説明

鋳型造型用粘結剤組成物

【課題】鋳型強度に優れ、樹脂の沈殿が発生せず保存安定性に優れる鋳型造型用粘結剤組成物、及びこれを用いた鋳型の製造方法を提供する。
【解決手段】酸硬化性樹脂(A)、加水分解型タンニン(B)並びにエポキシシラン、メルカプトシラン及びウレイドシランから選ばれる1種以上のシランカップリング剤(C)を含有する鋳型造型用粘結剤組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸硬化性樹脂及び加水分解型タンニンを含有する鋳型造型用粘結剤組成物と、これを用いた鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸硬化性自硬性鋳型は、ケイ砂等の耐火性粒子に、酸硬化性樹脂を含有する鋳型造型用粘結剤と、リン酸、有機スルホン酸、硫酸等を含有する硬化剤とを添加し、これらを混練した後、得られた混練砂を木型等の原型に充填し、酸硬化性樹脂を硬化させて製造される。酸硬化性樹脂には、フラン樹脂やフェノール樹脂等が用いられており、フラン樹脂には、フルフリルアルコール、フルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコール・ホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコール・フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、その他公知の変性フラン樹脂等が用いられている。
【0003】
鋳型を製造する上で、重要な条件の一つとして、鋳型の生産性が挙げられる。自硬性鋳型においては、鋳型の生産性を上げるためには、原型に混練砂を充填した後、鋳型の硬化速度を上げ、原型から鋳型を抜型するまでに要する時間(抜型時間)を短くする必要がある。
【0004】
鋳型の生産性を向上させるために、例えば、特許文献1には、フラン化合物の添加により、鋳型の硬化速度を上げた粘結剤組成物が開示されている。
【0005】
一方、作業環境の観点からは、鋳型造型時におけるホルムアルデヒドや、鋳物鋳造時における硫黄酸化物等の悪臭の原因となる硬化剤中の硫黄成分の低減が望まれており、種々の方策が提案されている。例えば、特許文献2には、アカシア、ケブラコ、ラジアータパイン等の樹皮から抽出された、縮合型タンニンを主成分とする抽出物を含有する粘結剤組成物が開示されている。また、特許文献3には、フルフリルアルコール中に尿素ホルムアルデヒド樹脂等のアミノプラストを溶解してフラン樹脂とする際に、アミノプラストの沈殿防止策として、多核ポリフェノールのグリコシドを添加したフラン樹脂組成物が開示されている。また、特許文献4には、植物由来の葉、実、種、植物に寄生した虫こぶ等の天然物から抽出された植物性天然物抽出組成物を含む粘結剤組成物が開示されている。そして、鋳型の最終強度を十分なものとするために鋳型強度向上剤としてアミノシランカップリング剤が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-70247号公報
【特許文献2】特開2007-326122号公報
【特許文献3】特開昭56-81359号公報
【特許文献4】特開2009-119505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、加水分解型タンニンとアミノシランカップリング剤が共存した場合、フラン樹脂、加水分解型タンニン及びアミノシランカップリング剤を含有する粘結剤組成物は、保存安定性が悪く、粘結剤組成物中に沈殿が生じてしまう課題があった。通常、粘結剤組成物はタンクに保存され、配管によりミキサーへ供給されて、鋳物砂及び硬化剤と混合される。この様な沈殿が生じると、配管の詰まり等により、樹脂の供給安定性が不十分となり、鋳型強度が低下したり、タンクへの蓄積により有効なタンクの容量が低下する等、取り扱い上問題となる。
【0008】
本発明は、鋳型の硬化速度を向上させ、かつ、鋳型強度に優れ、樹脂の沈殿が生じないという保存安定性に優れる鋳型造型用粘結剤組成物、及びこれを用いた鋳型の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物は、酸硬化性樹脂(A)、加水分解型タンニン(B)並びにエポキシシラン、メルカプトシラン及びウレイドシランから選ばれる1種以上のシランカップリング剤(C)を含有する鋳型造型用粘結剤組成物である。
【0010】
