示すように緩衝部材6に空気溜り9に連通する小さな貫通孔15穿設することによっても実現することができる。
【0024】
図5に示す実施形態の鋏は、園芸用の剪定鋏であって、刃体1は受け刃、刃体2は切断刃である。この実施形態の鋏は、把持柄4と5の対向内側面に刃体1、2を開放方向に付勢するコイルバネ10を装着し、手指が当たる把持柄4と5の外側面にクッション材11を配置している。把持柄4と5の間にコイルバネ10を装着するには、図8に示すようにコイルバネ10の先端が嵌まり込む取付孔16穿設してコイルバネを支持させる。
【0025】
取付孔16の中心部には、ウレタン樹脂などの柔軟な材質で製した緩衝部材17を装着するための突起18を設けている。突起18に装着する緩衝部材17は、基端部に外鍔17aを備えた円柱状とし、中心部には基端部から先方に向けて貫通しない嵌合孔19を穿設している。嵌合孔19の先端部はドーム状に形成している。
【0026】
図6ないし図8に示す第二実施形態の突起18と緩衝部材17の関係は、先に図3及び図4によって説明した第一実施形態と同じように機能する。すなわち、突起18に緩衝部材17の嵌合孔19を嵌合したときに、突起7の前方に略半球状の空気溜り20が形成されるようにし、把持柄4、5を握って切断作業を行った場合に、コイルバネ10の弾性に抗して、刃体1、2すなわち把持柄4、5が閉じられ、図7に示すように緩衝部材17と17が当接し、さらに緩衝部材が圧縮されることによって被切断物の切断に伴う衝撃が吸収され、優れた緩衝効果を発揮するものである。この実施形態においても、例えば一方の把持柄にのみ本発明に係る緩衝部材を配置し、他方の把持柄に単なる当たりを形成することによって実施することもできる。
【0027】
図1ないし図4に示す第一実施形態と、図5ないし図8に示す第二実施形態の相違点は、第一実施形態の緩衝部材6は突起として露出状態であり、軸3から離れた把持柄の基端部に配置されているのに対して、第二実施形態の緩衝部材17は軸3に近い位置にあって、コイルバネ10の内方に位置している。第二実施形態の緩衝部材17の具体的形状として、基端部にコイルバネ10の取付孔16端面に安定的に接するように外鍔17aを備え、外鍔17a外周と取付孔16内周との間にコイルバネ10の線条が通過する隙間を形成している。
【0028】
上記構成とすることにより、第二実施形態では、刃体1、2を開放方向に付勢するコイルバネ10の内部に緩衝部材17が位置し露出していないため、切断作業等において緩衝部材17が邪魔にならない。さらに、緩衝部材17に手指が当たるなどの外力が作用することがないため、大きな取付け強度を必要としないため、緩衝部材17を装着するための突起18の軸方向寸法を、第一実施形態に比較して短いものとすることができる。
【0029】
緩衝部材17がコイルバネ10の内方に位置する第二実施形態では、把持柄4、5を閉じるに従ってコイルバネ10が圧縮され、その弾発力が増加する。このコイルバネ10による反発力が最大となった状態で緩衝部材17が当接し、弾性変形によって緩衝効果を発揮する。すなわち、コイルバネ10の弾発力自体が緩衝作用の一部として機能し、より緩衝効果の高いものとなる。
【0030】
把持柄の対向内側面に当たりを設けた従来の緩衝構造では、緩衝体の弾性変形のみによって緩衝させるものであるため、衝撃力に十分対応することができず、例えば長時間の鋏の使用に際して手に負担がかかるものであったが、本発明は緩衝体の弾性変形だけでなく、エアークッションの効果が相乗的に作用し手に優しい鋏を実現することができるものである。
【符号の説明】
【0031】
1、2…刃体、 1a、1b…切刃、 3・・・軸、 4、5・・・把持柄、 6・・・緩衝部材、 7・・・突起、 8…嵌合孔、 9…空気溜り、 10…コイルバネ、 11…クッション材、 12…取付孔、 13、14…通気孔、 15…貫通孔、 16…取付孔、 17…緩衝部材、 17a…外鍔、 18…突起、 19…嵌合孔、 20…空気溜り。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の刃体を軸支し刃体の基方に形成した把持柄の開閉動作によって被切断物を切断し、把持柄の内側面に他方の把持柄に向けて緩衝部材を突出させておき、刃体を閉じたときに前記緩衝部材が他方の把持柄の内側面の一部に当接して緩衝効果を発揮する鋏において、
前記緩衝部材は、弾性変形が可能なポリウレタン樹脂や合成ゴムなどの柔軟な材質で形成し、把持柄の内側面に他方の把持柄の内側面に向けて突出させた突起に嵌合する帽状であって、突起に嵌合する緩衝部材の嵌合孔は、突起の長さよりも長く軸方向に延長して装着状態において突起の前方に空気溜りを形成し、刃体を強く閉じて緩衝部材が他方の把持柄の一部に当接したときに緩衝部材が軸方向に押圧され、空気溜りの圧縮変形によって衝撃を吸収するようにしたことを特徴とする鋏の緩衝構造。
【請求項2】
一対の刃体の基方に形成した両方の把持柄において、刃体の軸支位置から一定寸法離れた同一回動軌跡上にそれぞれ緩衝部材を配置し、刃体を閉じたときに緩衝部材どうしが当接するようにしたことを特徴とする請求項1記載の鋏の緩衝構造。
【請求項3】
一対の把持柄の対向内側面に、刃体の軸支位置から一定寸法離れた同一回動軌跡上にそれぞれ緩衝部材を配置し、該緩衝部材は刃体を開放方向に付勢するコイルバネの内径内に位置させたことを特徴とする請求項1又は2記載の鋏の緩衝構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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