説明

【課題】ボルト及びナットのゆるみが抑制されていると共に、鋏片がガタつくことなく、滑らかに開閉操作を行うことができる鋏を提供する。
【解決手段】鋏1は、第一鋏片10及び第二鋏片20にそれぞれ貫通して穿設された円形の第一孔部15及び第二孔部25と、第一孔部及び第二孔部に挿通された支軸部Pと、第一孔部の周縁に形成された第一凹部16とを具備し、ボルト40は、円柱状のボルト軸部42の一端にボルト頭部41を有し、ナット30は、円筒状のナット軸部32の一端にナット頭部31を有し、支軸部は、螺合したボルト軸部とナット軸部によって形成され、ボルト頭部及びナット頭部の一方は、支軸部の軸心zに直交する断面の外形が非円形または中心が軸心と一致しない円形である特殊形頭部hであり、第一凹部は、特殊形頭部を着脱可能に内嵌させる形状及び大きさに形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の鋏片がボルトとナットで組み付けられた鋏に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋏には、文房具用の鋏のように一対の鋏片が支軸によって分離不能に組み付けられているものもあるが、理美容用の鋏などでは、刃部のメンテナンスや支軸の締結具合の調整のために、一対の鋏片がボルトとナットによって分離可能に組み付けられている。このような鋏として、従来、図8(a)に例示する構成の鋏100が使用されている。これは、ボルト140に角柱部141と円柱部142を設け、一方の鋏片110には四角形の貫通孔(角形孔111)を、他方の鋏片120には円形の貫通孔(円形孔121)を穿設したものであり、ボルト140を円形孔121及び角形孔111に挿通した上でナット130によって留め付けるものである。なお、ここでは、鋏片110からのナット130の突出を抑制するために、ナット130の一部を埋設させる凹部112が、角形孔111の周縁に段違いで設けられている構成を例示している。
【0003】
上記構成とすることにより、ボルト140の角柱部141は角形孔111に嵌合し、鋏片110に対するボルト140の回り止めとして作用するため、ボルト140及びナット130のゆるみを抑制することができる。また、図8(b)に示すように、ナット130bが角柱部131と円柱部132を備え、これを円形孔121及び角形孔111に挿通した上でボルト140bで留め付けることによっても、同様の作用効果が得られる。
【0004】
しかしながら、角形孔と角柱部との間にはクリアランスが設けられるのが通常である。そのため、角柱部が角形孔の中を多少は回転することとなり、滑らかに回転せず、開閉操作に伴い鋏片がガタつくという問題があった。
【0005】
この問題を解決課題として、ボルトに角柱部を設ける場合において、ナットの底部をテーパー状とすると共に、このテーパーに合わせて、角形孔の周縁に設けられた凹部の底面に傾斜を設けた鋏も提案されている(特許文献1参照)。これは、ナットのテーパー面と凹部の底面における傾斜面とを当接させて、鋏片のガタつき低減しようとしたものである。ところが、このように、ナットの底部や凹部の底面に意図した傾斜を精密に設ける加工は、複雑で手間がかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上記の実情に鑑み、簡易な構成でボルト及びナットのゆるみが抑制されていると共に、鋏片がガタつくことなく、滑らかに開閉操作を行うことができる鋏の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる鋏は、「第一鋏片及び第二鋏片がそれぞれの枢着部でボルトとナットにより組み付けられた鋏であって、前記第一鋏片の前記枢着部に貫通して穿設された円形の第一孔部と、前記第二鋏片の前記枢着部に貫通して穿設された円形の第二孔部と、前記第一孔部及び前記第二孔部に挿通された支軸部と、前記第一鋏片の前記第二鋏片と対面する面とは反対側の面において前記第一孔部の周縁に形成された第一凹部とを具備し、前記ボルトは、外周面にネジ山が形成された円柱状のボルト軸部の一端にボルト頭部を有し、前記ナットは、内周面にネジ溝が形成された円筒状のナット軸部の一端にナット頭部を有し、前記支軸部は、前記ネジ山と前記ネジ溝を螺合させた前記ボルト軸部と前記ナット軸部によって形成され、前記ボルト頭部及び前記ナット頭部の一方は、前記支軸部の軸心に直交する断面の外形が非円形または中心が前記軸心と一致しない円形である特殊形頭部であり、前記第一凹部は、前記特殊形頭部を着脱可能に内嵌させる形状及び大きさに形成されている」ものである。
