説明

鋳片支持ロールユニット、連続鋳造装置及び連続鋳造方法

【課題】鋳片支持ロールの引抜方向へのたわみ変形を防止することができ、鋳片支持ロールの寿命延長および鋳片の品質向上を図ることができる鋳片支持ロールユニットを提供する。
【解決手段】鋳片に接触して支持する鋳片支持ロール31と、この鋳片支持ロール31を支持するバックアップロール40と、を備え、バックアップロール40は、鋳片支持ロール31の軸方向において3つ以上に分割されており、少なくとも一つの前記バックアップロールは、前記鋳片支持ロールに対して前記鋳片の引抜方向下流側に配設されており、前記鋳片支持ロールの中心軸に直交する断面において、前記鋳片支持ロールの中心軸と前記鋳片支持ロールに対して前記鋳片の引抜方向下流側に配設された前記バックアップロールの中心軸とを結んだ直線の鉛直方向に対する角度θが、0.23°≦θ≦5°の範囲内に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型から引き抜かれる鋳片を支持する鋳片支持ロールユニット、この鋳片支持ロールユニットを備えた連続鋳造装置及びこの鋳片支持ロールユニットを用いた連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、鋼の連続鋳造においては、鋳型内に注入された溶鋼が冷却手段によって冷却されることにより、凝固シェルが成長していき、鋳型の下方から鋳片が引き抜かれる。ここで、鋳型から引き抜かれる鋳片は、鋳型から出た時点では完全に凝固しておらず内部に未凝固部を有している。このため、鋳型内の溶鋼の静圧によって鋳片が膨らむように変形するいわゆるバルジング変形を起こすおそれがある。
【0003】
このバルジング変形を抑制するために、鋳型から引き抜かれる鋳片の長辺面に接触して前述の静圧を受ける鋳片支持ロールを設けた連続鋳造装置が提案されている。ここで、鋳片の長辺面を確実に支持するためには、鋳片支持ロールの間隔を狭くすることが有効である。しかしながら、ロール間隔を狭くするためには、鋳片支持ロールのロール径を小さくする必要がある。すると、ロール径に対してロール軸方向長さが相対的に長くなってしまい、鋳片支持ロールの剛性を確保できなくなる。このため、鋳片支持ロールが圧下方向にたわむように変形していまい、バルジング変形を抑制することができなくなるおそれがあった。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、鋳片支持ロールを軸方向(鋳片の幅方向)に分割した分割ロールとした連続鋳造装置が提案されている。鋳片支持ロールを分割ロールとすることにより、ロール径に対するロール軸方向長さが短くなり、ロール径を小さくしても鋳片支持ロールの剛性を確保することが可能となる。
しかしながら、鋳片の幅方向に隣接する分割ロールの間には、分割ロールを軸支する軸受部が配設されることになる。この軸受部においては、鋳片の長辺面を支持することができなくなり、この軸受部においてバルジング変形が発生するおそれがある。バルジング変形が発生した箇所を、その後、他の分割ロールで押圧したとしてもバルジング変形を十分に矯正することはできなかった。
【0005】
また、特許文献2においては、鋳片の長辺面に接触される鋳片支持ロールと、この鋳片支持ロールを支持するバックアップロールと、を備えたものが提案されている。この場合、鋳片支持ロールが軸方向に分割されていないため、鋳片の幅方向の一部においてバルジング変形が発生することを抑制することが可能となる。また、バックアップロールによって圧下反力を受けることができるため、ロール径に対してロール軸方向長さが相対的に長くなっても、鋳片支持ロールの圧下方向のたわみ変形を抑制することが可能となる。なお、鋳片支持ロールを支持するバックアップロールは、圧下反力を受けるために、鋳片支持ロールの中心軸とバックアップロールの中心軸が圧下方向の延長上に位置するように配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−083279号公報
【特許文献2】特開平11−291007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、鋳片は、鋳片支持ロールに接触しながら引き抜かれていくことから、鋳片支持ロールには鋳片の引抜方向への力(引抜抵抗)が作用することになる。特に、鋳片支持ロールによって鋳片の圧下を行う場合には、上述の引抜抵抗が大きくなる。このため、鋳片支持ロールにおいては、鋳片の引抜方向にたわむように変形するおそれがあった。特に、特許文献2に記載されたように、ロール径に対してロール軸方向長さが相対的に長く鋳片支持ロールの剛性が低い場合には、ロールの引抜方向へのたわみ変形が顕著になる。このように、鋳片支持ロールがたわみ変形した場合には、鋳片支持ロールの寿命が短くなるといった問題があった。また、鋳片支持ロールによって十分な圧下を行うことができず、鋳片の品質低下を招くおそれがあった。さらに、鋳片支持ロールがたわみ変形することによって回転が不能となるため、鋳片と鋳片支持ロールとが摺動して鋳片の表面に傷が発生するおそれがあった。