本発明の鋳型の製造方法は、耐火性粒子、鋳型造型用粘結剤組成物及び硬化剤を含む混合物を硬化する工程を有する鋳型の製造方法であって、前記鋳型造型用粘結剤組成物として前記本発明の鋳型造型用粘結剤組成物を使用する鋳型の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物によれば、鋳型の硬化速度を向上させ、かつ、鋳型強度に優れ、樹脂の沈殿が生じないという保存安定性に優れ、更にpH依存性がなく汎用性に優れる鋳型造型用粘結剤組成物を提供できる。また、本発明の鋳型の製造方法によれば、安定な一液の鋳型造型用粘結剤組成物を用いるので、操作が簡便で、鋳型の生産性が良好となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物(以下、単に「粘結剤組成物」ともいう)は、鋳型を製造する際の粘結剤として使用されるものであって、酸硬化性樹脂(A)、加水分解型タンニン(B)並びにエポキシシラン、メルカプトシラン及びウレイドシランから選ばれる1種以上のシランカップリング剤(C)を含有する。以下、本発明の粘結剤組成物に含有される成分について説明する。
【0013】
<酸硬化性樹脂(A)>
酸硬化性樹脂としては、従来公知の樹脂が使用でき、例えば、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フェノール類とアルデヒド類の縮合物、メラミンとアルデヒド類の縮合物、及び尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種からなるものや、これらの群から選ばれる2種以上の混合物からなるものが使用できる。また、これらの群から選ばれる2種以上の共縮合物からなるものも使用できる。このうち、樹脂粘度の観点から、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、及び尿素とアルデヒド類の縮合物から選ばれる1種以上、並びにこれらの共縮合物を使用するのが好ましい。フルフリルアルコールは、原料が非石油資源である植物から製造できるため、環境の観点からは、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、及びこれらの共縮合物を使用するのが好ましい。粘結剤組成物中の窒素含有量を後述する好適な範囲に調整する観点、及びコストの観点からは、尿素とアルデヒド類の縮合物、及び尿素とアルデヒド類の縮合物とフルフリルアルコールとの共縮合物を使用するのが好ましく、該アルデヒド類としてはホルムアルデヒドを使用するのがより好ましい。粘結剤組成物中の窒素含有量を後述する好適な範囲に調整する観点、及び鋳型の硬化速度の観点からは、メラミンとアルデヒド類の縮合物、及びメラミンとアルデヒド類の縮合物とフルフリルアルコールとの共縮合物を使用するのが好ましく、メラミンとホルムアルデヒドの縮合物を使用するのがより好ましい。
【0014】
前記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、フルフラール、テレフタルアルデヒド等が挙げられ、これらのうち1種以上を適宜使用できる。鋳型強度の観点からは、ホルムアルデヒドを用いるのが好ましく、造型時のホルムアルデヒド発生量低減の観点からは、フルフラールやテレフタルアルデヒドを用いるのが好ましい。
【0015】
前記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールFなどが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。
【0016】
フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、硬化速度向上及び鋳型強度向上の観点から、フルフリルアルコール1モルに対して、アルデヒド類を0.01〜1モル使用することが好ましい。また、フェノール類とアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、鋳型強度向上の観点から、フェノール類1モルに対して、アルデヒド類を1〜3モル使用することが好ましい。また、メラミンとアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、鋳型強度向上の観点から、メラミン1モルに対して、アルデヒド類を1〜3モル使用することが好ましい。また、尿素とアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、鋳型強度向上の観点から、尿素1モルに対して、アルデヒド類を1〜2モル使用することが好ましく、1.5〜1.8モル使用することがより好ましい。
【0017】