【0008】
以下では、説明の便宜上、単に「断面」と称した場合は「支軸部の軸心に直交する断面」を指すものとし、単に「軸心」と称した場合は「支軸部の軸心」を指すものとする。また、「非円形または中心が支軸部の軸心と一致しない円形」は、軸心周りに任意の角度回転させる前と後とで外形が重ならないことがある形状であり、以下、単に「回転形非同一形状」と称することがある。
【0009】
「枢着部」は、第一鋏片及び第二鋏片のそれぞれにおいて、指孔の設けられた持手部と刃部との間に位置する部位であって、他方の鋏片と交差する部位を指している。
【0010】
「第一凹部」が「前記特殊形頭部を着脱可能に内嵌させる形状及び大きさに形成されている」とは、第一凹部の側周面によって囲まれる形状が特殊形頭部の断面形状と同一の形状で、且つ、特殊形頭部よりごく僅かに大きく形成されていることを意味している。これにより、特殊形頭部はその外周面を第一凹部の側周面に当接させると共に、その底面を第一凹部の底面と当接させ、第一凹部の内部に嵌め込まれる。
【0011】
上記構成の本発明の鋏では、ナット頭部またはボルト頭部の一方の断面の外形が回転形非同一形状であり、同じ形状の第一凹部に内嵌されているため、第一凹部が形成されている第一鋏片は支軸部に対して回転不能となる。これにより、支軸部は一対の鋏片の一方と一体的に回動することになり、支軸部を構成するボルトとナットのゆるみを抑制することができる。
【0012】
加えて、上記の従来の鋏100では、回り止めとして作用する角柱部141は鋏片に穿設された貫通孔(円形孔121及び角形孔111)を挿通可能な大きさに形成される必要があった。そのため、角柱部141と角形孔111の接触面積、すなわち、角柱部141の外周面と角形孔111の内周面とが接触する面積もさほど大きなものではなかった。これに対し、本発明では、回転形非同一形状に形成されるのは、鋏片の貫通孔部(第一孔部及び第二孔部)に挿通される支軸部ではなく、貫通孔部には挿通されないナット頭部またはボルト頭部であるため、その断面積を支軸部の断面積に比べてかなり大きく設定することが可能である。しかも、本発明では、特殊形頭部の外周面が第一凹部の側周面と接触することに加えて、特殊形頭部の底面も第一凹部の底面と接触する。すなわち、特殊形頭部と第一凹部との嵌合による接触面積は、従来の鋏における角柱部と角形孔との嵌合による接触面積よりかなり大きい。従って、本発明における回り止めの作用は従来の鋏より大きく、ボルト及びナットのゆるみがより有効に抑制されている。
【0013】
また、本発明では、円形の第一孔部及び第二孔部内を回転する支軸部の形状、すなわち、ナット軸部の断面の外形も円形である。従って、角形孔の中で角柱部が多少は回転する従来の鋏とは異なり、第一孔部及び第二孔部内を支軸部が滑らかに回動する。これにより、鋏片がガタつくことなく、滑らかに開閉操作を行うことができる。更に、従来の鋏における角形孔は、穿設する手段がワイヤーカットなどに限定され、作業も手間がかかるのに対し、第一孔部及び第二孔部は共に円形であるため、ドリルやリーマーなどを用いて容易に作業性良く穿設することができる。加えて、円形の孔部は角形孔に比べて加工精度が高い。これにより、第一孔部及び第二孔部の寸法を支軸部との関係で精密に制御することができ、よりガタつきなく滑らかに支軸部を回転させることが可能となる。
【0014】
更に、第一凹部は、外形は回転形非同一形状にする必要があるものの、特許文献1の技術とは異なり、底部に傾斜などを設ける必要はなく、底面は単なる平らな面とすれば足りるため加工も容易である。すわなち、本発明によれば、ナット頭部またはボルト頭部の一方を特殊形頭部とし、同じ断面形状の第一凹部を設けるという比較的簡易な構成で、ボルト及びナットのゆるみが抑制されていると共に、滑らかに開閉する鋏を実現することができる。
【0015】
また、ナットを回り止めとして作用させる場合、ナット全体の断面の外形を回転形非同一形状として第一凹部に内嵌させる構成も想到し得る。しかしながら、その場合は、第一凹部を深く形成する必要があり、加工に手間がかかると共に第一鋏片の強度が低下するおそれがある。これに対し、本発明では、ナットをナット軸部及びナット頭部を備える構成としているため、ナット頭部のみを回転形非同一形状とするのみで回り止めの効果を得ることができる。これにより、第一凹部を深くする必要がなく、加工が容易であると共に、第一鋏片の強度が低下するおそれ回避できるという利点も有している。
