説明

鋳型充填用中空ボール、およびそれを用いた鋳造方法

【課題】再利用しても破砕され難く、しかも軽量かつ安価であり、充填材として好適な鋳型充填用中空ボール、およびそれを用いた鋳造方法を提供する。
【解決手段】材質が鉄,酸化鉄またはスピネル構造フェライトであり、見掛け密度が0.2〜2.5g/cm3である鋳型充填用中空ボールを、肌砂層3の背後の充填空間2に10体積%以上充填して鋳物を鋳造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系の鋳物あるいは非鉄系の鋳物を鋳造する際に、鋳型内に充填される材料に関し、特に肌砂層の背後の枠体との間に充填される中空ボール(以下、鋳型充填用中空ボールという)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳物を鋳込む際に使用される鋳型は、図1に示すように、枠体1の内部の領域2(以下、充填空間という)に充填材を充填し、所定の形状に成型された肌砂層3を充填材に埋設して構成される。充填材として鋳物砂が広く使用されているが、鋳物砂には
(a)熱により破砕されて微粉状態になるので、解砕するときに周辺に飛散して、粉塵による公害を引き起こすばかりでなく、作業者が粉塵から発生する熱気を浴びる、
(b)再利用は可能であるが、繰り返し使用するうちに劣化するので、適宜、補充あるいは更新する必要がある、
(c)重量が大きいので、作業者に多大な負荷がかかる
等の問題がある。そこで鋳物砂の問題点を解決するために、種々の充填材が提案されている。
【0003】
たとえば特許文献1には、磁性材料からなる芯体と、その芯体を収容する空間を設けたセラミックス製の外殻体と、からなるセラミックスボールが開示されている。特許文献2には、収縮が可能な磁性芯体の周囲に、セラミックス材料の外殻層を形成したセラミックスボールが開示されている。これらのセラミックスボールは、いずれも2重構造となっており、重量の軽減が期待できない。しかも複雑な工程を経て製造されるので、製造コストの上昇を招く。
【0004】
また特許文献3には、人工合成木材からなる中空球体が開示されている。この人工合成木材は、耐久性が劣るので再利用には適しておらず、補充や更新を頻繁に行なう必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-100653号公報
【特許文献2】特開平3-86353号公報
【特許文献3】特開2000-254757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、再利用しても破砕され難く、しかも軽量かつ安価であり、充填材として好適な鋳型充填用中空ボール、およびそれを用いた鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、鋳物を鋳造する際に鋳型内の肌砂層の背後の枠体との間の充填空間に充填する鋳型充填用中空ボールであって、材質が鉄,酸化鉄またはスピネル構造フェライトであり、見掛け密度が0.2〜2.5g/cm3である鋳型充填用中空ボールである。
また本発明は、鋳型内の肌砂層の背後の枠体との間の充填空間に鋳型充填用中空ボールを充填して鋳物を鋳造する鋳造方法において、材質が鉄,酸化鉄またはスピネル構造フェライトであり、見掛け密度が0.2〜2.5g/cm3である鋳型充填用中空ボールを、肌砂層の背後の充填空間に10体積%以上充填して鋳物を鋳造する鋳造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、再利用しても破砕され難く、しかも軽量かつ安価であり、充填材として好適な鋳型充填用中空ボール、およびそれを用いた鋳造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】鋳型の例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の鋳型充填用中空ボールの材質は、鉄系素材(たとえば鉄,酸化鉄,スピネル構造フェライト等)を使用する。鉄系素材は、いずれも再利用しても破砕され難く、しかも軽量かつ安価であるから、鋳型充填用中空ボールに好適な素材である。これら鉄系素材のうち、純鉄製の鋳型充填用中空ボールは、充填材として格別の高強度が求められる用途に好適である。酸化鉄製の鋳型充填用中空ボールは、軽量化が求められる用途に好適である。スピネル構造フェライト製の鋳型充填用中空ボールは、強磁性体(すなわちフェリ磁性体)であるから、後述する鋳物砂と混合して使用する場合に、磁気を用いて鋳物砂から容易に分離できる。
【0011】
鋳型充填用中空ボールは、次の工程を経て製造できる。すなわち、
(1)発泡スチロールの球体に鉄系素材の粉末を噴霧して、球体の表面を鉄系素材で被覆する、
(2)鉄系素材で表面を被覆した発泡スチロールの球体を、大気中で焼成することによって、鉄系素材を硬化させるとともに、発泡スチロールを消失させる
という手順で製造される。
【0012】