【0008】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、鋳片支持ロールの引抜方向へのたわみ変形を防止することができ、鋳片支持ロールの寿命延長および鋳片の品質向上を図ることができる鋳片支持ロールユニット、この鋳片支持ロールユニットを備えた連続鋳造装置、及び、この鋳片支持ロールユニットを用いた連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る鋳片支持ロールユニットは、鋳型から引き抜かれる鋳片を支持する鋳片支持ロールユニットであって、前記鋳片に接触して支持する上下一対の鋳片支持ロールと、この鋳片支持ロールを支持するバックアップロールと、を備え、前記バックアップロールは、前記鋳片支持ロールの軸方向において3つ以上に分割されており、少なくとも一つの前記バックアップロールは、前記鋳片支持ロールに対して前記鋳片の引抜方向下流側に配設されており、前記鋳片支持ロールの中心軸に直交する断面において、前記鋳片支持ロールの中心軸と前記鋳片支持ロールに対して前記鋳片の引抜方向下流側に配設された前記バックアップロールの中心軸とを結んだ直線の鉛直方向に対する角度θが、0.23°≦θ≦5°の範囲内に設定されていることを特徴としている。
【0010】
本発明においては、少なくとも一つの前記バックアップロールを前記鋳片支持ロールに対して前記鋳片の引抜方向下流側に配設しているので、鋳片の引抜抵抗を、引抜方向下流側に配設されたバックアップロールで受けることができ、鋳片支持ロールの引抜方向へのたわみ変形を抑制することができる。
ここで、前記鋳片支持ロールの中心軸に直交する断面において、前記鋳片支持ロールの中心軸と前記鋳片支持ロールに対して前記鋳片の引抜方向下流側に配設された前記バックアップロールの中心軸とを結んだ直線の鉛直方向に対する角度θを、0.23°≦θ≦5°の範囲内に設定している。
鋳片支持ロールに対して鉛直方向に圧下荷重Fが作用する場合、前記鋳片支持ロールに対して前記鋳片の引抜方向下流側に配設された前記バックアップロールの軸受部には、鉛直方向に作用する圧下荷重Fと水平方向への荷重の合力であるF/cosθの荷重が作用することになる。ここで、前記角度θを、θ≦5°としているので、前記バックアップロールの軸受部に作用する荷重が過大となることを抑制でき、前記バックアップロールの軸受部の寿命延長を図ることが可能となる。
また、前記角度θを、θ≧0.23°としているので、前記バックアップロールによって確実に引抜抵抗を受けることができ、鋳片支持ロールの引抜方向へのたわみ変形を抑制することが可能となる。
【0011】
本発明において、前記鋳片支持ロールの軸方向の全長を2Lとした場合に、前記鋳片支持ロールの端部と端部からL/2の位置の間の領域に位置する少なくとも一つの前記バックアップロールが、前記鋳片の引抜方向下流側に配設されていることが好ましい。
鋳型から引き抜かれる鋳片は、上述のように内部に未凝固部が存在する。すなわち、鋳片の幅方向中央領域に未凝固部が存在しており、鋳片の幅方向端部は完全凝固している。このため、鋳片の幅方向両端領域においては、引抜抵抗が比較的大きくなる。
そこで、上述のように、前記鋳片支持ロールの軸方向両端領域に位置するそれぞれ少なくとも一つのバックアップロールを前記鋳片の引抜方向下流側に配設することにより、引抜抵抗を確実にバックアップロールで受けることができ、鋳片支持ロールの引抜方向へのたわみ変形を防止することができる。
【0012】
また、前記鋳片の引抜方向下流側に配設されたバックアップロール以外のバックアップロールの少なくとも一つが、前記鋳片支持ロールに対して前記鋳片の引抜方向上流側に配設されていることが好ましい。
操業状況によって鋳造速度(鋳片の引抜速度)が変更される場合には、鋳片支持ロールに作用する引抜抵抗も変動することになる。よって、鋳片支持ロールの引抜方向へのたわみ量が変動し、鋳片支持ロールに振れが生じることになる。
本発明においては、分割された複数のバックアップロールにより、鋳片支持ロールを引抜方向の上流側及び下流側から支持することができるので、上述の鋳片支持ロールの振れを防止できる。
【0013】
また、前記バックアップロールは、前記鋳片支持ロールの軸方向の全長の2等分線を中心に対称に配置されていることが好ましい。
この場合、鋳片を幅方向で対称に圧下することができる。また、対称に配置されたバックアップロール同士は、それぞれ交換可能であることから、予備品等を削減することができる。