【0016】
本発明にかかる鋏は、上記構成に加え、「前記第二鋏片の前記第一鋏片と対面する面とは反対側の面において前記第二孔部の周縁に形成された第二凹部と、前記軸心に直交する断面の外形が非円形または中心が前記軸心と一致しない円形であるワッシャとを更に具備し、前記第二凹部は、前記ワッシャを着脱可能に内嵌させる形状及び大きさに形成されている」ものとすることもできる。
【0017】
特殊形頭部及びワッシャは、共に回転形非同一形状であるが、両者の形状は同じであっても相違していても良い。これに伴い、第一凹部と第二凹部についても、断面の外形が同一である場合と相違する場合とがあり得る。
【0018】
ボルト頭部と第二鋏片との間、またはナット頭部と第二鋏片との間に「ワッシャ」を介在させることにより、ボルト頭部またはナット頭部によって第二鋏片が押圧される面積を増加させることが可能となり、ボルト及びナットによる締結力をしっかりと第二鋏片に伝えることができる。そして、一般的にボルトまたはナットと共に使用されるワッシャは円環状であるところ、本発明ではワッシャの断面の外形は回転形非同一形状であり、第二孔部の周縁に形成された第二凹部も同一形状とされて、第二凹部内にワッシャが嵌め込まれる。これにより、ワッシャは第二鋏片に対して回転不能となるため、ワッシャの回転に起因するボルト及びナットのゆるみを、有効に抑制することができる。
【0019】
本発明にかかる鋏は、「前記第二鋏片の前記第一鋏片と対面する面とは反対側の面において前記第二孔部の周縁に形成された第二凹部と、該第二凹部内で前記第二鋏片と当接する外側リング、及び、該外側リングに内接し転がり回転すると共に前記支軸部を挿通させた内側リングを備えるベアリングとを、更に具備する」ものとすることもできる。
【0020】
「ベアリング」は、外側リングと内側リングとの間に玉やコロなどの転動体が介在しており、転動体の転がりによって外側リング及び内側リングが相対的に回転するものである。
【0021】
第二鋏片の第一鋏片と対面する面とは反対側で、支軸部を上記構成のベアリングに挿通させると、鋏の開閉操作に伴い、第二鋏片と共に外側リングが支軸周りに回転しても、内側リングは外側リングに従動しにくい。これにより、第二鋏片の運動が支軸部に伝わりにくいものとなるため、第二鋏片の運動に起因するボルト及びナットのゆるみが抑制される。すなわち、本発明によれば、支軸部が第一鋏片と一体的に回転することによって、第一鋏片の運動に伴うボルト及びナットのゆるみが防止されていることに加えて、第二鋏片の運動に伴うボルト及びナットのゆるみも有効に抑制される。
【0022】
また、ベアリングは第二孔部の周縁に形成された第二凹部内に設けられるため、第二鋏片からのベアリングの突出が低減される。なお、第二凹部は、その内部にベアリングを配設できるものであれば形状及び大きさは特に限定されず、軸心の方向から見た形状を、非円形または中心が軸心と一致しない円形とすることも、中心が軸心と一致する円形とすることもできる。
【0023】
本発明にかかる鋏は、上記構成において、「前記第二凹部は、前記軸心の方向から見た形状及び大きさが前記第一凹部と同一に形成されている」ものとすることができる。
【0024】
上記構成の本発明の鋏では、第一凹部に特殊形頭部を内嵌させる使用も、第二凹部に特殊形頭部を内嵌させる使用も可能となる。すなわち、ワッシャを備える鋏の場合、第一凹部に特殊形頭部を内嵌させ第二凹部にワッシャを内嵌させるという組み合わせに加えて、第二凹部に特殊形頭部を内嵌させ第一凹部にワッシャを内嵌させるという、逆の組み合わせによる使用も可能となる。また、ベアリングを備える鋏の場合、第一凹部に特殊形頭部を内嵌させ第二凹部内にベアリングを配設するという組み合わせに加えて、第二凹部に特殊形頭部を内嵌させ第一凹部内にベアリングを配設するという、逆の組み合わせによる使用も可能となる。従って、支軸部を第一鋏片と一体的に回動させる使用、支軸部を第二鋏片と一体的に回動させる使用、の双方が可能となる。
【0025】
