説明

鋳物の識別マーク鋳出し方法

【課題】鋳型のキャビティ面に、複雑な形態の識別マークの鏡像マークを短時間で彫り込むことができるようにすることである。
【解決手段】遠心鋳造される鋳鉄管の受口の端面に識別マークを鋳出すための、鋳型のキャビティ面としての中子11のフランジ面12aに、彫り込み端子25をエア圧で繰り返し突き出しながら、キャビティ面12aに沿って移動させるマーキング装置20で鏡像マークを彫り込むことにより、中子11のフランジ面12aに、複雑な形態の識別マークの鏡像マークを短時間で彫り込むことができるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳物の表面に識別マークを鋳出す鋳物の識別マーク鋳出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物に製品の規格等を表す文字(数字を含む)や図形等からなるマークを付ける場合は、鋳型や中子等の鋳型の所定部位のキャビティ面にマークの鏡像となる凹の鏡像マークを付与し、鋳物の表面に凸のマークを鋳出している。従来、このような鏡像マークを鋳型のキャビティ面に付与する際には、鋳型を造形する型の所定部位を、鏡像マークを形成するための凸の元祖マークを設けたマークプレートとして分割形成するか、鋳型を造形する型の所定部位に、凸の元祖マークを設けたマークプレートを挿入するかして、鋳型の造形時に鏡像マークを付与していた。
【0003】
近年、製造物責任法の施工等に伴って、製造された鋳物の製造履歴をトレースできるように、製造月日や製造番号等を表す個別の識別マークを鋳物に鋳出すことが要求されている。このような個別の識別マークを鋳物に鋳出す手段としては、鋳型の造形後に、鋳型の所定部位のキャビティ面に、識別マークの鏡像マークを彫り込む方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
特許文献1に記載されたものは、彫り込み用の治具として、尖角先端を有する針やドリルをサーボモータシリンダで昇降させて、鋳型のキャビティ面に穴状の鏡像マークを彫り込んでいる。また、特許文献2に記載されたものは、レーザビームを照射しながらスキャンさせて、鋳型のキャビティ面に溝状の鏡像マークを彫り込んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−234543号公報
【特許文献2】特開2000−15395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された彫り込み用の治具をサーボモータシリンダで昇降させる方法は、サーボモータシリンダの昇降速度に限界があり、穴状の単純な形態の鏡像マークを彫り込んでいるので、製造月日や製造番号等を表す文字を有するような複雑な形態の識別マークの鏡像マークは、短時間で彫り込むことができない問題がある。このため、例えば遠心鋳造のように、鋳型の段取りを含めた鋳造のサイクル時間が短いものでは、複雑な形態の識別マークの鏡像マークを彫り込むことができない。
【0007】
そこで、本発明の課題は、鋳型のキャビティ面に、複雑な形態の識別マークの鏡像マークを短時間で彫り込むことができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、鋳型の造形後に、鋳型の所定部位のキャビティ面に、鋳物の識別マークの鏡像マークを彫り込み、鋳物の表面に識別マークを鋳出す鋳物の識別マーク鋳出し方法において、前記キャビティ面に鏡像マークを彫り込む手段を、前記キャビティ面を彫り込む彫り込み端子を、キャビティ面へ向けてエア圧で繰り返し突き出しながら、前記キャビティ面に沿って移動させるものとした方法を採用した。
【0009】
すなわち、鋳型のキャビティ面に鏡像マークを彫り込む手段を、キャビティ面を彫り込む彫り込み端子を、キャビティ面へ向けてエア圧で繰り返し突き出しながら、キャビティ面に沿って移動させるものとすることにより、鋳型のキャビティ面に、複雑な形態の識別マークの鏡像マークを短時間で彫り込むことができるようにした。
【0010】
前記彫り込み端子を、前記鋳物の識別マークの形態を指示するマーキング情報に基づいて、前記キャビティ面に沿って数値制御で移動させることにより、より短時間でかつ正確に、キャビティ面に鏡像マークを彫り込むことができる。
【0011】