【0014】
本発明の連続鋳造装置は、鋳型と、上述の鋳片支持ロールユニットと、を備えたことを特徴としている。
この構成の連続鋳造装置によれば、鋳片支持ロールの引抜方向へのたわみ変形を防止することができ、鋳片支持ロールによって鋳片を十分に圧下することが可能となる。よって、バルジング変形のない高品質な鋳片を製出することができる。
【0015】
本発明の連続鋳造方法は、上述の鋳片支持ロールユニットを用いた連続鋳造方法であって、鋳片の引抜方向下流側に配設されたバックアップロールを用いて、前記鋳片を圧下することを特徴としている。
この構成の連続鋳造方法によれば、鋳片の引抜方向下流側に配設されたバックアップロールによって、鋳片支持ロールの引抜方向へのたわみ変形を確実に防止でき、高品質な鋳片を製出することができる。
【発明の効果】
【0016】
上述のように、本発明によれば、鋳片支持ロールの引抜方向へのたわみ変形を防止することができ、鋳片支持ロールの寿命延長および鋳片の品質向上を図ることができる鋳片支持ロールユニット、この鋳片支持ロールユニットを備えた連続鋳造装置、及び、この鋳片支持ロールユニットを用いた連続鋳造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態である連続鋳造装置の概略説明図である。
【図2】本発明の実施形態である鋳片支持ロールユニットを引抜方向下流側から視た説明図である。
【図3】図2に示す鋳片支持ロールユニットの上面説明図である。
【図4】図2に示す鋳片支持ロールユニットの側面説明図である。
【図5】本発明の他の実施形態である鋳片支持ロールユニットの上面説明図である。
【図6】本発明の他の実施形態である鋳片支持ロールユニットの上面説明図である。
【図7】本発明の他の実施形態である鋳片支持ロールユニットの上面説明図である。
【図8】実施例における引抜抵抗の鋳片幅方向分布を示す説明図である。
【図9】実施例1のバックアップロールの配置を示す上面図である。
【図10】実施例2例のバックアップロールの配置を示す上面図である。
【図11】比較例1のバックアップロールの配置を示す上面図である。
【図12】比較例2例のバックアップロールの配置を示す上面図である。
【図13】実施例の評価結果を示すグラフである。
【図14】バックアップロールの軸受に作用する荷重の説明図である。
【図15】鋳片支持ロールとバックアップロールの中心軸ずれ量(角度)と軸受荷重、軸受寿命との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態である鋳片支持ロールユニット、連続鋳造装置及び連続鋳造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
図1に示す連続鋳造装置10は、水冷鋳型11と、この水冷鋳型11の下方に位置する複数の鋳片支持ロール31からなる鋳片支持ロール群20と、を備えており、水冷鋳型11から引き抜かれた鋳片1を下方へと引き抜く垂直帯14と、鋳片1を湾曲させる湾曲帯15と、湾曲させた鋳片1を曲げ戻す矯正帯16と、鋳片1を水平方向へ搬送する水平帯17と、を有する垂直曲げ型連続鋳造機とされている。
【0020】
水冷鋳型11は、矩形孔を有する筒状をなしており、この矩形孔の形状に合わせた断面の鋳片1が引き抜かれることになる。例えば、この矩形孔の長辺長さ(鋳片1の幅に相当)は700〜2300mmとされ、矩形孔の短辺長さ(鋳片1の厚さに相当)は150〜400mmとされているものが例示できるが、これに限定されるものではない。
また、この水冷鋳型11には、矩形孔内の溶鋼を冷却するための1次冷却手段(図示なし)が備えられている。
【0021】
鋳片支持ロール群20は、垂直帯14に位置するピンチロール部24と、湾曲帯15に位置するベンディングロール部25と、矯正帯16に位置する矯正ロール部26と、水平帯17に位置する水平ロール部27と、を備えている。
ここで、これらの鋳片支持ロール31は、鋳片1の幅方向に延在しており、鋳片1の長辺面を支持する構成とされている。
また、鋳片1の引抜方向Zに間隔を開けて配列された複数の鋳片支持ロール31の間には、2次冷却手段として、鋳片1の長辺面に向けて冷却水を噴出するスプレーノズル(図示なし)が配設されている。
【0022】
次に、鋳片支持ロール群20を構成する鋳片支持ロールユニット30について説明する。図2から図4に示す鋳片支持ロールユニット30は、上述の水平帯17に位置する水平ロール部27を構成するものである。
この鋳片支持ロールユニット30は、鋳片1の長辺面に接触する鋳片支持ロール31と、この鋳片支持ロール31を支持するバックアップロール40と、を備えている。
【0023】