ただし純鉄粉は高価であるから、純鉄製の鋳型充填用中空ボールを製造する際には、鉄系素材として酸化鉄を用いて(1)の工程を経た後、(2)の工程の代わりに、発泡スチロールの球体を水素中で焼成することによって、表面の酸化鉄を還元させかつ硬化させるとともに、発泡スチロールを消失させるという手順で製造することが好ましい。
鋳型充填用中空ボールの見掛け密度は、内部の空間を含む体積で鋳型充填用中空ボールの重量を除した値であるから、鋳型充填用中空ボールの外径と殻厚を評価する指標となる。見掛け密度が0.2g/cm3未満では、殻厚が薄いので、鋳型充填用中空ボールの強度が低下し、鋳造中に割れや潰れを生じる。そのため、鋳物に様々な欠陥が発生するばかりでなく、寸法や形状が変化する。一方、2.5g/cm3を超えると、鋳型充填用中空ボールの軽量化が期待できない。したがって、鋳型充填用中空ボールの見掛け密度は0.2〜 2.5g/cm3の範囲内とする。
【0013】
このようにして得た鋳型充填用中空ボールを用いて鋳造を行なう際には、図1に示すように、肌砂層3の背後の枠体1との間の充填空間2に、充填材として鋳型充填用中空ボールを充填する。鋳型充填用中空ボールのみを充填材として使用しても良いし、あるいは鋳型充填用中空ボールと鋳物砂との混合物を充填材として使用しても良い。鋳型充填用中空ボールと鋳物砂とを混合する場合は、鋳型充填用中空ボールの混合比率を充填空間2の体積(すなわち充填材の全体積)の10体積%以上とする。鋳型充填用中空ボールの混合比率が10体積%未満では、充填材の軽量化ひいては鋳型全体の軽量化が期待できない。
【0014】
ここでは鋳型は、枠体1,充填材,肌砂層3で構成される構造体を指す。
【実施例】
【0015】
安価な鉄系素材(すなわち鉄,酸化鉄,スピネル構造フェライト)を用いて鋳型充填用中空ボールを製造し、それらを表1に示す混合比率で鋳物砂と混合して充填材を得た。発明例1〜8は、鋳型充填用中空ボールの見掛け密度および鋳物砂との混合比率が本発明の範囲を満足する例である。比較例1,2は、鋳型充填用中空ボールの混合比率が本発明の範囲を外れる例である。比較例3,4は、鋳型充填用中空ボールの見掛け密度が本発明の範囲を外れる例である。
【0016】
これらの充填材を用いて図1に示すような鋳型を構成し、その重量を測定した。その結果を表1に併せて示す。なお表1では、比較例1の鋳型の重量を1.0とし、その他の発明例1〜8,比較例2〜3の鋳型の重量を比較例1に対する比率で示す。
次に、各充填材を用いて、それぞれ3回ずつ鋳造を行なった後、鋳型充填用中空ボールを回収して、割れの有無を調査した。その結果を表1に併せて示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1から明らかなように、発明例1〜8の充填材を用いた鋳型の重量は0.5〜0.9であったのに対して、比較例1,2,4の充填材を用いた鋳型の重量は0.98〜1.5であった。つまり、発明例の充填材は軽量化を達成できた。
比較例3の充填材を用いた鋳型の重量は0.4で最も軽量であったが、鋳型充填用中空ボールに割れが認められた。これに対して発明例1〜8の充填材では、鋳型充填用中空ボールに割れは認められなかった。つまり、発明例の充填材は破砕され難く、再利用に適していた。
【産業上の利用可能性】
【0019】
再利用しても破砕され難く、しかも軽量かつ安価であり、充填材として好適な鋳型充填用中空ボールを得ることができ、かつその鋳型充填用中空ボールを用いて鋳造を良好に行なうことができるので、産業上格段の効果を奏する。
【符号の説明】
【0020】
1 枠体
2 充填空間
3 肌砂層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳物を鋳造する際に鋳型内の肌砂層の背後の枠体との間の充填空間に充填する鋳型充填用中空ボールであって、材質が鉄、酸化鉄またはスピネル構造フェライトであり、見掛け密度が0.2〜2.5g/cm3であることを特徴とする鋳型充填用中空ボール。
【請求項2】
鋳型内の肌砂層の背後の枠体との間の充填空間に鋳型充填用中空ボールを充填して鋳物を鋳造する鋳造方法において、材質が鉄、酸化鉄またはスピネル構造フェライトであり、見掛け密度が0.2〜2.5g/cm3である鋳型充填用中空ボールを、前記肌砂層の背後の充填空間に10体積%以上充填して鋳物を鋳造することを特徴とする鋳造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2011−20148(P2011−20148A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167449(P2009−167449)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(591006298)JFEテクノリサーチ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】