粘結剤組成物中の酸硬化性樹脂の含有量は、鋳型強度を十分に発現する観点から、好ましくは55〜95重量%であり、より好ましくは60〜90重量%であり、更に好ましくは65〜85重量%である。
【0018】
本発明の粘結剤組成物は、得られる鋳型の強度を高める観点から、粘結剤組成物中の窒素含有量が0.5重量%以上であることが好ましく、1.0重量%以上がより好ましく、2.0重量%以上が更に好ましい。また、鋳物の窒素ガス欠陥を低減する観点から粘結剤組成物中の窒素含有量は、6.0重量%以下であることが好ましく、5.0重量%以下がより好ましく、4.0重量%以下が更に好ましい。上記観点を総合すると、粘結剤組成物中の窒素含有量は、0.5〜6.0重量%であることが好ましく、1.0〜5.0重量%がより好ましく、2.0〜4.0重量%が更に好ましい。粘結剤組成物中の窒素含有量を上記範囲内に調整するには、粘結剤組成物中の窒素含有化合物の含有量を調整すればよい。窒素含有化合物としては、尿素、メラミン、尿素とアルデヒド類の縮合物、メラミンとアルデヒド類の縮合物、尿素樹脂及び尿素変性樹脂等が好ましい。粘結剤組成物中の窒素含有量は、ケルダール法により定量することが出来る。更には、尿素、尿素樹脂、フルフリルアルコール・尿素樹脂(尿素変性樹脂)、及びフルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂由来の窒素量は、尿素由来のカルボニル基(C=O基)を13C-NMRで定量することで求めることも出来る。
【0019】
<加水分解型タンニン(B)>
本発明の粘結剤組成物は、鋳型の硬化速度を速める観点から、加水分解型タンニンを含む。加水分解型タンニンは、タンニン酸とも呼ばれるポリフェノールの一種であり、希塩酸に添加して煮沸した際に加水分解して水溶性の物質となる性質を有するものである。例えば、双子葉植物の葉、種、果実、虫嬰等から抽出された、多価フェノール酸と多価アルコールとのエステルである。好ましい加水分解型タンニンは、入手容易性、成分安定性及び抽出効率の高さの観点から、没食子及び/又は五倍子(ウルシ科のヌルデまたは同属植物の虫嬰)から抽出された加水分解型タンニンであり、糖類と没食子酸などとのエステルである。なお、加水分解型タンニンは、加水分解しうるエステル結合の数が多い点及び水分との相互作用を持ちやすい点でフラボノイド系のポリフェノールが縮合した縮合型タンニンとは、異なる構造群に属するものである。
【0020】
加水分解型タンニンの分子量は、粘結剤組成物への溶解性の観点から、好ましくは500〜3000であり、より好ましくは1000〜2000であり、更に好ましくは1500〜2000である。また、粘結剤組成物中の加水分解型タンニンの含有量は、粘結剤組成物への溶解性の観点、及び鋳型の深部硬化性を高める観点から、好ましくは0.1〜40重量%であり、より好ましくは1〜20重量%であり、更に好ましくは1〜15重量%であり、更により好ましくは5〜10重量%である。
【0021】
鋳型の深部硬化性と加水分解型タンニンとの関連性については、詳細は不明であるが、加水分解型タンニンを含有する粘結剤組成物と、硬化剤とが混合されると、加水分解型タンニン中のエステルの加水分解反応が生じ、その反応水の分だけ硬化反応系から水分が消費されることにより外気に晒されていない鋳型の深部においても、脱水縮合反応である酸硬化性樹脂(特にフラン樹脂)の反応が促進されるためであると推察される。
【0022】
なお、上述した加水分解型タンニンは、前述のように天然材料から得ることができるため、たとえ石油資源が逼迫したとしても、優れた粘結剤組成物を安定して提供することができる。また、加水分解型タンニンは、フラン樹脂等の酸硬化性樹脂への溶解性が良好なため、粘結剤組成物を長期間保存した際の沈殿や濁りの発生を抑制することができる。これにより、鋳型製造の際、粘結剤組成物の自動供給設備において、粘結剤組成物の安定供給が可能となる。
【0023】
<エポキシシラン、メルカプトシラン及びウレイドシランから選ばれる1種以上のシランカップリング剤(C)>
本発明の粘結剤組成物は、エポキシシラン、メルカプトシラン及びウレイドシランから選ばれる1種以上のシランカップリング剤(C)を含む。本発明の特定シランカップリング剤(C)は鋳型強度を向上させる観点と、粘結剤組成物に沈殿を生じない観点から配合される。従来公知のアミノシランを加水分解型タンニンと併用すると、両者がゲル化を起こし、粘結剤組成物中での溶解度が低下し、沈殿が発生してしまう。
【0024】