また、鋏には、一対の鋏片の持手部の柄の長さや形状が異なるタイプ(オフセットタイプ)と、一対の持手部が左右対称の形状であるタイプ(リバースタイプ)とがある。そこで、左右対称の鋏であれば、第一凹部に特殊形頭部を内嵌させることにより、支軸部に対して第一鋏片を回転させずに使用できると共に、第二凹部に特殊形頭部を内嵌させ、鋏の左右を持ち換えることにより、支軸部に対して第二鋏片を回転させずに使用することが可能となる。
【0026】
加えて、第一鋏片と第二鋏片とを区別することなく同一形状の鋏片を製造し、凹部に特殊形頭部を内嵌させた任意の鋏片と、凹部内にワッシャまたはベアリングを配設した任意の鋏片とを組み付けて、本発明の鋏とすることができる。これにより、鋏の製造にあたり、製品及び半製品の管理が容易なものとなる。
【0027】
本発明にかかる鋏は、上記構成において、「前記特殊形頭部は前記ナット頭部であり、前記ナット軸部の一端の開口は前記ナット頭部によって被覆されている」ものとすることができる。
【0028】
一般的なナットでは、ネジ溝が形成された孔が軸方向に貫通している。これに対し、本発明では、ナット軸部の一端部はナット頭部で被覆されている。換言すれば、ナット頭部である特殊形頭部には、ネジ溝が形成されたナット軸部は開口していない。これにより、髪など被切断物の切り屑やほこり等が支軸部に入り込むことが防止される。また、ネジ溝が露呈しないことにより特殊形頭部の外観が良いものとなるため、回り止めとしての作用を奏する特殊形頭部に、装飾部としての機能を発揮させることができる。ここで、特殊形頭部を、ハート形、しずく型、花型など、回転形非同一形状であると共に意匠性の高い形状とすれば、好適である。また、樹脂、ガラス、セラミックス、鉱石、木材など、材質や色が鋏片とは異なる材料を特殊形頭部に用いれば、装飾部としての機能をより効果的に発揮することができ、更に好適である。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明の効果として、簡易な構成でボルト及びナットのゆるみが抑制されていると共に、鋏片がガタつくことなく、滑らかに開閉操作を行うことができる鋏、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第一実施形態の鋏の分解斜視図(第一鋏片側から見下ろした図)である。
【図2】図1の鋏の分解斜視図(第二鋏片側から見上げた図)である。
【図3】図1の鋏の(a)正面図、(b)背面図、及び(c)ワッシャ及びボルトを取り外した状態の背面図である。
【図4】特殊形頭部がボルト頭部である場合のボルト及びナットを説明する(a)分解斜視図(ボルト側から見下ろした図)、及び(b)分解斜視図(ナット側から見上げた図)である。
【図5】持手部が左右対称の鋏を説明する正面図である。
【図6】本発明の第二実施形態の鋏の枢着部の断面図である。
【図7】特殊形頭部の他の形態を例示する図である。
【図8】(a)従来の鋏の分解斜視図、及び(b)従来の鋏における支軸部の他の形態を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための一実施形態である鋏1について、図1乃至図3に基づいて説明する。鋏1は、持手部11及び刃部12を有する第一鋏片10と、持手部21及び刃部22を有する第二鋏片20が、それぞれの枢着部13,23でボルト40とナット30により組み付けられた鋏1であって、第一鋏片10の枢着部13に貫通して穿設された円形の第一孔部15と、第二鋏片20の枢着部23に貫通して穿設された円形の第二孔部25と、第一孔部15及び第二孔部25に挿通された支軸部Pと、第一鋏片10の第二鋏片20と対面する面とは反対側の面において第一孔部15の周縁に形成された第一凹部16とを具備している。そして、ボルト40は、外周面にネジ山が形成された円柱状のボルト軸部42の一端にボルト頭部41を有し、ナット30は、内周面にネジ溝が形成された円筒状のナット軸部32の一端にナット頭部31を有し、支軸部Pは、ネジ山とネジ溝を螺合させたボルト軸部42とナット軸部32によって形成されている。加えて、ナット頭部31は、支軸部Pの軸心zに直交する断面の外形が非円形または中心が軸心zと一致しない円形である特殊形頭部hであり、第一凹部16は、特殊形頭部hを着脱可能に内嵌させる形状及び大きさに形成されている。
【0032】