図2に示すように、鋳片支持ロール31は、そのロール軸方向長さが鋳片1の長辺幅よりも長く設定されている。また、鋳片支持ロール31は、その両端が軸受部37によって軸支されており、中心軸Oを中心に回転自在とされている。
【0024】
バックアップロール40は、図2に示すように、鋳片支持ロール31の軸方向(鋳片1の幅方向)において分割されており、本実施形態では、第1バックアップロール41、第2バックアップロール42、第3バックアップロール43の3つに分割されている。なお、本実施形態では、図3に示すように、鋳片支持ロール31の軸方向両端領域に位置する第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43は、鋳片支持ロール31の両端領域に位置させられている。ここで、鋳片支持ロール31の両端領域とは、鋳片支持ロール31の軸方向の全長を2Lとした場合に、鋳片支持ロールの端部と端部からL/2の位置の間の領域である。
これらの第1バックアップロール41、第2バックアップロール42、第3バックアップロール43は、その両端が軸支部38によって軸支されており、それぞれ中心軸Ob1、Ob2、Ob3を中心に回転自在とされている。
なお、図4に示すように、1本の鋳片支持ロール31に対して、一組のバックアップロール40(第1バックアップロール41、第2バックアップロール42、第3バックアップロール43)がそれぞれ配置されている。
【0025】
また、本実施形態では、図2及び図3に示すように、これら第1バックアップロール41、第2バックアップロール42、第3バックアップロール43は、鋳片支持ロール31のロール軸方向長さの2等分線Cを中心に対称に配置されていることが好ましい。すなわち、第1バックアップロール41と第3バックアップロール43は、そのロール径、ロール軸方向長さが同一とされているのである。本実施形態では、第1バックアップロール41、第2バックアップロール42及び第3バックアップロール43のロール径が同一とされている。なお、第1バックアップロール41、第2バックアップロール42及び第3バックアップロール43のロール軸方向長さが異なっていてもよい。
【0026】
ここで、図3及び図4に示すように、鋳片支持ロール31の軸方向両端領域(鋳片1の幅方向両端領域)に位置する第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43は、鋳片支持ロール31に対して鋳片1の引抜方向Z下流側に配設されている。
図3に示すように、これら第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43は、鋳片支持ロール31の軸方向の全長を2Lとした場合に、鋳片支持ロール31の端部からL/2の領域に、少なくとも一部がそれぞれ位置されている。
【0027】
また、図3及び図4に示すように、鋳片支持ロール31の軸方向中央領域(鋳片1の幅方向中央領域)に位置する第2バックアップロール42は、鋳片支持ロール31に対して鋳片1の引抜方向Z上流側に配設されている。
すなわち、第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43と、第2バックアップロール42と、によって、鋳片支持ロール31を引抜方向Zで挟持しているのである。
【0028】
ここで、図4に示すように、鋳片支持ロール31の中心軸Oに直交する断面において、鋳片支持ロール31の中心軸Oと第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43の中心軸Ob1、Ob3とを結んだ直線と、圧下方向(鉛直方向)と、が成す角度θは、0.23°≦θ≦5°の範囲内に設定されている。
また、鋳片支持ロール31の中心軸Oと第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43の中心軸Ob1,Ob3との引抜方向Zのずれ量Xは、sin0.23°×(R+R)≦X≦sin5°×(R+R)の範囲内とされている。なお、Rは鋳片支持ロール31の半径であり、Rはバックアップロール40の半径である。
ここで、前記角度θが0.23°より小さく、ずれ量Xがsin0.23°×(R+R)より小さい場合には、鋳片支持ロール31に加わる引抜抵抗を、第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43に確実に伝達できず、鋳片支持ロール31の引抜方向Zへのたわみ変形を確実に防止することができない。一方、前記角度θが5°より大きく、ずれ量Xがsin5°×(R+R)より大きい場合には、第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43の軸受部に負荷される荷重が大幅に増加してしまうおそれがある。
【0029】