エポキシシランとは、エポキシ基を含有しているシランカップリング剤である。更に、アミノ基を含有していないことが好ましい。具体的な例としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン及び3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。シランカップリング剤の反応性の観点から、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0025】
メルカプトシランとは、メルカプト基を含有しているシランカップリング剤である。更にアミノ基を含有していないことが好ましい。具体的な例としては、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン及び3−メルカプトプロピルトリメトキシシランが挙げられる。シランカップリング剤の反応性の観点から、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0026】
ウレイドシランとは、ウレイド基を含有しているシランカップリング剤である。更にアミノ基を含有していないことが好ましい。具体的な例としては、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルメチルジメトキシシラン及び3−ウレイドプロピルメチルジエトキシシランが挙げられる。シランカップリング剤の反応性の観点から、3-ウレイドプロピルトリエトキシシランがより好ましい。
【0027】
本発明の特定のシランカップリング剤(C)の粘結剤組成物中の含有量は、鋳型強度向上及びコストの観点から、0.01〜0.7重量%であることが好ましく、0.05〜0.5重量%であることがより好ましく、0.08〜0.3重量%であることが更に好ましい。
【0028】
本発明の特定のシランカップリング剤(C)の中でも、鋳型強度の観点からメルカプトシラン及びウレイドシランが好ましく、ウレイドシランがより好ましい。また、エポキシシラン、メルカプトシラン、ウレイドシランのうち、二種又は三種以上を選択し、上記含有量の範囲で併用しても構わない。
【0029】
<芳香族ジアルデヒド及びフェノール誘導体からなる群より選ばれる硬化促進剤(D)>
本発明の粘結剤組成物は、可使時間を長くし、かつ抜型時間を短くする観点、即ち、同じ可使時間の場合は抜型時間を短くすることができる観点から、硬化促進剤である芳香族ジアルデヒド及びフェノール誘導体からなる群より選ばれる硬化促進剤(D)〔以下、単に「硬化促進剤(D)」という〕を含むことが好ましい。粘結剤組成物中の硬化促進剤(D)の含有量は、可使時間を長くして抜型時間を短くする観点、即ち、同じ可使時間の場合は抜型時間を短くすることができる観点から、好ましくは0.1〜25重量%であり、より好ましくは0.5〜15重量%であり、更に好ましくは1〜10重量%である。なお、硬化促進剤(D)は、粘結剤組成物中に含まれるものに加えて、硬化促進剤としての第3成分として、混練砂に別添してもよい。
【0030】
酸硬化性樹脂(A)、加水分解型タンニン(B)及び硬化促進剤(D)が共存することにより、可使時間を長くし、かつ抜型時間を短くでき、即ち、同じ可使時間の場合は抜型時間を短くすることができ、更に鋳型の深部硬化性が向上し、その上、鋳型の割れが防止できる。明確な機構は不明ではあるが、芳香族ジアルデヒドのアルデヒド基又はフェノール誘導体の水酸基が架橋剤的に加水分解型タンニンに作用していると推測される。
【0031】
芳香族ジアルデヒドとしては、テレフタルアルデヒド、フタルアルデヒド及びイソフタルアルデヒド等並びにそれらの誘導体が挙げられる。それらの誘導体とは、基本骨格としての2つのホルミル基を有する芳香族化合物の芳香環にアルキル基等の置換基を有する化合物を意味する。可使時間を長くし、かつ抜型時間を短くする観点、即ち、同じ可使時間の場合は抜型時間を短くすることができる観点、及び鋳型の割れを防ぐ観点からテレフタルアルデヒド及びテレフタルアルデヒドの誘導体が好ましく、テレフタルアルデヒドがより好ましい。粘結剤組成物中の芳香族ジアルデヒドの含有量は、可使時間を長くして抜型時間を短くする観点、即ち、同じ可使時間の場合は抜型時間を短くすることができる観点、芳香族ジアルデヒドを酸硬化性樹脂に十分溶解させる観点及び芳香族ジアルデヒド自体の臭気を抑制する観点から、好ましくは0.1〜15重量%であり、より好ましくは0.5〜10重量%であり、更に好ましくは1〜5重量%である。
【0032】
フェノール誘導体としては、例えばレゾルシン、クレゾール、ヒドロキノン、フロログルシノール、メチレンビスフェノール等が挙げられる。なかでも、鋳型強度を向上させる観点から、レゾルシン、フロログルシノールが好ましく、レゾルシンがより好ましい。粘結剤組成物中のフェノール誘導体の含有量は、フェノール誘導体の酸硬化性樹脂への溶解性の観点及び鋳型強度を向上させる観点から、1.5〜25重量%であることが好ましく、2.0〜15重量%であることがより好ましく、3.0〜10重量%であることが更に好ましい。