また、第一実施形態の鋏1は、上記構成に加え、第二鋏片20の第一鋏片10と対面する面とは反対側の面において第二孔部25の周縁に形成された第二凹部26と、軸心zに直交する断面の外形が非円形または中心が軸心zと一致しない円形であるワッシャ50とを更に具備し、第二凹部26は、ワッシャ50を着脱可能に内嵌させる形状及び大きさに形成されている。更に、本実施形態においては、特殊形頭部hとワッシャ50とは、軸心zに直交する断面の外形が同一であり、第二凹部26は軸心zの方向から見た形状及び大きさが第一凹部16と同一に形成されている。
【0033】
より詳細に説明すると、円形の第一孔部15及び第二孔部25の直径は、円筒状のナット軸部32の外径より僅かに大きく設定されている。また、本実施形態では、ボルト頭部41とナット頭部31のうち、ナット頭部31を特殊形頭部hとしているが、その断面の外形はハート型である。特に、本実施形態の特殊形頭部hは、ハート型における最大幅がナット軸部32の外径の約2倍という大きなものである。また、ナット頭部31は、ナット軸部32と一体成形されナット軸部32の一端の開口を被覆している金属製で薄板状の頭部基部31aと、頭部基部31aの上面(ナット軸部32とは反対側の面)に積層された装飾部31bとを備えている。この装飾部31bは、色及び材質が第一鋏10及び第二鋏片20とは異なっており、鋏1のブランドマーク等を施すこともできる。
【0034】
一方、ボルト頭部41は、第一孔部15及び第二孔部25より大径の円形である。また、ワッシャ50は金属製の薄板であり、その外形はナット頭部31(特殊形頭部h)の断面の外形と同一のハート型であり、第一孔部15及び第二孔部25と同径の円形の貫通孔51が穿設されている。
【0035】
なお、第一鋏片10には第二鋏片20と対面する面において第一孔部15の周縁に、第二鋏片20には第一鋏片10と対面する面において第二孔部25の周縁に、それぞれ円環状の部材(図示しない)を収容するための円環状凹部19,29が設けられている。
【0036】
上記の構成の鋏1は、第一鋏片10において第一凹部16にナット頭部31(特殊形頭部h)を内嵌させて、ナット軸部32を第一孔部15及び第二孔部25に挿通し、第二鋏片20においては第二凹部26にワッシャ50を内嵌させた上で、ボルト頭部41がワッシャ50に当接するようにボルト軸部42をワッシャ50の貫通孔51及び第二鋏片20の第二孔部25に挿通し、ナット軸部32のネジ溝とボルト軸部42のネジ山とを螺合させることにより、ボルト40とナット30とで第一鋏片10及び第二鋏片20を組み付けることができる。
【0037】
このとき、ナット頭部31(特殊形頭部h)は、その断面の外形が回転形非同一形状であるハート型であり、同一形状の第一凹部16に内嵌されているため、ボルト軸部42及びナット軸部32で構成される支軸部Pは第一鋏片10と一体的に回動し、ボルト40とナット30のゆるみが抑制される。特に、本実施形態ではナット頭部31(特殊形頭部h)の断面積はかなり大きく設定されているため、第一凹部16の外周面及び底面との接触面積が大きく、回り止めとしての作用効果が高いものとなっている。
【0038】
加えて、断面の外形が回転形非同一形状であるワッシャ50が、同一形状の第二凹部26に内嵌されているため、ワッシャ50は第二鋏片20に対して回転不能であり、ワッシャ50の回転に起因するボルト40及びナット30のゆるみも有効に抑制されている。
【0039】
また、支軸部Pの断面の外形(ナット軸部32の断面の外形)は円形であるため、支軸部Pは円形の第一孔部15及び第二孔部25内を滑らかに回転する。これにより、第一鋏片10及び第二鋏片20がガタつくことなく、滑らかに鋏1の開閉操作を行うことができる。
【0040】
加えて、ナット頭部31(特殊形頭部h)にはナット軸部32は開口していないため、切り屑やほこり等が支軸部Pに入り込むことが防止されることに加え、ネジ溝が露呈しないことによってナット頭部31(特殊形頭部h)の外観が良いものとなっている。特に、本実施形態では、ナット頭部31の上面には第一鋏10及び第二鋏片20とは異なる材質の装飾部31bが設けられているため、回り止めとしての作用を奏するナット頭部31(特殊形頭部h)が、装飾機能をも効果的に発揮するものとなっている。
【0041】