前記識別マークを前記鋳物の鋳造毎に連続した異なる製造番号を含むものとし、前記鏡像マークを彫り込む手段を、前記鋳物を鋳造する作業場に配置するとよい。通常、鋳型の造形と鋳造作業は別の場所で行っているが、マーキング装置を鋳造の作業場に配置することにより、鋳型の段取りを迅速に行うことができるとともに、鋳型の造形から鋳造までのいずれかの工程で鋳型に不良が発生したり、鋳造に用いられる順番が入れ替わったりしたときでも、鋳造される各鋳物に製造番号を含む個別のマークを誤りなく鋳出すことができる。
【0012】
上述した鋳物の識別マーク鋳出し方法は、前記鋳物が遠心鋳造で受口の端面に識別マークを鋳出される鋳鉄管であり、前記鏡像マークが彫り込まれる鋳型のキャビティ面が、前記鋳鉄管を遠心鋳造する際に、前記受口の端面が形成される部位に当接される中子のフランジ面である、鋳型の段取りを含めた鋳造のサイクル時間が短いものに好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る鋳物の識別マーク鋳出し方法は、鋳型のキャビティ面に鏡像マークを彫り込む手段を、キャビティ面を彫り込む彫り込み端子を、キャビティ面へ向けてエア圧で繰り返し突き出しながら、キャビティ面に沿って移動させるものとしたので、鋳型のキャビティ面に、複雑な形態の識別マークの鏡像マークを短時間で彫り込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る鋳物の識別マーク鋳出し方法を採用した鋳鉄管を遠心鋳造する状態を示す一部省略縦断面図
【図2】図1の中子に鏡像マークを彫り込む方法を示す側面図
【図3】図2の平面図
【図4】図2のマーカの彫り込み端子を拡大して示す切欠き斜視図
【図5】(a)は図2で中子のフランジ面に付与した鏡像マークを示す平面、(b)は(a)の鏡像マークで鋳鉄管の受口の端面に鋳出された識別マークを示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明に係る鋳物の識別マーク鋳出し方法を採用した鋳鉄管1を遠心鋳造する状態を示す。この遠心鋳造は、後述するように、鏡像マークKをフランジ面12aに彫り込んだ中子11を、鋳型14の開口部に装着し、鋳型14を軸心回りに回転させながら溶湯を注湯して、鋳型14の内周面と中子11の外周面との間に、鋳鉄管1の受口2を形成するものであり、形成される受口2の端面2aには、鏡像マークKを彫り込まれた中子11のフランジ面12aがキャビティ面として当接され、受口2の端面2aに識別マークMが鋳出される。
【0016】
図2および図3は、前記遠心鋳造に用いられる中子11のフランジ12の胴部13側を向くフランジ面12aに、鋳鉄管1の受口2の端面2aに凸の識別マークMを鋳出すための凹の鏡像マークKを、マーキング装置20で彫り込む方法を示す。図示は省略するが、このマーキング装置20は、鋳鉄管1を遠心鋳造する作業場に配置され、胴部13を縦向きにして置き台15に載せられた中子11の上向きのフランジ面12aに鏡像マークKを彫り込む。なお、中子11は、遠心鋳造の作業場とは別の場所で造形されるとともに、鋳造時の強度の確保と、鋳造される鋳鉄管1の砂噛み防止のための塗型剤を表面に塗布されて、遠心鋳造に用いられる。
【0017】
前記マーキング装置20は、基台21上で前後方向に進退するフレーム22に、上下方向に昇降する本体23を取り付け、本体23の下側から中子11側の前方へ水平に延びるアーム24aの先端に、本体23よりも少し前方へ突出するように設けたマーカ24の支持筒24bに、後述するフランジ面12aに彫り込みを入れる彫り込み端子25を支持して、本体23に内蔵されたコントローラと2次元の直線駆動装置(図示省略)によって、マーカ24のアーム24aを水平面内で前後左右に駆動するものである。
【0018】
前記フレーム22は、基台21に設けられた一対の水平なガイドレール26aにガイド部材27aで案内されるとともに、水平なねじ軸28aにナット(図示省略)で螺合されており、ねじ軸28aをハンドル29aで回転させることにより、前方の中子11に対する本体23の前後方向の位置決めがされる。また、本体23は、フレーム22に設けられた垂直なガイドレール26bにガイド部材27bで案内されるとともに、垂直なねじ軸28bにナット(図示省略)で螺合され、ねじ軸28bをハンドル29bで回転させることにより、下方のフランジ面12aに対する上下方向の位置決めをされる。
【0019】