【0033】
全硬化促進剤中の硬化促進剤(D)が占める割合は、鋳型強度の向上の観点から、50〜100重量%が好ましく、70〜100重量%がより好ましく、90〜100重量%が更に好ましく、実質上100重量%がより更に好ましい。
【0034】
<硬化促進剤(D)以外の硬化促進剤>
本発明の粘結剤組成物中には、上述した芳香族ジアルデヒド及びフェノール誘導体からなる群より選ばれる硬化促進剤(D)以外の硬化促進剤が含まれていてもよい。芳香族ジアルデヒド及びフェノール誘導体からなる群より選ばれる硬化促進剤(D)以外の硬化促進剤としては、鋳型強度を向上させる観点から、下記一般式(1)で表される化合物(以下、硬化促進剤(1)という)が好ましい。
【0035】
【化1】

〔式中、X1及びX2は、それぞれ水素原子、CH3又はC25の何れかを表す。〕
【0036】
硬化促進剤(1)としては、2,5−ビスヒドロキシメチルフラン、2,5−ビスメトキシメチルフラン、2,5−ビスエトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−メトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−エトキシメチルフラン及び2−メトキシメチル−5−エトキシメチルフランが挙げられる。中でも、鋳型強度を向上させる観点から、2,5−ビスヒドロキシメチルフランを使用するのが好ましい。2,5−ビスヒドロキシメチルフランは、2,5−ビスメトキシメチルフランや2,5−ビスエトキシメチルフランに比べて、反応性が高く、例えばフルフリルアルコールを主成分として含む粘結剤組成物の硬化反応を促進させることができるからである。粘結剤組成物中の硬化促進剤(1)の含有量は、溶解性の観点及び鋳型強度を向上させる観点から、0.5〜63重量%であることが好ましく、1.8〜50重量%であることがより好ましく、2.5〜50重量%であることが更に好ましく、3.0〜40重量%であることが更により好ましい。
【0037】
<水分>
本発明の粘結剤組成物中には、さらに水分が含まれてもよい。例えば、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物などの各種縮合物を合成する場合、水溶液状の原料を使用したり縮合水が生成したりするため、縮合物は、通常、水分との混合物の形態で得られるが、このような縮合物を粘結剤組成物に使用するにあたり、合成過程に由来するこれらの水分をあえて除去する必要はない。また、粘結剤組成物を取扱いやすい粘度に調整する目的などで、水分をさらに添加してもよい。ただし、水分が過剰になると、酸硬化性樹脂の硬化反応が阻害されるおそれがあるため、粘結剤組成物中の水分含有量は0.5〜30重量%の範囲とすることが好ましく、粘結剤組成物を扱いやすくする観点と硬化反応速度を維持する観点からより好ましくは1〜10重量%であり、更に、樹脂の沈殿を生じず、硬化速度を妨げない観点から、好ましくは1〜6重量%である。また、深部硬化性を向上させる観点から、10重量%以下が好ましく、樹脂の沈殿を生じず、硬化速度を妨げない観点から、5重量%以下とすることがより好ましい。
【0038】
<pH>
本発明の粘結剤組成物は、粘結剤組成物のpHが4〜9であっても、樹脂の沈殿が生じず、尿素を含有する樹脂の場合にも安定した粘結剤組成物を得ることができるので、樹脂のpHによる制限を受けることなく、汎用的に使用できるという利点がある。フラン樹脂は酸硬化性であることから、長期保存における樹脂の粘度上昇を防ぐ観点から、粘結剤組成物のpHは3以上が好ましく、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上である。一方、鋳型の硬化速度をより速くする観点からは、pHは9以下が好ましく、より好ましくは8以下、更に好ましくは7以下である。通常、pHは、粘結剤組成物の保存期間・保存温度と鋳型の硬化速度により適宜設定される。
【0039】
一方、加水分解型タンニン(B)との相互作用によってモノアミノシラン型やジアミノシラン型のシランカップリング剤は、配合後1日程度経過した時に、通常、粘結剤組成物中に沈殿が生じるが、特に、pHが高い領域では、沈殿発生量が多い。即ち、長期保存期間中の樹脂の粘度上昇を防ぐためにpHを高くすることが出来ない。この事は、加水分解型タンニンの反応性が高く、これを配合した粘結剤組成物は、長期保存時の粘度上昇率が高いことを考えると、粘度上昇の抑制と沈殿発生の抑制の両立ができないことを意味する。尚、pHは粘結剤組成物と等重量のイオン交換水を混合したときの混合溶液のpHを25℃にて、pHメーターを用いて測定されるものである。