なお、本実施形態では、鋳片支持ロール31の引抜方向Z上流側に配設された第2バックアップロール42についても、鋳片支持ロール31の中心軸Oに直交する断面において、鋳片支持ロール31の中心軸Oと第2バックアップロール42の中心軸Ob2とを結んだ直線と、圧下方向(鉛直方向)と、が成す角度θ´は0.23°≦θ´≦5°の範囲内に設定されており、鋳片支持ロール31の中心軸Oと第2バックアップロール42の中心軸Ob2との引抜方向Zのずれ量X´がsin0.23°×(R+R)≦X´≦sin5°×(R+R)の範囲内とされている。
【0030】
このような構成とされた連続鋳造装置10においては、水冷鋳型11内に挿入された浸漬ノズル12を介して水冷鋳型11内に溶鋼が注入され、この溶鋼が水冷鋳型11の1次冷却手段によって冷却されることにより、凝固シェル2が成長し、水冷鋳型11の下方から鋳片1が引き抜かれる。このとき図1及び図2に示すように、鋳片1の内部には、未凝固部3が存在している。
この鋳片1は、図1に示すように、ピンチロール部24によって下方に向けて引き抜かれるとともにベンディングロール部25によって湾曲させられる。そして、矯正ロール部26によって曲げ戻され、水平ロール部27によって水平方向に搬送されることになる。
【0031】
このとき、ピンチロール部24、ベンディングロール部25、矯正ロール部26等の鋳片支持ロール31間に設けられたスプレーノズルから冷却水が鋳片1に向けて噴出され、鋳片1が冷却されて凝固シェル2がさらに成長していく。
そして、鋳片1が水平方向に引き出される水平帯17の後段側において、鋳片1が完全に凝固することになる。なお、水平帯17の水平ロール部27においては、中心偏析を軽減するために軽圧下が実施される。
【0032】
このとき、水平ロール部27を構成する鋳片支持ロール31には、圧下反力によって圧下方向(本実施形態では鉛直方向)への力が作用することになる。また、鋳片支持ロール31には、鋳片1が引抜方向Z側へと移動する際の引抜抵抗によって引抜方向Z(本実施形態では水平方向)への力が作用することになる。
また、鋳片1の幅方向両端領域においては、内部に未凝固部3が存在する鋳片1の幅方向中央領域に比べて、上述の引抜抵抗が大きくなる。
【0033】
ここで、上述のような構成とされた本実施形態においては、第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43が、鋳片支持ロール31に対して鋳片1の引抜方向Z下流側に配設されているので、引抜抵抗をこれら第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43で受けることができ、鋳片支持ロール31の引抜方向Zへのたわみ変形を抑制することができる。
このように、鋳片支持ロール31の引抜方向Zへのたわみ変形を抑制することができることから、鋳片支持ロール31によって鋳片1を十分に圧下することが可能となる。よって、バルジング変形のない高品質な鋳片1を製出することができる。また、鋳片支持ロール31の寿命延長を図ることができる。
【0034】
特に、本実施形態では、第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43が、鋳片支持ロール31の全長を2Lとした場合に、鋳片支持ロール31の端部からL/2の領域にそれぞれ位置しているので、鋳片1の幅方向両端領域の引抜抵抗を確実に第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43で受けることができ、鋳片支持ロール31の引抜方向Zへのたわみ変形を確実に抑制することができる。
【0035】
また、鋳片支持ロール31の軸方向中央領域(鋳片1の幅方向中央領域)に配設された第2バックアップロール42が、鋳片支持ロール31に対して鋳片1の引抜方向Z上流側に配設されているので、鋳片支持ロール31を引抜方向Zの上流側及び下流側からそれぞれ支持することができる。これにより、鋳造速度(鋳片1の引抜速度)が変化した場合であっても、鋳片支持ロール31に振れが生じることを防止できる。なお、鋳片1の幅方向中央領域では、上述のように、未凝固部3が存在していて引抜抵抗が比較的小さいことから、第2バックアップロール42を鋳片1の引抜方向Z上流側に配設しても、鋳片支持ロール31の引抜方向Zへのたわみ変形に大きな影響はない。
【0036】