このように、中子11のフランジ面12aに対する本体23の前後方向と上下方向の位置決めをしたのち、本体23に内蔵されたコントローラにコンピュータ(図示省略)から入力される鋳鉄管1の識別マークMの形態を指示するマーキング情報に基づいて、マーカ24のアーム24aが2次元の直線駆動装置でフランジ面12aに前後左右方向に駆動されるとともに、後述するように、彫り込み端子25がエア圧で下方へ繰り返し突き出され、中子11のフランジ面12aに、識別マークMの鏡像マークKが彫り込まれる。
【0020】
図2および図4に示すように、前記マーカ24の彫り込み端子25は、中子11の胴部13と近接するフランジ面12aの内周部に鏡像マークKを彫り込むときに、支持筒24bが胴部13と干渉しないように、下方のフランジ面12aに対して斜め前方へ突き出すようになっている。したがって、マーキング位置が中子11の胴部13に近いフランジ面12aの内周部であっても、彫り込み端子25以外の部分が砂型とされた中子11に接触することはなく、安全に鏡像マークKを付与することができる。
【0021】
図4に拡大して示すように、前記マーカ24の支持筒24bに支持された彫り込み端子25は、支持筒24bの内径面に摺接する頭部25aを設けられるとともに、頭部25aの下側にコイルばね24cを装着されており、頭部25aにエア圧が負荷されたときに、支持筒24bの下端に達して、尖った先端が下方へ突き出し、支持筒24b内のエアが流出してエア圧が下がると元に戻る。彫り込み端子25は200〜300回/秒程度の高サイクルで下方への突き出しを繰り返し、フランジ面12aには、彫り込み端子25の各突き出しで形成されるドット状穴を連ねた鏡像マークKが彫り込まれる。
【0022】
図5(a)は、前記マーキング装置20によって中子11のフランジ面12aに彫り込まれた鏡像マークKの例を示す。この鏡像マークKは、数字を反転した鏡像文字とされ、フランジ面12aの内周部に、8つの鏡像文字が円弧に沿って配列されている。なお、各鏡像文字は、1秒程度の短時間で彫り込み可能である。
【0023】
図5(b)は、前記鏡像マークKによって鋳鉄管1の受口2の端面2aに鋳出された識別マークMの例を示す。この識別マークMは、鋳鉄管1の製造月日と製造番号を表す4桁ずつの数字で形成されている。
【0024】
上述した実施形態では、鋳物を遠心鋳造される鋳鉄管とし、その受口の端面に鋳出される識別マークの鏡像マークを、中子のフランジ面に彫り込んだが、本発明に係る鋳物の識別マーク鋳出し方法は、遠心鋳造される鋳鉄管に限定されることはなく、一般的な鋳物の鋳造に採用することができ、鏡像マークを彫り込む鋳型のキャビティ面も中子のフランジ面に限定されることはない。
【符号の説明】
【0025】
M 識別マーク
K 鏡像マーク
1 鋳鉄管
2 受口
2a 端面
11 中子
12 フランジ
12a フランジ面
13 胴部
14 鋳型
15 置き台
20 マーキング装置
21 基台
22 フレーム
23 本体
24 マーカ
24a アーム
24b 支持筒
24c コイルばね
25 彫り込み端子
25a 頭部
26a、26b ガイドレール
27a、27b ガイド部材
28a、28b ねじ軸
29a、29b ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型の造形後に、鋳型の所定部位のキャビティ面に、鋳物の識別マークの鏡像マークを彫り込み、鋳物の表面に識別マークを鋳出す鋳物の識別マーク鋳出し方法において、前記キャビティ面に鏡像マークを彫り込む手段を、前記キャビティ面を彫り込む彫り込み端子を、キャビティ面へ向けてエア圧で繰り返し突き出しながら、前記キャビティ面に沿って移動させるものとしたことを特徴とする鋳物の識別マーク鋳出し方法。
【請求項2】
前記彫り込み端子を、前記鋳物の識別マークの形態を指示するマーキング情報に基づいて、前記キャビティ面に沿って数値制御で移動させるようにした請求項1に記載の鋳物の識別マーク鋳出し方法。
【請求項3】
前記識別マークを前記鋳物の鋳造毎に連続した異なる製造番号を含むものとし、前記鏡像マークを彫り込む手段を、前記鋳物を鋳造する作業場に配置した請求項1または2に記載の鋳物の識別マーク鋳出し方法。
【請求項4】
前記鋳物が遠心鋳造で受口の端面に識別マークを鋳出される鋳鉄管であり、前記鏡像マークが彫り込まれる鋳型のキャビティ面が、前記鋳鉄管を遠心鋳造する際に、前記受口の端面が形成される部位に当接される中子のフランジ面である請求項1乃至3のいずれかに記載の鋳物の識別マーク鋳出し方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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