【0040】
本発明の粘結剤組成物は、耐火性粒子、鋳型造型用粘結剤組成物及び硬化剤を含む混合物を硬化させる工程を有する鋳型の製造方法に好適である。即ち、本発明の鋳型の製造方法は、鋳型造型用粘結剤組成物として上記本発明の粘結剤組成物を使用する鋳型の製造方法である。
【0041】
本発明の鋳型の製造方法では、従来の鋳型の製造方法のプロセスをそのまま利用して鋳型を製造することができる。例えば、上記本発明の粘結剤組成物と、この粘結剤組成物を硬化させる硬化剤とを耐火性粒子に加え、これらをバッチミキサーや連続ミキサーなどで混練することによって、上記混合物(混練砂)を得ることができる。
【0042】
耐火性粒子としては、ケイ砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、ムライト砂、合成ムライト砂等の従来公知のものを使用でき、また、使用済みの耐火性粒子を回収したものや再生処理したものなども使用できる。
【0043】
硬化剤としては、キシレンスルホン酸(特にm−キシレンスルホン酸)及びトルエンスルホン酸(特にp−トルエンスルホン酸)等のスルホン酸系化合物、リン酸系化合物、硫酸等を含む酸性水溶液など、従来公知のものを1種以上使用できる。更に、硬化剤中にアルコール類、エーテルアルコール類及びエステル類よりなる群から選ばれる1種以上の溶剤や、カルボン酸類を含有させることができる。これらの中でも、鋳型の深部硬化性の向上や、鋳型強度の向上を図る観点から、アルコール類、エーテルアルコール類が好ましく、エーテルアルコール類がより好ましい。また、上記溶剤やカルボン酸類を含有させると、硬化剤中の水分量が低減されるため、鋳型の深部硬化性が更に良好になると共に、鋳型強度が更に向上する。前記溶剤や前記カルボン酸類の硬化剤中の含有量は、鋳型強度向上の観点から、5〜50重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることがより好ましい。また、硬化剤の粘度を低減させる観点からは、メタノール、エタノールを含有させることができる。
【0044】
鋳型の深部硬化性の向上や、鋳型強度の向上を図る観点から、前記アルコール類としては、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ベンジルアルコールが好ましく、エーテルアルコール類としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルが好ましく、エステル類としては、酢酸ブチル、安息香酸ブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが好ましく、カルボン酸類としては、強度向上及び臭気低減の観点から、水酸基を持つカルボン酸が好ましく、乳酸、クエン酸、リンゴ酸がより好ましい。
【0045】
混練砂における耐火性粒子と粘結剤組成物と硬化剤との比率は適宜設定できるが、耐火性粒子100重量部に対して、粘結剤組成物が0.5〜1.5重量部で、硬化剤が0.07〜1重量部の範囲が好ましい。このような比率であると、十分な強度の鋳型が得られやすい。更に、硬化剤の含有量は、鋳型に含まれる水分量を極力少なくし、鋳型の深部硬化性を向上させる観点と、ミキサーでの混合効率の観点から、粘結剤組成物中の酸硬化性樹脂100重量部に対して10〜40重量部であることが好ましく、15〜35重量部であることがより好ましく、18〜25重量部であることが更に好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を具体的に示す実施例等について説明する。なお、実施例等における評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0047】
<粘結剤組成物及び縮合物の窒素含有量>
JIS M 8813に示されるケルダール法にて測定を行った。
【0048】
<粘結剤組成物の水分含有量>
京都電子工業社製カールフィッシャー水分測定器(MKS−510N)を用いて、カールフィッシャー法により水分含有量を測定した。滴定試薬にはハイドラナールコンポジット5(リーデル・デハーン社製)を用いた。また、脱水溶剤にはMS(三菱化成社製)を用いた。
【0049】
<粘結剤組成物のpH>
粘結剤組成物中のpHは、水酸化ナトリウム水溶液及びシュウ酸水溶液で、表1に示した値に調整した。測定方法は、粘結剤組成物と等重量のイオン交換水を混合して、25℃にてpHメーターにて測定した。