さらに、鋳片支持ロール31の引抜方向Z下流側に配設された第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43は、鋳片支持ロール31の中心軸Oに直交する断面において、鋳片支持ロール31の中心軸Oと第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43の中心軸Ob1、Ob3とを結んだ直線と、圧下方向(本実施形態では鉛直方向)とが成す角度θが、0.23°≦θ≦5°の範囲内に設定されており、鋳片支持ロール31の中心軸Oと第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43の中心軸Ob1,Ob3との引抜方向Zのずれ量Xが、sin0.23°×(R+R)≦X≦sin5°×(R+R)の範囲内とされているので、鋳片支持ロール31に加わる引抜抵抗を、第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43に確実に伝達することができ、鋳片支持ロール31の引抜方向Zへのたわみ変形を確実に防止することができるとともに、第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43の軸受部に負荷される荷重が大幅に増加することを抑制でき、第1バックアップロール41及び第3バックアップロール43の軸受部の寿命延長を図ることができる。
【0037】
さらに、本実施形態では、鋳片支持ロール31の引抜方向Z上流側に配設された第2バックアップロール42についても、鋳片支持ロール31の中心軸Oに直交する断面において、鋳片支持ロール31の中心軸Oと第2バックアップロール42の中心軸Ob2とを結んだ直線と、圧下方向(鉛直方向)と、が成す角度θ´は0.23°≦θ´≦5°の範囲内に設定されており、鋳片支持ロール31の中心軸Oと第2バックアップロール42の中心軸Ob2との引抜方向Zのずれ量X´がsin0.23°×(R+R)≦X´≦sin5°×(R+R)の範囲内とされているので、鋳片支持ロール31の引抜方向Zにおける振れを確実に防止することができるとともに、この第2バックアップロール42の軸受部の寿命延長を図ることができる。
【0038】
また、本実施形態では、第1バックアップロール41、第2バックアップロール42、第3バックアップロール43が、鋳片支持ロール31のロール軸方向長さの2等分線Cを中心に対称に配置されているので、鋳片1を幅方向で対称に圧下することができる。また、第1バックアップロール41と第3バックアップロール43は、そのロール径、ロール軸方向長さが同一とされているので、これらを交換して使用可能である。よって、予備品等の点数を削減することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態である鋳片支持ロールユニット、連続鋳造装置及び連続鋳造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、3つのバックアップロールを備えたものとして説明したが、これに限定されることはなく、図5に示すように、4つのバックアップロール141、142、143、144を備えた鋳片支持ロールユニット130であってもよい。
【0040】
さらに、本実施形態では、鋳片支持ロールの軸方向中央領域(鋳片の幅方向中央領域)に位置する第2バックアップロールを鋳片支持ロールの引抜方向Z上流側に配設するものとして説明したが、これに限定されることはなく、図6に示す鋳片支持ロールユニット230のように、鋳片支持ロールの軸方向中央領域(鋳片の幅方向中央領域)に位置するバックアップロール242については、引抜方向Zにおいて鋳片支持ロール231の中心軸とバックアップロール242の中心軸とが同一位置となるように配設されていてもよい。この場合には、圧下方向の荷重をこのバックアップロール242で確実に受けることができ、鋳片支持ロール231の圧下方向のたわみ変形を確実に防止することが可能となる。
【0041】
また、図7に示すように、鋳片支持ロール331の最も軸方向端部に配設されたバックアップロール340(第1バックアップロール341、第4バックアップロール344)以外であっても、少なくとも一つのバックアップロール340が鋳片支持ロール331の引抜方向Z下流側に配設されていればよい。さらに、鋳片支持ロール331の軸方向両端領域(鋳片の幅方向両端領域)に位置するそれぞれ少なくとも一つのバックアップロール340(第2バックアップロール342、第3バックアップロール343)が、鋳片支持ロール331の引抜方向Z下流側に配設されていることが好ましい。
なお、図7に示す鋳片支持ロールユニット330においては、鋳片支持ロール331の全長を2Lとした場合に、鋳片支持ロール331の端部からL/2の領域にロールの一部が配置された第2バックアップロール342、第3バックアップロール343が、鋳片支持ロール331の引抜方向Z下流側に配設されている。
【実施例】
【0042】
ここで、本発明の効果を確認すべく、鋳片支持ロールの引抜抵抗によるたわみ量を有限要素法解析によって算出した結果について説明する。