上記の鋏1では、ナット頭部31を特殊形頭部hとする場合を例示したが、他の実施形態として、図4に示すように、特殊形頭部hであるボルト頭部46を備えるボルト45のボルト軸部47と、凹部には内嵌させないナット頭部36を備えるナット35のナット軸部37との螺合によって、支軸部Pが形成される構成とすることができる。その他の構成は上記の鋏1と同様であり、第一鋏片10において第一凹部16にボルト頭部46(特殊形頭部h)を内嵌させて、第一孔部15からボルト軸部47を突出させ、第二鋏片20においては第二凹部26にワッシャ50を内嵌させた上で、ナット頭部36がワッシャ50に当接するようにナット軸部37をワッシャ50の貫通孔51、第二孔部25、及び第一孔部15に挿通し、ナット軸部37のネジ溝とボルト軸部47のネジ山とを螺合させることにより、ボルト45とナット35とで第一鋏片10及び第二鋏片20を組み付けることができる。
【0042】
また、上記の鋏1では、第一凹部16と第二凹部26が同一の形状・大きさであり、特殊形頭部h及びワッシャ50の断面形状が同一であるため、第二凹部26に特殊形頭部hを内嵌させ第一凹部16にワッシャ50を内嵌させて使用することも可能である。このように、特殊形頭部hとワッシャ50とを取り換えて使用することは、図5に例示するように、第一鋏片10b及び第二鋏片20bが左右対称である鋏2の場合に、特に有意である。具体的には、第一凹部16に特殊形頭部hを内嵌させ第二凹部にワッシャ50を内嵌させ、第一鋏片10bを支軸部Pに対して回転不能として使用することに加え、左右を持ち換えると共に、第二凹部26に特殊形頭部hを内嵌させ第一凹部16にワッシャ50を内嵌させ、第二鋏片20bを支軸部Pに対して回転不能として使用することができる。
【0043】
次に、第二実施形態の鋏について、枢着部の断面図である図6を用いて説明する。第一実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。ここで、第一実施形態との相違は、第二凹部26内に、ワッシャ50ではなくベアリング60が配設される点である。具体的には、ベアリングは第二凹部26内で第二鋏片20と当接する外側リング61、及び、外側リング61に内接し転がり回転すると共にボルト軸部42(支軸部P)を挿通させた内側リング62を備えている。また、ボルトとしては、ボルト軸部42に向かって徐々に縮径するボルト頭部41b、すなわち、ボルト軸部42を内側リング62に挿通させた状態で、外側リング61に当接しないボルト頭部41bを有するボルト40bを使用している。なお、図6では、外側リング61と内側リング62との間に介在する玉やコロなどの転動体は省略している。また、図6は、第一鋏片16及び第二鋏片26の厚さに対する第一凹部16及び第二凹部26の深さなど、各構成間の寸法比を正確に図示したものではない。
【0044】
かかる構成により、鋏の開閉操作に伴い第二鋏片20が支軸z周りに回転することによって、ベアリング60の外側リング61が回転しても、転動体の作用により内側リング62は外側リング61に従動しにくいため、第二鋏片20の回転運動がボルト軸部42に伝わりにくい。これにより、回転形非同一形状であるナット頭部31(特殊形頭部h)が第一凹部16に内嵌されていることにより、ボルト軸部42及びナット軸部32で構成される支軸部Pが第一鋏片10と一体的に回動する作用が、より確実なものとなり、より有効にボルト40とナット30のゆるみが抑制される。
【0045】
なお、外側リング16にフランジ61fを設け、フランジ61fと第二鋏片20(第二凹部26の底面)との間にコイルスプリング(図示しない)を介設すれば、第二鋏片20に対するベアリング60のガタつきが防止されると共に、ボルト40bとナット30を過度に締め付けることなく第一鋏片10及び第二鋏片20を枢着することができ、好適である。
【0046】
なお、第一凹部16と第二凹部26は軸心zの方向から見た形状及び大きさが同一であるため、第一実施形態の鋏の場合と同様に、第二凹部26に特殊形頭部hを内嵌させ、第一凹部16内にベアリング60を配設して使用することも可能である。
【0047】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0048】
例えば、上記の実施形態では、特殊形頭部h及びワッシャ50の断面外形がハート型の場合を例示したが、回転形非同一形状、すなわち、軸心z周りに任意の角度回転させる前と後とで外形が重ならないことがある形状であれば、ハート型に限定されない。例えば、図7(a)に示すように、中心が軸心zと一致しない円形の特殊形頭部h2とすることができる。また、非円形とすることもでき、例えば、図7(b)〜(g)に示すように、それぞれ楕円形、しずく型、花型、菱形、四角形、三角形の特殊形頭部h3,h4,h5,h6,h7,h8とすることができる。なお、図中の破線は、特殊形頭部がナット頭部の場合のナット軸部の内周面、または、特殊形頭部がボルト頭部の場合のボルト軸部の外周面を示している。