【0050】
<保存安定性(配合1日後の外観)>
各成分を配合して作製した、下記実施例及び比較例の粘結剤組成物を20mlの透明のガラス製試薬瓶に入れて密栓をして、25℃、55%RHに保存し、配合1日後に外観を目視で確認し、以下の基準(a〜c)で評価した。
a:全く変化がなく、透明である。
b:わずかに沈殿がみられる。
c:沈殿がみられる。
【0051】
<鋳型強度(圧縮強度)>
混練直後の混練砂を直径50mm、高さ50mmの円柱形状のテストピース枠に充填した。充填後1時間経過した時に抜型を行い、一部をJIS Z 2604−1976に記載された方法で、圧縮強度(MPa)を測定した。また、残りを抜型後、25℃、55%RHの条件下で24時間放置した後、同様に圧縮強度(MPa)を測定した。
【0052】
(実施例1〜9及び比較例1〜8)
25℃、55%RHの条件下で、フラン再生砂100重量部に対し、0.32重量部の硬化剤(m−キシレンスルホン酸の53重量%水溶液)を加え、次いで表1に示す粘結剤組成物0.9重量部を添加し、これらを混合して混練砂を得た。なお、上記フラン再生砂としては、空気中、1000℃で1時間加熱したときの重量減少率(LOI)が1.0重量%のものを用いた。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表1及び表2に示すように、実施例1〜9は、何れの評価項目についても良好な結果が得られた。一方、比較例1〜8は、少なくとも1つの評価項目について、実施例1〜9に比べて顕著に劣る結果であった。即ち、シランカップリング剤がない場合は鋳型強度が悪く、フェニル型やビニル型のシランカップリング剤は満足できる鋳型強度に達成できなかった。一方、モノアミノシラン型やジアミノシラン型のシランカップリング剤は鋳型強度は満足するものの、沈殿が生じ、粘結剤組成物としては致命的な欠陥を生じた。この結果から、本発明によれば、鋳型強度に優れ、樹脂の沈殿が発生せず保存安定性に優れる鋳型造型用粘結剤組成物を提供できることが確認された。更に、フラン樹脂の長期保存における粘度上昇を防止すべく、pHを7(中性)に調整した場合、本発明においては、実施例7に示す通り、粘結剤組成物中に沈殿が生じないのに対して、比較例7のように、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランを用いた場合においては、pH7において沈殿が発生した。即ち、樹脂の配合設計上、自由度が低下している。また、粘結剤組成物中の水分量を増やすと、アミノシランを用いた場合においては、比較例8のように沈殿の発生の程度が低減するが、皆無になる程ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸硬化性樹脂(A)、加水分解型タンニン(B)並びにエポキシシラン、メルカプトシラン及びウレイドシランから選ばれる1種以上のシランカップリング剤(C)を含有する鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項2】
酸硬化性樹脂(A)が、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フェノール類とアルデヒド類の縮合物、メラミンとアルデヒド類の縮合物、及び尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種以上、又は前記群から選ばれる2種以上の共縮合物からなる請求項1記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項3】
更に、芳香族ジアルデヒド及びフェノール誘導体からなる群より選ばれる硬化促進剤(D)を含有する請求項1又は2記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項4】
水分含有量が1〜6重量%である請求項1〜3の何れか1項記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項5】
耐火性粒子、鋳型造型用粘結剤組成物及び硬化剤を含む混合物を硬化させる工程を有する鋳型の製造方法であって、
前記鋳型造型用粘結剤組成物が、請求項1〜4の何れか1項記載の鋳型造型用粘結剤組成物である、鋳型の製造方法。

【公開番号】特開2011−62729(P2011−62729A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215753(P2009−215753)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】