鋳片幅方向の引抜抵抗分布の一例を図8に示す。なお、図8の縦軸は、未凝固部の溶鋼静圧による引抜抵抗を1として相対評価したものである。
厚さ300mm×幅2200mmの断面の鋳片を鋳片支持ロール1本当たり0.6mm圧下した場合には、鋳片幅方向端部から150mmの範囲の平均引抜抵抗は、未凝固部の溶鋼静圧による引抜抵抗の約2.3倍程度となる。
【0043】
ここで、図9、図10、図11、図12に示すように、鋳片支持ロールの軸方向長さを2Lとし、バックアップロールの軸方向長さを2L/5とした。なお、鋳片支持ロールの引抜方向下流側以外に配設されたバックアップロールは、引抜抵抗によるたわみ変形に大きな影響がないことから省略して計算した。
また、バックアップロール、鋳片支持ロールの直径はそれぞれ250mmとした。
【0044】
実施例1においては、図9に示すように、鋳片支持ロールの軸方向の全長を2Lとした場合に、前記鋳片支持ロールの端部と端部からL/2の位置の間の領域にバックアップロールを配設した。具体的には、鋳片支持ロールの軸方向長さ中心C1とバックアップロールの軸方向長さ中心C2との距離が3L/4となるように、バックアップロールをそれぞれ配置した。2つのバックアップロールは鋳片支持ロールの引抜方向下流側に配置し、バックアップロールと鋳片支持ロールを結ぶ直線が鉛直方向に対して、0.23°の角度を持つように配置した。
【0045】
実施例2においては、図10に示すように、鋳片支持ロールの軸方向の全長を2Lとした場合に、前記鋳片支持ロールの端部からL/2を超える領域にバックアップロールを配設した。具体的には、鋳片支持ロールの軸方向長さ中心C1とバックアップロールの軸方向長さ中心C2との距離がL/4となるように、バックアップロールをそれぞれ配置した。2つのバックアップロールは鋳片支持ロールの引抜方向下流側に配置し、バックアップロール中心と鋳片支持ロール中心を結ぶ直線が鉛直方向に対して、0.23°の角度を持つように配置した。
【0046】
比較例1においては、図11に示すように、鋳片支持ロールの軸方向の全長を2Lとした場合に、前記鋳片支持ロールの端部と端部からL/2の位置の間の領域にバックアップロールを配設した。具体的には、鋳片支持ロールの軸方向長さ中心C1とバックアップロールの軸方向長さ中心C2との距離が3L/4となるように、バックアップロールをそれぞれ配置した。2つのバックアップロールの中心軸は鋳片支持ロールの中心軸と同じ位置になるように配置した。
【0047】
比較例2においては、図12に示すように、鋳片支持ロールの軸方向の全長を2Lとした場合に、前記鋳片支持ロールの端部と端部からL/2の位置の間の領域にバックアップロールを配設した。具体的には、鋳片支持ロールの軸方向長さ中心C1とバックアップロールの軸方向長さ中心C2との距離が3L/4となるように、バックアップロールをそれぞれ配置した。2つのバックアップロールは鋳片支持ロールの引抜方向下流側に配置し、バックアップロールと鋳片支持ロールを結ぶ直線が鉛直方向に対して、0.2°の角度を持つように配置した。
【0048】
計算結果を図13に示す。なお、図13の縦軸は、実施例2の最大たわみを1として相対評価したものである。
比較例1においては、引抜抵抗をバックアップロールで受けることができず、鋳片支持ロールのたわみ変形を抑制できなかった。
比較例2おいては、鋳片支持ロールが鋳片とバックアップロールに挟み込まれ、断面方向に圧縮されることで、鋳片支持ロールがバックアップロールを乗り越えて、鋳造方向下流側に変形してしまい、引抜抵抗をバックアップロールで受けることができず、鋳片支持ロールのたわみ変形を抑制できなかった。
【0049】
これに対して、実施例2においては、バックアップロールを鋳片支持ロールの下流側に配置し、バックアップロール中心と鋳片支持ロール中心を結ぶ直線が鉛直方向に対して、0.23°の角度を持つように配置したことにより、引抜抵抗をバックアップロールで受けることができ、鋳片支持ロールのたわみ変形を抑制可能であることが確認された。
さらに、実施例1においては、引抜抵抗が大きい鋳片の幅方向両端領域においてバックアップロールを鋳片支持ロールの下流側に配置し、バックアップロール中心と鋳片支持ロール中心を結ぶ直線が鉛直方向に対して、0.23°の角度を持つように配置したことにより、引抜抵抗をバックアップロールで受けることができ、鋳片支持ロールのたわみ変形をさらに抑制可能であることが確認された。
【0050】
次に、鋳片支持ロールとバックアップロールの中心軸ずれ量の上限について、検討した結果を以下に示す。