【0049】
加えて、上記では、特殊形頭部及びワッシャの断面形状が同一である場合を示したが、これに限定されず、特殊形頭部及びワッシャがそれぞれ回転形非同一形状であるが、同一ではない形状とすることもできる。この場合は、特殊形頭部及びワッシャによって、ボルト及びナットの回り止めの作用を得ると共に、第一鋏片側から見たときと第二鋏片から見たときとで、デザインが相違し異なる印象を与える鋏とすることができる。
【符号の説明】
【0050】
1,2 鋏
10,10b 第一鋏片
13,23 枢着部
15 第一孔部
16 第一凹部
20,20b 第二鋏片
25 第二孔部
26 第二凹部
30,35 ナット
31,36 ナット頭部
32,37 ナット軸部(支軸部P)
40,45 ボルト
41,46 ボルト頭部
42,47 ボルト軸部(支軸部P)
50 ワッシャ
60 ベアリング
61 外側リング
62 内側リング
h,h2,h3,h4,h5,h6,h7,h8 特殊形頭部
z 軸心
【先行技術文献】
【特許文献】
【0051】
【特許文献1】特開2007−325690号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一鋏片及び第二鋏片がそれぞれの枢着部でボルトとナットにより組み付けられた鋏であって、
前記第一鋏片の前記枢着部に貫通して穿設された円形の第一孔部と、
前記第二鋏片の前記枢着部に貫通して穿設された円形の第二孔部と、
前記第一孔部及び前記第二孔部に挿通された支軸部と、
前記第一鋏片の前記第二鋏片と対面する面とは反対側の面において前記第一孔部の周縁に形成された第一凹部とを具備し、
前記ボルトは、外周面にネジ山が形成された円柱状のボルト軸部の一端にボルト頭部を有し、
前記ナットは、内周面にネジ溝が形成された円筒状のナット軸部の一端にナット頭部を有し、
前記支軸部は、前記ネジ山と前記ネジ溝を螺合させた前記ボルト軸部と前記ナット軸部によって形成され、
前記ボルト頭部及び前記ナット頭部の一方は、前記支軸部の軸心に直交する断面の外形が非円形または中心が前記軸心と一致しない円形である特殊形頭部であり、
前記第一凹部は、前記特殊形頭部を着脱可能に内嵌させる形状及び大きさに形成されている
ことを特徴とする鋏。
【請求項2】
前記第二鋏片の前記第一鋏片と対面する面とは反対側の面において前記第二孔部の周縁に形成された第二凹部と、
前記軸心に直交する断面の外形が非円形または中心が前記軸心と一致しない円形であるワッシャとを更に具備し、
前記第二凹部は、前記ワッシャを着脱可能に内嵌させる形状及び大きさに形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の鋏。
【請求項3】
前記第二鋏片の前記第一鋏片と対面する面とは反対側の面において前記第二孔部の周縁に形成された第二凹部と、
該第二凹部内で前記第二鋏片と当接する外側リング、及び、該外側リングに内接し転がり回転すると共に前記支軸部を挿通させた内側リングを備えるベアリングとを、
更に具備することを特徴とする請求項1に記載の鋏。
【請求項4】
前記第二凹部は、前記軸心の方向から見た形状及び大きさが前記第一凹部と同一に形成されている
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の鋏。
【請求項5】
前記特殊形頭部は前記ナット頭部であり、前記ナット軸部の一端の開口は前記ナット頭部によって被覆されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の鋏。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−125591(P2011−125591A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288794(P2009−288794)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(397076888)株式会社刃物屋トギノン (8)
【Fターム(参考)】