上述のずれ量が大きいと、バックアップロールの軸受には、鉛直方向の圧下荷重Fのみでなく水平方向の力が発生し、これらの合力である軸受への荷重F/cosθが大きくなる(図14)。軸受への荷重F/cosθが大きくなると、軸受寿命が短くなる。連続鋳造機のロールに使用されるころ軸受の寿命は、例えば、「Koyo 転がり軸受総合カタログ、CAT.NO.B2001−3、A24ページ、株式会社ジェイテクト」に示されるように、下記の(1)式で評価できることが一般的に知られている。基本動定格荷重とは、内輪を回転させ外輪を静止させた条件で、一群の同じ軸受を個々に運転したとき、定格寿命が100万回転になるような方向と大きさとが変動しない荷重をいう。動等価荷重とは、ロール軸方向の荷重が無視できる連続鋳造機においては、ロール断面でのロール中央に向かう軸受荷重をいう。
10=(C/P)×10 (1)
10:定格寿命 [10回転]
C:基本動定格荷重 [N]
P:動等価荷重(ロール断面でのロール中央に向かう荷重) [N]
p=10/3
【0051】
図15に、鋳片支持ロールとバックアップロールの中心軸のずれによる角度(前記鋳片支持ロールの中心軸に直交する断面において、前記鋳片支持ロールの中心軸と前記鋳片支持ロールに対して前記鋳片の引抜方向下流側に配設された前記バックアップロールの中心軸とを結んだ直線の鉛直方向に対する角度)と軸受荷重、軸受寿命の関係を示す。なお、図15の縦軸は、ずれ量が0の場合の軸受荷重及び軸受寿命を1として相対評価したものである。
図15に示すように、ずれによる角度が5°以下であれば、軸受荷重の大幅な増加は認められず、軸受寿命への影響はほとんど無視できることが確認される。
【符号の説明】
【0052】
10 連続鋳造装置
11 水冷鋳型(鋳型)
30、130、230、330 鋳片支持ロールユニット
31、131、231、331 鋳片支持ロール
40、140、240、340 バックアップロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型から引き抜かれる鋳片を支持する鋳片支持ロールユニットであって、
前記鋳片に接触して支持する上下一対の鋳片支持ロールと、この鋳片支持ロールを支持するバックアップロールと、を備え、
前記バックアップロールは、前記鋳片支持ロールの軸方向において3つ以上に分割されており、
少なくとも一つの前記バックアップロールは、前記鋳片支持ロールに対して前記鋳片の引抜方向下流側に配設されており、
前記鋳片支持ロールの中心軸に直交する断面において、前記鋳片支持ロールの中心軸と前記鋳片支持ロールに対して前記鋳片の引抜方向下流側に配設された前記バックアップロールの中心軸とを結んだ直線の鉛直方向に対する角度θが、0.23°≦θ≦5°の範囲内に設定されていることを特徴とする鋳片支持ロールユニット。
【請求項2】
前記鋳片支持ロールの軸方向の全長を2Lとした場合に、前記鋳片支持ロールの端部と端部からL/2の位置の間の領域に位置する少なくとも一つの前記バックアップロールが、前記鋳片の引抜方向下流側に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の鋳片支持ロールユニット。
【請求項3】
前記鋳片の引抜方向下流側に配設されたバックアップロール以外のバックアップロールの少なくとも一つが、前記鋳片支持ロールに対して前記鋳片の引抜方向上流側に配設されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋳片支持ロールユニット。
【請求項4】
前記バックアップロールは、前記鋳片支持ロールの全長の2等分線を中心に対称に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の鋳片支持ロールユニット。
【請求項5】
鋳型と、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の鋳片支持ロールユニットと、を備えたことを特徴とする連続鋳造装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の鋳片支持ロールユニットを用いた連続鋳造方法であって、
鋳片の引抜方向下流側に配設されたバックアップロールを用いて、前記鋳片を圧下することを特徴とする連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−63465(P2013−63465A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−189227(P2012−189227)
【出願日】平成24年8月29日(2012.8.29)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(306022513)新日鉄住金エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(390022873)NSプラント設計株式会社 (275)
【Fターム(参考)】